虹村 凌 2009年10月28日15時08分から2010年9月3日10時42分まで ---------------------------- [自由詩]オレンジ色のベースギターが/虹村 凌[2009年10月28日15時08分] 愛してる と言う声が遠く残響のように 聞こえた気がしたけど 恋人なんてどこにもいない 鈍く尖った耳鳴り オレンジ色のベースギターが ゆっくりと首を締め上げていく 誰か 名前を 呼んでくれ 助けてくれと 街中に散らかったエスオーエスが 足下に絡み付いている 鳩がついばんで 知らない方向へ飛んで行くのを見ていた 点滅する信号が ゆっくりと目の奥に流れ込んでくる チカ チカチカ チカ 殺してやる 部屋の中で転げ回る低い音が 人間はいつか必ず裏切ると呟いている 当たり前の事じゃないかと笑うと お前はわかっていないと言って ドアの下の隙間から出ていった 窓の外で救急車のサイレンと ヘリコプターが飛ぶ音 冷蔵庫の唸る音が子守唄の様に 白くて薄い壁の向こうから聞こえる 音を消したテレビが何かを伝えようと 必死に身振り手振りで教えてくれるけど 何を言っているのかわからない ガーガガ ピガガ ガ ガガ ピーガー オレンジ色のベースギターが 錆びた色と掠れた声で 笑うんだ ---------------------------- [自由詩]うずくまるから助けて欲しい/虹村 凌[2009年10月30日14時50分] 皮肉も倦怠も飽食し尽くしたと思っていたけど 別にそんな事無いんだろうな 案外居心地も悪くないし気分だって悪くない 停滞は趣味じゃないと思ってたけど 楽っちゃ楽だからな 面白くは無いけど 映画の見過ぎと漫画の読み過ぎで 目が濁っちまったのは気付いてる 夢の見過ぎと空気の読み過ぎで 目が悪くなっちまったのは気付いてる 甘い理想と甘い言葉の聞き過ぎで 耳が塞がっちまったのは気付いてる 苦い正論と苦い事実の聞き過ぎで 耳が遠くなっちまったのは気付いてる 愛も夢も理想も希望も 全部嘘っぱちに見えて 笑うしかないんだ 部屋の中に転がる孤独と退屈 手に余った鬱屈と屈折が そうさせているのかも知れないけど それでも死なずにいる それでも狂わずにいる それでも倒れずにいる そのしつこさは病気並み とっくに病んでるけど 笑えるから まだ大丈夫だろう どこに助けを求めていいかわからず 伸ばしかけた手をいつも縮こめる 誇大妄想と被害妄想と加害妄想で 酷く歪んだ雑音と鈍く尾を引く耳鳴りが重なって 今日も布団にうずくまる 生きるとか助けるとか 全部を定義しなきゃいけない気がして 線を引けない事ばかりの扉の向こうに出ていけない こんにちは、倦怠 ご機嫌いかが? 独り衣擦れの音が続く部屋の中 上の階の床が軋む音を聞きながら 耳を塞いでうずくまる 助けて欲しい ---------------------------- [自由詩]腐ったツナサンド/虹村 凌[2009年11月16日15時33分] テーブルの上にある花瓶に刺さった幾本かの薔薇の花が腐って姿を見ているのが辛い 元々は小道具でしかなかったとしても 毎日水を変えて茎を切っても日に日に萎れ腐っていく花を見るのは辛い 赤かった花びらは茶色くなって ただ俯いている様にしか見えない だから俺は花を買う事が無いんだと 柔らかいフィルターのキャメルを吸いながら 枯れない花なんて無いけど 誰に送るにしたっていずれ枯れて行くなら 最初からその姿を見ない方がいいんだ スターバックスのコーヒーを一気に流し込む 灰皿の中でうずくまっている固いチャコールフィルターのセブンスターズを拾って 実家の壁に引っかかっているドライフラワーになった薔薇を思い出していた まるでミイラみたいな色になってぶら下がっているそいつらを 何故急にあのドライフラワーを思い出したのかはわからない ただ目の前のキャラメルマキアートを飲みたくなくなって 隣の席の奴にくれてやろうかと考えていたら そいつが薔薇のタトゥーをしていて アパートのテーブルに飾ってある薔薇が腐って行くのが辛いとか そんな事を唐突に思い出したんだ あのドライフラワーは今もぶら下がっているんだろうか 100ドル札が全面にプリントされたキラキラしたパーカーを羽織って 何時かあの映画のチョウユンファみたいに 100ドル札に火をつけて煙草を吸ってみたいと思うけれど 実際は安いライターで柔らかいフィルターのキャメルに火をつけながら フィルターまで溶けかかったセブンスターズを踏みにじる 薄暗い歩道を歩きながら 自分の国が腐っていく様を何故か思い描く 弱り腐って行く自分の祖国を見ているのは嫌だけど 腐ってるのは冷蔵庫の中にあるツナサンドも俺の目も同じだから もうどうしようもねぇんじゃねぇかな 上手く言えないけど嫌なもんは嫌さ だけどこの町だってこの国だって 俺の財布の中の金も さっき飲んだコーヒーも 今吸ってる煙草だって もう腐りきってるじゃねぇか そうだろう? 俺の脳みそももうとっくに腐りきってるんだ 俺はポケットの中のナイフを握りしめて 遠く離れた両親に小さな声で謝った ---------------------------- [自由詩]東京の狭くて薄汚れた四角い空を見たいんだ/虹村 凌[2009年11月16日17時28分] はがれて丸まったシーツの上に座り込んで 銀色のノートパソコンを開いているよ ハローハロー ハロー世界 真夜中に煙草を吸いながら 真っ昼間にゲームをしている奴と喋っている 時差だってよ 地球の奇跡と文明の発展を同時に味わってるぜ 今日の気温が昨日とどれほど違うのかもわからない 昨日は外に出てないからさ 窓の外はずっとSOSが飛び交っている その幾つかが銀色のノートパソコンや 紺色の携帯電話に飛び込んでくるんだよ でも俺には助けてやれないんだ 何もしてやれねぇんだ 煙草を吸ってコーラを飲んで 起きてから着替えもせずに この二日間ずっと履きっぱなしの黒いジーンズで やる事も無くずっと部屋でうずくまってるってのに それでもお前を救う事が出来ない そんな言葉は持ち合わせていない だからいっそ殺してしまおうかと考える瞬間もある 苦しみながら生きている姿を見るのは辛いんだ だから俺は誰にも助けて欲しいと言えない そうお前じゃ俺を救えない それくらいわかってるさ 誰でもいいんじゃない 誰に助けられたいかもわからねぇけど お前を 殺してしまおうかと思う事はあるよ 苦しみながら生きているなんて それでも生きているのが素晴らしいとは どうしても言えないんだ だから なぁ教えてくれよ いま東京の空はどんな色なんだい? 相変わらず薄汚れた灰色で 田舎者達に散々な言われようだろうけど なぁ こっちの空が好きになれねぇよ あの狭くて四角い空を見たいんだ 今日の東京の空はどんな色だった? たまに考えるよ もし俺のこの命ひとつで せめて一日でも世界から涙が消せるならって そう考える事は無いか? なぁ どうする事も出来ねぇんだ 吸い殻と空き缶ばかりが増えていくよ ごめんな 何も出来ねぇんだ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]【批評祭参加作品】好き勝手言わせて貰う【十年の、事実】/虹村 凌[2010年1月9日8時09分] 十年の、事実 プテラノドン メインレースは悲惨な結末、突風に吹き荒れた 駐車場を後にした。 赤信号に変わろうかという時に友だちが言った、 大外からまくれるぞ。俺たちなら行ける。 僕はアクセルを踏み込んだ。行けるかもしれないと。 「みろ、やっぱり無理じゃないか。」僕らは言った。 それから、大井競馬場前の交差点で 立ち往生するはめになった 車のボンネットに向けて皮肉を言った二人組の男に 僕らは罵声を浴びせた。 膝をついたそいつら二人に大丈夫?と声をかけた。 抗ったつもりかよ。災難だったな。皆てんで別々に笑っていた。 でも、交通誘導の警官が来るとは思わなかった。 赤ら顔の僕らを見て、「アルコール検出の必要アリ」 無線機に手を伸ばしやしないかヒヤヒヤしたものだ。 紙一重であれ、髪の毛一本であれ、競馬場に夢があるのは ハズレ馬券を 床に投げ捨てる者たちが 羽を掻きむしるキチガイ鳥がいたせいだ。 明日からの日々を籠に捕らえられたように過ごすのは 結構なことだが、さえずることを忘れてはいけない。 そうすれば、黒ずんでいく羽根を気にせずに済む。 ところで、その日僕らは揃って大笑いした。 こうして地面に座り込んで食べるラーメンが 一番うまい。と言いながら地面に座り込もうとした友だちの トレイに載せていた当たり馬券を、他の友だちがひったくり、 トレイを持ったまま、それを追いかけようとした友だちが 地面にどんぶりを落っことした時だ。 「こんな風に笑ったのはいつ以来だろう。」 そう言った友だちが、 彼女と別れた経緯を、 その娘が流産した話を、彼女が今は他の男と一緒に暮らしていると、 夏に浜辺で酔っ払って寝そべりがら話した時以来だっただろうか。 「こんな風に笑うなんてね。」僕は言った。 分かるだろうか?僕らが知り合って十年。 やってきたのがそれだ。今さら引き返そうったって無理。  高校二年の梅雨。天候をぬきにしても べとついた中華料理屋のテーブルの上には、 空っぽのジョッキと食べかけの酢豚ー、僕らはすでに そこに居なかった。煙りが立ち込める、駅前の ゲームセンターのネオンの中にも身を隠したりしない。 閉じたらそれっきりの民家の扉の向こう側にも。 或いは、台風が上陸し、増水した川面に水しぶきが上がった。 僕らの内の誰かが、 盗んだ自転車を橋の上から投げ入れたからだ。 「音、聞こえた?」友だちはがなり立てた。 「聞こえねーよ。」どしゃ降りの雨に抗おうとする 僕らの表情は、笑っているようにも見えたに違いない。 その後ずっと、僕らは耳の中にまで侵入してくる雨のせいで、 水の中で話すみたいに、息継ぎもままならないままに 大声で話さなくちゃならなかった。届かせるために。 明日のこと明後日のこと、十年後のことも。 事態や状況がどうあれ、こうなっているはずだと、 当たるもんだと、 何処かで馬鹿笑いをしているもんだと。想像しながら歩いた。 この雨雲のはるか高みでは悠々と飛ぶ飛行機がいるもんだと。 僕は今でもよくよく思っているよ。いつかは皆と、 夜通し機内でひそひそ話をしたい。 ひょっとしたら今頃、 地上には僕らみたいなアホがいるかもな。とか、 その頃にはとっくに錆び付いているであろう 利根川に沈んでいる一台の自転車の話しを。 時折、押し殺せない声と混じりあいながら。 もしくは今日、僕らが競馬場で見た 老夫婦のように、車椅子に座る老婆の耳元に 話しかけた老人のその、優しい声で。 当たるといいね。でも、外れてもいいかもね。 僕らは老夫婦もきっとそう考えたに違いないと信じていたし、 願っていた。