鵜飼千代子のおすすめリスト 2021年5月23日11時08分から2021年6月16日0時02分まで ---------------------------- [俳句]料理で俳句? ボルシチ/SDGs[2021年5月23日11時08分] 本日のお品書き〜ボルシチ〜  ボルシチや一階五十円二階千円  一物二価とはまさにこのことだろう。べらぼうめ、たいめいけん。ということで、私は専ら1階の人である。  たいめいけんのボルシチは屑野菜のスープである。キャベツの芯、ジャガイモの切れ端、ニンジンのぞんざいな角切り、それぞれ一個づつ入った代物である。スープの出汁はなんだろ。牛骨かな?で、これがうまいかと問われればうまくない。ではまずいのかというとまずくない。ただ食べ終わったときにじわっと残るものがある。味の余韻といっては五十円のボルシチにはもったいない形容だが、あてはまらなくはない。で、おかわりをということになる。  たいめいけんは食券制度になっていて、入り口正面にカウンターがありその奥に老嬢が座って切符のような薄い紙を寄越す。私を見て 「・・・(また来たよ、このボルシチ男が)・・・」 と無言で五十円と引き換えにボルシチ券を差し出す。 私は私で 「・・・(ほんとうはあと三枚は欲しいんだがなあ)・・・」  私には食い物に関しては徹底するクセがあって、赤ナマコがあれば店中のすべてを食べてしまう勢いで注文するし、小ぶりでやわらかそうなアワビがあれば、ある分すべて平らげてしまう。河豚の刺身でも・・・以下同文。金を落とすということでは上客なんだろうが、多くの客に喜んでほしいとネタを仕入れた店にとっては迷惑な客なのだろう。誠に、相すまない。  日本橋高島屋の横にあったたいめいけんは再開発エリアに指定されてしまい、日本橋川の川淵まで約五百mほど移動して営業を再開している。このコロナが終わったら行ってみるかな。一万円札を老嬢に差し出して 「ボルシチ五枚!」 言ってみたいのよ、どうしても。                *たいめいけんの二階はコース料理がメイン。 ---------------------------- [短歌]/いる[2021年5月23日22時26分] 今、私に寒いと感じさせている私の皮膚と私との距離 ---------------------------- [自由詩]寂しい夜/短角牛[2021年5月24日1時13分] 無音 寂しさ あけた窓 網戸を通りくる ひんやりと 爽やかな毒 いつ終わるのだ この 淡々と浅はかな枠の占有 急かされるように いや  急かされたせいにして 席を空ける 届くあてもない挨拶 哀しい寂寞 こんなに星の綺麗な夜なのに ---------------------------- [自由詩]来いロシナンテ/TAT[2021年5月24日15時32分] 例えばフィンセント・ファン・ゴッホが 生前に一枚の絵も売れなかったように カフカのように 俺の才能は凄すぎて 現世に生きる二流三流どもには 上手く把握しきれないだけだ ゴッホの時代にも 絵がよく売れる 金持ちの職業画家は五万といて けれどもそんな雑魚達の名は 今はもうどこにも遺ってはいない 今ではジュンク堂や紀伊国屋で 取扱いされているのは ゴッホの画集だけだ だから結局は自分の魂と 自分との戦いだけしかないんだよ そりゃあ シニカルぶって 自分が死んだ後の名声なんか 自分には関係ないから 現世を楽に生きれる 金を稼げた方が 単純に良いに 決まってるじゃないか と 高価いポロシャツ着て 嘯くのも正解は正解だが それじゃあ サバンナのライオンと同じさ 人間じゃない 人間てもっとこう ウイスキーみたいに 澱とか色々入り交じって 石油みたいに深いもんだろ? そうやって自分を慰めるしか もう道はないんだ 最期の麻薬なんだよ けれどもそのようにしてでも どんなに滑稽で愚かしくとも それでも死なずに 石を噛んででも 石に口をすすぎ 流れに枕して ドン・キホーテのように 生きるんだ俺は ---------------------------- [俳句]料理で俳句?日野菜漬/SDGs[2021年5月24日17時22分] 本日のお品書き〜日野菜漬〜   白飯をうれしがらせる日野菜漬  漬物の中で一番うまいと頑なに信じている日野菜漬だが、残念ながらあまり知られていない。