立見春香のこたきひろしさんおすすめリスト 2018年11月25日6時53分から2020年3月7日9時20分まで ---------------------------- [自由詩]記憶にかからない橋に/こたきひろし[2018年11月25日6時53分] 桜並木が校庭を一周していたわけではなかったのかもしれません だけど桜並木に咲く花などどうでも構いません 確かに彼の記憶は水分を失い干からびていました 全ては不確かな世界のぼんやりとした景色だったのです 校庭の隅に遊具がありました 遊具の近くに砂場があってその先に鉄棒がありました 校舎は木造のかなり古い建物で雨が降ると雨漏りがしました 彼は記憶の鉛筆でぼんやりと佇む景色を遠くに眺めながらスケッチを始めてしまいました 彼女は十一歳であったかもしれません 名前は覚えてません 軋む廊下を向こうから駆けてきました 慌てている様子でした 彼女は白いスカートをはいていました そのスカートのお尻の辺りが真っ赤な血で染まっていました 足早に通り過ぎていく彼女の後ろ姿を 彼は驚きの眼で追いかけているだけでした 学校は一学年一つのクラスでした 彼と彼女は同じ教室で担任は女の先生でした その時 廊下を反対方向から歩いてきた担任の河原井文子先生が事態に気づいて彼女を保健室に連れて行きました だと思います 定かではありません 二人はそれっきり彼の記憶の世界からかき消えてしまいました 記憶とはいつも曖昧模糊としています 記憶が前触れもなく突然現れる癖が彼にはありました 癖と言う表現は適当ではないかもしれませんが 現れて何の脈絡もなく消えるのでした 夕暮れ スーパーマーケットの店舗の前 端に数台並んだ自販機で彼は温かい飲み物をコインと引き換えにしました が その時 彼の心のなかにはなにものにも引き換えられないものが佇んでいました 何でしょうかそれは 解りません 彼が飲みながら見上げた空は 雲が魚の様に泳いでいるように思えました ---------------------------- [自由詩]インスピレーション/こたきひろし[2019年1月1日18時13分] 悪に限りはない 善には限りがある だからどうした 他人の命を犠牲にしても 自分の命は守らなければならない だから何だよ 他人の痛いのは平気 一年でも二年でもぜんぜん平気 それはそうだよ 自分の痛いのは一秒でも我慢しない 我慢できない 至極当然 他人のラッキーを妬む 他人の不幸に癒される そこまで言っちゃう 演技力は大事だ いい人にならなくても 良い人の振りはしろよ だろ だろよ ---------------------------- [自由詩]私という存在はたった一人だから/こたきひろし[2019年1月19日6時32分] 私という存在はたった一人 時計回りに過ぎていく日々のなかで 私が一番に愛してやまないのは基本的に私自身 そんな私のなかの 良い人と 悪い人の割合 それを計るのは 私以外のその他 それはたとえ肉親であっても 他者 わかりづらいよ ややこしいよ もっと明解に 私のなかの 善意と悪意の割合 それは たとえるなら 焼酎のお湯割りの 焼酎とお湯の割合みたいなものかな だけど それだと どっちが善意で どっちが悪意かわからない かき混ぜるんだからよけいわからなくなる それがもしかしたら 正解かもな ---------------------------- [自由詩]さよならをかさねて/こたきひろし[2019年2月10日15時52分] 深海に人魚の棲みかがある 海面に姿を表すのはそのなかから 女のみ 選ばれし美しい女のみ 男は深海で一生を完結する らしいのだが 真偽の程はわからない 昔と言っても いつの昔かはわからない 若い漁師が海面に突き出た岩の上に人魚を発見した 夜の海 月明かりのなかに浮か上がったその姿は 美しかった 果たして人魚は魚なのか 人なのか 若い漁師は迷った 魚ならば 襲って生け捕りにしても罪に問われる筈はないだろう たとえなぶり者したあげくに殺しても だ しかし人ならば ---------------------------- [自由詩]俺が歩かなくても/こたきひろし[2019年2月14日0時31分] たとえ 俺が歩けなくなったとしても 路は途切れないさ たとえ 俺に朝が来なくなっても 街路の樹木は立っているさ たとえ 俺が夜に溜め息をつけなくなっても 