ichirouのnonyaさんおすすめリスト 2014年2月8日12時35分から2014年9月22日19時49分まで ---------------------------- [自由詩]降り積もるもの/nonya[2014年2月8日12時35分] 雪が降り積もる 形の上に 形のままに 雪が降り積もる 同じ重さで 同じ冷たさで 人の想いは あまねく くまなく 降り積もることはない 人の想いは 違った重さで 違った温かさで あるいは降ることもなく ときどき積もったままで 温もりの真ん中に もどかしさを やるせなさを 隠し持ったまま人は 雪を眺める ---------------------------- [自由詩]魚上氷/nonya[2014年2月17日17時54分] 魚上氷 うおこおりをいづる 冷たい水底で 来る日も来る日も あわぶくの羅列を眺めてきた 滞りがちな 私の中の遅い水は 妄想だけを鰓の内側に沈殿させた 待つのは慣れている 待つために生まれてきたようなものだから 冷たい水底にも やがて暖色の水流が届くことだろう 新しい季節の兆しに 尾鰭が呼応するようになったら あらん限りの力で水底を叩いて 頭上に覆い被さる水素結合を突き破ろう はしゃいだ光の中へ 唐突に飛び出してヘルタースケルター 鰓呼吸しかできないことも忘れて 青空の端っこに喰らいつこう それまでは 仄暗い水底で 来る日も来る日も つぶやきの小石を弄びながら 浮き袋の中で 発酵し続ける溜息を タイムラインの急流に逃がしておこう ---------------------------- [自由詩]土脉潤起/nonya[2014年2月22日12時48分] 土脉潤起 つちのしょううるおいおこる 雲がほどけて 雪がこぼれる 北がやぶれて 風があらぶる 音がとだえて 水がいてつく 光がとおのき 命がしずまる 雪がほどけて 雨がしたたる 南がゆるんで 風がいろづく 時がぬるんで 土がうるおう 声がとどいて 命がめざめる 光がこぼれて 人がほどける ---------------------------- [自由詩]草木萌動/nonya[2014年3月7日21時17分] 草木萌動 そうもくめばえいずる 厳しい季節を越えて 蓄えられてきた力が 和らぎ始めた光と風の中へ 堪え切れずにはみ出す 樹皮を突き破って 凍土を持ち上げて 命のベクトルが 星の営みのままに 伸びて膨らんで広がる 何の約束事もなく 何の秘め事もなく またしても始まってしまった 命のうたげの 命のせめぎあいの その色と その香りと その揺らぎに触れて 私達の置き去られた本能も 緩やかに萌え出す ---------------------------- [自由詩]スイッチ/nonya[2014年3月15日11時38分] いつ スイッチが入るのか 分からない それが ONなのかOFFなのか 分からない そもそも 何処にスイッチがあるのか 分からない 行方不明のUSBメモリを探そうと 机の下を這いずり回っている時に 頑固過ぎる寝ぐせを気にしつつ 約束の場所に急いでいる時に お昼のランチで迷いに迷った挙句 いつものB定食を食べている時に そいつは唐突に切り替わる 古い家具に積もった 暮らしの塵が 取り払われるように 意識の行く手が明確になる 色と材質が 音と感触が 流れるように翻訳される 光と心象が 風と言葉が 街のあらゆる路地を闊歩し始める 夜明けだ! 反転だ! 覚醒だ! 錯覚か? まあいいや さあ詩を書こう! ---------------------------- [自由詩]FR/PR/BR/nonya[2014年3月23日8時47分] フラフラと 朧月の生温い宵に プラプラと 妄想の尻尾をぶら下げて ブラブラと 調子っぱずれの自律神経をナビにして 此岸の縁をそぞろ歩く フラスコの中の フラストレーション フラフラと フラダンスを始める フラミンゴの群れの フラッシュバック フラフラと フラボノイドが揺れる プランターの内の プラトニック プラプラと プラモデルを愛でる プライドの端の プラットホーム プラプラと プラシーボが通過する ブラインドの向こうの ブラキオサウルス ブラブラと ブランドを漁り回る ブランデー越しの ブラックジョーク ブラブラと 無頼派を気取るが フラフラと プラプラと ブラブラと 気がつけば いつの間にか また自分に辿り着いている ---------------------------- [自由詩]多面体/nonya[2014年4月7日19時28分] 誕生日 私の多面体の面が