「いい酒は旅をしない」というが「いい漬物も旅をしない」らしい。日野菜の主産地である滋賀と、それを加工する京都。この一府一県をなかなか出ない。こんなに何でも手に入る時代に、食いたければ来いというのか。悲しむべきか喜ぶべきか。  日野菜というのはカブの一種だが細長い。長さ二十センチ、太いところで直径一センチ五ミリくらい。先へ行くほど細くなっていく。色は白いが、茎とつながる部分があざやかな紅紫色になっている。これを酢と塩、昆布などで漬け込む。味は苦い・酸っぱい・辛いが混然一体となり、根も葉も刻んだものに?油と一味唐辛子をかけて白飯へ。三杯はいける。  京都に出張の多かった会社員時代は新幹線に乗る前に、売店で買うことができたし、時間があれば錦小路の「桝吾」だったか、漬物の専門店で購入した。ネットで「西利」や「大安」であるにはあるが、価格が高く送料もばかにならないから(♪ギャラより高い交通費〜by吉本芸人)買うことはない。百貨店の京都物産展もチャンスだが、このコロナ禍で延期つづき。日野菜漬はますます遠ざかる。  ということで日野菜が手に入らなければ壬生菜にするかと、とてもとても日野菜の代替にはならないが、ときどきスーパーの京野菜コーナーで入手し、塩・昆布・鷹の爪を塩梅良く混ぜて、漬物に。重石はポカリスエットの二リットルのペットボトルで代用。これもうまい。  思い出したが逗子銀座商店街におばあちゃんの店があって、間引いた細い大根を葉つきのまま五六本束にして塩だけで漬けたものを二百五十円で売っていたが、その店も閉まった。  白飯にはTKGが幅を利かせ、漬物の将来が案じられる時代だが、私は「白飯にはHNZ」をどこまでも推していきますがな。 ---------------------------- [川柳]光の香り/水宮うみ[2021年5月26日15時43分] タワレコのCDの匂い吸いにいきたい ピックじゃなくパンツを投げるミュージシャン まったく輝いていない謎の明かり スーパースターが光速で飛んでいく ---------------------------- [俳句]自由律俳句「食べられる退屈」(20)/遊羽[2021年5月26日16時22分]  祭りの翌朝散歩をする  懐かしい人との再会帰郷とよく似る  人の見ぬところで何かゞ行われる  うち捨てられたゴミが昔を語る  たまには黙って消えてみよう ---------------------------- [自由詩]再生/やまうちあつし[2021年5月26日16時29分] 再び生きると決めたのに わたしはわたしのまま 発しなければよかった 言葉ばかり刻まれてゆく 再び生きると決めたのに 今日も曇り空 聞かなければよかった 質問ばかり漂っている わたしが一本の樹木なら 黙って果実を落とすだけ わたしが一匹の犬なら 黙って傍を歩くだけ わたしが一羽のスズメなら 黙って飛び去ってゆくだけ わたしが一体の石像なら 黙って微笑んでいるだけ 再び生きると決めたのに マスクを外せない しなければよかった 約束ばかりぶらさがっている ---------------------------- [自由詩]無色の嘆き/st[2021年5月27日7時35分] オレの名前は無色という ちょっと変わった 名前だ みんなオレの事を わかっているようで ぜんぜんわかっていない 例えば プラスチックやペットボトルのごみ出しに 無色透明か無色半透明の袋に入れろと バカな奴がわめいているが そんな名前の袋が この世界にあると思ったら オオマチガイ ウソだと思うなら WEBを検索してみろよ 無色透明や無色半透明の袋なんて どこを探してもみつからないさ 袋を販売する業者は オレの本当の事を どうやら知っているようだ 有色無色は色みがあるかないかで 白黒グレーのように 色味のないものを無色というのだ どうだ! 驚いただろう 日本語の仲間のなかでも わかりにくいというのが オレの自慢さ 無色なんて言葉を 袋の名前に つけられるわけがないだろう この世界にある袋の名前は 透明や半透明ばかり 当たり前さ 無知をさらして 無色透明か無色半透明の袋に入れろとは あきれて ものが言えない オレの事が 全くわかっていない バカな奴らが 多すぎる ---------------------------- [自由詩]三つ編み/クーヘン[2021年5月27日14時07分] 願わくば、彼女の長い三つ編みに巻き込まれ、ぐいっと押し込まれ。 