繁華街の立て看板に明かりはつくさ たとえ 悪酔いした知らないおっさんが電信柱にゲロを吐いたって 俺の経年劣化した手足の痛みはどうにもならないさ 捻れてしまいそうな俺の心 歪んじまったかもしれない俺のたましいってやつ 生きているって 厄介なんだけど 死ぬって全く理解できないでいる ああ 天才になりたかった 俺は馬鹿野郎だ ---------------------------- [自由詩]雨が降らなければ地は潤わなくて/こたきひろし[2019年2月22日12時54分] たとえ どんなに足が遅くて 地味にコツコツ歩いていても 一度に雲行きがあやしくなって その内にザァザァ降ってきたら たちまち道はぬかるみ 傘の用意がなければずぶ濡れの人生なのさ たとえ 一緒に歩き出しても 気遣いや思いやりが時に風化してしまえば その内に足の速い方がかまわず先に行ってしまうものさ そんなものさ そんなものさ でも先に行ってしまった方が 開いてしまった間隔に気がついて 足を止めて振り返ってくれたらラッキー だけど そのまま待っていてくれるか それとも自分の所まで戻ってくれるかは その人しだいだ それぞれの心の痛み具合だから たとえ どんなに足が速くても 何度も雲行きはあやしくなるし ザァザァ降ってくるのさ 足元がはぬかるみ歩くのが辛くなっても どこにも逃げ出せないのが 人生なのさ ---------------------------- [自由詩]愛情なんて見えないものに/こたきひろし[2019年3月8日0時46分] 愛情なんて見えないものより セックスなんてよくも悪くも見えるものに バカみたいに本気になってたあの頃 一組の男と女から 家族の歴史は始まり 愛情なんて見えない筈のものが 段々に見えてきて その内に段々畑のように広がって 丹精込めたら作物が根付いて深く根を張って 愛情なんて見えない筈のものが 最初の内はうっすらと見えだして 時間をかけてお互い努力して 段々にはっきりとしてきたら もう手放せないかけがえのない宝物になる頃には 歳月に年輪に 一組の男と女の髪の毛は白くなって しまった そんなおとぎ話が 永遠と繰り返されるのさ ---------------------------- [自由詩]最寄りの駅から/こたきひろし[2019年3月31日10時19分] 最寄りの駅から電車に乗る。自宅から車で七八分の距離に最寄りの駅はあった。JR線沿いの市街。 地方にはどこにでもありそうな駅周辺の風景。 車は近辺の有料駐車場に停めた。 どうせなら自家用車で東京へ行けばいいのかもしれないけれど、首都は車のドライブが不向きだ。都内は道が複雑過ぎて迷う。一度迷ったら収拾がつかなくなる。第一停める場所がない。あっても駐車料金がバカだかい。 過去に何度かチャレンジして酷い目にあっているので流石に学習した。 東京は電車でいく所だ。地方出身者で地方に生活の場を持つ身としての結論である。 俺にとっても妻にとっても東京は棲むところじゃない。たまに遊びに出掛けていく所だ。 それ以上でもそれ以下でもない。 大都会の風景はテレビの映像から垂れ流されている。大都会の暮らしはドラマを見て疑似体験。したくもない。 宝くじが買いたい。 年末になると妻が口に出す言葉。 籤なんて当たらないよ。 それがいつも返す俺の返事。 そんな事わからないわ。買わなければ当たらないのよ。 と妻に返されて、お金が勿体ないよ。と、結論を俺は急ぐ。 すると妻は、お金で夢が買えるのよ。と応酬する。 俺はなぜか、夢が買えるのよと言う言葉に弱い。 家のローン後何年あるだろう。お金で夢が買い、もしも現実になったら借りた金はいっぺんに返済し充分お釣りが来るだろう。 夢を買いたいから東京へ宝くじ買いに行こうよ。 妻が目を輝かせた。 そこで俺は言った。 夢を買うにしても近場でいいんじゃないか? それには妻が反論した。 ダメよ東京でなくては、有楽町の西銀座でなければ駄目なの。 その日。夫婦は最寄りの駅から電車に乗った。上野迄は二時間くらい。各駅止まりの普通電車に乗った。 夢を買うのに特急も急行も贅沢だ。 俺にとっても妻にとっても東京は棲むところじゃない。 ---------------------------- [自由詩]耳鳴りがやまない/こたきひろし[2019年4月23日0時32分] 耳の奥に蝉が棲んでいる みんみん蝉だ うるさくてかなわない 一本木が立っている 一本どころじゃない 何本も立っていた 何本の騒ぎじゃない 数えるのもいやになった 林から森になり そのうちに密林になった 熱帯雨林の中で 獣が目を覚ました 腹を空かせたからだ 弱いものは強いものの 餌食にならなくてはならない 強いものはもっと強いものの犠牲を 強いられる 以上は 妄想の連鎖 以下は 何だろう 集合住宅の一室で殺人事件が起きた。 その部屋の住人は三十代前半の女性でまだ独身。 一人暮らしだった。 中小企業の事務職に人材派遣されていた。親元からそれほど離れてはいなくて実家でずっと同居していたが、兄が結婚しお嫁さんが実家に入ったので居場所をなくし、アパートを借りて一人で生活をはじめて間もなかった。 犯人は彼女から現金とキャッシュカードを奪った。その際脅迫して暗証番号も聞き出したらしい。 脅しただけにとどまらず暴行を加えたの後に殺害した。 衣服は着けておらず全裸の状態で発見された。 首に強く絞められたあとが残り窒息死していた。 体内には犯人の体液が残留していた。 犯人は事前に情報を得ていて計画的な犯行だったのか。それとも場当たり的な犯行だったのか。いずれにしても一人暮らしの女性を狙い、金銭を奪い同時にその性的欲求の捌け口満たす為の犯行と推測された。 犯人は捕まらなかった。 女性は真面目で大人しく、清楚な美人だった。笑うと白い歯を見せて誠実さを伺わせた。女優の誰かに似ていたが具体的な名前は思い浮かばない。 近づく男は後をたたなかったが、上手くかわされてしまい、 その様子から決まった男がいるのだろうと周囲から噂されていた。 しかし男の存在は不明だった。 彼は事件の夜に隣室から男女の声を聞いた。隣が女性の一人暮しであることは知っていた。男が出入りしても何の不思議もない。が、隣に男が来るのはその夜がはじめてだった。 以前から彼は隣に強い関心を持っていた。 健康で正常に作動する男なら女の一人暮しに関心は当然持つだろう。 彼もまた独身の一人暮らしだった。付き合う女もいないから、その性的な衝動に歯止めがかからなくなる事もある。 夜中の一時近くなってしまった。 明日の仕事に差し支えるので、この辺でおひらきにしようね。 ---------------------------- [自由詩]人の口を数えても/こたきひろし[2019年5月4日7時57分] 上級詩人の奏でる言葉に 聞き惚れる そんな時代もありました 昔は僕のこころも美しく澄んでいましたから 今はすっかり皺がはいり 皺のなかに埃が溜まって 上級詩人の奏でる言葉に 耳が反応しなくなってしまいました それにしても 人の口の数に等しく嘘が吐かれて 歓楽街の電飾の看板にさえ飛び散っていますよ そんな夜の街でお酒を飲んだら 際限なく酔ってしまいました 職場の同僚たちと懇親を深める為に飲んだ酒に 我を失ってしまいました それから一人で場を抜け出し街中をさ迷い歩きました 歩き疲れた頃に足を止めて そして一軒の店の重たげな扉を軽く開けました すると仕掛けられた鈴が鳴って いらっしゃいませ という女性の声に  はしたなく性欲望を刺激されました 酒の魔力に体が女性を欲しがるのは男性の本能だと思います まるで暗い海底に落とされたような照明の店内 それはどこの酒場にもありがちな演出でした 若い女性店員がカウンターの隅の椅子から立ち上がるとおしぼりを手に近づいてきました 店内に客は誰もいませんでした 僕がその日初めての客だったかもしれません 女のこは髪を長く伸ばし背中に垂らしていました 見た目に水商売に相応しくない顔立ちをしてました 控えめな化粧と清楚な服装に体を包んでいました 僕は 真っ先に何でと思いました 酔いが一度に覚めてきたのです 鶴ですね と僕は思わず言っていました 「綺麗な湖に降り立っている」 えっ?何ですかいきなり 彼女は聞き返し不思議そうに僕の顔を見ました あんまり君が可愛いから初対面なのに言っちゃった 僕が答えると お客さん上手ですね 彼女は言いながら僕におしぼりを渡してくれました カウンター席に案内されてすわるとカウンターのなかには正装した男の人がいました いらっしゃい ここは初めてですねと言われ 僕は緊張して頷きました 男の人はすかさずに言いました ケイコの事気にいってくれたみたいですね 遊びなれていない僕はストレートなものの言い方に何も答えられませんでした 何だかコールガールの売り込みみたいに思えてしまいました 実を言うとあの子は私の姪なんですよ 昼間はちゃんとしたところで勤めていて 夜ちょっとだけ手伝って貰ってるんです まだ慣れてないから上手くは相手ができません 今は奥でかわきもの用意してますから出来たら横に座らせますよ と口にして「何を飲みます?」