泡沫恋歌 2015年1月13日20時08分から2015年11月18日13時44分まで ---------------------------- [自由詩]【 スイーツ♡ウインター 】/泡沫恋歌[2015年1月13日20時08分] いそぎ足でやってきた 冬が 粉砂糖みたいな パウダースノーを 街中に降りかけていった 私の黒髪にも白く積って ガトーショコラみたい 綿菓子みたいな吐息が 凍える指先を温める 北風に飛ばされた落葉が マカロンみたいに転がっていく 異国の森から届いたのは メイプルシロップの小瓶でした 焼きたてのパンケーキに たっぷりかけて 召し上がれ 幻冬の街に 降りそそぐパウダースノー 金平糖みたいに きらきら光る 結晶に変わったら スイーツな とってもスイーツな 白夜の始まりです                                2015/01/11 ---------------------------- [自由詩]【 スマホと女の子 】/泡沫恋歌[2015年1月17日19時57分] 公園に若いお母さんと小さな女の子がいた お母さんはベンチに座ってスマホをいじっている 女の子は傍をちょこまか歩きまわる 女の子がお母さんに話しかけても お母さんはスマホに夢中で返事をしない 女の子がお母さんに手を振っても お母さんはスマホの画面しか見ていない つまずいて転んだ女の子は ママー ママー と泣きながら呼んだ すると、スマホを片手に持ったまま 女の子を抱き起こして またベンチに戻ってスマホをいじっている  わたしは駆け出して  母親からスマホを取り上げたかった! たれ流しの情報をみるために 親子の大事な時間を捨ててしまった まるで魂を吸いとられるような スマホというコトリバコ あなたが見守ってあげなければならない かけがえのない命なのに それでもスマホの方が大事ですか?                                2015/01/17 ---------------------------- [自由詩]【 星空 】/泡沫恋歌[2015年1月25日20時51分] 星なんか 見えない夜もある それでも夜空を見上げて 一番輝く星を探しているんだ その星が ずっと照らしてくれると信じて 星なんか 見えない夜がある 暗い夜道で 仔猫の鳴き声を聴いた この暗闇は小さな命を育んでいる 生き物の気配がそこにあった 星なんか 見えない夜がある 見えなくとも星は輝き そこから君を 照らしつづけているよ 星空は深く夜を抱いているから                                2015/01/25 ---------------------------- [自由詩]【 すみっこの力 】/泡沫恋歌[2015年1月31日11時27分]      光のあたらない      すみっこにこそ      きらりと光るものが      ひそんでいる      目立たなくても      すみっこの力を      侮ってはいけない      侮ってはいけない                                 2015/01/31 ---------------------------- [自由詩]【 のんべんだらり 】/泡沫恋歌[2015年2月7日11時12分] のんべんだらり 日長一日 だらだらと ソファーの小舟で 文庫本が櫂に 目が疲れたらひと休み 音楽の風に吹かれながら 好きな時間を小舟に乗せて 無為の海を漂流しよう のんべんだらり 日長一日 ゆらゆらと ソファーの小舟に 白い帆をあげて 今日は命の洗濯日和  ― だって、大人は疲れているのです ―                                 2015/02/07 ---------------------------- [自由詩]【 セロリくん 】/泡沫恋歌[2015年2月13日22時28分] セロリくん 臭いから苦手だっていう人 あんがい多いんじゃないかな 触感はシャリとして蕗みたい いたって淡泊な味なのに 強烈な野菜臭で やたらと自己主張している 漢方薬みたいなあの臭い わたし嫌いじゃないよ 体に良さそうだと 鼻孔がピクピク反応するから セロリくん なんでか気になる野菜さ ときどき無性に食べたくなっちゃう                                 2015/02/13 ---------------------------- [自由詩]【 分岐点 】/泡沫恋歌[2015年2月25日21時17分] わたしたちは毎日 岐路に立って考えている 左の道にいきますか?  