石川和広 2004年6月16日10時10分から2004年9月29日12時13分まで ---------------------------- [自由詩]裂ける目覚め/石川和広[2004年6月16日10時10分] ゆめの風 荒地のビルの砂けむり 起きるから寝られる 寝るとめざめる その当たり前の営みの 出来ないこと 吹き荒れるはげしく おそろしい あたりまえの日々 かしわのように、蒸し裂かれる 自身 朝早くの大地揺れる 夢の中に 逃げ遅れた わたしの、わたしの、 誰かから誰かへの おはよう ---------------------------- [未詩・独白]まいりますわ/石川和広[2004年6月17日16時58分] 困ったことが起きていました それを急いで箱に入れてしまいました そうするより他なかったのかな、知恵もなかったし、 ふむ、、 で困ったら、むしょうになんかこうねじってみたくなり ねじります こう力入れすぎて、ねじ穴つぶれて ドライバーは、ねじ穴にはいらんくなって こーまった、ここ、 こ、こまった つるつる空転してドライバー もう開きませんわ あきません、この箱 あきません、ねじ穴馬鹿になっちゃた 困ったことが封印されたことになり 出口もなく暴れまわり 寝床も気持ち良くなくなり 何年やっても あきませんわ なんか夜そいつが泣くんですわ 困ったもんが ここで、文を止めるのはまずいですか? どうかな? 相談もしてみました あいつ、泣いてるんです、でもオレ一緒に泣けないんですわ、と 「誰や、そいつは」という人もいて 僕も分からんから、二人して遠い目になったり 「いっしょに泣いてやり」という人もありありて でも、そいつ僕が泣くと急に黙ってね まいりました 優しいのかなとも想像したり 泣いているんじゃなくて、なんかの物音との聞き違えかとも、、 ほんとうに困りました どこまで考えても仕方ないから 箱を部屋においてたんだけど カバンに詰めて あちこち旅してやろう たとえ、こいつが黙ってて、大きな音を立てても こいつはこの中にいて、何も感じられないかもしれないけれど 見えないかもしれないけれど そうして、みるしかないのかな、ずいぶん迷って でも ある年上の人が オレがサイフ落とした時に 「大事なものは落としたらあかんよ」 と そのしゅんかん、もうすごく、あいつのことが たいせつに感じて だから、旅に出て どこでもいい ここでもいい だって、ほかにこいつのこと、かんじられる方法ってあるのか わかんない そうおもわない? まま、すんません トマトもおいしく下品に 洗わず もうまるかじりの心意気です あー、つかれた。なんか豪語してしまいました。 これ、ほんと、小さい声で言おうかなあ 小心、かつ大胆に。 フン やれやれ ---------------------------- [自由詩]無罪放免/石川和広[2004年6月20日11時45分] 女にふられて あんたは何も悪くないと言われて ぼんやりと抱きしめてほしい日々が続いた 近所の空き交番の 防犯ポスターは きばんでいる 冬の青い朝などは 建物自体 廃墟にみえる ぼくは何日も その前をとおりすぎるが いつまでも ぼくを捕まえるおまわりさんは あらわれないのだ (悪いことしてないから?) ある日雨が降っていて 空き交番の前で ぼくは雨宿りしてた 近くの小学生たちが 傘をふりまわし 笑いながら走っていく 特に用事もないし やっぱり捕まえてくれないので とびらを開けて中に入る 110番の黒電話がひとつ 事務机の上にある かけてみた 「あのう」と云うと 80くらいのばあさんだろうか 「帰りなしゃい」と答えた 木のざわめく音がして切れた ---------------------------- [自由詩]すき/石川和広[2004年6月21日16時11分] おんなのこを すきになる このひとことのかげひなたに どれだけのかぜと、あめとゆきと、ひでりとあつさが さむささえ からだのなかに けあなに すみこんでいるだろう ときめきとははずかしきことば か ふるえか たてぶえのぴーというおとか わからないくらい あるひとつぜんの あらしあらしやらしくも くもみたいにあたまむすうのつぶつぶでみたされ あわだつはだにむすうのすいてき あわ しゃわー いたみ  せんをとめたひたいにながるるよかん いけない いけない さけんでみるも そとにでて ふらふらと びるのびるのすきまさまよう すぱいみたいだ うたれるかもしれない いや もう つらぬかれたんだ ---------------------------- [自由詩]透明通信/石川和広[2004年6月21日19時06分] びる びる びる 雨粒のの当たるびる 風のぶつかるびる まどに空うつる 中でうごめく人影をとおくわたしの 目におくる 霧粒子 壁やねこやテーブルのばなな貫いて あれは、Kだそんなことありえないこのちかくにはいない やばいヤツだ なんでここまでくるんだ3?