秋葉竹のla_feminite_nue(死に巫女)さんおすすめリスト 2018年12月22日12時48分から2019年10月11日13時49分まで ---------------------------- [自由詩]やがて、その枝のひとつでさえ/la_feminite_nue(死に巫女)[2018年12月22日12時48分] 小さなもののことを、  小さなものが話した。 それは針の穴を抜ける糸のように細く、  ティーカップにスプーンを浸したときに沈んでいく、紅茶の葉のよう。 大きなもののことを、  大きなものが話した、 それは、いくつかの星たちと話をしながら、  星々のなかで、一つの廃星となることを選んだのだろう。きっと。 やがて、葉がゆれる。  望みもしなかった風に吹かれる。 それは、心地良い微風などではなく、  嵐となることを望まれた、記憶のなかの眩暈。はるか底の。 冬の木立ちをゆらす、  小さなものが話をした、 大きすぎるもののことを。  つきぬける、欠けらの謎にくるまれて。包まれすぎて。 やがて、その枝のひとつでさえ、  骨となるのだろう。 その骨は、ケーナという楽器。  ケーナは、愛という愛をすべて拒んだところに現れる、光。 小さなもののことを、  小さなものが話した。 それは針の穴を抜ける糸のように細く、  ティーカップにスプーンを浸したときに流れる、一滴の涙のように。 ---------------------------- [自由詩]きっと、彼も/la_feminite_nue(死に巫女)[2018年12月30日6時46分] 地上の楽園を探しに行こうと思ったら、  そんなものはないよ、と言われた。 じゃあ、と言って、  Can Doにマフラーを買いに行く。 もう少しお金を持っていたら、  多分、いくぶん高いコートを買うんだろう。 で、ボタンが取れたら、  Can Doに針と糸を買いに行く…… 「108円ですよ」と言うので、  そのうち「110円になるのだろう」──と思う。 地上の楽園を探しに行こうと思ったら、  そんなものはないよ、と言われた。 じゃあ、と言って、  明日、何を買おうかと考える。 多分、雪が降りそうな気配の日に、  この街の楽園を探しに行こうか……。 マフラーは要らない。やっぱり、要る。  きっと、彼もマフラーくらいは欲しいだろうと思う。 ---------------------------- [自由詩]ドレリア/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年2月22日15時33分]  風の種を、冬に播き、夏、嵐を刈り入れる。この平原(ひらはら)はまるで、ユトランドの牧景の様に、野を、素朴の音が渡り、農人達が、獲入(とりいれ)の厳かな儀式を行う。晩鐘色に田の覆われる秋、彼らの仕事は謡いである。虫の声(ね)が、すだき、砕ける。小道は、目を過(よぎ)る彼方の樹林を抜けて、遠く、地平の丘へと続く。黒雲(くろくも)が往く。月は上前に浮かんでいる。唱和(とな)えつつ、風にゆられる稲穂からのように、捧げは尊く、音楽はかすかに鳴っている。……夜着を纏い。外洋へと突き出した、当地(ち)の断崖からは、遐く沖をゆく外国の帆舟へのように、遥か恋人達の心根のように、双つの腕は振られていた。朧な霊(たましい)は空へと昇(あが)った。海浜を移ろいながら、求めつつ過ぎゆく永劫留まり処のない魂は、漂泊の湖上をさまよっていた。眸(め)には黝(くろ)く厳めしい巌の映り。月は未だ照っている。……この夜を賭け。風車(かざぐるま)は巡る。空の空(あお)を移して青い、全き青に咲き乱れる、この花々の丘の頂きに据えられて。衣を剥ぐ、この夜の罪を、一心に葬っている。……ドレリアは未だ俯いている。彼女は今日も黒のドレスを着て、ほの暗い厨房のなかに佇み、歴史家の誤った日々を追想している。衣(きぬ)には膿める紅い血の刻み。……彼女の瞳は、黒に砕ける。既に、この雨夜の夜曲は奏でられない。月は高天を渡ってゆく。ドレリア、この地平が覆われるのはいつか。 ---------------------------- [自由詩]無題/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年3月3日16時51分] 自信をなくしてしまっているのね あなたは 何もかもなくして 捨てられた花束(ブーケ)みたいに道路のうえで 眠ってしまっているのね 眼を開いたまま こんな真昼なのに あなたを恐がって あなたを殺そうとしかけたあなたの想いは ここ 今胸のなかにおさまって 穏やかになって 隠れているの(隠さないで) 煉瓦づくりの心臓(ハート)が 人をよせつけず 人をこわし 人を傷つける あなたは狂暴な恐がりの獣物(けだもの)だった 泥まみれになって 埃まみれになって 罪を犯したがっているのね? 