鵜飼千代子のおすすめリスト 2021年1月24日3時35分から2021年1月27日16時04分まで ---------------------------- [自由詩]小亜空間/墨晶[2021年1月24日3時35分]  御可視屋  Visualizer  音の様  Touch of Sounds  黒輪さん  Mr. Kurowa  込めんと、乱。  Unless filling, War.  次元爆弾  Dimensional Bomb 「常温!」「要項!」  "Normal Temperature!" "Requirements!"  数学仔牛  Mathematic Calf  蘇我、遺憾  Mr. Soga regrets  大拳闘  Big Boxing Match  大性交  Strong Making Love  超講師  Super Instructor  訂正露西亜  Revised Russia  南下篇  Episode "Going to South"  農家学  Farmer's Science  花唄  Flower's Song  華やかな咆哮  Flowerly Shouts  パワ原  Electric Field  無為式  No Action Ceremony  屋根裏の散歩社  Taking a Walk on the Loft Co. 元祖「亜空間」もあるでよ。https://po-m.com/forum/showdoc.php?did=353145 ---------------------------- [自由詩]供述/墨晶[2021年1月24日4時09分] やってねえよ オレじゃねえ 本屋で本積み上げてレモンを乗っけてきた? 何の為に? 知らねえよ やってねえよ 空いっぱいにフランスパンを浮かべた? どうやって? あ、でもそれやったヤツ、きっと良いヤツだぜ やべえ、腹減ってきた やってねえわ なんで手術台の上にミシンとコーモリ傘を乗せるんだよ 手が込みすぎて意味わかんねーわ っていうか、それレモンのヤツと同一犯じゃねえか? なんかを乗っけるのが好きなヘンタイ野郎だぜ 犯人は「乗せフェチ」ってヤツだよ、刑事さん モナリザにヒゲを描いた? え それはフツーみんなやるだろ? 教科書とかに ヒゲ描いてそんでもって 額に「肉」って書くだろ? でもそんなのチューボーのときだぜ どうでもいいだろそんなのいまさら!     ---------------------------- [自由詩]耳元でポエムが囁きだした頃から/こたきひろし[2021年1月24日6時26分] 間違いなく 誰一人 物心ついた正確な日時を記憶してるなんて 不可能だ それ以前に時間の認識と言う 重要な鍵を握らなくてはならないのだから 物心を手にした頃なんて 遥か遠くでかすかにぼんやりとゆれる 蝋燭の炎みたいなものだろう 物心ついた頃 私の家族は八人だった そこから一人欠けた日の記憶さえ曖昧なのだ 祖母が突然病死した 遺体は棺桶に押し込められ 棺桶には棒があてがわれ 棒は両端を二人に担がれて 先祖代々の墓場に運ばれた 棺桶はあらかじめ掘られていた墓場の土の中に埋められて 儀式は終了した それから家族も親類縁者もまわりの他人も 祖母の存在を忘れていった 祖母が家から この世界から姿をけした事がきっかけになって 私は死を強く認識し 何よりも怖れるようになった 私は思い出せない いつから私の耳元でポエムが囁きだしたのかさえ 家族の離散 家族の生き死にが もしかしたら私の耳元でポエムに変化して囁きだしたのかも しれない 夜中に胸が騒ぎだすんだよ 何者かが言ってくるんだよ 書きなさい 書きなさい 書きなさい 何でもかまわないないから 吐きだしなさい 胸に湧き上がる思いを と 何でもかまわないから ---------------------------- [自由詩]おまもり/津煙保存[2021年1月24日14時40分] あなたにとってはつまらないものでも わたしにとっては宝物なのよ ---------------------------- [自由詩]Not sophisticated/六九郎[2021年1月24日17時27分] 豆は洗わない 100均の鍋に卓上コンロ 量も時間も適当 色と音とにおいが頼り 頃合いを見計らって火を停め冷ます ハンドピックもしない 寝かせたりもせずすぐ粉にひく 私のコーヒーに失敗はない ただばらつきがあるだけだ コーヒーをいれるのにフィルターも使わない やかんに粉と水を入れて煮立たせる 煮立ったコーヒーをカップにそそぐ 息で冷ましながら上澄みを啜る 粉は吐き出す 私のコーヒーには労働の味がする 寒い冬のつらい現場の味が 仲間とともに笑う猥談の味が ---------------------------- [川柳]俺が眠ってるときだけ流れる星/水宮うみ[2021年1月24日19時01分] インターネットをハンモックにして寝る 数々のかすかな星と霞む月 i光年先のi年前を見る 楽しそうにぼくらの声が反射する ---------------------------- [自由詩]後もう少し/ひだかたけし[2021年1月24日20時26分] 気が遠くなる 丸い三角や四角が浮かぶ この静けさに包まれ 気が遠くなるよ やがて深く沈んでいくんだ この静けさに呑み込まれ 静けさの 深淵が奏でる  全て諦めたとき 静けさが 深遠を響かせる  全て捨てたとき 白いイマージュすら 消去され そこに 何かが 流れ込んで、ナニカが 全ては失われ この肉体は喰い荒らされ 保存するのみ維持するのみ 緩やかな衰弱のうち この部屋は監獄だ、 この病は拷問だ けれども、 己生きて在ることはもはや 燃える意志そのものだ もう少し、後もう少しで 静けさに流れ込む ナニカガ タシカニ ナガレコム 五感の縛りを解き 待ってやろうじゃないか そうだよ、 この生が真っ白な臨界点に至るその瞬間 「午前3時 天使たち 手を打ち鳴らしながら 大地を 蹴る」* *U2『STAY』 ---------------------------- [自由詩]この街と僕/番田 [2021年1月25日1時42分] この街で僕は生きているのだ。今日も寒いけれど。そして、テレビを、僕は、見ていた。僕は、そして、思い描いていた。遠くの街を。しばらくずっと、この街で、何もしていなかったのだということをお茶を飲みながら思い出していた。遠くには、この街の霧で霞んだような家並み。今は、もう存在しない、かつて僕と目のあったおじいさんの建物を、そこに思い出しながら。あまり車の通らない、日曜日の通り。そして、でも、この街に住みだしてから、短くはないのだということを思い出させられていた。 ---------------------------- [自由詩]CR2032/梅昆布茶[2021年1月25日10時41分] どこまでもながされてゆく果てしない旅だ おみごとに円満する人生でもないし きみのいる風景にぼくは入って行けない 俯瞰するわけでもなくぽさっと眺めてる ぼくはコイン電池のCR2032で動いているのです いつも新しい生命とものが生まれ 必ず失われる生命とものもあって そしてコイン電池で存在を維持している僕は ときどき寂しかったりもするのだけれどね 時代の粘度が変わったらまた会おうね そうじゃなくてもまた会おうね 大好きな君へ ---------------------------- [自由詩]Fish & Chips, and Beer/墨晶[2021年1月25日19時42分]  不思議な男でね。器量の悪い女に限って声をかけ、関係していくんだが、以降女たちは皆、美しく変貌していく。その果てに女たちは真の伴侶を見つけ、そこで男は速やかに身を引く。しかしその後も女たちともその夫たちとも普通に会っていた。ああほら、こないだ市会議員と結婚した三丁目の建具屋んとこの娘なんか、えーと・・まあ良いや。そして男はずっと独りだった。年中絨毯みたいな黒尽くめの服着て駱駝に乗って、毎日八百屋でキャベツを二玉買っていく。そう云や、ホームセンターで山ほど蛇口を買ってんのを俺の知り合いが見たって云ってたな。