DFW のおすすめリスト 2019年8月6日16時26分から2019年8月27日20時38分まで ---------------------------- [自由詩]真夏の黄昏/玉響[2019年8月6日16時26分] 風に乗り 真夏の匂いが立ち込める黄昏時 草葉に注ぐ夕日と影 蜩の声は空(くう)を舞い琴線に伝う 目に映るもの 聞こえる声 とり巻く全てのものに心惑う夕暮れは 束の間 平和だった幼い頃を思い出す 心に映る夏の日は  今も色褪せることはなく 儚くも穏やかな風景は 時間を超え鮮やかに甦る あの頃はまだ畏れや憎しみなど知らず ただ眩しい海のように 澄み渡る空のように 何もかもが自然体だった 思い出に少し胸が痛むのは 歳を重ねる度に大切な何かを失い 身も心も虚飾に塗れた所為かも知れない それでも 昔に戻りたいとは思わないが 不意に真夏の匂いを感じた瞬間 せつなさの波が押し寄せる やがて 季節は移ろい 水平線の彼方に夏の欠片を見送ると 蜩の声は鎮まり 陽射しはやさしく変化する そして 秋の足音が近づく頃 私は周りのガラクタを処分して 旅の支度を始めるのだ あの頃のように あるがままの自分を受け入れ 身一つで 自然に還る日のために ---------------------------- [自由詩]さよなら/短角牛[2019年8月8日0時02分] 夢から醒めた 夢を見てた あなたの夢だよ 悲しくて 弾けるように 窓を開けて 都会の朝 吸い込んだ 夢を見たくて 夢から醒めて あなたはいないよ 寂しくて 子供のように 見ないふりして 都会の中 逃げ込んだ 恋をしたくて 恋に恋して 愛に震えて でもやさしくて 抱きしめたくて 恐れもあって 一人の日々 忘れて 手を振るあなた つかまえたくて 逃げ水みたいに 届かない さよならだよね 楽しかったね また朝が始まるね ---------------------------- [自由詩]なつのいちばん平なところ/はるな[2019年8月8日10時46分] なつのいちばん平なところへ わかい鳶がよりそって 切り裂くようにとびたったなら さんざんひかりに照らされて 得体をなくしたさびしい熱が 誰か誰かと呼んでいる 正直なものが高くとび、 嘘つきものが飛ばないならば ひまわり畠をぬいとって、 やさしいかげへはいろうか。 そうしてふたりひとかたまりの たいらな土になったなら あさってに来る大きな雨に ながれて夜にかえろうか。 ---------------------------- [自由詩]神さまの背中/秋葉竹[2019年8月9日1時53分] 街灯の下で 佇んで 気づけば乾いた眩しさ スマホを みても ボンヤリと 息をしてる あっちへ行けって 開放感 が髪の毛の頑なな過去を ほどいている 髪、乱している修羅場を さっき見終えたから 土曜日は休みたい、わりと ゆっくりと、ゆったりと、 あの喫茶店で 好き って告られて モーニングで飲んでた コーヒーゴクリ パンにアンコ、甘すぎだって なまえ知らない、ただ甘いだけ 真夜中の あなたの声が今になって 染みてくる、なんて バカなわたしを 見て? ねぇ、夢みて だれかを見て じぶんをかえりみず一晩あけたら 満月はいなくなって良かったって 幸せ、って、なに? って、ため息をつく 嘘を待つ心をおぼえはじめて 大人になったのだと勘違いするのか 忘れられない記念日、 ばかり増やすのは この身朽ちるまで 次の恋など ないと信じて この右手を 空に透かす 透きとおる 眩しさの 中に煤けたのは 神さまの背中だったっけ? ---------------------------- [自由詩]今日もまた、明日もまた/ひだかたけし[2019年8月9日20時37分] 今日も空は青かった にこりともせずただ青く 無限の沈黙のうちに それは在った 今日も私は無力だった 宇宙の虚無に耐えかねて あなたにあることないこと 喋っていた 今日も黄昏は優しかった すべてが名もなき闇へと帰ろうと 自らの無垢をさらけ出すとき 在るもの一つ一つの輪郭が 光彩を湛え浮き上がっていた 今日もまた、今日もまた 明日もまた、明日もまた ---------------------------- [自由詩]わたしは/こたきひろし[2019年8月11日3時24分] わたしはわたしを