由木名緒美のおすすめリスト 2019年7月23日21時59分から2019年9月25日23時24分まで ---------------------------- [自由詩]海に生まれて/丘白月[2019年7月23日21時59分] 赤ちゃんは ありったけの 激しさで泣いて 海から生まれる きっとありったけの 感謝の言葉を忘れないうちに はき出している ずっと海の底で思っていたことを 暖かな海に抱かれて ずっと目を閉じて 海の底で暮らしていた 鼓動だけが聞こえる世界で 宇宙飛行士が 地球に帰ってきたように 水のない重力を感じてる 不安定な世界を でも目を開けたとき ありったけの笑顔で 回りを見る 帰ってきた喜びで これからの一生分の笑顔を 生まれた時に見せて 親にはどんな苦労もさせる 親が一生忘れない笑顔で ---------------------------- [自由詩]ことばだけが夏に欠ける/かんな[2019年7月24日16時58分] 静けさが鼓膜に当たる しとん。と打ちつけるひとりの音 風に耳をつけるたびに聴く 傍らに佇むような誰かの鼓動 暗やみを角膜が吸い込む ひたん。と拡がるひとりの気配 窓辺に佇むと街灯が眩しい 隣の誰かの影を追いかける瞳 残り香が鼻腔を通り抜ける しゅるん。と消えるひとりの面影 換気扇に向かって思い出が揮発する 誰かと誰かが擦れ合う瞬間 塩っぱさを舌先で舐め転がす ぴしょん。と溶けるひとりの時間 製氷機が自動で冷えた生活を作る 固まらない誰かの気持ちが揺らぐ夏 雨が通り過ぎて ひしゃげていく道の途中 温もりが右腕に摩擦を起こす じとり。と壊れていくひとりの私 布団の中綿を水分が湿らせていく 触れたいあなたにただ触れたいわたし 伝えられないことばだけが夏に欠けていく ---------------------------- [自由詩]水源地/ただのみきや[2019年7月28日14時02分] 山の斜面の墓地を巡り抜けて 今朝 風は女を装う 澄んだ襦袢が電線に棚引いて 蝶たちは編むように縫うように ぎこちなく鉈を振るう 季節の塑像が息を吹き返す前に キジバトの影が落ちた 泣き腫らして膿んだ一個の眼球 砕けたオカリナは土に還り 地は雨の慈愛に潤む 蛇には合掌する手はなく 微かな温もりを探して傷んでいた 沈黙と傾聴の細波に 緩やかに身を滑らせて しとしとと ただ しとしとと 水は群れ円みを帯びる 坂道に立ち止まる 向きを変えれば登りは降り下りは上り 生の歩みと交差して 時の流れを断ち切って 夢現のあわいを行き来する 重力は虫ピンのように脳天を貫いていたし 永遠の視座からの眼差しに絶えず焼かれていたが 落っこちるように登り 羽ばたいては転げ落ち 答を決しても心は揺れるいつまでも 白木の箱の不眠 天秤皿の上の暮らし ――あっちの皿には何がある 女と蛇がむつみ合う叢の中の一軒家 オニユリを添えて ああ大きなマイマイが踵の下で砕けた 硬くも脆い感触は そのままわたしの頑なさと脆弱さ 濡れ落葉の上に広がる内臓よ 吐露したものはすぐに異物と化して カンバスの奥に埋もれている 原初の形が恋を真似 記憶より深い所から 景色の口を開かせる 寡黙な合わせ鏡 光はゆっくりとただゆっくりと 逸脱を求めて泣きじゃくる ぬるい雨は乾き 朴訥な筆はかすれ 夏は口移しで宿る 眠りの中で翼を切り落とした鳥は 暁に追われて目を覚ます 重体患者の意識が戻るように 時の流れに馴染む頃 鍵も鍵穴もない場所に腹をすかした青空があった  術もなく囀る人々の孤独の狼煙にも何食わぬ顔の 解き明かす者は自らをさらけ出す 意味は影 追っても踏んでもするりと逃げて 振り向く顔はいつも光に溶けている 細道を抜けて行こう 懐かしい匂いに惹かれ 澄んだ死体が待つ水辺 沈まない夕日にオオミズアオが揺らめき渡り 胡桃の梢の辺り 不意にキアゲハが追い立てる 嫉妬すら乱反射 大気の宝石から羽化した娘たち わたしの嘘と戯れ競え 昼の光は視覚で操る 見ているものをも見る己をも疑わず 互いを言葉で縛り合う堂々巡りの果て 闇は訪れる 堰を切ったように 肉体の木霊 皮膚の細波が 眠りへと誘うまで 