虹村 凌 2007年1月25日10時10分から2007年4月11日13時36分まで ---------------------------- [自由詩]カップの底にマイガール/虹村 凌[2007年1月25日10時10分] ペニーロイヤルティー が 上手く和訳出来ない ミルク を もう少し増やして リアルソサイエティ に 上手く調和出来ない シュガー を もう少し減らして ハート型のペンダント は 箪笥の奥で 眠ってる ハニーマスタードに吐き気がする マイガール 嘘はつかなくていいよ 昨日は何処で眠ったの? (その時、既にマイガールじゃない事には気付かないフリ) (然し、帰って来た時には再びマイガールなのだ) マイガール 嘘はつかなくていいよ 一昨日は何で来なかったの? ペニーロイヤルティーを飲み干したら カップの底に誰かの名前 ---------------------------- [自由詩]メモ/虹村 凌[2007年1月29日15時29分] 反吐が出る程に誰かを憎んでいようと 俺はお前を何時だって思い出す ---------------------------- [自由詩]オーイエー/虹村 凌[2007年1月30日11時04分] オーイエー 言い終わった後に後悔してばっかだから オーイエー 目薬でも飲んでみようかと思ったりする オーイエー とでも言ってなきゃ罪悪感で押し潰されそう オーイエー 嘘をつくならバレ無いのにしてくれ オーイエー 疑いようもない嘘で騙し通してくれ オーイエー 信じちゃうから全部全部全部全部 オーイエー 誰も疑えやしないから オーイエー ---------------------------- [自由詩]俺の妄想発 犯罪経由 現実行/虹村 凌[2007年1月30日16時06分] お父さん 娘さんを僕に下さい 何て言う気は更々無いし そんな日もくる筈が無いから いっその事ならお前を車に押し込めて 怒るお前を乗せたままで遠くに行ってしまおうか ---------------------------- [自由詩]ニラ茶アバ茶さぁどっち/虹村 凌[2007年2月2日14時57分] 真っ暗な部屋を抜け出して 煌々と照りつける蛍光灯の下でふかした煙草は よくわからない色をしていた きっと名前なんて無い色だ 戦隊物のヒーローは決まって真っ赤 お茶目なイエロー クールなブラック セクシーなピンク 三枚目のブルー 誰かが何回も言ってた事だけどね 俺は黄色くてアイツは黒い いや俺が黒くてアイツは白い あそこは黄色くてどこかは薄茶色 白が一番上で黒が次で下に黄色がいて その間に中途半端な色がいて 薄茶色が自分を黒だと言い出して 面白ぇよなぁ 生まれたところと皮膚と目の色で 何となく検討がつく世界 笑わせてくれんじゃん それだけで色々とわかっちゃうじゃんか 嘘吐き 真っ暗な部屋の中で輝き続ける虹だって みんなが知ってる虹色なんかじゃないさ 全部名前の無いような色でさ すっごい綺麗なんだ きっと 綺麗なんだよ この煙草の煙みたいに 管理人に見つかって怒られて 何とか罰金を逃れて 転がり込んだ部屋の中で吐き出した煙は またちょっと違う色 笑えてくるねぇ おい 笑えよ 面白いだろ 色で色々わかちゃう世界さ おかしくてたまんねぇ 面白く無いお前は色盲だ いや俺かも知れん どうだっていいじゃねぇか 笑えるだろうが 腹筋が割れそうだよ俺は いやいや先に茶を沸かせるかも知れんから 一緒の飲んだらどうだ 茶の色なんぞどうでもいい 色を言ったら何茶かバレるじゃないか ---------------------------- [自由詩]愚者のジャックナイフ/虹村 凌[2007年2月3日17時15分] ラフメイカーも帰った後に 泣きたくなったらどうすりゃいいのさ って 流石に俺も 涙のこぼれる音は聞こえないから 出来る事なら呼んでくれよ そん時ぁすぐに駆けつけんよ それが無理なら電話でも何でも ずっと話を聞いてやっから つまらない冗談言って笑わせてやんよ ほらほら 泣いてばっかじゃブスになんぜ? 瞼冷やせよ はー もう既に時遅し! 不っ細工だなーお前! よしよし お前は既に不細工だ これ以上不細工になる事はない 泣くのを辞めて暖かいコーヒーでも飲めよ ほれ 煙草を吸うなら火をつけてやろう 火なら色々あるから選んでくれよ 燐寸 ジッポ 100円ライター それとも俺の愛で火をつけてやろうか? ほーれ 今笑ったろ! それでいいぞ これが俺ってもんじゃないの ばか痛いって 腹は腹はよせよ あーあ お前使い方間違ってるって ナイフは鉛筆を削ったりするのに使うんだぜ? 俺は鉛筆じゃねぇっつの どうすんだよこれ あー ---------------------------- [自由詩]地球破壊爆弾/虹村 凌[2007年2月3日17時35分] よォ どうにかなんねぇのかよォ この世界ってよォ 何処行っても戦争ばっかじゃん? 何かさァ 世界平和って言うのォ? そういうのマジで心の底から願うっつーかァ お前の事好きになっちゃってさァ もしも繁華街に溢れる若者が 髪を黒く染め直して 清潔な洋服に身を包み 実家に帰って両親を手伝っても 俺は何も気にしないだろう もう日本国ダメポwwww 終わったなwwwwwww そろそろアメリカの属国になるだろww いや既に属国じゃねーの?www バルスwwwww >>1氏ねwww 良スレage もしも電気街にあふれる若者が 髪をばっさりと切って 体を絞って肉体改造して パソコンを窓から投げ捨てても 俺は何も気にしないだろう 部屋の中で煙草をふかしながら この世界がどうにかなんねぇかなぁと 漠然と考えた結果に出たのが 「世界中で一日だけ、みんなが家族と過ごす日」 誰も外に出ないで 誰も働かないで 家族と過ごすのさ 一日中家で過ごすの そうすりゃ 最低でも交通事故は起きないよね とか考えてたけど 家族のいない人間もいて あー俺は阿呆なんだなと思った 投げやりな態度で投げた槍が 誰かに刺さってしまったようで きっといつかそいつは俺を殺しに来るから あー 俺は阿呆なんだなと思ったのだよ きっとボタンがあれば 誰かとっくに押してるよな 心配すんな 俺も押してる ---------------------------- [自由詩]三ツ星乃爪/虹村 凌[2007年2月3日17時48分] きっと今年は お前の爪が 茶色いチョコに 塗れて汚れる 