こたきひろしのla_feminite_nue(死に巫女)さんおすすめリスト 2019年9月8日18時17分から2019年10月11日13時49分まで ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月8日18時17分] 木の葉が揺れて、ささやく時、 お前には嵐のような心が似合うのだろう。 遠くで、音と響きとが聞こえる。 恋歌のようにはかなく、仄暗く、 星々の瞬く海空(そら)に 街は落ちてゆく、 時とともに歌声は消えて。 淡く、ささやく、白く、碧(あお)く。吐息は潰(つい)えて、 泣くことも、嘆くことも、秒針の中にまぎれて。 ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月8日18時19分] 雨を待っていた空は、 虚ろな木の洞が幼児のように見つめている。 誰かが通り過ぎた導(しるべ)の道を、 誰かがまた轍として辿っていく。 赤子のように、空は祈っただろうか。 それとも、悲嘆にくれる女のように泣いたのか。 通り過ぎる雲を愛しい恋文のように思う、 地が天上を目指して星を追っている。 ---------------------------- [自由詩]夜笛/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月10日14時41分]  夜笛は声なき者の声を聞き届けるのだという。つまり、夜笛を奏する者は、声なき精霊の声を耳にすることができるのだ。夜笛は月の光によって作られているという。それは、下弦の月がわずかに傾いた時に得られる、月の光の雫の結晶だ。声なき者の声とは、宵闇に打ち沈んでいくすべての心映えだ。そこには怨嗟の想いもあり、憧れや怒りも含められている。精霊とは、一種の天の声なのだろうか。天とは人の集まりのことだろうか。夜笛には様々な想いが宿り、十色の心が散りばめられる。夜笛が現れるのは、幽玄の夜と決まっている。カキツバタの咲く野に、奇跡のようにふいに現れるのだ。夜笛を手にすることは誰にでも出来るものではない、私は夜笛を未だ持っていない。。カキツバタの咲く野には、夜笛を受け止めるための何かがあるのだろう。かつてから今まで、夜笛は幻の存在だった。夜笛を手にした者も、あるいは狂気に憑かれ、夜ごとに薄闇のなかをさまようことになる。夜笛の奏でる幻樂は、危険な音色なのだろうか。静かな狂気に包まれたものなのか。夜笛の響きは人の心を安らかに包み、眠りに誘うような静穏をもたらしてくれる。……夜笛は一種の奇跡なのだろう、あるいは人という連なりのもたらす血の言伝だ。ある宵にふいに訪れた夜笛は、ある暁に忽然と消え失せる。一瞬のはかない夢。夜笛は、それ自体が幻のように、人から人の手を渡り歩く、それ自体が生命を持っているかのように。かの笛の音色を聞いた者は、かすかな幸福感に包まれたまま、人としてのその姿を失っていく。人という枷から逃れた時に、彼らもまた精霊の一種となるのだろう。生きるということは賭けのようなものだから、雲間に煌めく一瞬の光は、はかない月の祈りそのもののようでもある。明滅する魂の閃光。夜笛は、それ自体が一つの謎として、カキツバタの咲く野に今も現れることを待っている。 ---------------------------- [自由詩] エミールとアリサ/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月10日14時42分]  アリサは言います、「わたしは、わたしのことが知りたいのです」。それに対してエミールは答えます、「人は人の役に立つために生きている、自分のことを知ることは二の次だ」。それに対してアリサは反駁します、「人と人とはつながっています。自分を知ることは、他人を知ることにもつながるのではありませんか」。それに対するエミールの答えはこうです、「今はインターネットの時代だ、完全な個人などというものはないんだよ」。アリサはめげずに言い返します、「個人が集まって社会はできるのでしょう、わたしのことを知らなければ、他人を知る足がかりにもなりません」。エミールは頑として答えます、「他人を知ることから、自分のことも見えてくる、君はまず他人を知らなくてはいけない」。アリサは言います、「その他人の中に、わたしもいるのでしょう、あなたにとってわたしは他人です。あなたの中には、わたしという女が一人見えているはずです」。エミールは言います、「それは僕も分かっている、しかし、自分と他人とのあいだにはたしかな境界があるのだ」。アリサは答えます、「あなたはさっき、完全な個人というものは存在しないと言いました、あなたの言うことは矛盾しています」。