ナンモナイデスの宣井龍人さんおすすめリスト 2016年12月24日13時30分から2021年6月17日23時10分まで ---------------------------- [自由詩]棄てられたモノローグたち/宣井龍人[2016年12月24日13時30分] ? 私は人間ではない 生物でさえない 生きているのに ? 私は一本の直線だった 貴方のことを知りたくて三角形となった 私のことを知りたくて四角形になった いくら角が増えても角(つの)が増えるだけだ 私は円になりたかった ? 今日のご飯も哀しみから生まれました 味付けの振り掛けは涙です お腹いっぱい食べました 私の体は昨日の悲しみで満室です でももっと食べろという声がしました ? 夢にドカドカ入り込んで来たのはつまらない奴やどうでもよい奴ばかりだ たぶん私が土足で踏まれるようなつまらないどうでもよい奴だからだろう つまらないどうでもよい奴は結局つまらないどうでもよい奴というわけだ ? 兎が月夜を飛び越える 夢が野原を跳ねている 私は地を這う亀 夢を見ていては駄目だ 今日も一歩を踏みしめよう ? そんなこと言ってももう疲れたよ と身体が言う でも働かなければ食っていけないよ と脳が言う あんただって指令がめちゃめちゃだよ と身体が言う 脳は苦し紛れに黙り混む 結局みんな反乱寸前だった ? 私は道を1歩1歩踏みしめている 休むことなく昼夜を問わず歩いている 決して振り向くなと言われている それが歩き続けるルールだそうだ だけど私はさっき約束を破った もうどうでもいいやと思ったのだ 足跡などは何もなかった 踏みつけたのは幾人かの苦しみや悲しみ 私は私で多くの人々に踏みつけられている それらの人々はまたより多くの人々に踏みつけられている たぶん幸せは数えきれない苦しみや悲しみの上に咲くのだろう だが頭上はるか高く自由に飛び回るのは無数の鳥たちであった ? 見渡す限り子供達がいません 屋根裏にも床下にもいません じいさんばあさんばかりです お互いのしわはお互いの鏡です 奥歯に物が挟まった同じ顔です 笑い声は一足先に納棺しました 私も名も無い塵達のひとりです ? 長方形や正方形や三角形 汗をかき苦しげに転がっている 床に着くと彼らは夢見るのだ 明日はまるくな〜れ ---------------------------- [自由詩]蟻が十/宣井龍人[2017年1月3日21時28分] 【悲しい酔っ払い】 呑んで呑みまくって酔っぱらう ひどく酔っ払って空を飛ぶ 夜を食らってゆめうつつ 寂しいこと悲しいこと 寂しく悲しいけど全てを忘れて 明日はたぶんまっさらな気持ち 無垢な朝日がまばゆいだろう 【蓄音機】 ギィーギィーと魔法のハンドルを回し 解き放たれた時間の牢獄 忘れられた箱から流れ出す歌人達 古から吸い寄せられた音符は語り 時空と戯れる郷愁を纏う 【1分前の私】 私が私では無いとしたら ここにいる私とは何か 堪らず開けたカーテン 夜の沈黙が忍び込む いつも残る自分の気配 肌に感じながら私は生きる 僅かな先かもしれない 決して得られない僅か 常に、常に… 【不整脈マイハート】 ドキンッ、ドキンッと やたら大きい音がして と思ったら ・・・暫しの沈黙 おいおい、御機嫌斜めかい? 君と一緒にうん十年 ずっと仲良くやってきたじゃない 何?もう一人になりたいって? それは出来ない相談さ 僕もまだちょっとは生きたいよ 僕は運動が苦手だし 君を大切にしてきたはずさ ん?その分メタボで大変? そうかもしれないな これからは気をつけるよ 機嫌を直しておくれ 不整脈マイハート 【同じ時を過ごし】 貴女の目に見えるものは私に見えるだろうか 私の目に見えるものは貴女に見えるだろうか 貴女の耳に聞こえる事は私に聞こえるだろうか 私の耳に聞こえる事は貴女に聞こえるだろうか 貴女の話す事は私に伝わるだろうか 私の話す事は貴女に伝わるだろうか 貴女の肌に私が触れる時に何を感じるだろうか 私の肌に貴女が触れる時に何を感じるだろうか 貴女は私のこころを撫でる事が出来るだろうか 私は貴女のこころを撫でる事が出来るだろうか 【広さと小ささ】 