何て事は無いだろう いや違う あって欲しくない そう思うのさ それは 悪い事かね 愛してるだの 好きだの 離れたくないだの 守ってあげるだの 愛情表現のセールみたいな世界だ 何も言う事も無い それだけで十分だと思わないか? ---------------------------- [自由詩]真夜中ビスケット/虹村 凌[2007年2月5日7時30分] ポケットの中で粉々に砕け散ったビスケットを 乾燥した指で摘んで口に運んだ 解けたチョコチップが指に絡んで 煙草のフィルターまでベトベトになった お前がくれたチョコチップビスケット これで最後の一枚だよ あとはポケットの中で粉々になって 煙草の葉っぱカスと一緒に捨てられるだけ 冷たい缶珈琲で一気に流し込んで さぁ お前の事なんぞすっかり忘れよう 新しい物語を探しに街に出よう 寝苦しい夜 だから だから街に出かけよう 一番上等な服を着て 磨きたての靴を履いて 大好きな歌を口ずさんで 「そいつが輝く時はいつも 俺を不安にさせるんだ」 手軽な物語も こんな真夜中じゃ全部売り切れ コンビニだって それを乗せたトラックを ずっとずっと待ってるらしい 公園にも 駅前にも こんな夜中じゃ 手軽な物語は何処にも無い まだ帰りたくない 部屋に戻れば 暗闇の中 まだあれが光ってるに決まってる 「それは自由気ままに輝いてる 俺自身が無くして二度と見つけられない まるでそんな俺みたいに輝いていて」 もう俺を照らし出さないでくれ 俺を照らして傷つけないでくれ その虹色の光で もうこれ以上は耐えられないから 傷つけて困らせないでくれ その光が その虹色の輝きが 何時も俺を なぁ お前の部屋に そいつが輝く事はあるかい? 真夜中の ふと目が覚めた時に 目の前で そいつが輝く事はあるかい? なぁ 今でも俺の部屋では そいつが光っているんだ 寝苦しい真夜中に お前の夢から目覚めた 暑くて寝苦しい真夜中に そいつは輝いているんだ なぁ お前の部屋に そいつが輝く事はあるかい? 今でも俺は ポケットの中のチョコチップを 煙草の葉っぱカスと一緒に捨てられずに その輝きを眺めているんだ ---------------------------- [自由詩]ペニーロイヤルティー/虹村 凌[2007年2月5日13時23分] ペニーロイヤルティーに ネガティブクリープを入れて 混ぜて混ぜて飲んでみれば 十代の魂の香り ごめんね 色々と 全部ごめんね ハート型の箱を置いていくから 遠くに行くから 大丈夫 君は大丈夫だから 知ってるよ 君は大丈夫だから だからそのままで 何時かまた来てくれよ 俺は何かを探しに行くんだ どこかの道の上に転がってる何かを もしかしたら大きいチーズを 探しに行くよ 苦痛の上で全部にごめんなさい 血が出てるよ ミルクに混ぜちゃえ 女の子の事も 学校も 混ぜちゃえミルクに 我慢できない 本当に猿みたいだ どうせなら犯すんじゃなくて 犯されたいの滅茶苦茶に クソったれ 口髭野郎にゃ用は無い 女の子の事さ こっそり感謝してるんだぜ お前はブルー入ってるけど 感謝してるんだぜ さて 何処かの従者を守りに行くよ ペニーロイヤルティーに ネガティブクリープを混ぜてから ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」/虹村 凌[2007年2月6日2時15分] 久しぶりに、続編を書こうと思う。 書こう書こうと思っていたが、すっかり忘れていた。 ポイントを貰った事を切欠に、また書き始めようと思う。 更に記憶は薄れている。しかし、どうにか書ききるまでは…。 忘れるわけにはいかない。 多くの人を裏切り、傷つけたこの出来事を、俺は忘れる訳にはいかない。 覚えている限りの事を、記していこう。 第七ニューロン「外は春の雨が降って」 その頃の俺は、アトピーの症状が一番に酷い時期で、 また別のエッセイを読んで頂ければ、その様子がわかると思うが、 とても見られた顔じゃなかった。 古い皮膚が剥がれ落ちず、層を成しており、顔の表面はでこぼことしていた。 常に黄色い体液が滲み出し、触れれば鋭い痛みが走る。 俺は、そんな自分自身の定めを、心から恨んでいたし、 こんな体に生んだ両親を憎んでいた。 今は、そんな事は無い。心から感謝している。 何か苦しみを乗り越える事は、こういう心境の変化をもたらすようだ。 俺は留学の為に、TOEFLの勉強をしていた。 勉強の合間に、何か時間を見つけては、舞子にメールをしたり、電話をしたり。 いや、俺はその頃、普通自動車免許を取るために、 実家の近くの自動車学校に通っていたのだ。思い出した。 その帰り、必ず電話していた気がする。 何時だったか忘れたが、モーニングコールをしていた時期もあった。 朝一番の舞子の声は、寝ぼけた、少し絡みつくような甘ったるい声だった。 俺は、懸命に、下手な台詞を並べては、舞子を口説こうと必至だった。 同時に、侑子とも頻繁にメールをやりとりする。 時々、電話もするようになった。 続かない会話、何の為にしているのか、俺はわかっている筈なのに、 それを隠し通して、侑子とのメールや電話を繰り返した。 俺にとって、侑子は舞子を嫉妬させる為の駒でしかなかった。 全ては舞子の為に、俺の力は注がれていた。 金も、時間も、思考も、詩も、黒鉛も、消しゴムも、ノートも、全てが。 「外は春の雨が降って、僕は部屋で一人ぼっち。 夏を告げる雨は降って、僕は部屋で一人ぼっち。」 TheBlueHeartsの真島氏の歌詞であるが、 この歌詞がこんなにも頭から離れないのは、 その時の状況が、あまりにも重なり過ぎるからだあろう。 俺は一人ぼっちだった。 舞子はなかなかこっちを向いてくれない。 彼女が見ているのは、俺じゃない。「憂治 誡」なのだ。 詩を書く「憂治 誡」なのだ。悔しいじゃないか、それは俺だというのに。 いや、違うのだ。 違う。 それに気付けなかった、俺の、敗北。 俺達が会う日は、大抵雨が降っていた。 五月、六月。雨ばかりだった。何時も雨だった。 3年ほど前に、雨の降る朝に舞子の夢を見た事がある。 俺は悔しくて泣いた。 雨にそこまで反応してしまう自分自身が、情けなくて、悔しくて、泣いた。 とにかく、梅雨があけるまで、雨ばかりだったと思う。 梅雨前線が東京を越え、北上して行く頃には、もう夏の匂い。 千歳烏山で会ったのを覚えている。何処だかでカレーと食べた舞子。 俺は何を食べた?