瑞海のそらの珊瑚さんおすすめリスト 2014年8月26日11時50分から2015年12月14日8時36分まで ---------------------------- [自由詩]小児病棟/そらの珊瑚[2014年8月26日11時50分] スパイダーマン バットマン スーパーマンたちが こぞって 窓拭きをしている ヒーローたちは そこでは闘わない 闘っているのは きみたちだから ---------------------------- [自由詩]偏愛/そらの珊瑚[2014年10月8日17時06分] もうそろそろだと 祖母は言う おかいこさんのからだが透けはじめると  そのうち糸をはきだして 楕円のおうちで 別者に生まれ変わるのだと その不思議な虫は 一日中 桑の葉を食べている 桑の葉だけを食べている 堂々と偏食している けれど 大人はだれもそのことについて 責めてみたり すききらいはいけません! なんて 怒ったりしないから 偏食を謳歌している 偏食を矯正されたわたしは おそらく どこまでいっても透けない ---------------------------- [自由詩]魔法使いになりたかった/そらの珊瑚[2014年12月5日9時01分] テーブルクロスが 一瞬にして失せたけれど 食卓の上に置かれた 皿やグラスは 微動だにしなかったので 私たちは それについて話すこともせず もちろん 見つめ合うこともせず そのまま 静かに食事を続けた 痕跡といえば 蝋燭の炎が わずかに揺れているだけで マジックの類ではなく おそらく 日常が まばたきする間に 喪失の魔法は存在している 愚鈍な私には その手が追えないだけ ---------------------------- [短歌]あなたは誰ですか/そらの珊瑚[2014年12月11日9時37分] ひとつだけ私の肩に舞い降りて小鳥になるよ今日は雨降り   こんなにたくさんの雨粒があるのなら   ひとつくらい雨粒になってしまう魔法に   かかっている小鳥がいるのかもしれないと   思わせてくれる雨の日は   案外好きかもしれません   たったひとつだけを   わたしは大切にして   手のひらの温度で温めていきたいのです   雨の木曜日。って   フランス映画にありそうなタイトルです   タイトルは中身の顔でもあるから   それが素敵だと中身も素敵なんだろうなあと   タイトルだけ並べてみてTSUTAYAであれこれ想う時間も好きです   同じ理由で本屋さんで背表紙だけ眺めて歩く時間も   そういえば「雨の訪問者」というフランス映画は   そのタイトルの持つイメージとは裏腹な怖い映画でした   あれを見て以来、自分の家の駐車場でも必ず鍵かけます   (あ、あたりまえか)   雨に隠れるようにして   つまり雨に付随する見通しの悪さを味方に付けて   そおっと、やってくる、やから。   「千と千尋の物語」で、かおなしがやってきた日も   雨の降る日でした   あなたは誰ですか   あなたは誰だったのですか   そういえば歌であったのかもしれません   ふるえているでしょう 空気が   最後の声が    おそらくは   まだこのあたりをさまよっているのでしょう   魔法がとける呪文は   今日も見つからないし   イラクサの上着も編めてない   上等じゃないか、プラスチックソウルだって、と   思うわたしは   タイトルは増えたけれど   あいもかわらず   自分が誰かとかに関しては   知らない   けれど   それが   今を生きていく   と   いうことなのかもしれません ---------------------------- [自由詩]コール アンド レスポンス/そらの珊瑚[2015年1月15日11時16分] キミが放っておくから ボクはすっかり錆びちまって ダッシュボードの上は 白い埃が積もってるけど ベイべー、雪合戦するほどじゃない 底意地の悪い奴は どこの世界にもいるのさ ヤワな雪玉に見せかけて その芯に石を隠していて ゲームだと笑う たとえばその石に当たって 額から血を流す景色を見て これはゲームなんだと笑う ボクは何から出来てンだろう そんなこと知らなくても ボクはボクだし 過去や未来へシフトするギアは付いちゃないし デロリアンには成り得ない 人間が何から組み立てられているのか 産婆さえ知らないように でもおそらくは 血はガソリンであるから キミがマッチを擦れば たちまち引火するのさ ---------------------------- [自由詩]赤い星/そらの珊瑚[2015年9月29日15時08分] たったひとしずくの水が いったいどこからうまれてきたのか だれもしらない じぶんというほんしつに たどりつけないように しっているのは ただここに あるということだけ それはじゅうぶんすぎるくらいの あるという こどう 必然と偶然は ひきだしのなかに整然としまわれているわけでなく それをあけてはじめて わたしたちはそこへラベルをはる 水がわき 無言のいのちがやどるとき 過去形であった神と記されたラベルを ふたたびとりつける もえたぎる 赤い星の 冷徹な心臓へ ---------------------------- [自由詩]死を待ちながら/そらの珊瑚[2015年10月5日8時35分] 待つということは ときに苦痛をともなう その時間を 固いベンチで過ごすのならば 背中は痛むし 柔らかなベッドの上だとて 安らかともいかない 点滴につながれた腕は夢の中でも痛むからだ たとえばそこに いつ、とか どこで、とか 具体的な約束が存在しているのなら それが与える苦しみは ひと羽くらいはうすらぐだろうか それとて すべての約束が ただしく遂行されるとはかぎらない いつ、は いつか、になる どこで、は どこか、になる 今日は来ないが 明日は来るって? だけど私はそいつの顔すら知らない 無人のエレベーターが開く 乗り込むのは私ひとり 余命を知らせるなんて なんと傲慢なのだろう ---------------------------- [自由詩]砂浜/そらの珊瑚[2015年12月14日8時36分] こころもとなくなる ここを歩いているといつも どうしてか 砂地には 足跡は残せず 一本の根さえ張れないと思うのだ ほってごらんと 父は言った ほりだすそばから 哀し水がしみだし 確かに刺したはずの一本の心棒さえかしぎ 四方から壁がやわらかく崩れおちてくる それでも いくつかの眼(まなこ)をひろうことができるだろう それらが人につながっていたころ 外界にさらされた内臓として忙しくしていたが ここへ墜落した眼(まなこ)は円を保ちつづけ 夜も朝も昼も そのどちらにも属さない通過点でもやすむことのない 貪欲な時間のような波に洗われて 今はただ瑞々しい寂寥だけを映している ---------------------------- (ファイルの終わり)