エミールも反論します、「社会というつながりのなかで、自分自身を保つということも定めの一つだ、人は自分に責任を持たなくては、社会というものは成り立たない」。アリサは言います、「あなたは社会のことを第一に思っているのですか?」。エミールは答えます、「そうだ。社会がなければ個人は存在しえない」。アリサはつぶやきます、「たった一人で生きている人というのもいるのでは?」。エミールの答えはこうです、「それは原始というものだ。人は社会を形作るようになって進歩したのだよ」。アリサはなおも抵抗します、「それでも、わたしはわたしを知りたいのです、まずはあなたのなかにいるわたしを知りたいのです」。エミールは残酷に突き放します、「僕のなかにいる君は、とても小さな存在だ。君のことを思うよりも、僕はまず一番に社会のことを考える」。アリサは尋ねました、「ある人を含まない社会というものは存在しますか?」。エミールは答えます、「存在する。一人の人が欠けても、社会は社会だ」。アリサは反駁します、「あなたはやはり矛盾している。わたしを含まない社会を広げていけば、あなたを含まない社会、彼らや彼女たちを含まない社会もできてしまうのです」。エミールは言いました、「それでもやはり社会は存在する」。アリサは言います、「あなたは、あるもののなかにないものを見ています。ないもののなかにあるものを見ているのです」。エミールは答えました、「そうだ。あるものはない。ないものはある。それが社会というもののあり様なのだから」。アリサは悲しげに言いました、「わたしを知るということは罪なのですか?」。エミールは答えました、「君は、永遠の罪のなかに閉じ込められるだろう。僕は、永遠の解放のなかで社会というものを知るのだ」。アリサとエミールはともに死すべき存在としてあり、いつかこの世界から消えるでしょう。白鳥と百合の花だけがそれを知っているのです。 ---------------------------- [自由詩]晦い花園/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月10日14時43分]  おぼろな夢のような世界の中に、花たちが咲いている。それは花園なのでしょうか。コスモスとか、グラジオラスとか、季節も異なる花たちが、いっしんに一度に咲き誇っている。その中に私はいて、──いいえ、私ではないのでしょうか。私ではなく、私の母親とか、私の恋人とか、私の姉妹とか、そうした者がそこにはいて、花たちを見つめているのでしょうか。コスモスやグラジオラスが、一度に咲く花ではないことを知っています。それらの花たちは、同じ季節に咲く花ではないのです。でも、その花園の中には、コスモスやグラジオラス、ヒヤシンスなどが、まるで等しい世界の中にいるかのように咲いている。そこは重なりあっている世界なのかもしれません。だとしたら、私は──いいえ、その人は、死の中に住んでいるのでしょうか。それとも、生き疲れて死の世界へとさまよいこんでしまったのでしょうか。苦しむことができなくなった時に、人は生きるのを止めるのだとも言われています。だとしたら、その人は死の淵にある人なのでしょう。生と死も、そこでは重なり合っているのでしょう。コスモスは秋に咲く花です。グラジオラスやヒヤシンスは、春や初夏に咲く花たちです。時間のない世界があるとしたら、そこでは、生きていることと生きていないこととは等しいでしょう。その人は、私でもあり、私でもないのかもしれません。「ようやくここに来たね」という言葉が聴こえてきたとしても、私は振り向かないでしょう! 私にはまだ苦しむ力があると思った時、夢のようなおぼろな世界は消えていきます。そうして取り残されるのは、現実に生きている私、苦しんで、苦しむことを拒んでいる私なのです。何もかもが矛盾しない世界、何もかもが矛盾していることが矛盾しない世界というのがあり、花園を包み込んでいるのです。それもまたより大きな世界の中の一つであり、私たちには考えることのできない、受容と衝突が同時に行われている。そして、花園の中に投射された一個の影絵として、私たちは一枝の葉を見ているにすぎないのです。ようやく立ち上がって歩き出すその人が、手をふりながらこちらを見つめました。かつて私であった私が、死者となってこの花園の中にいて、一人歩き去っていくのです。淋しいとも悲しいとも感じない私は、生きているのでしょうか。これが生きるということなのでしょうか。コスモスやグラジオラス、ヒヤシンスは、何の影なのでしょう、憐憫と愛情に満ちて咲いています。この花園の中に道はありますか? 道がなければ、花たちの間をかきわけて進んで行きましょう。その人は、歩いていくでしょう…… ---------------------------- [自由詩]ノースポーリア、ノースポール。