尚もわたしは刃物を握る もう己と空白しかないにも関わらず 辿り着けない 水源地まで                  《水源地:2019年7月28日》 ---------------------------- [自由詩]命、輝いて*/ひだかたけし[2019年8月26日16時56分] 命、光輝く 命を生け贄として 幸せ、花開く 不幸せを養いとして どんなに喜びの深い海にも 一粒の涙が 溶けていないということはない *谷川俊太郎『黄金の魚』より ---------------------------- [自由詩]旅行紀/墨晶[2019年8月26日23時01分]             r?vis? et r?affich?  極夜の惑星(ほし)  地を這う花々  争う蝶たち  眠る海  砂丘の焚書(たきび)  広場(plaza)  切れぎれの風(つぶやき) ( わたしは ) 影 ( そして ) 骨 ( さらに ) 谺 ( 打つ掌(たなごころ)にして ) 既?感             四連最終行 ( ) 内は      角川文庫      昭和四十年十二月二十日発行      シャルル・ボードレール 著      村上菊一郎 訳     「 全訳 悪の華 」所収     「 われとわが身を罰する者 」から拝借・引用させて頂いた   ---------------------------- [自由詩]詩を書くということ(改訂)/ひだかたけし[2019年8月30日11時24分] 詩の言葉を置くことは 一つの救い わたしがあなたが 不安に恐怖に脅えていても 詩はわたしをあなたを守ってくれる その細やかな細やかな律動で 二度と反復され得ない 真新しいビートを刻んで 詩は命の地下水脈 掬い出すのは魂の行為 詩を書くこと それは、祈りの行為 湧き出す言葉に跪き ---------------------------- [自由詩]今日の地球/ひだかたけし[2019年8月31日13時23分] 今日の地球は輝雲の塊り 夥しい雲を集めては流し込み 遠去かっていく、巨大な星の地平線 )僕は今日という日に何を求めていただろう? )今となってはすっかり忘れちまった ただただ絶えず吹く風が 夥しい輝雲を集めては流し込み ゴォゴォ遠去かっていく、巨大な輝きの地平線に 在ることの凄さを見せつけて 今在る奇跡を響かせて ---------------------------- [短歌]まねごと――悲哀のもどかしさ/ただのみきや[2019年8月31日21時01分] 互いから目を反らすため見るテレビテープを貼った風船に針 見開いて水に倒れた金魚の目土葬にした日の絵日記帳 酒が止み雨に酔ったら螻蛄(ケラ)の声死ぬまで愚直に夢を掘り 四十万にも始まりありと邯鄲(カンタン)は黄の花房に弓を休めて 時を経て忘れられる人られぬ人胃を裂くような嗚咽を隠す 靴音のタクトが響く朝に絵画たちの沈黙はフォルテシモ 里子に出たか継母からしからぬ声の鴉に問うては笑う 海のない土地で育ったからいつまでも他人のまま愛していた 鴎たちが美しい刃になって奪いに来る凪ぎだからこそ 揃えた靴が太陽に熟れ旗竿に踊った誰もいない白                         《2019年8月31日》 ---------------------------- [自由詩]明るい夜/都築あかり[2019年8月31日23時38分] 蕩けてしまった君の体温を 両手でかき集めようと、 必死にもがいたって、こぼれ落ちる。 そんなものを僕はもう、 忘れてしまったのかもしれないね。 記憶なんて、きっとそんなもの。 風。虫の音。そして星になった君。 それなのに今日は満月だから 君が幾ら瞬いていたって、 誰からも気づかれない。 ---------------------------- [自由詩]光の窓/ガト[2019年9月3日23時55分] 海に潜り 息を全部吐き切って 胚を空にすると 体は砂底まで沈む 水が冷たくなって 辺りが暗くなって とても怖いんだけど そこで仰向けになって 見上げる海面の 美しさと言ったら まるで 宇宙の闇の中で 輝く光の出口を見つけたみたいだ まるで 死者の国から 命の煌めきを見ているみたいだ ---------------------------- [自由詩]ブルーな歌がブルースというわけではない/秋葉竹[2019年9月4日0時22分] 持ちきれないほどの 暖かい気持ちが なんどもなんども老いたミュージシャンの胸を 叩き割ろうとしたから とても遠いむかしのような 白い霧の朝のニュースを止めてでも 真空管ラジオに乗せて グッバイ マイ オールドフレンド というノスタルジックな新曲を 流し続けるのだこの街では 振り返って、歌ってみて? うまれてきたことが 失敗だったという 幻滅すべき真実を 知りたくはなかったのに 悪役になんかかたくなにでもけっして なりたくなかったけっしてたどり着けない 彼方のほこりっぽい街では 閑古鳥が鳴く映画館で お涙ちょうだいラブロマンスが 上映されているらしい 振り返って、歌ってみて? 主役を演じるのは かつてクスリで捕まった 哀しげな笑顔が似合う あの名女優なのだろうか あゝ、名前は失念して申し訳ない 吹く風さみしく、砂ぼこりをあげて そんなブルーな想いが 歌になって風へ還る 振り返って、歌ってみて? あるいは、 繰り返して、歌ってみて? その風をかわいたブルースと呼んで べつに間違ってはいないと思う夜は寒い。 ---------------------------- [自由詩]耳を塞いで/こたきひろし[2019年9月4日1時05分] 耳を塞いで 音楽を聴いている 心をいっぱいに開かないと 聞こえてこないメロディ やさしさ とか 愛しさ とか 切なさ とか 刹那さとかが 入り交じって この胸の奥底から たちのぼってくる音楽 命の欠片に 息を吹きかければ 何処か 遠くから 聞こえてくる 囁き 愛する人の体の中心に 唇を這わせて 狂おしくみだれ そして 果てた 夜に ---------------------------- [自由詩]感情の極彩/都築あかり[2019年9月4日1時28分] 僕達の関係なんて、 たかだか青い春でしかなくって、 赤い糸なんて微塵も感じなかった。 ただそれだけだ。 花が咲いて、風に吹かれて、ただ枯れゆくように、 希薄な儚いものでしかなかった。 それでも、僕達はそれにしがみついて 信じてやまなかったのだ。 ただそれだけだ。 そんなものに感情を揺さぶられ 悲しみ哀しみ憐れむ。 色なんて、目に見えないもので、 ただただそんなものに 呪縛されていた。 解放されて、今僕に何が残るのだろう。 感情なんて色彩でなんか 表せやしないのに。 僕はただの灰色の肉片。 ---------------------------- [自由詩]光溢れる人人人/ひだかたけし[2019年9月9日16時41分] 光溢れる 今日という日を 歩いていく、人人人 何の目的もなく 何の行先もなく ただ新しい出逢いを求めて 一回限りの生を燃焼させて そうだったらいいのになあ そうだったら素敵なのになあ 光溢れる今日という日、 余りに眩し過ぎて 僕はイートインで一休み、 歩き過ぎる人達を 夢見心地で見つめている ---------------------------- [自由詩]記憶/ひだかたけし[2019年9月10日13時32分] 夜が深まっていく 連絡がつかない、繋がらない 隣室ではコツコツと壁を打つ音、間欠的に 遠くの森を手を繋ぎ歩いた愛娘は 青春を謳歌しているだろうか、今頃 夜が深まっていく オレンジジュースがやたらと飲みたい 隣室では相変わらずコツコツと壁を打つ音、間欠的に 彼(彼女)も遠くの森を歩いた記憶があるのだろうか 繋がらない父親と 今も、今にも ---------------------------- [自由詩]雨待つ木霊/来世の[2019年9月10日23時09分] (こども を  産みます  か ?  