当たるもんだと。 これから十年先、どんなことが待ち受けていようとも。 引き返そうったって無理なのだから。 ****** 以上、引用。 自由詩 十年の、事実 Copyright プテラノドン 2009-01-15 21:37:30 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=175634 ******   速いのが好きだ。スピード感があるものがとにかく好きなのだ。音楽にせよ、映画にせよ、雨にせよ、何にせよ速いもの、スピード感があるものが好きなのだ。俺自身の劣等感や焦燥感を煽り立て、いても立ってもいられなくなってしまうような感覚が好きなのだ。マゾヒスティックな性癖の所為かも知れないが、とにかく速いのが好きなのだ。 俺にとって日常とは、あまり速度を感じられるものでは無い。試験前や課題製作中等は、時間に追われる事があっても、速度を感じられる瞬間は少ない。偶発的なボケに対するツッコミ等の短い瞬間はあっても、そうそう速度を感じられる事は無い。だから、他に速度を求めるのだろう。我ながら安易だと思うが、実に手軽に速度を体感出来るのだ。たまらなく気持ち良い。車や単車を持っているのなら話は変わってくるだろうが、もし持っていても違法行為や事故につながりそうなので、あまり良い事では無いだろう。己で創造せぬ、消費だけと言う行為は好感が持てぬよなぁ。万券を崩した直後から恐ろしい勢いで始まる千円札の消費は、いくら速いのが好きな俺でも、あまり好きになれない。 話が逸れた。   日常に存在しそうな混乱が好きだ。B級映画にありそうな、読者(視聴者)が置いていかれる寸前のギリギリの混乱が好きなのだ。難しい言葉や技法、難解な内容で置いて行かれるのでは無く、日常生活で溢れる物事が凄まじい速度で積み重なり、少しずつズレを生みながら、倒れそうで倒れる事無く高々と積み重ねられて行くその様、その感覚が好きだ。その一つ一つが理解出来るのに、つながっていく瞬間に発生する混乱、矛盾、がたまらなく好きなのだ。そのズレは少しずつであるが故に、一つ一つが繋がっていくのも理解出来る。だからこそ、そのわずかなズレ、と言うのがたまらなく愛おしく思える。それが日常に存在しえる、十分に想像出来る、または過去に近い思いでがありうるからこそ、たまらなく愛おしく思えるのだ。   若さは全てでは無いし、その中にある矛盾や混乱、暴力、絶叫が全てでは無い。違法性や犯罪性なんかクソ喰らえ、と言う姿勢が良い訳でもない。ただ、それを情熱的かつ冷静に見つめる独特の匂い、感覚が愛おしく思えるのだ。別に悪い事しろとか、ちょっと悪い事する位何だとか、そういう事を言いたいんじゃなくて、情熱と倦怠が同居するその一見矛盾した感覚が好きなのだ。それに速度が伴えば、言う事は無い。 …と言うような事をこの詩を読み返して、改めて実感した次第である。この詩は私にとって、実に気持ちの良い詩である。速度、混乱、その二つが絶妙に混じり合って、絵の具が新しい色を出す瞬間のような期待と不安、出所のわからぬ倦怠と歓びが入り乱れている。実に素敵な作品だと私は思うのだ。匂い、色、感情が鮮やかに、それでも少し色褪せて霞んだ感覚が、俺の中で膨れ上がって行く。いてもたっても、いられなくなるのだ。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]【批評祭参加作品】知らんがな【うさこ、戦う】/虹村 凌[2010年1月11日20時43分]   俺はポエムが嫌いだ。ポエムと言う単語が嫌いだ。何のセンスも無い、ダサいとしか良いようが無いこの英単語が嫌いだ。そしてそう呼ばれても仕方が無いような作品が嫌いだ。何が嫌いって、ボクとかキミとかカタカナで表記されている作品が嫌いだ。ちらっと見ただけで寒気がするし、それが半角だったりすると虫酸が走る。俺はボクの事は知らんし、ボクがスキなキミの事も知らん。カタカナ語以外の言葉にカタカナが当てられるのが気に喰わんのだ。何故かは知らん。このサイトにそういう詩が多いとは言わん。あるにはあるが、そんな作品は読まん。俺はダメな映画をわざわざ見て駄目出しするような当たり屋みたいな奴だが、詩に関して言えばそうでは無い。俺が詩に何を求めているのかは、俺自身わからない。その時の気分とか、状況とか様々なものに左右されると思うが、これと言って何かを求めている訳じゃないのかも知れない。(※お前もポエム書くじゃねーか、と言う批判はこの際聞かない事にする。   別に詩に限った事じゃないが、絵画であれ音楽であれ映画であれ、俺と言う人間のスタンスは基本的に「知らんよ、そんな事」なのだ。理由は色々ある。言ってる事がわからない、単純に面白く無い(笑い所が無い)、興味が持てない、理解出来ない、等である。君の世界をそんなに自慢げに披露されても、俺は知らんよ君の世界なんぞ、と思うのだ。俺の詩や他の作品を読んだり見たりする人間の中にも、そう思う人はいるだろう。ブログを読むのと大差無いんじゃないだろうか。少なくとも俺はそう思っている。知らんよ、君の世界とか日常とか思想とか色々あるみたいだけど。俺にゃわからん。   読者に媚びて、彼らに共感が持てるような作品が良いと言っている訳じゃない。意味がわからなくても面白い(笑える)のならいいと思うし、訳がわからなくても興味が持てる内容であれば良いと思う。「知らんよ、そんな事」と言うラインと「面白い」のラインは非常に曖昧であって、俺の様なボンクラが満足するような作品は稀である。更に俺はあまり他人の詩を読まないので、出会いそのものが少ない。一重に俺の所為でしか無いのだが、面白いタイトルじゃないと読む気がしないと言うのは我が侭だろうか?ダラダラと溢れるように並ぶ詩の中で、「なんじゃこりゃ」と思う、思わず目が止まる様なタイトルが欲しい。そこで始めて、「知らんがな」と言うラインを超えて、俺の興味を引き、そっちの世界(作者の世界)へと足を踏み入れる事になるのだ。別にタイトルが詩の全てでは無いが、詩の顔なのだ。人の見た目は9割だが、詩の5割はタイトルだと思っている。   その興味深いタイトルをクリックして、中身を読んだ瞬間から作者と読者の攻防戦が始まる。作者の「どうよこの世界観、どうよこの世界、どうよこの感じ」に対して、俺の「知らんよそんなもの」が挑むのだ。俺が「なるほどね」と思えば負けだし、最後まで「知らん」と思えば作者の負けだ。お互い実に暴力的な姿勢だと思うが、作品なんぞそんなものだろう。別に崇高でも神聖でも何でも無い、恐らく何の役にも立たない無用の長物なのだ。詩に限らず、芸術全般そうであろう。ジェットコースターみたいに、一時の快楽は得られても目的地には着かないし、ジャンクフードみたいに、美味しくても腹持ちも栄養もイマイチであると思うのだ。   別に君等の世界とかに対して否定的なスタンスを取っている訳じゃない。ただ、俺は知らんと言うだけだ。君等の世界が違うとも言わんし、狂ってるとも言わん。だってそれが君の世界なんだろ?俺にはわからんが、君にそう見えるのなら、そうなんだろう、と思うだけなのだ。俺は世界が歪んで見えた事は無いし、狂って見えた事も無い。ただそれだけなのだ。  その俺が今回、この批評祭に参加するにあたって選んだ詩は、俺が好きな詩でポイントが少ないものと、極端に多いものと決めていた。極端に多いものは、昨年の一位の詩を選ぶ事にした。何故かはわからん、気分でしかない。昨年ポイント数一位の詩はこれである。 うさこ、戦う/最果タヒ http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=178483   この作品の中では、学校は「沈められるべき存在」であり「水族館」であるようだ。俺にとって学校は沈むべき存在では無かったし、水族館でも無かった。何故、作者にとって学校は沈むべき存在であったのか、水族館であったのかは知らん。作中で語られているようには見えん。いや、沈むべき存在である学校だとか、水族館っぽい、と言う以前に、この詩が全く理解出来んのだ。兵士です、と叫ぶクラスメイトに消しゴムを貸す意味も、そいつの二世になる意味も、やってくるらしいアポロと言う人物も知らんし、その後の事なんざ聞いてないし知らないし、俺はゴジラに勝てない。最初の半分が俺にはどうしたって理解出来ん。水族館、みたいな表現はわからんでもないが、兵士ですと叫ぶ君に消しゴムを貸すのはボケなのかマジなのかもわからん。残念ながら同級生である以上、君の二世には慣れんと思うし、アポロと言う人物で該当するのはロッキーが戦った黒人ボクサーくらいである。アポロは君を連れていかないだろうし、あのお菓子だって君を連れて行く事は出来ない。あのお菓子のアポロが何を暗喩してるかも理解出来ない俺の頭脳が間抜けなのかも知れない。何回読んでも理解出来ないのだから。     後半半分の冒頭、おそらく作者の話を聞いている人の事だろう。まさに俺の気持ちと同じだ。「左手でたたいた人がある日とつぜん破裂をしたりとか、そんなことを想像すると毎日つらい気持ちになるね。知らない女性がいきなり訪れあなたのせいで彼は死んだとか言われたらどうするよとマクドナルドでストローを割る。」いや、知らんし!(笑)、である。そんな事は君の中にしまっておけばいい事で、他人に言うべき事じゃなかろう。ブログならまだしも、そんな訳のわからん妄想じみた突拍子の無い事を言われても、「知らんし!」としか言えん。だのに「いやしらないよ、ないよそんなことと答えるきみはいいね。寝ているまにブランコにのせられ往復し、そしてまたベッドにもどされているとは知らないんだろう。」と、何か上から目線なのか何なのか、羨ましがられる始末である。馬鹿にされてんのか、本気で羨ましがられているのか何なのかわからんが、君は寝ている間にブランコに乗せられて往復してベッドに戻されている事を知っているのか、と。じゃあ人が破裂するとかより重要っぽいその話をしてくれよ、と思うのだが、それも特に語られない。ここら辺も俺には理解出来んのだ。   そしてビーム。ビームですよビーム。ボンクラなら誰だって一度は思っただろう、手から指からビームでないかな、と。でも残念ながら人間は手からビームが出せんのだ。でも語り手はビームが出るんだそうだ。きっと君は人間じゃない。俺もそう思うよ、よう知らんけど君の事。ビームが出るのは羨ましいが、ビームが出るなら出るなりの苦悩があるのだろう。君が死んで一杯いっぱいになるメールボックスに気づける自信は微塵も無い。良いゴジラか悪いゴジラかは俺も知らん。ただ君は街を人間を守ってくれてるんだろう。俺の知らん所で。君の暴力(ビーム?)に俺の名前がついたらしい。名誉かも知れんが、愛かどうかは知らん。知らんよ、好きにしてくれ。   もう俺の理解の範疇なんぞ余裕で飛び越えて、何がなんやらちーっともわからんのだ。