/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月11日16時32分] ノースポーリア、ノースポール。 ノースポーラがノースポーリンと、 ピクニックに行ったとき、 ノースパウロは丘のうえで焚き火をしていたよ。 ---------------------------- [自由詩]本を開いて本を閉じる/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月11日16時33分] 本を開いて、 本を閉じる。 むかいの席の奥さんと、ふと目があったなら、 あのひとは、わたしが辞めた会社にあとから入ってきたひとの、 知り合いの親戚の家族の友だちなんだわ、 きっと。 だから電車のそとを風景だけがながれてゆく。 ひかりはまばたきもせず。 本を開いて、 本を閉じる。 眠りたい目が、そっと瞳をあげたら、 どこかで「おはよう」とささやきながら、 飼い犬の首輪についた鎖を優しく引いている手。 ---------------------------- [自由詩]impression/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月11日16時34分] ロベリアのブランケット。 花びらは葉につつまれてねむる。 ベランダの日ざしのなかに置いたら、 みつばちのためのコンポート。 ---------------------------- [自由詩]autumn/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月12日18時34分] 秋の落ち葉のあいだに、  アスファルトの道がある。 そのあいだ、そのはて、  遠くからビルの波は連なっている。 後ろ向きに見つめても  何も見つからない道を、 わざと後ろにふりかえって、  あなたは落ち葉の道をゆく。 後ろ向きに見すえても、  何も見つからない小道を、 アスファルトのうえを、  彼の女は過ぎてゆく。 花時計が正午を照らし、  雲が永遠を束ねている。 ビルの波は連なって、  美しくも醜くもないと、そっと囁き。 あなたは遠く、千里もはなれた場所から、  ここへ、それから、やがてあちらへ。 鏡に映った影を、  子供が見ている。子供が見て…… アスファルトのあいだに。  道はあるかしら……? 千里もはなれた場所から、  あなたは後ろをふりかえって、 ---------------------------- [自由詩]猫と森の中の城/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月12日18時35分] 森の中で、  みしらないお城をみつけたの。 あたし、にゃあと鳴いて、 しらないお城をみつけたの。  森の中で。 お城のなかにはいると、  籐でできた椅子があって、 あたし、 まるくなってそこで眠った。  猫みたい? どうかしら。  日だまりに日ざしはさくさくと差して、 サブレみたい。 背中にあたたかに触れてくる。  にゃあ。……もう起きなきゃ。 あくびして背のび。  森の中で、 みしらないお城をみつけたの。 籐椅子が日ざしのなかで、  いつまでもきらきらと光ってる。 ---------------------------- [自由詩]僕たちは風の援軍となる/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月13日13時20分] 風の通り道に、僕たちはいたんだ。 僕たちは風の援軍で、 風は僕たちのことを気にも留めなかった。 ああ、イチョウの葉が散ってゆく。 僕たちの小さな小さな逞しさは、 彼ら(風)にとっては微々たるものだった。 風は、僕たちを素通りしてゆく。 ああ、イチョウの葉は僕たちを置いてゆく。 僕たちが悲しみを忘れ去るまで、 風は僕たちの周りを廻り続けるだろう。 そこに僕たちの切なさの影を置きながら。 ああ、僕たちのイチョウの葉よ、希望よ。 僕たちが淡く胸に秘めている思いを、 風は気にしない。風に意識はないのだから。 僕たちの反映としても、その野太い 唸りだけをあげて、イチョウは去ってゆく。 風は僕たちを残してゆくんだね、きっと。 風は僕たちの悲しみを見ないのさ、きっと。 そして、僕たちの慈しみをきっと見ているんだ。 いつか生まれる命よ、ああ、イチョウの葉。 僕たちが大きく腕を振る時、宇宙は振動して、 それは無限へと向かって波を立たせるのだそうだ。 風はその無限を優しく愛撫してゆく。 ああ、イチョウの葉が散ってゆく。 大人になった僕たちは、悲しみを忘れ、 成長(おお)きくなった僕たちは、優しさを捨て去り、 ただ風の援軍となる。