秋葉竹のおすすめリスト 2020年3月11日11時47分から2020年4月2日18時31分まで ---------------------------- [自由詩]白い森/丘白月[2020年3月11日11時47分] 雪で埋め尽くされた森の ずっと下から音が聞こえる 小さいけれど 響くような音が 野ウサギが立ち止まり 長い耳を立てて左右に振る 深いオークの森が どこまでも神聖な 空気を漂わせ ドングリの実も 雪の下で冬眠している 一匹の子熊が歩いてくる 目をこすりながら ウサギを見つけて 眠れないと言った 足元から聞こえる音は 子熊の親の寝息だった 怖いんだ 眠ってしまったら もう朝が来ない気がして ウサギは優しく言った 心配ないよ朝は来るし もっと素晴らしい春も来るよ 夏に生まれたばかりの子熊 春をまだ知らないけれど すごく嬉しそうに笑ってる ウサギの耳の後ろに 妖精が立って 子熊を優しく見つめてる 大丈夫あの子は 安心して眠るわ オークの妖精はそう言うと ウサギの耳のような 白い羽根を広げて 飛んで行った ---------------------------- [自由詩]恋人たち/うみ[2020年3月14日21時23分] 外国の唄がながれた ノース・マリン・ドライヴ それは海沿いの道で ぼくたちが車にのって 風を感じる午後のこと 永遠が存在すると いうように 太陽のひかりはまぶしく 淡く ぼくたちは 黒いおおきな目をした長毛種の犬のように まぶたをとじて風を浴びていた それはあまいたそがれのとき 蜂蜜色にかがやく 瞑目の静けさがあふれるとき いのちの意味もしらない おろかなぼくたちが なぜだか神さまのたべものを たらふくにたべられるとき そして世界は静止していて どこかの団地の畳の上では だれかが足をなげだして 眠りこけているとき ぼくときみのあいだの ひと呼吸分の静けさと 愛をかたるべくもないほどの ちいさなほほえみは 空を行き交う電波よりもすばやく ブラジルでキスをする 恋人たちのところに届いている ぼくたちは愛が素粒子だと そして波だと いまではもう知っている どんな科学者よりも賢明に (かもめが鳴いている それはぼくたちと同じ沈黙とすこしのかなしみのため いずれ見えなくなるコンビナートの蜃気楼のため) 窓枠にもたれたきみの横顔が 空をよこぎるにじいろの夕暮れに染まり 死んだようにあおざめてゆく 外国の男がうたうのをやめ ぼくらはまた話しはじめる これからどこへゆこうかと あたらしいあやまちを重ねはじめる けれどこの海のむこうがわでは今も 小麦色の肌の恋人たちが愛し合っている ---------------------------- [自由詩]しろあと/立見春香[2020年3月15日0時12分] 山、 というのではなく 丘の上にかつてはたっていた 城、 あとについたんだ テッペン回った深夜のこと ああ、 星は、 いつ落ちてもおかしくない ああ、 まるでこぼれそうだったよ うそだよ、 だけどなんだか そのまたたく音が 聴こえたんだ、ちゃんと。 星々の、 まるで 美しく煌めくだけで、 さ、 ヒトの気持ちなんて なにひとつわからない そんなに高みにいるのに まだ、 じぶんより 高い宇宙(そら)を見上げている ヤツラの 歌声が、ね。 ほんとうは 黙りこくっているわたしの つぎにしずかなはずの、ね。 ---------------------------- [自由詩]ポップ・フィールド(改訂再録)/ひだかたけし[2020年3月15日19時53分] 感情が漂白され 漂流していくこの時空を 速くなったり遅くなったり 緻密になったり大雑把になったり なんて自由自在に運ぶ移行 魂の打つ突発的な躍動 変拍子や裏拍に コレハナンダ? 新たな形式 ドウスレバ? 