帆場蔵人のおすすめリスト 2019年10月29日0時19分から2020年11月16日22時01分まで ---------------------------- [自由詩]下らない/新染因循[2019年10月29日0時19分] 腑を抜かれた魚の目が街を睨めている 斜視の感情は月光の行先を知らないので 真ッ黒く塗りつぶされた日々を燃やせない 虫を嘔吐する街灯はこうべを垂れて 舌下に縫いつけられた言葉に耐える 不規則に分裂した卵胞のような住宅地で 食器で遊ぶしかなかった子供が怒鳴られる 味のしない飴玉をしきりに覗いて 水に溶けていく色とりどりの砂に見惚れて 気がつけば、黒々と濡れたように美しい、鴉 美しい、という言葉はスムージーのようだ 刃が回転するたびにきざまれるものは 垢ぎれた指と、擦りきれた毛布を編むひと それらを裸婦という名のしたに隠して ガラスのコップを月光の色に磨くひと つぎの朝、側溝はてらてらと七色に黒ずみ ゴミ袋はおのれの姿に耐えかねて 虹の向こうへと旅立ってしまった 鴉と片目のつぶれた猫が魚の骨を取り合う側で まだ食べられる野菜に蛆がたかっている (下らないことだ) ---------------------------- [自由詩]落とし穴/HAL[2019年10月29日18時21分] 或るひとのことが心から離れない 胸がときめき締め付けられる そのひとを思うと切なくなり 夜が一気に長くなり眠れなくなる それはいつかとまた同じ きっときみは笑うだろう いい歳をして何を言っているのかと まるでガキのようじゃないかと でもね 心が動いてしまったんだ 理性もある 経験もある 抑える術も知っている それでも心が動いてしまったら どうしようもないんだ そして長く忘れていたことに やっと気づく 恋はするものではなく 落とし穴のように突然 落ちるものだということに ---------------------------- [自由詩]無人島「梟石」/アラガイs[2019年11月6日3時10分] 季節のない島には誰もかれもがやって来て、そして鳥のように消えていく 島の中央には工場らしき姿勢で大きく聳え立つ、この施設は時穴(ジーナ)とも呼ばれていた それは単純に施設の内部が空洞化され、暗く静止していたことから時の人々は「洞窟」と解釈したのだ。 遙か昔、島の西側に住む人々はジーナのことを「希望」と呼び後世に伝えた。 埃の付着した命を物品と交換するために「禁」 目印はどこにも記されてはいなかった。 工場のあちらこちらに開けられた扉 それは東側に住む人々のために、 東側の人々はジーナが作り出すモノを「永遠」と呼び、置き去りにされた廃棄物を命と交換する 、扉はそのための密通でもあり物言わぬ鍵の羽根でもあった 西側から東側へ ナビと輝く島の中央に漆黒の炎が降りそそいだ。 この島の、ジーナの周囲に「生きもの」と呼ばれるものはなく ただ幻想を誘うように梟石の置物が座り 作られた加工製品は、毎日処理を施されては命と替わる 時間だけが無尽蔵に蓄積され、堆積し、眺めみる人々の姿もいまでは遠い 無人石を形成した島の中央には梟の形 赤ら顔に歪んだ空間の土壌だけが、その記憶を留めていた。 ---------------------------- [自由詩]どうぞのいす/mizunomadoka[2019年11月12日22時05分] 裏山の湧き水でできた小さな池に 動物たちの残していった 木の実が沈んでる 私は薬罐に水を汲んで 庭でとれた渋柿を置く いつか絵が届いたら 匂いをかいでみて 今年もここで枯れ葉を集めて 焼き芋を焼いてる 冬を告げる風 吸い込まれそうな空 私の人生は間違いだったと思う 分岐点もなく きみがいないだけで ---------------------------- [自由詩]昔怪人と呼ばれていた男は七面鳥に惚れる/アラガイs[2019年12月6日4時36分] 釘は六寸に引っ掻いた胸の痕跡 左は股の付け根から膝がしらにかけて 合わせて一尺近い縫い込みの跡が盛る 想像するリアル怪人(例えばフランケンシュタインとかゾンビだとか) 切り裂き息を吹き返す ラストナイト /それはわたしの中にも 憧れのロックスターを夢見て 顔に数えきれない整形手術を繰り返したという 、その昔怪人と呼ばれた顔の男がいた。 