乙ノ羽 凛 2012年8月1日21時33分から2012年10月16日0時39分まで ---------------------------- [自由詩]少年少女ロマンス/乙ノ羽 凛[2012年8月1日21時33分] 空中庭園で一人たたずむ少年 目の前には真っ赤な薔薇 棘に触れ続ける少年 その指先は傷だらけ 薔薇に変わってしまった少女を 思い出しながら微笑みかける 痛みに触れることで喜びと 悲しみの連鎖を繰り返す 少女は凛と咲き誇る 少年は優しく包み込む しがらみから解放された 二人だけの空中庭園 棘は少女の心の痛み はり巡る棘にそっと触れ続ける 棘の数だけ少年の手も傷つく 二人だけの世界 邪魔なものは一つもない 空中庭園という名の閉鎖的空間 少年は少女の最後の痛みに触れた後 根本から薔薇を優しく包み 空中庭園を飛び出した 二人で真っ逆さまに落ちる 腕の中で少女は体を取り戻し 少年の傷だらけの手を握りしめた 少女の感謝の涙は少年の傷に触れた その瞬間二人は現実に戻る 美しい少女と優しい少年は 手を取り歩き続けるこの先何があっても ---------------------------- [自由詩]最後の約束/乙ノ羽 凛[2012年8月2日14時57分] 君がぬいぐるみが好きって言うから 僕はたくさんのぬいぐるみをプレゼントした どうしても欲しいって言ってたぬいぐるみを プレゼントしたくて探し回った 何処にもなくてとぼとぼと歩いていたとき 奇跡的にゲームセンターのクレーンゲームで見つけた アームが弱くても取れないってわかっていても 粘って100円玉を何回も何回もつぎ込んだ 結局それを見かねた店員さんが 取れやすい位置にしてくれた そして君にプレゼントした 君は無邪気な笑顔で喜んでくれた 大切に大切にしてくれて 寝る時もそのぬいぐるみを離さなかったね ぬいぐるみだらけの部屋で 今、僕は一人 居ない隣に君が 大切にしていたぬいぐるみは少し 悲しげな表情をしているように見えた 鏡に映った自分はどうしようもないくらい 情けない顔をしていた 「そのぬいぐるみを大切にしてあげてね」 最後に君と約束したことを守るよ ぬいぐるみを抱きかかえ肩を震わせ 余命より少し長く生きた君の写真に 笑顔を向けた ---------------------------- [自由詩]ママと僕、母さんと俺/乙ノ羽 凛[2012年8月11日10時20分] ママ、一人で食べるご飯は寂しいよ 大好きなママが作ってくれたのに 美味しいご飯なはずなのに 冷たくてしょっぱいよ 耐えられずに玄関の扉を開けた 月明かりが綺麗な夜だった 走っても走っても 月が追いかけてくる 逃げ出した僕を照らしているの? ねえ、お月様…ママは僕のこと嫌いなの? 月が出ている夜は好きだった お庭に出ると月明かりが僕を照らしてくれるから 月日が経つにつれて大好きだった月明かりも 窓からぼんやり眺めるくらいになった いつからか一人称は俺になった 母さん、昼夜いつも働いてくれてありがとう 全部全部、俺や家庭の為だったんだね 寂しい寂しいって泣くたびに見せた笑顔 今思い出せば母さんも寂しかったよね 一人で何もかも切り盛りして大変だったよね でも何もわからない俺はいつも一人で泣いてた 今になってやっとわかったよ 寂しかったしわがまま言った それで母さんが辛い思いしてたのも事実なんだ でもみんなと同じおもちゃも買ってもらった 流行りの洋服も着せてもらったのも事実なんだ 綺麗だった手もいつしか、しわが増えたね 母さん、ありがとう。 今度は俺が恩を返す番だよ 親孝行、沢山するからずっと元気で笑っていてね 俺は昔から母さんの笑顔が大好きなんだから ---------------------------- [自由詩]月の王子と切ない夜空/乙ノ羽 凛[2012年8月13日21時53分] この湖の水面に移る世界はキラキラ輝いていて素敵 真っ暗な世界も心も照らしてくれる 神秘的な明かり あの月へ行けないのかな、なんて そっと裸足になって水面に足を付けてみるけど いつもすぐに消えてしまう 月の明かりに照らされて水辺を散歩すると すごく癒されるし心も踊る この夜空には月の王子と星の娘達がいるんだって 小さいころお母さんが教えてくれた あんなにも沢山の娘たちがいるのに 王子が誰にも求婚しないのは太陽の姫に恋焦がれているから だって太陽の姫が月の王子を照らし続けているんだもん 王子に振り向いてほしい娘たちは 