◇レキのおすすめリスト 2020年4月25日21時55分から2020年10月25日13時17分まで ---------------------------- [自由詩]高鼾ホラー <たかいびきほらー>/秋也[2020年4月25日21時55分] 障子の向こうに何かいる 警戒 刀を握り締め ぎゅっと体が固まる 怖い 恐い 障子の向こうに 殺人鬼 障子の向こうに 遺体 障子の向こうに 鬼嫁 障子の向こうに ゴキブリ 障子の向こうに 米俵 障子の向こうに 鶴 決して見てはいけません 隣だから怖いんだ だって近いんだもの そうですその通り 今までだって遠くなら何人<なにびと>が困ろうと亡くなろうと あなたに笑顔があったじゃないですか 隔てている 人種が国境が大陸が さあ刀を離して、果報は寝て待て 少し近いけれど障子が隔てているから大丈夫 ずっと大丈夫だったんだから 障子の向こうに 見えない何かと涙だけつたわせる無表情な自分があった ---------------------------- [自由詩]風の強い夕方/三月雨[2020年4月28日18時04分] 風の強い夕方 私が通り過ぎた後ろ 廃棄物置き場で木材の下敷きになった包装紙が ばたばた と騒ぐ 振り返ってもダンボール色をした紙と木材 それと寂しそうな色をした鉄線があるだけ 物音は生き物の気配を期待させる 風の強い夕方、振り返っては 今日もまた、そこに誰もいないことを知る ---------------------------- [自由詩]こころ/ガト[2020年5月20日1時57分] 心は 少し麻痺したぐらいが ちょうどいい 心無いことを言える 心無い人たちがうらやましい 誰かのために あなたのためにって 頑張っていると 溢れ出る涙を見て こんなものいらない と、よく思う   ---------------------------- [自由詩]晴れ間男/クーヘン[2020年6月11日12時12分] 僕は晴れ男にはなれないけど、晴れ間男くらいにならなれるかも。 君が悲しんで泣いてたら、ほんの一瞬くらいなら笑顔に出来るかも。 ---------------------------- [自由詩]教典/ぽりせつ[2020年6月30日7時57分] あの人に先立たれてから ふとぼんやりすることが多くなったが なんということはない あれは 祈りと思えばいい 捧げるものも今更ないから 全霊の無礼を捧げているのだ そう思えばいい ---------------------------- [自由詩]夜の空回り/天竺葵[2020年6月30日10時00分] 誰も見やしねえこんなの 自嘲と過ごす舞台袖 出番の声は目覚まし時計 無理やり自分で幕をあけて 才能の一人芝居 最低の一人舞台 くだらないナイトショー 演者なんてコミュ障 そっと降りたって誰も気づかない そんなこと思いながら今日も 空っぽに演じてる ここからじゃ月も見えない 酔っぱらう街を通り過ぎ 帰りついた家でため息 ひとりごちる「やめたい」が 布団に落ちる明け方 ---------------------------- [自由詩]梅雨明け/TwoRivers[2020年7月7日18時49分] 私は今日も相変わらず わかりやすい罠にはまって 人がいいと思われている 湿度に混入された優しさを 享受できない自分は 永遠の独りぼっち 苔むした墓石の インフレーション 雨夜の長い沈黙に 心が乱れなくなる頃には 空の青さを忘れてしまう 梅雨明けはまた来年 思い出した頃にやってくる ---------------------------- [自由詩]波/wc[2020年7月14日23時33分] 細かな砂利と一緒に寄せ 滑り落ちてゆく 向こう側へ くるぶしまで濡らしては かえすゆらぎ 見上げれば 三角形の それぞれの頂点が 数万年の誤差で 瞬いている ---------------------------- [自由詩]八月/wc[2020年8月1日0時27分] 八月が アスファルトを割り 自らの骨を 苗床に咲く 一輪のうつくしさを 知ることはない はてない野を 踏み出した一歩 素足に残る感触 燃え、骨になり 芽吹く 秘密基地の 八月への便箋は まぶしく、生い茂る セイタカアワダチソウ ---------------------------- [自由詩]報復/飯沼ふるい[2020年8月14日12時07分] 薄墨の夜更けを濡らす雨 花と霞 歩道の影は浚われる 手向けられた明日をやわらに拒む けぶたい描線の重なりあいに コインランドリーは自転する 憂鬱の底に溜まった うろを洗い 心臓の襞に詰まった 言葉を乾かし 屑入れの銀河のなかの 外灯 にひとつ 浮いた怨みがウザいから 食いかけのマシュマロをなすり 蟻にくれる 意味は 尾田に訊け ---------------------------- [自由詩]UNDONE/?原冠[2020年8月14日14時35分] 素晴らしい夜のかけ算。 雑魚寝の朝。 名前も知らない彼らと踊った数時間。 