聞いてきました ビール下さい と僕は言いました そして聞きました「ここは二人だけですか」 もうすぐ二人来ますよ 二人ともちょっと年はいってるけどね 気立てはいいです 彼女がかわきものといっしょに現れて僕の横にすわったから 心臓がドキドキしてしまった 僕は聞いてみた「マスターの姪なんですか?」 聞いて同時にカウンター内の男の人の顔をうかがっていた それから彼女の顔に視線を移した ええと言って間をおき おじさんです と彼女は返答した それから何度もその店に僕は通った 下級詩人にもなれない僕は下手くそな恋愛の詩を 書いてしまう羽目になり そして段々に嘘がメッキみたいに剥がれるのを感じて勝手に失恋した ---------------------------- [自由詩]都市の伝説じゃなくて/こたきひろし[2019年7月15日0時31分] 都市伝説じゃなかった。 文字通り、地方か田舎の伝説。だから、信じるもよし信じてくれなくてもいい。 俺の父親はちゃぶ台のひっくり返しが好きだったみたいだ。頑固一徹で癇癪持ちで我が儘で無類の酒好きと、悪い所申し分無しの男だった。 気に入らない事があると朝昼晩を問わずに家族の食事の団らんを平気でぶち壊した。 母親にはいつもねちねちとあら探しをして自分の鬱憤を解消していた。 当時はとても嫌いだった父親の口からその話を聞かされたのはある夏の日の夜だった。その日は夕方酷い雷雨に見舞われてしまい、近隣の店に焼酎を買いに行けなかった。 酒を切らした夜、父親はおとなしく静かだった。 まだテレビが出回っていない時代で娯楽は乏しかった。都会ならまだしも山あいの暮らしだったから無理もない。 我が家の子沢山もその辺に理由がありそうだった。 父親はぼそぼそと語り始めた。家族はちゃぶ台の回りに集まり黙って聞いた。 俺が餓鬼の頃の事だ。と父親は言った。 「今も貧乏だが、その頃はもっと酷くて、間引きが頻繁にあったんだ。つまりよ、予定外の妊娠はよくあったが、産んでも食べさせられないから出産と同時に可哀想だが、一思いに鉈を振りおろしちまうのさ。」 そんな話、俄に信じ難いが父親は真顔で言った。 「父ちゃんいくら何でもそんな事したら捕まって刑務所行きだろ」 と一番上の子供が聞いた。 すると父親は不適な笑みを浮かべた。 「そうはならないんだな。世の中には暗黙の了解ってやつが有るんだよ」 社会が状況を飲み込んで黙殺するのさ。 と冷たく言い放った。その証拠に俺のお袋は七人産んだが、その内の二人は死産だよ」 俺は父親の話に耳を傾けながら背中が震えだして止まらなかった。 お前たちは無事に産まれて育ったんだから、感謝しなきゃなと父親は言った。 そしてつけ加えた。「この俺に」 ---------------------------- [自由詩]六十四歳になってしまった/こたきひろし[2019年7月20日1時30分] 六十四歳になってしまった 今更 文学への高い志しなんて持ってないよ ただただ インターネットいう海に 言葉の葦の舟で漕ぎ出しただけ もしかしたらその行く末は 砂漠の果てに打ち上げられてしまうかもしれない だけど それがいいんだなア 言葉の雨で貯まった海に 浜辺で組んだ葦の舟 私の底に沈む泥 汚泥 愛欲とか性欲とか 金銭欲とか 憎悪とか敵意とか ありとあらゆる汚泥 それをすすぎたいから 浄化できるとは思えないけれど にわかづくりでいながら 嘘の扱いになれた 詩人になろうとしていた 六十四歳 ---------------------------- [自由詩]わたしは/こたきひろし[2019年8月11日3時24分] わたしはわたしを いちばんに思う人だから いちばんにしか 思えない人だから わたしはわたしが大切にするものを 失いたくないものを 全力でまもりたい わたしは 時に正義を口にするけれど それは自分を美化したいだけで けして正義に参加したい訳じゃない わたしにとって 書くという行為は 自分の正体を暴露するためのもの なのだ しかないのかもしれない そうする事で わたしはわたしの危なげな内面のバランスを たもっているのに 過ぎないのかもしれないのだ 要するにわたしは 