石川和広 2005年9月13日21時11分から2005年10月26日18時28分まで ---------------------------- [自由詩]ここにあること/石川和広[2005年9月13日21時11分] 僕のカラダには裏山がある 街を自転車で走り抜けて 裏山が虚ろなる音 こだまする 君達とすれちがい 顔が痛い 裏山の木木がざわめく 鈍いろの 横たわる裸の老人 新聞に囲まれて そのまま絵であり なぐりつけられたような 轟音が僕の 裏山をつきぬける 女の胸 男の汗 ここは天王寺 裏山の密林 かけめぐる緑色の猿たち 川が流れている 人のカラダをしたものの中に 浮かぶ赤いランプ 裏山に火が放たれる 炎 炎 消え失せろ 消えるのよ 街行く声 波のように風 消えていく音 真空の裏山 宇宙 水 大地 うまれたこと ただここにあること 言葉の光に かげる裏山 ---------------------------- [自由詩]ひとでなしつうしん/石川和広[2005年9月14日22時11分] ここにちかよってはいけません きれいなはながみえているでしょう もうとりかえしがつかないですよ かんぜんにはまだ わたしはこわれきっていません うつくしいおんなをもとめています しんだひとでもかまいません なにがおきてもおどろきます うつくしいゆめをみます もっとこわしてください はたらきません かつまでは なにをいおうとかまいません くさがいっぽんぬかれました みんなふくをぬいでください いちめんのなのはなです ---------------------------- [自由詩]ひとでなしつうしんB/石川和広[2005年9月16日0時15分] すれちがいじゃありません すれちがうにはあまりにとおいのです ぎらぎらしたつきがはなしかけてきます またひとがいきました のぞみどおりじゃないですか むねがはりさけそうです とくにいたみはありません いやらしいことができません へんおんどうぶつです すてきなとおりがありました すがおじゃないのよなみだは ははん みっともないです みつどもえのたたかいです はんしんゆうしょうはうれしくありません またひとがいきました みごとなつきよです いきないでください あいたいです またむしがなきました くちずさむきれいなむしたちがいました ---------------------------- [自由詩]逃げる眠り/石川和広[2005年9月18日22時34分] いつまでも 置き忘れられたような 宿題のような生活だ いつまでも焦っている 逃げるように眠る 鳩が鳴いている 静かにメスを入れられる時間 過去はえぐりだされた 歌います 感情を完全には 殺せないままに 今日 一日眠りました たくさんの小鳥が死んでいく 秋です もう秋も死にました 春です ぽかぽかなぐられます きれいな花が枯れました カレーを食べる夢をみました くるしいです 手を握っています どちらからこられましたか 台所が汚れています あなたの髪です さわりたいです 遠いです 何度も泣きました あいたいです でも会えないかもしれません あいたいです 永遠に近く 繰り返される時間 川をわたり クジを引き 何度か家族とあい 死にたくない 思いをとめてしまいたい 雲が流れていく 水浸しになる あちらにいる男はまだ眠っている ---------------------------- [自由詩]ひとでなしつうしん改/石川和広[2005年9月19日23時02分] 頭の線がからんで かゆい明日がある かもしれません 右へならえ ならえません 今日パソコンを買いました 使い方がまるで 象の鼻みたいに ふりまわされて もっとからまって しびれていきます パソコン屋でならびました ソフマップでした 中古品なのに ヤケに輝いています はじめましてとはいいません 夜があけてしまいます きれいな月です 生きています 長い夜が来ました まだいやらしいことができません もっと淫らでありたいと いつもの寺にお祈りにいきたいです 割れていく眼球 ほんのちいさなことです 少し言い合いをしました 道はひとつしかありません 流れる回線の先には何もありません 