補給部隊のように。 ああ、小さなイチョウの葉に込められた思い。 故郷(ふるさと)の街並みにも屹(た)っていた、僕たちのイチョウの樹。 彼らが奏でる無音の旋律こそが、 僕たちに今そっと頬を寄せ、たぐり寄せる。 ああ、小さなイチョウたちの呼び声が聞こえないか。 僕たちはただ風の援軍として生き続けられる。 そうして神がいるのならば、届いてほしい。 どうかこの風が、嵐にはならないようにと。 ああ、僕たちは風の援軍となる。イチョウの葉はそれを見ずに去ってゆく。 ---------------------------- [自由詩]雲をこえて/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月20日16時20分] 貴女のはげしい想いを、  わたしのなかにおとしてください。   わたしのなかできえていった、  なにものかがふたたび息吹をもつように。   貴女の大人らしく澄んだひとみから、  するどい顎(あぎと)のさきをつたって、   しなう枝が小鳥のはばたきとともに、  空をうつように、まっすぐに天へとむかって。   とおくの大海原では、死に絶えたにんぎょも、  心の池の中でなら、命をもつのでしょう?   ヒースのしげみ、剥き出しの小岩、  アベ・マリアをかなでる、教会とその鐘、   鈴を、ならしながらゆく馬車、  わだちを踏んで遊ぶこどもたち、   雪のふる夜には、雪にとざされる窓、  あかりの消された寝室には、……細く寝息をたてて。   気づかれぬままに、捨て去られるなら、  神よ、どうか、その応えをわたしに与えて。   舞台や劇場なんて、いらない、  しずかな繰り返しの日々のなかに、   貴女の想いのはげしさとともに、  わたしを縛る、いくばくかの鎖をもとめて、   おおきな声で、もしもさけぶことができるのなら、  そうしましょう、それがかなわないのなら、   銀杏の散りしく秋、躑躅たちが咲きほこる春、  ふと目にとまる心映えのなかに、   ちいさなささやきの歌を。  魂をしずめる、かすかな霊の靴音を。   はばたき、昇華する天使の羽根を。  貴女のながした、幾粒かの涙のような──     [ エミリー・ブロンテのイメージによせて。 ] ---------------------------- [自由詩]手毬唄/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月20日16時21分] 柿の木ひとつ、実をつけた 柿の木、風にゆられます   柿の木ふたつ、実をつけた 柿の木、雨に濡れてます   柿の木みっつ、実をつけた 烏がそれをついばんで、   柿の木よっつ、実をおとし 栗鼠がきて、口にくわえたよ   柿の木いつつ、もう実はないの? 柿の木むっつ、もうすこし   柿の木ななつ、実をつけて 柿の木やっつ、山の背に   柿の木ここのつ、木の葉のかげに、 柿の木とうとう、十の実よ   柿の木、とうの実をつけたとき、 柿の木の枝が鳴りました   通りがかりの百姓さんが 薪にしようと切り倒し   柿の木の、切り株や もう実をつけることはないのね   柿の木の、切り株や もう実をつけることはないのね ---------------------------- [自由詩]木登り/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月20日16時22分] 青いろが、水いろとどんなに似ていても、 空には雲がうかんでいる。   わたしは蜂蜜をとるために登ってく、 ……そう。蜂蜜をとるために、   青いろが水いろとどんなに似ていたとしても、 空には、貝がらのように雲がうかんで、   「花束を手わたした」って、 彼女は言うの。すこしはにかんだ調子で。   「花束を手わたしたの」って。 「誰に?」って、わたしは聞いて、   聞いたけれど、そのままに、瞳をそらしてしまう。 ……誰に、でもいいよね。花束だもの。   空には、貝がらのように雲がうかんで。 わたし、蜂蜜をとるために登ってゆく。   くまのぷーさんのように、ふうわり、 手をかけて、枝をつかんで。   空には、貝がらのような雲がうかんでいた。 「花束を……」って、彼女は、はにかみながら言うの。 ---------------------------- [自由詩]本のお店/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月23日13時14分] タネ・ホカホカの空のした、 キーウィ・バードの本屋さん。 カウリの洞(うろ)にお店をひらいて、 なにを売るの? なにを売るの?   売りきれのない、森の本。 