はある まっすぐには来れないはずだ 俺がよんだのか ここまで及んでくるのは ヤツと俺両方狂ってるからだ 見えるものを見てしまったからだ ひとみが、もう機能しないまま 一点凝視なんだ 氷みたいなんだ あいつの影に触るとき あの時遠くの席にいた ケイタイなんているか とKはいった そして八犬伝のビール瓶 を二十三本砕き 会話なんてゴミくずだと 店員を なぐり なぐり なぐり 三つくらいの星の言葉をカクテルしながら わめきちらし 椅子五つを天井に投げ 照明が三つ割れて暗くなり 逃げ惑い悪態をつく揃いのマークのポロシャツのおじさん 三人をぼこぼこに する前に店員は110番通報して震えたが なぜかKは陽気に笑いながら三人の胸ハラ尻 をどんどん踏みつけて 警察と救急がくるまでに二人はぴくりともせず 器物損壊、暴行致死傷の罪で手錠をかけられながら 明るく「再見!」というので こわいというより 俺も思わず笑ってしまい 理由はわからないながらも警官に怒られた わからない わからない あいつは連行されるとき 青く透き通っていったはずだ 嵐の中の南風 変な夕暮れ びる びる びる 匂いの違う世界 凶暴なものは、純粋だ ただ、この湯飲みよりつまらない 色気も無い透明通信 あいつの残像 いちおう二十歳過ぎだったし 無期をくらったらしい 過ぎたことだとは、傍観者の物言いか で、 あいつの訪問は、挨拶もなしに済んだ ある意味口下手なあいつらしい お茶を飲み干すと、空がくらくなっていく 夜だ あたたかい もう 今は ---------------------------- [自由詩]色のない影/石川和広[2004年6月24日15時16分] くるしみ くもりぞら 町 ちょっとむしあつい いぬ かわいい くろい ちぃちゃな いぬ みてても 人々 すぎゆき 押し返し なごまない くるしみは流れにくい 涙も流しにくい どうしていいかわからない 途方 あてどはある 時間あるよう で ない ようでじしんなく ただ足を運ぶことをする ずる ずる 昼間のビル街 たぶん ぼくのくるしみ 色のない影 くらいくらい みらい わかんない ---------------------------- [自由詩]ひかりのは/石川和広[2004年6月28日1時03分] もうだめかもしれないと思ってる瞬間に、へんな電話がきたり、エロメールが来る。 たぶんそれもいいんだ。世の中はノイズの中を、まだ心拍している。不整脈だとしても。 きらいになれないんで人をにくむんだ。ありがたさに答えられずに、うわごと苦しく倒れるんだ。 そんなとき 父が悲しい目をすると、暗い山の中のシダの、葉の露を感じて、 遠くから、僕の陰影を持った侍が残忍な刃を光らせる かなしかな ひかりの葉 もろ刃の美のおそろしき 水晶体  ---------------------------- [自由詩]ぼくの生命線/石川和広[2004年6月29日18時57分] 母方の父は 南方戦線の 密林にいたそうな ぼくはまだ行ったことのない 亜細亜の 異国 木の香り 空気に含まれる水 そして 祖父の流した血のにおい 今はかんじられないことばかり うふふ うふふ だけど祖父のかおり忘れたけど 染みついたぼくの眼の奥の 絵になる男だった ぜんぶ夢の中だけど 覚えている 消えることのないつながりの賛歌 うたに聞き入っていると 居間に父が帰ってくる どうしても 「おかえり」が云えない夜だったんだ 悪いとは思うけど素直になれないんだわ こまった、 な 一緒にいても バッターボックスに父が立ち ぼくはマウンドで プレートに立ったまま 18メートル離れてる 土のグラウンド おかしいな、ここ畳の部屋だよ 僕が変な感覚? やっぱり勝負? ものすごい暴投投げても 父は芯で捉えて 僕のグローブに硬球を打ち返すんだ グローブが飛んで 手が痺れて じーんと 熱くなって もうだめだとも云えないくらい 震えて立ちすくんで 来年定年の 父なのに 本気バリバリで、、、 もう玉ですらない魂を 投げてしまうぼくの、ぼくの、 たすけてくれたすけてくれ 父なるもの 父の、乳の、地地の、何だろう 何なんだろう ひとり行きつけのジャズ喫茶に逃げる イタリア仕込みのすてきな手つき、なのに関西弁 熱いコーヒー 時にぼくのかたまりをほぐす 祖父は、密林で左胸に弾丸を受けたそうな 胸ポケットの小銭入れが いのち助けたそうな ぼくは今夜胸ポケットのない セーター着てる  あっ ズボンにも ポケットあるや ??? お尻のポケットから財布を出して 小銭をはらって家に帰る やれやれ ---------------------------- [自由詩]静寂に/石川和広[2004年7月3日13時29分] ものおとをたてる足の裏は悲しい きしむ古い木の床と すこしずつ減りつつある体重の 狭間で 夜の空気は家人に眠りを運び すりっぱを履くの 忘れた 冷たい ひとり暗い廊下歩く 足音! 