導いてくれる人を求めます 飴玉がひとつ転がります カフカの城みたいです 何もありません たくさんあります やはり右へ行く方が得策でしょうか 左折しまーす パソコンおやすみなさい ---------------------------- [自由詩]それはかなしみのため/石川和広[2005年9月20日18時37分] 意外なところから 闇が降りてきた その中で書いていると 母が向こうを向いて おばあちゃんと しゃべろうとしている しかしお母さんの許せない気持ちが 歯の形になり お母さんの言葉は 噛み砕かれる 音がして 僕は悲しい 生きている闇が 人恋しい僕に 語りかけている お母さんのこと 僕の心に歯形を作って たくさんのご先祖様が 静かに並んでいる列が見えて おばあちゃんは もう呆けて何年もたつ 言葉が消えていく お母さんははなしかけられない たくさんの感情を おしこまれた宇宙 弁当がまずかった 叱られた くらべられた いつまでも素直に なれなかった二人 僕の中に生きている もうおばあちゃんは ご先祖様のところに いくかもしれない 愛のすれちがい 噛み合わせが悪い 僕のなかの歯形 かなしみ 誰のものでもない 僕の闇に咲く悲しみ ねえ お母さんは どこにいるの? お母さんも おばあちゃんも 迷子なら 僕も迷子? しかし 離れた個体 ぼくというものに また意外なところから 闇が降りてくる かなしみ なれても かなしみ 僕はお母さんをたすけられないかもしれない 僕は闇の中で戦う かなしみと 折り合い 歩き出す戦い それは かなしみのため それは かなしみのため ---------------------------- [自由詩]夜の透明な命/石川和広[2005年9月21日23時06分] 夕飯を食べたあと タバコを吸っていると ささと風がふいた まぼろしにささやきかけたように 近くでおんながくしゃみした 僕の物思いの雨の中を 通りすぎた あれら透明な命はなんだったか きれいなもので 汚れていても きれいなもので 僕はそこから遠ざかった毎日です 静かに手を洗いました その中でも妄念は止まず 消えた星たちが何かはなしています 空には 傷があって そこに 焦点を合わせてばかりです 本屋に立って トイレに行きたくなった瞬間 置き去りにしてはならないものを 置き去りにしてきた気がしました 時が目を回すのです 死んだものたちが 立ち上がる夜があるのです 何もかも疑い 何もかも信じたくなるときも 空の傷に目がすいとられます 詩にたいです 風がまた吹きました 透明な命にいつちかづけるでしょうか そして僕の命は… ささやかな物思いの雨の中に うずくまるだけでしょうか? また風が吹いた サイレンが耳にすいつく夜です ---------------------------- [自由詩]今日はおじさんの日/石川和広[2005年9月22日18時09分] 歩いています夕暮れ 空は赤くありませんでした 曇り空が何度目かの意識で その姿を現しました その下が 天王寺の駅前の古い商店街というか横丁で 腕を組んでパチンコ屋の前で立っている おっちゃんです 汚れたアーケードから薄曇り日射して いい感じの立ちっぷりです 迷いがないです 手ぶらです 何してるんだろう またそれが超合金なつよさのはげあたま そして白いハエギワ いただきます 本屋の帰り道です いくつかの重い本をまた買ってしまいました 父は何と言うでしょう それでもまた 積ん読のもいい感じです 考えがぴきぴきドカーンです 強制収容所です 村上春樹です しかもトラウマですらあります シャレになりません きりがない底であります 少しやりすぎました そうして歩いていると軽い曲がり角に来て 天にそりかえっているおじさんが歩いています 地軸が変わったのかと思いました さっき見たのは女子高生 を見たのはエレベータ途中階止まりません 少しオヤジ目線です オヤジは時に差別語です さびしいです 何の関係も人間という以外ないのですから そうです さっきびっこ引いているおじさんも見ました 福祉番組ではありません 体の不自由なおかつ歩いている人 いっぱいいますよ 昼間っから歩いたり電車に乗ると そんでタバコくわえて人通りが少なくなってくると 軒下で 黒光りしているおじさんが座っているではないですか ビニール状のようなものを よろいかたびらにして 日焼け?