私。私は抱いている あなたを引きとめて あなたを殺さないように あなたが殺さないように あなたが道に倒れないように あなたが死んでしまわないように そして 夜まで あなたを引きとめておくわ あなたがおびえないように あなたが罪を犯さないように あなたが十字架を欲しがらないように ---------------------------- [自由詩]Waiting Girl/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年3月3日16時52分] つまらない朝の翌朝 何もなく 考えたくない 私の頬には きっと アザのような憂いと きっと 果てもない希望とがあるのだね。 分からない 分かることのできない 企まれた理由が いま 私を押して 私を殺して 私を引き裂いてゆく 遠く 巡る 星雲の夜に 天使たちは 七色の光をまいて 舞い降りた そこは荒地 悲しむ者も富む者もない。 音楽がある、 風に転がる石 石 石 砂につまづく 風 風 風 風の下に膝まづく 人 人 人 民は からころ 車を押してゆく 食べ物を売り、食べ物を買って 子供を産んだり 子供を殺したり そんなものから みんな離れて 私は都会 煙草喫って 珈琲飲んで 笑って、黙って。 あざむいて 必死なんか無いって言ってるけれど これだって私たち 人殺しと同じように暗い気持ちで、 泣きたくもなる 未来。 未来なんて無いんだって 果てもなく 絶望して やり場のない手を 自分の手首に持ってってさ、 私 昨日よりは今日悲しいんだ。 切なくても涙も出ないのは 不幸なこと? いっそ戦争が起きればって 願っている 悪魔の私がいる 悲しくても泣けもしないのは 私が冷たいから? そう、冷たいから 別れだって 押し殺したように耐えて来れた。 ドッグ・カラーほどの善意で あの人たちの幸せを望むのは 嘘 嘘だって吐きたくなる とぼとぼと 足音。 靴音立てて なぜか逆らって 激しい気もちを叩きつけても あくまでも都会よ ここ 私だって ジハードの戦士のように 銃をささげ 走っていたってよかったのに ここは 住んでいる街 ただ嘆いている 朝。 ---------------------------- [自由詩]あれが灰色の海であれば/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年8月26日8時51分]  梅雨が割れて、──あの灰色のあたり、あそこから落ちてくるのだろう。靄った街のあいだに。そこここに光、それは人の気配であるのだけれど、私を通過していく。私は薄い闇だけを見ている。グレーの綿。あれが灰色の海であれば、私は天に立って、逆しまに世界を見つめている──ため息と、いくつかの呆れた思い。親なし子のように、水のない海の底を泳ぐ愚かさだけを引き連れて。年月だけが、経ったかのように感じられる? 感じられはしないけれど、たしかに月日は経って。元に戻りたい? 戻りたくはないけれど、なくしたもののことを弔っている。こころのなかに、梅雨、ぽっかりと、空隙があって。世界は湿度で満たされているはずなのに……。あの、灰色のあたり、あそこには、誰か囁きかける人はいるのだろうか? いないのかもしれない。でも、あそこに灰色はあるんだわ、と、そうね。──夕食を食べなかったのが悪かった、夕食の時間だったのに。  ……だから、少し頭が痛むのだろう。誰かの打擲のせいではなくって。誰かの打擲のせいではなくって、海のようにあの灰色があるからなんだわ。  梅雨を恨むすべもない、なだらかに波打つ音を打っている、薄い闇。私を通過していく。焼かれた手紙。グレーの綿。──あれが灰色の海であれば……。 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年8月30日16時29分] かけっこの末に気まぐれに迷いこんだ迷宮。そこでキャンディーをかじりながら、 対角線の夢なんか見てた、それとこれとをつなぐための。 はっきり分かったの。空と海とに境目なんてないと。 