梅昆布茶 2019年9月12日22時09分から2020年5月25日13時09分まで ---------------------------- [自由詩]オニヤンマ/梅昆布茶[2019年9月12日22時09分] 季節は流れ詩は座礁して はるか太平洋の真ん中の島に流れ着くだろう いきることが何かの証明ならば 返す言葉がつまづいたままでいきてゆこう あるいは人生に返す言葉を紡ぎながら 座興だなんて 生きることを踏みにじりたくもないので ぼくときみの邂逅が46億年の証明ならそれでよい だけど君の背中に羽がついていないのはぼくのせいではない そういった羽を供給する会社の社員ではないのだから ぼくは優しい気持を維持できない時代がずっと続いている 雨あがりの森のなかの木漏れ日みたいなのがほしいんだが無理なんだ おどけてみても採用されない道化師がせいぜいかもしれない この詩がどこかにとどくのならば きみのもとにそっと送ろう ぼくは寝たふりをしてそれでも 十数年ぶりにみたオニヤンマがおしえてくれた空気の重さみたいな きみの静かな振動に触れてみたかったのかもしれない ---------------------------- [自由詩]月夜には/梅昆布茶[2019年9月24日0時42分] 月の夜にはからすが舞う かけたままの心には蟋蟀が鳴いている 無垢な地図帳には地番がない 条件は いつだって みたされないものだ 要件は大概なおざりにされ 描き続けること 想い続けること 求め続けることの幸福論 奪い続ける生き方 調性のない無伴奏の楽譜 シューマンの浪漫 クララの構成主義 取り纏めることのできない イデアが羽搏き続けること 誰かと断片的に出会い 素敵なダンスを踊る 冷たいスープは部屋の隅に置かれて あたらしい主人を待っている g ---------------------------- [自由詩]楽園への手引き/梅昆布茶[2019年9月30日19時35分] 楽園への切符をかった でも誰も待っていないだろうとおもった 楽園への切符を売って 一冊の本を手にいれた 普遍性への手引きという ちょっと手擦れのある素敵な本だ ぼくたちのちいさな歴史は 増幅のない淡々とした それでもやっぱりきちんとした 足音なんだと思う 人間は単純なものではないのにね カウントされて鍋に放り込まれて ぐつぐつ煮えるだけなのかもしれない ---------------------------- [自由詩]すずなり横丁の夜 に捧ぐ/梅昆布茶[2019年10月8日0時16分] ぶらっと寄らないかあの店へ 忘れられないひとが待っているかもしれないから すずなり横町とライブハウス 本多劇場と誰も歌わないあのうた ロングバケイションとお気にいりのロケーション 計器飛行を続けるこのよるの 懐かしいざわめきを 未来都市では生活できないだろう僕はそれでも未来がすきだ 僕たちの生活は些細なことで分解され 分析されて成長歴とか成人後の履歴とか 巨大なサーバーで管理されるのかもしれないが 未来都市では生活できないだろう僕はそれでも未来がすきだ アドラー心理学の明解と美しすぎるウイーンと ヨハンシュトラウスのワルツを踊るフロイト テクノロジーと柔らかなお月様と どこにも深くかかわれない自分があって ぼくたちの夜が形成されてゆく あるいは ぼくたちのよるはどこにもとどかないかもしれないのだが g ---------------------------- [自由詩]アラート/梅昆布茶[2019年10月13日11時25分] 軋む夜に宇宙は静謐を装って 僕のアラートは適切には鳴らないようだ 優しい朝のひかりを浴びて 入浴したての君がいてくれればよい 絶対零度の幸福論と 肩のこらないレトリック アルマ望遠鏡の電波の眼が夜を探索する 君との密会も宇宙にばれてしまうのかもしれない もっと見ようとすると いつか なにかを曝け出さなければ ならないのかもしれない いつも星々は生まれ いつもまでも子供たちは 面倒臭いけれど愛しくて 今日のぼくは なるべく いらいらしないつもりなんだから ---------------------------- [自由詩] McKay Rooney call when you’re off うん/梅昆布茶[2019年10月21日19時39分] ひとは幸福でありたいものだ 生きる場はなかなか自由には選択できないが 問われるシーンがあるとしたら 自分自身を選択して生きてゆきたい ぼくも自分と家内と社会との折りあいに 四苦八苦なんだけどね 離島では海風が優しく人を許す 自然だけが善だとは想わないが ぼくと世界は並列してあるようだ 直列しているのは ぼくの2×2気筒の ふるい頑丈な鉄の塊 真夜中の首都高をひた走るレーサー 追いつくでもなく抜かれもしないがちょっとだけ 速いつもりでいるんだ 東京タワーは素敵なシャンデリア ぼくは隙間に何かを挟み込み それでも空いたすきまをなにかで 埋めようとしているのだろうと 風で誤魔化した涙をゴーグルで隠してる やわなバイク乗りが大好きなんだが 異論があってもごめなさい ではまた。 ---------------------------- [自由詩]金木犀/梅昆布茶[2019年10月28日9時38分] 君といる日々は永遠のなかの芥子粒程の幸福と思うけど 金木犀のちいさな花のように慎ましいかおりかもしれない 風に聴き耳を立ててごらん すこしぐらいつまづくのはかまわないんだから 部屋のかつて時計のあったところにはいまはなにもないけどね ---------------------------- [自由詩]ことば/梅昆布茶[2019年11月4日22時19分] ことばって何処にあるの 辞書のなかに埋もれているの 人間って何処にいるの へそまがりな生き物じゃあなければよいけれど 幸福と善とはいっしょなのでしょうか あるいは幸福のしっぽが見え隠れしている だけなのでしょうか 似ているものは虚勢と去勢だったり 愛に戯れてことばがふやけてゆかないように 沢山の孤独が餓死寸前の振りをするけれどね スクランブル交差点で写真を撮ろうぜ 経験論も素敵だが勿論無神論も マキャベリズムみたいなのは嫌いなんです もともとは僕の時間なんてなかったし だれも替わってはくれないし ことばってどこにもなかったりするんだろうか ---------------------------- [自由詩]秋/梅昆布茶[2019年11月18日14時50分] はてしない海原をほんとうにボートで横切ってきたのだろうか 詰まらないことで 凹みはしないがだれも助けのない雑踏のなかを 天気予報のない生活の中で 気象予報士になれたら素敵だったかもしれない あるいは露出した地層の中から 古代生物の痕跡を発掘することが 無上の喜びみたいな人生もとっても有りだし ぼくが透明になるまえに きみが透明になってしまうのだろうか きのう島の南で揉め事があったらしい きのうのきのう島の東では部落の独立運動が勃発したらしい この島では壁新聞ではまにあわないほどに ちいさなできごとが頻繁に出来してゆくのだが 天国もちかいと猫に自慢する さびしさと勘違いした金の無さ 北京語の秋のはつおんさがす夜 ---------------------------- [自由詩]ふたつめの秋/梅昆布茶[2019年11月24日11時44分] 雲梯にぶらさがっていた君たちは いつか僕の子供でも仲間でも家族でさえも無くなって 風はきっと順番にあらたな名前を生み出してゆくのだろう 忘れ去られる恋人達にもせめて懐かしい墓碑銘を その墓地の片隅に僕の現世のハンドルネームがあったなら 礼のひとことも申し上げたい いつも原因を考える習慣がついてそれでも こころの一部がさからって波打つのが枕元の時計に表示されて秋 ---------------------------- [自由詩]谺/梅昆布茶[2019年11月26日5時22分] 問い返すたびに僕が増えてゆく ジミヘンのファズノイズでもあるまいに あるいはピンクフロイドのエコーズ 探す程に海は深く遠く風ばかりが吹いている 僕のこころの荒涼が優しく増殖してゆく やわらかな定形が好きなのかもしれない 人間ってそんな感じかなあと思ったりもする 骨格にささえられふわふわと生きている僕たちの領土は何処にあるのかと考えると 領土が逆にに借りを かえせと要求してくるような きがするのです 何もかもかなぐり捨ててなんてできなっかったのかもしれない ---------------------------- [自由詩]亡命の星/梅昆布茶[2019年12月11日4時32分] 死ぬまでに全てを抹消してしまおうと 無駄に生きていても天球は確実に回転して とても言葉が軽い時に やっぱり訃報と交換なのだが Resetすることを恐れてはならないと想う リセットで救われる魂が沢山あるのだから いずれ 廃棄されようともまえに進むこと 僕は廃棄 されるまえに語り尽くしてしまおうと たいして変わらず描くものもないのだけれど 散文作家になりたいのです それでご飯が食べれるものでなくても ちょっと朝日がさしこむ部屋でエッセイを醸すのです 文学はよく知りません 芥川賞 直木賞 ヤマハのポプコンなら多少知っていて 第2回の赤い鳥がグランプリだったときに 次席だったドラマーが飲み友達でした 僕はいまリアルタイムで ロードムービーを演じているところで 