馬鹿で阿呆で どうしようもない人間なんだ 朝 洗顔と歯磨きをしながら 洗面台の前の鏡を覗きこみ そんな思いを痛感している 愚か者なんです 果たして わたしの明日はどっちだろう 方角がわからない わからない わからない わからない わからないのです ---------------------------- [自由詩]夜明けがくる前に/こたきひろし[2019年8月16日23時00分] あたしが まだ赤ちゃんだった頃 産んでくれたかあさんの乳房は あたたかい海のようだった あたしが まだ赤ちゃんだった頃 とうさんは ただの一人の男の人だった あたしがまだ赤ちゃんだった頃 オムツを濡らすオシッコや オムツを汚すウンチは 夕映えの空のようだった そんな中で あたしは すくすくと育った 訳じゃない バランスの捻れた 心とからだは 愛情に飢えて いたと思う あたしには 反抗期なんて なかったと思う いつの間にか 反抗する相手を見失っていたから ただただこの世界に従順なだけの めっちゃ 可愛げのない女子になっていたんだ そして あたしは成長し ある夜に をんなになったんだ もしこの世界に 異性が存在しなかったら あたしはずっとずっと 美しい少女の ままでいられたかもしれないのに それは あたしの とうさんが あたしのかあさんに 初めてしたように とても綺麗な儀式だった そうやって あたしも 好きな人と いったいになれたんだ だけど それはあたしの錯覚 その錯覚に 酔いつぶれて 何も見えなくなっただけ いつだって あたしは 夜が明ける前に 目を覚ましてしまうのが 癖のように繰り返されてしまった 切ない習慣のように繰り返して しまった ---------------------------- [自由詩]涙のかわいた後には/こたきひろし[2019年9月8日0時29分] 涙のかわいた後には単純に目糞が残りますね 私の場合ですけど 他の人はどうなんだろうか 涙は感情の高ぶりが一つの体液になって目から流れ落ちて頬を伝うしだいです そこには悲しみばかりじゃない 喜びだって含まれますよね 時には 笑いたくなるくらいに 泣きますね 泣くことの反対側には 自分のこころの美しさへの 感動もあったりもして もしかしてそれって 詩人がはまりやすい 沼なのかな でも私は大丈夫です 詩人でもなんでもない ただのおっさんですから いい年したおっさんですから ポエムの世界に迷い込んだ 美しく清らかな 少女じゃないんですよ ああ泣けてくる 私は美しく老いた紳士には程遠いんですから それどころか 世間で流行りの言い回し 不細工な ブサメンなんです 電車の中でJKの女のこに 「この人痴漢でーす」 って冤罪かけられても違和感ない 見た目にキモいおっさんなんですよ ああ泣けてくる ああ泣けてくる ---------------------------- [自由詩]台風が許せない/こたきひろし[2019年9月9日4時02分] 夜中 外がやけに騒がしい 雨が降りやがる 風が追い討ちをかけてくる ウルサイ うるさくて眠れねぇ 台風のヤロー いい加減おとなしくしねぇと ただじゃおかねぇぞ さっさとどっかへいっちまえ クソヤロウ 俺の奥様も たいへんご立腹だ 俺同様うるさくて眠れねえとよ これ以上暴れるなら 俺にも考えがある 夜の夜中だが容赦しねぇ 今から外へ出るから 勝負しろ 「あんたうるさいんだよ。さっきから訳のわからない一人言口走って、頭おかしくなったの?」 「えっ?俺なんか言ってた?なんも覚えてないんだけど」 「もしかして寝言?なんでもいいけど台風より騒がしいし気味悪いからやめてくれる」 「ごめーん、おかあちゃんごめーん」 ---------------------------- [自由詩]粗食/こたきひろし[2019年9月18日0時15分] ほんとにうまいものを食べたかったら 普段は不味いもの食べてなさい 一人の女を愛し続けていたいなら モテない男になりなさい 多数の女に好かれたら 一人じゃ満足しなくなるからさ 心の清潔たもてない 埃払って 雑巾かけて それでも汚れていく心 綺麗な心はストレスをうみ 汚れた心は落ち着くからさ 豪華な食事はやめなさい 粗食を 粗食を 心がけなさい 何だか 幸せになれそうだ な ---------------------------- [自由詩]台風前夜に/こたきひろし[2019年10月10日23時05分] ひっそりと静まりかえっていた 