今日も精一杯、自分で輝いてる 流れ星は報われなかった娘の涙なんだね 少し切ないけど今日も夜空は ほら、あんなにも綺麗 ---------------------------- [自由詩]大人/乙ノ羽 凛[2012年8月27日20時56分] 眩しい日差しの中ビルの陰に隠れて歩いていた 排気ガスの匂い包まれて陽炎に不快を感じながら 首に滴る汗を感じてじりじりと焼けるような コンクリートの地面を一歩一歩進んでいた 歩いてる途中に開いてる店の入り口から 一瞬感じる冷やりとした感触を無視して 電車の遅延に巻き込まれざわついた中で 一人思い出していた少年だった頃を 眩しい日差しの中麦わら帽子をかぶって 虫取り網と虫かごを装備して 青々しい緑に包まれて木の陰で 木々の匂いがする風に包まれてたのに 電車が復旧したのにも気づかず ホームに流れたアナウンスでハッとした 俺はなってしまったんだよ「大人」に なんだか一瞬、胸がきゅーっとした ---------------------------- [自由詩]螺旋階段の案内人/乙ノ羽 凛[2012年8月27日22時04分] 週に一度だけ深夜、君が一度目の眠りについた後そっと部屋を抜け出し 近くの公園で煙草に火を点ける 今日までの一週間を整理するために僕が壊れないための一服 愛おしい君を救えない非力な僕 いや、救えているのかなんて流れるように走りすぎる車のランプを見つめて考える ネオンだらけで星なんか見えない夜空に僕の口からこぼれた煙は宙を舞い消えていく この街は決して眠らない 君は眠れない夜に怯えて悩まされて僕は君の手を強く握りしめる 君はすぐ目を覚ますから携帯から鳴り響くコールが僕の現実への扉の入口 そう、君の元へと 君は僕を離さないように抱きつきながら二度目の眠りへ ベッドの温かさに慣れた頃また君は涙を流すんだろう 欲の階段を一歩上っては満たされてはの繰り返し この階段の先には終止はきっとなくて先の見えない螺旋階段のよう 上れる所まで登ってやる何階でも何回でも君と一緒に 君の鼓動が消えないように 案内してあげるよ、欲が尽きるまで光が見えるまで ---------------------------- [自由詩]官能ラプソティー/乙ノ羽 凛[2012年8月28日18時32分] 「人の温もりがないと眠れないの」 と始まった添い寝生活 真夜中のチャイムが鳴らなくても ヒールの音で君だってわかる 高鳴る鼓動、加速する想い そしてドアを開ける 俺のTシャツを着て寝る準備を始める君 ダボダボのシャツからチラチラと見せる太ももや胸 俺の欲望が疼くキミヲダキタイと 「後ろから抱きしめて」 と言う君の指示通り俺は優しく抱きしめる 今日はこっち向かないんだと落ち込む俺に 君の寝息と君の温もりが拍車をかける 小さな肩ですうすうと立てる寝息 それさえも俺を欲情させる 髪から香る匂いも俺を苦しめる 汚したい果てさせたいと 君がこっちを向いて寝るときは 抱いてのサイン 君は乱れて頬を染まらせて出す声も 俺に滴る汗も散っていく汗も 堪らなく官能的で 狂おしい位、君が愛おしい 変な関係だけど君が満足してくれてるならいいんだ でも君が深い眠りについた時に背中に指でそっと 好きって文字を書いてるの君は気づいてる? ---------------------------- [自由詩]大人ワクチン/乙ノ羽 凛[2012年8月28日23時37分] 幼いころよく遊んでた公園前を久々に通りかかった 少年の頃に嗅いだ懐かしい匂いにふと足を止めた 柔らかい風吹く 少女の髪がなびく 真っ白なワンピースが神秘的で まるで天使のように見えた 僕の目は知らないうちに 色々なことを見落とすようになっていたのかな 大人になってあの頃の夢と違う道を歩んで 現実に縛られているなんて勘違いして 僕の心は知らないうちに 鍵を厳重にかけているみたいだ 触れたい触れたくない 触れて欲しい触れて欲しくない 矛盾と葛藤の中で生きている でも生きているんだ 好きなことを心から楽しもう 生きているんだから 楽しいことも悲しいことも これからたくさん待ち受けているだろう 無への願いは切り捨てて 今を大切にしていこう 僕は僕でしかないんだからと言い聞かせながら ---------------------------- [自由詩]ボクニデキルコト/乙ノ羽 凛[2012年9月11日1時26分] 君のひざまくら震えていた 知らないフリをした 頬に一滴零れ落ちた君の涙 