梅昆布茶 2021年2月12日11時08分から2021年10月15日4時06分まで ---------------------------- [自由詩]逃走/梅昆布茶[2021年2月12日11時08分] 個人の貧困は妄想なのだろうでも あるいはこの国が貧困なのだろうか いずれにせよもう描かないだろう ベランダで洗濯物を干すwifeみたいな詩 僕的にだけれどね アンチテーゼがつきるころ 国がほろびるまえにただ逃走しよう それが更に冷たく凍てついていても それが希望をはらんでいるならば ---------------------------- [自由詩]春のうた/梅昆布茶[2021年3月1日6時59分] あるいはがらんどうの街に棲む たまさかさびれた繁華街で遊ぶ 恋の歌は春の猫のように かなしいやさしい歌だろう 愛は重すぎていつも栄養学的に 分析できないものなのでしょうね 失われたものを数えるだけでは生きてはゆけない 生まれた子供を数えるだけでも生きてはゆけない 僕はときおり何かに気づくのだが飲むと忘れてしまうので 詩論の蘊蓄にはぶ厚い単行本があるが読了していないのです よくわからないのですがでも 会話は鳥のさえずりのように 意味よりも反応なのでしょうね 愛は地球を救わないだろうと思うのです それが名辞にすぎないのだとしたならば ---------------------------- [自由詩]誕生日のきみに/梅昆布茶[2021年3月6日12時05分] 古代はひがないちにち風を吹かせて 日捲りはやがて春を忘れてしまうだろう 肩甲骨のあたりの憂いは上等な娯楽あるいは ながれついた憎しみをも拭い去ってしまうのかもしれない あの娘はときどき薄く引いた眉に化粧箱をとじこめて 海岸の無い街を歩くそして自分の影をさがしている きみはどうしているかと何時も想うが きみが誰だったのかいまだわからない気がするんだ 陽は翳ろうと世界が暗転しようと 無意味ならば言わないほうが良いのかもしれない 風がなくてもスーパーの幟は素敵に翻って YAMADA電機の修理品は無事に戻ってきそうだ またあたらしい或いは古楽が響くときにきみはいるのだろうか またあたらしい猫をそして猫の餌を心配しなければならないのだろうか 新しい誕生日のきみに ---------------------------- [自由詩]今日と明日の隙間によせて/梅昆布茶[2021年3月7日11時53分] 僕のグレたガラホは相変わらず寡黙なのだ やっと取り引きして得た隙間に僕は住んでいる 今日と明日が条約を結んで握手しても僕は拍手しないだろう だってやつらの隙間の全人代という茶番を許すのだもの 今日と明日は無国籍だ 僕もきみも結構無国籍なんだな 交代勤務で今日と明日をつくらないか それとも何処かに振ってごまかしてしまおうか それとも香港とかミャンマーこそ 安息の地なのかもしれない ---------------------------- [自由詩]天文少女のうた/梅昆布茶[2021年3月8日19時45分] 大好きな女と離島で暮らす 大嫌いな奴と仕事をする 愛情たっぷりの野菜を食べる つまらないことでも悩むのだけれどもね まあ確かにいいかなって とても酷薄な人生のやり口だ 計画経済や計画社会は 長続きはしないようだ 調和と平穏 危機管理という悪夢 人間がIT化してゆくわけもないので 2進法に慣れるしかしょうがないのでしょう 天文少女に逢う 無機質な電位の移動 言葉を扱えないくせに 意味をあたえられないのに 僕がここにいるのは何故 ---------------------------- [自由詩]海底99メーターの孤独/梅昆布茶[2021年3月11日11時13分] 海底99メーターの孤独 エヴェレスト単独登攀の孤独 子供が離れた孤独と 爺ちゃん婆ちゃんのいない孤独 不安に怯えても孤独と融和しようぜ もう子供じゃないんだから もし好きなことがあったら触れてみようって それは僕のことだけどね でもね 僕たちは不自由のなかの自由を得ている 震災10年の報道を謙虚すぎないで 強く受け止めても良いのではないか ---------------------------- [自由詩]所在/梅昆布茶[2021年3月15日23時06分] たぶん僕は悩殺よりも瞬殺派だ まわりくどい締めゴロシよりは死刑が良い ときどき趣旨を忘れたりするが 詩みたいなものを日記みたいに描く 僕にはまっとうな友達がいないみたいだ アビーロードの風の流れに身をまかせて すべては君のためにある はかない愛の所在さえも ---------------------------- [自由詩]ニュートンの運動方程式/梅昆布茶[2021年3月30日7時16分] 原稿用紙100枚400字詰めで4万語描かなきゃいけない 100年の生を貰ったとしたらそれを埋めなければならない 嫌だと言ってもたいした選択肢もないので 義務教育ですくすく育ちすぎたのに 生来へそ曲がりなのではみ出してしまったらしい 結婚でもできたならば つまらぬ遺伝子でも残そうか 天体に引力があるように 人間にも引力があるようだ f=なんとか分の揺らぎなのでしょうか 斥力もはたらいてるようで どうもあいつと居ると気が滅入るとか 馬があわないとかいう言葉は嫌いなんです いちばん薄い奴がよくつかっていたから それって独裁的なひとの自己弁護だとおもうのです それよりか 大瀧詠一でも聴いているほうが よっぽど気が効いているって言われそうだ グリコのおまけの文化力 予定調和を破壊しながらも 生きることがおんぼろなアートで反体制で つねにサブカルでローカルでちょっとだけ革新の 秩序と無秩序の境界を巡回してゆこうとおもう スエズ運河でタンカーが座礁しただけで 凍結してしまう世界の灰皿をごみ箱に捨てたならば もう一本の缶チューハイの朝を迎えようかともおもうのです ---------------------------- [自由詩]ぼくはクマ/梅昆布茶[2021年4月5日10時05分] 市井の凡人でそれが理想です 理想の人生で たまに挫けますが 時々休んではまた 歩いてみようと思うばかりで 宇多田ヒカルの 僕はくまが大好きで この詩の結論を 煙草一本だけ吸って 考えようかとも思うのです でも僕はくまで良いかもしれません でもそれが僕の結論なので許してください ---------------------------- [自由詩]うた/梅昆布茶[2021年4月20日3時14分] ちょっと寂しいけれど熱っぽい宇宙 ワンダークールな時間の始原をゆめみる いつも隙間だけで君を愛せたのだろうか それともそれはただの幻想だったの いつも反論がむなしいように そのひとがそのひとで あるように これでよいのかとは どこにも書いてはいなかった 永遠という年輪をかさねた樹のほとりで 瞬間で消える生命をいきのびてゆく 樹々は谺をそらに還し 都市は人びとをさまよわせて それでもうたおうとおもいますでも うたはどこにかえってゆくのでしょうね ---------------------------- [自由詩]サーガ/梅昆布茶[2021年4月25日21時50分] かつてこの星には100万の 小世界があった 1億の集落と1千の都市国家 黄金の旗がなびくここちよい風が すべてのサーガがいまでも生きている きみは英雄でもなくパーティーもなく 大河の岸辺にひとり佇んで あたらしい風はひとりの若者のたずさえたこころ 邪心と純真といくらかの戦歴の証のための用意を きみはいつか自分の英雄になるのです じぶんをちいさく感じているだけなので この世界の理由のたいはんは ちいさすぎてみのたけに合わないだろう また創世することを夢見て欲しいと 想うのです ---------------------------- [自由詩]えくぼ/梅昆布茶[2021年5月18日0時08分] そこの誰でもが背びれや尾びれをもっている 幼年時さかなだっただけなのだけれどね そこの誰でもが哀しみを抱いている それは すでに干物になるまで のこるのものかもしれないんだが でもそれはそれで人生の大切な 標本でも言葉でもない無色の枯葉なんだ この世界の理由のたいはんは 結局ものごとはマイナス方向にゆきませんでした 主張しない哀しみがだいすきで 肯定的なまいなーなそれでもちっちゃなえくぼ ---------------------------- [自由詩]ゆっくりと解凍する日々のうた/梅昆布茶[2021年5月25日11時00分] 僕のぽけっとの紙片には 最新のもっとも無駄な解答が記されている 人生に必要なものの殆どが木箱にしまわれて 博物館の収蔵庫の奥深くにおさめられているとしたら 菫や蓬の花のように路傍にさりげなく ささやかな展示場を設けてくれないとしたら 僕の胃袋はからっぽで遺伝子は誤配列のままで 僕の頭は冷たいカフェオレの缶のようなものなのだろう 僕の舌のさきは凍結した氷柱のなかのことばを溶かそうと 電気ポットで淹れた一杯のコーヒーを飲みながら 永遠に満額回答を待つ宇宙船の乗務員のように 収支が細かに印字されたレシートをまた一枚綴るように あるいはコックピットにベルトで固定された山羊に似て 日々のチューニングを模索しては病室の窓から望む世界を 