台風前夜の市街 もしかしたら明日には 街中が粉々に砕け飛んでいるかもわからない 不安と胸騒ぎ 備えたい 備えたい 食べ物 飲み物 車のガソリンを 満タンに お風呂に水を貯めて 空のペットボトルにも水道の水を 思い出してしまった 震災の時の恐怖 あの時は 断水 長期停電 地震は前触れもなく来て 余震に怯えた しかし 台風は発生から 勢力の発達も 進路の予想も 逐一情報が得られる なのに何でやねん 早めの避難とテレビが言っても ずるずると家にしがみついては 離れたくない 命を守る行動したいけれど 守れないかもしれない この静寂が 意味するものは 神様 仏様 死んだ父ちゃん お母ちゃん その存在を 普段はないがしろにして 申し訳ありません 私はどうなっても言いなんて思いません 家族を いっびきの猫を お守りください 助けてください 拝みます ---------------------------- [自由詩]疲れたり干からびたりしてしまいました/こたきひろし[2019年10月13日7時20分] 人人人 人ばかりです 人間の社会ですから無理ないです 電車は人でいっぱい 駅のホームも人でごった返し いい加減うんざりです 駅の階段を人が雪崩のように先を 急ぎます 雪崩に混じって 彼氏とあたし、しっかり手を握ってました お互いがはぐれたりしないように それはきっと愛情のなせる事に違いありません 私も人でした 雪崩の中で階段から一段足を踏み外しバランスなくして前に倒れ込んでしまいました 誰かが後ろから押したんです あまりの出来事に驚く暇もありませんでした それが故意なのか 偶然の結果なのかわかりません 犯人はそのまま消えてしまったか、どうなったかは 見当もつきませんでした 何人かが巻き沿いをくいました その内の何人かが怪我をした様子でしたが 幸い私は前の人におおいかぶさる結果になって 事なきを得ました 私は素早く起き上がり その場を立ち去りました 一組の男女が悲鳴をあげて立ち上がれなくなっていました 私は何も悪くありません 悪いのは私じゃありません 私を後ろから押した誰かです と必死に心の中で言いながら 逃げました 何らかの責任を押し付けられるのが怖くて しかし 私は普段は責任感が強く誠実な男の筈でした 少なくとも 私の周囲の目はそう見ていると思ってます 私はその評価を得るためにそれなりに努力してきたつもりですから それが朝の通勤中の群集の中で思わねアクシデントに見舞われてしまいました 人人人に押し流されて私は 自分を見失いました 私はその場所にとどまらずに立ち去ってしまいましたが、もしかしたら防犯カメラの目にしっかりと記録されて、その内に事故の元凶として逮捕されはしないかと、その後気になって気になって仕方ありませんでした その度に私は、私自身被害者なんだと必死に自分に言い訳していました 最悪、警察官の訪問を受けたらそれを説明して納得して貰えばいいと考える事で不安を打ち消そうとしていました しかし不安は払拭できませんでした それから何事もなく過ぎていきました ある休日に私は若い男女の訪問を受けました 二人は同じ階に住んでいると言いました 私は二人を知りませんでした 同じ階に住んでいても 私は二人を知りませんでした  フィクションです。ある女性シンガーソングライターの楽曲の歌詞から発想して書きました。未完です。 あえてそうさせて頂きました。 ---------------------------- [自由詩]蚊が飛んでいる/こたきひろし[2019年10月18日6時45分] 夜中に蚊が飛んでウルサイヨ 殺してやる 近づいてくると スマホの明かりをたよりに 何度もはたき殺そうとしたけど 無理 あっ 蚊が嫁さんの顔に止まった 血を吸っている 隙あり それでも 嫁さん熟睡中 スヤスヤ眠ってる ここぞとばかり 嫁さんの顔を 叩いた 何すんのよあんた! ごめんゴメン 悪いのは蚊だから 恐妻家の私は 嫁さんのお怒りを怖れた ---------------------------- [自由詩]ネットの宇宙/こたきひろし[2019年10月19日20時08分] 地球から外へ脱出したい 毎日毎日が息苦しい 嫁を貰った 子供ができた 子供は大きくなって おとうさんが死んだら ちゃんと葬式だけは してあげるから と言ってくれた なんて出来た娘だ もし家族が 