聞くものはあるか 足音! 炸裂し、またつまずき どてどてどて ぱたん し トイレの戸を開ける そっと気遣い とおく泣く子供の声か ぼくは男だから 立位して 用を足そうとしてみあげる 虚空 ---------------------------- [自由詩]ユメナマコ/石川和広[2004年7月6日19時56分] ふかい海にいきている 生き物は、わたしたちからは 奇妙なかたちに見えるけど 奇妙だと思わない人もいるだろうし ミスターチルドレンが「深海」という アルバム出したときも、 あれはあれで必然性があって ちとぐっと来た 昔、ユメナマコって深海生物をみて とてもホッとした ピンクで つぼみみたいで ゆったり泳いで かたくなくてあんな水圧に耐えられるなんて たぶん当たり前のことって かけがえのないものの呼び名でもあるんだ 滑らかで、たくましくて 暗い中ゆうゆうと いいかんじに思えたんだ 花 花 花 たぶん、ああいう風に、 生きてるものに 素敵な名前付けて いた方がいた その名前は、ユメナマコにゆだねられ そんなこと あの生き物はつゆ知らず 泳いで けしてたどり着かない太陽に たくさんの水の層 から その存在を 手向け ピンク色している ---------------------------- [自由詩]別れ/石川和広[2004年7月25日21時35分]   この花は       この花は             もう            やはり   枯れてしまう   水やりを        忘れただけかな        わからない   なみだも、ふびんな夜だった     グラスは薄いのだけれど   アリアは、結構だけれども   もう      もう   たばこに、灰がまみれて      しあわせが、  何だろう     伸びきって        切れた形   痺れていくのは         空気だろうか 手だろうか   あの夜の窓は、神様のために震えているのか   歴史は     こいぬの影の匂いがした     すべてがつながらなかった夜     わたしのふるわせた  空気の中に       死に逝くガーベラが         ていねいに          お辞儀           した ---------------------------- [自由詩]愛撫/石川和広[2004年7月30日19時51分] なに 書いてるのかな 風がみどりの木をゆらしているのは 巨人がおどっているから   と 彼女が申すので 書いてみた 僕が思うに、目に見えないってのは 風もそうだけど 見えないような感じなので その実 音は聞こえている  暗い部屋 に、ぐんぐん金と茜の重なった光が 差し込んでくる ただ、ふたりが昼寝から目覚めて カーテン開けただけ  世界って 変わる   うつくしいと感じるのは ふたりが手をつないでるから も、あるけど 贅沢なんだが  もう風が巻かれてビルを抜けて 明確に その空気はぼくらの体中なでまわし   とおい観音様の胸にもふれるだろう すけべなものは美しい 風は 美だ ---------------------------- [自由詩]とまる、こまる/石川和広[2004年8月4日20時00分] こんなんです こんなもんなんです なんて、この先のことどういうたら、ええかな? とりあえず僕の手前の電車が、人をはねたみたいです。環状線の弁天町駅ホームだと、つまりながら車内放送がながれ、小学生達は自殺やと騒いでます。大人も少しざわめいて。ただ、うつ病の僕の胸は事実上絡みつくタコみたいに何か吸い付きカミコロシてます。貴方に会うのは少し遅れると送信して、息がつけません 次の瞬間僕の小指が透き通りました。祈ります。夜は暗いです。停まる車両。あなたがいるようにと… ---------------------------- [自由詩]おさんぽ/石川和広[2004年8月15日0時03分] どんなに そっと 気配をとられないように 歩いても 足音がアチコチぴょんぽこ 飛んでいくんだ から して この角をまがると その足音が つぶてになって あたるので あの木に 気にしないようにしていても 空が少し背をかがめても 運送トラックが  忙しく目の前をゆらしても 私は角のむこうの ポプラの木に あやうく記録されてしまう気がして  不安なのだ それは 私の耳の中の草や 目の奥の砂つぶ星が さわいでいるような感じで 少し うつむいて足早に 木の前を 去ろうとしたら おばさんに ぶつかって 少しにらまれた そんなに にらまなくてもと 思って通りすぎざま 上目づかいに  ポプラの木を見たら     なんだ 涼しげな ただの電信柱だよ ---------------------------- [自由詩]サンドイッチ/石川和広[2004年8月21日23時59分] 毎日がある 胸が苦しくなり新幹線高架下 なにも 何もかも早い 青空が 雲をたくさん押した 感じがした あきは来ないか 季節はこまったものだ あつかいに いつまでも慣れない ここ ここ  何言ってるんだよう だよう 何騒ぐの みんな せかい つまり ぼくのおと 何言ってるんだよう だよう きれいなひかりが おなかを空かすぜ そこなしに 腹が減った しかし 食べられるものはない カエルが哀れんでいる みんな せかい つまり ぼくのおと レクイエムしか口に入らないで ここ ここ 死んだものとも、仲間になれない 生きた僕の騒ぎが 空に吸い込まれて痛い 居たい ここ ここ レクイエムが マンホールに流れこみ始める たぶん たぶん いい気持ちで ブランコに乗って サンドイッチ はむ サラダ は レタス キウリ マスタードからい 少し大人なんだ ここ 辛い ですから 食べたくなるのです ---------------------------- [自由詩]裏町影/石川和広[2004年8月25日2時59分] 親を恨んでいるのは、わたしですか モノローグ あんたであるということを、認めれば楽になれると 京都の裏町の、将棋うちのおやじはいう。 へんだな、その歩の動き、そう歩くこと 進めないのだって、確かなことなんだ 暗い軒下 静かな明かりが蝋燭であることが ちらちら揺れることが 風に私と共に、ともに触れている。 病めること を 止めること は 出来がたい状況 梶井基次郎だって裏町影に追われていたんだぜ 石畳を濡れた中を走るしかないじゃないか 憑かれた者は 肩を見知らぬ男にぶつけ それすら孤独の碁盤の目には ひとつの温もりだ ある日空は絢爛たる城を 隠していると思ったら、ラピュタの城が スクリーンに在ったじゃないか 在ったじゃないか あれを追いかけてなんになると 作者には云いたかった 地にへばりついて え諦めきれぬ日々を はっきりさせていくしかないんやで もう 緻密に城を空に描きあげても 刹那の嵐には耐えられないし 第一、映画館を出て街を歩いて まあ、しゃべってみて、梅田歩いて帰って 楽しいよ 覚えているよ それで? 僕はもうここでいつづけることに、 かんきょうをかえてゆくこと 文句たれて、頭が渦巻くことに耐えられない しかし、ここにしばられて 逃げていくことに罪悪を覚える 逃げてもいいのに ここに足が、巻き付く植物が僕を地へと呼ぶ どうするか 見当違いの誰かに、反吐をぶちまけて 人類の濁流に飲まれるとしても それがいいとしても 今の私の混乱は 脳の異常でも 何か 惑星のかけら あるいは 水滴におもえるんだ 天井の模様を見ると 外では、朝が青白く、正しく始まる 三条の宿屋のお上が 顔を腫らしながらも 近くの人に 挨拶をして ゴミ袋をまとめている 風はいる小道 ---------------------------- [自由詩]とげとげタイフーン/石川和広[2004年8月31日0時41分] トゲトゲの木という スピッツの曲があり、 うたうことは、流れ、聴くものは、 薄闇にゆれ、ここの部屋の落ち着いた形 溶けていく ぼくのはりめぐらす気分は、とげとげで、 いつもしつこく繁茂する そもそも刈り取ることをしないから     秋 そうして、それぞれ固形の形となる君と僕 しかし、そんなのも決め付けで流れているかもしれない君 窓がどしんというタイフーンドキドキ 二人が、どんどんすれちがうたび 僕は、狂って、どんどん鋭くなり カーブを描く嵐の中 とげとげだ とらわれて、君のこころが わからなくなる感じを かみ殺せずに 寝るか ---------------------------- [自由詩]きざし/石川和広[2004年9月5日1時58分] 破壊された石仏は遠くすりきれ、たくさんのにんげんたちのふみつけた顔の裂目から、何をみる ぼくは何を見い出す そう感じた日の部屋は、暗くなく。