分散和音で淡彩化してしまおうとたくらんでいるばかりなのだ 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[自由詩]夏なんです/梅昆布茶[2021年7月20日13時14分] 今日もとりあえず元気で行こうハイタッチ いつも優しいばくだんを作っている そんなひとが好きだ ひらきなおれない中途半端な言い訳 落札できまる交換価値とは無縁ではなくても それでもやっぱり利用価値の手ごたえでいきる あまり言葉に厳しくなくてそれでもちょっとだけ 気にかけるぐらいがちょうどよいかとも 経験的なものは大切である意味先験的な 詩がだいすきかもしれませんでもね 詩を格闘技にするのは絶対アンチなんです 競技にのれない者のぼくも含めてそれでも 社会にコミットしてゆく最終手段として 牧水と酒酌み交わしてるそらの碧 海さえ蒼ざめるほど飲もうかとも 想う夏の日なんです ---------------------------- [自由詩]蛍/梅昆布茶[2021年7月25日23時21分] いのちをつなぐものを希望と名づけよう 希望のべつの名を祈りと名づけよう 祈りは清流にすまう虫のごとくに こころの闇に明滅し続けるのもの 祈りの幼虫が水中にカワニナをくらう 肉食の異形のすがたであろうとも 真夜中のベランダの煙草火にも似て 天球の高みにのぼってゆく想いの粒子に 仮託された願いを明滅させる 蛍であろうかとさえおもうのだ ---------------------------- [自由詩]さめたコーヒーのうた/梅昆布茶[2021年7月29日18時11分] 無限につらなってゆく世界の果ての階段を 親しげな不条理とうでを組んできみがのぼってゆく いつもおもうけれど 宇宙のなかの点にすぎないのに 点には面積がないのに 線にも幅がないのに ぼくには命があるようだ 果てしなく応用だけをもとめられる大洋に 骨組のない粗末な双胴船を操り銀の魚を釣る 惑星の酒場には非番の衛星たちが足繁くたちより 彗星の種子やら燦めく詩篇のかけらなどを交換しあうのだ かつて宇宙に浮遊していた現象の端くれが 訪れる夕まぐれにふと郷愁をおぼえるあてもなく 影のうすくなった実存におもいをはせては ちょっとだけぬるいコーヒーを飲めると言うのは すてきなことなのかもしれない ---------------------------- [自由詩]夏の四重奏/梅昆布茶[2021年8月8日7時02分] 生活に芯というものがあるとしたら 花を挿していなければいずれは緩んでくるものだ 日々の心のゆらぎは錆びた弦楽四重奏 山巓からの水脈が生をうるおしているのならば 堕落した駱駝は回文好きだが 療養所での生活はしずかなる音楽 柔らかな不自由はやさしい対幻想なのだろうか 聴こえない見えない 触れえないから あなたはいない どんな箱に閉じ込められているのかもしらない 時の振り子のながさを調整する術すらないから ---------------------------- [自由詩]柔らかな疎外/梅昆布茶[2021年8月13日19時49分] 水源と柔らかなことばにめぐりあう 船の舵取りは水辺の花を想いながら いくつになってもできないものはできない 今更のようにはぐらかして過ごそうか 永くゆっくりと関わってゆく事は大切だし 固く結ばれて解けないほどの不自由も たぶんほんとうは大切なのだろうと 嫌いな人間は少ない方なので助かるが ただしつけこむ奴は大嫌いなんです 環境との接点は少ない方が良いのですが 仙人願望とは無縁の今日に転送されて 僕は世界の卑小で愚劣な汚穢であり たまには優秀なこもんせんすみたい 自身を阻害するものは自身なのでしょう 僕を超えてゆくのも自身ならば僕にまかせましょう もう社会へ参加できる日々も少ないとおもうのです きみと会える力があるうちに逢いたいのです ---------------------------- [自由詩]旅人のうた/梅昆布茶[2021年8月19日6時32分] 身体感覚に素直に従って生きてゆきたいのですね 回答の得られない食べきりサイズの人生でもそれでも 新たな無限のドアを自ら鎖してしまわないように 太陽が遍照する微妙なバランスの不自由にありがとう ぼくも孤独なフリーマーケットで一瞬を再生産し続けます 価値観の違いを短絡的即物的に却下しないでおこうと 違和感という球根を大切に育てて発芽する前に 捨てるのはやめようとぼくも想っています すべてに起承転結はないとおもうのです 因果のそとに君を初めて理解できたぼくが 座敷ワラシのごとくちょこんと座ってて 自由とはたぶん精神の自己規律との抱き合わせで