そうか、うさこ戦ってるのかー偉いねー頑張ってるねー、ありがとう、くらいにしか思えんのだが、去年一位となると共感者だとか面白いと思った人が多いのだろう。やはり理解出来ぬ俺の頭脳ば間抜けなのか、余程のボンクラなのか、その両方なのかも知れない。そっかー、そういう世界なのかー、とは思うが俺の見える世界や思い描く世界にはほど遠く感じられる。この作品はポエムじゃないと思う。だが理解は出来ぬ。ようわからん。ただ間違いなくジャンクフードであり、ジェットコースター(はたまたブランコ)である事は間違いないだろう。惹かれるタイトルである。なにせ、うさこが戦うのだから。何で戦うって?ゴジラだよゴジラ。昭和か平成か知らんが、ゴジラと戦うんだよ。しかもビームで。人の名前がついたビームで戦うんだってさ。このB級映画みたいなノリは嫌いじゃないが、俺にはちっとも理解出来なかった。最後まで、「知らんよ」としか言えなかった作品である。そうじゃない日が無いかと、ここ数日に渡って何度か読み返したが、何回読んでも「知らんなぁ」としか思わなかった。   ここまでくると、俺が低能とか無知であるとか以前に、ただ単に性格の悪いアホなボンクラでしか無いような気がしてきたので、筆を置こうと思う。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]【批評祭参加作品】詩だとかブログだとか日記だとか【虹村 凌】/虹村 凌[2010年1月12日9時56分]   ジェームスブラウンが「俺の音楽使って面白い事しろよな」と言ったもんだから、サンプリング文化が生まれてヒップホップが大流行した、みたいな話を何処かで聞いた。生憎、ヒップホップ文化には詳しく無いので深く語れぬが、ヒップホップの起源を辿ればJBに行き着くって程度の事なら知っている。そう、サンプリング、である。何故ヒップホップはサンプリングが許されるのに、ロックはサンプリングが許されずに「パクり」だ何だと言われねばならぬのか。俺はちょっと昔のB’zが好きなのだが、あまりいい顔をされない事が多い。いいじゃないか、本人達だって「聞いてわかる奴はニヤニヤすればいい」と言っていたのだから。何も音楽に限らず、絵画だって映画だって遊べばいいじゃないか、と思うのだ。タランティーノの映画なんか、サンプリングの塊みたいなもんじゃないか。詩だってそうやって遊べばいいと思うんだ。どうせ何の役にも立たない無用の長物なのだ。存分に遊べばいい。反則技なんかありゃしないんだ。   こうやって俺の詩がサンプリングの塊である事を真っ先に正当化しておきたいのは、俺と言う人間が卑怯者であり逃げの姿勢が強いからであろう。サンプリングが上手くないので、よく出典がバレて「○○を思い出しました」と言われてしまうが、そんなのはご愛嬌、であると言いたい。面白い事言うなぁ、と思ったら即座にサンプリングすればいいのだ。長渕剛の表現なんか、俺にとっちゃサンプリングしたい言葉の宝庫である。「クラゲになっちまった」「蝉が泣くチキショウと」「幸せのトンボ」もう素敵過ぎてどう調理していいのかもわからない位だ。恐らく、俺のボンクラ知識に近しい人が読めば、どこからもってきた言葉かすぐに見抜けるのだろうな、と思いながら詩を書いている。   オリジナリティなんぞについて語る気は毛頭無い。オリジナルが何だろうが、面白い事をやった奴が勝ちなのだ。オリジナルが何かなんてのは問題じゃない。パクりだ何だと言われようが、笑わせた(感動させた、感を動じさせた)奴が勝ちなのだ。俺を怒らせたり笑わせたりすれば作品と作者の勝利なのだ。そこら辺については、ひとつ前の批評でも書いたが、俺の斜に構えた「知らんよ」と言う投げやりで倦怠感の強い、とてもネガティブでアンニュイな感覚を、「おっ」と言わせりゃいいのだ。俺が偏った人間なので、なかなかそういう作品に出会う事は少ないのだけど。それは君たちの所為じゃなく、俺の所為なのだ。気にする事は無い。   俺だってそういう作品を書けているかどうかと問われれば、実に怪しい。俺が書く作品は、実際の日常であり、現実の出来事である。色々とボカして書いているのも事実だが、それは君たちにとって「俺の友人が誰とつきあって誰と別れた」等と書いても「知らん」だろうから書かないのだし、俺に拒食症で過食症の妹がいる事も「知らん」だろうから、そんな事は書かずにいるだけだ。それを書く事は作品を現実味があるものにするのでは無く、ただの散文詩的で個人的な日記でしかなくなる。事実、俺の作品と言うのはその日にあった事、その瞬間を切り取って書く以上、日記に近いものだろうと思う。それと作品の線引きは難しいのだろう。作者が作品と言えば作品なのだろうな。そういうものだろう。アンディーウォーホールみたいなふざけた奴だっているのだ。作品と言ってしまえば全部作品なのだ。そういうものだろう。それを見た者がどう思うかは、また別だ。例え見た者が作品である事を否定しても、作者が作品だと言う以上は作品である。よって、日記ですら作品だと言えば作品になってしまう。俺の日記みたいな詩も、こうして作品になってここに投稿される訳だ。   文明の発展により、日記と言うものが世間に公表される機会が多くなり、書き手として読まれる事を意識した作りに変化してきたんじゃないだろうか、と思う事がある。俺が日記を作品へと書き換えた時に、ふと思って以来、ずっと気になっている。読まれる事を意識した時点で、作品への第一歩が踏み出されているのだろうが、それに無自覚な人は多いかも知れない。それを作品と呼ばないのは、そのつもりが無いからなのか、作品と言う事に抵抗を感じるからなのかは分からない。抵抗を感じる事について、理解出来ない訳でもない。相変わらず、詩と言う文化はあまり強く根付いて無い気がするからだ。その苦手意識は何処から来るのだろう。小学校の時とかだろうか。知らんけどな、アンケート取った訳じゃないし。ただ、やはり詩って独りよがりだとか、何かあまりプラスのイメージが無い気がするのは、気の所為では無いだろう。それは詩が面白く無いからなのだろうな。詩がもっと面白くなればいい。文壇だとか何だとかは知らん。現代詩だ古典だ、等と言う議論にも興味は無い。面白ければいいじゃないか、と思うのだが、いかにもボンクラの考えそうな結論だと我ながら思うよ。   その面白そうな事をするにあたって、日常とは切っても切り離せぬ事だと思う。そしてそれを作品にするにあたって、ブログやSNSと言う媒体を語らない訳には行かなくなるだろう。日常とはネタの宝庫であり、それを他人に読まれる形で公開すると意識する事で、その言葉達は面白味と緊張を帯びて、実に素敵なものになると俺は考えているのだ。「知らんよ、君の日常なんぞ」と言うスタンスに相手を引き込むには、それなりの技法と努力が必要だろう。その手法の一つとして、サンプリングがある訳だと俺は思い、己の行為の正当化を計っている。   相手の想像力を刺激せねばならぬ。日常は想像に足るから、共感を得易いのじゃなかろうか。ぶっ飛んだ事も面白いが、他人の日常は更に面白い。だからブログやSNSが流行るのだ。知りたい、覗きたい他人の日常を堂々と垣間みられる。ドキドキするじゃないか!今日は何があったのか?明日はどっちだ?泣き、笑い、怒り、悲しむ他人を冷静に見る。俺の性格が悪いだけかも知れないし、悪趣味なだけかも知れない。ただ、面白い事を求めて行き着いた結論が、これだったのだ。   今日はアルパチーノがでかでかとプリントされたTシャツを探したが、見つからなかった。公式の奴じゃなくて、下世話で悪趣味なプリントされた奴が欲しいのだ。マイケルのシャツは見つかった。パチーノのシャツが欲しいのだ。レスラーのミッキーロークでもいいんだけど。でもこれは詩にならないだろうな、あまりにもボンクラ過ぎて。そう思う。 ---------------------------- [自由詩]僕の学校にバカは沢山いたけど不良と基地外は一人もいなかった/虹村 凌[2010年1月13日15時09分] もしこれが詩でも文字でもなく もしこれがただの記号だったとしても そんな事は構わないんだ 僕のいた学校にバカは沢山いたけど不良と基地外は一人もいなかった。 剥き出しの暴力と反抗 その先の敗北だとか悔しさだとかが全然足りてなかったんじゃないかって 柔らかいフィルターの煙草を吸いながら思ったんだ 真っ白い壁に破壊って黒いペンキで書いて その前には何も置かずに 正面にベッドマットを敷いて眺めていたい気分なんだ 誰か人の殴り方を蹴り方を 喧嘩の仕方を教えてくれないか 誰か酒の飲み方をゲロの吐き方を アルコールの使い方を教えてくれないか 誰かベースの弾き方を 誰かセックスの仕方を 誰か この男、誇大妄想家につき どっかで誰かが駄目になったと聞いて モニターの前でやっぱりなと思う あいつとあいつもそう思ってるだろう 多分二人とも酒を飲んでる いつも飲めない俺は済まなく思うよ 煙草とコーラばっかり飲んでいるから 裏切ったような気分になるよ だからあまり外に出たく無いんだ 煙草は今までに何千本って吸っただろうけど 肺がどれくらい黒くなってるかは知らない セックスは今までに十回もしてないけど 一回もした事が無いような気さえする 誰かを今まで傷つけ裏切り盗み騙してきたけど 守れたり庇えた事なんか一度もなかった 暴力、暴力、暴力 僕に拳銃を 立派な奴じゃなくていい ぴかぴかに光っていなくてもいい だから拳銃を でも誰も人の殺し方は教えてくれないし 殺していい人がどこにいるかも教えてくれない 勘違いしてんじゃねぇよ 生き方教えろって言ってるんじゃねぇんだ 頭が痛い 頭が悪い 僕の学校にバカは沢山いたけど不良と基地外は一人もいなかった ---------------------------- [自由詩]トラヴィスを継ぐ/虹村 凌[2010年2月3日22時20分] 負け犬の辛さは滲み 裏切りの棘刺さる 沈んだ部屋の隅 暗く残酷な影が落ち 笑う 運命別名呪い?