上手く言いくるめられ、やがては絞め殺され、終いには引き抜かれ。 ---------------------------- [自由詩]詩/渡辺亘[2021年5月28日14時58分] ああ大いなる愛に生きたい 太陽が全てを照らすように ああ大いなる愛に生きたい 哀しみの氷を融かすように ああ大いなる愛に生きたい 苦しみをも創造の泉にできるように ああ大いなる 大いなる愛に生きたい ---------------------------- [自由詩]w/TAT[2021年5月29日19時34分] 楽しいのは 勝手にイッパイイッパイな奴だ コンドームが常備されてるとか 新鮮な果物を注文したら シロップ漬けのフルーツが届いたとか 監禁されてホテルから出れないとかw 余裕かましてた選民が 不意にギリギリまで追い込まれて 汚ねぇ牙を剥く でかい 禍々しい牙が 人目に曝される 痺れるねぇ 演るんだろ? 演ろうよ 放映権とかで 儲けたりとかしたいんだろ? よう知らんけど いいじゃんか やろうやろう 強引に押し切ろうよ ほいで東京とか日本とか滅ぼそうぜ 世界中のみんなが幸せになる オリンピックをやろうよ 原子力爆弾が落ちたのも唯一なら 五輪開催の ハッピーカードが 革命かまされて ハリケーンボンビーの ジョーカーカードに化ける それも歴史に残る激レアでw いやはや 持ってんなぁ つくづく 笑いの神にでも愛されてんじゃないの さすがやってくれるわ我が祖国は さすが黄金の国だ 楽しくてしょうがないよ最近は wwwwwwwwwwwwwwwwwwww 不謹慎で悪いねどうも 育ちが悪いんだ 出が卑しいもんでスマン 本当に申し訳ない W ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]街燈/板谷みきょう[2021年5月30日18時37分] 村はずれの一本道に、その街燈は立っておりました。 北風と雪にさらされ、寂しく立っておりました。 ある青白く凍える晩に、月が雲の陰から顔を出して 「寂しいか。」と言いました。 街燈は、雪の下の草花を想い、雪道を照らしながら、月に言いました。 「私は、暗い夜道をこんなに照らして、人の為になっております。どこに寂しさなどありましょう。」 そうして、夜道をなお一層明るく照らし続けておりました。 「通る人など、居ないだろうに。」 月の言葉に、街燈は何も言わずにおりました。 ただ、先程よりも更に明るさを増して、佇んでおりました。 街燈の下が、昼間のように明るくなった時に 空から降りてきた雪が、気付きました。 街燈は、泣いていたのです。 気付かれないよう声を殺して、静かに涙を流しながら、無理して、いつも以上に明るく、夜道を照らしたのでした。 雪が、声を掛けようとしたその時です。 パチッ!と小さな音がしたかと思うと、街燈は消えてしまいました。 ―――何と静かな夜でしょう。 雪道を照らしているのは、月の光だけです。 雪は、街燈の気持ちを想って、明るくなるように精一杯、白く輝くように努めたのでありました。 消えた街燈に、あかりが灯ったのは、それから、何か月も後の、雪の消えてしまった翌年の春のことです。 ---------------------------- [自由詩]日曜日/番田 [2021年5月31日1時06分] 海で一人ぼっち 僕は言葉をなくしていた男 でも 風は何を語りかけてくるというのか  波の残していく 光と音の狭間で ---------------------------- [短歌]/いる[2021年5月31日23時08分] 点であることの宿命 消滅も遍在もすることができない ---------------------------- [俳句]自由律俳句「食べられる退屈」(23)/遊羽[2021年6月2日2時30分]  捕らぬ狸の皮もたまには杖になる  情報の氾濫が恐ろしい  家が一番遠い事もある  音声と文字以外の言語が最も確実  暇つぶしは余計に退屈 ---------------------------- [自由詩]六月のカレンダー/オイタル[2021年6月2日19時59分] 微笑んだり 驚いたり 目を伏せたり 口を閉じたり 騒がしく振り返り 