はい  いいえ 左の道にいったので出会った人 左の道にいかなかったので出会えない人 もしも 出会ったその人が あなたの人生を 大きく左右する人だったならば 「運命の人」という言葉が後付けされる どの道を選ぶか それによって 人生は大きく変わるだろう わたしたちは毎日 岐路に立って考えている 右の道にいきますか?  はい  いいえ 右の道にいったがために災難にあった 右の道にいかなかったので災難をまぬがれた 飛行機事故や列車事故で命を落とす人 その生死を分ける  分岐点はいったいどこにあるのだろう あなたが選択肢を決めた それは思考であったり 閃きだったり わたしたちは毎日 岐路に立って考えている この道の先に進みますか?  わからない この先はわからない未知なる道 この先はわからない破滅への道かも…… 生死の分ける分岐点には 神さまが「寿命」と書いたプラカードを持っていて 命の選別をしているのかもしれない 人間の運命を分けた その分岐点がどこにあったのか 神さまは教えてはくれない                                 2015/02/25 ---------------------------- [自由詩]【 手袋の片っぽ 】/泡沫恋歌[2015年3月2日21時33分] 冬の道のあちこちに 手袋の片方がよく落ちている ポケットから ものを取り出す時に落ちたのか 自転車の前かごから滑り落ちたのか 私も長年愛用していた 手袋の片っぽを失くしてしまった   仕方ないと諦めていたら いつも通る道のブロック塀の上に ちょこんと置かれてあった きっと誰かが拾って ここに置いてくれたのだろう 両方揃わないと 手袋としては役に立たない 道に落ちた手袋の片っぽ 自転車に踏まれ 自動車に轢かれ 雨に濡れて 風に吹き飛ばされて どこか溝の中に落っこちて 憐れな末路となる もし道端に落ちている 手袋の片っぽを見かけたら 知らんぷりしないで また相棒とペアになれるように どこか目につく場所に そっと置いてあげてください                                 2015/03/02 ---------------------------- [自由詩]【 無人の街で 】/泡沫恋歌[2015年3月12日10時55分] ひと足の途絶えた 深夜の商店街 わずかな気配にも センサーが反応して ひとりでに機械が喋りだす  イラッシャイマセ  パネルノ番号ニ、シタガッテ  操作シテクダサイ  番号ヲ選ンデ、  料金挿入菅口ニ、イレクダサイ  フルタイムロッカーヲ、  ゴ利用イタダキ  アリガトウゴザイマス 不特定多数の 誰かに向って話しかけてくる 無機質な機械たちの声が 暗がりから溢れだす 無人の街で                                 2015/03/12 ---------------------------- [自由詩]【 残念BOXS 】/泡沫恋歌[2015年3月18日13時01分] 蝶々結びをむすべない女の子 ガリーファッションが似合わない 乙女ちっくに憧れてみても アリスの影を踏んでいるだけの 君は残念な女の子さ 潮風に揺れるループピアス 耳の穴から広がる魔法陣に 男が避ける呪文が刻まれていた 今年の夏も収穫なしか 残念な結果でした ペットボトルのコーラは 栓を抜いた瞬間が命なんだ 笑えないジョークに場がしらけ 炭酸ぬけた黒い砂糖水 みんなに無視されて ああ残念 残念が詰まった 残念BOXES 果たして「アタリ」はあるのだろうか 起死回生を神に祈りつつ よーし「アタリ」が出るまで ガラガラを回し続けるんだぞぉー                                 2015/03/18 ---------------------------- [自由詩]【 バランス 】/泡沫恋歌[2015年3月22日21時33分] わたしと彼は 必要以上に 相手を干渉しないことで バランスを保っている 言いたいことを言わない 訊きたいことも訊かない 分かっていても黙っている そんな風に 相手に対して深入りしない 常に「他人」という境界線を引いて そのラインを犯すことはしない 孤独だと思うだろうが 孤独こそが生きもの本来の姿 気にしない わたしは今までの人生で 誰かに「依存」しないことが 一番傷つかない 生き方だと学んできた わたしと彼は そういう不文律で 夫婦という バランスを保ってきた                                 