男には自負もあったが、いくら手術でスターを真似ても似つきもしない 素地の違いは明白だった。 なにを捨てたのか、真実は遠い乳母車の軋みに 実は髪の毛が薄かったとか肺を患っていたとか 本当は去勢手術を受けていたのだ、とか 、周りの人間たちは男の昔をすっかり忘れてしまった。 そうして縁もなく噂を聞きつけた派手な女が男のまえに現れた。 宮殿に据えられた大理石の悩ましいオブジェ 魔性を誘う真っ赤な唇 まるで樹の皮を剥いだような艶のあるなめらかな白い肌から 機械的に整えられた端正な顔立ち フェロモンの 、括れた腰が唸る うりうりと割れる、驚きの人々、 巨大な胸と尻のふたつに地面が妖しく揺れた。 あまりにも有名な女優とそっくりに仕上げられている 通称マリリンと呼ばれた それは誰もがふりかえるような女性だった。 男はすっかり魅了され その半年後に二人は結ばれた。 しかしお互いどちらにも秘密の舘があり掟がある それはクリスマスの前後、一定の期間は必ず別居するというサイレントな 、なんとも不思議な約束ごとだったのだ。夜にメリークリスマス…… その後マリリンは60を過ぎて亡くなった。だが、 不可解なことに彼女の屍を見た者は彼氏しかいない。 ※一説によれば 痩せ朽ちた茶葉色の躰とは対照的に、皺のない顔は生き生きと白く輝いていた また場末の酒場に屯するという女の噂話を真に受ければ、 どうやら棺桶の中身は頸から上のほうが無くなっていたらしい、とか、 やれやれ、想像もつかない、怖い作り話しである。 どうせなら 入れ墨は六寸ちょっとの十字架に仕立て 周りは小さな北斗星でカモフラージュ(皮膚が突っ張るとか) 痛みで咳もできない、 、リアルできない話しだが ぱっくりと開いた胸郭の中で 心臓が激しく鼓動を打つのだ。 ---------------------------- [自由詩]星狩り/山人[2019年12月8日8時15分] 君と星狩りに行ったことを思い出す 空が星で埋め尽くされて、金や銀の星が嫌というほど輝いていた 肩車して虫かごを渡し、小さな手で星をつかんではかごに入れていた ときおり龍が飛んできて、尾で夜空をあおぐと、星がさざめいた 君の寝床の傍にかごを置いて、彼らの好きな鉱水を与えるとよくひかった ---------------------------- [自由詩]サーカス サーカス/秋葉竹[2019年12月11日0時18分] サーカスとは ライフル銃の回転もなく ただ無防備に 悲しみの心が ただこのサーカスに舞うころ 流されている こころぼそさが ふたりの身体をひとつに溶かすけれど そのときうまれた美しい風は虹をくぐり ほほえみながら空たかくじざいに舞う サーカスとは そんなところ かくされた心の夜を もう1度投げナイフで 突き刺し 抉り取り 切り裂いて リングを整えてから もう一度万雷の拍手をいただくために ただ風はほほえみながら 空高くじざいに舞い踊るものだから サーカスとは そんなところだから サーカス サーカス サーカスが好き ---------------------------- [自由詩]無題/おぼろん[2019年12月20日21時22分] 七色をしたイルカが、 妥協を許さないスピードで海の中を進んでいく。  ああ、わたしたちは誰の子供たち?  皆、神の子供ではないのだと、  そのことを知っている。  皆、神の子供ではないのだと気付いている。 七色をしたイルカが、 妥協を許さないスピードで海の中を進んでいく。 ---------------------------- [自由詩]旅・遺作/石村[2019年12月30日15時53分]   旅 こころは しらないうちに 旅に出る 笛のねに さそわれて むかし 人びとがすんでゐた 海辺の村で 潮風にふかれてゐる いつになつたら かへつてくるのか 神さまにあふまで かへつてこないつもりか   遺作 午前二時をすぎると たれにもひかれたことのないピアノが ひとりでに 鳴りだす たいせつな詩を 書きわすれた 詩人のやうに (二〇一九年十二月三十日) ---------------------------- [自由詩]行く年くる年/石村[2020年1月1日0時11分] さだめなき世に 年古りて なにひとつ 新しくもない 年がまたくる 十二月 三十一日 午後十一時 五十九分 五十と 五秒 冬の雨が 雪にかはり 廃屋の時計が 目をさます ひとびとは美しい笑顔で 挨拶をかはし 除夜の鐘が遠ざかり 星がひとつ消える 行く年 くる年 どこへゆく そつちには なにもないぞ なにもなくても 止まりやすまいが 俺ももう お前さんを止める気は さらさらない のだが 年越し蕎麦の 残りづゆを啜つて 猫にあいさつ ――今年もよろしく と ---------------------------- [自由詩]青い炎/いねむり猫[2020年1月4日1時34分] 暗闇ににじむ モニターの光が  風の死んだ 霊廟のような部屋を照らしている もう長い時間、きしむ椅子に座って ここで過ごしている 深い傷を癒すために 外部から与えられた傷と  自分が内側から与えた傷 何度も繰り返される夢と記憶に 身体を横たえることができない 何処へも流れて行かない時間の中で  ただ一つ 信じられるのは 私の中に淡く灯る 美しい 青い炎のこと  私が信じて、私が守らなければ 消えてしまう炎のこと 青い炎に封印した 無垢な思い出と 幼い頃に胸に誓った 世界を正す思い 世界のためになくてはならない 己のこと 身体の奥深くに守り続けている炎を いつか 聖火のように掲げて 光の中へ 歩み出す 世界との深い亀裂を踏み越える  その勇気が 私に訪れること ---------------------------- [自由詩]エゴ・エリス? 従者の祈り/PAULA0125[2020年1月10日19時56分] 従者の祈り 其は虚慢に非ず 神より賜りし巨万の富。 人たりながら 人の世に生き難い者 神の子でありながら 兄弟に拒絶された者 また 神の慈しみを奪われた者 その者なり。 我が神よ 貴方の子は永き孤独と沈黙の上に 貴方を賛美する歓びを得た。 その賛美を 兄弟達は喜ばないことも またこの賛美を 妬む兄弟達がいることも 貴方の子が知るように 計られた。 その故に主よ この王国(オラティオ-ニス・)の(エニ・)祈り(レギニューマ)を共に唱えた 名も知らぬ我が友を祝福し給え。 その才覚に限りない祝福を。 そして それを受け入れる者達に歓びを。 私は貴方の授けたこの恩寵(めぐみ)で 貴方を讃えよう。 万群の神よ 神話の王よ 神々の神よ。 貴方が良しとされた全ての神々を。 私は歌おう 例え私の信仰が疑われても。 貴方の創った神話の美しさを誉めよう。 貴方の創った神々の優しさを誉めよう。 貴方の創った諸仏の悟りに身を浸そう。 新しき契約を使わし給えり 我が神よ、 今こそ旧き神(かち)を捨て 新しい風(ぷしゅけ)を受けよう。 全ての垣根を越えて吹く息吹(ぷしゅけ)に 詩を乗せよう。 もし御心でないならば 我が筆を取り折られよ。 私はそれに従い。 貴方が与えられる新しい筆を纏う支度をしよう。 即ち 何人たりとも 我が賛美を侮辱すること能わず。 我は汝なりき(トゥー・フィー) 汝は我にならむ(エゴ・エリス)。 然るにこの祈りは 我と読者のものなりや。 ---------------------------- [自由詩]地下室の明滅/いねむり猫[2020年1月11日22時29分] 高音の反響は  悪魔たちを招集する 絶望の神の宴   生贄の女たちが叫ぶ 歓喜と恐怖の波長  極低音の響き ゆるんだはらわたをゆするのは  夜更けの広大な倉庫に集う 怪物たちの排気音 この世からの 遠い 遠い 隔たりの中で  熱帯雨林の夢に浮かされた 熱病の額にしたたる 水滴の甘さ  すべてを受け取ろうとする ノイズに穢れた耳は すでに頭の上 数メートルまで 切り取られて 浮遊する ここに反響するのは 俺たちの絶望と 鮮烈な血 研ぎ澄まされた感覚ならば もっと激しい破壊の鉄槌が やせ細った体に 振り降ろされるはず  それでも 砕けたからだの部品たちが 残らず その歌い手たちに 傷だらけの花びらを拡げる そのハイトーンは 傷ついた獣が 密かに焦がれていた 荒々しい銀河への遠吠え 頭を打ちぬくパーカッションが連れ去るのは 孤独な夜道で出会った 仲間たちとの 裏切りの銃撃 孤高のギターソロは かつて危うくも燃えた のしかかる世界への 挑戦の叫び 身体の奥の奥 鎖につながれ  絶え間ない罵声を浴びて  うなだれていた 青い うねりが 身震いをして  地下室に 呼応するのは  しぶとく生き延びた魂の明滅 ---------------------------- [自由詩]夜を歩く/立見春香[2020年1月19日9時31分] わだかまりが 嫌で 夜を歩くのです わかってもらえない プライドを捨てて 夜を歩くのです すべてを終わらせるために 生きてきたわけではない 夜を歩いて たどり着いたコンビニで お弁当を買って帰るのです すべてを終わらせるためには 死ねばいいのかしら? そのお弁当の 鮭のしょっぱさに むかしの母さんのことを思い出した あの人が死んでも すべては終わらなかった なら、 私が死んでも 世界はなにひとつ変わらないのだろう そんな淫猥で紫な空の下 別に死にたいわけではなく ただただただただただ、夜を歩くのです ---------------------------- [自由詩]無題/おぼろん[2020年1月19日11時03分] 現代ならば夜行列車ではなく、 夜行バスに乗っていく。 でも誰も、 銀河バスなんていう奇妙なものは思いつかない。 (あ、毛糸で編むのを忘れた) (あれはあなたのための毛糸だったのに) 車窓には夢だけが流れていて、 わたしは夜の中に鎮座している。 くぐもった声のような、 わたしの脳漿のなかの思い。 たゆたっている…… (あ、毛糸で編むのを忘れた) ―― 悲痛、という心がどこかにあって、 わたしの魂は重く首を垂れている。 あなたは自動運転車に乗っていくように、 わたしを去る。 それがまるでわたしのせいかのように。 (あれはあなたのための毛糸だったのに) ―― 鏡を見て、そこに何があるのかを忘れた。 そこには何もないかもしれないし、 大切なものを置いていたかもしれない。 ふと車窓に目をやると、 昨日見た夢のような、悪夢のような、 彼岸の光景が広がっている。 (わたしは死んだのかしら?) (いいえ、まだ生きている) 誰も聞いてはいない時間を、 誰も目を開いてはいない時間を、 目を見開いて見据えていた。 あの鎖のようなものは何かしら、 地から這い出る棘のようなものは? 重く、暗く、立ち込めている。 車外の悪夢が終わりますようにと…… 祈りは決して通じないと、分かっていながら。 ―― 今ならば一人部屋のなかにいて、 誰のことも思い出さない。 積み木が崩れていく。 それは崩れてしまっても良い。 夜行バスでわたしは帰る。 その夜が怖くて恐ろしい。 わたしを取り込んでしまいそうだから。 あるいはわたしを殺してしまいそうだから。 (あ、毛糸で編むのを忘れた) (あれはあなたのための毛糸だったのに) ---------------------------- [自由詩]私の詩/アラガイs[2020年2月7日4時40分] 空間に貼り付いた言葉 人差し指ひとつで文字は消える 腸内視鏡/素描 それが私の詩 仮に詩人というカタチが図表に存在するならば 喜んでわたしは詩人を受け入れよう 何故ならば詩人とは無益な隠者だから 無益であることのすべてが私には有益なのだから 死人の生活を描いては声高らかに囁くマモノ まるで騙し絵のようだ 癒やしを乞うのは、誰の為? 