梅昆布茶 2015年8月21日3時09分から2016年3月29日8時08分まで ---------------------------- [自由詩]世界のはずれのコテッジで/梅昆布茶[2015年8月21日3時09分] 世界のはずれの藁葺きのコテッジで 遠く草原にかかる月をのぞむ ( かつてこの月をめでた青年達が不毛なたたかいで旅立ったことも ) フィヨルドと火山を巡り カレワラの世界にあそび シベリウスの旋律を想う 何処ともしれないけれども 樹木のうたが聴こえる 仔馬と僕たちのためのみどりの丘があったりもする ここは世界を収容する小部屋 ときどき鯨のうたが聴こえたり オーロラのカーテンがそらにかかったりもする ここはちょっとあたたかい空気 暁の寺や黄金寺院 メナム川の河口 こまかな水路が縦横にはしる ここはジンバブエ 思想のはざまのなかで 翻弄されるのには慣れているし 思いついた曲想のままに 古い楽器をならす 部屋の中にしばし音が満ちる 世界のはずれのコテッジで コンクリートの堅牢さに感謝する いつも陥穽は待ち構えているが 足踏みばかりはしていられない 経験則のそとがわにある世界は けっこう魅力的なんだ とぎれとぎれに太古の微風が吹いてくる 現実にはほとんどコテッジにいないことが多いんだ 意味や目的はまあいいのではないかとおもっている もっと裾野をひろげても損はしないし 世界のはずれの冷たいコテッジで 氷と炎の大地を読み込む 竹林のなか素朴な工房で 皮革職人が金箔を慎重にプレスしている 世界のはずれのコテッジに からっぽで豊かな風が吹き抜ける ---------------------------- [自由詩]半魚人の夜/梅昆布茶[2015年8月22日11時27分] きみの夢は軽いけれどもきみは重い 人間ひとりってたいそうな荷物だ きみを背負うには僕がかぎりなくかるくなければならない すべてのものをかかえて吊り橋は容易には渡れないものだろう 僕の祖先は半魚人だってきみはいうが かすかにさかなだった記憶と猫だった記憶と カマキリだったらしい記憶が交錯するが いまはせめて人間でありたいとおもっている こっそり誰かに名前をつたえるたびに 風がそれを吹き消して行くさ 十万億土に風は吹く さいごの砂のひと粒までも捲き上げて逝く ---------------------------- [自由詩]痺れた日々/梅昆布茶[2015年8月27日22時54分] 右手の痺れがとれない 小指と薬指の感覚がない いつもの山田先生はひとこと これは頸椎だから松崎先生のところに行きなさい まだ午前中で間に合うから ちゃんと血圧も測ってね 松崎整形外科にゆく 山田先生よりも若い先生 頸椎のレントゲン写真でみる ぼくの首の骨は頭がかるいわりに椎間板が衰え いかにもまえかがみで不健康 頸椎のゆがみが神経束を圧迫して 骨格に寄生しているだけのぼくの精神をゆらす 暴力や圧力には死ぬまで抵抗勢力ではあるが 神経通なんてさからえない やっぱ借りているからだもいたわらなければいけないとおもう 宇宙というリースのシステムは 物質を循環させてなにを得るのだろうか たぶんなにもない 思想も意志もない物理的解明もいらない 宇宙自身が解答だから でも大好きなんだ 君と彼女 個別に認識できる楽しみ そんなものに勇気ずけられていきてゆく みんな大好きかもしれない ---------------------------- [自由詩]空っぽについてのマニュアル/梅昆布茶[2015年9月1日12時10分] きみの取扱説明書をみつけた ちょっと古びて もう保証書もどこかへいってしまった 皮膚を剥いでゆくように すこしずつものを整理してゆく 基本性能だけでいいのだ 死ぬまでにデフォルトの状態にもどるのが たったひとつの目的だ ものごとは流速のちがうものの 並列競争みたいなこと このごろはだんだん引き出しが からっぽになってゆく快感が好きになってきた なにかで満たそうとしない 必要がなければからっぽでいい そういった空間がこころのなかにたくさんあればいい すきとおった風がとおるだろう いつか重力から解放されるまで 流星の破片に突き刺されるままにいきてゆく たぶん僕のマニュアルは 永遠にひつようないのだとおもう ---------------------------- [自由詩]蛍日記/梅昆布茶[2015年9月2日11時57分] ひかりのあたる角度によって ものごとは綺麗に反射したりえらくくすんで見えたりもする シャンデリアのある素敵な応接間 ある生命は空間を得るために代償を払う それを得られない一部は 高速道路のした 井の頭公園のかたすみに 蛍のように仄かに光っている いつも階段にいる野良猫は おふくろが生きている頃からの室外ペット もう10年来のつきあいだが もうほとんど警戒しないようだ よい天気の日には 僕のスクーターのシートで眠りこけている 最近嫌いなことばがある 他人のささいなこだわりに 「そんなのどうでもいいから。。。」 