ある時の、そこに、しか、 いる事は出来ない いつでも、どこでも、 いる事が出来ればよいのに 悲しみも、喜びも、もっと、 知る事が出来る 昨日も、今日も、明日も、 貴方の誕生も、死も しかし、私は、今、そこに、 しか、いない 【旅立ち】 一点の光も無い暗闇の中 全ての舞台は整った お前は今旅立つ 誰も見てはいない それも良い お前は自由に旅立てる お前は解放されたのだ 何処へでも旅立つが良い 漆黒の闇に時空を超えて 力の限り大いに羽ばたけ 【目が覚めた人】 赤提灯の千鳥足になりながら朝もやの空気をさまよう人 不可能な深淵にはまり絶望を謳歌する人 人の心を食い尽くしあちこちに自分を増殖する人 嬉しく泣いているくせに悲しく笑っている人 眠りの楽園の出来事を忘れようもなく熱い人 目を擦ってあくびをして出勤する現実の人 落雷を受けて目を覚まし愚痴りながら千鳥足になる人 【虚空の朝】 ビロードの口笛を吹きながら 朝日の優しさに消えたおまえ 妖しくこおりついた夢の中に 魂をむさぼり続けたおまえ ただ瞳に残ったけだるさが おまえの影に吠えている 【風の向こうに咲いた花】 風の向こうに咲いた花 けして近づくことはない 温かく優しい香りが風に乗る 私はそんな花が好きだ 風の向こうに咲けたなら そっと君に香りを送ろう ---------------------------- [自由詩]父の背中(挨拶付)/宣井龍人[2017年3月19日18時11分] 父の背中 53年の背中 もう隙間がないくらい 父の背中 背番号53の背中 数字がぎっしり埋まっている その背中を擦ると 数字がぎしぎし唸り出す 私が石鹸で流せるのは たった一日の疲れだけ 母が魔法使いを生んだなら 若返らすことが出来たでしょう 長かったはずの53年 貴方はやり直すのが相応しい 精一杯背中を擦ると 数字が上機嫌に話し出す 教えてください物語を 父の背中 53年の背中 もう重くなった背中に また数字を加える お久しぶりです。 如何お過ごしですか? 拙い詩ですけど、私の心情が素直に書かれています。 そういえば、こんな話はとうとうお互いしませんでしたね。 もう、この時の貴方の歳をとっくに越しましたよ、お父さん。 それでは、また、お元気で! ---------------------------- [自由詩]青春の記憶(小詩集)/宣井龍人[2017年5月4日12時19分] 【人間になれなかった】 人間になれなかった 野原をひたすらつんのめり 海原を懸命に切り裂いた だが 人間になれなかった 人間はずっと向こうにある どこを走ったのか どこを泳いだのか 時間の中を彷徨ったのだろう だが 人間にはなれなかった 【七頁先の少女】 この身を焼き切るような夏 寒さに震えながら 布団にまるまったとき 七頁先を疑った僕だったけど 一日は確実にひとつずつ捲られ 水に遊ぶ少女の輝きがやってくる この不思議な実感は何だ 同じ絵が同じ少女が 今生まれたかのように 生き生きと語りかけてくるではないか 七頁先の夏がやってきて 七頁前の冬がただ一枚の絵となった こんなとき 春夏秋冬の中に僕をみる 【すれちがい】 おかしくはない、なにも 昨日あった、太陽がなくなり 星たちは、地球の下に、落ちてしまった 今日という日が、燃えている 宇宙に、ひろがって こんにちは、こんにちは それでも、地球人は 起きて、食べて、働いて、寝て この世に、住んでいるから、誰も知らない 【心は】 砂時計の下に埋まり時は死んだ 灼熱の仮面と化した頬を伝わる涙 我が命の息吹 伝えられない心の叫び 微笑にこそ愛は宿り ものに動じぬ心はできる 爪弾くものは何でもよく 流れる愛が欲しかった ---------------------------- [自由詩]青春の小道(小詩集)/宣井龍人[2017年6月17日11時35分] 【街景】 感覚というものに訴えたのは 騒めきの嵐 取り留めのない言葉の流れ 舞い上げられた人間の叫び 雑踏とした街並に咲く 毒づいた偽りの花 もう震え上がった真実を 覆い隠す暇は無い 犯された鋭利な刃物を捨て 心の隠者に化けてしまえ 【風が春を呼んでいる】 