木の葉でできたページをめくって、 「ああ、店員さん。今日も良い天気なの」 「そうね、とっても」   タネ・ホカホカの空のした、 キーウィ・バードの本屋さん。 もうそろそろ、昼の日ざしが、 お店に斜めにさしてきます。   雲が、空にながれていったら、 すこしだけ、涙をはらって、 「ちょっと悲しいおはなしですね」 「ええ、ラヴ・ストーリーだもの」   森の小虫をついばんで、 ──お料理の本、ないかしら? お店のおくには、きっとクッキーや、 いろんなたべもの、隠していない?   店員さんは、よそっぽを向いて、 「ユーカリの葉のしおりはいかが?」 「澄んだすずしい香りがするのね」 「ええ、おすすめのしおりなんです」   タネ・ホカホカの空のした、 キーウィ・バードの店員さん、 キーウィ・バードのお客さん、 そろって、空を見あげます。   雲がまた、ながれてゆきます。 風が吹いて、風が吹きます。 ……タネ・ホカホカの空のした、 ふたりの羽根にさざ波をたてて。   ゆっくり、やわらかな木漏れ日は、 「あれは日時計なのね、きっと」 「ええ、きっと日時計なの」 森の王、タネ・マフタが笑う。   タネ・ホカホカの空のした、 「あれはきっと、日時計なのね……」 「ええ。日時計なの、きっと」 キーウィ・バードの本屋さん。 ---------------------------- [自由詩]台風のこども/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月26日18時20分] 台風のこどもが、道にまよって、 たけのこ半島に上陸。 でも、たけのこはじょうぶだから大丈夫。 夜じゅう風がふいたけれど、へっちゃら。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもが、道にまよって、 おさかな湖を通過。 おさかなたちは水の底でびっくりしたけれど、 おとうさんさかなが守ってくれたわ。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもが、道にまよって、 かいこの森によりみち。 かいこたちは桑の葉のかげで、ふるえていたけれど、 雨つぶを素敵なキャンディーだと想ったの。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもが、道にまよって、 ぶどう畑に到着。 ぶどうの実はみんな落ちてしまったけれど、 これはワインにする葡萄なの。いたんでもへいき。   「おかあさんはどこかな?」   台風のこどもは、つかれてしまって、 牛さんたちの牧場で休んだの。 牛さんたちは「もう!」って、言った。 台風のこどもも「もうねむいな……」って。   「おかあさんはどこだろう」   台風のこどもは、牛さんたちの牧場で、 すやすやすやって、寝息をたてて。 台風のこどもがしずかになったら、 きっと、明日の朝には世界がきれいになって……   「おかあさんはどこかな?」   道にまよった、台風のこども。 空におかえりよ、空におかえり。 きっと、明日の朝には世界があたらしくなって、 小鳥たちの鳴き声と、空にかえる。台風のこども。 ---------------------------- [自由詩]湯冷め姫/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月27日14時40分] 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 クレモンティーヌはもう年ごろだけれど、 縁談があるたびに破談にしては笑ってて、 「この国の将来はあんたんたるものね!」 とか、からからとした声をあげています。 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 でも髪の毛をすこしカールにしてみたり、 ちょっとだけボーイッシュな口紅にして、 「さあ。わたしは中世の王子だよ、敬礼」 なんて、鏡を見ながら戯曲をえんじたり。 ある日お城の大きなお風呂からあがって、 ほっとひと息ついた、クレモンティーヌ。 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 ときどきは馬にのって竜とたたかっても、 「湯冷めには、わたし勝てるのかしら?」 「ああぜったいにわたし、勝ってみせる」 とかって、好き勝手な勝負をいどんだの。 バスタオル姿で、たぶん3じかんくらい? ストレッチをしたり、テレビを見たりで、 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です。 