広がる広がる波紋波紋 身ぐるみ脱いで飛び込んで 灘の不明から放擲されてくるもの 淵の深みから浮かび上がるもの )んとっとトクントクン どろっ ろろ 不規則に共鳴し  粘り着き絡み合う ビ美シュー醜 善悪相対 飽き開いて 全部ハイハイ呑み込んで 前進一歩また一歩、 前人未踏の武装解除、、 捨てられ捨てて 未練がましく 妄念観念突き詰め見切り 一気に切断突き放し 狂態、変態、突然変異! あの空白の静けさが、 この失調冷熱苛立ちを ふっと打ち消し ひょいと再びやって来るマデ 分け入る界を半ば自棄糞で 掻き交ぜ掻き分け掴み進む )歩いて、歩いて、走って、走って いつしか外部は内部と接続し 内部は何処までも開かれ澄む コレハ今宵 薄光空の水の色! ソノ時 不意に アノ空白ノ静ケサが 、、、   そうか ならば 己の肉の衰弱自然 滅びるその際にのみ 界の真実は明かされ 然るべき形式獲得され それはもう詩ではない 詩だけが喚起する 死の向こうの ポップ・フィールド ---------------------------- [自由詩]土塊(改訂)/ひだかたけし[2020年3月16日18時28分] 土塊を捏ねる 指先に気を集め 煮え立つ熱を流し込み ゆっくりしっかり力入れ 未定形の粘る分厚い土塊を 思い思いのまま捏ねくり回す 捏ねくるうちに不思議なこと 土塊と指先は拮抗しながら 浸透し合い親和し始めて 熱と物との力動の一対 無骨な造形躍動する 鍵裂き状の閃きの中 歪み撓み捻れながらも 不意に迷いなき確信の許 可塑性に富む弓形フォルム 土塊と指との交歓に結実する いずれ燃やされ尽くすだろう かならず失われていくだろう それでもこの刻印は残るのだ 新たなる生へと引き継がれ ---------------------------- [短歌]散歩/夏川ゆう[2020年3月17日5時37分] 前向きな気持ちになれるリゾート地停滞気味な運気は上がる 近道は工事中で使えない瞬間移動出来れば最高 菜の花が集まり黄色眩し過ぎ風を黄色に変える幻 決まった道ゆっくり歩き散歩する頬触る風初夏を伝える ---------------------------- [自由詩]君の声/丘白月[2020年3月20日22時33分] 君がいなくなってから 影ばかり追いかけてる 誰も居ない部屋で 帰ってくるはずもない 君の足音を探してる 網戸に残る去年の タンポポの種 タンスにしまったままの 一度も着ていない洋服 春になったら一緒に歩くと言った あの公園の桜のアーチ もう一度だけでいいから 声が聞きたい もう一度だけでいいから 手をつないで歩いて 池を埋め尽くす蓮の花を 綺麗だねと言って目をみて 君は一人で蓮を渡ってしまった 誰が迎えにきたというの 僕はもう春を待てない 誰と寄り添って歩けばいいの 終わりのない歌を繰り返し歌ってる 君の声が入って来るのを待っている もう一度会いたい もう忘れてしまっただろうか 蓮の花の上で待っていればいいの それとも僕もいってしまおうか ---------------------------- [自由詩]今宵強風が吹き始める/Lucy[2020年3月20日23時31分] 私が見ている光景と あなたがたに見えている事件は違っている ということを 驚きとともに思い知る事がたまにある でもあなた方が一斉に 同じ景色を見ているのだと思うのは たぶん私の錯覚で それぞれが異なる別々の映像を 各々の理解力で さまざまな角度から解釈し 認識が 少しづつずれて 僅かに歪んでいるのなら あなた方みんなが思い込んでいる物語に比べ いくらかでも 私が注意深く凝視し観察し 構築してきたストーリーが真実に近いなどと 主張する根拠はどこにもない 気象予報が言い当てた通り 夜が更けてから強い風が吹き始めた どよどよと どこから辿り着いたかもしれぬ 長旅に疲れたような重たい風 こんなに強い風は この冬一度も吹かなかった そう感じる私は既に間違えている 生まれて初めて聞くような 実はもう何百回となく聞かされたはずの 重苦しい音が窓を打つ 鼓膜を叩く ---------------------------- [自由詩]好きな仕事/夏川ゆう[2020年3月21日4時53分] 