背景には音楽もちょっと流してみたい 小林秀雄がモーツアルトを礼賛しているそばで ラフマニノフやチャイコフスキー わざと勘に触る音楽を流したかったなあとか想うのです やわらかな定形が好きなのかもしれない 人間ってそんな感じかなあと思ったりもするのです 骨格にささえられふわふわと生きているような ---------------------------- [自由詩]記憶/梅昆布茶[2019年12月17日21時48分] 記憶ってなんだろう 僕の記憶って 記録は嫌いなんだ 風にまかせて書き留めたほうが たぶん素敵だから ---------------------------- [自由詩]のんだくれ/梅昆布茶[2019年12月24日9時28分] のんだくれ男とやさぐれ女 とぎすまされた場所にはそぐわない だれも無関心のふりの都会で 新宿で乗り降りするほどの乗客 手を繋ぎたい天使が裏帳簿に記帳されて 探している煙草は違ったポケットに入っている だいじょうぶ僕はなんとかやっていくから 自分なりのおもしろさを大切にして ガールズバーのいつもの彼女が 歌舞伎町の寒い真夜中に生足で素敵にアルバイト とんがった事はないがある意味いま いちばんとんがっているのかもしれません ---------------------------- [自由詩]冬籠り/梅昆布茶[2020年1月1日11時00分] そう、 僕たちはいつも現場にいる 破片 最低の言葉遣いをする低脳だ たとえ親が死んでも現場にいるし 無縁菩薩の教えなんてしらないし 5百ミリリットルのお茶が欲しいなんて 誰にも尋ねられないしそれでもね あたらしいダイスを振ろう こざかしい輩は目の端において 売ってしまったレコードみたいに 過去は混沌として楽しいものだ とても手軽に音源が手に入る時代に もし一月の休暇がもらえたら ぼくは音楽で冬籠りして 彼女は嫌気がさして 逃げてゆくに決まっているのだけれどね ---------------------------- [自由詩]花散里/梅昆布茶[2020年1月15日9時24分] 花散里 僕の小さな世界史が 源氏物語だったら 次元を超えて愛を語れるものなら あるいは1970年の山下洋輔だったり アルバートアイラーだったりするのかもしれない 僕は何に対して誠実だっただろうか 社会あるいは誰かに対して 少なくとも外宇宙に徴税吏はいないし 想像力を縛るものはないのだけれど もしも流行作家ならば 締め切りと枚数に追われて 僕は何に対して誠実だっただろうか 社会あるいは誰に対して 家の仔猫が世界を認識してゆくように ぼくもあらたに認識してゆこうと想う ---------------------------- [自由詩]パーティー/梅昆布茶[2020年1月21日23時26分] 空っぽのパーティーの肉料理 こんもりとぶ厚い太腿 276,000回のキッスと 体裁のよいオードブル 雑誌のポケットにしまわれたゴシップ記事 インデントされたままの挨拶文みたいなラブレター 庄野潤三の素敵な古本を手に入れたんだ つぶれかけた地方の片隅の古書店 たしか芥川賞作家さんだったような気がして とても優しい風路に世界がある 弾劾のない優しい知性であってほしい ---------------------------- [自由詩]越冬猫/梅昆布茶[2020年1月29日8時46分] めまぐるしく生成する ふてぶてしく存在する 世界を威嚇して こんもりと丸まった猫 安普請の家作には いつか花が咲くだろう ただいま越冬中につき Don’t disturb となりの森までは遠いから うちのちいさな庭を散歩する とぎすまされ磨り減って やっと詩みたいなものに 近づけるのかと想う ---------------------------- [自由詩]テーブル/梅昆布茶[2020年2月6日20時51分] とてもちっちゃなテーブル だけどぼくのテーブル 幼い日は僕のテーブルなんてなかったんだ いまは大切なものをそのテーブルに展げたりして 東京下町大衆酒場ノ味 と銘打ったトーキョーハイボール 大正浪漫っぽい夢二風のアルミ缶 もう昭和もレトロらしいのです いつも新しいページが 欲しいと思っています なるべく正しいものに近づけることを想いながらも 失敗して世間の評価ではまあまあ無害だから看過していただいています とても優しいテーブルに ぼくの朝ご飯が載っているって ときどきそういうAIの夢を抱きしめて 僕は自分で握った梅おにぎりが 大好きなのでした ---------------------------- [自由詩]あさ/梅昆布茶[2020年2月18日7時48分] とても良い朝には