わがままとか恣意的とか不文律との協調力で 調整しない明日に旅立つ君にエールしながらも ぼくもいつかそこまで到達できれば良いと想うのです ---------------------------- [自由詩]発掘幻想曲/梅昆布茶[2021年8月27日6時06分] 哲学者と詩人と新宿のホームレス もしも資質があればなんにでも 応用数学者と宇宙物理学者あるいは ドビュッシーとツトム・ヤマシタ こんな問題意識で生き伸びても 脳力もないのに戸惑うだけ 僕の前に道はある 孤独なランナーは 空虚で退屈な日曜日の 小公園のちっちゃなブランコで 女の子にお手玉を教えたり 生きることは累積とちっちゃな進化と 何かを発掘する作業場なのかもしれない すべての孤独とぼくはリンクしていたい すべての孤独を感じたいのです 山好きの仲間が死にました 未明の東北自動車道路で 大型トラックに追突して山へ還りました 僕もどこかへ還りたいのです それはジュラ紀の草食竜の発掘現場かもしれません ---------------------------- [自由詩]僕たちの/梅昆布茶[2021年9月1日15時58分] 僕たちは妄想を充分に知ってしまった 僕たちは世界中の女性に憧れてしまった 僕たちは愛されない苦痛を知っている 僕たちは自分であることにときどき疲れてしまう 自分の番地を持たない君とは友達になれるかもしれないんだ だれも賢者の石なんて持っていないのだから 僕たちは許されない自分を持て余して それでもじゅうぶんに生きてるような気がするんです 僕たちは定義の曖昧なままでも生命なのだろうと 君だけが特別に僕の心を支配するわけでもなくて 僕たちはたぶんいつまでも 君が許容する限りは僕たちでいると ---------------------------- [自由詩]丘の上/梅昆布茶[2021年9月9日10時56分] 閉塞してはいけない 開脚もしてはならない 同じ条件のなかでプログラムするならば 遁走する豚の尻を追わなければならない 複雑なきみはミニマムな自己を取得したかい 僕はきみをいつまでも尊敬しているし 毎日は準備したように波打って僕たちを嘲笑うが 僕たちの進化という乗り物は永遠に無料化されない 何処にも欺瞞はないのだが不条理は遍満している 誰のせいでなくそのまま不条理は歴史と呼ばれる 僕は団地裏の小公園で通年のラジオ体操を 妻とふたりから始めようと想っている馬鹿者 丘のうえのお馬鹿さんで生きて行けたら あとはたいしたのぞみは無いようにしたいのです 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人の手のはいらない耕地は荒れてゆく 自然や野生の支配は確実かつ迅速で 素早くスマートな文明的決済の哀しみと 新宿のアルミ缶を集めるホームレスとの落差を 木偶の坊政権から金権政権へ移ろうとも スーパーカブは決して疾走(もともとできないのだが)しないで ろくな舗装もされない路面と対話しながら 主人への愚痴を排気とともにゆっくりと吐き出しながら 言語技術などいらない歌でもうたって 走り続けるのかもしれないのだから ---------------------------- [自由詩]ゆうだち/梅昆布茶[2021年10月6日9時13分] 石地蔵と夏 ゆうだち 金木犀のこぼれる石畳 空に続いてゆく秋 ちゅーはい飲みながら豆を摘んでおもった 僕をつまんでくれたきみを摘んだ僕 ---------------------------- [自由詩]居場所のないうた/梅昆布茶[2021年10月15日4時06分] 居場所のないことにすっかり慣れてしまった 居場所があったのはたんに周りが優しかっただけ 革命の年にテントとシュラフを積んで やさしい風景を捜しに行った訳なのです いまも漂泊中の修羅猫みたいにこのありさま 家でも連休の1日は家にいないでくれって 微妙なだけにハラスメントっぽいでしょ 想像しない蛙は蛙にすぎない 純真な兎はどこにでもいるものです 不都合な蛙と屏風絵のなかで戯れていたり 健やかな夢想はいつのまにか 塗り潰されてしまうのでしょう 白い鳩は焼いて食べると美味しいらしい 赤い犬も美味しいとは仄聞の隣国のこと 誰も理解していない宇宙に 誰も誤読していないのに存在すること 言語は歴史的一瞬に定位したのかもしれない サピエンスが想像力の幼翅を広げてゆく黎明のある契機に 天職は星の瞬く時間の孤独の配達人であるのだろうと 生きる手法が違うだけで人はすれ違ってしまうのでしょうか ---------------------------- (ファイルの終わり)