嫌々仕事しても 楽しさはなくて ストレスばかり 好きな仕事を見つける 好きな仕事をすれば輝く 長く続けていける 毎日楽しく続けられる そんな仕事がいい 遣り甲斐があり成長も早い 好きな仕事見つかって良かった ストレスは一切ない 良い環境が整い 笑顔が増える 良いアイデアが次々湧いてくる 好きな仕事だから 苦にはならない ---------------------------- [自由詩]弔い/秋也[2020年3月21日17時43分] 巨大な古木の湾曲は 幹から枝へねじれを伴い 陽光 葉から地へ 木漏れ日となる 朽ちようとも 折れ 枯れようとも ねじれは残る 虫の子守り歌 ズズンと横倒れ いびきをかく 土になるまで かつてうろだったところ 風が優しく通る ずっと一緒 ---------------------------- [自由詩]空の青と本当の気持ち/ひだかたけし[2020年3月22日15時52分] 青空が見えている 静かだ 青空を見ている 静かに 呑まれていく わたし 青空が見ている 静かに ---------------------------- [自由詩]からっぽの世界/ホロウ・シカエルボク[2020年3月22日23時46分] 海岸に流れ着いた死体は 名前のないまま葬られた 世間から隔離された 小さな漁師町の住民たちの優しさは どちらかといえば退屈から来るもので テツは一五歳 マチは一六歳 ラノは一四歳だった テツは男で マチとラノは女だった それがこの町の 未来のすべてだった あとは八人の大人と 十二人の年寄がいるだけだった あらゆる金属が歴史と潮風によって赤黒く錆び あらゆる家屋の骨格は激しい海風によって傾いでいた テツとマチとラノには生まれたときから運命があった 三人でこの町の未来を担うという運命が 身体が出来始めるとすぐに 町の端っこの空家に移され 三人でとにかく子を作るようにと教えられた 飯は誰かが必ず世話してくれた 三人が三人だけの家に移されて二年後 マチがまず身籠った マチの母親が来てマチを一度生家に戻し その間テツとラノが二人きりで暮らした マチの子が生まれ マチが帰る頃に ラノも子を授かった ラノの母親がラノを生家に連れ帰り テツとマチは二人きりで暮らした そんなふうにして七年ほど経つと 小さな漁師町には子供のはしゃぐ声が響くようになった テツとマチとラノはあまり頑張らなくてよくなった 少なくとも今居る子らがある程度育つまでは テツとマチとラノは働かずともよかった 町のものたちは彼らを有難がった 「お前たちはわしらが一生食わせてやるからこの町で好きに生きろ」 「生きている間子供を作り続けて、この町に預けろ」 「有難いことじゃ、お前らは町の救い主じゃ」 テツとマチとラノは彼らの喜ぶ姿を見るのが好きだった それが自分たちの使命であるのなら全うしようと考えていた 生まれたときからそんなふうに教えられて育った それがおかしなことだなんて夢にも思わなかった 時々子供を作っては町のものに育て方を習いながら過ごした 二十年が経つ頃には町はかなり賑やかになっていた 男たちは新しい船を作り 海に出て沢山の魚を取ってきた 女たちはそれを捌き 必ずテツとマチとラノの家までおすそ分けを持ってきた 「お父さん、お母さん、今日のお魚です」 皆がそう言って持って来てくれた テツとマチとラノは 街に溢れる若者たちを見ながら これが皆自分たちの子なのだと なにか信じられない気持ちで毎日を過ごすのだった 大人は次第に年寄になり 年寄は静かに死んでいった もう少ししたらこの町は テツとマチとラノの子供らばかりになる 子供らも年頃になり そこいらで子供が生まれるようになった テツとマチとラノはもう子を作ることもしんどくなっていたから 彼らとともに彼らの孫を育てた 人が溢れ 古かった街並みも次第に建て替えられた テツとマチとラノの家も 若者たちが新しいものに変えてくれた 何時しか魚が取れなくなり 