フユナ 2015年6月15日13時03分から2020年11月15日0時27分まで ---------------------------- [自由詩]上司といういきもの/フユナ[2015年6月15日13時03分] 上司といういきものは おそらく有袋類らしく どこか体の内側に たくさんものを隠せるようだ 頭の先から爪先までの ながいながい煙草とか ちょっと一本、と出掛けていって ずっと帰ってこないような 、 ね ---------------------------- [自由詩]にゃんと。/フユナ[2015年7月7日0時26分] 一度目 道に迷う 二度目は 短縮展示のため時間外 三度目、 祝日の関係で振替休み 四度目 ふてくされて向かわず そして五度目 の 有楽町の美術館は 中に入れはしても 常設展示をしていなかった そして今年は 目当ての展示はしないのだという ははあそうですか とりあえず美術館に入れて 上機嫌なわたしは思う そういえば 課金すればなんでも 手に入るのではなかったな この世の中は 金やら時間をかけても 手には入らないものもの 見ることも出来ないものもの そして それに憧れること ほくほくと 無料の番茶を飲んでいる私に 美術館のお姉さんがひとこと あ、あそこの茶室に掛かってる書は その方のですよ にゃんと。 ---------------------------- [自由詩]自分/フユナ[2015年7月13日20時15分] つらいことには傷付き 楽しいことに笑って 嫌なことに怒り 中には歌が流れていて 石を見ると喜んでいる 君とはたぶん 最後の二行だけ ちがうだろう ---------------------------- [自由詩]また明日/フユナ[2015年8月14日21時20分] また明日 と別れたゆきちゃんと 夜中にあいました 夕方、 星空、 寝てたら来る次の日は まっさらな明日のはずだった 新しい明日のはずだった 夕方、 星空、 爆弾、 爆弾 ばくだん また明日、って神社でわかれたゆきちゃんと 真夜中にあいました 私は姉ちゃんに ゆきちゃんはお母さんに 手を引かれて すれ違いました 夕焼けのようだった 火の中 私たちは、 また明日ねって 手を伸ばしたの そうしたら誰もかれも 焼けたはてた町も人も ただの夕方に 戻る気がして 広島 長崎 その日付のほか あなたの住む町が焼けた日も あなたは知ってくれるかしら たくさんのゆきちゃん ふっと途切れた たくさんの明日のことを ※8月14日夜間から翌日の8月15日の未明まで、秋田県秋田市土崎港周辺を標的とし、アメリカ軍による大規模空襲が行われた。この空襲は太平洋戦争最後の空襲(他に大阪、小田原、熊谷、伊勢崎、岩国、光)の一つとされる。 ---------------------------- [自由詩]┌(┌^o^)┐ ホモォ…… /フユナ[2015年9月20日0時45分] ┌(┌^o^)┐ 国会中継を消して ホモォの世界に逃げ込む だってそこじゃ 口の悪い攻め(突っ込む方)と 残念なイケメン受け(突っ込まれる方)が 高校最後の夏を リリカルにエンジョイしてるんだもの こんな現実より よっぽど良いわい 教室で寮でバイト先で はたまた時空を越えた未来 私は画面のはしで 体育座りで二人を見守ってりゃいい そのうち 手軽で切ないハッピーエンドが流れるから リアル設定をひととおり読んだら 現代高校生のホモォ二人が 妖怪になったり探偵したり 花魁になったりなんつって パラレルストーリーにまで手を出しちゃって うっかり特攻隊ものとか うはーこれ萌えるわなんて お互い言い出せないまま もう会えないホモォ萌え!!なんて 画面のはしで体育座りの私 そこには うちの旦那も弟もあの人も存在しない 誰も産まれず 誰も育たず 死地に発つホモォ二人以外 何を憂うこともなく 世界も国も平和もない お前だけが全てだ的な 美しい光が堕ちていく その火は私に不都合な どの場所も焼かない そんな火は どこにもない ふと 昼御飯を作ろうと思う 口の悪い攻めの好きな オムライスにしよっと 卵 卵 卵を割る 鳥にはならなかった卵 世界の男はみんな とっくにホモォなのかもしれない 誰も産まず 誰も育てない 旦那は男友達(注:イケメン)と 遊びに行ってるし 国会中継のジジイたちも お互いを見てばっかだわ 与党×野党 もしくは野党×与党 世界も国も平和もない お前を負かすのが全てだ的な でもここじゃ 体育座りで見てても ハッピーエンドは望めない フライパンに乗せた どこかの鳥の卵が焦げていく 私に不都合な場所は焼かない そんな火はこの世界 どこにもない ---------------------------- [自由詩]君/フユナ[2015年9月26日21時48分] 同じマンションの 上に住む人だと思って シャボン玉をした 階下に住む人と思って 花を降らせた どうしたんですか、 と言われて振り返ると 君は 君は 同じ階の人だった ---------------------------- [自由詩]ひとりの献立/フユナ[2015年9月28日19時41分] さびしさだけのおにぎりに 今日はおかかをつめた ---------------------------- [自由詩]正化/フユナ[2015年11月17日0時35分] 正化さんじゅうなん年 世間では 