しかし結局、誰もあの男が何の仕事をしてるんだかわからなかった。まあ、そう云う奴だったわけよ。で、残されたのが一羽の鳥で、なんでも、アルビノのカラスなんだってよ。それが喋るって聞いたな。「メダマヤキ」って云うんだとさ。ところでアンタ、本当にオーブンに頭を突っ込んで死んでいたのがあの男だと思うかい? まさか。替え玉さ。すっかり頭が黒焦げだったんだろう? 誰だかわかりゃしない。生前あの男の顔を見た奴なんて一人もいないんだからな。     ---------------------------- [自由詩]推移/ひだかたけし[2021年1月25日20時19分] よる あふれる かなしい ゆめだけ あさ こぼれる いとしい ことばだけ ひる みちる うれしい ひかりだけ ---------------------------- [自由詩]変死/Lucy[2021年1月25日21時20分] 網にかかるのは風に騙され 流れ着いたポリ袋 それとも詩の振りをしたがる風が 書き散らしたメモ書き アパートの一室で 誰にも知られず 死んだ男の履歴 携帯電話を所持していても 誰とも繋がらない圏外区域が この街のいたるところに隠されていて よく知っているのに そんな人は知らないと言い切る 冷たい世間に顔を描いたら 鏡の中から私を見ていた ---------------------------- [自由詩]地に映え、燃えよ魂/二宮和樹[2021年1月25日23時00分] 空を見た いつも見てるが同じでない 当たり前だし普通のこと 山を見た 変わらぬ姿と思いきや 当たり前だし普通のこと 心とて万象のひとつ 早鐘打つもたゆたうも 当たり前だし普通のこと 悩んでも終わる 悔やんでも終わる 何分にも束の間の私は 時に応じてしか語らぬ 道理で分からぬ訳だ いつしか私を超えて行け いつしかあなたを超えて行け 広くたしなむ限り 私は雄大に吠えるだろう 月よ映え 日よ燃えろと ---------------------------- [自由詩]好きに羽ばたけばいい、こんな時間じゃ誰も見ていない/ホロウ・シカエルボク[2021年1月25日23時46分] 煤け、捻れ、特に堪え切れぬことなどないのに、やり切れぬ思いで、真実同士が食い違い、どこにも落とす場所がない、こちらはあればかり見て、あちらはこればかり見る、交わらないことの為に牙を剥き出しにする、目玉はあるがまともに見ていることはあまりない、内容のない尊厳は滅法始末が悪い、だけど、御覧、目立ったもん勝ち、どんなに愚かしいことだって、自信満々でやっちまえば万事快調って具合で、目先のあれこればかり拾って、それだけの生きものになっていくやつら、肩を叩いておまじない、簡単な世界こそ確固たる世界、何故かって?簡単過ぎて考える必要がない、貨幣価値と同じ、並べて比べてのべつ幕なし、先に喋った方の勝ち、椅子取りゲームにビーチフラッグ、手に取る手段は皆一緒、あなた流石のエキストラ、台詞はいつでも同じ一言、幕間のショウで結構、こちとら見飽きちゃって、凡庸さと防空壕、逃げ込む先としちゃ妥当かもね、たとえそのあと蒸し焼きになってもさ、アーハー、リクエストお願いします、いま巷で一度も流れたことがないナンバーを、なに、ない?結構、失礼しました、いや、ニーズってそういうもんだよね、幸せですか?特別には、特別そう定義するようなものはなにも、だけど不幸じゃない、それだけは確か、筋書なんてない方がリアルじゃん、でもあんたはそれじゃあ嫌なんだよね?うん、そしたらね、あっちの、標識がたくさん並んでる道へ行くといいよ、必ずどこかへ辿り着くから、そういうことなんだろ、お前?