いい加減にしやがれと言う正論ミニにタコ 映画と漫画のオーヴァードーズで期待感だけはたっぷりと 時間だけは緩やかに速やかに過ぎて 笑う スティールワーズラン 海老で釣った鯛で奴隷を釣った生臭坊主を 生き地獄に連れて行きたいから グレッチのギターとマテバを下さい カワサキのバイクに乗って西へ この男誇大妄想家につき 中二病の刺繍が入った超長ラン着込み 気分はタクシーの運転手さ 偽りの人畜無害 牙を剥く日を待ち構え 浮き上がる足下に 七色の涙落ちて 泣く 原子爆弾が落ちた僕らの為に誰も歌わず 誰かが線を引いていく 柵の中か外かもわからないけれど 風が強く吹いているよ ---------------------------- [自由詩]どっかのボウズが親のスネかじりながら原発はもう要らねぇってよ/虹村 凌[2010年3月11日9時50分] どっかのボウズが親のスネかじりながら どっかのボウズが捕鯨反対運動なんか糞喰らえってよ どっかのボウズが親のスネかじりならが どっかのボウズがアカデミー賞はもう地に落ちたってよ どっかのボウズが親のスネかじりながら どっかのボウズが朝鮮半島なんざ消えてなくなれってよ イメージがあったって金がなけりゃどうにもならねぇって イメージがあったって金がなけりゃどうにもならねぇって 助けてくれ ありったけの弾丸をつめこんで ありったけの弾丸をぶっぱなしたくって 400ccのバイクに乗って 燃え尽きるように走って行く夢を見たくって 起きて手の中を見てみたら 欲しかったものとは違うものばっかりで ひとりぼっちが恐くて 誰とも何の話もせずに半端に成長してきて 助けてくれよ 助けてくれ 俺の話を聞いてくれ 笑い飛ばしてもいいから どっかのパラサイトニートが 親のスネかじりながら どっかのパラサイトニートが あンた背中が煤けてるどころじゃないってよ でもあンた 後頭部まで煤けてるぜって 間違ってるよ人との接し方って それにあンた 間違いなく病んでるって 誰の所為でもないあンたの所為でだ 助けてくれ 真面目な話なんかした事ねーから恐くてしょうがねぇ 気付けよって言いたいんだけど言ったら縁切られそうでさ でも言うべきだよな 言ってやる存在が彼には殆ど居ない 残念ながら それって自惚れでもなんでもなくて 自由とは自分だけに都合の良い状況を意味しない 友達とは自分だけに都合の良い奴を意味しない 敵とは自分の都合の悪い相手じゃない 思い通りに行くなんて事ありえねぇ 無かった事になんか出来る訳ねぇ 頭痛ぇ 俺なんざいてもいなくても同じ世界だろ? 頼むこの世界に蹴りを入れておいてくれねぇか? イメージがあったって中身がなけりゃ何にもならねぇ イメージがあったって金がなけりゃ何にもならねぇ 頭痛ぇんだ グレッチでもサドウスキーでも初めてのキスでも何でもいい この心臓を一回止めてくれ ガードレールに座りながらセブンスターを吸い尽くして エア拳銃自殺で本当に死んでしまうのさ ---------------------------- [自由詩]坂本冬美が「また君に恋してる」を歌う頃に/虹村 凌[2010年3月19日9時53分] 足下に広がる銀河を越えて星屑の彼方へ一直線の稲光 みたいになってしまいたいって思いながら 色んな人達が都庁やエンパイヤステートビルにのぼる そして分厚いガラスの向うに目を向ける イマジナリーラインをぶった切って 嘘も本当もわからなくしてしまいたい 180度向こう側の世界 電線にぶら下がったスニーカーの下で 泣きながら幸せを待っているんだ 借り物や紛い物の幸せじゃなくて 美しい幸福や平和と ちょっとの醜い不幸と混乱で みんな幸せになっちゃうような幸せを 電線にぶら下がったスニーカーの下で待っている 待っているのは白い薬なんかじゃなくて そんな幸せを イマジナリーラインをぶった切って 恥も誇りもわからなくしてしまいたい 180度こっち側の世界 百億もの恥をかいたら今よりも立派になれるかな 百億もの恥をかいたら今すぐに立派になれるかな 百億もの恥をかいたら今よりも楽しくやれるかな 百億もの恥で 恥が誇りになって誇りが恥になる 人生のその中でまだ恥をかけるかな 恥の多い生涯を たった二十五年で 死んでおくべきだったと思う地点を幾つも通り越して 長く生き過ぎてしまった気もするけど ラインの向こう側 ラインを越えて立っているのなら 恥 ---------------------------- [自由詩]バスの中で男を殴る夢を見た/虹村 凌[2010年3月22日20時48分] バスの中で後ろに座った関西弁の男を 持っていた画材の入った袋で何度も殴る夢を見た 小さな声で歌っていた鼻歌が五月蝿いと言うから 黒い画材の入った袋で殴ったり喉元を突いたりした 俺は滅多にバスには乗らないけれど そんな夢を見た 何か切欠さえあれば次は俺の順番だと思う 今度こそやってしまうかも知れない どうせだったら この世界を焼き尽くす程の爆弾が欲しいけれど 卸したての戦車も無いけれど ナイフを持って鏡の前に立って笑った事がある あまりにもちっぽけであまりにも無力だからだ それが包丁だったとしても拳銃だったとしても あまり大きな差じゃないだろうけれど ---------------------------- [自由詩]東京午前12時/虹村 凌[2010年3月23日0時12分] お前の歌が聞こえない まぎれも無く俺の青春だったのに お前の夢も見ない 思い出も聞こえない 俺の青春だった お前が ポートアーサーで生まれた あの女の歌は聞こえる 岡山で生まれた あの男の歌は聞こえる 東京で生まれた お前の歌が 聞こえない 思い出が 聞こえない まるでジャンキーのブルース 剥き出しの100万ボルトには程遠い だらし無いブルース 誰か聞いているかい お前の冷めたさを 忘れられない 斜に構えてさ 誰も何も知らなくてさ 煙草を吸いながら 聞いていた お前の歌 暗い孤独の中で聞いたブルース ずっと聞こえている 汚れてイカれて傷だらけの阿呆にゃ まるで暖かいシャワーみたいな歌を また聞かせてくれ 何処かの爆弾よりも 震える程に大事な お前の声で 生まれ変わりやしないんだ 思い出も聞こえないし 歌声も覚えていない だからもう一度 歌ってくれよ ---------------------------- [自由詩]剥き出しの100万ボルトに憧れて/虹村 凌[2010年3月23日0時18分] 戦闘機が買えるくらいの端た金なら要らない 地球を買い戻せるくらいのお金なら欲しいけれど 貰っても使えないさ ドブに捨てる事なら出来るけど そうだろう? 友達も恋人も入れないような そんな場所が欲しい 月の爆撃機のコクピットや 卸したての戦車の操縦席じゃない まん丸い月が見える丘でも 銀紙の星が揺れる公園でもない わかるかい? 剥き出しの100万ボルトに憧れて ナイフを持って立ってみた ---------------------------- [自由詩]もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて/虹村 凌[2010年4月9日20時00分] もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて もう一度「愛している」が聞きたくて 生きているのだとしたら とんだお笑い種だと吐き捨てて 寂しそうな顔をして煙草に火をつける あれから何度も季節を越えて あれから何度か腹の上を通り過ぎたけれど 納得がいった事なんか一度も無かったよ そう気持ち悪がるなよ 本当なんだ 鼻からティッシュを出すモアイ像をベッドサイドテーブルに乗せて 遮光カーテンの向こう側で朝日に揺られて魚になろうよ もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて もう一度「愛してる」が聞きたくて もう一度その体温に触れたくて 気持ち悪ぃんだよ! 絶え間なく頭の中で虫は叫び続ける 強張った腕と指先は空を引き裂く事も無く ただ空を切り裏返る 割れ関せずとそっぽを向きながら監視する目の中 叩き付ける拳を持たず 奥歯を噛み締める てめぇら全員燃えてなくなれ! 絶え間なく頭の中で虫は叫び続ける もう一度抱きしめさせておくれ 気持ち悪ぃんだよ! もう一度キスさせておくれ 気持ち悪ぃんだよ! 次はセックスさせておくれ 気持ち悪ぃんだよ! 嫌いかい?嫌いなんだね? 気持ち悪ぃんだよ! 終わりみんな終わりさ 気持ち悪ぃんだよ! 全部独りよがりさ 気持ち悪ぃんだよ! 君の知らない俺の景色も 俺の知らない君の景色も 髪の様に細いコネクションですらない 繋げるのは二つの素子と幾つかの電波塔で 画面に浮かぶ1と0が紙に滲む衝動と重なって 弾けて飛んで届けばいいのに 気持ち悪ぃんだよ! 「全部独りよがりさ」 ---------------------------- [自由詩]全部本当で嘘かもね/虹村 凌[2010年4月9日20時16分] 俺は誰も信じちゃいないし、何も信じちゃいないけど 希望的観測で平穏と平和、そして愛と感動に溢れた世界を欲しているよ どうでもいい事なんて一つもない、そんな世界を 愛してるよ 本当さ *** 俺はもう一回壊れて狂いたいのか ただ単に永遠の待ちガイル的な精神面でのマゾさを持ち合わせているのか 敵味方のラインを引きたいのかわからない どうでもいいと思われるのが一番嫌なのはわかっているけれど 妄想は俺を裏切らない 現実は苦いけどね 何か友達居なさ過ぎて暇だよ 俺って友達少なかったんだな 俺から誘うにしたって金無いから申し訳ないし それでも遊んでくれるかい? 日々を生きてるだけで、実に申し訳ない気持ちで一杯になるんだけどさ *** 闘争と勝利は何のためにある? 俺の俺による俺の為の渾身の咆哮の為だ 闘争と敗北は何のためにある? 次こそは俺の俺による俺の為の咆哮を誓う絶叫の為だ 勝利や上昇、天国に対する飢餓感。停滞や減退、地獄に対する恐怖 それらを薙ぎ払い、払拭する、勝利の咆哮を!次の勝利を誓う絶叫を! 俺は泣く為に、負ける為に生まれたんじゃない 泣いたら誓え、次の笑いを 負けたら誓え、次の勝利を 約束するんだ、自分自身と そして敗者にかける言葉は無い事を覚えておくんだ 彼等を嘲笑う事しないと誓うんだ 驕らない事を約束するんだ 相手が余程の腐れ外道でも無い限り 勝者こそ敗者に誇りと希望を与えねばならぬ 生きろ 勝ち残れ *** 俺が死ぬ程愛してくれ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ホームレス話に便乗。/虹村 凌[2010年4月10日21時55分]  するなって?喋りたいんだ喋らせてくれ。俺も大してホームレス知識は持ち合わせちゃいないが、少し喋りたい気分なんだ。便乗するぜ。  最近じゃ見かけなくなったが、俺が小学生くらいの頃は、新宿の地下にはホームレスが沢山いた。段ボールハウスだらけで、そりゃあ凄い臭いがしたもんだった。だが、何よりも印象に残っているのは、その段ボールの家の壁に描かれた、沢山の綺麗な絵だった。誰が書いたのか知らないけれど、色々な家の壁に、色とりどりの絵が描いてあったのを覚えている。俺は彼らの臭いや段ボールの家より、その絵が感動的なまでに綺麗だった事を覚えているのだが、周囲の人間は誰も覚えていないと言う。夢だったんだろうか。誰か、知らないかな?  時は移り変わる。低学年の小学生だった俺も成長し、次第に彼らがどういう存在であるか理解する。