若者たちは仕事を求めて賑やかな街へと出向くようになった 彼らが行き帰りすることで 小さな漁師町にも文化が取り込まれた 町は明るくなり 都会から移住してくるものもいた 何年も何年もかけて風景は様変わりし やがて港は観光客を受け入れるためのものになり 漁師たちの仕事場だった場所には地元の魚料理を出す店が出来た でも魚は他所から車で運ばれてきたものだった テツとマチとラノは子供らに連れられて その店の第一号の客になったけれど 少しも美味いと感じることが出来なかった マチは塞ぎこむことが多くなり そのうち自分の名前も思い出せないようになった テツとラノは マチではなくなったマチを優しく見守った どのみち彼らにはそれしかすることがなかった やがてマチが死に 照明が明る過ぎる公民館で葬式が行われた 子供らはテツとラノを出来る限り気がけてくれたが 以前のように自由に振舞える時間が少なくなっていた そのうちテツがある日突然倒れ 少しだけ血を吐いて動かなくなった 脳梗塞だった ラノはたったひとり残され 二人がいた場所を眺めながら毎日を生きた 時折窓の側に椅子を持って行っては もはや自分らの故郷だとは思えないほどに様変わりした町を見つめた (私らはこんな未来のためにここで生き続けたのか) 希望だったそれはいつしか絶望へと化けていた ある年の冬の夜中 ラノは窓の側で カーテンに火をつけた 燃えていく三人の人生を見つめながら 泣き喚き笑いながら焼け死んだ 彼らの家は町の外れにあったから 火が大きくなるまで誰も気づかなかった みんな年老いたラノが不注意で火事を起こしたのだと思った ラノの葬式が終わり 埋葬が済むと 町の人間たちはあれこれと話して テツとマチとラノの家の残骸を片付け 一度更地にしてから公園を立てた 展望台のある公園は観光客を喜ばせた それからほどなくして 町は名を変えたということだ ---------------------------- [自由詩]夜の月が祈りのかたちを照らすとき/かんな[2020年3月23日11時52分] いたみから 目を背けられない夜の月のような 白く甘いこどくと カップの底に残ったままのココアは あの手が握りしめたやさしい日々の ちいさな祈りをいくつも いくつもつないで 告げることの 知らない苦しみを 本棚の傾きだけが 崩れないまま教えてくれるから 窓辺にしあわせをそっと 置き忘れたままきらきらきらきら それは きっと水のように生きつづける やさしいひとはつよいひとは きずつかないひとは かなしいひとはよわいひとは きずつけたがるひとは 伝えることは この夜のおわりまで耐えていけるという あたたかな眠りを明日まで運んでいくための わたしの祈りのかたち ---------------------------- [自由詩]みかんすう/ナンモナイデス[2020年3月23日21時09分] 未完成な 時空ほど美しい  たとえばそれは 忘れていた  あどけない ことばにぃ しぐさにぃ まるふぇいす ぼでぃでっばぐ さぁ りいんすとぅーる しなきゃ 嗤えない かおすの 閾値を こえるよ ≪いま≫@みかんすう ---------------------------- [自由詩]春の入り口で/丘白月[2020年3月23日22時48分] 足元の春を越えて いつもの朝が バス停を通り過ぎて 橋の上から流れる朝日を見た 足元の蕾をよけて 春の色した風が 公園のベンチで休んで 明日は咲くよと言った 青空半分は宇宙の色 天に憧れる海の色 雲をかかえて 涙の天国だよと言った 桔梗撫子が心細く 空を見て背伸びする 春の色が花びらに溶けて 羽根になれと願った 新しい季節の入り口で 妖精の息を吸って吐いて 遥かな想いを見つける 魔法が解ける季節で ---------------------------- [短歌]歌手/夏川ゆう[2020年3月24日5時16分] 華やかにチューリップ咲く初夏の午後恋人同士寄り添う時間 黄昏の時刻は終わり暗闇に田舎で生まれ育った命 真夜中に放送される映画見た内容はホラー眠れなくなった 新しい歌手が次々デビューする誰とも違う何か持ってる ---------------------------- [自由詩]言葉屋/朧月夜[2020年3月26日19時10分] このお店は改装中です。 