覚えていない。俺は何を食べたんだ? 覚えているのは、君が家にいる母親を疎ましくおもっていた事。 彼女の母親は、本来なら家を出て学会に向かっている筈の時間。 それでも、原稿が終わらず、ギリギリまで書いているとの事。 俺の帰省時間も迫っている、 結局、その日は彼女の家に行く事が出来なかった。 先延ばしにされた、快楽の時間。待ち遠しい、笑み。 京王線の駅でイチャイチャとして、東京駅まで一緒に向かう。 改札を出る前に、俺は口付けをした気がする。 ねぇ、もう色々と覚えていないよ。どうだったっけね。 人間の記憶は適当だね。笑えるよ。 何時だったか、また俺が上京して病院に行った時の事。 帰りに友人宅に止まり、少し語って、眠りについた。 よく朝起きたら、ベッドにはエナジードリンクがあった。 布団の中から、友人はそれを指差し、親指を突きたてて、また眠りについた。 俺はそれを鞄に放り込んで、舞子の住むつつじヶ丘へ。 予定より、かなり早く着いてしまったので、コンビニで時間を潰していたはずだ。 舞子がコンビニまで迎えに来た。 いよいよ、彼女の家へ。 非常にどうでも良い話だが、 この日、御題を決めて、イラストを書いてくる、と言う遊びをやった記憶がある。 御題はスピッツの歌「スパイダー」。 結局、俺のイラストはhideの「ピンクスパイダー」になってしまったが。 彼女の部屋で、何かの匂いを嗅いだ。 何の匂いかは今でもわからない。 同級生の話、俺の字に似た癖を持つ女の子の話、 色んな話、ハグ、キス、ハグ、キス、突き放す、微笑み。 ギラギラした俺を見た彼女は、嫌になったらしく、 その日は何もせずに、俺は帰る事になった筈だ。 いや、口でしてもらったのかも知れない。 多分、そうだろう。そのはずだ、多分。 彼女の家に、初めて行った時は、何も出来なかったはずだ。 お前等は、ギラギラしているか? 友人にメールを送る。 「今日は何の日?正解は仏滅でした!」 笑いを忘れない道化師は、一体何を考えていたのだろう。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」/虹村 凌[2007年2月6日2時44分] 第八ニューロン「ゲス野郎」 実家から、電話する。何の用件で電話したのか、忘れてしまったが、 喧嘩腰で何かを話していた気がする。 その時に、色々と聞いた、女の子の事、妊娠の事、覚悟の事。 確か、俺は泣いていた気がする。思い出せない。 どの電話で俺が泣いたのか、何で泣いたのか。 ただ、実家にいる時に、そんな電話をしたのを覚えている。 何度目の電話だった?何時の電話だった? もう覚えていないけれど、俺は確かに電話をしたし、泣いたんだ。 電話と言えば、俺は嘉人に何度か電話をしたのだが、何れも通じる事が無かった。 舞子が連絡を取りたいのに取れない、と言うから、俺が橋渡しを買って出たのだ。 繋がらない電話が、一度だけ繋がった事がある。 正直に言おう、俺はつながった電話を切ったのだ。 ここで話が繋がってしまえば、俺と舞子はおしまいになる、と。 受話器をたたきつけて、そ知らぬ顔で「電話が繋がらない」と伝える。 笑えよ、俺は卑怯者だ。 この夏の間に、俺は岐阜に向かった。 長良川の花火大会に行くために、侑子に遭うために。 舞子に振り向いて欲しくて、その為だけに岐阜に向かった。 舞子とお茶をしたり、御話したりで、夜行バスに乗り遅れた。 その時の話も、別のエッセイに記してあると思うので、割愛させて頂く。 結局、俺はどうにか侑子に会う事が出来た。 舞子の事ばかり考えていた。 その頃、舞子は田村 ゆかりに、俺の事を話していたらしい。 俺がどれだけ使えない人間であるか、どんな人間であるかを。 今も、ゆかりが俺に対してよい感情を持たないのは、 その時の舞子の話が全てだろう。 少しだけ思い出したけれど、それぞれの出来事が、もういつの日かも覚えていない。 ただ、太陽が毒々しく空に輝いている日に、舞子は俺を口に含んだ。 前章で書いたのは、それだ。 あまりにも毒々しく、燦々と照りつける太陽、気色の悪い俺の顔。 彼女は体調を崩し、家で寝ていた。 いや、途中まで送ってもらっただろうか。道は覚えているか? 今も、行こうと思えば行けるのかも知れない。よくわからない。 あれは少し曇った日だろうか。俺があまりギラギラせずに済んだって事は、 きっとそういう事だろう。少し曇った日に、俺は何度目かの彼女の部屋への訪問。 何をしたのか覚えていないけれど、まだ早い時間だった気がする。 俺がどうして、そんな自由時間を得る事が出来たのだろう。 無理矢理にでも、理由を作ったに違いない。 結果だけを言えば、俺は舞子と番った。 初めてのセックス。 まだみんなが会社へ向かう途中、そんな時間だったかな。 九時、いや十時かも知れない。昼前の情事、遮光カーテンが部屋を暗くする。 何も音の無い部屋、CDケースに幽かな光が当たって、天上に反射する。 懇願するように舞子を抱いた俺と、見下すかの用に、俺に組み敷かれた舞子。 繰り返す、何よりも空っぽな「愛してる」と言う台詞、 求めたキスは宙を切って、それを俺は拒絶だと思った。 初めてのセックスは、思ったよりもあっけなくて、 結局は最後までする事が出来なかった。 幻想も何もかも打ち砕かれて、残されたのは現実だけ。 一緒になんてなれないし、特別に綺麗でもないし、世界が変わる訳でもない。 彼女は口でしてくれた。覚えているのは、妖艶な姿だけ。 醜い芋虫が二匹、遮光カーテンの向こう側で戯れる。 この時、私が懇願する最後に吐いた台詞は、 今でも私は後悔しているし、何処かに書くべきじゃないと思う。 いや、いつしか書く事があるだろう。 なんらかの形で発表する事があろう。 その時に、これを覚えていたら、それは本当に俺が吐いた、信じがたい台詞だ。 その後、私達は仙川駅で向かった。俺が通っていた小学校に行った気がする。 大きく見えたものが、小さく見えるのは、セックスをしたからではあるまい。 仙川駅周辺は、もう大きく変わってしまっていて、随分と賑やかになってしまった。 昔の雰囲気、俺は凄く好きだったのにね。 俺は広場の近くで腰を下ろして、たこ焼を食べていた気がする。 一口茶屋の、たこ焼だと思う。一緒に食べた。 雨が降り始めた気がする。そうして、帰った気がする。 その日、俺は侑子に電話したと思う。舞子を抱いた事を伝えるために。 俺は泣いていた。咽び泣いていた。後悔していた。 