際限のないドリルの音がぼくの隙間だらけの体から染み出してる 走り出したのはいつ?もうここは、草原になるといい。魔法も極楽も要らない。お節介なクラクションの、ワイドショーいらない 言葉よ。僕をおしすすめる雲になれ ロック あの人の影も女も強い日差しの中で踊る彼方がほしい。石仏は語らず たぶん僕だけが今ここで嘘を突いてる 裂目から流れ出した光に向かって。 ---------------------------- [自由詩]いつか/石川和広[2004年9月7日15時12分] 心の穴 という言葉が 僕のおでこにぶつかりコブができた 痛い こころとは何だろ 穴、何の穴? とぼけてはいない 胸がねじれていく 顔色は普通です 何か悩みは?と聞かれても、消える言葉 一人になるとどんどん捩れる しばらく前に川へ黒い塊を捨てたかなあ空は曇ってて痛みが消え、時々不明のウズキが襲う私を ---------------------------- [自由詩]おおう/石川和広[2004年9月8日15時26分] 怒って、震えていてあなたの眼球がこわばって後退りながら私を見据えている。私の頭は熱くて地は冷たい。もう駄目だ。あなたに、ヒドイコトをいってしまいそう。ファミレスで全員の眼差しを脅威と感じて振り上げた手を降ろす。いつも何かに怒り、その度に世界全てが私を見つめている。静かに。石ころもそうだしさっきのコップの水もはりつめていた。いつも畏れている。そして、ビクビクしている。私の怒りは対象が特定できない。世界全体へのふるえる掌汗、口の乾き。振動。革命的ビビり。疲れた私は今、後退戦を演じている。神経挫滅しながら雲睨む。 ---------------------------- [自由詩]じんせいせっけい/石川和広[2004年9月10日0時53分] 頭の中で小銭の音が なりました 豚の貯金箱とは古めかし 死んだら、この銭どうなるん? 貯めておくのにあまりいみは不明なのですが 電車に乗らないとあのこの所いけない免許取ったら人ひくの怖いから免許なし 死ぬまでに、あふれんばかりに貯めて馬鹿みたいやけど… 困ったときの備えってこともあるんじゃないかな 目を閉じるまでは ---------------------------- [自由詩]キジマさんを知ってから/石川和広[2004年9月10日15時25分] 生前全く知らなかった人が亡くなって、知らない人なのに、とても悲しくなり、その人のこと無性に知りたくなる。四日前。僕は最近ある詩誌の端に詩が載って喜んでた。同誌にはキジマさんという人が詩を掲載されていた。いいなーと思った。ヒラカナ多いし。頭の重い僕には優しい。涼しい。目の奥が。 後記をふと読んで、頭の中で白い袋がふくれた。校了直前、キジマさんは死んだ。後記の文字は泣いていた。しかしキジマさんは、全然知らない人だけど、その詩の中で、お休みを云ってるみたいだったんだ。今日僕は、フラつく足で彼の本を借りに行った。 ---------------------------- [自由詩]特別な朝/石川和広[2004年9月11日19時53分] 冷たい水やなあ と 弟は、云うので、ぼくは この辺りに、きっと井戸があるんじゃないかと思った 冷たいなあ 弟の赤い頬を見て、そういった 鋭い針を、ノドに刺しこまれるように、鳥は鳴いたのを ぼくが聞いたとき 蛇口は光ってぼくの頬がひくつき、今日は、特別な朝だと思った ひかりが山を越えて、影が歩き出して、ぼくは、影に引きずられそうになった      特別な朝      歪みながら、美しい生き物を      青く焼く朝陽 月がまだ見えるなとぼく たぶん、もうすぐ消えるで なんか兄ちゃん、顔青いで 寒いから、もう、中、入ろ ふたりは、走った 中に入った 息、苦しいけど誰にもいわない 覚えている、あの朝、井戸のこと思ったこと ぼくは、あの時から なんの流れに乗ったのか 地下水脈 弟は、今日も、絵筆を走らせる ぼくはどんな天気の日にも 中空に 三叉に走る傷が見える ---------------------------- [未詩・独白]あくがれ/石川和広[2004年9月13日10時46分] もう少し もう少しだと 思わずには、いられない と僕は、僕の生まれた町のとおりの言葉で 書こうとするんだが カナシイ 異物なんです 僕は 言葉に対して 山から あの山から 誰が見ていてくれるだろう 誰かが明かりをつけて、見ていてくれてても 