ビルと人との間にもね。 ピエロのような月が笑う。死神の杖を抱えて、掲げてさ! 薄暗の迷宮。 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年8月30日16時30分] 人生の灰皿に手が届かない。 わたしって悪あがき、そうじゃない? 視界にはいつもブラインドがかかっている。 だから、いつもおかしな見方をしなければ、物が見えないね。 あなたってのんびり屋のおさぼりさん、いけずね。 本当のことを知っているのに、彼が、話せと言わなければ話さないの。ね。 ---------------------------- [自由詩]凪ぐとき/荒ぶとき/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月2日16時20分]   凪ぐとき…… 風の凪ぐ声がきこえ、 くうきが底にとけ出してゆく。 夕闇という名前のもとに、そこへ、 わたしたちの忘れていた思い出を想いだすために。   荒ぶとき…… どうかお休みを言わせて。 眠れずに嵐の声を聞くのは辛いから、 やさしさと時間を織布のようにこの身にかけて。 どうかお休みを聴かせて。 ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月2日16時21分] あの雲に名まえをつければ、  消えてゆくまえに、あの雲の名をおぼえていられる? ちょうど街の影にかくれてゆく前の、  消えてゆくまえのあの雲に。 赤い、いいえ、朱色、いいえ、オレンジ、  いいえ、グレー。 あの雲に名まえをつければ、  消えてゆくまえのあの雲を憶えていられるかしら。 ---------------------------- [自由詩] 「空とシャツ」または「青とワインレッド」/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月3日17時07分]  おじいさんのシャツは、淡い色のワインレッド。青空の下で、しかめっ面。もしかしたら、そのシャツが似合わないと言われたのかも。気に入って買ったのに、嬉しくて持ち帰ったのに、「似合わないよ」って、言われたのかも。青空の下のしかめっ面は、何層もの花弁を持つガーベラのようで、小さな悲しみが心の表に繰り込まれていく。何が正しくて移ろうのか、何が悲しくて彷徨うのかを、わたしは知らない。あなたの淡いワインレッドのシャツが、あなたの悲しみを濃くしていたの。「どう?」「あなたには似合わないわ」「そんなことないだろう?」「似合っていないのよ」幻は幻。わたしのイメージは青空の下に消えていく。……でも、おじいさん、あなたにもしも伴侶があるなら、あなたは幸せという時間を生きている。軽く触れれば、軽く跳ね返る。軽く叩けば、そっと受け止める。それは、希望。わたしではないものがわたしではないように、あなたではないものもあなたではない。淡いワインレッドのシャツは、あなたの悲しみの色。その理由をわたしは分からない。青空の下で、おじいさんの顔は、クレープ色のガーベラのような、しかめっ面。 ---------------------------- [自由詩]ファンクション/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月4日15時24分]  わ、たし、のここ、ろにそっ、とふれるあ、なたの手はま、るでおおきな木、のこずえにやさし、くかたりかけるそよ、かぜのようでありそし、てあたたかくやがてすべ、てをつつみこむようになに、ごとかをささやきはじめるそ、れはゆめを産むおおきなかじつ、のようでいのちのなかにいのちが、やどるははおやのたいないでのうご、きのようにおだやかにおおくのものを、生んでいくたとえばほしやくもやそらは、なたちのようにそれはうつくしくさいきて、きなわたしのこころにふっくらとしたふくら、みをあたえていくそれでもあなたの手はやがて、わたしをはなれわたしはあおじろいりょうしのう、みにうかぶひとつのほしのようにしずかにおしだま、るくらやみのようにひとつのいさんとしてひとつのこ、とばがのこされそこにはこたえなどないかいとうがしめ、されわたしはわたしへとかえっていくでもわたしのこ、ころにふれたあなたの手はわたしのなかでひとつの、ぬくもりをもちわたしをうごかしたおもいでとし、てわたしのなかにひとつのきずをつくりだすの、だろう生みだされたほしやくもやはなたちは、わたしのそとがわにあってそれぞれがかた、りはじめるあたらしいこたえとしてわた、しがわたしをわすれさるほどつかれき、ってしまっていたとしてもなおひか、りとなってかがやきつづけるもう、ひとつのせかいがそこにそんざ、いしはじめるかのようにそれ、がわたしというげんしょう、なのだとわたしは知りは、じめわたしじしんをう、けいれようとくるし、むそのかていであ、なたはふりかえ、りひとつのこ、とばだけを、つむぎだ、すさよ、なら、と。 ---------------------------- [自由詩]無題/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月6日15時21分] いかで我この世のほかの思ひいでに風をいとはで花をながめむ ──西行 風を嫌う…… 出会いは雨のようなもので、 無常な気持ちのうえに、 さらにはそれを遮る傘の上に、 しっとりと落ちてくる。 風を嫌う。 わたしの求めていた想い、 あなたの求めていた形、 それらが折り合わずに重なる。 時空の中心を巡って。 風を厭う、 わたしがわたしでなかったなら、 あなたがあなたでなかったなら、 わたしは傘を差さず、 あなたも雨のようなものではなく……。 折り重なる、風を厭う。恋う。 目的もなく、意思もなく、 わたしの上に降る雨を無常と、 わたしも呼んでも良いのだろうか。 あなたは呼ぶのだろうか。 風を嫌う。 世界中の花を集めて、集めても、 あなたには敵わないのだろう、 それなら、この雨のすべてが、 あなたの欠片であれば良い…… 風を嫌う。 どうかこの雨を吹き流さないで。 ---------------------------- [自由詩]彼女は、砂浜で。/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月7日18時09分] センスで、感覚する。  あたしのラジオ波のソナー。 リッチ、リッチ。  タツノオトシゴの、   落とし前。 「おまえ、あたしを食べたかったんだろ?」 海の、  開き。   十分に焼いてから、テーブルに乗せて。(乗せて!)  ……。  ……。  ……。 ざわめく、波に飲み込まれて、  愕然とするまま、   ロブスターの、目を見つめる。 ---------------------------- [自由詩]空が空の歌を歌っているのだろう……/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月7日18時11分] 椅子に坐っている。 その椅子は一脚の椅子で、 遠く空を眺められる。 それでもその椅子には二本しか足がなく、 片側にふれれば、わたしが揺れる、 片側にふれれば、世界が揺れる。 あの空の高まりとはつながりがなくても、 わたしは空を見つめている。 わたしすらが空に包まれるのではないかと。 不安定な椅子の上で、 わたしと世界がゆれる。 ぴったり、ひたひたと…… いつかわたしは椅子から立ち上がって、 恋したあなたのことも、世界のことも忘れ、 あの雲と一つとなるのだろう。 そして気相と混じりあったわたしが、 砂地にさされた一脚の椅子に、 かるい思いを乗せる、手紙として。 「わたしはもうここにはいないわ」 「あなたももうここにはいないわ」 「わたしはかつて、ここにいたわ」 崩れることのない一脚の椅子、 決して倒れないそれを、 見守るのは誰なのかしらね? はるか頭上では名前も知らない鳥たちが、 しきりに呼び声をあげる。 「ここへおいで、ここでおいで」 空が空の歌を歌っているのだろう……。 ---------------------------- [自由詩]ku-dan/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月7日18時13分]  件は、ビル街の谷間を人に知られずにさまよう。件を見た者はない。人には見えないのだ。ある者は、件は影だと言い、ある者は、件は光だと言う。かすかに足音が聞こえるだけだ、そう言う者も。誰にも見ることはできないのだから、件に係る表現は、憶測の賜物だろう。件をもし仮に見たとすれば、すでにその者は狂気に取り憑かれている。黄泉のごとき不安の中で、件そのものとなって狂死するのだそうだ。  件は、この世ならぬ者であり、彼の世の者であるのだ。また、件は言葉にすらできないという者もいる。件のことを話していると信じる者は、件の影についてしか言っていないのだと。