侑子を巻き込んだ事を。 それも半ば計画的に、彼女が激しく傷つくことをわかっていながら。 彼女は冷静に、俺を見下したように電話を切った。 彼女の友人に聞いたところでは、侑子は一週間ほど、拒食状態に陥ったそうだ。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」/虹村 凌[2007年2月6日4時05分] 第九ニューロン「遠くまで」 侑子とは疎遠になった。 相変わらず、舞子とはメールをしたり電話をしたり。 一度、ゆかりの家に行った事を覚えている。 その時は、ただ彼女の家に映画を見に行ったのだが、 結局は舞子を呼んだら面白い、と言う事になり、呼んだのだった。 サムライフィクションを見たのを覚えているが、 何時に彼女が来たのかを俺は全く覚えていない。 ゆかりと少しだけイチャついて、舞子を呼んで、軽い晩御飯を食べて。 舞子の箸の使い方がオカシイと、ゆかりと一緒になって指摘したら、 「あなた達は、背丈が同じくらいだから、まるで夫婦ね」なんて言ったり、 「そうやってソファに座ってるの見ると、広告みたいだわ」なんて言ったりした。 ここからは、非常にまとまりが無い。 記憶している事を箇条書きのように記していくよ。 ・ゆかりの家の屋上で、花火をやった。 ネズミ花火に点火して、きゃっきゃ言いながら3人で遊んでた。 ・ゆかりは父と電話していた。実家に帰る帰らない、で電話していた。 彼女は父親を好いてはいないようだった。 ・また、ゆかりとイチャイチャした。 キスをした。「下手でごめんね」と言っていた。矯正器具が舌先に冷たくあたった。 ・「何で押し倒そうとしないの?」とゆかりはいった。 「別にそういう事をしにきた訳じゃない」と言う俺を、ゆかりも舞子も笑った。 俺は3人の中では一番純情だった。そんな気がする。勘違いかも知れない。 ゆかりの胸に触った。小さかった。 ゆかりは恥ずかしそうに、「小さいから駄目」と言った。 「二回目は無いわ」とも言った。俺は手を引いた。 ・俺のモノで二人が遊んでいた。別に口でしたり、とかじゃない。 俺がMなので、二人が遊んでいただけだった。 ゆかりが「お風呂場で、最後までする?」と言った。俺は丁寧に断った。 矢張り、俺は純情だったのだと思う。勘違いだろうか。 ・二人と手を繋いで、少しだけ眠った。 幸せだった記憶が幽かに残っている。 翌朝、ジョナサンで軽い食事を済ませた後、 ゆかりと舞子と別れ、俺はアメリカ大使館に向かった。ビザの申請の為だった。 911のテロ以降、4年と言う長期のビザ申請が出来る最後のラインだったはずだ。 代理店を通して手続きをしたため、1ヶ月掛からずに、ビザは下りた。 大使館を出ると、テレビクルーに突撃取材を受けた。 インタビュアーの人の香水が異様なまでにキツく、気持ち悪くなった。 適当に応えて、その場を逃れた。 代理店を通しせばビザの申請は早く出来る、そんな答えを彼等は求めていなかった。 ただ、彼等が求めていたのは、 「ビザの申請がしにくくなった」 「時間がかかる」と言う事を言わせたかったのだろう。 相手が悪く、俺だったために、思ったような回答は得られなかったのだろう。 俺が実家に戻ってから、少し動きがあった。 彼女の大学に通う男が、舞子と寝たのだ。 いや、それは知っていた。前に一度寝たのは聞いていた。 だが、その時に電話で知ったのは、一回だけじゃないという事だった。 俺は裏切られた、と思った。嘘を吐かれた、と叫んだ。 しばらく電話に出なかった。悔しかった。 けれど、彼女がしたことは、俺が侑子にした事と同じだと気付いた。 俺は、舞子が好きだった。 遭いたかった。 あやふやなまま。 俺はそんな状態のまま、アメリカに向かった。 初めてアメリカに向かう日、俺は最後に舞子と会った。 彼女と少しだけ話した。 彼女は、彼女が使っている香水を、俺の辞書に吹きかけた。 今はもう、そんな匂いは微塵もしないけれど、その匂いはしばらく離れなかった。 いつか、彼女は俺のベッドにもそうしたことがあった。 そんな事を、これを書きながら思い出した。 匂いに、敏感な人間達だった。 俺は舞子の匂いがしたと思っては、誰も居ない雑踏で辺りを見回した。 俺が吸っていた煙草の匂いに、舞子は反応したんだろうか。 少なくとも、一瞬でもそんな事があったに違いない。 飛行機の中で、少しだけ泣いて、眠った。 彼女が俺にくれた煎餅の味を、今はもう覚えていない。 ---------------------------- [自由詩]白から黒へ/虹村 凌[2007年2月6日12時56分] そこには何も書いてないぜ 見てみろよ 真っ白い紙が一枚だけ 責任逃れて首括りゃ 白い紙が真っ黒さ ---------------------------- [自由詩]赤ん坊の泣き声に異常を察知した夜に/虹村 凌[2007年2月8日15時47分] どかんどかんどかん 爆弾が落っこちる時に 天使達は歌わないのだとしても どかんどかんどかん 爆弾が落っこちる時に 詩人達は歌えるのだろう ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]記憶の断片小説・ロードムービー「卒業」/虹村 凌[2007年2月9日4時59分] 第十ニューロン「そして今へ。」 さて、私はそのままアメリカに来てしまった。 アメリカについた当初の事は、また別のエッセイに書くとして、 一連の事柄で覚えている事を、書き記しておこう。 その頃、私が連絡用に使っていたBBSに、侑子からの書き込み。 彼女を深く傷つけた事に後悔するも、舞子の書き込みに気を引かれ、涙する。 チャットで話しただけで、涙したこともあった。 しばらくそんな状態が続いた後、俺は彼女と戦争する派目になった。 理由は、舞子が「元の鞘に戻りたいから、全て無かった事にしてくれ」と言った事。 嘉人に、今まであった事全てを言う気は無い、全部隠してしまう、と言った事。 別にフラれるのは構わないが、「無かった事にする」ってどういう事だ? 「ゲームじゃねぇんだ、冗談じゃねぇ。」 「それにお前、人として、元鞘に戻る以上は、嘉人に全て言うのが筋なんじゃないの?」 「隠して、嘉人と付き合うってのは、嘉人に対して失礼なんじゃないの?」 と、ちっとも冷静じゃない態度で絶叫する俺と、 「私達の関係を壊さないで!」「何が欲しいの?金?体?」「もうお願いだから!」 