隣に寄り添ってくれている人がいても ぼくは 焦がれます 形は、粉々になったら、文体になるはず 話す言葉は、渦巻状星雲であるはず 大阪駅には、ほおむれすは、あまり いません きれいすぎる 隠れても 隠したとしても 見られてしまう目 芽、女 ああ だらしないだらしない僕は 不動にさ でも、流れたい これは人? モノその区別すら、混乱する影の変形態 あこがれは 空く、がれと古く言う もう僕はドラえもんの空き地は想像できない 昔遊んだ田んぼは 宅地で、墓地化されている 基地化というべきか わし基地外か? みんな あほや つぶやいて 僕も、たぶんアホなんですわ ---------------------------- [自由詩]突き刺せよ、渦巻きに/石川和広[2004年9月20日18時03分] 最近 この間近に、海は無く     無く シャワーを止めた後の排水溝   髪 からまり つらくもつれる 僕の渦    鳴門の渦潮を    鳴門の渦潮を    見たのは    大橋の上から 見たのは     中学生のときだ 父の車で運ばれぼんやり風に吹かれた 覚えている次の渦潮     仕事をして遊覧船に乗っていた 自閉症の人と 人と    渦潮のポイントまで来ると他の介護者に、自閉症の彼を見てもらい    ぼくは同い年くらいの、癲癇を持った女の子と複数の渦潮見た    すごーい   すごーいと 揺られ揺られ、風に吹かれ吹かれ 彼女は、発作が元の事故で、亡くなった 彼女は、消えてしまった           ぼくの渦巻きは、とれない 恋していたわけではないけれど、タオルでひとつぶひとつぶ落ちる水滴に、重力の悲しみに耽ると      渦巻きから毛穴に信号が送られ      鏡に写る自分の顔と見つめあい       とりもどせ ぼくを        ぼくをおおおと、突き刺すと        渦巻きは、脱衣所の隅に隠れた ---------------------------- [自由詩]/石川和広[2004年9月21日16時01分] あたたかい あったかい それは屋根の上でかなほしのひかり ぼくは ほーほーと呼ぶよ あなたのとおい暖かみを翼はかたいし、狷介な僕だけど 一億光年くらいかもしれないけど 届いたら羽が開くきがするよ そんなことを かんじる せつなの 逢瀬 ---------------------------- [自由詩]明日の予定です/石川和広[2004年9月23日0時23分] こすった赤い眼の中 おちていく太陽が すぎこしていった 夜へ さみしいのまえに たいくつがある 考える脳のくらやみ がある 明日はデートだ そんなことを空想す 手紙は書かない 書いたらぜんぶ とうめいになって すかすかの落下していく なんと傲慢な愉快な 夜のまだ入り口 ---------------------------- [自由詩]例えばな事実/石川和広[2004年9月23日0時29分] 冷たいこの星の上で 飛ぶ思いがある 短いことばのなかで ひかる感情がある たばこのように もみけしてしまうは もったいないけど ホタルみたいに くさむらの中に 消えてしまった ---------------------------- [自由詩]水平線に触りたい/石川和広[2004年9月24日14時07分] あなたは あなたは 今何を思うの 車が走る 眼の表面にさけめ 脳の中のさかなめ あなたは あなたは ぼくの言葉を そのふるえを 感じるの? 疲れた肩に冷たい針 水平にさしこんで あなたは働いている わからないけど 電話つながらないから私があなたと私の間の凍み糸を 脳不覚深く刺し込むとき とき あなたのかつての笑いがおが蘇り 何とか幻想に気を取り戻す 雨がふり日は射さず あなたの声が聞こえ ない 聞こえ ない 毛穴に柔らかくあなたの声を注ぎたいのに ---------------------------- [自由詩]ありふれたタブー/石川和広[2004年9月29日12時13分] 私が逃げ込んだ穴は こんなところか 白い清潔な壁に 静かにリスト うとうとしてる 聴覚だけ明確 口の中がねばねば 終わらねば この待合室 終わりたい この待合室 コーヒーをのむ瞬間 もともと青春なんて 素敵なものが この世界に実在した だろか お留守なとこから ひっぱりだされてきたにんげんの こころの はったつという おとぎばなしを 待ち合わせている私達 光は極めて簡素にあった 足元の夕陽 ここは空気が少ない 煙草欲求 禁煙! ---------------------------- (ファイルの終わり)