森川美咲のおすすめリスト 2014年4月23日10時07分から2015年2月11日2時09分まで ---------------------------- [自由詩]透明な声/まーつん[2014年4月23日10時07分]  水は、万象の旅人  生き物の身体は  彼等の泊まる、仮の宿  水よ  お前が  笑いさざめくのは  春の林床に降り注ぎ  小川を結び、走るとき  お前が  咳き込み咽るのは  都市の隘路に迷い込み  産業の垢に、塗れるとき  お前が  居住まいを正すのは  ついと木の葉の縁を伝い  乾いた舌に、降り立つとき  命を育む羊水として  母の胎に波打ち  黄泉への導きとして  溺れる者の肺腑を満たし  聖なる清め手として  信ずる者の頭を濡らし  穢れを洗い落とす、水  そう、お前は  とことんまで  汚れることもできる  どこまでも  堕ちていける人間を  どこか、彷彿とさせる姿で  流血となって泡立ち  澱みの中で腐り  汗となって飛び散り  泥となって跳ねる  時に、総てを押し流し  地の表を覆うとき  澄んでいた筈の  お前の身体は  破れた夢に  染まって、濁る  だが、お前は、美しく  装うこともできる  どこまでも  気高くもなれる人間を  どこか、彷彿とさせる姿で    陽光にさんざめき  月明りに瞬いて  時に、  寒さに凍てつく  氷の剣となり  冷たい世に切りかかり  空が授ける  白い毛布となって  温もりを奪う  そしてお前は、  運び手にもなれる  たとえば命を  この星の初めに  銀河が託した遺伝子を  お前は海となって  何億年も抱き続けた  差し出されたら  くるみ、溶かし、抱え込み、  雲となり、雨となり、河となって  この星の、あらゆる場所を旅して回り…  そして必ず、私たちの元へと、還してくれる  甘いものも、苦いものも  杯に揺れる  美酒となって  忘却をもたらし  頬を伝う涙となって  悲しみを包みこみ  土の染みとなって  姿を消すお前、  この世で最も  柔らかな手触り  水よ  うだるような暑い  夏の昼下がり  何処かの家の  蛇口から  注がれるとき  器に受ける  者の耳に  届くだろうか  ただいま、と告げる  お前の声が ---------------------------- [自由詩]めまぐるしくも/ただのみきや[2014年4月24日22時23分] 昼下がり  古いテニスコートを占領して 自転車の練習をする女の子 もうずい分上達したようで ぎこちなくだが転びもせずに 不規則軌道を描いている ヘルメットを被った人工衛星 昔は誰も被っていなかった そういえば 瘡蓋だらけの膝小僧で走り回る そんな子供も今ではあまり見かけない 母親が少し離れた場所から見守っている 「止まる時は足からでなく ちゃんとブレーキかけてから 」 「おかあさんみて!できた!むずかしいけどできた! 」  ――この春 初めて二十℃を越えた 桜はまだ タンポポも 宣愛(のあ)の練習を想い出す わたしは何にでも厳しすぎたのだ 選利矢(えりや)は練習しなかった まだ玩具のブーブーにまたがっていた頃 倒れて 回復することもなく逝ってしまった この先 孫でもできたなら また練習を手伝うだろうか たぶん そんなことはないのだろう 繰り返される春は記憶と入り交じり 喜びも悲しみも入り交じり 成す術もなく夢のように 人生は 北国の春のめまぐるしさに似ている 新一年生たちが帰って来た 色とりどりのランドセルが花びらのよう 陽射しの中を吹き抜けて往く 桜はまだ タンポポも   《めまぐるしくも:2014年4月24日》 ---------------------------- [自由詩]やわらかい命たち/吉岡ペペロ[2014年5月2日1時23分] やわらかい命たち やわらかいその時代 ほのかな湿りと肉体に 都会の青空 ごちゃごちゃ煤けてとけていた 自由だった 悲しみつきぬけていた ていねいだった こわれそうだった やわらかい命たち やわらかいその時代 ほのかな湿りと肉体に 都会の青空 ごちゃごちゃ煤けてとけていた ---------------------------- [自由詩]衣替え/そらの珊瑚[2014年5月2日9時25分] 