きみに電話をして かわいい化け物の話とか 食べきれないピザの大きさなんかを 評論してみたいんだ ときどき売りにゆく 柱時計がボーンと鳴り 寺山修司が競馬新聞を持って 渋谷場外で馬券を買っている んだけど ---------------------------- [自由詩]教室/梅昆布茶[2020年2月25日19時26分] きみの空にはいくつもの風がながれ きみの血流はいくすじかの未来につながっている まいにちは規定された演技をたずさえて きみをいざなってゆくちょっとだけ厳しい教室 でもさ きみの壁をとりはらってくれる 優しい先生がひょっとしているかもしれないね ---------------------------- [自由詩]時間と夢/梅昆布茶[2020年3月3日2時51分] 天体望遠鏡で垣間見る宇宙は逆さまで ときどきのぞくだれかの素顔に似ている 必要のない事と 必要があってもままならない逆さまが 混在している毎日が好きです 僕たちの情報はトイレットペーパーで封印され 学校も封印され給食もどこかで止まってしまって でもねDNA に支配されてはいけないと想いながらも ウイルスは宇宙線で変幻してゆくのかとか 小さな毎日の知見だけでもね 充分生きて行ける筈なんだね ---------------------------- [自由詩]腰掛け/梅昆布茶[2020年3月16日19時12分] 遥かなる文明の端っこに腰掛けているのです なんだか大切な靴も失くしてしまいそうで 雨も止んだようなのにぽつねんと一人で腰掛けているのです 忙しい新聞記事を時々は読みたいとおもいます 3年ほど通電していないTVもたぶん生きているのでしょう 久しぶりに手紙を書いてみようと思いつつも ついつい乾いたメールで済ましてしまう神経も嫌いです 自分をリサイズする痛みなんてあったんだろうか 人間は乾いた喉を潤す時だけ幸せを満喫するのだろうか 物理学や数学の美学や原初の言葉の成立ちとDNAに刻まれた毎日 万物は流転するってよくわかるのだけれど うちの猫が去勢するさいにどう償うかとか 今日も透明度の高い日でありますように願います 僕のしこりをまいにち解いてゆく腰掛けなんです ---------------------------- [自由詩]原初の森/梅昆布茶[2020年3月23日22時46分] 原初のもりのなかには 原初の夢があったのだろうか 生命ははじめて声をだしたときに 詩を綴っただろうか 曖昧な系統樹のはてに僕たちは 何の権利もないことを知るが それが自由なのかもしれないとおもうんだ 所有権なんてなかったんだ 誰の愛も所有できない 未だに誰ともあっていない原初に また 帰ろうかと思ったりもするんだ ---------------------------- [自由詩]E.クラプトンの休暇/梅昆布茶[2020年4月3日10時16分] トルコとギリシャでの休暇って 僕にはありえない夢なのかもね ささくれていきているのかもしれない やさぐれていきていないとはおもうけど 裏切ったものはかずしれず 愛したものも多少はあるが 顔のみえない接触不良のなかで 誰かを信じようと思ってよいのです その力を蓄えれば大丈夫なんです たぶん僕にとって トルコとギリシャへの 心の旅は大切なんです でもね 僕には必要な大事はなにもなくて 妻と猫とを可愛がってそれでも 愛の遺伝子があるとしたら 頑なな自我を放棄して 僕は「ぼく」に戻るだけなんです トルコとギリシャでの休暇って 僕にはありえない夢なのかもね 顔のみえない接触不良のなかで 誰かを信じようと思ってよいのです たぶん僕にとって トルコとギリシャへの 心の旅は大切なんです トルコとギリシャでの休暇って 僕にはありえない夢なのかもね ささくれていきているのかもしれない やさぐれていきていないとはおもうけど 裏切ったものはかずしれず 愛したものも多少はあるが 顔のみえない接触不良のなかで 誰かを信じようと思ってよいのです その力を蓄えれば大丈夫なんです たぶん僕にとって トルコとギリシャへの 心の旅は大切なんです でもね 僕には必要な大事はなにもなくて 妻と猫とを可愛がってそれでも 愛の遺伝子があるとしたら 頑なな自我を放棄して 僕は「ぼく」に戻るだけなんですt ---------------------------- [自由詩]なにもなかった昭和に寄せて/梅昆布茶[2020年4月21日3時25分] 夜更けに僕の勤務は始まる 夜明けに僕の勤務は終わらない それとはあまり関係ないが 夜桜ばかりが散りかかる明治通り では大正通りはないのかと考えたりするが 昭和通りはたぶん各地に点在するのだろう 上野から新橋まで昭和通りの下をよく走る 