肩が見えてます ひもをつけた赤いものをプラプラさせて それをじっと見ています 正直意味はわかりません ダンボールを大地にしたひとつの宇宙 いつから風呂入ってないんだろう と そんな当然のことも考えます ラブリーです そうしてる間にラブホのある坂道を下って 静かなサラリーマンが通り過ぎています 何回もおじさんが通り過ぎて生きます 9月22日はおじさんの日としましょう 一人合点です ためしてガッテン オヤジギャグです そうして予備校前には若い人がいます もうお帰りですか 来た道はもどれませんよ 自分に言いながら だっておじさんの日なんですから ---------------------------- [自由詩]はげしいゆれ/石川和広[2005年9月22日22時52分] やみのなかで しらないうちに からだがおぼえていて あいしかたを しらなくても わななきながら さえずっている ちちはひとりで はかまいりにいき むなしいよと ちちはつぶやいた ぼくはふあんだった きょう ぼくはげんきですか? いそがしいですか? うそばかりついています とっさのときに なけないとりです さようなら いまよるですか? いやらしいひとです むねにこおりをあてなさい みみをたてましょう どいてください わたしがさきです たしかひかりがみえました あのときあのひとは なにもいえなかったんです ちがいます はげしいゆれです うみがひとつきえました ほしがわらっています むしがわらっています ならいたてのことばを さいごのつながりとして いっしょうけんめい さけぶが とどかないのだ またうみがきえました ほしいものはなんですか うまれるまえに うまれたときの しるしをしりたいだけ ---------------------------- [自由詩]巨大なからだ/石川和広[2005年9月23日23時02分] そこにいてはいけない 広がる闇がせまっている いのちが傘を畳むように ひとつの音楽がおわろうとしている からみあう僕たち 下草の湿った野原で 傾いていく橋 今光が走った ここには あふれんばかりの 闇があって ちりぢりになったいのちが ひとつの体を取り戻そうとしている きれいなものにはなれまい 一切の奈落 からだはぼくたちを引き離そうとしている もう少し強く手を握って 神様はみていまい さまよう空気の中に 永遠に近い つながりがない コンセントが抜けてしまった 時間の穴 空の穴にはもどれまい 巨大なからだが出来上がってくる バラバラな夢を見る 太陽は歩いてこない いつまでも やみのなかで 静かにつながりだけを 求めている 体はふたたびくだけちる 死んだように回帰しながら ---------------------------- [自由詩]風、ひとのにおい/石川和広[2005年9月24日17時41分] 愛してるといいたい 立っている コンコースの中を 知らない笑顔が通りすぎる ああ! 空をみたい きっと夕暮れて 傷ついている 空は Mr.Childrenの新曲 買っている その中を 舞い降りる風がひゅー 気がつけば 今日も帰ってきた 窓から風が入ってくる 泣くこともなく ぐずついて 傷のある空の下には さびしい砂場 思いでの架空 トンネルを堀続ける 満ち足りた思いは いつも不足 ぜいたくな底 空を思う きれいなもので きたないから 雲の霞の間を 光がさしてくる 今は座って 煙草を吸っている あのひとに会えるかな 夕暮れひとのにおい ひとのにおい 少ないな もう終りなんだろか はじまりはいつなんだろか あのひとは あのひとは 愛してるの手前の空で 帰ってくるかな 帰ってくるかな そんな独り言のなかを 風が通りすぎる ---------------------------- [自由詩]反四季/石川和広[2005年9月24日22時27分] ハワイには四季があるんだぜ 死んでいった お母さんたちは 特攻する とつくにの小泉さんちに 生きて往くだけの毎日 新聞は届かなかった 全ては桑田佳祐の仕業である 