ですから、お立ち入りにならないでください。 改装が終わったら、 あなたも入ってみると良いですよ。 わたしは言葉を商っています。 わたしは「無限」という言葉の意味を知りたいのです。 無限の意味ではありません。 「無限」という言葉の意味です。 それがどんな感情を与えるものなのか、 どんな記憶に喚起されたものなのか、 その言葉を与えられれば、 どんな気持ちになるのか。 言葉を仕入れたつもりが、 言葉を売り払ってしまったことはありませんか? 言葉をかけたつもりが、 言葉をかけられていたことはありませんか? 言葉はとてもあいまいで、 どこにでもあるように見えて、 実はどこにもないものなのではないでしょうか。 現に、わたしは結晶した言葉以外を見たことがありません。 わたしは「言葉」という言葉の意味を知りません。 わたしは「意味」という言葉の意味を知りません。 言葉屋は皆言っていますよ、 「誰も本当の言葉の意味など知らない」と。 もしも言葉屋の改装が終わったら、 あなたも立ち寄ってみると良いでしょう。 そこでは、悲しい思いになることもあるでしょう。 そこでは、嬉しい思いになることもあるでしょう。 誰も本当の言葉の扱い方など、 知りはしないのです。知ってはいけないのです。 だから言葉屋は存在する。 そして、言葉はただあるのです。 生まれるために。死するために。 例えば「雨」という言葉を、 今日あなたは探していましたね。 それは見つかりましたか? それとも、そんなものはどこにもありませんでしたか? 言葉屋には、きっと売っていますよ。 ですから、改装が終わったら立ち寄ってみてください。 あなたに素敵な言葉が見つかりますように、祈っています。 ---------------------------- [自由詩]捨て石(改訂)/ひだかたけし[2020年3月27日4時14分] この世での光は消えてのち また射す光、止めどなく 覚悟せよ 全ては〃進化〃の時流に乗り 大地が割れる感触を 肉に刻んて進み行く この世に在る限り この世での光は消え去って 幾億光年の記憶と化す 今日も忙しく立ち働く 愛しい君の 手の温もりを追い 僕は捨て石になるだろう 剥き出し曝され喜んで 僕は捨て石になるだろう また射す光、浴びるまで ---------------------------- [自由詩]桜が咲く/夏川ゆう[2020年3月28日5時18分] 出逢いと別れ 多い春の時期 桜が満開になり 別れの寂しさを弱める ピンク色の魅力 桜並木を歩けば 心にあるネガティブが 光を帯びた愛になる 何となく気持ちが前を向く ピンク色の魅力に酔いしれる 街を一変させる桜という和の魅力 急いでいても立ち止まらせる 桜の不思議な存在感 桜が満開になった時の ワクワクに似た感覚 幸せな気分 ---------------------------- [自由詩]満足できない/ホロウ・シカエルボク[2020年3月29日10時55分] 偽物のイマジンが街を闊歩している 俺はガイガーカウンターを海馬に埋め込んで 徹底的に感染を拒否する ヒステリックな世間の声 真剣さこそが真実だと 信じて疑いもしなかったやつら パリコレのバックステージで起きた 主催者暗殺のニュース 犯人の手際が鮮やか過ぎて 裁かれてもヒーローだった 印象はすべてを支配する 他人の脳味噌に滑り込んだものの勝ちさ 石畳の街路にレオス・カラックスの亡霊 年代物の軽自動車を裏返しにするのさ 板金工が呪いの言葉を吐く 曇り空ばかりの春の日の午後 まったく呆れるぜ あいつらまだ歌ってる たとえ世界が滅びたとしても ワールド・トレード・センターの跡地にやつらのアンプが並べられるだろう 