足早に遠ざかる ぼくに親しい 五月のカレンダー 先の曲がった水道の蛇口が 瓶を外れて 地面にはねる 飛び去る鳥の声が散らばる ぼくに親しい 六月のカレンダー 低く並んだ洗濯物が まだ見ぬぼくの愚かさを笑う 風に立ち上る温みより微かに ぼくに親しい 七月のカレンダー ---------------------------- [短歌]/いる[2021年6月2日22時48分] 突然に宇宙の真理を悟るとか、よくあるらしいから気にするな ---------------------------- [自由詩]ギボウシの詩/妻咲邦香[2021年6月2日23時18分] そっと ずっと きっと やっと うそじゃないよね? ぜんぶ 嘘じゃないよね? 鳴き声は文字に出来なくても 私を迎えに来るから 長かった後悔がいつの間にか去って 傷付けたかもしれない誰かと連れ立って ふわっと さらっと ぶらっと からっと しんじられないほど 夜明けがとおくにあって 信じられないほど 緑はなまめかしいから 今日は何も手にしない 今日は何も手に入れない 汽車の来ない駅で ホームが汽笛を待っている 大きな葉っぱになって私は 裾を揺らし夢を見る 誰かが飛び越えていく頭上 だって種明かしのない手品 大事に抱えて歩いてた 錆びついたレールの上 とぼとぼと いけない事とわかってて 鍵を開けた もうすぐ街が目を覚ます そしたら私 何も知らないって言う 何も聞かされてないって そう言うよ きっと もっと はらりと さらりと すべりおちた露の甘さに見覚えがあって いつか枯れてしまったら もう会えないと思うから だからいつでもそばに置いて そっと ずっと ---------------------------- [川柳]感触/水宮うみ[2021年6月3日17時53分] 微睡みの中 よくわからない場所にいる 誰も覚えてない人の卒業式 モニュメントもにゅもにゅさわるモーメント 寒色の感触冷たいダジャレ言う ---------------------------- [俳句]自由律俳句「食べられる退屈」(24)/遊羽[2021年6月4日19時34分]  月の叢雲を眺める    都会の雑踏から逃げたくなる2月  除草剤の土地は極めて不自然  さらば故郷の山よ河よ  知恵の堂々巡りからはずれる ---------------------------- [自由詩]孫1/板谷みきょう[2021年6月5日12時11分] 娘が言う 「来年小雪は、小学校入学なんだけど ランドセルって高いんだよねぇ。」 そんな言い方で 爺婆に自分の娘のランドセルを 買わそうって魂胆に呆れながら 隣町のリサイクルショップで 赤と藤色のランドセルを 三つ買って 娘が5才と4才の孫を連れて 帰省した時に 「好きな色を選びなさい。」と 出してやった 飛び跳ねて喜んで 4才の孫は直ぐに選んで 背負ったものだから 「小雪に買ったのだから お姉ちゃんが選んだ後に 雪穂だよ。」とたしなめた 二人揃ってランドセルを 背負いながら遊んでる じーちゃん。 もうひとつは誰の。 ママの分だよ。 すると娘が お父さん ランドセルって高いのに 来年入学だし まだ買うの早いべさ。 来年の入学式までに 使い古してボロボロにして 通えば良いさ。 そう言って笑ったのも 三つ買っても 五千円しなかったからだ ---------------------------- [自由詩]孫2/板谷みきょう[2021年6月5日12時12分] 小雪は自転車の補助輪を取って 乗れるように練習してるのに 雪穂が自分の三輪車じゃなくて おねぇちゃんの自転車に乗りたいって言って 小雪よりも先に補助輪無しで 自転車に乗れるようになったさ。 雪穂にも自転車買わないと ならなくなったんだよねぇ 爺婆に自転車を買わせようって 娘の魂胆が見え隠れする 放っておいたら 孫たち二人が 自転車に乗って 走る動画を送って来た なぁんだ ちゃんと買えるじゃないの ---------------------------- [自由詩]マジックインチキ/イオン[2021年6月5日16時27分] 何にでも書ける マジックインキで 何物でもない自分でも 自分だけのものがあると 主張することができる 何にでも成れる マジックインチキで 何物でもない自分でも 自分だけはものになると 夢見ることができる マジックインキで 書いたものは 塗り潰せる マジックインチキに かけた時間は 塗り潰せない ---------------------------- [自由詩]孫3/板谷みきょう[2021年6月6日0時14分] 小雪と雪穂 今、リカちゃんの 着せかえ人形にハマってて 何だか 着替えをさせたりするのが 面白いみたいなんだよねぇ 爺婆にオネダリすれば 買って貰えるとでも 孫に教育したいのだろうか 見え透いた魂胆にも 気付かずに 孫は何かにつけて 「じーちゃん。