廃工場に先入 ふりかえると おじいさんの顔が転がっている ブルースハープ にじむ太陽は 理由がない わたしたちは歴史に負け続ける 哲学はさつまいも ねがいっぱい ねがいっぱなし いつまでも焼き芋していたい みじかなひとは遠い人 八万光年の恨み おかあさんたちの 蟻の巣に水を流し込まないで 僕が迎えに行くから 季節なんてへっちゃら 風邪は流行り続ける そうして九月 硬い叙情 稲村つぐ詩の氏を読む 僕は世界と離れている 点数がほしい あさましい さみしいから ひとのものさしにあわせられない モモ夏が来るよ 夢のないようが説明できない ばらばらではないけど 込み入っていて 人混みにもお母さんはいる ---------------------------- [未詩・独白]宇宙のにおい/石川和広[2005年9月24日22時34分] 愛している 小人たちはパチンコ屋の前で 十時前にならんで神になる 流れていく涙の キャベツが猫に食い荒らされて みずうちする商店 青色バケツは宇宙の蜜 ---------------------------- [自由詩]絶句/石川和広[2005年9月26日22時02分] 犬が鳴いている と書いた瞬間 何かいのちが死に絶え また生まれるような気がする 書くことは定義不能 生きている毎日が 戦いだ 誰のため 自分のためではない 存在そのもののため こういうと 抵抗があるかもしれないが たぶん嘘ではない いじけながら生きている 耳を立てながら生きている 明日病院へいく なにもかも なんのためでなくても 書くこと そしてその裏で 星は生まれ 星は死ぬ 夜になるとそんな気がして ふるえてくる 教えられたこと その縛りの中で もだえながら ---------------------------- [自由詩]あくむ/石川和広[2005年9月26日23時49分] いきている じょうねんの むきだしの よる みどりごがないている いきなかったきみのために さらけだされている かたくみをしずめている どちらだ どちらでもある あんまりこころに わるいことしちゃいけない したくなってきました どこまでいけるか ながいながい しょうぶだ あせはかかない なみだながれない そんなしょうぶ ぼくのかみさまに おこられるかもしれない そまつにするな あせるな いいやあせる まだまだか もうおわりか もえさかるみどりがないている よる ゆり よる らりほー ねむるんじゃない ながいでんわをかけている はやくきれ はやくきれ つうしんぼうじゅ たしかないぼ きみはそんざいのいぼだ まひるみたいによるだ まちがったかどをまがる きみたちのまちにくる かおをあげられない かがみがわれる いきつぎができない ほしがつうかする またね こえがでない きみたちはいきなかった さみしい ぼくはおいてきぼりだ ちちのかなしみ しらないこころ おやすみ ねえ ねむらせてよ ぼくがえらんだみち ねむれないみち ---------------------------- [自由詩]昼のあいさつ/石川和広[2005年9月30日14時35分] 抜き打ちに 昼が訪れて 僕は 誰にともなく やあどうもというが 答えは空っぽの家に 自転車のブレーキの音が キュウキー響くだけで 僕はためいきをひとつついた 昼はおとなしくしている あまり何もできない 夜光虫みたいだ 昨日の晩はミステリーを 読み終わった せつない話でもあった 何か励まされた 人のこころは砕け散った宇宙みたいだと 多重人格の人の言葉を読みながら 少し荒っぽく息をふせた 僕と僕自身の通路が うまくとおりぬけられない と医師にいったら もっと具体的にといった カウンセリングでの やりとりをはなしたら それはカウンセリングで といわれた さみしかった そうかここは病院なんだよ こうかいていると 鳥の羽ばたく音が聞こえた きっと 昼のあいさつかもしれない そう 思った ---------------------------- [自由詩]鳴き始める/石川和広[2005年10月2日17時53分] 夕暮れ 絶望は希望の反対語ではなく 生きている私の 不安の影がついてくる 彼女は飲み会に行ってしまった 