路頭に迷いそうになったら あたし風俗で働くよ と言ってくれた 女はまともに働いたって たいしたお金稼げないから どうせ減るもんじゃ ないからって 誰だって いつかお迎えがくる いつ来るかが わからないだけ それまでじっと待っていられないから 汗水流したり 鼻水垂らしたり 時には 哭いたり 喚いたり それまでじっと待っていられないから 暇をもて余さないように 生きてやるんだ だけど この息苦しさは何だ 自分一人分の空気だけじゃ足りないのかよ 嫁さんが閉経して 更年期になると 俺に言った もうあんたとは しないから あんたの男は役目が終わったよ それでも煩悩の鐘が鳴ったら 自分で叩いてね いつかお迎えがくるまで この息苦しさに たえられるかな でも死ぬって この地球から脱出する 事じゃないよな 毎日毎日息苦しくて たまんないよ ---------------------------- [自由詩]夜ふけに眠れなくて/こたきひろし[2019年11月2日8時52分] 夜ふけに眠れなくて 理由もないのに 涙が流れ出してしまう事がある それもこれも 人間だからさ 理由なんてなくても 泣いてしまうんだよ もしかしたら 長く生きてきたから 涙腺を閉め忘れるようになってしまったかな だけど眠れない夜ふけに 理由もなく流した涙なんて 直ぐにかわいてしまうさ それもこれも人間だからさ もしかしたら むかし 胸を切り裂かれくらい悲しみにたえた日々が 今ごろになって 涙を運んで来たのかも わからない それもこれも人間だからさ それもこれも人間だからさ ---------------------------- [自由詩]破綻している/こたきひろし[2019年11月14日23時13分] 天井から悪口が聴こえる 部屋の壁に人の眼がひそんでいて たえず見られている などと口にした 彼女の精神は破綻している のかな 比べて 彼はその経済が破綻しかけていた 果たしてどちらが幸福で どちらが不幸かを計る 物差しなんてない そんなの 世の中の片隅にある ほんの一欠片に過ぎない 現実はもっと残酷で冷酷で 社会のいたるところで 打ちのめされた者たちは悲鳴をあげているんだ 人の生きるは 苦しみの集まり 悲しみの玩具 社会のあちらこちらで 打ちのめされた者たちは すくわれるあてのない悲鳴を あげているんだ ---------------------------- [自由詩]化石のなかで眠る/こたきひろし[2019年12月8日7時44分] 牛と豚の合挽き肉に玉葱の微塵切り 塩とブラックペッパーを適量 それにナツメックも適量 トマトケチャップと鶏卵を加えパン粉を入れる それらの食材を手で混ぜて捏ねる そのなかにどうやったら 愛情を練り込めるかなんて 考えた事もない そんなのどうでもいい さすがに朝食にハンバーグはないでしょ 昼飯か夕食のどっちかだよね と言っても昼食は大概コンビニ弁当だし 手作りが食べられるのは夕飯だからな 「今夜は何が食べたい?」 妻に毎朝訊かれるけど  何でもいいよ とつい答えてしまうのは 出勤前でどうしても気持ちがバタバタしているからだ 「何でも良いって言われるのがいちばんに困るの」 そんな答えがいつも通り返ってくるから 夫は一応考える振りをして結果 解答を妻に委ねる  君の作る物なら何でも良いよって 面倒くさげに夫は答える 妻はそんな夫に 「そんな無責任な事言わないで 素直に貴方が食べたい物を言ってよ?」 妻の質問に  これと言って食べたい物はないけど 強いて言えばハンバーグかな今夜は と答えを探して見つけた 「そう?分かった今夜はハンバーグにするね 愛情いっぱいの」とちょっと不満げに妻は口にした  頼むよ と夫が言ったら 「他には何がいい?」 と妻が訊いてきたから  他は君に任せるよ と言いながら  朝からいつも垂れ流されているテレビ画面の時刻の数字に目をやった  もうこんな時間か 俺いくから と慌ただしく立ち上がり玄関まで歩くと 後からついてきて見送る妻の耳元に口を近づけて甘く囁いた  今夜は何よりもいちばんに君を食べたいな と 結婚して家庭を持ったら そんなしあわせが当然やって来るものと 男はずっと夢想していたものだ ずっとずっと切ないくらいに 一人ぼっちの暮らしのなかで 独居生活のまま いつか化石のなかに眠ってしまわないかと 恐怖を覚えなから その恐怖と痛みを抑えるクスリにしたくて 