じーちゃん。」と 纏わりついてくるのに 内心満更じゃなくなってる それで軽い気持ちで じーちゃんじゃない。 これからは ばーちゃんと呼びなさい。 そうしたら 4歳の雪穂は すっかりと ばーちゃんと覚えて 呼んでしまい 爺婆が二人して 返事をするもんだから 混乱し始め焦ってしまった そう だから贖罪に 16?の関節可動人形と 着替え服六着を セットで買ったのだ 自粛続きで会えないし 高ければ買うのも大変 それで16cmの 中華の着せ替え 関節可動人形を ネットでギフト設定にして 購入注文した それが 到着にふた月以上も かかったのだ 「じーちゃん。リカちゃんありがとう タカラモノにするね。」 孫たちが写った動画が届く 実は その人形 着替え服を入れても 千円もしない バチモン 素直に喜ぶ姿を見ると 爺は 胸がイタミマス ---------------------------- [俳句]料理で俳句?アイスクリーム/SDGs[2021年6月6日9時05分] 本日のお品書き〜アイスクリーム〜   列車旅窓を売り歩く声「アイスクリン」  遥か昔の子どもの頃、夏休みで故郷への列車旅で出会った「アイスクリーム」は衝撃だった。濃厚だった。町で買い食いするアイスクリームはいかに水っぽいかも知った。食べたのはたしか列車が「三田尻」(今の防府駅)の停車時。「アイスクリン、アイスクリン、アイスクリン・・・」と列車の窓を売り歩く声がした。  値段は五十円だったか、三十円だったか。駄菓子屋では五円でアイスキャンデー、十円でアイスクリームくらいだったから、かなり高額な商品だった。いまでこそ「アイスクリームと言えるのはアイスクリームだけで」、脂肪分がアイスクリーム基準に満たないものは「アイスミルク」と「ラクトアイス」に分類されるのは知っているが、それはそのアイスクリームと言える「本物」のアイスクリームだったのかもしれない。少しずつ豊かになっていく戦後が、旅する人の財布をマーケティングした結果の味でもあったのだ。  そしてなぜそんなものが登場してしまったのか、その理由が全くわからないのが「冷凍みかん」。たしか赤いネットに三、四個入っていたような記憶がある。その頃の冬のおやつといえばみかんだったから、なにも夏にもまた出すことないじゃないか。もう、うんざり。というのが私の感想だった。  それでも、買い求める人は多かったのだろう、何年間かは目にした。一度もらって食べようとしたが、皮を剥こうとすれば実が崩れ、つかんだ指が果肉に突っ込み、果汁が足もとに滴るばかり。冷たいみかんの置きどころもなく、つかんだまま途方に暮れた。ついに一片も口にできず、手を汚すだけの代物だった。食べるタイミングが悪かったのか、それとも冷凍ミカン独特の食べ方というものがあったのだろうか。素焼の茶瓶など鉄道の旅から消えてほしくなかったものはたくさんあるが、これだけは消えてくれてよかった。 ---------------------------- [自由詩]適切な靴を履いて歩いている薄汚い夜の現象/ホロウ・シカエルボク[2021年6月6日22時09分] ねじられ、路肩の排水溝のそばに横たわった煙草の空箱が、人類はもう賢くなることはないのだと告げている、六月の夜は湿気のヴェールをまとって、レオス・カラックスの映画みたいな色をしている、そしてこの街に、ジュリエット・ビノシュなど居ないのだ…あえて言葉にして語ろうとするならそんな気分だった、そしてもうご存じの通り、それは言葉にするほどのものでもなかった、同じ夜、もの心ついたときから幾度となく繰り返してきた、同じ夜、同じ風景、俺は年端も行かぬうちから疲れ果てていて、ウンザリしていた、ウォホールの未整理のフィルムを延々と見せられているような気分だった、そしてそこにウォホールの目線など存在しやしないのだ…駄目だ、妙な遊びが始まってしまっている、安物の靴は軽くて丈夫で、おまけに歩き疲れなかった、そしてどれだけ強く踏みしめても、葉を撫でるみたいな足音しかしなかった、それだけでも気分は少しだけマシだった、そもそも俺は靴を買わな過ぎるのだ、こいつにしたって、散歩中に突然、それまで履いていた靴のソールがパカッと外れたせいで慌てて買ったものだった、そういえばーいま身に着けている服はいつ買ったものだったろう?