風が、人の耳を、コチョコチョ、と擽って ソヨソヨ、という音が生まれた まだ、大地は白い布を被っている 凍りついた雲の涙を、思い出とするには まだまだ、とても寒かった 空は青いが、押し出すようで 白い雲は、縮まることしかできない そして、一人の人間には 無言という木が、立ちはだかった だが、人は、風が、オズオズ、と寄ってきて 春ですよ、と言って、ヒュー、と逃げていく これが春だ、と言って 得体の知れない、球の上に住んでいる 【空間の叫び】 空間の叫びを分解した きしむ水車の声がする 消化された食物の声がする 汚れた水の声がする 倒した森の声がする さまよう価値の声がする 街の雑踏の声がする 冷たい視線の声がする 眠りを妨げた土の声がする 霞んだ空の声がする 太古の生活の声がする 生物の争いの声がする それらは 歴史の扉から飛び出した もはや大地には存在しない 【少女】 僕は貴女とはじめて出会った 限りなく痛々しい傷心の丘で 青々と繁った草原のベッド 悲しみと不安そして悟りの日々 もう僕の瞼に住みついたのだろうか できたら震えた心を優しく閉じてほしい 潤んだ瞳に歓びをあげよう 貴女の言葉となり湧きだしたもの 名もない泉の清らかさにも似て 愛を求めて野原に彷徨う蝶のよう 悲しみを知った花弁のみが知る真実だ 貴女の瞳に静かに宿る安らぎよ 次は何をを教えてくれるのだろう ---------------------------- [自由詩]悲しみ/宣井龍人[2017年7月14日12時31分] 脳界で繰り返される感情のバトルロイヤル ここのところ悲しみのトロフィーでいっぱいだ 私は支配することができず支配されている 悲しみの赴くままにペンを走らせたが 描いた悲しみは悲しみではなかった 塩辛く固まった文字は悲しみではなかった 紙に滴るペン先も悲しみではなかった 私の腕を伝わらない悲しみの生命 遺された悲しみは一滴も溢れてこなかった 悲しみは血液やリンパ液を食い破り隈なく浸透する 私自体が悲しみという生物に成り果てるその日まで 回り続ける来る日も来る日もその日まで ---------------------------- [自由詩]老犬/宣井龍人[2021年3月4日21時12分] 手綱に導かれながらよろめく いつの間にか鉛の靴を履いた 老いに削られ痩せ衰えた体 荒々しい息が吐き出される ひとつひとつ生まれる幻影 熟さず霧散する己を舌で追う 間もなく土に帰る水溜まり 歪み破れた犬が音もせず唸る たぶん 短くも長い時間が経っただろう 風が流れ 老犬は 空を見上げる ---------------------------- [自由詩]今という瞬間/宣井龍人[2021年3月26日14時43分] 私たちは今という瞬間に生きている 今という瞬間にしか生きられない 今という瞬間は常に死んでいく 私たちは今という瞬間に死んでいく 今という瞬間にしか死ねない 今という瞬間は常に生きている ---------------------------- [自由詩]イメージの散らばり/宣井龍人[2021年4月8日20時43分] 硬い言葉より柔らかい言葉を掘りたい 怖い言葉より優しい言葉と握手したい たった今昨日を片付けてきたところだ 荘厳に鳴り響く十二の鐘が埋葬する そして何気なく今日となった明日に袖を通す 幻と現はほとんど隣あるいは入れ替わるのかもしれない その間には錯覚と過信の自分がいるだけだ 老親の背中を流し深い秋 亡き父の背中を追って紅葉散る 目覚めとともに始まる総天然色の夢 眠りとともに生と死の神秘に溶ける ---------------------------- [自由詩]月夜の夢/宣井龍人[2021年6月17日23時10分] 果てしない天海 月は彷徨う 青白い光が染めて 時間の滴をまとい 徐に揺れる波間 海鳴りは語りかけ 吐息が寄り添う 砂浜にひざまずき 一粒一粒を愛でて ふたりだけの砂の城 降り立つ月光の乱舞 見えぬ姿から零れる涙 触れられぬ姿を抱きしめて 遠く目覚めた戦き 深く閉じられた記憶 月夜の城は消えて ---------------------------- (ファイルの終わり)