由木名緒美のおすすめリスト 2019年8月31日13時23分から2019年11月24日7時33分まで ---------------------------- [自由詩]今日の地球/ひだかたけし[2019年8月31日13時23分] 今日の地球は輝雲の塊り 夥しい雲を集めては流し込み 遠去かっていく、巨大な星の地平線 )僕は今日という日に何を求めていただろう? )今となってはすっかり忘れちまった ただただ絶えず吹く風が 夥しい輝雲を集めては流し込み ゴォゴォ遠去かっていく、巨大な輝きの地平線に 在ることの凄さを見せつけて 今在る奇跡を響かせて ---------------------------- [短歌]まねごと――悲哀のもどかしさ/ただのみきや[2019年8月31日21時01分] 互いから目を反らすため見るテレビテープを貼った風船に針 見開いて水に倒れた金魚の目土葬にした日の絵日記帳 酒が止み雨に酔ったら螻蛄(ケラ)の声死ぬまで愚直に夢を掘り 四十万にも始まりありと邯鄲(カンタン)は黄の花房に弓を休めて 時を経て忘れられる人られぬ人胃を裂くような嗚咽を隠す 靴音のタクトが響く朝に絵画たちの沈黙はフォルテシモ 里子に出たか継母からしからぬ声の鴉に問うては笑う 海のない土地で育ったからいつまでも他人のまま愛していた 鴎たちが美しい刃になって奪いに来る凪ぎだからこそ 揃えた靴が太陽に熟れ旗竿に踊った誰もいない白                         《2019年8月31日》 ---------------------------- [自由詩]明るい夜/都築あかり[2019年8月31日23時38分] 蕩けてしまった君の体温を 両手でかき集めようと、 必死にもがいたって、こぼれ落ちる。 そんなものを僕はもう、 忘れてしまったのかもしれないね。 記憶なんて、きっとそんなもの。 風。虫の音。そして星になった君。 それなのに今日は満月だから 君が幾ら瞬いていたって、 誰からも気づかれない。 ---------------------------- [自由詩]光の窓/ガト[2019年9月3日23時55分] 海に潜り 息を全部吐き切って 胚を空にすると 体は砂底まで沈む 水が冷たくなって 辺りが暗くなって とても怖いんだけど そこで仰向けになって 見上げる海面の 美しさと言ったら まるで 宇宙の闇の中で 輝く光の出口を見つけたみたいだ まるで 死者の国から 命の煌めきを見ているみたいだ ---------------------------- [自由詩]ブルーな歌がブルースというわけではない/秋葉竹[2019年9月4日0時22分] 持ちきれないほどの 暖かい気持ちが なんどもなんども老いたミュージシャンの胸を 叩き割ろうとしたから とても遠いむかしのような 白い霧の朝のニュースを止めてでも 真空管ラジオに乗せて グッバイ マイ オールドフレンド というノスタルジックな新曲を 流し続けるのだこの街では 振り返って、歌ってみて? うまれてきたことが 失敗だったという 幻滅すべき真実を 知りたくはなかったのに 悪役になんかかたくなにでもけっして なりたくなかったけっしてたどり着けない 彼方のほこりっぽい街では 閑古鳥が鳴く映画館で お涙ちょうだいラブロマンスが 上映されているらしい 振り返って、歌ってみて? 主役を演じるのは かつてクスリで捕まった 哀しげな笑顔が似合う あの名女優なのだろうか あゝ、名前は失念して申し訳ない 吹く風さみしく、砂ぼこりをあげて そんなブルーな想いが 歌になって風へ還る 振り返って、歌ってみて? あるいは、 繰り返して、歌ってみて? その風をかわいたブルースと呼んで べつに間違ってはいないと思う夜は寒い。 ---------------------------- [自由詩]耳を塞いで/こたきひろし[2019年9月4日1時05分] 耳を塞いで 音楽を聴いている 心をいっぱいに開かないと 聞こえてこないメロディ やさしさ とか 愛しさ とか 切なさ とか 刹那さとかが 入り交じって この胸の奥底から たちのぼってくる音楽 命の欠片に 息を吹きかければ 何処か 遠くから 聞こえてくる 囁き 愛する人の体の中心に 唇を這わせて 狂おしくみだれ そして 果てた 夜に ---------------------------- [自由詩]感情の極彩/都築あかり[2019年9月4日1時28分] 僕達の関係なんて、 たかだか青い春でしかなくって、 赤い糸なんて微塵も感じなかった。 ただそれだけだ。 花が咲いて、風に吹かれて、ただ枯れゆくように、 希薄な儚いものでしかなかった。 それでも、僕達はそれにしがみついて 信じてやまなかったのだ。 ただそれだけだ。 そんなものに感情を揺さぶられ 悲しみ哀しみ憐れむ。 色なんて、目に見えないもので、 ただただそんなものに 呪縛されていた。 解放されて、今僕に何が残るのだろう。 感情なんて色彩でなんか 表せやしないのに。 僕はただの灰色の肉片。 ---------------------------- [自由詩]光溢れる人人人/ひだかたけし[2019年9月9日16時41分] 光溢れる 今日という日を 歩いていく、人人人 何の目的もなく 何の行先もなく ただ新しい出逢いを求めて 一回限りの生を燃焼させて そうだったらいいのになあ そうだったら素敵なのになあ 光溢れる今日という日、 余りに眩し過ぎて 僕はイートインで一休み、 歩き過ぎる人達を 夢見心地で見つめている ---------------------------- [自由詩]記憶/ひだかたけし[2019年9月10日13時32分] 夜が深まっていく 連絡がつかない、繋がらない 隣室ではコツコツと壁を打つ音、間欠的に 遠くの森を手を繋ぎ歩いた愛娘は 青春を謳歌しているだろうか、今頃 夜が深まっていく オレンジジュースがやたらと飲みたい 隣室では相変わらずコツコツと壁を打つ音、間欠的に 彼(彼女)も遠くの森を歩いた記憶があるのだろうか 繋がらない父親と 今も、今にも ---------------------------- [自由詩]雨待つ木霊/来世の[2019年9月10日23時09分] (こども を  産みます  か ?  産みましょう  いいえ、 いいえ……) 枝葉の陰ひそか、  戦っていたことをおもいだしてしまうから  平易なことばに紐解いてください 真夏に満たない六月の 善悪も知らぬ 狂暴な日射しに 耐えきれず死んでゆくいのちよ 十四、五の 青いたましいを手放せない者たちを 弔えず 燦然と 喝采がうねり今、喰らわんとする! ---------------------------- [自由詩]今からおよそ千年前に/こたきひろし[2019年9月11日0時42分] 今からおよそ千年前の一夜 俺は童貞を喪った 男にも純潔はあるんだ 女性だけのものではない 男だって 一途に思う人の為に 男の操を守るのは 称賛されなくてはならない ただそのお値打ちに 差異がうまれてしまうのは 仕方ないのかな 例えば 結婚式にバージンロードが敷かれても チェリーボーイロードはないんだから おかしくないか 今からおよそ千年前に 俺は童貞を喪った 妄想好きの俺の戯言だけどさ 千年前の男女の性の営みは 原始的に違いないと思うから よりケモノに近いだろう 道徳観とか倫理観とか なくて もしくはないに等しくて 自由におおらかに 快楽を求めあったんじゃないかな 勿論、生殖器としても その時代にタイムスリップして もう一度 童貞 喪失したいな その時代 寿命は短いから その分 命の密度が濃いに違いないから ---------------------------- [自由詩]オニヤンマ/梅昆布茶[2019年9月12日22時09分] 季節は流れ詩は座礁して はるか太平洋の真ん中の島に流れ着くだろう