とにかく、家が無いんだなぁ、と言うフワっとした印象でしかないが、黒かったり臭かったりする彼らを、特別蔑む事も無く、変な人達だなぁと言う程度の認識しかしていなかった。彼らが、どういう理由でホームレスになったのかは知らないけれど、暗く陰鬱な目をした彼らを、あまり研究する事は無かった。時たま、テレビなんかで見るけれど、その出演料が幾らなのかなぁと言う事の方が気になったりしていた。  どうでもいいが、アメリカのホームレスは、宗教的なサムシング炊き出しご飯で、多くの奴はタダ飯を喰えるから、金恵んでも煙草か酒か薬に消えるんだよなぁ…と思うと、いくら機嫌が良くて小銭がある時でも、くれてやる気にはならんのだ。さすがに、ボストンの猛吹雪の中で小銭を恵んでくれ、と言う奴を見た時には心動かされかけたが、演出かも知れないと思ってやめた。だって俺も奴の立場だったら、暖かい地下道よりも外でやるもんなぁ。  あと一芸で小銭稼ぐ奴もいたな。歌ったり、踊ったり、バケツとかでビートを刻んだり。効率が良いのかは知らんけどね。あとは、紙コップを掲げて「ヘイ、ピープル!ヘルプ!」と叫ぶ奴もいたな。日本のと比べると、何かエネルギッシュな奴らが多いんだよなぁ。そりゃあ、片足が無くて困ってる奴とかもいたけど、全体的に元気な奴が多かったなぁ。  ホムンクルスって言うマンガで、主人公が半ホームレス生活をしてんだけど、本当にああいう生活してんのかな。コンビニとかファストフードでバイトしてたけど、一回も持っていかれた事は無かったなぁ。あ、全部分別して生ゴミで出してたからか。しっかし段ボールも何も持っていかれなかったぞ。  と言う話です。面接とバイトで疲れたので今日は寝ます。おやすみなさい。 ---------------------------- [自由詩]僕と明日を。/虹村 凌[2010年4月12日9時23分] 僕とお茶を。僕と散歩を。僕と夕食を。僕と一晩を。 僕と朝食を。僕と散歩を。僕とお昼を。僕とお茶を。 僕と午睡を。僕と夕食を。僕とキスを。僕とセックスを。 僕と季節を。 僕と一年を。 僕と人生を。 僕と生死を。 *** ダンス。シャルウィーダンス?ダンス!ウィーシャルダンス 記憶の断片小説 水面に揺らぐ陽光、街に漂い、ビルに弾かれ、たゆたう 意味の消失、寄せては返す記憶の波、 意味の消失、希釈されていく記憶、 意味の消失、書き換えられる記憶、 意味の消失、記憶の消失 *** 俺は俺の全てを肯定する 俺は俺の統一された物差しで全てを計る そして他者の全てを否定しない その変わり全てを安易に受け入れる事もしない *** あのひとのあいがほしい *** 青い大空を飛びたいのさ、鳥の様に 大地を踏みしめたいのさ、虎の様に 暗い海の底を泳ぎたいのさ、鯱の様に *** チリチーズドッグとエキストラヴァガンザピザ ダブルバーガーにバッファローウィング コカコーラとドクターペッパー *** 白いシーツのベッドを泳いで魚になるんだ (君とセックスを) *** そう言えば昔、詩を書く時に名詞を出すなって言われたなぁ みんなハッピーかい? 俺はそれなりにハッピーだよ おやすみ ---------------------------- [自由詩]ヒトトシテ/虹村 凌[2010年4月14日20時48分] 愛してると言われたけど試されちゃったり 拒否されちゃったり全部無かった事にされちゃったり 疑り深い奴になっちゃったのは 週刊誌の所為じゃなくて君の所為でしょ? それともそんな君を好きになった僕の所為? 可愛い声でごめんねと微笑むけれど 別に後悔もしてなきゃ恨んでもいないさ 何をしたか何を言ったか忘れなきゃいいんじゃねぇの? お互いの尊厳ってやつの為に 違うかな 真実を知る事だけが全てじゃないって? 嘘だけでやって行けるほど 生きる事って甘くて優しい事じゃないじゃんか もういいや誰も信じられねぇって諦めても寂しいけど 何処までも追いつめたって虚しいだけで 逆に追いつめられてるのは俺みたいな状況だし 色んな所でとっくにナシはついてて 談合社会に完全に乗り遅れて 青臭いからって置いてけぼり喰らって それでも笑ってられんのは今だけなのかな でもまぁ愛する人とハッピーになれりゃそれでいいか なんてそんなもん信じちゃいないけど 違うのかな いつの間にかなんて言い訳が通用しないのはわかってる でもやっぱり気付いたらいつの間にかこんな所にいたよ 誰に拝み倒せば救われる? 助けを求めれば救われる? 泣いて笑ってって そりゃ救われてるんじゃねぇ誤摩化してるだけだ 違うのかな 他がどうしてるのかなんて知らないしわかんない でもただひたすらに 願いが叶うように 毎日死にたいからこそ生きてるだけだよ 毎日死にたくて仕方が無いから今日も生きているだけだよ 違うのかな 違わないさ ---------------------------- [自由詩]曇天/虹村 凌[2010年4月21日18時20分] 鬱々と続く暗く腐った毎日を 恨み辛みを垂れながらやり過ごす 叩かれ指をさして嘲笑われても ヘラヘラと顔を歪めて逃げてきた 下らないクダを巻かれ 横殴りの痛みが頬を突き刺す 堪え難きを堪え 忍び難きを忍び 和を以て尊しとなしてきた 社会派面した彼奴等の 呂律の回らない戯言は聞き流せ 眉をひそめられ 病気だ構ってチャンだと鬱陶しがられても 知った顔して「良い奴だ」何て言われるよりはマシだ 理由も理屈も後付けていいんだ 街は自由と言う名の監獄で 毎日は我関せずの相談天国 あんな大人になんかなりたくねぇと 吐き捨てたツバを飲込んでる奴等 理不尽が堂々と道の真ん中を歩き 真実が猫背で道の端を歩く 相変わらず正直な奴が損を強いられて 人間証明書を持たない奴が椅子の上で高笑う 敢えて苦しみを拾って 哀しみを拾って 誰かの傲慢も嘘も愛も神も仏も糞も味噌も拾って 全部まとめて燃えるゴミの日に出してしまえ あらゆる挫折を飲込んで 孤独を涙目で睨み続けろ 痩せこけた精神で 何処に噛み付けるのかわからないが 一度でいい 噛み付く根性が欲しい だっていつも世界は一晩でひっくり返る 誰かの偏見や戯言に惑わされる事無く 怯まず畏れず退かず媚びず省みず 奢らず高ぶらず自惚れず 腐らず全てを睨みつけて 己を値踏みせずに 拳を握り締めて前を睨みつけろ 正気の沙汰じゃねぇと 狂った馬鹿達に笑われても 目の前の世界は歪んだりしない ---------------------------- [自由詩]ガオンガオン23.4/虹村 凌[2010年6月26日1時58分] 熱く生きる、だ? テメェも大概だが俺も素直じゃねぇな このままじゃ俺が勝手に冷戦始めそうだ 面倒臭ぇ(=助けてくれ) 死んじまえばいいんだ 俺かお前のどっちかが死んじまえば話は面倒臭くない そんで多分死ぬのは俺だ 死にたいのは俺だからな だから生き延びてしまう 死に損なった時の事を考えてないから ずっと死ねないでいる 平衡感覚が溶けて行く感じがしているよ ドロドロとしてる 世界が傾いているのか? 少しだけなんだ 急な傾斜じゃないんだ ほんの少し それでも重心が大きくズレているような 倒れたりはしないのに ガオンガオン ---------------------------- [自由詩]世界になりたいんだ/虹村 凌[2010年6月26日2時01分] 0と1で構成される世界みたいに クエスチョンとアンサーで構成されている世界 アンサーがあって敢えてのクエスチョンと そのアンサーとは少し違うアンサーを その後の会話で軌道修正しながらプルーフする ブレットプルーフより確実に安全なそれは 0と1の携帯やパソコンからなる通信手段によりイグノアーと言う選択肢を得て やがて曖昧に溶けていく 不信感や不満を残す 段ボールの上で冷えて硬くなったピザの耳みたいだ 電子レンジにかけて暖めるみたいに体を重ねて暖める 何かを誤魔化すかの様に衝動と野生みたいなのが沸騰して クエスチョンにアンサーとプルーフを叩きつけて世界をイグノアーしながらやがて眠る 眠る間が0で起きてれば1で みたいな戯れ言を必死でプルーフする仲間をイグノアーするしないの選択肢をクリアし続ける 映画館でエンドロールを見ずに帰るオーディエンス 誰が何をしたかはイグノアーして深夜の大泉学園で煙草を吸う 何度イグノアーされてもプルーフし続ける クエスチョン アンサー プルーフ 繰り返していく 天文学的な数のクエスチョン 無限の可能性のあるアンサー 噛み合わせるプルーフ ループ 空回るディスク グググ、グ、ググ、グッドバイ あと十年で死ぬよと予言 予言を当てるのは簡単で 十年以内に死ねばいいだけ グッドバイ 死ぬのも難しい事じゃないけど 人に迷惑をかけるのが唯一の機能みたいな感じで それなら死ぬ時くらいは迷惑かけたくないと思うけど どうやったら迷惑かけずに死ねるのかわかんない グッドバイ グッドバイ シーユーアゲイン 部屋干しと雨の匂いが混ざる 十字架なんか背負えない 自分が自分に耐えられるかどうかってだけで 耐えられ無いなら死ぬだけ それが死ぬべき時だろうさ 僕を拒絶しないから愛してるのだと言う事 それが如何に重要か理解してくれれば良い 何時でも眠る事を考えている 目覚めた後の事は考えていない ダウナーだね平気かいと 誰かが言う ダウナーじゃないよ大丈夫さと 僕は答える そうかなら良いと 何に納得したみたいに満足げにそっぽを向く 笑わせてくれるよな 笑いながら煙草を吸う 別に見極めてくれとは言わない どうでもいいなら最初から聞くなってだけで 弱ってる誰かに優しくする事で 自分は優しい何て思えるおめでたい脳味噌なんかアテにしちゃいねぇよ 俺は誰も見下しちゃいない 出来ない奴だ何て思ってない お前が思う以上にアイツは出来る奴だぜ何て言いながら笑うんじゃねぇ 俺のラインを勝手に引くんじゃねぇ 自分のラインを押し付けてんじゃねぇ 同じラインだと思ってんじゃねぇ 我慢ならねぇよ 考えりゃわかんだろ? 人に優しくしたいなら少しでも考えりゃいいだけだ 表明だけ撫でる優しさなんて残酷さよりタチが悪い それもわかんねぇなら 死ぬまで平行線だろう 行間読めないなら聞けばいい 恰好ついて無ぇんだからそれ以上に無様な姿を晒すなよ 後ろ指さしてるヒマがあんなら考えりゃいい この世は屠殺場の気違いメロドラマだから 青い鳥はカゴの中にはいやしない 誰にも責められない巧妙な方法で死ぬならどうすればいい とりあえず生きてるって言ってみようか 笑えたら今日も一日生きてやろうじゃん 泣けたら今日も一日生き延びてやろうじゃん 何も感じ無いなら死ねばいい 死ねばいい ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]マテバ、ウチヌカレル/虹村 凌[2010年6月26日10時57分] ティーンの頃のあいつの匂い、肌触り、温度、その融合した「それ」を知らずに生きている事が悔しくて仕方無い。