虫たちに話しかけようとするが 虫たちは鳴いていない 犬も鳴いていない 葉が風に揺れている 焦りの加速度は増す 僕の重心がとれない 詩集を出した後なにができるのか 身支度を整える 風と戦う あっと言う間に 日が暮れる ヒュー 助けてくれ なにが 助けてくれ なにを 胸が痛い はるか宇宙はカラス鳴く 鳴き始める カラス カラスよ 僕に安心をください 歌がでない しぼりだすように 孤独の歌を歌う お手紙届きましたか もう夜です ただそっと抱いてほしいのです また星が死ぬのです 職安はいやです 夢はなんですか 聞かれたくありません 僕が羽ばたける場所はどこでしょうか こうして書き続けることでしょうか 月がやって来ます うすぐもりです 少しだけ近寄ってください あいたいです 壁があります しかし 少しだけでもいいのです 雨は降らないでしょうか 今日は運動会でした あいたいです 夜は迫ってくる 少し落ち着きはじめたように ---------------------------- [自由詩]のろい/石川和広[2005年10月2日20時38分] わたしたち しんだひとのこと わすれちゃった おぼえていても きえてしまうの だからもうゆめもみないし うまれてきたものだって ふくざつなの あやしいおしえはないけど かわいいまちはあるわ そのにぎわいのなかで みずがきれいよ しとしと しのあいだでいきているものたち わたしもよ いきている おかしみをかんじなさい ---------------------------- [自由詩]うそのこどく/石川和広[2005年10月2日20時49分] わらう あなにむかって ここはおうのしま おうゆれる まゆーん まゆーん びしゃ おうはあつい おうはわらわれている かしんどもから まるでしんだねこみたいにやわらかいのに まゆーん まゆーん びしゃ おうはちかぢかころされる かたかなをよみまちがえたつみで おうのさいばんにひとはあつまらない ちいさなはなだけがかわいくさいている まゆーん まゆーん びしゃ おうのことをあいしているしゅうかんしきしゃに きょうもしごとがない ---------------------------- [自由詩]ひとでなしつうしん(事変)/石川和広[2005年10月5日15時03分] 宙吊りなんです 時間というもの これが曲者です 入りたいですか いきていいのですか てごわい草花です 取り越し苦労します 太陽が隠れています 泡立つ時間が雲になって 雨がふっていました 時制の変更です 事変です 大変ですか 地割れしていますよ 底から雨がふりますよ 消えたいですか 星たちのことです 現実というものです 一番大事なものは何ですか やはり消せないいろだったですか 雲です 花です ここは荒れ地ではありません 私はけものです ひとりではないのです かなしいです いつくしむことができません ---------------------------- [自由詩]しにゆくものたちへ/石川和広[2005年10月8日21時28分] しにゆくものなんです ぼくらは それだけなんです ぼくらは それしかじょうけんが ないんです そんなにむづかしいですか かいひはいりません しにゆくものということだけなんです わざわざしななくてもいいんです ぼくはほんきです ほかにしつもんは やることがないんですか あまりありません ときどきくるまにのって はなをみたりしますが とにかく だれかがしにゆくのを みつめます ほんとにそれだけなんです きれいなかわが ながれていますね いまはおんがくのじかんです くるりをきいています しかしもうすぐ このかいはひとまずおわりです しんだもののこえがきこえます よるがやってくるのです よるがやってくるのです さようなら こんばんは しんだものたち またあそびにいきましょうね ---------------------------- [未詩・独白]ひとでなし/石川和広[2005年10月11日22時04分] とりかえしの つかないことを してしまった そのひとの顔がみえないところで おそろしい場所で またひとつ 大切なものを ふみにじってしまった