絶望的なトラディションと追いかけっこ 血眼になって指を動かす 魂の速度がなければ話になんかなりゃしない 大事なドアは鍵を掛けずにきっちりと閉じておけ その気になればいつだってめいっぱい開けるように 日ごろ小難しい話ばかりしてたって ディストーションだけで満足出来るときだってある 投げ捨てるようにコーヒーを飲み込んで マグカップを窓の外に片づけるのさ 俺の真実が知りたけりゃ キッチンの外壁を眺めてみるんだね 昔書いたものが捨てられてるごみ箱なんかじゃなくて 街角のブルースはいつだって間延びしている 一日中スタジオに籠ってる連中じゃね 確かめてくれよ お前の指先に触れているものがどんなものなのか ネックを血塗れにするまでに欲しがってたものはいったいなんだったのか 配達業者を捕まえてサングラスとパンを交換する マイケル・J・フォックスの映画にそんな場面があったなと思いながら まあ あんなにドラマチックな時間帯じゃなかったけどさ あんまり関係のない話だけど 丸いフレームのサングラスをソリッドに見せるのは結構難しいことだぜ 極東の島国はいつだって 形式ばかりを神経症的に継承したがる それが工業製品なら結構な話だが それが芸術だとしたらまったく目も当てられないよ ここにおいで ここにおいで お前が本当に欲しがってるものはいつだってここにある ちょっと触れるのも躊躇うような おぞましいドアのノブを えいやっと掴んで捻ることが出来れば 必ずそれがなんだったのか知ることが出来るよ 勇気っていうのは自分にこだわることばかりじゃない まるで自分にゃ関係のないようなものを 飲み込むことだってそうだと言えるんだぜ 馬鹿みたいにページをめくることさ そこにどんなことが書いてあったって 読まないで捨てるなんて愚行だぜ 大事なのはそこに書いてあることじゃない それを見つめているお前がそこから何を汲み取ることが出来るかだ くだらない連中だっていろいろなことを教えてくれる お前がハナから目を逸らしたりしなければね 大事なのは 決して感染しないことだ 二度と治らない病気だってある 長い長い死を生きたりしたくなければ 瞳を曇らせないように見開いておくことだ 土塊がどれだけかぶさったって 生きものは少なくとも化石になることが出来るんだぜ スニーカーが破れ始めたから買い替えたいが 靴屋はシャッターを下ろしている 控え目にノックしてみたが 誰かが鍵を外す気配は感じられなかった 人影まばらなホリディ、悪い気分じゃない 多少の歩きにくさは無視するしかないか イヤフォンの中 ベンドして、ベンドして、ベンドして 俺の脳髄を振り回す五十年前 硝子を引っ掻くみたいなソロに混じって 俺の産声が聞こえたのは気のせいなんかじゃない 蕁麻疹のような世界を 運命が吹き抜けてゆく ジューシーなガムを噛みながら 吐き捨てるのは忌々しい昨日の出来事さ たどたどしい靴音がこだまする裏通り 閉じた酒場の入口の 朝まで酔っぱらった連中のすえた臭いのアート ブレイク・オン・スルー 極限まで思考をこねくり回す連中の為に シンプルなゴールは用意されている そのドアを開けるのはいまじゃない もっともっと長い月日を重ねてからのことさ 眠ったまま死んだりなんかしない プールの底に沈んだりなんかしない 綻びだらけの太陽が懸命に上って来るうちは じりじりと肌の焼ける音を聞きながら新しい道を探すだろう チェック・ポイントにはキャンディでも並べといてくれ 時々甘い味が懐かしくなるんだ 助手席にカラスの死体を乗せたタクシーが 鬼気迫るスピードで通り過ぎてゆく 興味を持って止めようとしたけれど 運転手には最早なにも その目に止めることは出来ないみたいだった アウト・オブ・タイム いつかは俺だって 戻せないアクセルを踏み込むときが来るだろう ---------------------------- [自由詩]少年の頃 教室にて/秋也[2020年3月30日14時10分] 最初はグー