貫通するトンネルはとても大好きなドライバーの穴場 僕にとってのツールドTOKIOなのは内緒でもないのだが 誰も関心をもってくれそうもないので それならば築地場外で海鮮丼を食したのち 晴海通りをお台場に抜けて海に逢おうか そうなんだ みんないっぱい自分のことを好きで そのうえで いつも通ってる〇〇通りを しっかりさっぱり好きになってもらいたいんだ アニミズムみたいに いまある呪詛を滞りなく空に放って いつかプラトンの国家論みたいに あるいはマルクスの理想のように 紅い花よりも波長の長い色は不可視なんだね 紫が尊い色だとしてもそれより波長の短い色も視えないし 鳥は人間よりも紫外線領域の世界を感知して はなむぐり風の糸をつたわって 春の歌くぐもってうたう機関車に ここだけの話を紡ぐ翻訳機 窒息しそうに大好きな人がいたあの日 失速する日々を整理しようと思ってたんだけど ぼくはうまれた時はちいさな塊だった こころを吹き込まれいのちの融和をおしえられ でも誰も愛せない時はなかったとおもうんだ 今も大好きなひとを いつも好きなひとと I’m going back home And You can just come over here ---------------------------- [自由詩]五月の歌/梅昆布茶[2020年5月5日7時15分] ちいさくてとってもちいさな貝殻があった 優しくてとってもやさしい友達がいた時もあった 幼いころ姉がひらがなの練習をしていた たぶん卓袱台で宿題でもしていたのでしょうか 対面でそれをみていたらしい僕は しばらくは ひらがなを逆さまに書いていたそうです いまは同じ社内のひとの名前さえ出てこないときがあって それは脳の鮮度のせいにするしかないのです 個人の記憶は個人のものである反面 ちょっぴり 社会の財産でもあるのかもしれません 紅い花よりも波長の長い色は不可視なんだね 紫が尊い色だとしてもそれより波長の短い色も視えないし 鳥は人間よりも紫外線領域の世界を感知して 四月になれば彼女は 優しい髪をなびかせ ちっちゃな牙をかくして 居留地からにげだすんだ 約束なんてなかったとおもいながら 約束がほしかったのかもしれない 五月なんていらないと思いながらも カレンダーをかってにかきかえて ---------------------------- [自由詩]海にたどりつく/梅昆布茶[2020年5月11日19時14分] いい加減に書き散らした日記を死ぬまでつけようか 時間と空間が混乱しては想いは惑い腹も減るだろう 冷たい朝の空気が夜に萎えた神経に障るあさは 棄てられた男は塵箱のように 女を浄化できるのだという くだらないジョークをひとりごとのように唱えて だれかが誰かのこどもである事はあたりまえなのだろう 生物学的にそういうことになっているらしいのです 孤独は免疫力を低下させると 予防医学的に言われているが 孤独の自画像は哲学を超えて 社会学を迂回してまでも海にたどり着く ---------------------------- [自由詩]遺伝子のうた/梅昆布茶[2020年5月18日18時13分] 遺伝子というつづれ織り きみとぼくを区別できなくったって たいした支障はないのにね ぼくの遺伝子はときどきエピタフを聴きたくなる 螺旋状の階段をのぼりおりするうちに 階数がわからなくなった訪問者のように 成分表示によると エネルギー 残り少ないが大切に使いましょう たんぱく質 33.195kg 脂質 15.195kg 炭水化物 17.195kg 食塩 0.195g 違反点数 ? 清浄な魂 僅か アルコール 過剰 Delete はできません 進化にエラーはつきものです ---------------------------- [自由詩]マルコポーロの旅/梅昆布茶[2020年5月25日13時09分] 抒情という故郷にはもうかえれない 父母を墓苑に棄てた罪状は計り知れない 閉ざされた街に住むと 誰ともつながれないようになる パッケージされた夕食が配信で済んでしまうのなら 目玉焼きとか魚の焼けた匂いは 何処へ行ってしまうのだろうか グレゴリオ聖歌が多声の合唱に変貌してゆくように ヨーロッパも細長い国の日本も変わってゆく 自分だけが変わらないつもりでは生きられない だれかの返事を待つ必要はないのだとおもいながらも 体をかわすズルさだけは残っている 叙事しかつづれないおとこ 叙情に溶け込んでゆくおんな 聖マルコ寺院 マルコ・ポーロの旅 ベネチアンマスク 寛いだ部屋 いつも一次試験で落ちた自分を想い出す ---------------------------- (ファイルの終わり)