傷ついた人々に捧げる希望や目的もない 空辣な迷走と妄想が想像へと姿を変える、愛 などという、絶望に戯れる皇帝はいない 彼は無駄に詩を書いてると嘆く わたしにはそれが詩人だという 誰かが地下茎を這う 水辺を指していう 一人歩きをしていると乞う 切路に それが私の詩 ---------------------------- [自由詩]詞華集/岡部淳太郎[2020年2月9日18時36分] ひらかれたまま あつめていく 私に似たものを 私に似ていないものを あつめて もやして ふたたび解き放つ それらはすべて 私ではないもの それでいて 私をかたちづくるもの すでに私はいない ということが 明らかになっている 私は頭上に広がる 意思のない空 春には草を 秋には落葉を 詩を読むように ひとつずつ踏みしめていく そして夏には砂を 冬には雪を踏んで なんでもない季節には 見えない声でさえ 踏むのだろう 私は所有のない不在 あいまいにひらかれたまま その中にかくじつに降り積もらせては あつめていく それでも私は傷であり ぼんやりとした痛みであるのだが ためらわれた解放が しずかに決意される時 私の中にたまったものは いっきにあふれだす ひらかれて ばらまかれた この世の花弁 それをふたたび 詩を読むように うたうように 踏みしめる 誰かがいる あ、 あつめていく 世界は広い (二〇〇九年四月) ---------------------------- [自由詩]初春/石村[2020年2月12日10時56分] どういふことだ まだ ひとのかたちをして 星の上にゐる 急がなくてはいけない 廃村のはずれの小さな草むらに 菜の花が咲きはじめてゐる ……風にゆれてゐる やさしいやうな かなしいやうな 春にならうとしてゐる午後 俺はけだものになりたくて おだやかな海にさけぶのだ 神なる者どもが降りてきて 俺らをのこらず 喰つてしまふ前に ---------------------------- [自由詩]レモンサワー/石村[2020年3月3日22時32分] (*昨年書いて現フォに投稿せず忘れていたもの。アーカイブ目的で投稿。石村) しつこい梅雨が明け 夏がはじまつた はず であるのだが ひさびさに傘を持たずに 散歩なんぞに出てみると 夏初日にして 早々にくたばつたクマゼミが ぶざまに腹を出して 舗道のうへにころがつてゐる いやなんとも 気のはやいことだ ながい地下暮らしから這ひ出して この大雨続きの数日間 どれほど鳴いたかしらないが お前さんのいつしん不乱な大音声が いつたいどこの 誰にとどいたものか 俺もまあ 言へた義理では なからうよ 誰に読まれもせず おもしろくもおかしくもなく 清くも正しくも美しくもない いまどきはやらぬ詩もどきを 書き続けたあげく いつかくたばり ぶざまに腹を出して その辺に ころがつてゐる ことになるんだ は それがどうした くだらない いつぱいやつて気を晴らさう レモンサワーください もう夏だからね さはやかに行かうや とまあ いつもの嘘だ 毎分毎秒 毎年毎月 こんなこといつまで 続けるんだらうね 神はもうゐない といふことにして いけしやあしやあと 生きてゐるつもりになつても 背負ひ込んだ業のふかさは どこまでも肩に くひ込んでくる 来世の永遠も 諸行無常も ひとのいい気な妄想にすぎない それでもわれら ことばといふ罪を負つた者どもは なにかしら 書かずには ゐられない から 書く のだ 愚か者め と空がいふ わかつてゐるさ わかつちやゐないよ 俺もきみらも だからこのレモンサワーの 泡がはじけて消える その一刹那に 真のしんじつをかんじたまへ それからもう一度 まぶしくひかる空を見上げて 耳をすませてみるがいい ほら やつぱり空がいふ 愚か者め と空がいふ 書き続けろ と 空がいふ ---------------------------- [自由詩]バターのうた/一般詩人-[2020年4月15日20時13分] バターは素晴らしい