その件の影すら、件の影の影であるのかもしれない。街の家々と家との間で、建物と建物との間で、路上や地下で、また中空に、件がいると感じられるなら、そこに件はいるのだ。雲のように、彼岸花のように。あるいは、件の影が。自分の手の指先が、茎のように細長く伸びるのを感じたら、自分の口先から風のような音が鳴るのが聞こえたら、中空に無数の透き通った泡沫が現れるのを目にしたら、そこには件の影の影が触れている。あるいは、件の影の影の影が。  件について、一つだけ知られていることがある。それは、件がとても細長い者であることだそうだ。あるいは、か細い腕のように。あるいは、白い絹糸のように。そして、件を最初に見た者が、件について最初に話をした時、件は誰からも見られ得ぬ者となった……。  件は、ビル街の谷間の広いアスファルトの上を、あるいは空中を、人に知られずにさまよう。件のことを知りたいと願った時、人は件の影、あるいは件の影の影、あるいは件の影の影の影に、すでに取り憑かれている。一度知ったのであれば、その「影」から逃れることはできない。件の影に取り憑かれてしまった者は、すべてを「件の影」として話してしまうようになるのだから。 ---------------------------- [自由詩]猫と森の中の城/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月12日18時35分] 森の中で、  みしらないお城をみつけたの。 あたし、にゃあと鳴いて、 しらないお城をみつけたの。  森の中で。 お城のなかにはいると、  籐でできた椅子があって、 あたし、 まるくなってそこで眠った。  猫みたい? どうかしら。  日だまりに日ざしはさくさくと差して、 サブレみたい。 背中にあたたかに触れてくる。  にゃあ。……もう起きなきゃ。 あくびして背のび。  森の中で、 みしらないお城をみつけたの。 籐椅子が日ざしのなかで、  いつまでもきらきらと光ってる。 ---------------------------- [自由詩]雲をこえて/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月20日16時20分] 貴女のはげしい想いを、  わたしのなかにおとしてください。   わたしのなかできえていった、  なにものかがふたたび息吹をもつように。   貴女の大人らしく澄んだひとみから、  するどい顎(あぎと)のさきをつたって、   しなう枝が小鳥のはばたきとともに、  空をうつように、まっすぐに天へとむかって。   とおくの大海原では、死に絶えたにんぎょも、  心の池の中でなら、命をもつのでしょう?   ヒースのしげみ、剥き出しの小岩、  アベ・マリアをかなでる、教会とその鐘、   鈴を、ならしながらゆく馬車、  わだちを踏んで遊ぶこどもたち、   雪のふる夜には、雪にとざされる窓、  あかりの消された寝室には、……細く寝息をたてて。   気づかれぬままに、捨て去られるなら、  神よ、どうか、その応えをわたしに与えて。   舞台や劇場なんて、いらない、  しずかな繰り返しの日々のなかに、   貴女の想いのはげしさとともに、  わたしを縛る、いくばくかの鎖をもとめて、   おおきな声で、もしもさけぶことができるのなら、  そうしましょう、それがかなわないのなら、   銀杏の散りしく秋、躑躅たちが咲きほこる春、  ふと目にとまる心映えのなかに、   ちいさなささやきの歌を。  魂をしずめる、かすかな霊の靴音を。   はばたき、昇華する天使の羽根を。  貴女のながした、幾粒かの涙のような──     [ エミリー・ブロンテのイメージによせて。 ] ---------------------------- [自由詩]木登り/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月20日16時22分] 青いろが、水いろとどんなに似ていても、 空には雲がうかんでいる。   わたしは蜂蜜をとるために登ってく、 ……そう。蜂蜜をとるために、   青いろが水いろとどんなに似ていたとしても、 空には、貝がらのように雲がうかんで、   「花束を手わたした」って、 彼女は言うの。すこしはにかんだ調子で。   「花束を手わたしたの」って。 「誰に?」って、わたしは聞いて、   聞いたけれど、そのままに、瞳をそらしてしまう。 ……誰に、でもいいよね。花束だもの。   