知らないフリなんて出来なかった いつもは君に甘えてばかりだけど ただ、ただ力強く抱きしめた 頑張ってる君に頑張れなんて 酷過ぎて言えなかった 君の背負ってるものが大きすぎて でも君の力になりたくて 救いたくて救えなくて その時自分の非力差を思い知らされて 時間が解決してくれるわけでもなくて 踏み込んで解決するわけでもなくて 信仰心なんてない癖にこんな時だけ 神様に祈ってみたりして ああ、君が幸せならそれでいいから 笑っていてくれるならそれでいいから 笑顔と幸せを作るお手伝いが出来れば本望だなって ---------------------------- [自由詩]黒/乙ノ羽 凛[2012年9月13日17時23分] 真っ白だった心に いろんな色が付着していく 気付いたら全部混ざって 黒になってしまった 雑踏の中で右から左へ 流しても流しても 取り込んでしまういろんな色を 綺麗な色も汚い色も混ざり合って 感情がうごめく人間に私は生まれた ここまで生きるのに沢山の色を取り込んだ 私は間違っていたの? 純白に憧れて天井を見上げ 考えて考えた 人間は染まっていく生き物だからこそ 味があるんだなーって だから黒に染まっても 光っていたら輝いていたら 何にも染まらない黒になれたなら やっと自分らしく生きれるんじゃないかって 私の色は経験も知識もたくさん取り込んだ黒 間違っていなかったよ ここからが新たなスタート地点 今、光り輝くよ ---------------------------- [自由詩]振り返ればそれは宝物でした/乙ノ羽 凛[2012年9月14日12時51分] 土の匂いと水のはったばかりの田んぼ かえるたちの鳴き声、夜には満天の星空と蛍 ドジョウやザリガニやメダカを捕ってたあの頃 泥んこ遊びに鬼ごっこやかくれんぼそしてとっておきの秘密基地 躊躇うこともなく草や木の棒で何か作ったり花の蜜を吸って 百円で買いあさったお菓子たちにおもちゃの取り合いのケンカ いつからだろう、森や林の中を探索しなくなったのは いつからだろう、百円がちっぽけに見えるようになったのは いつからだろう、あんなに大切にしてたおもちゃが見当たらないのは 木々たちは減って行き用水路の水も汚くなってしまった 同じ行為は出来ても枯れた自然や虫たちや魚は戻ってこない だからこそ子供の頃の思い出は宝物なんだ 今じゃ走るという行為は電車に乗り遅れそうになる時だけかもしれない 子供の頃は絶えず走り回っていたのに あんなに楽しかったおままごとが通常の生活で当たり前になって ちょっぴり寂しい気もするけど小さいころの思い出はかけがえのないものだなって そんな風に思い知らされる今日この頃 ---------------------------- [自由詩]飴が咲いたよ/乙ノ羽 凛[2012年9月25日16時44分] あなたが好きなペロペロキャンディー 常備して部屋に置いておくの たまたま通ったアンティークのお店の ショーウィンドウに飾ってあった花びん 一目ぼれで買ったんだ そして常備しているペロペロキャンディー 飾ったらまるで飴が咲いてるみたい ---------------------------- [自由詩]嗚呼、パラノイア/乙ノ羽 凛[2012年10月3日18時22分] 雨が降ってないのに傘をさしている人 火がついてないタバコをくわえ続けている人 首のとれた人形を大事そうに抱きしめている人 ミルクに練乳を入れて飲んでいる人 からのベビーカーを押している人 空に向かってハサミをチョキチョキしている人 なにも繋がってないのにイヤホンをしている人 ホイップクリームで壁に落書きしている人 そんな世界で私は真っ赤な革靴を履き まわり続ける吐き気がするほど きれいな革靴が擦り切れる頃には 目が覚めてたらいいな ---------------------------- [自由詩]私の涙買いませんか?/乙ノ羽 凛[2012年10月16日0時39分] 止めどなくあふれる涙を 売ることが出来るなら私は金持ちだ そんな妄想しちゃうくらい 涙が止まらないよ 自分の涙で溺れそう そろそろ息が上手く出来なくなってきたよ 涙の価値って何? 売れるならいくらでも売るのにな ぽろりぽろりこぼれて涙腺が爆発しそうだ かすんで前がろくに見えない 枯れない涙なんてきっとないから いっそこの涙が尽き果てるまで 思いっきり泣いてみようかな ---------------------------- (ファイルの終わり)