と、話の噛みあわない返答を劈くような喚き声と共に泣く舞子。 一週間程、国際電話を通じてやりとり。 口を開けば、出てくるのは憎しみ罵る言葉だけ。 お互いの譲れないものを否定しあっては、傷つける。 電話カードが切れたら、買うまでチャット。 一週間であれだけの悪口、罵り言葉を吐いたのは、 今までに一回も無いし、これからも無いだろう。 そんな風に、俺達は最後の最後まで傷つけあっていた訳だ。 冗談みたいな話をすれば、喧嘩中も、 「おい、そっち夜中だろ。明日学校あるんじゃないのか?」 等と心配してしまう俺がいた事だ。 結局、俺と舞子では話がつかず、嘉人がメールを寄越してきたのだった。 脅迫文にも近い、異様に敵意と挑発の意を込めた事がありありと伺えるメールで、 その時の俺は、確かに心が震えるような快感を得たのだ。 「てめぇアメリカにいるからってイイ気になってんじゃねぇぞ!」 「ぶっ殺してやる」等と言われて、俺は何が嬉しかったんだろう? 「X月○日の何時に成田に到着するから、包丁でも何でももって殺しにこいよ」 と嬉しそうに返信する俺は、確かに震えるような快感の中にいた。 結局、俺は殺される事もなく、今はこうして生きているのだが、 どっちかがどっちを殺してもおかしくなかっただろう。 日本にいたら、間違いなく何らかの事件になっていたと思う。 そういえば、俺は一度、嘉人を殴った事がある。 「舞子を手放すなよ。手放したら殴るぜ。」と約束したのだ。 奪ったのは俺だが、嘉人が手放したのも事実、と言う事で殴った。 確か、アメリカ大使館に行った帰りだったか。 あまり元気が無かったのも事実だが、殴る直前に嘉人と目があった瞬間に、 力が抜けたのも事実だ。何故に力が抜けたのか、今は忘れてしまった。 しかし、俺は全力で殴る事と止めて、「ぺちん」と言う非力な拳を当てて終わった。 殴ったって、何かが戻る訳じゃない。 暴力で解決するのは、殴った方の鬱憤だけだ。 結局、最後の最後は、お互いを傷つけるだけ傷つけて、 全てを否定しあって、貶しあって、終わってしまった。 下らない。 何とも下らないだが、俺は今でも、舞子がいたから、死なずに済んだと思っている。 今では笑っていわれるアトピーの事だが、 一番酷かった時期には、何度も死にたくなった。 毎朝起きるのが辛かった。…別のエッセイを参照していただきたい。 興味をもたれたら、「漏れが美少年だった日々」と言うエッセイを読んでくださいな。 その頃に、一緒にいてくれる存在があったからこそ、俺は死なずに済んだ。 狂信的になれた理由も、それが大きな理由の一つであろう。 その様な存在に出会えた事を、俺はとても幸運だと思うし、幸福に思える。 そのような存在に出会えない人間が、何人もいる中で、 例え、最後には全て否定されようと、俺は出会えた訳だし、 一番辛い時期を乗り越える事が出来たのだから。 今は微塵も愛しちゃいないが、感謝の気持ちは常に忘れないでいたいと思うよ。 きっと、何時か是を読むのでしょう。そう遠くない。 明日か、明後日か。 しばらくの間、俺は舞子とも嘉人とも連絡を取らなかった。 私が連絡を取るようになったのは、つい最近の事だ。 舞子とは一度も会っていないが、嘉人とは何度か会った。 数える程だが…。 いや、俺がこうして、自分の中で、全てに踏ん切りをつけてから嘉人に会ったのは、 この冬が最初かも知れない。最初なのだ。 嘉人はまだ舞子を憎んでいたようだし、色々と言っていたけれど、 彼の話も嘘か本当かわからない。口から出任せが5割くらいだ。 それでも、朝まで喋ってられたってのは、いい事なんじゃないかな。 俺は舞子に色々と教わった。 フロイト、ユング。今はもう殆ど忘れちまったぜ。 詩の事、男と女の事、色々と教わった。先生だったんだ、舞子は。 今はそう思える。俺は馬鹿だったし、何も知らなかった。 無理全てを受け入れられたのは、俺が舞子を狂信していたからだった。 俺が舞子とつるんでいる間ずっと、色々と忠告をしてくれた友達がいた。 何度も、何度も忠告してくれた。 しかし俺は、その全ての忠告を無視して、舞子に狂信的に惚れ狂った。 本当なら、俺はその全ての友人を失ってもおかしくなかったけれど、 今、みんなは一緒に茶を飲んだり、珈琲飲んだりしてくれる。 優しいんだ、みんな。有り難い。感謝の言葉しか出ない。 俺がいる環境は、あまりにも恵まれているのだと思う。 そんな環境を欲する人間が何人もいて、 その環境を得る事が出来ない人間もまた、何人もいる。 俺がこれを書く事を躊躇った理由は、そこにあるのかも知れない…と、思った。 俺は随分と変わったんじゃないだろうか。 アトピーの苦しさを乗り越えた俺は、何らかの自信を得たのだろう。 (完治した訳じゃない。落ち着いているだけなのだが。) あまり、ちょっとした事で驚くような事も無くなった。 これは、無感動無関心になったんじゃなくて、 その頃のショックが大きかったから、だと俺は思う。 大抵の事は受け入れられるし、激しいショックに襲われる事は、最近は殆ど無い。 ある程度の事実、現実を受け入れる強さを手に入れたのかな。 少しは、モノを考えるようになった筈だし、 詩だってあの頃とは、随分作風が違っている。 舞子からは「相変わらず鮮やかな言葉遣いだ」と言われたが、 作風は違っても、と言う意味だろう。褒め言葉として受け取った。 取り返しのつかない傷を、溝を、色んな処に作ってしまった。 それでも、どうにかなっている。友人のお陰で、どうにかなっている。 ひとまず、これでこのシリーズを終えるとしたい。 後に、手を加えたり、編集をしたりするかも知れない。 記憶は色褪せるのか、美化されるのか。 俺の中では色褪せていく一方だ。向こうだってそうだろうと思う。 別にそう願うんじゃなくて、それが自然なんじゃないかな、と思う。 俺はこの時期の思い出を、切って張って詩を書いているのだ。 悪く思わないでくれ。俺は詩を書く人間だ。 全ての友人に感謝している。 全ての出来事に感謝している。 そして、例え最後には全て否定されたとしても、 一時的にでも俺を救ってくれたお前に、感謝している。 確かに、憎んでいた時期もあった。けれど、今はそんな気持ちは無いよ。 感謝している。感謝している。 このオナニーのようなエッセイを読んでくれた皆さんにも、心から感謝します。 付き合っていただいて、有り難うございました。 ---------------------------- [自由詩]君が泣くまで愛する事をやめないのはジョナサンだけだった/虹村 凌[2007年2月10日13時34分] 泣いたら愛は冷めるのかジョナサン 泣いたら泣いたで 涙を拭ってやれよジョナサン 熱く腫れ上がった瞼に キスしてやれよジョナサン ジョナサン 泣いたら愛するのをやめるのかジョナサン 泣き止んだら泣き止んだで 真っ白い歯を見せて微笑んでやれよジョナサン 涙の毀れた跡を 優しく舐めてあげなよジョナサン ジョナサン ジョナサン 遠くまで行きたいけど今はいけない だからジョナサン お前の心だけは 何時でも空を飛べる準備をしておけよ いつでも遠くにいける準備をしておけよ ジョナサン 最近は遠くにきてしまったら 何をしていいのかわからないカモメが多いんだ だからジョナサン 心だけは音速を超えて もっともっと 遠くへ遠くへ飛んでいける準備をしておけよ ジョナサン 何処かに行くという事は 誰かと出会う為に誰かと別れる事なんだよ だからジョナサン 泣くのを止めるんだ お前が泣いたって仕方が無いんだ お前が泣いたら この涙は誰が拭うんだ お前が泣いたら 誰が笑ってくれると言うんだ ジョナサン ジョナサン ジョナサン きりもみしたら景色が回って 溶けて崩れて絵の具になった ---------------------------- [自由詩]能面ヴァレンティーナ/虹村 凌[2007年2月12日9時57分] へらへら笑って煙草吸ってりゃ 明日も御天道さんは昇るのだと 安心しきってるような顔を見せないでくれ 既に恋愛感情は消えてなくなって そもそも最初からそんな気持ちは無いんだと 安心しきった顔をしているお前 怖くないのか お前が彫った能面を俺が被って お前を襲っちまうって事を考えた事は無いのか 俺が人間やめちまうって事を考えた事は無いのか へらへら笑って珈琲飲んでりゃ 今日も勝手に月は輝くのだと 安心しきってるような顔を見せないでくれ 既に海馬からも消えてなくなった そもそも最初から覚えてなんていなかったんだと 微笑みながら茶色い息を吐くお前 少しくらい懐かしそうな目を見せてくれ さもないとお前の能面を被って お前の能面を被って人間辞めちゃうから そんな事は起こりえない そんな目でこっちを見るのは止してくれ お前が笑っている間に 太陽が砕けて飛び散っちゃうよ 俺は気付いたってお前は暫く気付かない その間に攫っていっちまう ヘラヘラしてるお前が見る間に苛々して 綺麗な声が金切り声に変わるのさ 無表情な能面のこっち側から 誰よりも優しい目をしてやるよ それで最後さ ヴァレンティーナ 次の日に地球は真っ暗になっちゃったんだ ---------------------------- [自由詩]と、彼女は言葉を継いだ/虹村 凌[2007年2月21日14時43分] そうだ そう云うと彼女は乳房に埋もれていた私を引き剥がし ピシャッと 私の目の前でテトラポットから飛び降りたのだ 海の中で泡になってしまった彼女にかける言葉を持たない私は 恐ろしい疑念や猜疑心で一杯になってしまい 彼女が残したスカーフにカフスボタンを包んで そっと海に浮かべるのが精一杯だった もう二度と彼女に質問しようとはしない そしてそのままそんな事は忘れてもいいから 子供を呼び寄せようと決心して 私は防波堤の向こう側に歩いていった ---------------------------- [自由詩]青、紫、明け方の、匂い/虹村 凌[2007年2月27日12時25分] 俺の片目は何時も赤いけれど 何故か知ってるかい? 兎みたいに 寂しいと死んじゃうんだ 知ってたかい? と言うと 君は心底可笑しそうに笑って それじゃあ 鏡の中に映るあなたは 左目が赤くて 実際に左目を閉じたら 全部赤くみえるのね と言って 俺の左目を手で覆い隠す 窓から立ち昇る明け方の匂いが 真っ赤に染まって行くのが見えた 明け方前に迎えに行くから 一緒に朝を迎えよう どこか遠くで うんと遠くに行って 世界を始めよう と言うと 君は心底可笑しそうに笑って バイクも車も無いから 歩いて向かえに来てくれるのね 間に合うかしら? 無理しないでね と言って 煙草の煙を吐き出した 今でも優しくなれるよ と言い掛けて言葉を飲み込んだ 窓から立ち昇る明け方の匂いが 青と紫で綺麗なマーブル模様を描いていた 立ち昇る青と紫の煙が 消えてなくなるまで眺めていた ---------------------------- [自由詩]創書日和「火」/虹村 凌[2007年2月28日15時11分] 火をみた事が無い彼女の為に 僕は火をつけて回ったのだ 燐寸箱 煙草の箱 捨てられた新聞紙 彼女は大きい火を見ると喜ぶので どんどん火は大きくなった ベンチ ゴミ箱 公衆便所 車 倉庫 どんどん燃やしては 彼女を喜ばせた 満面の顔で笑う彼女を見るのが嬉しくて 僕はどんどん火をつけた 動かないものに火をつける事に飽きて 今度は動物に火をつけた 雀 野良猫 ホームレス 火をつけられて尚動く彼らに 彼女は盛大な拍手を送った 僕もつられて盛大な拍手を送った 火をつける事がこんなに楽しいなんて 僕は今まで知らなかった だって 学校じゃ禁止されていたんだもの そんな風に火をつけていたら 公園は火に包まれてしまった もう燃やすものが無い 僕はお巡りさんに捕まった 彼女を喜ばせる為の燐寸も 彼女を笑わせる為のオイルも 全部取り上げられてしまった これじゃあ彼女を喜ばせられない 僕がそういうと お巡りさんは僕を殴り飛ばした 生意気な小僧だ こんなに火を放っておいて 女の所為にするとは何事だ 僕は悲しくなって彼女の方を見やると 彼女は手を叩いて笑っていた 綺麗な火が見えるの こんな火なんかよりもっと綺麗よ 紫色の変わった色ね もっと私に見せて頂戴 彼女がこう言うので 僕はお廻りさんに殴られ続けた すると彼女は退屈しはし始める これはいけないと思った僕は お巡りさんの股間を思い切り蹴り飛ばす この野郎 公務執行妨害だ えぇい腹の立つ お前なんぞ死んでしまえ そう言って銃を取り出すお巡りさん 彼女は再び大喜びだ 僕はしっかりと銃口を見据えて 一番綺麗になるように頭の角度を合わせた ぱん 乾いた音がして 真っ赤な花火が飛び散ると 彼女はさも満足げに微笑んでいるのが見えた ---------------------------- [自由詩]創書日和「歌」/虹村 凌[2007年3月9日16時09分] 雨宿りのカラオケで聞いた声が 