あぁ、どうしたって悔やまれるあの夜。多分、僕は20代のあいつの匂いも、肌触りも、温度も、何も知らずに生き続けるのだろう。悔やんでも悔やみきれない二つの夜を引きずって生きて行くのか。  あいつを愛してる訳じゃない。愛なんかじゃない。ただ、あの時の僕を受け入れてくれたからこそ、いつまでも受け入れてもらえると甘えているのだろう。美しさに惹かれたのも事実だけれど、甘えたいのだ。深く、甘く、退廃的に、希望的に言えば、ナメクジの交尾の様に官能的に、絵の具の様に溶けてしまいたかったのだ。続きも、未来も必要としないでいたかったのだ。永遠なんかじゃなく、世界になりたかったのだ。  夢に現れたあいつは病院のベッドの上にいて、腕にいくつかの管を通していた。僕は、昏睡していると思われるあいつの手を握り締めて、早く治癒するように、何なら僕が代わりになっても構わない…と呟きながら震えていた。あいつはニヤリと笑って起き上がり「ふぅん、私の事、そんなに好きなんだ?」と言ってベッドからするりと滑り落ちる様にどこかへ行ってしまった。僕はフォローしようとメールを打ち始めた。何故だかは分からないけど、手段がそれしか思いつかなかったらしい。「世界で一番美しい君へ」と打ったつもりが、変換候補のミスで「世界で一番鬱陶しい君へ」となってしまい、しかもそれを背後から歩いてきたあいつに見られてしまった。あいつはニヤニヤと「私ってそんなに鬱陶しい?」と聞く。僕は「違うんだ、本当は世界で一番美しい君へ、と書こうと思ったんだ」と言う。「嘘」とあいつは笑いながら言う。「本当だ、僕が実際に見た女の子の中で、君が一番綺麗なんだ」と言うと、少し嬉しそうに笑って、再び何処かに消えた。僕は、彼女を待てば…。  自転車で近所を走り回り続けて、飛び込みでバイトを探し続けて、とうとう二駅先まで来てしまった。中目黒駅近くにあるそのコンビニは、大手のフランチャイズ店で、最初に対応した店員はやけに白髪の多い、童顔の滑舌の悪い男だった。翌日に面談した店長は、やけにフランクな態度で、即日で採用が決まった。 「志村君いいねぇ、うん決めた。採用するよ」  店長はそう言って僕の方を叩いた。  翌日から店に出勤した。店長は店員やアルバイトと会う度に、新人の僕を事細かに紹介して、お互いを印象づけさせてくれていた。その流れの中で、僕は彼に出会った。  その男は、バットマンの映画に出て来るペンギンに良く似た、醜く太ったせむし男だった。歳の頃は30半ば、薄くなった毛髪をべっとりと後ろになで付け、その体型の男特有の体臭を纏い、小さな唇を常に湿らせて、腫れぼったい目の上に指紋だらけのメガネをかけている彼は、僕が女性だったら生理的に受け付けないであろうタイプの男であった。  僕は彼が好きでは無い。別に悪い人じゃないのだ。愛想もいいし、仕事も出来るし、親切だし、ちゃんと会話だって出来る。でも、その醜さを僕は受け入れる事が出来なかった。あまりにも醜悪なのだ。  醜悪である事は罪だ。僕が美しい訳では無いが、彼程醜悪では無いくらいの自負はある。いや、その心根は十分に醜いと言う自覚はある。その上で尚、彼の醜悪さを許容する事は出来ないでいる。  バイトを始めて二ヶ月程経った頃のある日、他の店員から彼…ペンギンに似た醜悪な男…の誕生日パーティーをカラオケでするから来ないか、と誘われた。二ヶ月も経てば大分打ち解けているし、誘わない方が不自然と言うのも頷けるが、別段彼の誕生日を祝う気にはなれない。興味があるフリをしながら、都合良く断れる功名な言い訳をひねり出そうとしてい僕に、その店員は意外な事を言った。 「まだね、そんなに人数を集めていないんだ。何せ、一昨日思いついた事でね、森島さん…醜悪な肥満男の名前だ…の彼女とメールして、昨日の夜に決めた事だから。だから、まだこの店の店員とかバイトには声をかけてないんだよ。志村君が最初なんだ。だから、いい返事期待してるよ」  茶色いロン毛男の鹿野はニヤリと笑って、事務所に引っ込んでしまった。  最初に誘われた事などはどうでもいい。強烈に僕の興味を引いたのは、醜悪な森島の恋人の存在だ。どんな人物なのだろうか?下衆い好奇心が頭をもたげ、僕は事務所に向かって茶髪ロン毛の鹿野に行く旨を伝えた。  醜悪な森島の恋人が醜悪であるとは限らない。その可能性もゼロでは無いが、それでは面白味が無い。所謂「美人」では疑念の余地しか思い浮かばない。茶髪ロン毛の鹿野も妻帯者であるが、醜悪な森島の恋人が美人であり茶髪ロン毛の鹿野との存在としての匂いが近しかったりしたら、それほどつまらない話は無い。それは森島のドラマでなくてはならない。歪な好奇心が、僕の森島に対する愛想を良くさせた。少しだけ驚いたようにしていた醜悪な森島は、それでも何時ものように仕事を続けていた。  僕は家に帰ると、まず今日の事をパソコンに向かっている女に報告した。この女も、お世辞にも美麗とは言い難い体型をしている。本人にも自覚があり、それなりに改善しようと努力しているようだった。醜悪、では無い。かわいらしさは多々ある。だから醜悪では無い事の証明にはならないが…。  パソコン画面に向かいながら、彼女はあまり興味無さげに聞いていた。それでも話しかけ続ける僕にうんざりしたのか、ため息を漏らすと、一言だけ放り投げるようになげかけた。 「あなたにだって恋人がいるのだし、何の不思議も無いじゃない」  そりゃそうだ。俺だってそう思うが、醜悪な森島の恋人と言う人物がどんな人なのか気になって仕方無いのだが、あまりにも興味が無さそうな彼女に話しかけるを諦め、僕はさっさと眠ってしまう事にした。  僕はあいつの事を考えた。白く、魅力的を通り越して悪魔的ですらある手足に、真っ赤なトマトソースをぶちまける、夢、妄想。欲しいのは、綺麗な水と拳銃。35.7mmの銃口から飛び出る、蛇苺達は、着地点を少し逸れていく。不明瞭な形を雲の隙間を縫って、晴れ間まで漂う。そして、陽光に焼き殺されてしまう、喰い散らかされた音符達。届かないのだ。  そう、想像力、それは予感と言うにはあまりにも弱く、過信と言ってもまだ足りないくらいの、悪寒。恋焦がれるからこその、予感、そして確信。吐き気すらこみ上げてきそうな想像を強いられる。自分の想像力を恨みながら、僕は静かに、意識を暗い部屋の中に溶かして行った。黒い想像を、常夜灯で希釈するように。  明るく盛り上がる部屋とは対照的に、僕の心は重く沈んだままだった。膨れ上がった好奇心の分、それが破裂したあとの残骸は、カラスがあさった生ゴミよりも酷い有様であった。ギリギリの愛想を振りまいて、外面を取り繕いながら、無様に笑う。  森島はしきりに携帯を開いては、彼女との連絡を取り合っている。吐き気に耐えきれず、僕は便所に駆け込んだ。ドアを閉じた部屋の中から、誰かが歌う声が聞こえる。長い廊下に様々な音が反響し、不気味な不協和音を鋭角で反射させながら鼓膜に突き刺さる。  トイレに入るとそのまま吐いた。何も食べていない所為で、ひとしきり吐いても、ネバついた黄色い液体が、口元からだらしなくぶら下がるだけだった。洗面器には幾つかの黄色いシミが垂れ落ち、すえた匂いを放っていた。  ふと見上げた鏡の中の僕の目は、血走った眼球内で毛細血管が切れたのか、すこし緑がかって見えた。口をゆすいでから、煙草に火をつける。メンソール成分で口の中が冷やされる所為か、胃液の味が色濃く再現された。ツバを吐き捨てると、幾分マシな気分になったので、ようやくの事でトイレを出た。  部屋に戻ると、みんなが僕の帰りを待っていたかのように一斉に僕を見た。 「志村君、遅いよ!大丈夫?紹介するね、これが僕の恋人の」  森島が嬉しそうに早口で説明するのを聞かずに、僕は彼の横にいる女性を見ていた。まるで体温を感じさせない白い肌は、まるでおとぎ話に出て来る魔女のようであったが、その肌にはシワひとつ見当たらず、なめらかな氷のようであった。その氷のような肌はまるで炎のように鋭く、僕の目を射抜いている。  柔らかい微笑をたたえた彼女は、少しだけ頭を下げて挨拶をした。 「こんにちは、志村さん。はじめまして」  聞き覚えのある声が、えぐり取る様に鼓膜に潜り込んできた。 「はじめまして」  僕は座ると、ゆっくりと目を閉じた。醜悪な森島とその彼女が、並んでいるのを見て、黄金費に近いバランスを感じた事を後悔しながら。 ---------------------------- [自由詩]「素人童貞イベリコ青年、KTJGにて窒息死寸前」/虹村 凌[2010年7月13日0時09分] 遠くでサイレンの音が聞こえる 今夜は誰がハッキングされた? 世界が裏返ったり 誰かが寝返ったり こむらがえったり 毎日誰かが射精と受精を繰り返す 毎日何処かで誰かが出生と死亡を繰り返す 命日と誕生日が重なってはみ出して繰り返される ざまぁみやがれ 誰も俺の事を知らないし 誰も君の事を知らない 誰かが覗いている 黙って覗いている 何見てんだよ 見せ物じゃねぇんだ 何か言えよ 月はインダストリアルな丸さで浮かぶ 銀紙みたいな星はどうにか輝いている 親父がYOUをババァだと言った 母親は勢いでパートを辞めた 妹は勢いで何キロか痩せた 俺は惰性で就活を停止している 幸せの言葉はあうあうあー って稲中で読んだり誰かが歌ったりしてたよね 幸せの言葉はあうあうあー 手持ち無沙汰になって今日も一日一善 修学旅行で見た仏像の群れをシューティングゲームに例えたら 友達に「そういうのやめない?」って心底呆れられた 幸せの言葉はあうあうあー 友達の彼女を好きになっちゃった そんで8年くらい過ぎちゃった 兄弟めちゃくちゃ増えちゃった でもそいつの事何もわかっちゃいねぇ そもそも俺が自分をわかっちゃいねぇ あうあうあー あうあうあー 手持ち無沙汰になって今日も一日一善 あうあうあー あうあうあー 知りたいのと知りたく無いのでフラフラしてて それを思い切り詰られて怒られて悲しまれて怖がられて 無気力無関心無感動みたいなんじゃないんだけど 無味無臭で乾燥してる感じで あうあうあー あうあうあー このまま漂っていられねぇかな 無理だよな あうあうあー あうあうあー 今日も一人 君も一人 あうあうあー あうあうあー ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌[2010年7月13日19時29分]  彼女が電車に乗り込む姿すら見ずに、僕は真っ直ぐに東京駅のホームを歩き出した。たった数秒前に触れていた、細く熱い肩の熱を、空の右手にぶら下げたまま、約束通り、振り返らずに歩いた。中途半端な優しさが、衝動的に振り返らそうとするのを抑えながら、彼女が乗る新幹線の横を歩いた。  僕の進行方向とは逆に向いている階段をひとつやり過ごした。振り返らなければ下りられない階段を使う必要は無い。