本を検閲する政府と 守る図書館で どんぱちやっているらしい 銃弾の飛ぶ 大通りの裏路地で 私たちは聞かせる ひととき限りのうた ひとりの喜びや恋の執着 殺意や絶望のものがたり 検閲されるだろう確信がもてる ひとの心のうちを 私やあなた 私たち 詩人はうたって聞かせるだろう 本などは焼かせておけば良い あなたが焼かれるよりなら また詩から 人々は歌声をあげる もし平成の次に 正化になったとしても 人々は 少なくとも 詩人は ---------------------------- [自由詩]雪が降らない/フユナ[2015年12月8日22時53分] 雪が降らない 音符ひとつ落ちてこない天上 澄みすぎて 画面のなかのようなこの街 詩人になるのは 後にしようと決めた 私という女子 の足下は いつからか三次元だったらしく きみ に続いているようだったけど 影さえひからせるはずの 雪が降らない 雪が降らない 方が冷たい ---------------------------- [自由詩]新しいメッセージが一通あります/フユナ[2015年12月20日22時50分] 新しいメッセージが一通ありました このまえ やむにやまれず書いた言葉に 一度は お気に入りのふせんも 消えてしまった人から あまりに 懐かしすぎて そのひとつの たったひとつのポイントが あなたからの 特別な詩のように 感じられました 私は生きていて そして あなたも生きていて嬉しい やむにやまれぬ言葉を 今もおそらく抱きながら 通りすがり 片手をあげてくれた 懐かしいひと あなたにも今日 見ず知らずの私から 新しいメッセージが一通あります ---------------------------- [自由詩]キノコ/フユナ[2015年12月21日23時54分] 私の影の じめじめに いつしか キノコがはえていた いけそうなのを つまんでみると なかなかオツな 味がした だめそうなのも なかなかあるが だめなキノコは うつくしかった ---------------------------- [自由詩]花に嵐/フユナ[2015年12月31日20時28分] 冬を冠した花が ささやかに咲いて 雪まじりの風を抱くよう 手を広げた 広げるほど薄いひだが いたむのも厭わず さあ 揺らしてくれ 嵐 そのひとひらは 君に散らされるため うまれた ---------------------------- [自由詩]北国の冬/フユナ[2016年1月20日23時23分] 綺麗事を言ってくれ この雪の外にも街があると 綺麗事を言ってくれ この凍てつきは 長くは続かないのだと 綺麗事を言ってくれ お互いさえ見えなくなる 吹雪 口を閉ざす我々は いずれ他人に届く言葉を 持ち合わせていると ---------------------------- [自由詩]ささなみ/フユナ[2016年2月20日11時56分] ぼくはこんいろの海 みずいろの海に恋をしている みのうちにたくさんの深海魚を いとおしくかかえながら いづれ手がとどくか きみという爽やかな浅瀬へ ---------------------------- [自由詩]生葬/フユナ[2016年3月13日16時50分] 枯れていく ご飯を食べる 枯れていく 仕事をする 枯れていく 着飾る 枯れていく 歌を歌う 枯れていく 枯れていく 枯れていく 枯れていく 陽は明るい 枯れていく 春風が吹く 枯れていく 花を打ち捨てて また君は 花を買うだろう ---------------------------- [自由詩]金曜日には花を買いにゆく/フユナ[2016年4月14日0時13分] 金曜日には花を買いにゆく 水仙や早い菜の花 いきいきした街の黄色を通りすぎ もはや首を切られ それでもまだ いきいきと生きんとす 花屋の花たちを買いにゆく 金曜日には ---------------------------- [短歌]街路樹の若葉のかげに見えている赤風船は僕のかなしさ/フユナ[2016年5月31日0時13分] 街路樹の若葉のかげに見えている赤風船は僕のかなしさ ---------------------------- [短歌]縄ならば千切れぬだろうこの赤が糸であるのはせめてもの誠意/フユナ[2016年6月13日11時06分] 縄ならば千切れぬだろうこの赤が糸であるのはせめてもの誠意 ---------------------------- [自由詩]寄せ鍋/フユナ[2016年6月30日23時22分] 絶望とはこんな味だったか 初めて知ったくらやみの味は どこかへ行ってしまった 私の絶望には 孤独の軽やかさと 哀しみという甘さが もはや混じりあってしまったのだ 月日という火のもと この身体を この肉の味を生かすために ---------------------------- [短歌]石壁の家の裏手に枯れた葱ほんの四方に人は生き抜く/フユナ[2016年9月7日0時24分] 石壁の家の裏手に枯れた葱ほんの四方に人は生き抜く ---------------------------- [自由詩]影送り/フユナ[2017年2月19日22時21分] 影送りができそうなほど 晴れた日のまま 洗濯が終わった頃には まだらの雪が降っていました 庭の梅はおおきく 息をしたようです 昨日までは とりつくしまもないようだったのに 瞬いたと思ったら 窓ガラスについた傷だった ガラスに自我がないと どうして言えたろう 昨日 君の夢を見ました 君を君と呼ぶのは もうやめにします ---------------------------- [自由詩]みんな詩でも書けばいいのに/フユナ[2017年4月4日1時28分] みんなイイネなんか押してないで 詩でも書けばいいのに 似てるなにかに頷かないで ちょっと違う!