ごめん、飲物空になっちゃったからお代わり頂戴、トイレ行ってくる、ジロジロジロジロジロー立便器は男根主義の象徴、撒き散らすマッチョイズム、気に入らんね、だけど個室はもうずっと使用中、中でなにやってるかなんて詮索するだけ無駄、公共の便所なんてこんな時間にゃまともな使い方してるやつはいない、知らん、勝手に死ね、勝手に屍、ゴダールっぽく言ってな、くだらないなってな、こんなことで笑ってくれるやつ、嫌いじゃないけどな、光に集まる虫は孤独を受け入れるのが下手、だから焼け落ちて終わり、そういう死骸は見られたもんじゃない、棺桶の中なんか覗かせてもらえない、だけど神格化するよね、そういうやつらって、くだらない、でもわからなくもない、死んじまえば関係のないことだしね、死に方なんて、時々目を開けたまま夢を見てる、いや、厭世とか逃避とかじゃなくて、爪を噛む癖みたいなもん、ちょっと昔のことや、ちょっと先のことかもしれない夢、そこにはなんにもなくていい、ここにもなんにもないように、ん、あんた誰、俺に話しかけてるの?陳腐な話なら辞退するよ、ただでさえミラーボールが煩いんだから、どうしてなんだか、こんなところに来ようと思ったのは、最近観た映画のせいかもしれない、マイケル・J・フォックス、もうあんまり動けないんだってね、人生ってわからんもんだね、ビデオテープ巻き戻すあの音好きだった、家庭的エンドロールって感じしたね、お代わり、ちょっとトイレ、個室まだ塞がってる、使うあてもないけれど、ジロジロジロ、頻繁に曝け出すのに毎度随分な量、なんだか合点がいかないね、夜を、目を覚まして流していると、なにかを数えている気がする、それは現実的に存在する単位ではなく、現実的に存在する方法ではなく、なにか、大きく枠から逸れたー店の奥からスライド錠が軋む音、どすん、176センチ70キロくらいかな、若い男の派手な悲鳴、死んでる、死んでる、首を切って…まさかそんな落ちとはね、我を忘れた結果ではなく、忘れられなかった結果ということか、ウトウトしてたやつらがガチョウの群れみたいに騒ぎ出す、アイフォンやアンドロイドのカシャー、カシャー、まともな誰かが警察を呼んでる、どうする?面倒臭い、金を払って、出る、ライトが点滅しながらやって来る、正義の味方のご登場、ヒャッホー、足元が覚束ない、だけどどうってことはない、足元なんかいまだけの話、あー…どんなんでもいい、水が、飲みたいな、コンビニエンスストアを探す、光を目指してー違うよ、俺は虫じゃない、これは欲求の為なんだぜ、レジ、金、釣り、バイ…大昔からある取引、システムって大事だよ、でもそれは誰を何処にも連れていくことはない、それはここにあるだけ、いつだってここにあるだけ、光のない夜の中に行こうよ、わけがわからないようなことが、本当はすごく確かなことだってケースも割とあるんだぜ…。 ---------------------------- [自由詩]躯の声を聞く日まで/酔横[2021年1月26日0時50分] それは無邪気と政術の混合物、 多くの躯があなたを呼ばう、 聞こえるか、 聞こえるか、 その声を聞く日、 あなたは戦き震えることになるだろう それまで歌え、歌え、 そう歌うのだ、 美しき建造物を 讃える歌を響かせよ ---------------------------- [自由詩]現代から来世にかかる橋の上で/こたきひろし[2021年1月26日7時22分] たとえば 現世から来世にかかる橋があったとして 三途の川はその下をゆうぜんと流れるのか 馬鹿言うなよ 俺は生まれ変わりなんて信じてないぜ あんたは信じてるのか 信じたいのかよ 生きている間 さんざんな目に会ったから 来世ではその損した分取り返したいとか それとも最大限得したから 夢よもう一度 てか それにしても下は騒がしいな 三途の川は地獄巡りの舟でごった返してるんだろ 俺もあんたも極楽行きのバスに乗れて良かったよ 極楽迄はまっしぐら 途中降りられないけどな 来世になんて はじめから降りられないんだよ ---------------------------- [自由詩]フライドチキンの季節/道草次郎[2021年1月26日9時12分] すごく素敵なリアクションの持ち主 フライドチキンは譲りたいからいつも三本買った どこにも行けない場所なんて無い それを確かめる為だけに深夜の国道をぶっ飛ばしたね んでプレヴェールが少し怖くてさ だってもしプレヴェールが分からなかったら どうしようって思ったから 