いいんだあなたのこだわりには 難癖はつけないから自由にやってくれ いつかあなたの理想に めぐりあえるように 世界があなたに微笑むように そして 他の生命にも微笑むように あなたが肯定や受容や たいせつなことばを じぶんのものにすることを 願っているのです ---------------------------- [自由詩]案山子/梅昆布茶[2015年9月5日11時23分] 自然であること自然に衰えてゆくこと ぶつかりながら消耗しながらもえつきる流星 いつ どこで 誰が 何を 何故? 自分のだけの視野で批評も感想もなくて 生きることも可能だが 疑問を感じながら誰かに問いかけて 軌道を修正する あたりまえの変化をだいすきなものに するぐらいの知恵はじぶんで編み出してゆく だれも遠くをさらっと考えたりもするものだ 近くは喧騒で満たされた楽園だから あるいは煉獄 山田の案山子はただの田圃の守り人ではない じっと人をみつめている 自然な自分は母の介護から解放されて たった一個の石を蹴飛ばしているみたいで 自然なもの いつかそれにそって 芥子粒になってゆく でもまたみんなにあいたいものだ ---------------------------- [自由詩]ちっちゃな宇宙船にのって/梅昆布茶[2015年9月17日2時20分] よごれた皿を洗うことはたやすくできる こころを洗うことは容易ではない 精神のよごれが頂点に達して いつもこわれっっぱなしの回路をさらに脅かす どこの惑星で治療をうけたらよいのか 基本ソフトのバグとの戦いはまだつづく バージョンアップもままならず 地球とのわずかな交信も途絶えがちだ 地球の緑の丘も遠い昔 きみに摘んで手渡した ちっちゃな白い花が風にゆれる 古びた宇宙船はワープもままならず しんとした操縦室でこれからのゆくさきを考える 60億の細胞に生かされて 限られた生をいきる どれだけの宇宙にであえるのか ちょっと考える メンタルとフィジカル いつもおなじなんだ 問いかけるものはいつも なんだかからっぽなところから 発信されているようだ それに はなを添えるのは きみのあやしいかもしれないけど うつくしい宇宙なんだから ---------------------------- [自由詩]for you /梅昆布茶[2015年9月30日10時44分] 朝がくることを待ちこがれるほどではないが ちょっと陽がさす 古い集合住宅の一階の湿気のこもりがちな 鉄筋コンクリートで仕切られた空間が 僕のすてきな居場所だ 教会の鐘はどこからも聴こえないが ちいさな天使が風に紛れて歌っているような朝だ 無用な旋回はすくなくなったとおもうが 不安定はぼくの常態だと観念したほうが楽なんだ 人生は肯定や拍手ばかりではないが やさしい朝はいつもきみのものだ 誰にも奪えない朝のきみに いつか出逢いたいとおもっている 僕は歌えるかもしれない 目的ははわからないが すくなくともきみのために ---------------------------- [自由詩]Colours/梅昆布茶[2015年10月14日15時36分] みどりの線で世界を描く 翠は鎮静のいろ 緋色が補色 融和と柔らかな背反 それぐらいがいいところだとおもうのだ ビリジアン 青みがかったみどりらしい マゼンタ あかるい紅紫色とも だれも本当のいろを認識できない レモンイエロー 色相が55° 彩度が100% 明度が85% 太陽のひかりの散乱 密度のない 濃度のない 閑散とした郷愁 途絶した想いだけが いつかほのかな色彩を 獲得してゆく 主体と客体が ゆっくり対話する そんな秋だった ---------------------------- [自由詩]自転/梅昆布茶[2015年10月20日14時09分] 環境に適応していきのびることが 生命のことわりならば それにしたがうのがあたりまえなのだろう 考えることはない生きればよい 小利口にならずきちんといまを選択する なにが純粋なのかよくわからないが ゲームのレベルやステージでは測れない でこぼこなじぶんが人間であることをおもう 僕の生命のベクトルは弓形に下降してゆくのだろうが そのなかでせめてひそかに上昇してゆくものがあればよい ゆくさきはエントロピーだが 道程はまだのこされているし まだまだ地球はH.G.