このまま進めば、振り返らずに下りられる階段がある。振り返らない約束を果たす事で、その夢は終わりを迎えるのだ。夢を見せたなら、最後まで夢を見せなければならない。中途半端は許されない。夢は、夢なのだから。  残った約束は、何事も無かったかの様に日々を始める事だ。東京駅のホームで振り返らない事だけじゃない。0と1の情報の海でも振り向かない事が、彼女との約束なのだから。  ただ一つ、その夢を幻覚じゃないと証明する事を約束して、僕たちは別れ、日常の中に戻るのだ。手の中から消えて行く熱をそのまま逃がしながら、うだる様な暑さのホームを、真っ直ぐ歩き続けた。彼女は、果たして座席についたのだろうか。それとも、僕の背中を見つめているのだろうか。それすらも、わからないままに歩いた。数秒前の抱擁で得た手の中の熱は既に失われ、東京の湿気を帯びた熱が指の間にまで入り込んできていた。  たった三日間の夢だった。正確には四十八時間弱、もっと言えば三十時間にも満たないかも知れない、とても短い夢だった。その夢を見せる事が、僕の役割だった。その間だけは、僕らはかりそめの恋人であったのだ。それは契約に近かったのかも知れない。僕は彼女を愛してはいなかった。好きか嫌いかと聞かれれば好きと答えるだろうが、それは愛情では無かった。恵まれない彼女の境遇に対する同情や憐憫でも無かった。特別な存在、と呼べる感じでも無かった。  興味はあった。人として、そして勿論、女として。単純に、興味と欲情でしかなかった。それは彼女も知っていた。彼女は僕に愛されない事も知っていた。僕の中には消えない影があり、また癒え切らぬ傷もあった。それ故に、彼女は僕に愛されない事を知っていた。特別な感情は無かった。ただ、少し特殊な位置付けの友人であったのだ。それは、興味と欲情にとって都合の好い言い訳にしか過ぎないかも知れないが。  彼女は、彼女にとって僕は特別な存在だったと言った。だから、彼女といる三日間は、かりそめの恋人として夢を見せる約束をした。そして僕は、興味と欲情を満たす代わりに、彼女に彼女が望む夢を見せる事を約束した。  果たして僕は、彼女に夢を見せられたのだろうか?彼女の言う「最低」な存在であり続ける事が出来たのだろうか?上手く笑えていたのだろうか?中途半端では無い優しさを見せられただろうか?振り向かない事でその約束は鮮やかに締めくくられたのだろうか?  東京駅の階段を下りながら、様々な思いが脳内を駆け巡った。それでも、彼女が「決して自分を責めないで。愛されないと知ってて会いに来た自分が馬鹿なだけだから。だから自分を責めないと約束して。」と言っていた事を思い出して、考える事を止めた。約束は、守らなければならない。約束を果たせない事ほど、辛い事は無い 。その約束を果たせているのか不安で仕方無い。彼女は僕が不安がる事すら嫌がるだろうけれど。  懐中時計、CD、服、サングラス。その夢を証明する物が部屋に散乱する。これは「つながり」なのだろうか?夢を証明する道具なのだろうか?それらを求める事はあっても、再会は望んでいないのだろう。再会は無いのだ。何故なら、それは夢なのだから。もし再び相見える事があるなら、それは…それも夢なのだろうか?とにかく、彼女は僕に愛されない事を知っていた。  それは割り切った感情では無い。少なからず、彼女は僕に愛される期待はしていただろう。それ故に、僕は安易に口に出す事の無かった言葉がある。それを言えば、ほんの一瞬の安らぎを与える事が出来るだろうが、同時に何よりも深く傷をつけるだろう。  彼女と会った事実そのものが、彼女を傷つける事はわかっていた。僕は何度も彼女に「あなたを愛する事は無いんだ。会う理由は、僕を好きだと言う人としての興味と、欲情だけだよ」と言い、免罪符を大量に買ったのだ。罪の意識が、少しでも薄れる様に。  天国に一番近いラブホテルで四散したままの記憶が、いまだに整理出来てないでいる。それは夢だから、なのだろうか?  彼女は綺麗だった。僕が今まで抱いたどの女性よりも、綺麗だった。それは単純に体系的な話である。僕好みの体型の女性を抱いた事が無い、と言うだけの事だが、とにかく彼女は綺麗だった。  二回続けざまの、愛無きソドミーの行為の後に、僕らは実に古い作りの風呂に入り、そして眠った。不眠症であった彼女が眠れたかどうかは知らない。とにかく、僕は眠ったのだ。深夜、微かに意識が浮き上がり、隣で彼女が眠っていない事を知る。寝返りを打つと、彼女は何やら自分のカバンから何かを探しているようだった。僕は再び混濁する意識を睡眠の方に向けた。彼女は目的を終えたのか、狭い座敷に転がるベッドに腰掛けるのを、それの傾きで理解した。僕は背を向けたまま、混濁したままの意識で、彼女の気配だけを感じ続けていた。 「ねぇ、起きてるんでしょ?起きてるんでしょう?起きてるんでしょ!?起きてるんでしょう!?」  彼女は唐突に僕に向かって叫んだ。朦朧としながらも聞こえたその言葉に、僕の心臓は一瞬で冷たくなり、覚醒を余儀なくされた。僕はゆっくりと寝返りと打ち、小さく相槌を打った。 「嘘つき…」  彼女は俯くと、大きな声で泣き始めた。 「夜になると、おかしくなるの。ごめんね」  彼女はそういいながら。  黒目がちなその目は、時々深い穴の様だった。そして僕を不安にさせる瞬間があった。飲込まれそうだとか、見透かされているとか、そういう事では無かった。ただ、その深い穴の様な、黒い瞳に見つめられていると、とたんに様々な疑念が脳裏を支配するのだ。  正直な話、僕はその夢の間に、彼女に殺されてもおかしくないと思っていたのだ。興味と欲情を持って彼女に会い、夢を見せるとは言え、彼女を傷つける事に代わりは無い。故に、彼女に殺されても文句は言えないと思っていた。僕のカバンにはナイフが入っていた。この時は、護身用では無い。彼女が、一思いに僕を刺し殺す為に持ち歩いていたのだ。それでも、生きたいと思う本能が、その存在を知らしめる事を躊躇わせていたが…。  翌朝、喫茶店でうつらうつらとする僕に、彼女は言った。 「眠ったままでいいから、聞いてね。私、あなたに会って帰ったら、死ぬんだと思ってた。それでも、あなたが私を綺麗だと言ってくれたから、もう少し生きてみようと思うんだ」  僕は、薄れ行く意識の中で、彼女が泣いているのを見た気がする。  そう、僕は彼女を生かした事になる。彼女は自殺するつもりで会いに来た訳じゃないだろうが、夢は死をもって完璧となり、彼女はその運命を予感していたのだろう。しかし、僕が彼女を綺麗だと言った事で、僕は彼女に生きる事を選択させたのだ。それが正解だったのか、間違いだったのかわからない。もしかしたら、更に彼女を苦しませる結果に導いてしまうかも知れない。希望も絶望も無い、夢の終わった曖昧な世界を生かし続ける事をさせてしまったと言う事実が、僕の意識を少しずつ現実から遠ざけて行った。  涙しながら彼女は僕の手を握り、僕は指先が濡れる感覚を味わいながら、短い眠りに落ちて行った。  もうすぐで用済みになる、赤い赤い天空の城で、彼女は短冊に「生きろ!」と書いた。夢が終わったら死ぬ気だった彼女は、強く、強く生きる事を誓った。死んだら僕を悲しませるし、傷つけるし、僕は僕を責めるだろう。そんな事はしたくないから、と、彼女は言っていた。薄らと、スティングのEnglish man in NYが聞こえてきていた。  僕は生きる事に希望を抱いてはいなかった。絶望していた訳でもない。それでも、生きる事は苦しむ事だと考えていた。だから、もう二度と生まれてくる事の無い様に。リインカーネーションから外れてしまいますように。  果たして彼女をそこまで生きる方向に持っていった事が正しいのだろうか?彼女は夢の終わりに死ぬ事を望んでいた。僕は夢の最中で殺されても仕方が無いと思っていた。安いドラマの様ではあるが、それでも構わないと、僕は思っていた。嘘かどうかはわからない。それが夢だったのだから、今はそれが本当かすらわからない。  同じラブホテルの違う部屋で、再び僕らは交わる。愛無き、行為。長椅子の上で交わり、果てて、そのまま僕と彼女は抱き合っていた。彼女は夜の不安定さを増して行き、彼女の日常に対する感情を少しずつ吐露していった。次第に大きくなるその負の感情を抑えきれずに、彼女は大声で泣き始めた。 「あんな奴等、大嫌いだ!」  泣き喚く彼女はまるで少女の様だった。僕は彼女を抱きしめたまま、頭を撫でていた。過呼吸気味になった彼女を落ち着かせて、それでも尚、ずっと抱きしめていた。それすら、愛では無いのだ。対処でしか無いのだ。僕が不安定な時にされたら落ち着くであろう事を、僕はしているだけなのだから。彼女は同情を嫌っていたが、対処は別段嫌った様子では無かった。  果てた後の綺麗な彼女を抱きしめたまま、僕は何を言っているかわからないテレビを眺めていた。彼女が落ち着きを取り戻すまで、ずっとそうしていた。それは、愛では無いからそうしていたのだろう。  翌朝も、目覚めたての僕は彼女を抱いた。寝ずに退屈していた彼女は、化粧も着替えもばっちり済んでいたが、僕はそれをはぎ取って彼女を抱いた。綺麗だったからだ。綺麗だったから、欲情したのだ。愛が無くたって、勃つものは勃つし、出るもんは出る。僕はありったけの空っぽの愛を彼女に差し向けたのだ。同時に絶頂に達し、しばらくは曖昧な時間を寝転がったまま過ごした。行為の後に、その余韻を、味わっていた。愛がなくとも、それは心地よい、余韻だった。  目を覚ますと、そこは埃臭いクーラーの聞いた部屋だった。いつもの見慣れた部屋だった。クーラーが低いうなり声を上げている。  手の中に、既に熱い抱擁の余熱は無い。舌先も唇も、接吻の後の湿った感触を失い、乾き切っていた。彼女は家に帰れたのだろうか?僕は彼女の言う最低である事が出来たのか?夢を見せる事が出来たのか?振り向かない事でその夢は鮮やかに終われたのか?僕は上手く笑えていたのだろうか?  何日か後に、0と1の情報の海で、彼女の日記を読んだ。そこには夢を見た事や、憎い程に夢が完璧であったと書かれていた。もしかしたら、僕が夢を見せていたのでは無く、夢を見せてもらっていたのかも知れない。僕が物語を読んだのでは無く、僕が物語を読んでもらったのかも知れない。最後まで優しかったのは彼女だったのだろう。最後まで僕を正しい距離に置いてくれたのは、彼女だったのだろう。彼女は僕を愛していた。僕が彼女を愛していない事を知った上で、彼女は僕を愛していた。だから、彼女は無駄に僕を苦しませる事無く、僕を適切な距離に置いて、僕を冷静にさせてくれていた。まぎれも無い、愛だった。彼女は僕を愛していたのだ。本当に、愛していたのだ。  その瞬間に、僕の中に後悔と懺悔の意識が溢れ帰った。だが、彼女の「自分を責めないで」と言う言葉がそれをせき止める。その言葉すら、僕の意識を崩壊させそうだったが…。僕は彼女にとって特別な存在であった。