洗いすぎて ごわりとした ネルの小さなパジャマ ふたつめのボタンだけ なぜか赤い糸で 不器用にくくられている 夜泣きのたびに 私にしがみついた 熱を帯びた袖 黄色いライオンの模様 柔らかだった 起毛の肌触りを 覚えている 私の 手の感傷が 今年も捨てられないと すがる もう誰も 必要としていないものだというのに 白い糸をさがす暇さえ 惜しんで 抱きしめているだけで幸福だったよ ---------------------------- [短歌]過去/a-little-bird[2014年5月2日20時53分] 上塗りで 下地がどんどん 消えていく 油絵みたいに 塗られてく過去 ---------------------------- [自由詩]種/葉leaf[2014年5月4日11時50分] ぎっしりとデスクの並んだ職場で、社員たちは互いに協力しながらてんでに仕事をしていた。データを入力したり、書類を作成したり、文書を印刷したり、メールを確認したり、同僚と打ち合わせたり。私は職場に配属されたばかり、ミスをしては指摘され、少しずつ正しい仕事の仕方を学んでいるところだった。まだ社員たちがどういう人かもわかっていず、漠然とした不安を抱きながら、やることに自信が持てずに、きわめて不安定でありながら硬直的に仕事をこなしていた。社員たちの機械的な手際と動きは、乱れることを知らないかのような人工的な秩序を形成していた。 そのとき、窓の外に大きな虹がかかった。中年の女性の係員が虹の存在に気付いて、「虹!」と周囲に注意を喚起した。課長から部長から、みんな窓の方へ寄り、大きな虹の美しさに見とれた。それまでの人工的な仕事の秩序はきわめて柔軟に連携を解かれ、職場には自然美とそれを眺める一群の人々という、規律も労働も何もない風のような時間が流れた。やがて、社員たちは次第に元の人工的な秩序に再び組み込まれていった。 私は、この虹の出現によって、何かが種明かしされたかのように感じた。未だ馴染めていない職場の物質的に見える機械的な社員たちの動きは、実は手品のようなものであり、それを動かしている本当の原理が明らかになったように思えた。自然の美しさに仕事の手を休めて眺め入る人々の優しい空白がとても美しく、その美しい感受性が仕事のすべてを根底から支えているかのように感じた。手品の種は、不意の美しい出来事によって鮮やかに明かされた。 ---------------------------- [自由詩]ありきたりっ子世を動かす/イオン[2014年5月4日21時32分] 憎まれっ子は 憎まれているという不幸を 既に背負っているから これ以上不幸にならないという 確信がある だから一人で 思いっきり飛べる 憎まれっ子世に羽ばたく 慕われっ子は 慕われているという幸福を 既に抱きしめているから これ以上幸福にならないという 確信がある だから一人で 気軽に飛べる 慕われっ子世渡り上手 ボクはありきたりっ子 平凡は居心地がいいけど ここに居てはいけないという 確信がある みんなとしか飛ばないのは 世を忍ぶ仮の姿 ありきたりっ子世を動かす ---------------------------- [自由詩]どうでもいいことについて/ichirou[2014年5月6日1時51分] とうとう左手小指の爪半月が 消えた 何の不具合もない 誰も知らない私の体の変化 どうでもいいことだ でも こんなことでも ずっと憶えている 自分にとって どうでもいいことは 結局忘れられないということ 例えば 去年の6月にオオスカシバを見かけたとき パンツいっちょのおっさんの妖精だと思ったことがそうだった 結局一年近く経っても忘れていない 年を食って大切なことを忘れるくせに パンツいっちょのおっさんの妖精など どうでもいいことを憶えている こんな合理的じゃない 記憶の仕組みは 正に どうでもいいことだ そして 私の人生の2割強は どうでもいいことが占めている ところで 右手の小指の爪半月だが あと0.5mmぐらい残ってる どうでもいいことだが ---------------------------- [自由詩]なにかが ある 三部作/るるりら[2014年5月6日2時02分] 「見えない人」 