バターは偉大だ バターを見ているだけで幸せな気分になれる 人類はバターの前にひれ伏すべきだ おかしいな ぼくはバターが好きなだけなんだ それがどうしたことか こんな陳腐な褒め言葉しか見つからないんだ でもこれだけは確かなのだけれど ぼくは好きな人と肩を寄せ合って トーストの上でゆっくり溶けていくバターを しんとして 見ていたい ---------------------------- [自由詩]くらげの骨/むぎのようこ[2020年4月16日23時38分] 瞼のおくに 鼓動がやどって かなわなかった祈りも 血肉となって いつか 癒える日を ゆるさないでいる それぞれの さいはてに立って 白い旗をふる くさはらのそこここは まあたらしく 焼けていて こげた花びらとかおりと を しみつけては 平熱をうばって あめが降る 平たくならされた かなしみに 寄り添わない胸に 憩う やさしい骸を游がす 空をあおいでは のけぞった 嗚咽がひたひたと喉元 まで 、満ちる 軟化する海に 月になっておぼれる 浸透圧も ほどけたままの膚も そっと脱げて そうしてここからも どこからも とおく、とおくなる ---------------------------- [自由詩]彼方が生まれる/塔野夏子[2020年4月17日11時42分] 詩を書くと 詩のなかに彼方が生まれる その彼方について詩を書くと そのまた彼方が生まれる 身体は此処にとどまったままで 幾重もの彼方の谺を聞く ---------------------------- [自由詩]誰が説法をした/アラガイs[2020年4月23日6時47分] 鳥たちの声が響き渡れば静かに夜が明ける 聴き取れない信号に、眠りは妨げられている 馬鹿馬鹿しいと笑えば笑うほど、泣けてくるにつれ 人の声も次第と嫌いになってくる、御時世の宵 ある村を目指し、無意味に歳を取り過ぎたのか、 彼の山を越えたならもう死んでもいいよ 誰かが冗談で語りかけた、その昔 眉を吊り上げ路塞ぐ峠の娑婆 仏様なら微笑んでもくれるでしょう はやく殺してくれ、 観音さま 道端で笑い杖の御坊が倒れている 無意味に触れるなと書いてある 引き攣るような顎、笑う顔 ?がれた白髪に、疫病だ!疫病だと村の童が小石を投げつけた 野良犬は走り去る 誰が御坊を殺したのか、とやら 尼寺に急ぐ脚 鳶は空を舞い、山の烏は枝を刺す 屋根から鬼瓦の雨がふる ---------------------------- [自由詩]海鳴り/羽衣なつの[2020年6月18日0時22分]  毎晩、おなじ夢をみていた。   わたしは、丘の上にいる。神さまといる。丘のふもとは男たちで埋め尽されている。男たちは、肉に飢えている。わたしの肉を、欲している。わたしはかれらをみながら、濡れている。  神さまは、美しい青年の姿をしている。何も着ていない。股間に、樫の木のような男根がふとぶとと屹立している。わたしはうっとりとそれをなぜ、頬ずりをし、けがらわしいことをかんがえている。  わたしは、神さまに懇願する。ああ、神さま、わたしはけがれた娘です、わたしはあなたを冒?したいのです、あなたの前で濡れている、このけがれたからだを辱めてほしいのです、けがれた娘にふさわしい、永遠の痛みと辱めをお与えください。  美しい青年の神さまは、やさしい微笑を浮かべながら、わたしをかるがると持ち上げ、わたしの両脚をおおきくひろげて、したたるほどに濡れたそれを、丘の下の男たちに示す。男たちはうめき声をあげ、のたうち回る。神さまの男根がわたしを一気につらぬく。わたしは歓喜の痛みにむせび泣く。わたしは今、地上の誰よりも美しい。  神さまは、わたしから男根を引き抜くと、丘のふもとの男たちに、わたしを投げ与える。無数の手が、口が、男根が、美しいわたしを奪い合い、辱め、穢す。男たちの精が尽き、ひとりのこらず息絶えるまで、わたしは歓喜にむせび泣きつづける。  今日は、その夢をみなかった。