もう二度と、誰かにこれほど愛される事は無いかも知れない。その愛の激しさから、彼女が病んでいる事を差し引いても、僕が生きている間に、あれほど愛される事は無いかも知れない。  その彼女の愛すら夢であるかも知れない。ただそれを否定するように、僕の胸元には小さな懐中時計がぶら下がっている。  何事も無かったかの様に日々を始める。東京駅で振り向かない事だけじゃない。0と1の情報の海でも、僕は振り返らない事を約束したのだ。でも、たった一度、それを証明する事を、約束した。それはすぐに埋もれてしまうかも知れないけれど、僕の少し特殊な位置付けにいる友達の為に、僕の為に、それは果たさなければならない約束なのだ。これで、夢は終わるのだ。悪夢だったか、淫夢だったのか、正夢だったのか、ただの夢だったのかはわからない。夢であった事は事実なのだろう。  その夢を見せてもらっていたのか、見せていたのか、物語を読み聞かせてもらっていたのか、読み聞かせていたのか、それすらわからなくなってしまった、その日々の終わりに。 ---------------------------- [自由詩]ぐしゃぐしゃ/虹村 凌[2010年7月13日20時29分] 良かれ悪かれ言いたい事を言い放つ 無責任な投げっ放しジャーマンスープレックス 再び上げるガードガードガード 何処まで来たかもわからない どれくらい遠くまで来たかもわからない 今は僕の人生のどこら辺にいる? 何章目にいる? 一生の何分の一かを 良く出来た腕時計で見る事が出来たら もう少し色々と出来るかも知れないのに 人生はトンボみたいに前に進むしか無いみたいで どれくらい遠くまで来たって後戻りは出来ない 見えないくらいのスローペースな前進 なぁ今回はどれくらい進んだ? わかりゃしねぇ ガード上げてうつむいてたら置いてけぼりくらっちまった 人と向き合えなくなっちまった 他人に興味が持てなくなっちまった 経堂のCD屋の黒尽くめのロック親父は今どうしてる? 誰も徹夜カラオケになんか付き合ってくれなくなって 雀荘だって学生料金で打てなくなって 未来も過去も無い話で時間を埋めて散って行って 八年とか言う月日が進化してんのか風化してんのか 友達だなんて言わない奴しか信じられねぇよ 愛も友情も何も信じられねぇ奴になっちまったよ 誰の所為だって 俺自身の所為でしかねぇけど すり切れる程に色んな事から逃げ回ってるけど 次の交差点で事故るかも知れない 死ぬまで逃げ続けられるかな 友情愛情友情愛情、情、情、情 何がしたいのかもわかんなくなっちまった 俺が上手く笑えているのか泣けているのか 珍しく冷え込んだ七月の夜に 煙草の煙は水銀灯に照らされて紫色に光る 紫煙、紫煙、紫煙 あれから何回も季節を越えて 相変わらず僕はガードを上げている もうあれから九回目の夏が来る 死んじゃう事を夢見る 他殺や自殺なんかじゃなくて 事故死みたいな事を 逃げ切れなくなったら死んじゃえばいいって 何時からか飼い始めた悪魔が笑う ナイフを持って笑う俺を血まみれの俺が笑う 通り魔通り魔通り魔 逢い魔が時に眠る 9年前の俺が今の俺を見たら きっとすぐに死んじゃうだろうな 泣き崩れるかも知れないな マックブックに映る濁った目が 真っ直ぐに俺を見つめる あぁ9回目の夏が来る 自由と言う名の留置所 俺は何の囚人なんだろう 生きてるのか死んでるのか 野垂れ死にするんだろうけど ガードガードガードを上げて 逃げ回る逃げ回る 遠くまで ぐしゃぐしゃ ---------------------------- [自由詩]ペインをイマジンしながらノイズに耳をすましSOSを。/虹村 凌[2010年8月14日22時56分] 背中を切ってきた 麻酔が切れてきたので少し痛む 抜糸は来週 アホみてぇな金がかかる スネかじってる間はいいけど 一人でこれ払う事を考えると厭になる 保険入っててこれかよ 泣けてくる 3000人に一人が同じ理由で泣けてきている アトピーと神経性繊維腫で壊れていく表皮 快楽を優先して生きている 長生きが目標な訳じゃないけど 早死にしたい訳じゃない 夭逝は御免だ 泣けてくる 何で?わかんねぇ 頭も性格も悪くなってきてる 何で?わかんねぇ 理由がわかってたら対処できるじゃん だから言わないってそんな事 最初から答えが出てて訊いてる訳じゃないから そこらへんの相談と一緒にしないでくれる? 何でかって?わかんない 理由なんざ言わなくてもわかるだろ わかれよ カミングアウトしきれない事 嘘、嘘、嘘、嘘、嘘ばっかりで何か見えないものが増えていく ノイズノイズノイズ、の中に必死でSOSを叫ぶ叫ぶ叫ぶ ノイズと他のSOSとに掻き消されていくし みんなイヤフォンで耳がふさがっているから聞こえない もしくは自分のSOSを発信するタイミングを見計らっていて 他人のSOSに構っている暇は無い 副腎皮質ホルモンを塗りこめた胸の奥の部分が 再生しながら変色していくのを黙って見ている ガードガードガード、強烈な幸福も強烈な不幸もよくわからない ペインペインペイン、苦しいのを抱えた奴等が世界を斜めに見る ペインペインペイン、を抱えているのに世界を真っ直ぐ見られる奴がいる ペインペインペイン、苦しいのを抱えた奴が自分を正当化し始める ペインペインペイン、を抱えているのにどうして世界を真っ直ぐみられる?わからない ペインペインペイン、俺が正しいのかどうかがわからない スリープ 布団の中で考える イマジネーション、を限界まで膨らませる イマジン、最悪のケースを考えて生きていれば イマジン、まだ何とかできるんじゃないかと思う イマジン、最悪のケースを考えて生きていれば イマジン、もうちょっとは色々と優しく出来るんじゃないだろうか イマジン、が足りないとクソ野郎になっていくのがわかるだろう ペインをイマジンしながらノイズに耳をすましSOSを受信して 少しずつガードを解きながらコミュニケイトした先にあるかも知れないカミングアウト を見据えて生きていくのだろうけれど疲れるから眠る スリープ ---------------------------- [自由詩]ションベンひっかけて/虹村 凌[2010年8月23日22時03分] 笑い飛ばしてもいいからちょっとだけ聞いてくれねー? マジで君をチョー愛してたと思う事が何度かあるんだよ 今だって君とチョーヤりたいし いや実際に会うと緊張しちゃって何も喋れないなんて言う チョー童貞少年みたいな感じになっちゃうんだけど 二度と君の事を喋らないなんて言ったけど繰り返し喋る だって君と僕はマーシャルのアンプにつないだグレッチみたいに きっとフィードバックがチョーうるさい感じできっと合わないからさぁ でもチョー綺麗な君と一回くらいセックスしたかったなと チョー毎晩チョー思うけどチョー後悔したってチョー何も始まらない でね 例えばさぁ 僕がとあるブログのチェックを再開した途端に 停滞気味だったそのブログの更新頻度が上がると言う事を 運命と捉えたいロマンチストと 偶然と捉えるリアリストの存在を認める事が とても重要だよね みたいな感じ その偶然が続けば必然と言えるけど しかし必然は運命ではないよねぇ 運命って何さ 命の運びって何さ 運ばれる命なのかね? わかんねぇ 面倒くせぇ話して悪かった もうちょい聞いてくれ 全身管だらけにしながら点滴臭ぇ真っ透明のションベン垂れて やっと管を外されたと思ったら 今度はビタミン臭ぇ真っ黄色のションベン垂れたりしてる ガサガサの声で笑ったり唸ったりする 聞きにくいだろ? 悪いな 唇を離してから下手でごめんねって笑ったじゃん? そんな捨てられた犬みたいな目をするなよって笑ったじゃん? もうオマエに話す事なんて無いって笑ったじゃん? 今でも好きなんだよね 笑うなって *** 酒を飲めない俺はコーラを飲みながら 下らないポエムにも歌詞にもならないものを書きながらポテトチップスを齧る 自分でそう言ってしまう卑怯さの自覚があるから尚更手に負えない 始発の電車の音がその意識さえも運んで行く 未練たらたら湘南台の空にぶちまけた妄想 未練たらたら赤羽のアパートに置き去りにした夢 未練たらたら牛込神楽から引きずったままの夢 未練たらたら新宿の喫茶店でしみになったままの夢 あの日の俺みてぇな童貞達が繰り返している以前の光景を眺めながら街を歩くけれど 相変わらず落ち着く場は無くあてもなくブラブラしている状況は変わらない 味覚音痴なビッチ達が髪の毛を濡らしたまま アメリカの上澄みを全身に塗りたくった包茎達をぶら下げて薄笑いを浮かべている ざまぁねぁや 国会にションベンひっかける度胸も無ぇ俺は ---------------------------- [自由詩]饒舌ダウナー/虹村 凌[2010年9月3日10時40分] もし俺が死んだって何も悲しむ必要は無いさ 俺は世界になるのだから 俺が死んだその時に 普段見逃してしまうような事も捕まえればいいさ 地平線の意味 水平線の彼方 ありとあらゆる単位 人間の純度と密度 人生そのもの 幸せの構造 狂気の沙汰 善悪の彼岸 諸悪の根源 点と線 原点 ろうがふうふう拳 人間 うるさくしてごめん黙るよ 何か久しぶりにPSPでも動かそうかな ---------------------------- [自由詩]ダンツカダンダンダウナークリープ/虹村 凌[2010年9月3日10時42分] ダウナーだね平気かいと 誰かが言う ダウナーじゃないよ大丈夫さと 僕は答える そうかなら良いと 何に納得したみたいに満足げにそっぽを向く 笑わせてくれるよな 笑いながら煙草を吸う 別に見極めてくれとは言わない どうでもいいなら最初から聞くなってだけで 弱ってる誰かに優しくする事で 自分は優しい何て思えるおめでたい脳味噌なんかアテにしちゃいねぇよ 俺は誰も見下しちゃいない 出来ない奴だ何て思ってない お前が思う以上にアイツは出来る奴だぜ何て言いながら笑うんじゃねぇ 俺のラインを勝手に引くんじゃねぇ 自分のラインを押し付けてんじゃねぇ 同じラインだと思ってんじゃねぇ 我慢ならねぇよ 考えりゃわかんだろ? 人に優しくしたいなら少しでも考えりゃいいだけだ 表明だけ撫でる優しさなんて残酷さよりタチが悪い それもわかんねぇなら 死ぬまで平行線だろう 行間読めないなら聞けばいい 恰好ついて無ぇんだからそれ以上に無様な姿を晒すなよ 後ろ指さしてるヒマがあんなら考えりゃいい この世は屠殺場の気違いメロドラマだから青い鳥はカゴの中にはいやしない 誰にも責められない巧妙な方々で死ぬならどうすればいい とりあえず生きてるって言ってみようか 笑えたら今日も一日生きてやろうじゃん 泣けたら今日も一日生き延びてやろうじゃん 何も感じ無いなら死ねばいい 死ねばいい ---------------------------- (ファイルの終わり)