産みましょう  いいえ、 いいえ……) 枝葉の陰ひそか、  戦っていたことをおもいだしてしまうから  平易なことばに紐解いてください 真夏に満たない六月の 善悪も知らぬ 狂暴な日射しに 耐えきれず死んでゆくいのちよ 十四、五の 青いたましいを手放せない者たちを 弔えず 燦然と 喝采がうねり今、喰らわんとする! ---------------------------- [自由詩]今からおよそ千年前に/こたきひろし[2019年9月11日0時42分] 今からおよそ千年前の一夜 俺は童貞を喪った 男にも純潔はあるんだ 女性だけのものではない 男だって 一途に思う人の為に 男の操を守るのは 称賛されなくてはならない ただそのお値打ちに 差異がうまれてしまうのは 仕方ないのかな 例えば 結婚式にバージンロードが敷かれても チェリーボーイロードはないんだから おかしくないか 今からおよそ千年前に 俺は童貞を喪った 妄想好きの俺の戯言だけどさ 千年前の男女の性の営みは 原始的に違いないと思うから よりケモノに近いだろう 道徳観とか倫理観とか なくて もしくはないに等しくて 自由におおらかに 快楽を求めあったんじゃないかな 勿論、生殖器としても その時代にタイムスリップして もう一度 童貞 喪失したいな その時代 寿命は短いから その分 命の密度が濃いに違いないから ---------------------------- [自由詩]オニヤンマ/梅昆布茶[2019年9月12日22時09分] 季節は流れ詩は座礁して はるか太平洋の真ん中の島に流れ着くだろう いきることが何かの証明ならば 返す言葉がつまづいたままでいきてゆこう あるいは人生に返す言葉を紡ぎながら 座興だなんて 生きることを踏みにじりたくもないので ぼくときみの邂逅が46億年の証明ならそれでよい だけど君の背中に羽がついていないのはぼくのせいではない そういった羽を供給する会社の社員ではないのだから ぼくは優しい気持を維持できない時代がずっと続いている 雨あがりの森のなかの木漏れ日みたいなのがほしいんだが無理なんだ おどけてみても採用されない道化師がせいぜいかもしれない この詩がどこかにとどくのならば きみのもとにそっと送ろう ぼくは寝たふりをしてそれでも 十数年ぶりにみたオニヤンマがおしえてくれた空気の重さみたいな きみの静かな振動に触れてみたかったのかもしれない ---------------------------- [自由詩]神宮球場の夜/服部 剛[2019年9月25日22時25分] 時は令和元年9月23日月曜日   神宮球場ナイトゲーム 8回の表  試合は佳境にさしかかり 引退を心に決めた阿部選手の同点ホームランで (球場内はどっ、と湧き) 続く若手・大城選手の勝ち越しホームランで (球場内はどどっ、と湧き) 気づくと客席の僕は 周囲の皆がくるくるくるくる回してる オレンジ色のタオルの代わりに スポーツ新聞の端を、つまんで  くるくるくるりっと回してた  後ろのG党がーるが、言った 「ヤバイ」 ってのは ――逆説の言葉の世界の醍醐味(だいごみ)だ…   と思い 生ビールをぐいと飲む 8回の裏 サウスポーの田口投手がノーアウト満塁の 大ピンチを迎え 後ろのG党がーるが、言った 「ヤバクね?」 というのを聞いて ――語尾のアクセントが上がるのはなぜ! ってつい思っちゃうのは 僕もおっさんになった証であろうか… 日々のグラウンドで 自分の役を のらりくらり演じて ふいに訪れたピンチの最中(さまか)で 余裕こいて言えるかな  「やばくね?」 と   ---------------------------- [自由詩]蝉の声/服部 剛[2019年9月25日23時24分] 背後にひとり立つ木の葉群から  夏の終わりの蝉の鳴き声…ふりしきる 路面を歩いていると ふいに 涼しくなった 見知らぬ誰かが 水をまいた道だった 私は、気づいていたろうか いつのまにか助けられている 誰かの手に 私は、なれるだろうか さりげなく差し出す 誰かの手に 風に揺れて呼んでいる 緑の葉群のトンネルに、私は入ってゆく 夏の終わりにふりしきる…蝉の鳴き声に 包まれながら この世の何処かで待つ人影が ひとり立つ 遠い光の出口へ   ---------------------------- (ファイルの終わり)