ぼくは ぬけぬけといきのびるだろう ぼくが ふみにじったものを 置いて そうするしかできない あやまったらおかしい ぼくは反省ができない そうして 詩をかく ひとでなしだ そのひとの声がきこえるようだ いつもぼくはまちがった言葉をはきつづける おんなに ---------------------------- [自由詩]宣戦布告/石川和広[2005年10月13日20時58分] 苦しいのは 薬のんで 痛みがないこと 痛いの怖い? でも少しの我慢 長い退屈 痛みだけが 自分のもの 記憶している すりきれていく 忘れていく 流される 暮らしに押し流される やましいのは ねじれきったこのから から からだ 暖かい布団で 寝るのは大事なことだが 苦しいのは 射してくる光が あまりにひどい言葉たち が 頭に とりこじかけに浮かんで 浮気模様 無益 ぼくは無視 こはく色した ぼくは虫 きりきざんでいいよ お母さんに怒られながらなら 女は愛するもののために 戦っている 戦いは容赦なく ぼくは無条件降伏 反乱をたくらむ 氾濫するのは反省のなさ 情けない 泥まみれ血まみれの死者たちを 追い越していく 無痛文明 痛いまま死んだ メランコリー 笑いながら撃たれた 絶望を希望に 進軍した人たち けられなぐられ はみださないように 奪いあい暖めあい 冷たい仲間たち 僕らはまだいきている 死んだ子たち まるで 戦争みたいね そうして 泥にまみれ血まみれ 死んでいった 悪者たち だきしめて だきしめられて 美しく 崩れていく言葉たち 石川さんの詩 死 わかんなーい こないだ久しぶりに目覚めた まどろみながら生きていたが そこで ぼくは女に 無益な恋 をしている ということに気づいた 泥まみれ血まみれ の悪者と呼ばれる人たちを 抱きしめるものよ 汚れたもの 紙屑みたいにねじられて 切り刻まれたものを 愛している女よ ぼくは君に… そしてぼくは座っている 戦うか ---------------------------- [自由詩]そんな日/石川和広[2005年10月16日22時15分] 空は赤い 歩いていても 泣いてなんかいない 恥ずかしいからではない 憂鬱だからでもない たぶん幸せ者で その幸せを一歩一歩 ふみにじっていっている そうして家に帰り 笑いながら宙に舞う 意識が それでも 食べて 話す あまり風呂は好きでなくなってしまった そうして 夜寝ていると 夢は全部忘れていく あとは あの人の顔だけ残る 顔は話す 本当にごめんなさい 私ではないのでしょう 縁がないと思っております いいえ あなたそのままでいいの どうにかしなさいよ ねえ 沈黙 全部あなたの妄想にちがいないです あなたは暖かい膜がなくなると そうしてわたしをたよるのです 本当に私のことが好きでも それは間違いです あなたはあなたをつかまえてはいません そうして夜がきれいになっていく 少し頭がかゆい 眠っていても考え事してるようだ そうして朝が来る けだるい朝が来る もう何日もそんな日だ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]土佐日記からおんなへ/石川和広[2005年10月17日19時39分] 驚くべきことに土佐日記はおとこがおんなになっておとこのことばを使うしか日常の文学が書けなかったという困難を表している。日本語を使うときそんな歴史があったことを考えるといろんなことがみえてきそうだ。おとこもおんなもこの国の言葉の中ではいろんな困難があって異議があるかもしれないけどそういうややこしさをおとこもおんなもトランスジェンダーも分け持っている。 おんなを主題にいくつか詩を書いたがなかなかピンと来ない。 おんなと言うてもジェンダーというて社会的な性差とか生物学的な女性とか様々な概念があるが、ただ僕の頭に浮かぶ想念のおんなを書きたいのだ。 差別ととられると怖いからこう書いておく。なぜか詩の世界を眺めても、おとことおんなのいい感じの対話は見られにくい。短歌の世界なら恋歌という形があるが、詩の場合、おとことおんなが対等に渡り合う文体はまだ出来ていないのではないだろうか。 これも異論があると思うし論じられる人は論じていただきたい。 