DFW のこたきひろしさんおすすめリスト 2019年3月31日10時19分から2019年5月19日10時00分まで ---------------------------- [自由詩]最寄りの駅から/こたきひろし[2019年3月31日10時19分] 最寄りの駅から電車に乗る。自宅から車で七八分の距離に最寄りの駅はあった。JR線沿いの市街。 地方にはどこにでもありそうな駅周辺の風景。 車は近辺の有料駐車場に停めた。 どうせなら自家用車で東京へ行けばいいのかもしれないけれど、首都は車のドライブが不向きだ。都内は道が複雑過ぎて迷う。一度迷ったら収拾がつかなくなる。第一停める場所がない。あっても駐車料金がバカだかい。 過去に何度かチャレンジして酷い目にあっているので流石に学習した。 東京は電車でいく所だ。地方出身者で地方に生活の場を持つ身としての結論である。 俺にとっても妻にとっても東京は棲むところじゃない。たまに遊びに出掛けていく所だ。 それ以上でもそれ以下でもない。 大都会の風景はテレビの映像から垂れ流されている。大都会の暮らしはドラマを見て疑似体験。したくもない。 宝くじが買いたい。 年末になると妻が口に出す言葉。 籤なんて当たらないよ。 それがいつも返す俺の返事。 そんな事わからないわ。買わなければ当たらないのよ。 と妻に返されて、お金が勿体ないよ。と、結論を俺は急ぐ。 すると妻は、お金で夢が買えるのよ。と応酬する。 俺はなぜか、夢が買えるのよと言う言葉に弱い。 家のローン後何年あるだろう。お金で夢が買い、もしも現実になったら借りた金はいっぺんに返済し充分お釣りが来るだろう。 夢を買いたいから東京へ宝くじ買いに行こうよ。 妻が目を輝かせた。 そこで俺は言った。 夢を買うにしても近場でいいんじゃないか? それには妻が反論した。 ダメよ東京でなくては、有楽町の西銀座でなければ駄目なの。 その日。夫婦は最寄りの駅から電車に乗った。上野迄は二時間くらい。各駅止まりの普通電車に乗った。 夢を買うのに特急も急行も贅沢だ。 俺にとっても妻にとっても東京は棲むところじゃない。 ---------------------------- [自由詩]ネット詩人は/こたきひろし[2019年4月8日1時17分] 風俗以外の女性は知らなかった。 不潔かな。欲望が一人で歩き出したら抑えきれない。男子の体の仕組みはそうなってる。 そんな時は誰にも迷惑をかけられないからマスターベーションで欲望を鎮める。 不潔かな。自慰だけではどうしても充たされないから給料が入ると夜の街に出掛けた。 理屈ではどうにもならない本能の欲求だ。 世の中には女子に好かれてセックスに不自由しない男子とその反対が存在する。 これは揺るがない事実だ。 公平ではなかった。不公平の極みである。 先天的な不公平である。俺はその不公平に悩み苦しまなくてはならなかった。 そんな負をかかえた男子に女子はいたって冷淡であるのが常だ。選択肢から容赦なく外す。 当然、恋愛と性的対象から除外する。 除外された俺の行き場は風俗しかなかった。 いたって自然のもたらす流れだった。 不潔かな。 勿論、俺は不潔で汚い存在だから女子は嫌うのだが。 ここで明確にしなくてはならない。 俺は詩人じゃない。インターネットに言葉を垂れ流している俗物だ。 美しい魂なんで持ってないし、人格に優れてもいない。 しいて言葉にするならさ迷う欲望の隕石だ。 その内どこかに激突して砕け散るさ。 ---------------------------- [自由詩]人の口を数えても/こたきひろし[2019年5月4日7時57分] 上級詩人の奏でる言葉に 聞き惚れる そんな時代もありました 昔は僕のこころも美しく澄んでいましたから 今はすっかり皺がはいり 皺のなかに埃が溜まって 上級詩人の奏でる言葉に 耳が反応しなくなってしまいました それにしても 人の口の数に等しく嘘が吐かれて 歓楽街の電飾の看板にさえ飛び散っていますよ そんな夜の街でお酒を飲んだら 際限なく酔ってしまいました 職場の同僚たちと懇親を深める為に飲んだ酒に 我を失ってしまいました それから一人で場を抜け出し街中をさ迷い歩きました 歩き疲れた頃に足を止めて そして一軒の店の重たげな扉を軽く開けました すると仕掛けられた鈴が鳴って いらっしゃいませ という女性の声に  はしたなく性欲望を刺激されました 酒の魔力に体が女性を欲しがるのは男性の本能だと思います まるで暗い海底に落とされたような照明の店内 それはどこの酒場にもありがちな演出でした 若い女性店員がカウンターの隅の椅子から立ち上がるとおしぼりを手に近づいてきました 店内に客は誰もいませんでした 僕がその日初めての客だったかもしれません 女のこは髪を長く伸ばし背中に垂らしていました 見た目に水商売に相応しくない顔立ちをしてました 控えめな化粧と清楚な服装に体を包んでいました 僕は 真っ先に何でと思いました 酔いが一度に覚めてきたのです 鶴ですね と僕は思わず言っていました 「綺麗な湖に降り立っている」 えっ?何ですかいきなり 彼女は聞き返し不思議そうに僕の顔を見ました あんまり君が可愛いから初対面なのに言っちゃった 僕が答えると お客さん上手ですね 彼女は言いながら僕におしぼりを渡してくれました カウンター席に案内されてすわるとカウンターのなかには正装した男の人がいました いらっしゃい ここは初めてですねと言われ 僕は緊張して頷きました 男の人はすかさずに言いました ケイコの事気にいってくれたみたいですね 遊びなれていない僕はストレートなものの言い方に何も答えられませんでした 何だかコールガールの売り込みみたいに思えてしまいました 実を言うとあの子は私の姪なんですよ 昼間はちゃんとしたところで勤めていて 夜ちょっとだけ手伝って貰ってるんです まだ慣れてないから上手くは相手ができません 今は奥でかわきもの用意してますから出来たら横に座らせますよ と口にして「何を飲みます?」聞いてきました ビール下さい と僕は言いました そして聞きました「ここは二人だけですか」 もうすぐ二人来ますよ 二人ともちょっと年はいってるけどね 気立てはいいです 彼女がかわきものといっしょに現れて僕の横にすわったから 心臓がドキドキしてしまった 僕は聞いてみた「マスターの姪なんですか?」 聞いて同時にカウンター内の男の人の顔をうかがっていた それから彼女の顔に視線を移した ええと言って間をおき おじさんです と彼女は返答した それから何度もその店に僕は通った 下級詩人にもなれない僕は下手くそな恋愛の詩を 書いてしまう羽目になり そして段々に嘘がメッキみたいに剥がれるのを感じて勝手に失恋した ---------------------------- [自由詩]眩しくて一瞬前が見えなくなった/こたきひろし[2019年5月5日0時21分] 夜道 突然何かがヘッドライトに浮かび上がった 猫だと直感した 避ける暇もなくブレーキを踏む間もなかった 瞬間、タイヤが踏んで ぐしゃり 鈍い感触があった が そのまま通り過ぎてしまった ごめん ハンドル握りながら思わず声に出してしまった ごめん ですむわけがない もしかしたら もしかしなくても 後続の車のタイヤに連続して轢かれたに違いない どうかした? 誰に謝っているの? 助手席の女友達が訊いてきた 彼女は何も見ず 気づいてもいない様子だった 若者は咄嗟に答えを飲み込んだ 何でもないよ 気にしないで そんな嘘を口にしてしまった 若者の頭のなかは一つの事でいっぱいだった 車は国道を走っていた 一刻も早く車をモーテルに停めてしまいたかった そして女友達をどうにかしてしまいたかった それはお互いが口には出さないけれど暗黙の了解があると 勝手に決めつけていた 猫の生死に関わってなどいられない 猫の生死になんて関わってなどいられない のだ ---------------------------- [自由詩]自慰/こたきひろし[2019年5月12日6時24分] ブレーキがまだついてなかったに違いなかった 