いちばんに思う人だから いちばんにしか 思えない人だから わたしはわたしが大切にするものを 失いたくないものを 全力でまもりたい わたしは 時に正義を口にするけれど それは自分を美化したいだけで けして正義に参加したい訳じゃない わたしにとって 書くという行為は 自分の正体を暴露するためのもの なのだ しかないのかもしれない そうする事で わたしはわたしの危なげな内面のバランスを たもっているのに 過ぎないのかもしれないのだ 要するにわたしは 馬鹿で阿呆で どうしようもない人間なんだ 朝 洗顔と歯磨きをしながら 洗面台の前の鏡を覗きこみ そんな思いを痛感している 愚か者なんです 果たして わたしの明日はどっちだろう 方角がわからない わからない わからない わからない わからないのです ---------------------------- [自由詩]一欠片のひかり/長崎螢太[2019年8月11日15時41分] ひかりのつくり方は だれも教えてくれない 水の配合を間違えたことで 白く霞む朝に きみの浅い微睡みは 錆びたダイヤモンドのように 美しく堕ちていく レースをまとった瞳の透過は いくつかの色を失っているだけで 直すことは 難しいことではなかった しかしそれは 欺瞞かもしれない ほころびて弛緩した寝室に いくつもの抜け殻のような夢が 横たわっている ニスで塗り固められて硬直した朝を おしこめる そこから パラパラと捲れて落ちていくのは 昨夜の幻想だったのだろうか 冷え切ったダイニングキッチンのすえた匂い いっそこのまま カーテンを永久に開けなければいい ひかりのない部屋のなかで 換気扇の音だけがやけに響く 願わくば わたしたちの夜明けの方向が 澄みきったひかりへ繋がればいいと そんな 一欠けらのひかりに とどいたら ---------------------------- [自由詩]砂漠のともしび/秋葉竹[2019年8月12日15時04分] 君の幸せは、もう、静かな心臓へ帰るといい。 夜間飛行のともしびが、 寒い砂漠の夜空に灯るといい。 君の笑顔は、もう、私の部屋から出て行けばいい。 そこで砂漠の闇のような心と言葉は、 ゆっくり休息を取り、解体されるといい。 そして そうね 歌うわ あいも変わらず愛にこだわる人の透き通った嘘、 生きる意味すら見失ったあとの諦めた瞳たちも、 人生最悪のキスシーンのように、歌うの。 なにも 期待せずに 艶めかしい女の人の 白く、細く、長い、指の姿を おもい描いてしまうことが、 すべてのよこしまな肉体の 悲しみであると告げられたから。 こころ奥ふかくに埋もれる 淫らな清純を語るといい。 そして望みは あの花のようにするどく香ったのに、 心が望むより先に、肉体は諦め 大慌てで私を抑え込むのだ、ただし、 ストイックにキスしなかったやせ我慢を この胸深くに後悔しながら きっと死ぬまで思い返しながら。 君の幸せは、もう、静かな心臓へ帰るといい。 君の笑顔は、もう、私の部屋から出て行けばいい。 そして そうね 歌うわ ---------------------------- [自由詩]闇と孤独(改訂)/ひだかたけし[2019年8月12日15時54分] 闇の重みがぐんにゃりと 魂に激しく切迫し 私の意識は朦朧として 呻きながら覚醒する 真夜中の病棟にただ独り 呻きながら覚醒する ハッと息を呑むこの瞬間、 孤独が生きて立ち上がり 私は宇宙に晒され震え (たった一人でたった一人で) この鉛のように無表情な 闇の重みに耐えている ---------------------------- [自由詩]この夏に捧ぐ/ただのみきや[2019年8月13日15時05分] 熟れた大気をすっぽり両の腕(かいな)に収め 瑞々しい空白に奏でる命の揺らめき 絃を断つ蝉ぽつり また ぽつり 生の祭りの一夜飛行を終え 塵と積もる羽蟻 さらさらと風 山葡萄の花の匂い 悠久の面持ちで足早に過ぎ 窓枠の中を鴎がすべる 鮮烈な一瞬が 最後の持ち物となる 善くも悪くもない女神は 生命で身を覆い尽くした 半開きの扉 入口とも出口とも見え 光と影が互いに濃く寄り添った そんな日は 生の分だけたわわな死がある               