屋台で2500円も使ったのは人生初 そのときのぼくは君の10歳を叶えた筈 かなしい記憶が本当かはどうでもよくて 35億分の1の偶然に無邪気に寄り添い 君はだいぶ痩せたらしいけど 10キロ太らせたぼくの手腕を覚えているかな でもそれもぼくの世界 ぼくの世界にいない君を今は想像できるよ 君が失くした自分を拾っていくこと それがぼくの安全靴だったかもしれない そんなぼくに気づかないフリをした その時の君の妥協 あれはうつくしかったんだろうか ---------------------------- [自由詩]一つの生を、一つの詩を/ひだかたけし[2021年1月26日19時41分] 一つの生をたずさえて 一つの詩をたずさえて 赤ん坊から老人マデ 寄り道しながら 僕は行く )今は何もせずぼうとして )うねる夏の光を夢見ながら )美しく深まっていく世界を信じ ああ また風が吹いている 灰白色の空の彼方から 次から次に吹いて来る あの大きな風、透明な風に 僕は生かされていくのだろう 僕は奪われていくのだろう 僕は晒されていくのだろう 一つの生をたずさえて 一つの詩をたずさえて ---------------------------- [自由詩]エンブリヨ・ブラザーナンバーワン/紀ノ川つかさ[2021年1月26日21時40分] さよなら兄弟 俺は生きるぞ 君らの分まで 俺がナンバーワン 子宮のベッドは 空きが一人さ 俺が行くんだ 長いトンネルを抜けて エンブリヨ・ブラザーナンバーワン お別れだ みんなによろしく エンブリヨ・ブラザーナンバーワン 俺は生きてくる 広い世界で 卵子に精子が マイクロピペットで 流し込まれた あの日から 俺達は 五人兄弟 語り合ったよなあ 培養器の中で エンブリヨ・ブラザーナンバーワン 覚えているか 夢の話を エンブリヨ・ブラザーナンバーワン 命の話 そして大宇宙の話 NIPT コンバインドテスト クアトロテスト 全てのゲートをくぐり抜け あの光の中へ…… 光の中へ生まれ出るんだ! 生命工学 進んだ現代 俺達を 認めてくれたクリスチャンさえ あっちを向いて 知らん顔してる もう選ばれなければ 海へ帰るだけさ エンブリヨ・ブラザーナンバーワン どこから命なのか はっきりしてくれよ エンブリヨ・ブラザーナンバーワン それは人それぞれだと言うけれどさ マザーシー おおマザーシー 華麗に育って 見事に選ばれ 母となる人を 得る日まで 俺達の母は あの海さ マザーシー! ---------------------------- [自由詩]最寄り駅から電車に乗って/こたきひろし[2021年1月27日0時27分] 最寄り駅から電車に乗って その朝妻と二人で東京ヘでかけた 各駅止まりの普通電車さ いそいでいた訳じゃない たいした用事でもなかった 遊びがてらに銀座まで宝籤を買いに行ったんだよ もちろん当たり籤買いに行ったんじゃないよ 世間一般的に 夢を買いに行ったんだよ どうせはずれるんだからさ わざわざ東京くんだりまで行かなくても近くでいいんじゃないか 俺は何度も妻には言ったんだけどさ  どうしても聞き入れてくれなかった 正直なところは俺は宝籤なんて買いたくなかったんだ 金で買える夢なんていらないし もし運わるく当たってしまったら家族崩壊するんじゃないかって 思うからさ 俺は夢のような大金なんて怖くて触れないよ 家族四人ちょっとした贅沢が毎日できる位に 金が手に入ればそれでいいんだよ もちろんそれは真面目に仕事して働いて その対価として毎月口座に振り込まれる金さ 俺は安定と安心を保障してくれる職場が欲しいんだよ だけどさ 俺にはそれを手に入れられる肝心な能力が著しく不足しているんだ 人生の宝籤最初から外ればかり引いて来てしまったんだ そんな運のない甲斐性なしに 宝籤なんて当たる筈ないさ だけどさ世間一般的にはそんな甲斐性なしだからこそ 一夜にして億万長者になる幸運手に入れられるみたいだな だって生まれつきの 折り紙付きの大金持ちには 宝籤で買える夢なんて必要ないだろ 有り余る金に埋もれて 