クレモンティーヌはやっぱり湯冷めして、 「おしとやかになるには一人じゃだめね」 青じろい顔で、お嫁にいくって決めたの。 王さまとお妃さまのだいじな一人娘です、 クレモンティーヌはもう年ごろだけれど。 ---------------------------- [自由詩]カシニョールの庭/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月30日22時16分]  深緑の庭園で、わたしは薔薇をつんだの。裸のおんなのひとがこちらを見ていたけれど、わたしは気にならなかった。なぜ? どうして? 「あの人は服を着ていない」って、ぽつりとつぶやいてから、藤棚の小道をかける。空がふかく、ふかく、青く澄んで、もしその扉をひらいたら、水色になるんだろうって、想えた。そう、パンドラの箱。裸のおんなのひとは、ゆっくりと微笑みではないような笑いを笑っていて、あれは画家のひとに媚びているんだろうって、感じる。だって、口紅はぬっているもん。乳母車をおしたお母さんが、あかるい日ざしをいっぱいにあびて、もうすこし赤ちゃんのうえに覆いをかけなきゃだめじゃない。それが、ちょっと心配。噴水からほとばしる水しぶきが、その足もとにちいさな静寂をつくりだしていた。絵筆をもった、あの人は、おんなのひとのネックレスにだけ、気をとられている。あれを、どうやったらうばえるのかなって、少年みたいに考えこみながら。……あ、思い出したけれど、わたし、お姉さんがとばしてしまった帽子をつかまえて、古代の生き残りの鳩を手渡すように、それをあのひとにあげるんだった……。高層アパートが、道をわたった向こうの通りで、建てられている。かんかんと杭をうつ槌の音が聞こえる。ギターが、とおくのほうで鳴ってる。あれは、エレキ。 [カシニョールのイメージによせて] ---------------------------- [自由詩]女と鳥/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年9月30日22時17分]  もうときどきしか、空からは降りてこない鳥。鳴き声すら、聞こえない高さに。舞いあがり、ゆくてに消えて。ねえ、わたしの持っていた鳥かごが、気にいらなかったのね。ねえ、わたしの用意した巣箱が、気にいらなかったのね。ねえ、わたしの家のちかくの梢が、気にいらなかったのね。あなたは、自由でいたかったのね。自由に羽ばたきたかったのね。自由に歌声をひびかせたかったのね。自由に空とひとつになりたかったのね。いま、あなたは風、いま、あなたは空。わたしは、だんだん畑の百姓娘。この地上から、空をみあげる。あなたを吸いこんでしまった空を。ときどきは空から降りてきて。そうしたらわたし、星を受けとめるようにあなたのことを受けとめる。月を受けとめるようにあなたのことを受けとめる。こころを受けとめるように、囀りを受けとめる。キャベツ畑から、もんしろちょうではなくって、その卵をもちかえって、あたためる。そうすれば、やがて翔びたつ蝶が、きっとあなたのもとへとゆくでしょう。そうしたら、わたしのかわりにあなたはいっしょに羽ばたいて。蝶といっしょになって、虹をかけて。じぐざぐの軌線をえがいて、あなたが降りてくるとき、わたしは祝福の歌だけをたずさえて、こころのすべてを裸にして、あなたを身にまとうように受けいれるように……、雨。  もうときどきしか、空からは降りてこない鳥よ。   [ジョアン・ミロのイメージによせて] ---------------------------- [自由詩]空から落ちて来る雨に/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月1日20時52分] 希望で照らしてほしいわけでもなく、 絶望から抜け出したいわけでもない。 ただ少し、この不安を減らしてほしい。 空から落ちて来る一粒の雨に、 何個の水素が含まれているかなんて、 わたしは知らなくても良い。 そんなことは今では、 神に代わって科学者が啓示してくれる。 そう。彼らは啓示をする、「これが真実だ」と。 でも、わたしは、空から落ちて来る雨に、 何粒の水素が含まれているのかなんて、 知らなくても良い。 ただ、少しの希望や少しの絶望の埋め合わせに、 ほんの少し不安とは逆のものが欲しい。 それが何か……とは知らなくてもいいから。 ああ、今では科学者が神に代わって啓示をする。 それを真実だとわたしたちは思うように慣らされ、 それを諦めるようにと訓練されていく。 ただ今夜は、 どうかこの雨が少しでも少なくあればいい。 それが幾千、幾億の粒子であろうと。 今日を希望で照らしてほしいわけでもなく、 今日の絶望から抜け出したいわけでもない。 ただ少し、今日のこの不安を減らしてほしい。 