またひとつ増えた 生まれた瞬間は まんまるだったはずなのに 歳を重ねるごとに ひとつずつ面が増えて 今では寄せ木細工にも似た 得体の知れない多面体に 成り果ててしまった 眩しく照り返している面 どんよりと曇っている面 何かがこびりついている面 哀しいくらい磨かれた面 今となってはどの面も なつかしくいとおしい 十五面体の頃は まだうまく転がれなくて 二十五面体になっても いろんなものを傷つけて 三十五面体あたりから ようやく一人前の多面体になって そこから先は ひたすら球体に近づいていった 人は丸く生まれて 面を作りながら角ばって 面を作りすぎてまた丸くなって 転がるように消えていく そんな直感を 多面体をゆらゆらさせながら 今日できたばかりの一面に こっそり綴ってみた ---------------------------- [自由詩]21℃ 31% 4m/s/nonya[2014年4月24日21時10分] 鳩尾を透過していく 風のライオン たてがみの感触に 背中が粟立つ 睫毛を蹴って逃げ出す 光のインパラ ボンネットを飛び移る 逃げ足が眩しい 舗道に投げ出された 影のアミメキリン 潤んだ首の輪郭が 滑らかに伸びていく 次から次へと飛び立つ 声のフラミンゴ 楽しげなア行の羽音が 語らいの五線譜を彩る さざめく季節の真ん中を 目を細くして 頬を柔らかくして こっそり祝福しながら 舟のホモサピエンスは のったりと流されていく なすすべもなく流されていく おそらく 未来の西側へ向かって ---------------------------- [自由詩]一粒/nonya[2014年5月10日9時47分] 日々を複雑にしているのは 自分自身 定規で線をひいて はみ出さないように色をつけて 出来あがった図形に名札をはって 似通った図形をひとくくりにして 複雑にせずにはいられない 自分自身 おとなしく受け止め続けることも 身の丈を思い知ることも 生きるためにただ生きることも 出来るわけがない 本当は 色とりどりにひしめき合って 賑やかに掻き回されて いつかは気軽につまみ出されて いとも簡単に暗闇へ放り込まれる 薄ら青いポットの中の たかがキャンディの一粒 みたいな 自分自身 ---------------------------- [自由詩]五月の欠片/nonya[2014年5月18日9時51分] * 光と風の音楽隊の ゆるやかな旋律が コンクリートの迷路に 色の音符を落としていく 緑はさざめき 花はときめき 道はほくそえみ 人の睫毛はほほえむ * 渋滞したジェットコースターは 緩やかに急勾配を下って 行列を巻き込んだまま メリーゴーランドは回り続けた フリーフォールがためらいがちに 黄金週間の裾を引っ張ると 見慣れた夕暮れを背に 観覧車が軋みながら翳った * ハナミズキは散って ツツジは燃え盛る まだ幼いアゲハのダンスを 窓辺の猫の目が追い駆ける こちらにおいでと そよぐ風の速度に 追いつけない自分がもどかしくて 温くなった炭酸水を飲み干した いつも五月に置いていかれる 心地好さに埋もれてしまう 伏し目がちの不純物のような まだまだ透き通ることができない私を 五月の風はお構いなく 夏に向かって吹き流す * 南風の心地よい圧力が シャツの胸を凹ませた 舗道に散らばった光の鋲を しかめっ面で踏み潰した 僅かに夏の体臭を漂わせながら 控え目にスキップする五月と スクランブル交差点の真ん中で すれ違ったような気がした * 今日一日を 空や 風や 光や 鳥や 花や あなたや わたしや そんな言葉を使わずに 表わすことが出来たなら わたしは詩の言葉をすべて 五月に預けて 初めて見たような顔をして 季節を眺めることができるのに ---------------------------- [自由詩]ハーモニカ/nonya[2014年6月14日11時45分] >吹いて <吸って <吸って >吹いて あたたかい息が リードをふるわせると やわらかい音符があらわれる >吹いて >吹いて <吸って >吹いて さみしい唇を 吹き口ですべらせると やさしいメロディがつながる 音符を落としながらあるいた ひとりぽっちの帰り道で メロディを懸命においかけた ごじかんめの音楽室で いつも身近にあった ひとなつっこい楽器は 記憶のきざはしの一番下で ぼんやり錆びついたまま >吹いて <吸って >吹いて <吸って 日々のリードを かすかにふるわせながら 暮しのハーモニーに かろうじてくわわりながら 想い出してくれるのを ずっと待っている ---------------------------- [自由詩]聞こえた/nonya[2014年6月21日14時51分] 読み人知らずの ささやかな空気の振動を 耳たぶでそっと掬って 外耳道へ流し込む 外耳道の突きあたりの 気弱すぎる鼓膜のときめきを 耳小骨は丁寧に拾い集め 蝸牛の殻に押し込める 蝸牛の殻の中の 悩ましいリンパ液の対流に 苛立った有毛細胞の 貧乏ゆすりは電気信号になる 電気信号フリークの 自意識過剰なラセン神経節細胞は 嬉々としてそれをツイートし お節介な内耳神経が さらにそれをリツイートするものだから すぐさまそれは大脳庁の知るところとなる 大脳庁の直轄機関である 大脳聴覚皮質のラボに送り込まれた 読み人知らずの ささやかな空気の振動は ただちにつぶさに解析され またたくまに正体が解き明かされる すなわち 聞こえた 声と君が ---------------------------- [自由詩]蝉時雨/nonya[2014年7月30日20時35分] 蝉時雨が それほど新しくない記憶を 影縫いするものだから そのまま置き去りにもできず 立ち止まる 吹き出す汗 ハンカチを忘れたことに気づく いつもそうだった 肝心な時に何かが欠けているから 想い出がみんな傷痕になってしまう 遠ざかる淡い背中 はしゃぎ過ぎるノウゼンカズラ 押し黙るクロアゲハ 急に想い出した 言わなければいけなかった言葉に 火傷しそうになる すうっと風が渡って 一瞬 蝉時雨が止む 濃密な結界が解けたように そろそろ歩き出す 手の甲で拭うものは何? 拭い切れないものは何? 誰も裁いてくれない過ちを 全身にまといつかせたまま 雑踏に逃げ込もうとする背中に 容赦なく突き刺さる ふたたびの蝉時雨 ---------------------------- [自由詩]かたおもい/nonya[2014年8月3日9時52分] 華がなければ 覚えてもらえない 名前がなければ 呼んでもらえない 色がなければ 背景にもなれない 嫌ってもらわなければ 記憶にもなれない でも 生きている あなたが見ているのと まったく違った世界で 悠々と生き長らえている そして あなたが 見たこともないような指使いで あなたが 見ることもないであろう風景を 飽きもせず描き続けている わたしが 誰だかわかる? まるで 雑草に話しかけられたような顔だね でも それでいいんだよ わたしを知らないことが あなたのプライドになるのなら それでいい ---------------------------- [自由詩]八月の欠片/nonya[2014年8月9日13時29分] GIRAGIRA あの頃の僕の瞳は 油の浮んだ水溜り 空も街も人も季節も 虹色に濁って見えた 今にも分解しそうな心を 繋ぎ止めていたのは 少し哀しい臭いのする ギラギラ KURONEKO 柔らかな曲線で閉じられた 暖かい真っ暗やみ 密やかな身のこなしで 人の時間に潜り込み ふたつの小さな月で 人の暮らしを涼やかに眺める WADACHI 去年の夏の戯言の 文字を入れ替えるだけで 今年の夏の戯言になるという わたしの薄っぺらな現実 綺麗に足跡を残そうと 格好つければつけるほど 泥濘にはまってしまうという わたしの安っぽい真実 浮き足立った今日を いくら繰り返しても辿り着けない わたしのあした 遠ざからない昨日を いくら眺め返しても見つからない わたしのわだち UTSUWA 小さすぎて すぐに溢れてしまう器 ヒビが入っていて いつも漏れてしまう器 そんな出来損ないの器を 人と呼ぶのなら 際限なく注がれるのは時で 底に辛うじて残るのは 滓のような後悔 RASEN 何かに熱中している時の ちょっと尖った唇の形も 好きだったけれど 見た目ほど器用ではない 細くて長い指の形も 好きだったけれど 本当に欲しかったのは 君の中の螺旋 君の中の柔らかな設計図 MOUSHOBI あらゆる雲を排除して 空が真夏を熱唱する 草花は項垂れて 鳥の囀りは蒸散して 聴衆は身動ぎもしない影だけ あらゆる朝を排除して 夜明けは真昼に接続された 炎天下の庭に水を撒く 君の溶けかけた肩越しに 架かった小さな虹だけが 略奪された朝への ささやかな抗議 ---------------------------- [自由詩]ロックン・ポエム/nonya[2014年8月12日13時06分] <ザ・ロング・アンド・ワインディング・ポエトリィ> 言葉はいつも 戸惑いながらやって来る 曲がりくねった道を通って 日常の生温い闇をすり抜けて 言葉はいつも 恥じらいながらやって来る 