世代の問題もあるけど、谷川俊太郎でさえおんなを歌うとき、不遇の影が差してくる。 そこが谷川でもあるけど、谷川は、いろんな人に読まれる書き手だから根は深いのではないだろうか?詩の言葉で「おんなに」語りかけながら、その向こうに暗い影が差している。 僕は性のことはあまり語らないけど、そして現在不能なので困っているのだけど、三年前の同棲崩壊から、僕はおんなに関して多大なややこしさをもっているのではないかと最近思い始めている。 そこんところをチャレンジしていかないと今後また大変な傷をつけて、あるいはついてしまうのではないかと思う。 だから女性読者をひかすかもしれないが、たぶんひかしてしまった方もいるだろうけど、自分の暗い無意識というか対おんな関係の詩をかく、あるいは書いたことをご理解いただきたい。 この年三十をいくつか過ぎた辺りで、これまで詩作で意識してなかった性が出てきた。 これは自分が男目線ばかりで書いてきた反省というよりも、案外女性にもわかってもらってるなという手応えのようなものがあった。別にもてるために詩を書いてきたわけでもないけど(そういう人もいると思うけど)。というか文学は中性であり、中性におさまりきらないものをはらみながら展開されていく。そういう人間的な営みだろう。 僕は女性に関して人並みの失敗はしてきたつもりだが、そこには、女性という横の関係でおさまりきらない、何か本質的に自分を成り立たせているもの、自分のなかの父親とか母親がいて、そういうのにうまくなじめなくて(実際母の神経質を僕も受け継いでいると思う。過度に神経質だと視野が狭くなってしまう)俯瞰しそうになったり、過度に地ベタを這ったりしてしまうのだ。なかなか難しいんだけど生きている苦労の大半はそこから来るのではないかと思う。見捨てられないかとか評価を気にしてしまう自分がいたりとか。 こうして書いている間にも同居人がイライラしている。書くという作業は一人のものに見えて、無限の他者との対話かなと思う。そこで、一緒にいたいという人と時間がかぶったら大変だ。 筆を置いた方が良さそうだ。 ---------------------------- [自由詩]羽ばたくように/石川和広[2005年10月17日22時40分] 素晴らしい世界だ 人々は通りすぎて行く 僕も 生の 通行人 夜の木陰 夕暮れの谷間 びる びる びる 回る空 天王寺公園 悲しいかな カラオケ屋台は消されてしまった おっちゃんが足を止めて ストレッチしている なぜか傘を持っている 今日は雨が降らなかったのに ラブホの前を速やかに 掃いていくおばちゃん この街にとてもよく似合う 時計台 KOBANと書かれた交番 闇が祝福している それから明るい地下道に入る まるで生まれたままのように みんな泳いでいる 武装して 地下鉄に向かって 笑いながら 話ながら 数分で幾千もの星のように 顔が光って 上を向いて 切符かって その中をいつも新聞紙をひいて うつむいている おっちゃんが 今日は珍しく 煙草をふかし 座っている 大きな発見 大収穫たばこ! おばちゃんが その新聞紙を売っているのだ 生態系 僕はニーチェの言葉を 思い出す 嫌いな者の前を通りすぎよ ああしかし 毎日が散歩の僕は この光景に 快楽をもちかけている通りすぎて戦慄 旋律 通りすぎよ 通りすぎよ さみしい旅情 旅に近い 毎日が 脳とお腹を捻る 地下道を泳いだあと 地上に出ると 羽ばたくように手を差し出し 雨の加減をみたおっちゃんが 歩いている そう まだ雨は来ない ---------------------------- [自由詩]夜は少しやさしい/石川和広[2005年10月20日21時42分] 傷ついて しまった者 遠くからみてる 見守っている僕は 朝 傷だらけの朝 まどろんでいる ねぼけた手つきで 昔を まさぐって あんまり欲情しない 大丈夫かな おんなのこと思う おんなは結婚した 死ななかった よかった 遠い近い声で よかった 昼になると 焼きうどんを作る 許せない 今日もいいもの書けない 誰もいない どうしようもなく一人で 君のことを 君のことを おもう やわらかく 時に激しく いつもの珈琲屋に行ってもそうだ 