空には、貝がらのように雲がうかんで。 わたし、蜂蜜をとるために登ってゆく。   くまのぷーさんのように、ふうわり、 手をかけて、枝をつかんで。   空には、貝がらのような雲がうかんでいた。 「花束を……」って、彼女は、はにかみながら言うの。 ---------------------------- [自由詩]本のお店/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月23日13時14分] タネ・ホカホカの空のした、 キーウィ・バードの本屋さん。 カウリの洞(うろ)にお店をひらいて、 なにを売るの? なにを売るの?   売りきれのない、森の本。 木の葉でできたページをめくって、 「ああ、店員さん。今日も良い天気なの」 「そうね、とっても」   タネ・ホカホカの空のした、 キーウィ・バードの本屋さん。 もうそろそろ、昼の日ざしが、 お店に斜めにさしてきます。   雲が、空にながれていったら、 すこしだけ、涙をはらって、 「ちょっと悲しいおはなしですね」 「ええ、ラヴ・ストーリーだもの」   森の小虫をついばんで、 ──お料理の本、ないかしら? お店のおくには、きっとクッキーや、 いろんなたべもの、隠していない?   店員さんは、よそっぽを向いて、 「ユーカリの葉のしおりはいかが?」 「澄んだすずしい香りがするのね」 「ええ、おすすめのしおりなんです」   タネ・ホカホカの空のした、 キーウィ・バードの店員さん、 キーウィ・バードのお客さん、 そろって、空を見あげます。   雲がまた、ながれてゆきます。 風が吹いて、風が吹きます。 ……タネ・ホカホカの空のした、 ふたりの羽根にさざ波をたてて。   ゆっくり、やわらかな木漏れ日は、 「あれは日時計なのね、きっと」 「ええ、きっと日時計なの」 森の王、タネ・マフタが笑う。   タネ・ホカホカの空のした、 「あれはきっと、日時計なのね……」 「ええ。日時計なの、きっと」 キーウィ・バードの本屋さん。 ---------------------------- [自由詩]塔/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月24日10時35分] やすらかな、静けさと麗しさのかたよりのなかで、 彼はそっと目をしばたいたの。 そうして楽器を叩く。 若い彼は楽器をたたく。   塔のそとでは風がながれ、 落ち葉をはこんでゆく。 湖にしずむ入日になっても、 彼は、ふたたびよみがえったでしょうか……   秋のおわり、冬が生まれる日には、きっと、 ……この塔の外壁にそっても、 光は、ころころと遡ってゆくのでしょう?   うつむいた目を、もういちど見上げるなら、 彼はそうしてまばたきを繰り返す、 飛行船になって。きっとどこかの地平へと。地平へと…… ---------------------------- [自由詩]台風のこども/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月26日18時20分] 台風のこどもが、道にまよって、 たけのこ半島に上陸。 でも、たけのこはじょうぶだから大丈夫。 夜じゅう風がふいたけれど、へっちゃら。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもが、道にまよって、 おさかな湖を通過。 おさかなたちは水の底でびっくりしたけれど、 おとうさんさかなが守ってくれたわ。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもが、道にまよって、 かいこの森によりみち。 かいこたちは桑の葉のかげで、ふるえていたけれど、 雨つぶを素敵なキャンディーだと想ったの。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもが、道にまよって、 ぶどう畑に到着。 ぶどうの実はみんな落ちてしまったけれど、 これはワインにする葡萄なの。いたんでもへいき。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもは、つかれてしまって、 牛さんたちの牧場で休んだの。 牛さんたちは「もう!」って、言った。 台風のこどもも「もうねむいな……」って。   「おかあさんはどこだろう」   台風のこどもは、牛さんたちの牧場で、 すやすやすやって、寝息をたてて。 