耳の不自由な人との 暮らしは 目も不自由な人との 暮らしは あんがい 子供の頃に抱いていた夢が 叶ったのかもしれないな 子供の頃は 透明人間になりたかったのだった そうだった 今のわたしは、ちょっと返事をしないでいるだけで  透明人間になれる 存在が簡単に 透き通る  今日も緞帳があがり  “ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン”今世紀最大の見せ場  あなたに見えてないのは解ってるけど 私は絶世の美女さ 魂は美人なのさ あら ふしぎ 魂って  「鬼って云う」って書くのだね ほら こんなに見えない力が 満ちてくる 「弾けない人」 オルガンを弾く指は しらうおのようだと良いのだと先生は言いました あなたはとても うちの教室では無理ですけど 先生は とても優しいので 御宅にうかがって 個人練習をいたしましょう 御月謝も みんなと おなじで良いですよ 先生がそんなことをいうものですから うちの母さんは 大喜び あら おおきな兄さんがいらっしゃるのね いえいえ 先生 この間 教室にきてたでしょ おとうさんだよ お兄さんじゃないの あなたの指と指の間をハサミで切ると あなたの指でも上手に弾けるようになりますよ おとうさんが おにいさんじゃないので 先生はハサミを私の指にあてました オルガンはある日 鍵盤だけになってました 金槌や鋸で母さんが壊しました/音楽は いまも泣いています 「届かない人」 いーくんのことが好きでした ぴんぽんだっしゅが 上手でした かまきりのおなかから なぞの黒い紐をだすのも上手でした 怪我をしたら いーくんの お母さんが ちりょうをしてくれました うちの母さんは 唾つけとりぁなおる いうてましたのに じょうりゅうな ひととして てあてということをしてくれました いーくんは ある日 とおく 行きました えいえんに、 わたしは いーくんのことが好きだと思いました いまも いーくんのことが好きなんだとは思うけれど いーくんの お母さんが ゆびに まいてくれた 絆創膏のことしか おもいだせないのは なぜでしょう ************** メビウスリングさんの企画 http:// mb2.jp/ _aria/8 44.html ---------------------------- [自由詩]猫でした/梅昆布茶[2014年5月9日3時39分] 猫でした まちがいなくねこだったと思うのですが 定かではありません 幸せだったかもしれませんし そうじゃあなかったかもしれません 宿無しだったのはたしかです いまでもたいして変わりはしませんが 濡れそぼる夜はなくなったようです また猫に戻りたいかときかれれば まああれはあれで良かったかなと思うだけです よく遠くのそらをながめていました 腹も減るものですが別の何かもさがしていたものです からっぽの街で風の行方を追いかけては 光のあふれる季節をみつけようと彷徨いました そう猫でした いまでもその記憶が残っているのです ---------------------------- [自由詩]その橋を渡ろうとするひとへ/吉岡ペペロ[2014年5月12日22時32分] その橋を渡る気もないひとびとが 渡ろうとするひとを笑っている、もしくは批難している 渡ろうとするひとが その橋の安全を確かめるのを だったら渡らなきゃいいじゃないかと 小ばかにして笑っている、もしくは批難している その橋を渡るのは 大切なひとのため その橋を渡るのは 世界をまもるため その橋を渡るのは きっとぼくのため その橋を渡る気もないひとびとが 渡ろうとするひとを笑っている、もしくは批難している 渡ろうとするひとが その橋の安全を確かめるのを だったら渡らなきゃいいじゃないかと 小ばかにして笑っている、もしくは批難している ---------------------------- [自由詩]弁当/山部 佳[2014年5月12日23時09分] 煮た竹輪と梅干 飯には煮汁が染み込んで みっともない模様を描いていた 蓋で隠しながら 弁当を食った 級友に見られるのが たまらなく恥ずかしかった 日曜日も休むことなく ミシンを踏んでいる背中に 私の不満は飲み込まれた 「教科書が増えて重いんや」 