もう二年か、三年は前に買ったものに違いなかった、服もそうだった、買わな過ぎるのだ…だからなんだ?別に困ることもない、ハナから流行など関係ないようなものしか持っていない、洋服などあれこれ凝ったところでなんになるというのだ?「俺は服を着ている」ただそれだけのことだー外灯の光が湿気のせいで丸く膨らんでいる、二十三時にそんなものを眺めていると、地球の内部の図解を思い出す、地殻とマントルと核…だったっけ?「地球の中には別の文明がある」って話のほうが俺は好きだけどねー近頃は感染を恐れて、うろついて飲むぐらいしかやることのない連中も流石にちらほらとしか見かけない、誰とつるむこともなく、黙って、そんな通りを歩いていると、これはとことんシンプルに表現された俺の人生だという気がした、でももう、そんな考えに一喜一憂するような時間は過ぎた、なるほどね、と適当に納得しておけばそれでいい、なにもかも落ち着くところに落ち着く…生きて、何かを見て、何かを感じて、そこに自分なりの見解というものがあればそれでいい、世間にばら撒かれているものを鵜呑みにするほどに馬鹿には生まれなかった、それだけでも良しとするべきだ、ふと、友達がピアノで弾いてたビリー・ジョエルのナンバーが頭の中で鳴る、あれ、なんて曲だっけな?そんなことを気にしていると信号をひとつ無視した、けたたましいホーンを鳴らしながら悪趣味な装飾を施した軽が背中を通り過ぎる、テールライトをギザギザにして、タイヤを少しハの字にするという美意識、多分一生理解出来ることはないだろう、あれはボンタンと同じ美学だ、下品な魚が好んで食べるおぞましい生きものみたいなものだ…だけどさ、そんなものばかり食ってるやつらのほうが多ければ、そいつらが正しいみたいな空気が自然に出来ちまう、群れて騒げば何とかなる、愚者の思想はいつだって同じところに行き着くのさ、それが正しいか間違ってるかなんてことはどうでもいいんだー真夜中の駅に辿り着く、最終便はもう出てしまって、ほとんどの灯りが落ちている、良かった、と俺はひとりごちる、こんな夜にまだ、どこかに行ける便が残っていたとしたら、俺は衝動的に乗り込んでしまっていたかもしれない、そういう感情は説明がつかないものだ、人間はおそらく、自分の本質の為に生まれ、生かされる、選択するかどうかは自由だ、もの凄く分厚い本を見せられて、それを読むかどうか問われるのだ、面倒臭いと読まない方を選択したら、そこからの人生は実質空っぽだ、ただひたすら自己満足を追いかけるだけの人生だ、読み始めたところで、それはすんなりとは進みはしない、文章として整理されておらず、字も小さく、表現としても難解で読み辛い、けれどー読み進めれば必ず何かは得ることが出来る、そして、何かを考えることが出来る、面倒臭い方へ、難解な方へと踏み込んでいかなければ、本当に身になるものを掴むことは出来ない、即決は避けることだ、ひとつの事象に、三つ以上の見解を必ず持つべきだ、バリエーションの中から一番しっくりくるものを見つけ出す、その繰り返しが居心地のいい場所へと自分自身を連れていく、そうーこんな薄汚い通りを歩きながらでもね…捨てられたのか盗まれたのか、それとも忘れられたのか、歩道の真ん中に自転車が横倒しになっていた、そいつを起こして、道の端に寄せる、そんなことをしている俺を見て、二人の若い女が馬鹿にしたように笑いながら去っていく、それが彼女たちの美学なのだ、俺は首を横に振る、彼女らも誰かから生まれてきて、百年近い人生を与えられたものたちの二人なのだ。 ---------------------------- [川柳]いつか仄かな灰になる/水宮うみ[2021年6月7日16時05分] ほのぼのとのほほんとした本を読む 蝶のように喋り 蜂のように出逢う 夕焼けの下で朝陽を待っている 他人事みたいに春の傘を差す ---------------------------- [自由詩]初夏/渡辺亘[2021年6月8日7時28分] 青空に輝く銀の飛行機雲 どこまで どこまで行くのだろう 私の哀しみを載せて どこまでも どこまでも ---------------------------- [自由詩]たまに俺はあの人の事を思う/TAT[2021年6月13日22時15分] たまに俺はあの人の事を思う あの人は俺より随分上で 昔ここに書いていた詩人だ 俺はあの人から随分多くの物を貰ったが (一緒に行った沖縄旅行とか左手首に猫の顔がプリントされた茶色のトレーナーとかどろろのアロハシャツとか) 俺からは何もあの人にあげられなかった てか受けとらねーんだよな 金目の物は ガキ扱いして 乞食扱いしやがるから 例えば 五行上の 「あげられなかった」とかは 正にあの人が俺に与えた産物だ 大昔の俺ならきっと 「あげれなかった」って書いていただろうから 「違うタット。あげれないじゃないでしょ。あげられ。ら。らが抜けてる。らが要るから。なんでアナタあんなに素敵な詩が書けるのに日本語はまともに喋れないの?バカなの?」 ウイスキーにアマレットを混ぜた ゴッドファーザーでなく それよりも美味しい ブランデーにアマレットを混ぜた フレンチコネクション ともに映画のタイトル ジーン・ハックマン 1971年 どろろのアロハを検分しながら今呑んでる なるほどなるほど 吹き出しの位置とか ひとだま 井戸から延びる手 妖怪 襟 袖 背中 色々と 楽しみながら 計算しながら 作ってあるな このシャツは すまんすまん そんな当たり前の事 このシャツをもらって 十年以上も経ってさっき気付いたよ 今はもう2021だぜ? あんたがあんなに嫌がってた 国民の大運動会が なんと今年は東京で行われる ま 本当にやるか知らねえけど 空に不意に 気まぐれな猫の引っ掻き傷みたいに 流れ星がザシャッと 五〜六発流れる時 決まって俺はあんたの事を思い出す 裏を返せばあんたの事なんか 百年に五〜六回しか思い出さないハハハ ざまねえな 違うタット 五〜六発と五〜六回だと 回数同じになっちゃうから 少しずらす或いは 大いにずらした方がいいよこの場合は うるせえよ ---------------------------- [自由詩]離島の夏/梅昆布茶[2021年6月14日5時54分] 離島に夏がくる 隣の猫は人間になりかかってきた この忌まわしい季節には 神経節細胞の痛みだけが秩序ある情報なのだ ぼくの離島は温存されて 真夜中に大陸とひそかに交信する 部屋のAI扇風機は サブルーチンの迷路で 実行されない約束事を ぶつぶつ語りながら風をつくり ぼくは太古の乗り物の手入れをしながら 楔形文字の粘土板を整理しなおしてゆく ときどき離島には海風と入り混じった 上海やニューヨークからの花の種がやってきて 持ち主もない空き地のようなこの島の叙情となり いつの日にかは風化して行くばかりなのだが ---------------------------- [俳句]自由律俳句「食べられる退屈」(28)/遊羽[2021年6月15日23時23分]  流星を探したければ星は見るな  手が海苔でベタベタしている  こゝで喋れば全てが無になる  意味ない言葉でページが埋まる  明日へと繋がる階段を下る ---------------------------- [自由詩]重たい火花/竜門勇気[2021年6月16日0時02分] 二元論で交わしてる 冷たい僕らの関係に 尻尾縞々の猫が水をさす なんだかあんたらは 拒絶し合うように言葉を選んでる ニャー 猫の言葉はわからない 雲って知ってる? 空にあって 星じゃないやつ 縞々の尻尾をなでながら なにか違う出来事を探してる あの日に戻れたら何をするのか わからないから戻ってみたいんだ 知らないことをわかったあとに もう一度知らない自分になりたい 爪を立てる猫に どうやって寛容になれるか知りたい 悪魔であったって 天使になれないわけじゃない その逆が昔あったらしいぜ 二元論の猫 猫と猫じゃない何かが曖昧な世界 なんだかあんたらは 理解を不理解とするために 詐病を作ろうとしてるみたいだ ニャー 猫の言葉はわからない それ以外のすべてが分かったとしても ---------------------------- (ファイルの終わり)