夢想したのだ しかしそれはどこまでも現実には結びつかない 儚い蜃気楼 とても儚い蜃気楼だった のだ ---------------------------- [自由詩]詩にうつつを抜かしている/こたきひろし[2020年1月12日9時26分] 昨夜遅く何のまえぷれもなく 母親があらわれた 彼女と最後に会ったのはいつだったか 彼女と最後に別れたのはいつだったか 薄情にもそれを忘れてしまった 十年か二十年か、それさえも分からなくなっていた いずれにしても どうしようもなく歳をとっている筈だし 老醜をさらけ出しているに違いない人は 別人としか俺の眼に写らない女人と化していた 腰を抜かす位に若返っていたのだ 俺の眼は先ずいちばんにふくよかな胸に引き寄せられた そして次に肉感的な尻に持っていかれた ヤバイ これはヤバイ あれっ?俺は異変に気づいた 同じベッドの上で寝ている筈の嫁がいない すると母親はそれを察して言った  子さんには遠くへ行って貰ったよ 遠くって?何処だよ? 俺は直ぐに聞いた お前には母さんがいるでしょ 彼女は答えた それから間もなく彼女は するりと俺の側に横たわった ヤバイヤバイよ それはヤバイよ 幾ら母親だってその体と色艶は 化粧もいけてるし唇は紅いし それから彼女は着ていたブラウスを脱いできた 下着をずらして乳房を露にした それから躊躇いもなく その片側の乳首を俺の口に含ませた そして彼女は言った 母さんお前には人工のミルクしかあげられなかったから、それがずっと心残りだったのよ えっ?そっちだったのか 勘違いしたよ よかった あり得ない事が けしてあってはならない事が起きる幕開けじゃなくて 母さん 遠慮なく頂くよ 母さん 目が虚ろになってるけど 大丈夫かい 死んでないよな ---------------------------- [自由詩]昨日今日明日/こたきひろし[2020年1月18日23時56分] 過ぎて去ってしまったから過去。 未だ来ていないから未来。 過去へと下る河は人の記憶の中を流れ 未来へと上る河は人の夢の中へと流れ込む 懐かしさに帆を孕ませて 舟は下り わくわくに胸を弾ませて 舟は上る ああ 今ここに私は至り 浸水する不安を抱え船底に怯えている 原因のつみかさねに結果は招かれ 消えかかる炎に日々は揺れる もう未だなの いつになったら 幸せに逢えるのさ ---------------------------- [自由詩]産まれた時から生まれた日から/こたきひろし[2020年2月2日7時52分] 産まれた時から生まれた日から 人より多くが欠けていたから きっと私は充たされていたんだろう 何だか辻褄が合わないな 産まれた時から生まれた日から 人から見下されたりはしないかもしれない けれど 産んだ女と 産ませた男に欠けるものが多ければ その時すでに 人から見下され虐げられる 荒んだ社会はけして否定されない そのせいで 運命には皮肉が込められてしまうんだろう 冷酷で残酷なんだろう 産まれた時から生まれた日から 人より多くが欠けていたから きっと私は充たされていたんだろう そう解るまでに かかった歳月 舐めた辛酸 いかなる言葉でもいいあらわせない たどり着いた境地 それは諦念の導きかも知れない 或いは老境の幻かも解らない それとも 言い訳か 負け惜しみか 産まれた時から生まれた日から 人より多くを欠いていたから 充たされていたんだろうという想念 そこにたどり着けた安らぎ ---------------------------- [自由詩]幸福でないからいいんだな/こたきひろし[2020年3月7日9時20分] 幸福でないからいいんだな もし幸せの花束抱えてしまったら その花束一本だって散らないように 枯らさないように 必死になるしかなくなるからさ のんびり行こうよ 焦らずに ゆっくり行こうよ 走らずに 俺は天の邪鬼だから 親切で優しい人が苦手なんだな 親切で優しい人には 自分も親切で優しい人でいなくてはいられなくなるからさ その為には 大きな嘘をつかなくてはならなくなるからさ 正直 俺は温かい思い遣りとか 優しい心使いとか 持ってないんだよな 持ってないのに 持ったふりするのは 究極的に 自分が傷つくだけだろ 滅法疲れるし ストレスにもなる 心に余裕分ないからさ 心に余裕分ないからさ ---------------------------- (ファイルの終わり)