贅沢三昧出来るんだからな 結局宝籤なんて 貧乏人を夢の餌で釣って 金をかき集めてその何割かを当選金にして 残りはどこかで誰かに吸い上げられる だけの話さ その朝最寄り駅から 妻と二人で東京にでかけた 各駅停車の普通電車で ---------------------------- [自由詩]流木を見た街/番田 [2021年1月27日0時50分] 僕は誰もいない部屋の中にいる そして上流から流されてきていたいくつもの流木を思い浮かべている 僕は アパートの一室で 昔住んでいた街の風景を見ようとしていた そして かつて思い描いていた夢を思い出している   僕は一人の失業者だったのだ 濁った川が流れる 堤防の上から見た 風景を  昔住んでいた街の風景を 今日も僕はこの街で思い浮かべている ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]城/墨晶[2021年1月27日4時01分]          - Das Schloss  ある朝のこと。洗面台の鏡に黄緑色の蜘蛛が一匹、じっと自らを見つめるように、毛髪のような細い長い脚を開いて留まっていた。蓬髪の男はそれを見ながら歯を磨き、顔を洗うと仕事場へ出かけた。  日が沈み、男は仕事から帰ると部屋で独り、酒を呑み始めた。それは、昼間の出来事を一つ一つ思い出しながら、しかしまるでそれら一々を忘却し葬るような、その男のここ数年の日課である。  部屋のそこかしこに生活の残滓残骸が堆積している。  燐寸を擦り、煙草に火を点ける。僅かに口を開き漏れ出る一度吸った煙をすかさず鼻で吸い込む。それは、昔そんな煙草の吸い方を誰かがやっていたのを男が見て真似するようになった仕草だ。 「煙は自由なものだな」そんな風に考えながら、男は煙が漂っていく様をぼんやりと酔った眼で追っていく。すると、脂(やに)で汚れた天井の隅にふわふわと真新しい銀色の蜘蛛の巣が揺れていた。朝の蜘蛛が何か気が済まなそうな、それでいて厳かな雰囲気で、鏡に留まっていたときの姿勢で巣の中心で沈黙していた。 「そんなところに巣を張ったって、獲物なんてあるのか?」 (いずれ、あんたがわたしの獲物ですよ)  男と蜘蛛の会話はそんな風に始まった。  男は、いつ自身がこの蜘蛛の餌食になるのかと、何か名状しがたい、しかし奇妙にも期待に似た気持ちを抱えながら、日々の出来事、それらに際して考えたことなどを蜘蛛に話した。  蜘蛛は、八つの瞳で男の心中にあるゆらゆら蠢くものをつぶさに観察しながら黙って男の話を聞いていた。  男が疲れ果て帰った或る晩、見上げる天井の巣に蜘蛛がいない。真下の読みかけの本や未読の手紙の山の上に、蜘蛛は棄てられた折りたたみ傘のような姿で死んでいた。男は蜘蛛の死骸を拾い上げ、手のひらにのせた。すると、蜘蛛の死骸の脚は幾つも幾つも生え増え始め、薊(あざみ)の丸い冠毛(わたげ)のような姿になった。  男は何年も開けていない硝子戸、雨戸を開けると、夜空の中心には歪んだ銀の釦のような月が輝いていた。男が戸の隙間から手を差し出すと、冠毛はふわふわと手のひらを離れ、月に向かってゆっくり飛翔していく。 「そうか」  男はそう云うと音を立て雨戸、硝子戸を閉め、酒をあおって寝てしまった。  しばらく、男が天井を見上げても、そこには主がいなくなった蜘蛛の巣が揺れているだけだったが、蜘蛛がいるかのように巣に向かって話しかける日々が続いた。しかしやがて以前のような無言の生活に男は還っていった。  ある朝、男は目を覚まし、紅茶だけの朝食を終え、洗面室に歯を磨きに行くと、洗面台の鏡に黄緑色の蜘蛛が一匹、いつかの朝のように、毛髪のような細い長い脚を開いて留まっていた。  