こじつけた言い訳に、母は 「ああ、そうかい」 背中越しにあっさりと答えた 高2の春から 私は母の弁当を食っていない そして、それはもう永遠に食えない 梅雨の走り 命日が近づくと あの弁当が食ってみたくなる ---------------------------- [自由詩]投票所までの長く長く長い道/北村 守通[2014年5月13日13時32分] 散歩がてら 投票所まで向かう 混雑することは 目に見えているから 歩いて向かう 自転車にすら乗らない あんまり 早く着きすぎると 誰に投票するか 決めきれなくて それは どんなに時間があっても 決めきれないのだが 嫌なのである それでも 投票所に着けば 解答用紙を 埋めなくてはならない まぁ 白紙答案もありだが とにも かくにも ぐずぐずすると 後ろがつかえて 迷惑になる 職員たちの 哀願するような視線も痛い でも 私は知らないから 私は書けないのであって 本当は 書けないということを 書きたいのだ いつも こんなもんだから ワタシは思う 投票用紙の 候補者氏名欄には   『該当者なし』 という 白紙さんの正式名称が あってしかるべきだ そして 『該当者なし』さんが 充分な票を獲得したら この 『該当者なし』さんこそが 当選するべきなのだ しかし 悲しいかな 『該当者なし』さんには 実務能力がない だから自然と 当選を辞退する形となり 議会の 理想的な運営のためには その分の議員を 補充しなくてはいけない すなはち 落選した者たちの中から 繰り上げ当選が行われるが この者 最初から当選した者と 差別化を図るため   『準議員』 といった別の者にする 『準議員』 には 議員としての権限のうち いくつかに制限がつく 例えば 議員報酬の額が通常の議員の三分の二 などといった様に 議員さんに どんな権限があるか知らないが まぁ そこから先は 話し合って 調整してくれればよろし などと 無責任に思ってしまう たかだか三十パーセント近くの中の 六十パーセントを獲得したところで それは 全体の中の十八パーセント程度に過ぎず 残りの八十二パーセントは 程度の差こそあれ 支持していないという現状 そうした民意を 本当に反映するためには などと 考えてしまうのである やっとこさ 候補者名を 写し終えてみれば 随分と 硬筆も 汚くなったもんだ と自己嫌悪に浸る間もなく 流れ作業で運ばれて おセンチに浸る間もなく 顔も 性格も もっと知らない 知りようのない 政党とやらを 記入させられる 政党政治は 停滞した 代理戦争は 時代遅れの玩具となって さりとて それほど 年代も経っていないから 鑑定士からの 評判もよろしくない 値段をつけずに 大事に使ってあげなさい と これ以上ない 営業スマイルで 突き返されるだけである 選挙二百年かそこら か どうだかは知らないが まぁ そのくらいの 歴史しかない中で 現在の 政党政治とやらが 最終進化系のわけがない わけであって 今こそ 候補者たちは 政党から 解放されるべきなのである すなはち 政党は 候補者擁立機関 であることを止め 制作作成機関 としてのみ存在すればいいのである 各政党は 自分たちの党風にのっとって 政策や法案を作成し 議会の場に提出し それぞれ 持ち寄られた 格闘の 各政策や法案について どれを採択するか 立法機関で 審議すれば良いのである 採択された案については 報酬を別途支払う そうすれば 弱小な党の政策にも もしかしたら 光が当たるかもしれない 弱小な党にも 機会は平等に与えられる 該当なし の選択もありだ そして その分 比例代表なんかやめて その代わりに 各都道府県などの 地方区の 地方議会の中から 中央機関の 立法機関に 出向させる 代表者を 議会内で選出し 送り出していけばいいのだ などと 見えない群衆に向かって 熱く語ってみる ことで 冷たい牛乳を 美味しく頂いてみる まだまだ 投票所に 明かりがともっている まだまだ 投票所に 自転車が 乱雑に 入場者たちを 阻んでいる ---------------------------- [自由詩]嘘/文字綴り屋 ひじり[2014年5月16日15時57分] 一番悲しかった嘘  