って叫べばいいのに 秒速5センチメートルみたいに 青春に恋はしたけど 私の恋はもっときれいだったって もっとくるしかったんだって 空はもっと高く 雪はひたすらに深く 春のはじめに鳥は飛んでいったって ひとつだけのうつくしさで みんな詩でも書けばいいのに ---------------------------- [自由詩]4月11日/フユナ[2017年4月9日22時43分] 玄関のチャイムが鳴って出ると 幼馴染みのおばさんが 手作りのプリンを持って立っていた 上がってすぐの急な階段には いつの間にかサンタのプレゼントが置いてある すぐ下の弟の部屋からは サッカーゲームの爆音 末の部屋からは音もしない また電気をつけたまま 寝ているんだろう 祖母の唸る詩吟の音 母が帰って車庫を開ける音 座ったままの父 サッカーゴールにした出窓 大きな金魚 裏から香る梅 いびつに咲いて散る ばらのアーチ あなたを見送った一直線 西日 私の部屋と私に差し込む あの西日 ごはんよ 明後日 家がなくなる ---------------------------- [自由詩]今夜は少し明るい/フユナ[2017年9月6日1時11分] 詩情さえ なくしていいと思っていた このコンクリートの延長線に あなたはいない ひとりをなくした 世界のようなひとりを なのに今夜は 少し明るい 月見草が咲いていて 私は詩を書いているから ---------------------------- [自由詩]恋/フユナ[2018年2月12日23時09分] 君と僕が 同じセーターを持っているのを 君も僕も 知っていて 僕が着た次の日に 君が着てくる 君と僕が 同じセーターを持っているのを 君も僕も 知っていて どちらも口に出せない ああ まだ雪よとけるな 春は常に明後日にいておくれ もう少しだけ 僕の思い込みのために 僕の 思い込みの恋のために ---------------------------- [自由詩]真夜中の始祖鳥/フユナ[2018年5月31日23時49分] 夜を 飛んでいく大きな鳥を 始祖鳥、 と呼んだのは君だったか そしてそれを呼び慣らしたのは 僕だったか 手を振ったのは僕だったか 振り払おうと強くあげたのは 君だったか 笑ったのは君だったか 歯を剥いたのは 君だったろうか 僕だったろうか 夜を 飛んでいく大きな孤独を 始祖鳥、と呼んだのは僕だったろうか 君だったろうか 果たして あの生き物がいたことだけ ああ それを二人で見たことも こんなにも 確かなのに ---------------------------- [自由詩]蓮根/フユナ[2018年10月10日21時10分] 泥のなかに 蓮根はもういない 君は立ち去ってしまった はるか はるか南に もう 花は咲かない ああ蓮根 いとしく 暖かな白 ゆたかなひかり 君が去ったあとを見てしまう 泥のなか どこにでもたゆたう水 君がいない場所ならば いくら見つめても 許される気がして ---------------------------- [自由詩]夕方/フユナ[2020年4月2日22時45分] 焼豚のおもてに 5月の文字がある だいぶ明るくなった 夕方のひかりが ずっと閉めきっている カーテンの端から こぼれている 町内放送のピンポン 子供たちは 晴れた日は外で遊ぶように 私たちの町は それを認めています それを認めています。 5月、の字をなぞる ゆっくりとなぞる 私たちがこれを 食べきる頃を 思いながら ---------------------------- [自由詩]野比くんへ/フユナ[2020年7月9日2時14分] 君が 君たちがした たくさんの冒険 知ってるよ 夏の暑い日 タチアオイの咲く中 君の部屋に みんなで集まってたろう? あぁ、違う そうじゃないんだ あの夏 僕らが子供だった頃 僕も たくさんの冒険をしたよ 白亜紀の森 蝦夷の国 ポンペイ 義経と馬で駆けて 知盛と船に乗ったんだ あの頃 僕にもドラえもんくんはいた と、までは いえないかもしれないけど ねぇ、野比くん いつかこうして 話がしたかったんだ 君の冒険と 僕の冒険 あの夏の日に 僕たちが見た 広い広い世界のことを 僕らが独身のうちに、ね そうして 明日からも 友だちでいよう ---------------------------- [自由詩]羚羊/フユナ[2020年11月15日0時27分] さよならのかたちして かもしかは ゆうまぐれ 町を歩く ときどき 立ち止まり 思案して また 歩きだす かもしかの 梢とも 灰ともつかぬ毛 硬い毛 そのきわを こぼれた 最後の昼がなでる あと少し 見つめあえば 始まったろうか 僕と あなたのあわい 虚空で あと少し 見つめあえば (なに) ゆうまぐれ さよならのかたちして 耳を揺らし かもしかは さよなら ---------------------------- (ファイルの終わり)