大事なことは何一つ解決しないけど、そこには音楽があった。 見たくないから目を閉じたのに浮かんでくる景色がある。 何かを振り払おうとしたのに湧いてくる感情がある。 平日の夜、やり残したこと。 ---------------------------- [自由詩]またちんちんをさわっているよ/はだいろ[2020年8月14日21時59分] 気がつくと またちんちんをさわっているよ さみしいからだろうよ 何がさみしいかというと あらゆる人の記憶から おのれを消し去ってしまいたいから あらゆる人の記憶から 消え去ったあとのぼくは さぞひとりぼっちでまるで 一本の木のように おだやかなこころでありえるだろうよ だけどだれもほんとうは きみのことなど思い出しはしないのさ きみが誰かのことを ほとんど思い出したりはしないように このようにぼくらはいつも それぞれにさみしいのだから ついまた気がつくと やはりちんちんをさわっているんだよ ---------------------------- [自由詩]夕景/ひだかたけし[2020年9月20日20時19分] 何処か遠く彼方から 子供たちの声響く夕暮れに 缶カラからから転がっていく 風もない 人もいない のに からからからから転がって グシャリひしゃげる 銀の乱反射 無数の記憶の断片が ぱらぱらぱらぱら巻き上がる )ぱらぱらぱらぱら巻き上がりながら )突き抜けていく突き抜けていく )闇色迫る現の向こうに そうしていつしか舞い落ちる 再び缶カラ転がって 彼岸の柔らかな残照に きらきらきらきら煌めいて ---------------------------- [自由詩]月見草のはなびらのようになります/道草次郎[2020年9月22日23時43分] 死にたいとか もう投稿やめて完全に詩を捨てますとか すべてはむなしいとか 疲れたとか そんなことを白紙の紙に書いては消しまた書くそんな自分に嫌気がさして外に出てみた そこには大きな月があった ぼくは生活がしたい 昼、月見草をみただけで信じられないぐらい号泣してしまった かなりぶっ壊れ気味だ 小ぶりの昼顔がやたら綺麗に見えて冥府に誘っているように思えた ぼくはやり直したい このままじゃ死ぬに死に切れない 自分がなんで詩を書くのか自分でもよく分からない たぶんこの人生を否定したくない それだけなのだと思う 月はぽっかりと いつまでも夜を照らし続けていた 死にたい と殴り書きした紙は今ゴミ箱にある 明日の燃えるゴミ日に鼻紙や生ゴミなんかと一緒に捨てられてしまう運命などとは露知らずに ---------------------------- [自由詩]詩の言葉で魂を/ひだかたけし[2020年10月12日21時51分] 夜、寝る前になって やっと止まる原因不明の嘔吐感 医者はばんばん薬を処方し 私はばんばんそれを飲み そうして実は気付いている 吐き出したいのはこの魂だ 上手く吐き出せない現状に 吐き出したくて吐き出せなくて だから詩で吐き出してみる 祈るように唯祈るように 詩の言葉で吐き出してみる )今日の夕暮れは )見事に青い宇宙の夕暮れだったと )道行く銀の車輪の照り返しが )やけに眩しく美しかったと 詩の言葉で魂を、詩の言葉で魂を ---------------------------- [自由詩]月に祈る(改訂)/ひだかたけし[2020年10月23日23時58分] 黄白い 月が 宙に浮かんでいる この夜は 脈動静か 気は鮮明 揺れる 草葉の陰に居て 絶えざる街のザワメキを 浴びて浴びる わたくしが 視界に飛び込む 孤独の実を むしゃむしゃ 食べて 祈っている 孤立と無縁に 陥らぬよう 黄白い月を 仰いでは 宙に向かって 祈っている するといつしか わたくしは 黄白い真ん丸の月となり 上昇していく何処までも そうしてあの温かな 白手に包まれ宇宙渦 揉まれ呑まれて懐かしい 光の場所へ帰っていく メダカと獅子と兎達 ひっそり身を寄せ合って 愛し合い暮らしている あの光の場所へ 帰っていく ---------------------------- [自由詩]恋人と爆弾/ただのみきや[2020年10月24日21時28分] 逆説的 ルイス・キャロルが実在のアリスを愛し物語を捧げたように わたしも捧げたかった わたしも溺れたかった ボードレールがジャンヌ・デュバルの肉体に溺れたように 高村光太郎が千恵子を詠ったように 失くしたものを嘆いて詠いたかった 北村透谷が石坂ミナへ書き送ったみたいに 暮らしで萎れるようなものを大仰に称えることはせず バイロンのように次々対象を変える訳でもなく ディキンソンのように内に秘め 言葉のアイコンへと熟成するまで黙々と しかしわたしは詩人ではなく 誰に恋することもなかった 故にいつまでも詩を書いて 居もしない恋人を探しさまよっている 百鬼夜行 生まれ出るものはほんの一部 残りは澱み 怪異の温床となる わたしの中から言葉を見つめる 無数の無言の目 史実を記した者は残したいことを記し 残したくないことは記さなかった 史実に残らなくても人の心に残ったものは 