そして、その夜、 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%A2%E7%A7%91           了 ---------------------------- [自由詩]少年ジャンプ/六九郎[2021年1月27日12時10分] 私には特別な血は流れていなかった 私は勝負事にはつねに負けた 私はいつも同じ仲間とつるんだりはしなかった 私はなぐったりなぐられたり、殺したり殺されたりはしなかった 私の前にはおっぱいの大きな女の子が笑ってはいなかった 私の人生には冒険はなかった ナンセンスな笑いもなかった そう気付いたときに私は少年ジャンプをやめた 少年ジャンプは今も毎週同じ夢を届け続ける 私はもうそこから随分遠くまで歩いた みんなとジャンプを読むより一人で歩いている方がずっとよかった 少年のジャンプじゃなく中年のステップで ファンタジーではない自分自身のステップで ---------------------------- [自由詩]ペイスリー/妻咲邦香[2021年1月27日12時45分] あなたみたいにゆっくり生きられたなら そう呟きながら その細い指先摘まんで額に押し当てる ひんやりとした感触が あなたの優しさなんだとわかる 私の指はどうやら幸せを掴むためじゃないみたい お財布が見つからなくて お昼ご飯の用意もう間に合わない キッチンガーデンの片隅 露を弾くペイスリー 光を身体中浴びながら そんなに不幸じゃないよと笑う あなただって鳥のように歌えない 私だって真っ直ぐ愛を伝えられない 走れば電車にまだ間に合う 私には2本の足がある 行って来るよ 行って来なよ ペイスリーのサラダは未完成だけれど あなたとこうして話が出来て良かった 誰の心にも深い森があって どんな種も時が満ちて芽吹く 私は幸運を待つ 薄っぺらな鞄と書類の束を抱えながら 名も無いあなたが風を待つように ---------------------------- [短歌]手紙が飛んだこと。/水宮うみ[2021年1月27日16時04分] 物心 コップの水が有限のようにも無限のようにも思った。 音なしで大人しいけど画面から騒々しさは想像できる。 歩くたび無数の宇宙を踏みつぶしている気がして、靴底の黒。 時が経ちきみのことばの背景がわたしの文字で埋められていった。 500年前と500光年先、どっちが遠い光景だろうか。 きみが好きだった季節は過ぎ去ったのにまた次の奇跡を待ってた。 あのときの自分の言葉が他者になり、いまの自分が話しかけてる。 寝る前に小説を読む。昼間よりあなたの声がはっきり聴こえる。 ふたりのふたつのひとみは外を向いてるのに内側も映していた。 月面にいるウサギはアイラブユーを「地球が青いね」と訳すかな。 そこはかとなく儚くて底のない明るい朝に靴をはきます。 人々のなかには人がいなかった 々がおなじ顔をしていた。 僕の目に映る世界しか知らなくて鳥の動きをぼんやり見てた。 待つことは得意じゃないからカップラーメンは1分で食べ始めるわ。 確かあの辺でこの本を読んだとき、この辺のページを読みました。 走っても、眠っても、手の端っこで日が落ちて始まる夢だった。 劣等生みたいな一等星をみた一等星みたいな劣等生。 張られてるネットの向こうにインターネットにないものを夢に見ていた。 きみが付けた傷口が何かをずっと喚いているから何も聞こえない。 何度でもひかりに会いに行くのだろう。無数の夜が綺麗だった日。 人工知能を研究する知能のことを想う人工知能。 電車の窓から見えていたあの川にいつか行ってバーベキューとかしたい。 「一章のお願い」「二章のお願い」と願い続けた登場人物。 あの人が心配して見に来てくれたことに、今になって気付いた。 衣食住 一角獣は移動中 衣装が住んだ自由帳たち。 昔観てたアニメのOP見ると純粋だった頃を思い出す。 ねる少し前に浮かんだ言い回しは眠りのなかへ眠ってしまった……。 あのときの諦めを抱き締めている ぼくより先に身体が泣いた。 飛び石のように言葉の上を移動して対岸へ向かうお話。 知らないということさえも知らなくて、きみに出会えてしあわせだった。 伝書鳩みたいに幸せの青い鳥みたいな手紙が飛んでいく。 泣いているときでもどこか他の星みたいに月が笑っていたの。 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