涙が出るほど優しかった嘘  胸が痛かった嘘  叫び出したいほど切なかった嘘  思わずへたり込んだ残酷な嘘  『君を愛していた』  ---------------------------- [自由詩]ほつれる/ららばい[2014年5月19日21時58分] 嘘に嘘を塗り重ねて このまま自分を守り続けたら どこかから結び目がほつれて するすると狡い中身が出てしまいそう たとえほつれなくても 少しゆるんだ結び目の隙間から 顔を覗かせた何かしらの違和感は 私に対する不信につながるのだろう なんかもう疲れたな 自分を繕って器用に生きていくことができる人が 社会人として正しいのなら 誰が 嫌だとか 怖いだとか 偉そうだとか 嫌われてないかだとか どう評価されているかだとか どうだとかこうだとか ひたひたと背後から忍び寄って 私を呑み込みそうになる そんなものたちなんて どうでもいいくらい もう どうでもいいくらい 強い人になりたい ---------------------------- [自由詩]朝/M&M[2014年5月24日21時18分] 彼女はボールさ 丸いボール たまたま僕のところに飛んできたボール 飛んできたボールはまたどこかへ飛んでゆく 朝日が射して 葉っぱに付いた露が光る 息を吐き、 会社に向かう僕の横を 水色のセーラー服を着た学生たちの笑い声が通り過ぎる ---------------------------- [自由詩]多才な君へ/無花果[2014年5月24日22時58分] 私をとり囲む人間のなかで 誰よりも ひどいひとで 誰よりも 自分のことが嫌い 誰よりも 素直になれなくて 誰よりも疲れている 誰よりも孤独で 誰よりも 才能に悩むひと 暗闇に手探りしながら もがく君を 私が 救うことができたら 寄りかかるものもなく 寂しい君が なにかを 信じられますように。 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そもそも自分はどちらを向いて 歩いていたのか 歩こうとしていたのか 分らない 小さい頃からの記憶を探ったよ でも想い出せない 僕は真っ直ぐ歩いていたつもりだった それともどこかで曲がったのかな 言葉に傾くって? 進むって? ゴールって? そもそも僕は何に向かっていたのか? 分らないんだ でも何だかどうでも良いような気もする 決まったゴールがないなら 少しぐらい傾いていてもいいよね 立ち止まったっていいんだ だけど僕は自明のことのように歩いてきた 真っ直ぐ歩いていると信じていた 色々迷うことはあっても真っ直ぐに この自信満々は何? あなたは言葉に傾き 歩く姿に 傾きがありませんか?   ---------------------------- [自由詩]「かえす」/小夜[2014年7月21日0時40分] ひらいてしまったてのひらに はじまりは舞い込んで、やがてにじんでいく 窓枠を引いて外と内を分けて でていかないよと言ってみても 手に入れることは失くすことだから いつでもきちんと立てるように 大切なものは持たないことにした 失くしていいものだけ集めたつもりが それすら手放せず重たくなった でも違った 手に入れるんじゃなくて、お借りする 失くすんじゃなくて、お返しする そうしてめぐりながら変容していく だからもう会えない人のために その人のいない世界へと 歩いていくことだってできる あなたにいつかお返しする あなたをいつかお返しする 覚えてもいない思い出が 高く抜けた空から 髪に背中に降ってくる いつかだれかがわたしの肩を抱きしめた その跡をたどるように やわらかな名残りが降り積もる 振り返ることすらできない、 遠い、遠いところ いつか終わるすべてのはじまりも ひとつひとつ撫ぜていく そしていつかあなたのいない世界で きちんとお返しする ---------------------------- [川柳]うつ/陽向[2014年8月1日16時01分] うつみたい 暗い気持ちが 燃えている ---------------------------- [自由詩]虚言/瑞海[2014年8月1日17時13分] 抑えて抑えて 気持ちを抑えて 高ぶったって何も良いこと無いんだから 得るのは終わった後の空虚感 今目の前にいる人も いつ私にナイフを突き刺すかな 所詮他人だもの 気持ちなんて分かりっこない だから抑えて抑えて ばれないように 抑えて抑えて 心臓も押し付けて 世界一嫌いでも 作り笑いで持て成して 世界一大好きでも 突き放して 辛い? そのうち慣れるよ 私みたいに 糸を切ればどんどん崩れてゆく なんて愉快な生き物 これが本当のあるべき姿 誰が気づいたの? 