伝承から伝説へ やがては昔話へ姿を変えた 人は理性に包まれた混沌 美しい包み紙に重きを置く現代の躁鬱 粗末な掛け布からはみ出した古代の分裂 歯車のように仕組みの中で仕組みを捉え 夢の中でも眠りに飢える それでも空は海より深く 深淵を見通す眼差しもあろうかと恐れて 大気中の強迫観念 あなたの皮膚を透かし見る 乳房の奥の宿り木 銀のハサミの首飾り 剥奪された勲章は二次元 影のない真実の猿ぐつわに喘ぎ 東雲に自決した青いほうれい線 財布の紐に絡まったなまくらリアリストたちよ 紙人形のクラブで静かに海を磨け フランス語で煙草を吹かしながら 鍋に落下した空が鶫に変わる頃 トマトソースがピアノを犯罪者に仕立て上げる ジャズは裏口から間男みたいに逃げて行く ジャマイカ娘の髪の中で 蚊のように囁く恋 注射する堕胎が網膜で妊娠する 金庫のダイヤルを回す指先で 明るい液晶のワルツが砂漠に植えた 結び目もない歌詞の秘密と その運用をガスオーブンに隠した 子どもたちの足の裏の嘘 剥げ! 吸血せよ! 大勢死んだ船が出た バッタのように愛はマッチを擦って 貪って悪びれず強情に寄進する 薄くスライスされた思考を透過する ザラメの煌めき 大気は苦い乳首を噛む 立像 高く澄んだ空の水気に酔いしれて 敷き詰められた枯葉は恍惚と光を仰ぐ 黄金の朝 忽然と 群れから離れた若い鹿のように あなたは立っていた あらゆる神秘を内在させた一行詩のように 光はその衣を編み 背の高い影が傅(かしず)いていた 色彩は冷たく沸き立って 美は地獄のように否応もなく わたしの目はあなたを愛した 時は球形 すでに完成されて 人は無限の誤謬へと自らを贄にする 秋という真鍮を鳴らすわたしは透明に溺れ 傍から見れば猿だろう いま蒼ざめた顔が いま蒼ざめた顔が一つ 長い睫毛のような翼を広げて ひとりの男の夢へ降り立った 涙は香料を含む 水底から見上げる波紋 聞えない歌の口形が男をあやしていた 眠りと目覚めの間の逢瀬 朝には黒い灰の花びら 光の中に霧散して 忘れられてしまう一つの顔 幸せ あたたかい鍋物 ――魚介か鶏がいい 美味い酒 ――ぬるめの燗で 魚の刺身 ――すこぶる新鮮な 採って来たきのこ ――どう料理してもいい 広々とした時間 すこし密になった間柄 いい音楽 気軽で 意味深で 興が乗れば楽器に手を伸ばす 気の合うやつらと絡んでみる  良い具合に冗談が回る   キザな台詞も上々に 明日の心配がない 今だけがたわわにある 座り心地の良い豊潤な 今だけが これらは幸せそのものではなく 幸せだったころの残像や残響 器の欠片にすぎない 再び味わいたくて 状況だけは似せようと努力する 悲しいほど自分を魔法にかけて 既に無いものを在るかのように 不思議の国 日常は単調な景色だがそれは 時間をかけて組み上げられたジグソーパズル ふと突然 ぬけ落ちた所が目についた これこそ非日常! 冒険への抜け穴! ――――――落とし穴と呼ぶ者もいる 追記 どこで殺められたか わたしの亡霊が風になり 枯葉を元気に走らせる                   《2020年10月24日》 ---------------------------- [自由詩]一宿一飯の恩義/板谷みきょう[2020年10月25日13時17分] 伊達の喫茶店で唄った後に 店主に紹介されて 火山灰を釉薬にしている陶芸家の居る 洞爺湖に向かった あの時 何か手土産を持って行ったと思うが 何だったのかは覚えてない けれど 当時は千五百円位の地酒を土産に 世話になることが多かったから きっと、一升瓶を 持って行ったに違いない 折角 洞爺湖に来たのだからと 投げ銭欲しさに 汽船の時刻表を見て 上下船する客の懐を当てにして 桟橋で放歌し始めた 行き交う人は大勢居たが 30分毎の運行時間に 追われているように 立ち止まる人は誰一人なく いつしか ボクは洞爺湖の中島に 届けとばかりに唄っていた 結局 ギターケースには ボクが入れていた五円玉だけで 一時間ほどで放歌を終えた 着替え片付けている時に 声を掛けてくれた男性は 近くで木彫りの民芸品を 販売していると言う 流石歌う人は声が大きいねぇ お時間があるなら 店に寄って行きませんか 近くだから 案内された民芸品店は小さく 木彫りの作品が溢れていて 圧倒されていたボクに 奥から引っ張り出してきた 40?程の木彫りのフクロウを差出し 木彫作家は 熊や二ポポが売れなくなって 初めて彫ったフクロウだけど 売り物にはならないから 良かったら貰ってって そう言って包装紙にくるんで 手渡してくれた そんな寄り道をして 陶芸作家のお宅を訪ねた そこでも 火山灰の釉薬を使いながら 失敗した器などの作品を 陶芸作家の名を伏せることを条件に 段ボール箱に三つ貰った そして 翌日、道南に向かって 焼き物を知人のショップ土産にして 車を走らせた ・・・・・・・・・ 木彫りのふくろうは 今も 埃を被りながら茶の間に 置かれている ---------------------------- (ファイルの終わり)