可愛い声だったから その声が欲しいと思った 緑の日は休日 君の好きな祝日に テトラポットの先で歌おう 雨宿りのカラオケで歌った声が 可愛い声だと言うから 少しくらい分けてあげてもいいと思った 緑の日は休日 私の好きな祝日に テトラポットまで行きましょう 晴れた日にテトラポットの上で歌う声が 綺麗な声だったから その声がもっと欲しくなった 海の日は休日 君の好きな祝日に 滝の側で歌おう 晴れた日にテトラポットの上で歌う声が 綺麗な声だと言うから 少しだけ嬉しくなってうつむいた 海の日は休日 私の好きな祝日に 滝の側まで連れて行って 雨の日の滝の中で歌う声が これ以上無いくらいに美しく聞こえたから もう誰にも聞かせたくないと思った 明日は水曜日 僕の好きな日に 好きな物を手に入れよう 雨の日の滝の中で歌う声が 世界で一等綺麗だと言うから 嬉しくなってあの人の家に行くの 明日は水曜日 あの人の好きな日に 何を歌ってあげようかしら 晴れた日の僕の部屋で歌う声が聞こえない 綺麗な声がもう聞こえない もう誰も聞くことが出来ない 明日は二人の真ん中バースデー 一緒に誕生日を祝おうね 誕生日の歌を一緒に歌おうね 晴れた日のあの人の部屋で歌が歌えない 綺麗だと言ってくれた声が出ない もう誰にも声を聞かせられない 今日は私の命日 聞こえる歌は南無阿弥陀仏 あの人も一緒に歌ってる ---------------------------- [自由詩]太陽を盗んだ男/虹村 凌[2007年3月10日14時03分] 警察に殴られた その眼つきは何なんだと言われて 思い切り殴られた だから殴り返してやった 煙草を取り返して ついでに拳銃を貰った 白い自転車にまたがって 急な坂を転がる様に下る ブレーキをかけないで下って  途中のカーブが曲がりきれないで 本当に転がった また口の中が切れた ユウコは窓辺に立ってじっとしていたので 直ぐに見つかった タータンチェックのパジャマに黒いスカーフ 間違いない 走った 支配者達は眠っている 真夜中の金網を乗り越えて ユウコの部屋に転がりこんだ 息を切らせて煙草を吸ったら思い切り咽たけど ユウコが楽しそうに笑うから 続けてやって気を失いかけた 「ねぇシン 月が見えないの」 ユウコは悲しそうに言った 「私 太陽が見られない体質だから せめてお月さまが見たいの」 ユウコは窓を開けて深呼吸した 「今夜は新月なんだよ」 ユウコの後ろ姿を見つめながら言った 「あなたが来る夜はいつも新月なのね」 ユウコはこっちを向いてクスクス笑った 「ねぇシン 太陽の話をして」 ユウコは隣に座ってねだった 「太陽はどのくらい眩しいの?」 「まともに目を開けてみられないくらい」 「キラキラしてて眩しいの?」 「ギラギラしてて眩しいんだ」 「ギラギラしてるの?」 「ギラギラしてるんだ」 「どのくらい?」 「この目くらい」 ユウコは目をじっと覗き込んで ぷっと吹き出してお腹を抱えて笑った 「きっと太陽な綺麗なのね」 「本当の太陽は暴力的だよ」 「いつも血だらけのシンみたいに?」 そういってユウコはまた笑った このユウコの笑顔の為なら いつも血だらけだっていいと思えた きっと今頃地球の裏側では 太陽が無くなって大騒ぎしてるだろう この傷はパトリオットミサイルにやられたんだぜ そう言うとユウコは 手で銃の形を作って ばきゅん と撃った いつもみたいに撃たれて死んだフリをした でもユウコの笑い声が聞こえない 目を開けるとユウコが倒れていた ユウコの父親に殴られた その眼つきは何だと言われて 蹴り飛ばされた 口の中がアスファルトの匂いで一杯になって 少し暖かかった じいちゃんの匂いに似てる じいちゃんはいつも血だらけだった ばあちゃんはそれを見て何時も笑ってた じいちゃんは何時も白い自転車に乗ってた さっき俺が貰ったのと同じ 真っ白い自転車に乗ってた そうか じいちゃんもそうだったのか 自転車に飛び乗って 地球の裏側まで走った パトリオットミサイルが飛んできた 四十四口径が飛んできた ニューナンブじゃ勝てなかった でも 太陽を盗んだらこっちの勝ちだ 地球の裏側のみんなに太陽を貸してくれと言ったら ふざけんなって言われた 石とウンコとハンバーガーが飛んできた 無性に腹立たしくなって聖書に弾丸を撃ち込んだら 太陽が勝手に落ちてきた それを抱えて走って逃げた 白い自転車は置いてきた ユウコの部屋を覗いたら ユウコの父親が見えた 入り難かったから手紙を貼り付けて窓の外に置いて逃げた 「太陽が見たい時は このボタンを押してください シン」 次の日 世界は核の炎に包まれた ---------------------------- [自由詩]ヴォミット01/虹村 凌[2007年3月12日0時05分] みんなが笑っているので鏡を覗いた 口の周りが乾いたヴォミットでカサカサになってた おい 何でお前はそんなツラしてんだ? 鏡を叩き割って走って逃げた 追いかけてきた駅員の足は遅くて 俺は走りながらまたヴォミット 道しるべ いつからかヴォミットが止まらない ずっと昔は反芻してた気がするけど もうヴォミットするのに慣れちまった 回遊魚みたいに ヴォミット止めたら死んでしまう そう言ってる間にもヴォミット また誰かが笑う黄色く短い指を向けて 気付けば後ろ指しか指された事が無いかもしれない 込み上げるヴォミット噴出すヴォミット 両手から溢れ出るヴォミット みんな遠巻きに見てはクスクス笑う 笑うな笑うなよ お前らだって影でヴォミットするくせに 全身ヴォミット塗れで走って逃げた 転んで泣いた 知り合いに声をかけたら 「なに」 って言われてまたヴォミット もう涙か鼻水かわからない上にヴォミット あの頃みたいにお前の胸で一度だけ眠らせてくれ その瞬間だけはヴォミットせずに済みそうだ そう呟いてヴォミット みんな遠くへ行ってしまったよ 人知れずヴォミットし続けた彼はとうとう喉に詰まらせて逝ってしまった 彼の周囲には二山のヴォミット 彼の死に顔は安らかな笑顔 世界せ一番綺麗なヴォミット ---------------------------- [自由詩]おっぱい/虹村 凌[2007年3月28日9時54分] 春の日差しが人々を浮き上がらせて まるで背中に羽が生えたように あぁ僕も空を飛んでいるみたいな気分 そこかしこに裸足の女神 浮き上がる鎖骨 飛び出る肩甲骨 女神様は何時だってタンクトップなのさ そしてブロンドなのさ もう言っちゃいますぶっちゃけちゃいます 裸足の女神様 もし誰も使わないのならそのおっぱいを下さい みんなが膨らんで弾けて飛び散る前に そして夏の小路に横たわって腐ってしまう前に 僕を膨らませて弾けさせて下さい 導火線に火はついています 春の日差し 裸足の女神 鎖骨と肩甲骨 何よりもその小さい胸 早く チェザーレが目覚める前に ---------------------------- [自由詩]一番星は二度落ちる/虹村 凌[2007年3月31日14時11分] がしゃん できない 床に広げられたポップコーンを拾い集めて 窓から投げ捨てると バターがきらきら光って まるで星みたいだったんだ いつ渡したって誕生日プレゼントさ と強がってみたけれど あのペンダントはテレビの上で埃を被っている 何度か星にしそうになった事は誰にも言えない 今夜は何回星を撒いただろう 綺麗な星がきらきら光る 初めての一番星が光って落ちる 誰も知らない一番星が光って落ちていくよ が がが がしゃん そうだ この箱に夜を詰め込もう 髪の匂いもその冷たさも 全部詰め込んで送ってしまおう しばらく夜が来なくたっていいさ もう星をばら撒く必要も無い 綺麗に皺を伸ばして 箱の隅にぴったりとくっつくように 綺麗に折り目をつけておく 夜はすぽんと箱の中に納まって 小さな箱は宝箱みたいに光っていた がしゃん されないように 気をつけてテーブルの上に置いておく 明日の朝一番でこいつを送ろう 要らなかったら捨ててくれ 夜を取り出して空に投げてくれ 白夜が続いたある夕方 影が長く長く伸びて 手を伸ばして家のドアをノックする 急に空が冷たくなって 嗅いだ事のある匂い 空一面が青黒くなった がしゃん ---------------------------- [自由詩]セヴンブリツヂ/虹村 凌[2007年4月5日14時09分] 海も山も陽も街も 自分も俺も全部嫌いな勝手な女が言ってたんだ 「あの橋は河を渡る為にあるんじゃない。  あの橋は河で溺れる為にあるのよ。」 最初は何を言ってるのかてんでわからなかったけど 最近は何となく理解できた気になって橋を眺めてる 春も夏も秋も冬も 自分も俺も全部嫌いな気紛れ女が言ってたんだ 「みんな東京が汚いと云うけど嘘よ。  色々な欲望がキラキラ渦巻いてキレイだわ。 汚いのは文明の発達の所為で切れなくなったシガラミよ。」 少し困ったような顔をした彼女は 窓から煙草を投げ捨てると 携帯のメモリーを全て消去した 橋の向こうで街が笑ったように見えた 白も黒も黄も中間色も 自分も俺も全部嫌いなヤクザな女が言ってたんだ 「あの橋はまるでトウキョウのショウチョウね。 欲望がギラギラ光ってるみたい。」 窓から飛び出た手首は空を舞って 虹の中に落ちて転げた 気がつけば埃舞う助手席には薄い月明かりが差し込むだけ 目がさめれば猫がいない きっと今頃誰かのミルクを飲んでるだろう 行ってらっしゃい 好きな時に好きな処へ 死にたくなったら帰っておいで 全部思い通りになっちゃうかもよ 喉をならしてドアを叩いて みゃおみゃお 綺麗な爪を折らないようにね 朝焼けが部屋のドアをノックする頃に あの橋に行こう 渡る為じゃなく溺れに行こう 僕らの色はどの色だろうね ---------------------------- [自由詩]トウキョウセブン/虹村 凌[2007年4月5日14時11分] レインボーブリッヂはセヴンブリッヂ。 七つの色は罪の色。 「まるでトウキョウみたい」と僕は呟いたのでした。 ---------------------------- [自由詩]1、2、HERO/虹村 凌[2007年4月5日14時37分] 1 メリケンヒーロー空を飛ぶ 今日も国民の為に空を飛ぶ みんなを守って満面の笑み 画面の向こうでこの俺が 「気持ち悪ぃ」と呟くも 彼は矢張りヒーローなのだ メリケンヒーロー空を飛ぶ 国の危機に立ち向かい ムキム筋肉大爆発 画面の向こうでこの俺が お前を横目にジャックオフ それでも彼はヒーローなのだ メリケンヒーロー空を飛ぶ 国の危機を投げ捨てて 家族の為に直帰する 画面の向こうでこの俺が 「それってありか?」と呟くも 家族愛こそ最強なのだ (その後、英雄一族は末代まれ恨まれましたとさ) 2 黄色いヒーロー駆け抜ける 市民の為に駆け抜ける 相手を爆死させる蹴り 画面の向こうでこの俺が 「蹴りじゃ爆発しねぇだろ」 アイツは矢張りヒーローなのだ 黄色いヒーロー駆け抜ける 子供の危機に立ち向かい 疾走バイクオーバードライブ 画面の向こうでこの俺が 「絶対車検通らんだろう」 それでもアイツはヒーローなのだ 黄色いヒーロー駆け抜ける 家族の危機を振り切って 国の危機を乗り越えた 画面の向こうでこの俺が 「お前は漢だ」と泣き喚く アイツはホントのヒーローなのだ ---------------------------- [自由詩]腐った蜜柑の周囲の蚊の飛翔によって悪夢から目覚めた3秒後のうた/虹村 凌[2007年4月11日13時36分] 土曜日のパーティーで会った女の子に もう二度と会えない気がして 目を覚まして起き上がる 重たく疲れる夢の影が足元まで伸びていて 遠くのネオンが照らし出すのを黙って眺めている 背中にシーツが張り付いたまま コンプレックスの数を数えて苦笑う 何時も深爪なのはきっとその所為だと思う 午前零時まであと二分 ベッドの下の埃の浮かんだコーラを飲み込んで呟いた 膝が笑っている ベッドから身体を起こす 悲しい噂が17件 脅迫電話が18件 いたずら電話が22件 留守番電話に残ったまま 東京タワーの天辺の 赤い光と同じリズムで オレンヂ色がチカチカしてる 長い間 夕日を見ていない あのラヂオ番組まであと二分 汗を流そうとシャワーを浴びてたら 排水口と目が合って離れない 全てを飲み込む深い穴は スプリングの壊れたベッドで寝た 何時かの誰かの目とよく似ていた 赤 白 黄色を飲み込む暗い穴は 開ききった瞳孔によく似ていた 気付けば夜明けまであと二分 珈琲とミルク混ぜながら導火線に火をつける 長い事 沢山の朝焼けを見てきたけれど こんなに焦げて苦い朝焼けは初めてだった 道行く人の数にあわせて もう一度コンプレックスの数を数える 阿呆くさい ベッドに戻って抱いて眠ろう 馬鹿な…こんな死に方が… ---------------------------- (ファイルの終わり)