ひだかたけしのおすすめリスト 2020年5月18日21時18分から2020年5月29日12時32分まで ---------------------------- [自由詩]小虹/秋葉竹[2020年5月18日21時18分] その堤防は黄昏に 染まる海の静かな波の音に つつまれていた おだやかな心象風景のなか ふたりだけが 迷っていた それは 爽やかな夏の音楽が 昼間は鳴り響いていたから? でも、どんな夢も どんな風に吹かれても やって来る未来は なにも変わらないものね 心は、 凍りかけ、 心は、 凍らない、 それを、 繰り返す、 えんえんの悪夢が頭の中で 黄昏の僕をあざ笑う 油まみれの両手で 黒く汚れた灰を掬い上げて 嫌がる君のほおを ツーッ、って、撫で上げてみたい そこで汚れた涙の雫が なによりあたたかい 小虹を呼ぶかもしれない それは、 けっしてないといいきれない 未来の希望の光が輝く、 惑星や星屑を 信じることになるかもしれない そんな堤防の上に立って 暗闇の海をわかろうとする やさしさに つつまれて いた つみびとが背負った諦めと脆弱の夜に ふたりだけが けんめいにたえていた じゆうにできない 《震え》を 抱きしめながら ---------------------------- [自由詩]なんだかつめたい夕暮れがきて/はるな[2020年5月18日22時33分] そうこうするうちに なんだかつめたい夕暮れがきて、 影たちがふれ合う 街は灯る 日々は揺れ そこかしこで蓋がひらかれる 完全な夜がどこにもない まぶたの裏にも スカートの中にも 話し合いたい と思う けれども 語る夢も ないままに 朝を迎える ---------------------------- [短歌]性交/ブッポウソウ[2020年5月19日11時21分] 挿し入れてしばし抽送のち射精無に継ぐ無なり死に継ぐ死なり ?そがたとえ何十糎あったとて貫けはせぬ触れられもせぬ? セックスを鉄骨と言いかえてみるハローグッバイきみと鉄骨 ---------------------------- [自由詩]色覚半半/秋也[2020年5月20日21時10分] 朝起きて カーテンを開ければ 片目の右は色を失い 半分白黒 週刊少年ジャンプ55ページみたい 左から右 スズメバチが私の視界を横断する 鮮やかな黄色の体躯 右に移れば 腹の濃い黒と薄い部分がやや白く 縞模様美しく 世界の美しさは失われていなかった 安堵とともに 濃いめの紅茶を飲もう 味覚も聴覚も正常だ スズメバチの羽音は遥か遠くに ---------------------------- [自由詩]空が落ちてる/かんな[2020年5月20日21時34分] 名前が 水たまりに落ちてて のぞくと君が宿った 空のひろい方を 私は知った ---------------------------- [自由詩]朱色青磁/朝焼彩茜色[2020年5月20日23時02分] アラームの数分前に目が覚めるのは 朱色青磁って名前の守護霊のおかげだということに 人生で初めて気づいた 睡眠中にアイデンティティフィルターの書き換えと 朱色青磁との作戦会議をしている 二人だけではなく 他にも色たちは沢山存在する そう 地球がビー玉くらいになる あそこまで色彩が連なる トランプを切るように 昼と夜と光と闇が切れてゆく 階段をひねったDNAを道のりにして 進んでゆく ファンタジーだなと思う皮肉は禁句だ 朱色青磁は私の潜在意識の中で生まれた 過去に気の合った友達 テレパシーは私がまだ使えないので よく数字で見せて来る 数もその組み合わせも 気からできている 宇宙語のようなものだから とゾロ目疲れさせてくるほどだ 時代が回転がかわっていくよって どうやって生きこなしていくか 不思議なものが府に落ちて来る 常に 懐かしいという感覚が肩に在る 私に何を見せようとしているのか 私は何が見たいのか 潜在意識のカフェで 和装で座っている朱色青磁 その二色を司っている モチーフを私は知っている ---------------------------- [自由詩]はじめに言葉があった/こたきひろし[2020年5月21日0時01分] 言葉には 口から出る言葉と 思いや考えを文字に託す言葉 以外に 口には出せず 口には出さず 日記にも残せない 残したくない 言葉を持っている 人は生きているあいだに 死ぬときまでに いったい幾つの言葉を声音にし いったい幾つの言葉を胸の牢獄に閉じ込めたまま殺してしまうだろう 言葉は時に 人と人を鎖で繋ぎ そして時には その鎖から解放する 生まれて初めて発した言葉は 誰もが言葉にならない 言葉だった 瀬死に横たわる寝台の上で 最期に発する言葉を 果たして私は声音に出せるだろうか その時薄れていく意識のなかで 言葉は荒野を駆け巡り 高く高く高く遥か高くへとかけ登り そして見えなくなってしまうのだろうか はじめに言葉があった ように 終わりにも言葉はあるに違いなかった ---------------------------- [自由詩]カウントを取るにはビートが染み込んでいなければならない/ホロウ・シカエルボク[2020年5月21日22時06分] 指の強張りの理由は不明だった、時間は渦のように暴れながら不均一に流れ、少なくともここからでは確認することの出来ないどこかへ静かに落ちて行った、午後になってから隠れた太陽は結局そのまま今日の役目を終え、昨日までとはまるで違う少し肌寒い夜が訪れた、いつの間にか暮れていた空を見つめながら俺はひとつの啓示を得た、日常とは、覚悟を求めることのない変化―それが本当はどんなものについて話しているのか、俺自身にも釈然としなかった、日当たりは悪くないがカーテンを閉じたままのこの部屋では、一日中蛍光灯が明かりを落とし続けている、いつでもなにかペテンにあっているような気分が消えないのはもしかしたらそのせいなのかもしれない、あるいはそれはいまいちばん早く用意出来るもっとも安直な結論というものなのかもしれない、本当の理由はいつだって落とした硬貨を拾うようには手に入れられないというわけさ、朝からずっと同じ音楽が流れ続けていた、その日特別聴きたかったものというわけではなかった、ただ、それを何かと交換する理由がなかったというだけのことだ、特別なこだわり以外はだいたいそんなふうに進行していく、これは理解しておいて欲しい、時間は、基本的にはどぶに捨てられるためだけに歩みを止めないでいるのだ、二度と取り戻せないものだからって、すべてがかけがえのない時になりうるはずもない、言い換えればそれはつまり、俺たちは無駄の中に放り込まれているということになる、そしてそれには覚悟は要らない…けれどその流れの中でなにかしら、明日を迎えるための理由を手にしようと思ったら、覚悟がないことにはやっていけない、人生とは矛盾するものだ、整合性など自己満足に過ぎない、ぴったりと合う結合部位など世界中探しても見つからない、だから様々なギミックのもとにある程度の誤差は容認される、もう一度言う、整合性など自己満足に過ぎないよ、それは草ぼうぼうの空地を見て、「誰かがこれを刈らなきゃいけない」と結論しているようなものだ、それは何の解決にもならない、まるで正論のように思えるけどね―正解とは結果として成り立つものでなければならない、世界はだんだんとそのことを忘れ始めているみたいに見える、けれど俺はそのことを忘れることはないだろう、そうして無数の無駄の中を潜り抜けて来た、だからこそ人は何かを手にすることが出来る、俺はまだそれを手にすることは出来ない、けれど切符を手に入れるくらいのことは出来ているはずだ…勘違いして欲しくない、俺が欲しいのは現実的な、あるいは庶民的な成功のことではない、それは俺自身の新しい場所に過ぎない、俺自身が俺自身のままで、どこまで行くことが出来るのか、俺が知りたいのはいつだってそのことさ、訳も分からず手を付けたことが、訳も分からず惹きつけられた何かが、回を重ねるごとに見えてくる、回を重ねるごとに霧が晴れてくる―それは昔考えていたこととはずいぶん違うものだし、もしかしたら昔考えていたこととは段違いに大きくなっていて、そして見え辛くなっている、でも俺は確実にそれが何なのかを理解している、去年死んだパンクスがこんなこと言ってたよ、「抽象的なものに対する抽象的な断定でもいいわけ」俺の言ってることって要するにそんな風なことさ、北に向かう人間はそこに何があるのかは分からないまま北極星を見つめ続けるだろう、例えるならそんなふうなことさ…指の強張りは次第に薄れていき、俺の手は自由になった、そんなこと滅多にないんだけどね―眠る前に何かを書かなくちゃいけない、そんな衝動は不意にやって来る、一日のうちで何かが消化しきれていない、それを促すためには脳味噌を少し派手に動かす必要がある、普通のやり方じゃ駄目だぜ、だって普通の人間じゃないからね、それが電流なら圧を上げなければ、それがアンプならボリュームを上げなければ、それが炎なら油を注がなくちゃいけないのさ、トランスさせて、肉体的に正直なところから溢れ出るものをひたすらタイプするんだ、それが俺の覚えて来た芸当であり、真実さ、だから並べられる言葉に意味なんかあまりない、それよりも大事なものがいくつもある、ストリート・アートみたいなもんさ、そこに描かれてる内容よりも、そこに描かなければならなかった衝動自体がテーマなんだ、これはあくまで俺個人がそう思ってるっていうことで聞いて欲しいんだけどさ、表現っていうものは衝動でなければ有り得ない…インテリが机の上で理屈をこねくり回して作ったものには何の意味もないよ、だってそこには心を動かす素材なんかひとつもないからね―ああ、紳士淑女諸君、気を悪くしないでくれたまえ、俺は、知識に頼ることはない、俺は、経験に頼ることはない、俺は、主題や、心がけに頼ることはない―俺はいつだって、それを残そうとする俺自身であろうとするだけのことさ、それって凄く大事なことだぜ、だって、自分自身であって初めて、人は何かを語ろうとすることが出来るってもんじゃないか―? 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