誰だっていい その内みんながそうなるんだから それでも 貴方 涙が出てるよ どうして?どうして? ---------------------------- [自由詩]みえるこころ/朧月[2014年8月1日22時00分] 自分のこころが 自分でみえない なのに ひとはわたしを決めつけたがる そうみえるから そうだという 結果ばかりみないで そう言って君は泣いた わたしはなにも言えず また見失った気がする こころが見えればいいのに そうすればもう 言い訳しないですむのに ---------------------------- [短歌]夕立を待つ/未有花[2014年8月4日9時15分] 青空に洗濯物のはためいてハミングすればさわやかな風 さまざまに形を変えて雲は行く見ていて飽きない空の劇場 ヒグラシの遠い呼び声懐かしい記憶の森へ心は帰る 炎天下汗をぬぐえば向日葵も頭(こうべ)を垂れる陽炎の道 夏空に入道雲の湧き立ちて憧れ馳せる遠い世界に 日盛りの畳でのびる猫の仔と簾の向こう夕立を待つ ---------------------------- [自由詩]8月6日/吉岡ペペロ[2014年8月6日0時12分] いま45才だから 15の頃はまだ30年まえのこと いまとおんなじ強さと切実さで 84才のとき 15の頃を思おう それとおんなじように きょう69年まえのことを思おう ---------------------------- [自由詩]とりあえず/佐白光[2014年9月18日13時49分] とりあえず ビール とりあえず ごめんなさい とりあえず これで とりあえずの あなたは とりあえずの 人生 ・・・・・・ とりあえず ---------------------------- [自由詩]秋の人/モリー[2014年9月21日1時48分] 同級生が口を揃えて 「秋の匂いがするね」と言う そういう香水、出ないかな わたしは秋の人になりたい タオルケットを洗濯して 毛布を一枚出してきた 敷布はパイル地 アンバランスで心地良い ボルドーのベレー帽 黒いショートブーツ 灰色のセットアップ 温度を織り込み、着ていたい 甘栗を買ってきて 夕風が吹く公園で食べる 反骨精神を掲げた人生に小休止 一番星を眺めていた 物語りが失速する マンネリになって熟してしまう その時、ふと色気を放つ わたしは秋の人になりたい ---------------------------- [自由詩]頑張って書きました/Parin[2015年2月5日2時25分] 自由に書いていいよ 本当に? こんなのじゃダメだよね 練習しなきゃ 何を書いていいのかな こうしなきゃ ああしなきゃ 自分でしめる 首 取れちゃった ギロチンだ 溢れることば な が れ る 詩 ---------------------------- [自由詩]水の音/村上 和[2015年2月11日2時09分] みずのね さらさらとね ながされる ひとのシやセイが たいがになって いつかのよるの うみみたいなばしょへ みずのね ちゃぷんとね りゅっくのなかの つつのなか ゆれるたび あしおと、いき、こどうと キョウメイしている まいごにならないように てをつなごう みずのね ざーっとね センネンのなごり ふるいまちかどで ぬれた かさのした いしだたみのうえ たたずんで メをとじる ふうりゅうだねと はいぶりっとな バスがいう みずのね ぽたりとね じゃぐちのさき だれもいないへや セイジャクのすみの まどのした かすか ほんのわずか はなのメがのびる いぶきのひびき みずのね ぽわりとね いつかのよるの うみみたいなばしょ くらやみからひかりのほうへ キホウがのぼる キボウがのぼる ---------------------------- (ファイルの終わり)