人間を制御するブレーキが 人前を憚らず 女のこの幼児が自分の下着の中に手を入れて触っていた 恍惚の表情を浮かべながら 若い母親は立ち話をしていた 僕の母親と 二人は話につい夢中になって気づいてなかった それはほんの短い間だったかもしれないが 一瞬に濁流となって私のなかに流れ込み その後の私を支配した 小学校にあがったばかりの私だけがそれを見ていた そしてその時女のこは僕の方を見ながらしていた 女のこの母親も 私の母親も共に農婦だった 真夏の昼下がり 二人はいい色に日焼けしていて汗をかいていた 私の母親と違い 女のこの母親は都会から嫁いで来ていて その均整のとれた体と美しい顔立ちは 農家のお嫁さんには異質だった 私は小学校低学年ながら その母親から発散されていた 女の人の性の芳香に刺激されない訳にはいかなかった すべては遠い日の記憶たったが 鮮明に刻印されていた 私は あの日あの時の光景を思い出して 性的興奮し 何度 自慰をしただろうか あの淫靡な空気が脳裏に蘇り 絶頂に達した時 脳内に分泌される麻薬の成分がもたらすと言う快感 は 癖になってやめられなくなった そこには 人間の愛なんて存在しない 本能に導かれた 獣の世界 は 神が与えた 生き物のよろこび しかし それは人として どうしても隠さなければならない 条理 だけど 極めて自然な行為 何一つ恥じる事はない ---------------------------- [自由詩]母親は俺の顔も名前も忘れた/こたきひろし[2019年5月16日0時41分] 施設の部屋を訪ねると 縦長の狭い部屋にはベッドが二人分縦に並べられていた 殺風景で閑散としていた部屋の中には それぞれのベッドの側に簡易の便器が置かれていた 部屋の中に立ち込めた臭気が鼻を刺激した 入り口に近いベッドには知らないご婦人が横たわっていた 私と妻がドアから入るとその人は目をあけている様子がうかがえたが反応は感じられなかった 私の母親は窓際のベッドに寝ていた が 窓の外側に見えていたのは隣の建物の壁だった 老婆は眠っていた 老醜をこの世界に存分に晒して その姿はまるで生きるしかばね かもしれなかった 起こさずにこのまま帰ろうと 私は思った 折角来たんだから と 妻が言った 母さん 私は声をかけて静かに母親の体をゆすった すると目をあけたが、 誰? と言う顔で私と妻を見た だけだった そしてふたたび目を閉じた 私はその時携帯をボケットから出してカメラ機能にした 母親に向けてシャッターを切ろうとして妻に制止された 制止を振り切って連写した それから妻を促し 素早く部屋を出た 施設から外に出ると 昼下がりの空は青々と晴れ渡っていた ---------------------------- [自由詩]死んだ後の世界 生まれる前の世界/こたきひろし[2019年5月19日10時00分] 神々の涎の一滴から人間は誕生したらしい なんて 何の根拠もない噂が巷にながれていた 俺はそのころ旅の商人 毒蛇の 乾燥した肝を売りながら 旅していた 肝は行く先々でよく売れたが 売り切れたりはしなかった だから 俺の旅はいっこうに終わらなかった 神々の涎の一滴から人間は誕生したらしい なんて 何の根拠もない噂が巷にながれていた 私は そのころ旅の娼婦 おんなの春を売りながら 旅していた 体は行く先々で よく買われたが いっこうに若さは失わなかった だから 私の旅はいっこうに終わらなかった 神々の涎の一滴から人間は誕生したらしい なんて 何の根拠もない噂が巷にながれていた 俺はそのころ 道端に蔓延る雑草だった 道を行き交う旅人を眺めがら 埃を被っていたが いっこうに枯れなかった ある日 病気の野良犬が 俺の上に倒れて死んだ 日向で野良犬は腐り やがて骨だけになった 神々の垂らす涎が 幾多の生き物も誕生させたらしい 何の根拠もないけれど ---------------------------- (ファイルの終わり)