かわりに、夜の海の夢を見た。星のない空の底にくろぐろと潮が盛り上がり、うねっている。海鳴りがきこえる。わたしはいつまでもそこにいる。くろぐろとうねる潮はわたしと、ひとつになる。海鳴りがきこえる。  わたしは目を覚ました。  生理がきていた。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]米大統領を決めるのはだれか?/一輪車[2020年11月11日7時26分] わたしたちは実は何も知らない。 米大統領を決めるのは米国民の有権者だと錯覚しているが、法的にはそうではない。 米大統領を選ぶのは「選挙人」と呼ばれる人たちである。 では「選挙人」を選ぶ権限、権利、資格があるのはだれか?  全米の選挙をみているとそれは全米の有権者であると錯覚しがちだがじつはそうではなく、憲法によって定まっている。       〈合州国憲法第二章第一条3項〉  それぞれの州は、その立法部が定める方法により、  その州から連邦議会に選出することのできる上院議員  および下院議員の総数と同数の選挙人を任命する。 わたしたちの常識とは違って、じつは、大統領を直接選ぶ「選挙人」を決める権限のあるのは各州の議会なのです。 「選挙人」を選ぶのは一般有権者でも選挙委員会でも州知事や州務長官でも裁判所でもなく、州議会! なんです。 この事実をわたしたちは知らない。 では、なんのために全米で大統領選挙が行われるかというとそれはあくまでも州議会に対して「参考資料」を提供するためなのですね。 とはいえ、慣例としてこの「参考資料」に異議をはさむ州議会はなかったからこれまでは全米の投票結果がそのまま大統領を選ぶ「選挙人」の選出につながってきた。 だが、現職大統領が敗北を認めなければそうはいかない。そうするとどうなるか?  開票作業の期限は12月08日  選挙人集会は  12月14日 この日までに選挙人が決定できなければ各州の議会が選挙人を選ぶことになる。前代未聞だが、そうなる可能性がでてきた。 もしこのようになると各州で共和党が多数を占めるトランプが有利であることはいうまでもない。 しかし、州議会でも決まらない場合はどうなるか? あるいは民主党系の州議会が議決を拒否した場合はどうなるか。 その場合は下院議員が投票して決めることになっている。ただし、この場合は下院議員全員ではなく各州の下院議員一人にひとつの選挙権が与えられるのだ。 するとどうなるか。各州単位ならばこれも共和党が優勢なのですね。 トランプは大統領選のずっと前の9月26日の演説会でこんなことをいっている。   私は本当は最高裁で決着をつけたくはない。最高裁で決着をつけるより、 下院の投票がふさわしい。下院で共和党が26票持っているから、我々が有利だ。 いまのようなデタラメな不正選挙が必ずあることをトランプは見抜いてあらゆる手を打っていた可能性がある。 米国の大統領選挙を誤解している人が多すぎるので事実を記した。 ---------------------------- [自由詩]帰路/山人[2020年11月16日22時01分] 複雑な小路が入り組んだ先に ほんの小さな広場があって そこに君の住むアパートメントがある 夢しか見えない君を訪ねる 思い切り太っていて あらゆることに考えが歪曲し 君はすっかり君でなくなったけれど 帰り際 私の体調を気遣った たすけたいけれど助けられない 高速道路を追い越したり追い越されたり ちりばめられた家々のそれぞれが 痛ましく、やかましく思え 私たちの力のなさに苛ついた 高坂サービスエリアには 大きく椅子の間隔が開けられ 君の夢の途中を断ち切るように あらゆる物語が細い糸のようにもろく ゆらゆらとゆれていた 長い三国トンネルを抜けると新潟県になる かたくなに東京の夢を食む君が 帰らないと誓った新潟県は もう夕刻を迎え 私たちはまた どこにむかうのだろう ---------------------------- (ファイルの終わり)