わたしは空から落ちて来る雨に、  何粒の水素が含まれているかなんて知らない……   ---------------------------- [自由詩]りんご王女の側近/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月4日22時11分] 風景画のように澄んだ風景のなかに、ゆれて。 りんご王女が顔を赤くするから、すこしうつむき──   ぼくは窓のそとを王女が眺めるままに、 王女の髪と景色とを見ていたんだ。   水彩画のように淡い風景のなかに、ゆれて。 ただよい、王女はやわらかに口をひらいた。   アレグレットからアダージョ、 アダージョからモデラートへ、王女の歌ははずむ。   たゆたう時間のなかに、ぼくはゆれて、 りんご王女がふしあわせを見ないように、祈っていた。   ぼくはたゆたう。王女とともに。 口ずさむ、彼女に合わせることはできないけれど、   こころのなかで、秘めやかな伴奏をする。 風景画のように明るい風景のなかに、ゆれて。   瞳をとざせば、なにもかもが聞こえる。 耳をおおえば、なにもかもが見えるのだろう……   ぼくはたゆたう、目をみひらいて。 王女は口ずさむ、髪をゆらせて。   アレグレットから、アダージョ。 アダージョから、アンダンテ。しずかに、自然な──。   すこしだけ、見えない。 すこしだけ、聴こえないよ。   風景画のように澄んだ風景のなかに、ゆれたら、 アレグレットから、アンダンテ。……いいえ、   りんご王女は、髪をさそわれて、風のなかへと、 ふみだしてゆき、そのまま、世界のそとへ……   アレグレットから、モデラート。 モデラートから、アンダンテ。しずかに、自然な、 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月6日12時12分] 打ちっぱなしのコンクリートに、ウサギ模様。 あれは星雲、これは星。あれは星座、これは銀河。 わたしたちの見ているのは、宇宙。 まだ見ぬ宇宙がそこにあると……紫煙の向こうに、確かめているわたし。 わたしたちの見ているのは、一つの宇宙。始まり、そして終わり。 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月6日12時12分] 悲しみが少しだけ減った夜には、 悲しみをプディングにして食べてしまおう。 そうしなければ生きられないのであれば、悪になることは悪ではない。 問題は悪をもって何をなすかなのだ。 悲しみが少しだけ減った昼空にも、星は宿っている。 ---------------------------- [自由詩]ポエム/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月6日12時13分] 死んでしまいたいと思うことは多々ある。 わたしが今住んでいるアパートのベランダからは、 オベリスクのような細いビルが見える。 わたしはその細いビルをわたしの墓標だと思っている。 その細いビルを墓標だと思っているかぎり、わたしは安心していられる。 ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月7日16時44分] ふわっと地面におりてきて、  着地。   ああ、ここに貝殻があるわ、  と手にとって、   お日さまにかざして、  すかしてみる。   貝殻は、貝殻だわ。  わたしも誰かにとっての貝殻。 ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月7日16時45分] ねじばなの咲く土手にすわって、  わたし、むこうを向いていたの。   ローカル線の電車が駅に、  すべりこんで、鳴らす警笛……   ええ。2両しかない電車で、  雲のようにながれてゆく。   線路づたいに、ちいさな笛で、  こどもはさよならの歌をふいた。 ---------------------------- [自由詩]etude/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月7日16時49分] 眠れない夜のオフィーリア、 貴女は死に向かって歩む? 水面(みなも)に映える白詰草には、 僕たちの記憶(おもいで)が散りばめられて。 貴女は、夜へと歩き去るオフィーリア、 明け方には、幽霊のごとき日を抱いて。 眠らずに過ごす僕たちの下(もと)に、 貴女は届ける──残酷という形の愛を。 ---------------------------- [自由詩]僕は彼女の手を握っていた/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月8日18時29分] 彼女は水色の服ばかりを着ていた。 