台風のこどもがしずかになったら、 きっと、明日の朝には世界がきれいになって……   「おかあさんはどこかな?」   道にまよった、台風のこども。 空におかえりよ、空におかえり。 きっと、明日の朝には世界があたらしくなって、 小鳥たちの鳴き声と、空にかえる。台風のこども。 ---------------------------- [自由詩]湯冷め姫/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月27日14時40分] 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 クレモンティーヌはもう年ごろだけれど、 縁談があるたびに破談にしては笑ってて、 「この国の将来はあんたんたるものね!」 とか、からからとした声をあげています。 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 でも髪の毛をすこしカールにしてみたり、 ちょっとだけボーイッシュな口紅にして、 「さあ。わたしは中世の王子だよ、敬礼」 なんて、鏡を見ながら戯曲をえんじたり。 ある日お城の大きなお風呂からあがって、 ほっとひと息ついた、クレモンティーヌ。 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 ときどきは馬にのって竜とたたかっても、 「湯冷めには、わたし勝てるのかしら?」 「ああぜったいにわたし、勝ってみせる」 とかって、好き勝手な勝負をいどんだの。 バスタオル姿で、たぶん3じかんくらい? ストレッチをしたり、テレビを見たりで、 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 クレモンティーヌはやっぱり湯冷めして、 「おしとやかになるには一人じゃだめね」 青じろい顔で、お嫁にいくって決めたの。 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です、 クレモンティーヌはもう年ごろだけれど。 ---------------------------- [自由詩]空から落ちて来る雨に/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月1日20時52分] 希望で照らしてほしいわけでもなく、 絶望から抜け出したいわけでもない。 ただ少し、この不安を減らしてほしい。 空から落ちて来る一粒の雨に、 何個の水素が含まれているかなんて、 わたしは知らなくても良い。 そんなことは今では、 神に代わって科学者が啓示してくれる。 そう。彼らは啓示をする、「これが真実だ」と。 でも、わたしは、空から落ちて来る雨に、 何粒の水素が含まれているのかなんて、 知らなくても良い。 ただ、少しの希望や少しの絶望の埋め合わせに、 ほんの少し不安とは逆のものが欲しい。 それが何か……とは知らなくてもいいから。 ああ、今では科学者が神に代わって啓示をする。 それを真実だとわたしたちは思うように慣らされ、 それを諦めるようにと訓練されていく。 ただ今夜は、 どうかこの雨が少しでも少なくあればいい。 それが幾千、幾億の粒子であろうと。 今日を希望で照らしてほしいわけでもなく、 今日の絶望から抜け出したいわけでもない。 ただ少し、今日のこの不安を減らしてほしい。 わたしは空から落ちて来る雨に、  何粒の水素が含まれているかなんて知らない……   ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月6日12時12分] 打ちっぱなしのコンクリートに、ウサギ模様。 あれは星雲、これは星。あれは星座、これは銀河。 わたしたちの見ているのは、宇宙。 まだ見ぬ宇宙がそこにあると……紫煙の向こうに、確かめているわたし。 わたしたちの見ているのは、一つの宇宙。始まり、そして終わり。 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月6日12時12分] 悲しみが少しだけ減った夜には、 悲しみをプディングにして食べてしまおう。 そうしなければ生きられないのであれば、悪になることは悪ではない。 問題は悪をもって何をなすかなのだ。 悲しみが少しだけ減った昼空にも、星は宿っている。 