2015/03/22 ---------------------------- [自由詩]【 季節 】/泡沫恋歌[2015年3月31日11時45分] 傷心の時 人は季節を忘れる 今がいつなのか ここが何処なのか 茫然として うわの空 それでも季節は巡る 新しい風が吹いて 花々が咲き 陽の光は注ぐ あなたの肩越しに 滔々と 時間が流れていく 季節は立ち止まらない ふと道端に咲く 小さな花に 目が止まったなら 心の色も明るく染まる 薄桃色の花びらが 空を舞うころ 季節が手招きしてる                                 2015/03/31 ---------------------------- [自由詩]【 放射冷却 】/泡沫恋歌[2015年4月8日12時57分]    消し飛んでしまいそうな    この想いを    受け止めてくれる    熱が    そこにはなかった    冷たい水滴が頬をつたう                                 2015/04/08 ---------------------------- [自由詩]【 断捨離できるか 】/泡沫恋歌[2015年4月8日13時02分] 要らないものが多過ぎる! 下駄箱の中の履かなくなった靴 クローゼットしまい込んだ流行遅れの服 屋根裏部屋に放置された古い布団 断捨離にも体力が必要で 一日延ばしにする内に どんどん増える 物・物・物! 要らないものが多過ぎる! 積んでるだけで読まない本の山 天袋に放り込んだ引き出物のお茶碗類 冷蔵庫に忘れ去られミイラになった野菜たち ああ 息苦しい いたる所に物が溢れかえって 大事なものが探せない 要らないものが多過ぎる! 箪笥の上で埃を被ったぬいぐるみ 買ったけれど使えない便利グッズとか 捨てるのが面倒で未だに鎮座しているブラウン管テレビ 全部捨てたい! 全部捨てたい! 何が要るのか 要らないのか 判断基準も曖昧になって カオスな物たちに部屋を占領されて 自分の居場所が無くなってゆく ああ!  本当に捨てなくてはいけないのは…… 要らないものでも 使わないものでも 勿体ないからと なかなか捨てられない 私の中の“貧乏性”という性分だった――                                 2015/04/08 ---------------------------- [自由詩]【 ときどき、神さま 】/泡沫恋歌[2015年4月24日12時37分] ときどき、神さまについて 考えてみることがある 私は無宗教だが 神さまを侮ったりはしない イメージは漠然として 先祖の霊だったり 大自然の力だったり 稲荷大社の狐だったり 見えなくても 名前がなくても “いる”と信じたいのが 神さまの存在なのだ 困った時には やっぱり祈ってしまう だから わたしは ときどき、神さまを信じてる                                 2015/04/24 ---------------------------- [自由詩]【 拝啓、冷蔵庫様 】/泡沫恋歌[2015年5月7日10時23分] 拝啓、冷蔵庫様 長い間ご苦労さま 十六年間、寝食を共にした おまえが逝ってしまい わたしはとても寂しいよ 突然のお別れだった 何だか、冷えが悪いと思っていたら 冷凍食品が自然解凍されて アイスは固体から液体に変わっていた おまえが居ないと 食品を保存できないので 我が家は昭和三十年代に逆戻り 毎日、少しづつスーパーで買物してる ああ、なんと不自由なことよ おまえにどれほど依存していたことか 仕方ないので 後釜の冷蔵庫を買うことにする ニューフェイス君は 省エネタイプでスマートなデザイン 氷も勝手にジャンジャンできる 急にキッチンが明るくなった 最後に、おまえの葬儀代として 家電品の引き取り費用が 五千円かかったことを記しておこう 鉄として再生された冷蔵庫に幸多かれと祈る                        敬具                                 2015/05/07 ---------------------------- [自由詩]【 ガードレールの花束 】/泡沫恋歌[2015年5月29日12時32分] ガードレールの内側に くくりつけられた花束 それに向って手を合わせる 初老の女性がいた 先日、その場所で 交通事故があったことを 私は知っている バイクとワゴン車の衝突で 事故の瞬間は見なかったが 救急車がきて パトカーがきて 現場は騒然としていた 