《この夏に捧ぐ:2019年8月13日》 ---------------------------- [自由詩]盆/末下りょう[2019年8月13日20時40分] 買っておいた胡瓜と茄子に割り箸をさして 精霊馬をつくり 朝の玄関に置いた 、 いつからなのか サンダルの隙間に しろい腹をみせてころがる 蝉の死骸を拾い リウマチの指を思い出す 夕方に貰い物のそーめんを茹でて ザルで洗い水を切り きみに電話する 言葉を見捨てる準備はできていた 見捨てられる準備だったかもしれない 出会ったときには整っていた それを日々忘れていった 偶然に あるだけの氷を敷き詰めたガラスボウルに そーめんを流し入れる 今朝 精霊馬をつくったとき折っておいた割り箸を 平皿にいくつかのせて 迎え火を焚く ---------------------------- [自由詩]水の音/山人[2019年8月16日8時45分] 憎しみも   羨望も落胆も 今は山道の腐葉土やゴミムシの糞となって ころがしておこう 葉がはかすかにさざめき 木の樹皮はなめらかにひかり 木漏れ日はさらさらと山道に塗されて 山道を歩く人の耳には 清楚な心音の様な水の音が聞こえている 蝉は命の末端にとどまり 頑なな夏の入道雲に酔い 自らの腹の音に酩酊し続けている 冷ややかな湧き水のその周辺に霧が生まれ よどんだ現実は少しづつ剥離していく まちがいのない無欠な透明水の香りが 山道を包む わざわいの群れの中で かすかにひかる心の音(ね) 回りくどい生命の年月が その水音で いっとき癒される ---------------------------- [自由詩]夜明けがくる前に/こたきひろし[2019年8月16日23時00分] あたしが まだ赤ちゃんだった頃 産んでくれたかあさんの乳房は あたたかい海のようだった あたしが まだ赤ちゃんだった頃 とうさんは ただの一人の男の人だった あたしがまだ赤ちゃんだった頃 オムツを濡らすオシッコや オムツを汚すウンチは 夕映えの空のようだった そんな中で あたしは すくすくと育った 訳じゃない バランスの捻れた 心とからだは 愛情に飢えて いたと思う あたしには 反抗期なんて なかったと思う いつの間にか 反抗する相手を見失っていたから ただただこの世界に従順なだけの めっちゃ 可愛げのない女子になっていたんだ そして あたしは成長し ある夜に をんなになったんだ もしこの世界に 異性が存在しなかったら あたしはずっとずっと 美しい少女の ままでいられたかもしれないのに それは あたしの とうさんが あたしのかあさんに 初めてしたように とても綺麗な儀式だった そうやって あたしも 好きな人と いったいになれたんだ だけど それはあたしの錯覚 その錯覚に 酔いつぶれて 何も見えなくなっただけ いつだって あたしは 夜が明ける前に 目を覚ましてしまうのが 癖のように繰り返されてしまった 切ない習慣のように繰り返して しまった ---------------------------- [自由詩]八月の折り目/末下りょう[2019年8月17日19時33分] チャリのストッパーを跳ね上げた音が 八月の折り目に 鋭めに響いて バイバイした 終わりが始まりに触れようとして、外側を内側に折り込み 内側を外側に折り返して発達する八月に沿って いくつもの指先が やみくもに闇を吸い込みながら 左右に激しく揺れ 折り目をひらき 、また折り目を折り重ねて だまし船を鶴に折りなおすように 花束を折る すれ違う電車の窓明かりに横顔を照らされて モルモットのようにペダルを漕ぐ 星屑が並走する金網の向こう 崩れた花壇でカシャカシャ回るセルロイドの風車が 夜風から脱輪する 遠くの パトカーか救急車か シェルターの サイレンを 追って 帰りはいつも できることならあなたの涙を目蓋で握りしめて無言で立っていたい けど、その代わりといってはなんだけど まるめて捨てやすい しわくちゃの花束を贈る 笑ってくれるうちは ---------------------------- [自由詩]ゼリー/クーヘン[2019年8月18日12時15分] 幽霊は容易く夏を越える。 水色のゼリー、たったの一つで。 ---------------------------- [自由詩]蝉時雨(改訂)/ひだかたけし[2019年8月18日13時31分] ミンミンゼミの蝉時雨 窓ガラス越し物凄く 気が遠くなるよな濁音の渦 彼らはひたすらに生きている 僕らが時をやり過ごすとき 彼らは命を燃焼する 僕らが虚空を覗き込むとき ミンミンゼミの蝉時雨 窓ガラス越し物凄く 気が遠くなるよな濁音の渦 どろっと溶けて虚空を震わせ ---------------------------- [自由詩]坂だらけの街/ただのみきや[2019年8月18日16時59分] 独居美人 託児所の裏の古びたアパート 窓下から張られた紐をつたい 朝顔が咲いている 滲むような色味して 洗面器には冷たい細波 二十五メートル泳ぐと 郵便物の音がした 気がしたが 「今日も人っこ一人いない 逃げ遅れたのはわたしだけ 」  (ぜんぶ気のせいよ )       ――お人形が笑った 付箋 何冊もの本や資料に貼られた付箋 色とりどりに飾られて頁はお祭り騒ぎ なにがそんなに大切だったのか なぜ大切だと感じたのか  付箋を外せば その他大勢 どれも群衆に紛れて見分けがつかない 大脳皮質の蟻 岩場の苔を歩きまわる蟻一匹 ジャムの空き瓶に捕らえ 曇り空の蒸し暑い日 円周率を拾いながら わたしは坂を上り切って立ち眩み どこまでも壜は転がって加速した すきとおった密閉 めくるめく天地の回転移動 蟻は来世を想う 間延びした 時間は反物(たんもの)みたいに絵柄を展開させ 猫と少年 坂の多い港町のひび割れた路上の真中寄り 今朝の空と似たうすい灰色の猫がまどろんでいる 腹ばいになって前足を人みたいに傾いだ頭の下 時折 車が通ると慌てるでもなく ふと顔を 上げて 確認し また目を瞑る  時の流れが逆なでにならない姿勢と仕草 しなやかさを保ちながら 向かいの建物の陰から 素早い身のこなしだが まだ 線の細い そっくりな二匹が 寝ている猫に ちょっかいを出したか 甘えたか 三匹の猫は路上の気流を少し掻き乱す すずめたちのお喋りは離れた場所で続いている それでも不快な所まで車や人が近づけば 止まっている近所の車の下に三匹とも潜り込む 珍しくもない風景に見入っている だが 懐かしさを感じるのは既に珍しい風景だから ペットか野良かの区別もなくただ見つければ 舌打ち鳴らして呼び寄せ撫でようとした 子供の頃を遠く 眺めていたが ――船の汽笛の響き すっかり見失ってしまった 少年と猫                  《坂だらけの街:2019年8月18日》       ---------------------------- [自由詩]カウントスタッフ/末下りょう[2019年8月20日21時20分] カチカチ 歯と鳩 カウントマシーンが音をたてる 台風がそれた朝の まだ肌寒い堤防によせかえす波をカウントして ガラスの水滴を震わせて回る数字 鳥と虫とドローン 飛行機をみつけては指で隠す を繰り返して パンくずを啄み終えた鳩が 反復されない一つきりの反復につぶされそうなすれすれを 風下のほうに飛んでいく 繰り返しあらわれてくる最大数のかたさに カウントが響くたびに そこここでほどけていくものたちが襟足に触れて 風下のほうに去っていく カチカチ 数字が回るたびに 青さを増して 空と海の区別が消え入るところから 距離は生まれてきて きらきら静止する沖を優雅に泳ぐ 果てしないいきものがターンすると 波のはじまりの音が冷えた耳におくれて届き 夏の終わりの仮説はそのつど立てなおされる 波際ではしゃぐ 砂まみれのチビたちの 濡れた指のすき間が潮風を孕み 生まれるころ溶けたはずの水掻きがシャボン玉のように形成されて 幼い瞳のなかへと海が還っていく 羽を休める渡り鳥のような まぶたにそっと仕舞われて カチカチ まだすこしかたい数字が 波飛沫に濡れたカウントマシーンの ささやかな記録に消え入りながら? 