風の吹きすさぶ道を通って 時間の凍てついた檻をすり抜けて 唇はいつも 一番の近道を探している 想いを伝え切れたことがあっただろうか 指はいつも 見切り発車をしてしまう 詩なんて書けたことがあっただろうか <アキレス最後から二番目の戦い> かかとのプロテクターは ずいぶん前からはずしてあるけれど 誰も気づかないふりをしている 僕は不死身でなければいけないらしい 凱旋のセレモニーなんて 本当はあまり好きじゃないけれど 誰にも気づかれないようにしている 僕は英雄でなければいけないらしい 誰も生きろとは言ってくれない 賞賛と祝福の檻の中で 僕は勝ち続けるしかないらしい 誰も死ぬなとは言ってくれない 感動と伝説の波の上で 僕は敗れ去るしかないらしい <ホテル(仮)フォルニア> 幾つものペルソナを使いこなして 君のリビングルームに辿り着いた 僕は勤勉なオレンジ風味 日常を心地良くそよがせることだって出来る パラレル・ワールドを渡り歩いて 君のベッドルームに潜り込んだ 僕は不埒な赤ワイン風味 妄想と一晩じゅう絡み合うことだって出来る どんな夢を見続けようと仮の姿 僕は何者にもなれるけれど この時間からは決して逃れられない どんなに生き永らえようと仮の姿 僕は何処へでも行けるけれど この肉体からは決して逃れられない <ボーン・イン・ザ・USO> すべてのウソツキは 永久の権利として基本的人権を与えられているのか すべてのウソツキは 健康で文化的な最低限度の生活を営んでいるのか すべてのウソツキは 人種信条性別社会的身分によって差別されないのか すべてのウソツキは 武力による威嚇または行使を永久に放棄しているのか 嘘も方便の国に生まれた 僕はホラフキ天狗茸 シンジツの痛さなんて知るよしもない 嘘から出たまことの国に生まれた 僕はホラフキ男爵芋 ホントウの苦さなんて知るすべもない <すごーく・オン・ザ・ウォーター> 水を向けたら恐る恐る白状した 水臭いなあ今まで黙っていたなんて 水商売の過去なんて全然気にしないよ 水色のプラトニック・ラヴを望んでいたわけじゃない 水心あれば魚心ついでに下心 水清ければ魚棲まずただじゃ済まず 水に流したふりをして引き留める 水増しした優しさの下に水浸しの未練を隠して すごーく・オン・ザ・ウォーター 水難の相あるも 水の低きに就くが色事師 すごーく・オン・ザ・ウォーター 水子の霊見えるも 水は放蕩の器に随う ---------------------------- [自由詩]モドキ/nonya[2014年8月17日15時32分] なかなか膨らんでくれない風船に 飽きもせず息を吹き込み続ける 何処かに穴が開いているのを知りながら 滑稽な独り遊びを止めることが出来ない 春には妄想を咲かせて散らして 夏には傷痕を弄んで痛がって 秋には郷愁を嘲笑って抱き締めて 冬には孤独を気取って飼い慣らせず なかなか膨らんでくれない風船は 未だに空の素っ気なさを知らず 明け透けな虹の嘘っぱちを見抜けず 浮力のない言葉の欠片を漏らすばかり それでも 雲のように眺められたくて 光のように弾んでみたくて 膨らまない風船に息を吹き込み続ける あくまでも 耳ではなく目から忍び込むため 声ではなく文字を響かせるため 萎んだ風船モドキに想いを吹き込み続ける 開いた穴なんて探さずに いつまでもモドキのまま おそらく息と想いが続く限り ---------------------------- [自由詩]百鬼繚乱 < 1 >/nonya[2014年8月24日15時17分] ROKUROKUBI (ろくろ首) 夕暮れの観覧車に 絡みついた わたしを解いて BMWの助手席に しがみついた わたしを引き抜いて あなたの吐息と唇が 辿った うなじを縮めて あなたの名前を何度も 歌った 喉笛を引き寄せて わたしは女の形をした 哀しい色の器に戻るの KAMAITACHI (かまいたち) 君の前髪を そよがせるだけで 良かったのかもしれない 放置自転車を なぎ倒す必要なんて なかったのかもしれない 誰にも相手にされず いつの間にか透き通り ビルの狭間のつむじ風に 成り果ててしまった僕だけど どんなに荒ぶろうと コンクリートのだまし絵の中では 自慢の鎌もすぐに刃こぼれして もう誰の身体にも心にも かすり傷ひとつ残せやしない JOROUGUMO (女郎蜘蛛) 給湯室の天井に 蜘蛛の巣がはったと みんな騒いでいるけれど それ わたしの溜息だから 気にしないで欲しい 人間関係って 蜘蛛の巣より厄介 みんな澄ましているけれど がんじがらめの魂なんて 美味しくなさそうだな