大破したバイクを 道路から移動させたら 大量の血とその側に 白いヘルメットが転がっていた あれだけの事故だから バイクの人は助からないだろう と、思いながら…… 私は自転車で通り過ぎたのだ ガードレールの花束が枯れる頃 また新しい花が供えられる 御仏になった人を供養するのは その母親かもしれない 我が子を亡くした姿は 悲しそうで見るのが辛かった ご冥福を祈りながら その場所をそっと通り過ぎる                                 2015/05/29 ---------------------------- [自由詩]【 娘の手 私の手 】/泡沫恋歌[2015年6月9日11時24分] 私たち親子の手を見比べると 娘の手は白くて 細くて 張りがあって美しい 私の手は皮膚が薄くなって 血管が浮いて見える やはり手には年齢がでるね 真面目なだけが取り柄で 洒落っ気のない娘の手と 幾度も修羅場を乗り越えて 逞しくなった私の手と 手にも年輪があるようだ 仕事の重圧 職場の人間関係 娘なりに苦労はしているようだが 私から見れば まだまだ 人生の試練はこれからですよ この手で背中を押してあげる おまえの父親と離婚する時 この手が署名したのだ 将来を考えての判断だった だから娘のために一生懸命働いた 罪深い手を赦してくれるかい 二人は親子というより 同志のような“絆”で結ばれている 娘の手が泥に塗れないように 悲しみの涙を拭わないように その細い指に母の愛を絡める                                 2015/06/09 ---------------------------- [自由詩]【 風の通り道 】/泡沫恋歌[2015年6月23日10時50分] 容赦なく 照りつける太陽から 逃れるように 白い日傘が路地の奥へと入ってゆく 打ち水をしたアスファルト ゴーヤ棚が繁って日陰をつくっている 縁台でのんびり寝ている野良猫 軒下には硝子風鈴が どこからか涼しい風が吹いてきて ちりんと風鈴を鳴らした ここは風の通り道 ひととき暑さを忘れさせてくれる ハンカチで汗をぬぐい 人心地ついたら 白い日傘は 夏の道をまた歩きだす                                2015/06/23 ---------------------------- [自由詩]【 蚊を殺す 】/泡沫恋歌[2015年7月8日12時03分] パソコンに向って キーボードを打っていたら ブ〜〜〜ン という音が聴こえてきた 蚊か? 気づいた時にはもう遅い 手と足と三ヶ所 刺された後だった 痒い 痒いと掻きむしりながら 蚊の気配を探っていると ブ〜〜〜ン 耳の側で聴こえた パシッ! 両手で力一杯 叩き潰す 手の中には私の血を吸った蚊が ペッチャンコになっていた ざまあみろ! 一度か二度で止めて置けばいいものを 何度もくるから殺されるんだ 人間の血を吸うのは牝の蚊だけ 産卵するために栄養ドリンクのつもりか 私の身体に血液がたっぷりある 小さな蚊が何滴吸っても どうってこともないが あの刺した後の痒みだけは 勘弁してほしい タダで血を吸って 置き土産があれか? なんて恩知らずな奴だ! 一匹の小さな昆虫を殺したために 人類の未来が変わってしまう パラレルワールドの話がある 私は蚊を殺し 詩に書いたから 記録として残るし それを読んだ人は 「くだらない」という感想を残すだろう 一匹の蚊を殺したことで 今、何かが変わろうとしているかもしれない 未来の私も そしてあなたにも――                                2015/07/08 ---------------------------- [自由詩]【 私の友だち履歴 】/泡沫恋歌[2015年7月15日11時16分] こんなの詩じゃないと お叱りを受けそうですが まあ、いいだろう と、寛大な心の方はご覧ください      * 小さい頃のわたしは 引っ込み思案で 恥ずかしがり屋 自分から友だちをつくれなくて 誰かが「あそぼう」と声をかけてくれるのを じっと待っているような子でした そんな私に初めてできた友だちが あゆみちゃんです 目が大きくて 色が黒い女の子だった 家が近くで同じ社宅に暮らしていました 毎日おままごとをして遊んだけど 幼くて印象に残っていない 小学生の五年生の時に 転校生の女の子と仲良しになった 絵がとっても上手い よしこちゃん ノートに描いた漫画を見せ合いっこしました この子との出会いが 将来漫画家を目指す切欠になったみたい 