いきることが何かの証明ならば 返す言葉がつまづいたままでいきてゆこう あるいは人生に返す言葉を紡ぎながら 座興だなんて 生きることを踏みにじりたくもないので ぼくときみの邂逅が46億年の証明ならそれでよい だけど君の背中に羽がついていないのはぼくのせいではない そういった羽を供給する会社の社員ではないのだから ぼくは優しい気持を維持できない時代がずっと続いている 雨あがりの森のなかの木漏れ日みたいなのがほしいんだが無理なんだ おどけてみても採用されない道化師がせいぜいかもしれない この詩がどこかにとどくのならば きみのもとにそっと送ろう ぼくは寝たふりをしてそれでも 十数年ぶりにみたオニヤンマがおしえてくれた空気の重さみたいな きみの静かな振動に触れてみたかったのかもしれない ---------------------------- [自由詩]神宮球場の夜/服部 剛[2019年9月25日22時25分] 時は令和元年9月23日月曜日   神宮球場ナイトゲーム 8回の表  試合は佳境にさしかかり 引退を心に決めた阿部選手の同点ホームランで (球場内はどっ、と湧き) 続く若手・大城選手の勝ち越しホームランで (球場内はどどっ、と湧き) 気づくと客席の僕は 周囲の皆がくるくるくるくる回してる オレンジ色のタオルの代わりに スポーツ新聞の端を、つまんで  くるくるくるりっと回してた  後ろのG党がーるが、言った 「ヤバイ」 ってのは ――逆説の言葉の世界の醍醐味(だいごみ)だ…   と思い 生ビールをぐいと飲む 8回の裏 サウスポーの田口投手がノーアウト満塁の 大ピンチを迎え 後ろのG党がーるが、言った 「ヤバクね?」 というのを聞いて ――語尾のアクセントが上がるのはなぜ! ってつい思っちゃうのは 僕もおっさんになった証であろうか… 日々のグラウンドで 自分の役を のらりくらり演じて ふいに訪れたピンチの最中(さまか)で 余裕こいて言えるかな  「やばくね?」 と   ---------------------------- [自由詩]蝉の声/服部 剛[2019年9月25日23時24分] 背後にひとり立つ木の葉群から  夏の終わりの蝉の鳴き声…ふりしきる 路面を歩いていると ふいに 涼しくなった 見知らぬ誰かが 水をまいた道だった 私は、気づいていたろうか いつのまにか助けられている 誰かの手に 私は、なれるだろうか さりげなく差し出す 誰かの手に 風に揺れて呼んでいる 緑の葉群のトンネルに、私は入ってゆく 夏の終わりにふりしきる…蝉の鳴き声に 包まれながら この世の何処かで待つ人影が ひとり立つ 遠い光の出口へ   ---------------------------- [自由詩]即興対話詩1 〜おもろい日々へ〜/服部 剛[2019年11月23日16時43分] 誰の手が自分を温める?  日本の何処かに そんなお方はいるやも知れぬが  ああせめてその日まで  俺は俺の情けない手で  俺自身を温める  俺は俺の最上の友達  人知れぬ  酸いも甘いもわかってくれる  さあ温かいものを探せ  コンビニへ駈けこめ  まずはもつ煮と熱燗で  おもろい明日を企(たくら)むのだ   ---------------------------- [自由詩]水に浮かぶから舟なのさ/こたきひろし[2019年11月24日7時33分] 水に浮かぶから舟なのさ 砂に打ち上げられて 歳月に干からびてしまったら 死骸の類いになっちまうだろ 水に泳ぐから魚なのさ 網に引っかけられて 市場で売られたら 人の胃液で溶かされる どんなに胃液で溶かしても 人の体に鱗は付かない 何だか馬鹿を口にした 海は地球の水溜まり 浪は海の叫ぶ声? 川は陸の血管なのか? それともただの欠陥か 人は過剰に水を得ても 魚みたいに泳げない ---------------------------- (ファイルの終わり)