キャンバスには、青と白の水彩画。 それは何? って聞いたら、 「空」って。 他には何か描かないの? って聞いたら、 「いいえ」って。 低血圧で低血糖。 だから、 彼女は夏でも水色のカーディガンを着ていた。 暑くないのって聞いたら、 「いいえ」って。 僕は彼女の体を知っていたけれど、 彼女が僕を愛したとは思えない。 ずっと、 彼女は僕に弾かれるままに弾かれていた。 僕はまるでピアノを前にしているようだった。 キャンバスには青と白の水彩画。 それは彼女の心のようだった。 そうしていつか、彼女が溶けてしまわないかと…… 彼女が僕のものになった時、 いいや、違う、 僕が彼女のものになった時、 僕は寂寥と悲哀を抱きしめているような気になった。 そして、死に近い何かに触れているように。 彼女はいつか彼女ではなくなってしまいそうに思えた。 いつでも水色の服を着ていた。 空を見上げると、 「わたしね、いつかあの雲に乗りたいんだ」って、言っていた。 そう。彼女ならそう出来るのかもしれないと、 僕は思っていた。 キャンバスには、青と白の水彩画。何枚もの。 彼女の部屋にはそれだけが残された。 僕にとっては、その他のすべてが見知らないもののようだった。 彼女が彼女ではなくなっていくのを、 僕はずっと見守っていた。 いつか二人で歩いた道を辿りながら、 ずっと、ずっと、彼女の手を握って。 彼女が彼女でなくなるのを、僕はずっと見ていた。 「わたしね、あの雲に乗れると思うんだ」 今なら……と彼女は言った。 僕は彼女の手を握っていた。 そうして、彼女が消え去ってしまうまで。 そうして、彼女が、この世界からなくなってしまうまで。 彼女が、ただ一つの楽器になってしまうまで。 彼女が、忘れられた思い出だけの存在となってしまうまで。 僕は……彼女の手を握っていた。 ---------------------------- [自由詩]印象…やさしい人の/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月10日12時34分]  ああ、どんなにはっきり知りたいのに、どうしても知りえない。どうしても確かめたいのに、どこにもそれは明かされない。くらく苦しいばしょへと、ああ。あなたは降りてゆくのね。  そこで、天が降りるように、私たちのもとめる真の宝を抱きとめて、愛撫するため、風にまかされる身なのに、あなたは求めようとするのね。  ああ。どんなにここはおそろしい。どんなにあなたのたくましさも、ここでは灯影のように怖じ気づく。  ゆらめいて波のように、ながされて小舟のように。葦たちの舞踊(ダンス)のあいだに、親しく歌のようにきこえて、あなたは口をすぼめながら、口づけばかり交わしてゆく……、とりまく緑の精霊と(たしかめられない声のとりひき)。  それは、それは、眸のおくからしぜんにでてくる光にも似て、けれどもどんなに強(つと)めあげたこと(あえぐようにしぼりだす)。  どうしても愛したいのに、私たちには愛せないので、この身がわりに愛してくれる。どうしてもはなれられない、暗くくるしいばしょへゆきながら……。ああ、あなたはほんとうに孤独なやさしい風のひと。 ---------------------------- [自由詩]光纏処女(ひかりまとうおとめ)/la_feminite_nue(死に巫女)[2019年10月11日13時49分]  光にむけて祈るあなた、おとなしく、おとなしく、草のようにほほえみかわして吹かれてゆくあなた。海まで望めない草原に、光源のようにひとり淋しく立っているね。  あなた。紫陽花とあざみの花をにぎって、その意味は(独立と、あなたの心はつめたい)誰でもが、そう? 誰でもが、この花のように淋しく冷たいんだって。  悲しく淋しいのだと、涙を流してほほえんでいるあなた。私にはあなたの心がわかります。ソネットのように口ずさまれてゆく旋律(メロディー)。空耳が私にもきこえる。ふりかえることは決してないのですか、あなた?  あなたを呼び醒ますことができる。暗の奥から取り出せる。私は、人間(ひと)がそのように淋しいのだと、真っ白な真昼のなかで呟いています。かたわらを通りすぎてゆく人、何の関わりもないその人たち、彼等はなぜ彼等でしかないのかと?  すこし戦きつつ話すのです。私は、私じしんに。あなたのように切ないぶぶんが(でも、何と美しいのか!)誰でも人の心にある、それはジルバのように歌を唄う。風にのる声にすぎない。それでも私は捨て切れない!  人の心の、淋しいぶぶんのあなた。 ---------------------------- (ファイルの終わり)