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月6日12時13分] 死んでしまいたいと思うことは多々ある。 わたしが今住んでいるアパートのベランダからは、 オベリスクのような細いビルが見える。 わたしはその細いビルをわたしの墓標だと思っている。 その細いビルを墓標だと思っているかぎり、わたしは安心していられる。 ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月7日16時45分] ねじばなの咲く土手にすわって、  わたし、むこうを向いていたの。   ローカル線の電車が駅に、  すべりこんで、鳴らす警笛……   ええ。2両しかない電車で、  雲のようにながれてゆく。   線路づたいに、ちいさな笛で、  こどもはさよならの歌をふいた。 ---------------------------- [自由詩]僕は彼女の手を握っていた/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月8日18時29分] 彼女は水色の服ばかりを着ていた。 キャンバスには、青と白の水彩画。 それは何? って聞いたら、 「空」って。 他には何か描かないの? って聞いたら、 「いいえ」って。 低血圧で低血糖。 だから、 彼女は夏でも水色のカーディガンを着ていた。 暑くないのって聞いたら、 「いいえ」って。 僕は彼女の体を知っていたけれど、 彼女が僕を愛したとは思えない。 ずっと、 彼女は僕に弾かれるままに弾かれていた。 僕はまるでピアノを前にしているようだった。 キャンバスには青と白の水彩画。 それは彼女の心のようだった。 そうしていつか、彼女が溶けてしまわないかと…… 彼女が僕のものになった時、 いいや、違う、 僕が彼女のものになった時、 僕は寂寥と悲哀を抱きしめているような気になった。 そして、死に近い何かに触れているように。 彼女はいつか彼女ではなくなってしまいそうに思えた。 いつでも水色の服を着ていた。 空を見上げると、 「わたしね、いつかあの雲に乗りたいんだ」って、言っていた。 そう。彼女ならそう出来るのかもしれないと、 僕は思っていた。 キャンバスには、青と白の水彩画。何枚もの。 彼女の部屋にはそれだけが残された。 僕にとっては、その他のすべてが見知らないもののようだった。 彼女が彼女ではなくなっていくのを、 僕はずっと見守っていた。 いつか二人で歩いた道を辿りながら、 ずっと、ずっと、彼女の手を握って。 彼女が彼女でなくなるのを、僕はずっと見ていた。 「わたしね、あの雲に乗れると思うんだ」 今なら……と彼女は言った。 僕は彼女の手を握っていた。 そうして、彼女が消え去ってしまうまで。 そうして、彼女が、この世界からなくなってしまうまで。 彼女が、ただ一つの楽器になってしまうまで。 彼女が、忘れられた思い出だけの存在となってしまうまで。 僕は……彼女の手を握っていた。 ---------------------------- [自由詩]光纏処女(ひかりまとうおとめ)/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月11日13時49分]  光にむけて祈るあなた、おとなしく、おとなしく、草のようにほほえみかわして吹かれてゆくあなた。海まで望めない草原に、光源のようにひとり淋しく立っているね。  あなた。紫陽花とあざみの花をにぎって、その意味は(独立と、あなたの心はつめたい)誰でもが、そう? 誰でもが、この花のように淋しく冷たいんだって。  悲しく淋しいのだと、涙を流してほほえんでいるあなた。私にはあなたの心がわかります。ソネットのように口ずさまれてゆく旋律(メロディー)。空耳が私にもきこえる。ふりかえることは決してないのですか、あなた?  あなたを呼び醒ますことができる。暗の奥から取り出せる。私は、人間(ひと)がそのように淋しいのだと、真っ白な真昼のなかで呟いています。かたわらを通りすぎてゆく人、何の関わりもないその人たち、彼等はなぜ彼等でしかないのかと?  すこし戦きつつ話すのです。私は、私じしんに。あなたのように切ないぶぶんが(でも、何と美しいのか!)誰でも人の心にある、それはジルバのように歌を唄う。風にのる声にすぎない。それでも私は捨て切れない!  人の心の、淋しいぶぶんのあなた。 ---------------------------- (ファイルの終わり)