中学に入って一番仲良しだったのは まゆみちゃん 身体が弱くて ほとんど学校に登校できませんが いつも成績はトップでした おっとりした性格の彼女とは 時々 今でも会ったりしています 地元の女子校に入学しました 高校二年生から親しくなったのは ちょっと変わった女の子 ようこちゃん 行動的な彼女と漫画の同人誌を発刊したり 二人で東京の一流出版社を巡ったりしました やり手の彼女は 今では女社長です 社会人になってからも 主婦になってからも いろんな人と親しくなりましたが 友だちというほど打ち解けられない 単なる知人といった 便宜上の友人関係だったと思う ネットを始めるようになって 詩や小説をブログに書いたり サイトに投稿するようになったら 創作仲間のグループができた お互いライバルであり 親友でもある 彼女たちとは旅行したりする間柄だ 友だちってなんだろう? そんな疑問を自分にぶつけてみた たぶん それは相手を理解しつつ お互いを高め合う関係なんだ! わたしは今  満ち足りた友情に出会えたことを 心から感謝している      * ご拝読ありがとうございました                                2015/07/15 ---------------------------- [自由詩]【 いっちょまえに 】/泡沫恋歌[2015年7月20日15時10分] いっちょまえに 子(娘)が親(母)に意見(もんく)をいう いっちょまえに 子の方が稼ぎが多くなってきた―― 一緒に道を歩いていたら いきなり娘に腕を掴まれた 「なにするん?」 背後から自転車が猛スピードで走り抜けた 「ボーと歩いてたら、危ないやんか!」 娘に叱られた どっちが親か子か分からない スマホの操作も娘に教えて貰ったし 最近のトレンドは娘の方がずっと詳しい 体力も身長もぜんぶ抜かれた 子が親を越えていくことは 嬉しいことであり 寂しいことでもある いつか  私が子どもに戻った時には いっちょまえに なんて 偉そうな口は利きません 見捨てないで…… と、娘に縋っていきますから そん時は よろしく♪                                2015/07/20 ---------------------------- [自由詩]【 蝉 三詩 】/泡沫恋歌[2015年8月2日23時17分] 『蝉大合唱』 夏空に響き渡る 蝉の大合唱 耳が汗かき 体感温度2℃上がる 『蝉爆弾』 マンションの外階段に 蝉が落ちていた そっと跨いで通ろうとしたら 突然! 蝉爆弾がさく裂した ジジジジジ――――!! そのけたたましさといったら 耳をつんざく むかっ腹が立つ 階段から蹴り落としてやった 私はテロには屈しない! 『蝉大往生』 腹返し大往生の 蝉の亡骸に 雌伏六年の大望を果たしたか 訊いてみたい あー、それから…… うちのベランダで 勝手に死ぬのは どうかやめてください                                2015/08/02 ---------------------------- [自由詩]【 熱帯魚 】/泡沫恋歌[2015年8月31日12時37分] ある日  水槽の中で泳ぐ 熱帯魚が テレビに映った  青い南の海をみた こんな狭い 水槽の中では すいすい泳げない テレビに映った 広い海に憧れて ここから 逃げ出そうと ジャンプしたら 水槽の外へ 飛び出してしまった 飼い主は 床で死んでいた 熱帯魚を拾い上げて 水葬だといって トイレの水で流した 下水から 広い海へ還った 熱帯魚の魂は 青い南の海を目指して すいすい泳ぐのだ                                2015/08/31 ---------------------------- [自由詩]【 基準 三詩 】/泡沫恋歌[2015年9月14日11時32分] 『物差し』 幸せとか、不幸とか いったい誰の 基準で決めるのですか その基準となる物差しを いったい誰が 持っているのでしょうか あなたですか 神さまですか? 