もうそろそろ潮時かも 言い寄る男は多いけれど 糸のような柔らかな嘘を 張り巡らすのにも疲れたし 光る石も朽ちない葉っぱも 何も欲しくはない 本当に欲しいのは 本能がしたたる生臭い魂 欲情のてっぺんだけを食べるのが わたしの贅沢 悦楽のまんなかで果てるのが あなたの贅沢 OUMAGATOKI (逢魔時) 得体の知れない不安は 背中にこびりついて 人の危うい時間の中で 寄せては返す 見えないからと言って 何もいないわけではない 人の目はとても良く出来た 節穴のようなもの たとえば昼の終わりと 夜の始まりの挟間から にゅうっと突き出した 青黒くて細い指先に 震える背骨を掴まれたなら 人ではない何かが 見えてしまうかもしれない ---------------------------- [自由詩]百鬼繚乱 < 2 >/nonya[2014年9月3日22時45分] HONEONNA (骨女) わたしの肩甲骨を あなたの冷たい指先が 抱き寄せると わたしの胸骨は 哀しく軋んで あなたの裏切りを覚った わたしの鎖骨を あなたの嘘がゆっくりと 伝い落ちて あなたの名を呼びながら わたしの末節骨は 宙をつかむ けれど ベッドの下にそっと落とした わたしの涙骨 気づくのはいったい 誰なのかしら * NURIKABE (塗壁) 君は壁を作る 今日も明日も壁を作る そして壁は迷路を作る その中を君は さまよい続ける 君は壁を作る 透明 の壁を作る 透明の壁が連なった透明 の迷路からは 人は見えるけど温もり は受け取れない 街は見えるけど行先 は皆目分からない 君はいつも疲れて いるのに 壁を作るのを止められない     僕は壁になる 用もないのに 壁になる 時々君は僕にもたれかかっ て 流れる雲をぼんやりと眺める 僕 はただ見守ることしか出来ない ひと 休みしたら 君はまた壁を作りに行く のだろう 迷路をもっと複雑にしてし まうのだろう       でも君は 何処に出口があるのか知っている 出 られないのは自分の弱さであることも  もしも夕焼けに涙ぐむようになった ら 僕はいつでも君の重さを支えてあ げる 袋小路のどんづまりの壁として * NOPPERABOU (のっぺらぼう) モノとコトが溢れすぎていて 嫌になる 何処を歩いても躓いたり振り回されたり 限られた時間しか与えられていないのに どうして こうも難しく生きようとするんだろう 人って もしも明日目覚めた時にモノとコトが キレイさっぱり 初期化したみたいに消えていたら みんな怖じ気づいて固まってしまうんだろう せっかく 本当の自由を手にいれるチャンスなのにね わたしならまっさらな今日の片隅に 雲に似せた眉を描いて 空の色の瞳を描いて 丘の高さの鼻を描いて 心地好くせせらぐ口を描いて 小鳥を描いたら耳のようにぶら下げて 新しいわたしを始めるだろう どうせモノとコトを並べ替えるだけの コピペしたような毎日が続くんだから たまには そんなことが起こってもいいと思うんだけど * NURARIHYON (ぬらりひょん) つかみどころなんて あったってしょうがない そんなにやすやすと つかまってやるものか 若い頃の苦労は 買わずに質に入れたし 長い物には 巻かれるふりして帯にした どんなに虫が好かなくても 真っ正面から当たるなんて 青臭いドジは踏まない 風を知り尽くした柳のように へらへらと言葉をかわしながら いつまでもつき合ってやるぜ 今宵も ぬらりんと 夜の街に這い出したら 宴の ひょんな末席から おやじギャグでも散布してみるか ---------------------------- [自由詩]彼岸/nonya[2014年9月22日19時49分] ほどよく素っ気ない風が 袖をめくり上げたシャツを 透過していく さらさらと粉っぽい光が 釣鐘堂の屋根を滑り 落下していく 手桶と柄杓と 線香と花と いくばくかの懐かしさをぶら下げて よちよち歩く 真っ赤な噴水を避けながら 躓かぬように 転ばぬように やがて 見覚えのある御影石 石を洗い 線香と花を供え 数珠を絡ませた手を合わせる こういう時 みんな何を思うのだろう 願いなのか報告なのか 誓いなのか謝罪なのか まさか愚痴などではあるまい 束の間の暗闇と沈黙の底で 他愛ない想い出だけが駆け回る 御先祖様は こんな出来損ないの子孫のことを 不憫に思ってくれるだろうか ゆっくりと目を開けて きまり悪そうに見上げる空には 軽やかになった肺呼吸の痕跡が いつまでも残っていた ---------------------------- (ファイルの終わり)