歩きながら 夜に襲われる 朝来てた朝刊をとりにいく 時間が 朝から 傷つけられて それを襞にして 生きて 生きて 夜に対する 夜は 少しやさしい ---------------------------- [自由詩]恋虫/石川和広[2005年10月24日14時18分] 与えられた運命のがっちりつなぎあわせられた糸 ほどこうともがくぼくは 一匹の昆虫としてもぞもぞと眠るだけ 何かしなきゃってわかってる 信じようとしている運命を それが正しい道なのか確かめるように恋をしている それが運命なら その女は変態をくりかえしつづけている 殻を食い破り卵が割れた夢をみる ぼくは静かに目をつぶり 白昼夢の中で暗やみをまさぐる 生きている理由はなく ご利用契約があるから 尽くせこの運命を その女は白い肌をしている 妖精を信じている 孤独なのかもしれない満たされる中で 危険な兆候だ そして働いている 巣穴に戻るために そこで幸せに暮らすために ぼくからは遠いところで ぼくは静かに目をつぶり白昼夢の中で 暗やみをまさぐる恋虫 つながろうとしてつながれずに 帰ってこないっメールを撃ちつづけ 女と暗やみを飛ぶことをねがっている 丸められた紙のようなひだに手をさしのべてみたい 言葉のない言葉をさしだしてみたい 拒むだろう 拒むのだろうか ---------------------------- [自由詩]ハウス/石川和広[2005年10月26日18時26分] 誰かわたしを飼ってください 朝 かろうじて そう わたしの耳がささやいたとき ひとが姿を現しはじめた かつて わたしがどんぞこで まだ 形をとりもどしていない頃だった へやには キャベツ チーズ 卵が 腐ったままおかれていて とても美しかった わたしはあせっていた 内臓が弱っているせいか 腹は下しやすくなっており 頭はあつく 手足が冷たかった 早く火にあたりたかった 空に火はまたたいていたが 何の慰めにもならなかった ひとが姿を現すにしたがって わたしの感受の森はいっそう深くなり その深さを燃やしてやりたいと思いはじめる 残虐だが いとなみはそうやって始まる いとなみはまた森とは別の たくさんの その時々の生育と死をはらんでおり いつまでもなれぬまま 足元は覚束ないまま まるでもう一度初めて生まれたみたいだった 今も覚束ない 始まっていても飼われるのが好きなわたしでも もう一度生まれたのだから おそるおそる胸に水をかけるように そして手を動かすようにして周りのものの 匂いから覚えていかねばならない 銀色の魂がほしい 月を見てそう思った 感じたまま匂いを口にすれば飼い主を泣かせる だからそうっと鳴かなければならない 耳がつつぬけになって それを脱脂綿でふさがれた 奇妙なことに わたしは責任というものに気づき始める 飼われたままではいけないのだ そうふさがれた耳がちぎれるように問い詰められたのだ 飼い主ではなく より大きな森に ちゃんとお散歩し ちゃんとお薬を飲まなければならない 闇猫たちの集会にも出られない わたしは闇猫でもないことに気づき始めたからだ 飼い主にすがって 鳴いてちゃんとすわれなければならない そうしてちゃんとすわったころには夕暮れが来て 朝をどこへやったかは忘れてしまいかける そんなときがある ---------------------------- [自由詩]ニュース/石川和広[2005年10月26日18時28分] にんげんを神の家畜だと思った人がいる あるいはそうかもしれない そんなのおかしいよと誰かはいうだろう あるいはそうかもしれない じゃあほんとの家畜はどうなるんだと ニュースキャスターらしい人が語る あるいはそうかもしれないが それはおかしいと思う 何か大きな雲が人を食べて 星に水を明け渡している そのうめきが沈黙になる瞬間にも 人は結ばれる 朝は来るが リレーはこの頃されていない どうも調子が出ないんだ そう最初の人が言った どういう意味か 人の影が薄れて もう雲が食べても味が薄いんだろう ニュースを見ながら さみしい 僕はそんな気持ちにもなるのだ ---------------------------- (ファイルの終わり)