『平行線』 君が唱える正しさと 私が考える正しさは どこまでいっても平行線 交わらない思考と思想 たぶん 正解は ひとつではないのだろう 『美人』 女は美人に生まれたら 貴族の称号を 与えられたと同じ まさに特権階級なのだ 賛美の言葉や 貢物の数々で 男たちを下僕にして 我が世の春を謳歌する 同性に嫉妬されても 不敵な笑みを浮かべて 世の中 美人=正義 この図式がまかり通っている だが私の知る限り(あくまで) 美人はあんがい 幸せになっていない どこで人生間違えたのか 汚いボロアパートが 昔は美人だった女たちの 墓場になっているから 不思議だったりする 追記 ただ、 庭の花がきれいに咲いてる家は それだけで 幸福そうにみえるね                                2015/09/14 ---------------------------- [自由詩]【 青むし 】/泡沫恋歌[2015年9月29日9時42分] 一匹の青むしが 道路を横断している ゆっくりと ゆっくりと (小さな青虫だから) 這っていく きっと 道路を渡りきってしまう前に あの青むしは 車に轢かれてしまうだろう それでも アスファルトの上を ゆっくりと ゆっくりと (何ら躊躇なく) 這っていく 渡り切った先に いったい何があるのか そこへ辿りつくには あまりに危険だというのに 一匹の青むしが ひたすら道路を進む ゆっくりと ゆっくりと (未知の世界へ) 這っていく                                2015/09/29 ---------------------------- [自由詩]【 秋 三詩 】/泡沫恋歌[2015年10月13日11時43分] 『夕暮れ』 寂しいと呟けば 誰かが 肩を抱いてくれそうな そんな 秋の夕暮れに 『曼珠沙華』 野辺の道に咲く 真っ赤な曼珠沙華が やけに扇情的で まるで娼婦のようだ 根っこには 男を痺れさせる 毒があるらしい 悪女の誘惑 曼珠沙華の緋色 『新米』 近所の人に 精米したての新米をいただいた さっそくお米を研ぐ 新米だから水加減は少なめに 炊飯器の前で炊きあがるのを待つ 白くて艶々したご飯ができた ああこれが銀シャリってやつか どこか神々しい輝きだ 私の胃袋もわくわくしている 玉子かけご飯にしようか 味付け海苔で巻いて食べようか いえいえ秋の恵み新米は 手を加えず食べるのが一番 いただきまーす                                2015/10/13 ---------------------------- [自由詩]【 払拭 】/泡沫恋歌[2015年10月21日12時04分] 築十八年になる カステラハウスと呼ばれる 小さな三階建ての家に住んでいる 毎週日曜日になると 潔癖症の夫と二人で掃除をする 掃除機を抱えて 嬉々と バトルスーツをきた戦士のように 家中の埃を吸いまくる夫と その後ろから濡れ雑巾を持って 廊下階段キッチンの床を拭いて回るわたし 毎週埃相手に こんな戦闘をやっている我が家にあって ふと気づいた…… こびり付いた汚れを拭いてはいるが 実は磨いてはいない 一度も磨くという概念で掃除をしたことがない 詩友の作品を読んで考えた 今までの人生で自分自身を含めて なにか磨いたことはあったのか? いつも見える汚れだけを拭き取って その場を誤魔化してはいないか 払拭という姑息な手段で傷を隠してきた 埃まみれの人生と 磨かれない私がコラボして 醜悪な日常を生きているから 今さら輪を描いてみても 光りだす魂もない 汚い雑巾で足跡を拭き消すことくらいだ                                2015/10/21 ---------------------------- [自由詩]【 犬の糞 】/泡沫恋歌[2015年11月14日11時16分] 朝、駐車場の前に 犬の糞が落ちていた 私は舌打ちをして それをテッシュに包んで ゴミ箱へ捨てた 二日後、駐車場の前に また犬の糞が落ちていた 私は憤慨し殺虫剤を撒き散らし 水を入れたペットボトル その場所に置いた その日から、駐車場の前に 犬の糞は落ちていない だが糞をした犬もその飼い主も 分からないままに…… 糞をされた事実だけが残った    そこで言いたい!    飼い犬の糞の後始末もできないような    そんな人間に犬を飼う資格があるのか?     ……と。                                  2015/11/14 ---------------------------- [自由詩]【 楓 】/泡沫恋歌[2015年11月18日13時44分]    晩秋の頃    血を吐くように    楓は赫く染まる    握り拳ほどの肉塊    女は躯に楓を孕んだ    命の蘇生    輪廻転生する魂    春になれば    再び芽吹いて    小さな掌を展ばす                                2015/11/18 ---------------------------- (ファイルの終わり)