永遠を呼んでいる ---------------------------- [自由詩]美しいものが/こたきひろし[2019年8月21日23時42分] おにヤンマを捕まえて その片方の足に糸をくくりつけて 飛ばした それは ほんの遊び心だった 子供の頃の 無邪気だったから その残酷さに 何も気づかなかった そうこうしている内に 大人になってしまった 毎日は 時計回りに 過ぎて 去っていく それに逆らって 生きてはいけなかった どこまでも 臆病で弱虫だったから ある日 街で 公衆電話ボックスを見つけた まるで化石みたいに忘れ去られ 取り残されていた いきなり 激しい雨が降ってくる 雨を 強風が煽ってきた 公衆電話ボックスに 僕は逃げ込んだ 街は たちまち洪水に飲まれる 僕は公衆電話ボックスから 抜け出せなくなった 公衆電話ボックスは みるみうちに 水槽になってしまった 洪水に沈んだ街は 美しい絵画のように なってしまった それは地獄を写し取っていた なのに 救いの手は 何処からも延びて来なかった それは絶対的神の ほんの無邪気な遊び心 かもしれなかったから その時初めて 僕の中の時計は 逆さ方向に 回り出していた 溺れていく僕は 視力だけは 失わなかった 街は僕の妄想の中で 美しく もがいていた ---------------------------- [自由詩]潮騒/立見春香[2019年8月23日5時19分] うれしくてうれしくて とてもさみしげな青空を背景に ひとりバカみたいに 笑ってる とおい記憶をたよりに あの海へ行けるのか 子どものころなんども行った あの夢の中 のろいなど きいたこともなかったあさに すなはまに お城をつくった いまのわたしなら アクマにタマシイをうったって 笑っていられるわ あのお城は 夕闇のなかでも 消えずにいたけれど かげがね、 なくなると とけるように 消えてなくなったようなきがする うそつきがすきよ とてもさみしげな半月をみあげて そんなうそもついてみる 潮騒が 消えるこどくを また 生まれいずるこどくを しりたいと ---------------------------- [自由詩]夕立、止んで/AB(なかほど)[2019年8月23日19時41分] 蝸牛 ひとつふたつと 数えつつ 昨日の 夢へ降り来る光 九品寺より材木座に向かい ほどなく波が見えて もう秋のにおい 天道虫 ふたつみっつと 数えつつ 明日の 夢へと還る光 ---------------------------- [自由詩]悲しみの中に/印あかり[2019年8月24日22時28分] 綺麗にしてたつもりなのに 悲しみの中に蜘蛛が湧いた わたしは掃除機をかけた ただ、黙って、掃除機をかけた ---------------------------- [自由詩]悪魔の囁き/こたきひろし[2019年8月25日7時13分] 悪魔の囁きをきく事がある て 言うよりか 私の正体そのものが実は悪魔で 普段は人間の囁きに耳を傾けながら 生活していると言うべきなのかも しれない 当然 私の中では たえず悪魔と人間が絡み合って 辛味あっていたりするのだ 具体的に それを文字にしてしまうと 私の人間性は著しく損壊していると見なされ 社会から排斥されかねないので 保身と保守を優先している 私は私の女体の卑猥を隠避するために 清楚と清潔を絶やさず 化粧を欠かさない 私は 美しいケモノになっている 優秀な遺伝子に狩られる為に ああ娘よ 成長したお前を直視できない俺は 上に掲げた詩の一編に お前を括ろうとしている ---------------------------- [自由詩]自分が産まれたのって、いつだっけ?/こたきひろし[2019年8月25日23時36分] その産声も周囲の空気を震わせて その場に居合わせた何人かの鼓膜に音を伝えたに違いなかった その時の周囲の人間の喜びと安堵がどれ程のものであったかと想像しても、すべては遥か昔話だ 本日、選ばれたこの佳き日に 私は私の命の糸に鋏を入れられる もうすぐだ 思い残す事をあげたら、 数限りある それをここで いまわのきわで 申し述べる余力はありません もう 自分の誕生日さえ 思い出せないしだいです 意識がだんだんに薄れて、とても眠りたい気分です せめて最期は 雄叫びでもあげられたら 見送ってくださる皆様の 鼓膜を振動させてあげられるのですが 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彼女はあおさの味噌汁を気に入って毎朝飲んだらしい。 ---------------------------- (ファイルの終わり)