いかりや長介あたまはパー じゃんけんぽい 20分休みの教室 みんな元気に笑って遊んでいた 昨日の夜はTVの前で家族と笑った 風呂あがりの林檎ジュース吹き出しそうになったよ 家族って温かいな 友達と遊ぶって楽しいな おーい、みんな大丈夫か 風呂入って、歯磨いて、元気でな また笑顔で遊ぼうぜ ---------------------------- [自由詩]残響/ひだかたけし[2020年3月30日20時27分] 夕暮れが来て 昼間高曇りの空の下 白っぽかった街並みが 闇に呑まれていき出すと 高く豆腐売りのラッパの音、 響いて意識は 遥か彼方に飛んでいく 遠い過去と遠い未來、 今此処で円環し 互いが互いを呼び合って 記憶の底打ち予感を掴み 夕暮れ色に染まっていく 波打ち際で躍る砂、 青い青い水平線、 いずれも時の荒波に 揉まれて呑まれ 呑み返し 夕暮れが来て 昼間高曇りの空の下 白っぽかった街並みが 闇に呑まれていき出すと 高く豆腐売りのラッパの音、 響いて意識は 遥か彼方に飛んでいく ---------------------------- [自由詩]春風に吹かれてる/石村[2020年4月1日14時34分] 《なんてこたあ ないんだよ》 翼をたたんだカラスがうそぶく 電柱の上に ぽつつりとまつて さうやつて 世の中をみおろしてさ ほら ちよいと 武蔵の絵みたいな 構図ぢやないですか  ご機嫌よう  今日はいいお日和で  何か面白いお話でも 《さみしい男と  かなしい女が  ゆきずりに出会つて  どこかにしけこみ  二升五合を熱燗で空け  骨がとけるまで愛しあつたあと  うす霧ただよふしづかな朝に  近くの岬から身をなげた》  ほほう  そいつは何とも  おきのどく 《さうでもないよ 「わたし 誰よりも 幸せだわ」  といふのが  かなしい女の  さいごの言葉さ》  ははあ  さうですかい  で さみしい男は何と? 《さあね 知らんよ》 ほつぺたを掻きながら 長生きのカラスがまたうそぶく 《なんてこたあ ないんだよ》 さうかもね なんてこたあ ないのかも どのみちさみしい境涯で どのみちかなしい人生だ 幸せなきぶんで あの世に行けるなら それに越したこたあ ありませんわな それにしてもだ さみしい男はどうしたんだ 幸せになつちまつた女と 春の海に身をなげる前に 何かしら 気のきいた科白のひとつでも のこしたのか のこさなかつたのか 行きずりの女とひと晩愛し合つて ちつとは気が晴れたのか それとも さみしい男はやはり さみしいまま だつたのか どうもそいつが 気になつて しかたないのだが カラスはそつぽ向いたまま うす雲たなびく空の下 春風に吹かれてる ---------------------------- [自由詩]四月馬鹿の雨/ひだかたけし[2020年4月1日15時43分] 雨が 木の幹を濡らしていく 緑の木立は微かに揺れて 時の狭間に佇んでいる この四月馬鹿の一日に 優しく優しく照り映えながら 雨は 間断なく降り続け やがて 街を静かに濡らしていく  緑の木立が静まる頃 街から人は居なくなる ---------------------------- [自由詩]変なおじさん/やまうちあつし[2020年4月2日18時31分] 変なおじさんがいた 国じゅうの人たちが指差して笑った 眉をひそめる者もいた 変なおじさん 変なおじさん その頃世界では 奇妙な出来事がたくさんおこった 変なせんそう 変なさいがい 変なさいばん 変なさいきん 笑えない人が多かった 変なあらそい 変ながっこう 変なおとな 変なこども 変なおじさんはまだいた 国じゅうの人たちを笑わせていた 変なおじさん 変なおじさん 「大丈夫だ」 あるとき 変なおじさんが死んでしまった あまりにも唐突で ずっこける暇もなかった 国じゅうの人たちが指差して泣いた 誰ひとり 笑うことができなかった ---------------------------- (ファイルの終わり)