ウェルズ描くところの 終焉にはいたらないだろうが 朝のヨーグルトとフルーツ 前日の夜につくっておいたいつも通りの豚汁 部屋干しがあたりまえの衣類からひとつを 剥ぎ取って原人類の毛皮のようにまとう やさしい朝はいつもやってくる 地球の自転がとまらないかぎり ---------------------------- [自由詩]いつか失ったものたちへ/梅昆布茶[2015年11月3日0時23分] きみが奏でるインプロビゼーション 太陽がさししめすデスティネーション 私はずいぶん整理されたのかもしれない まるで骨格のように洗われるだけになりたいと 素朴な島人でありたいと心底おもったことはないが いまはすこしだけ離島に棲んでいる ときどきは足が病みすでに老眼である視界は狭窄しつつ それでもなにかを追ってさらにちょっとだけ失ってしまう それが心地よいのかもしれない 乱反射する歴史のたくらみや 閃くたびになにかしら痕跡をのこしてゆく 人間という不可思議の森 老廃物のうえにさらなる なにかをかさねてゆくことで じぶんがたったひとりの 難民であることに気づく しかし私の敬愛するひとびとから ひきついだ卵を暖めてゆかなければならない 誇張も縮小もできない無垢を ちょっと薄めて生きること あなたに教わった生き方だ ---------------------------- [自由詩]クープランの墓/梅昆布茶[2015年11月3日15時33分] いつか説明できる自分になりたいとおもったが いつも途中でひきかえしてばかり 丘の上の教会の牧師さまを質問ぜめにし 彼の額の皺がひとつ増えたのをみとどけて それでもつぎなる質問をかんがえつづけた ラヴェルのピアノ曲集のような森を散策するように ポリグラフの要らない自分を夢想してみる そうせっかくの君宛の手紙を ずっと出し忘れていただけなんだって ふと気づいた午後 説明できない理由を説明できないのが あたりまえなのだともおもうのです 北向きの部屋にまるい掛け時計だけが 増えてゆくものと減ってゆくもののあいだを 刻んでいるだけなのですが ---------------------------- [自由詩]菌類図鑑/梅昆布茶[2015年11月10日0時18分] 深井戸を掘り水脈を探り当て 始原の意味を飲み干そうとする ひそかにかくしもっている消しゴムで 日々の痕跡を抹消してゆく 整理できないものを片付けてゆく生活 アクチュアルな墜落が気持良い トマトを齧る 残されたものを数えるのをやめる 減ってゆくだけだから 地衣類のように地表をおおいつくそう 菌類のように醗酵しながら えたいのしれない茸になろう いまもただのデクノボー これからもたぶん ちょっとだけ 痕跡をのこして ---------------------------- [自由詩]たいせつの歌/梅昆布茶[2015年11月27日13時26分] たいせつをさがしている 大袈裟でもなく控えすぎず弾力をもつもの 空は低いが僕の中にそれをおしあげる力があるだろうか 誰も風化しない星々も変化しないのではちょっと困るのだ 粘土のように塑性をもった背骨を あるいは硬骨魚の外郭をちっちゃな鑿で削りながら たいせつを温存してちょっと迷ったが いいのだ背もたれがほしかっただけなんだと もう高度のひくいグライダーはいつも隙間にはさまってしまう 呼吸するちいさな地図を広げて世界をさくさくとあるこう ティンカーベルはそっとほほえんでタクトを放り投げると たいせつをおりたたんでちっちゃな胸の谷間に挟んだ しゃがみ込んで蟻の行列を眺めているおかっぱの女の子 いっしょにしゃがみ込んでももうすでに焦点があわない齢 唯々彼女の分析的な感想に感嘆する 柔らかな科学はやさしい生物学を かあちゃんあんたの表情かたいぜ もうちょっとゆとりもちなね 胎児がそっと歌う たいせつを忘れている 機能のバス停できみとかわしたジョークさえもなくして もう結婚指輪はどこかへいってしまった いつも終局はさびしい なんとか収斂させなければならないから 言葉はいつかおわるもので ぼくもじきにおわるもので たいせつも終わってしまうが 終わらせないひとがかならず何処かしら居るもので いつもそんなひとと友達だったようなきがするので そんな人生をこれからも選ぼうとおもっているのです ---------------------------- [自由詩]店長/梅昆布茶[2015年11月29日19時53分] 顔を合わせることもないのだが 納品先のユニークな店長 真夜中の搬入なので 鍵を開けセキュリティを解除して 作業をするのだが 厨房内のホワイトボードを ふと見れば   欲しいものリスト 子供用のプラスチックおでん ゆのみ ブランケット 等身大悟りんフィギュア ヒーター やさしいこころ 真夜中しんとしたなかで 僕はときどき悟店長と あえたようなきがするときがある ---------------------------- [自由詩]priceless/梅昆布茶[2015年12月1日11時18分] とびっきりの笑顔ひとつください おいくらでしょうか? こころの痛みを鎮めるお薬ひとつください どこかにありますか? 曇りのない青空のもと もうお気に入りの傘も要らないと 言ってくれませんか? もう想いだせなくなった町並みに おもかげだけが去来しているように 蹴飛ばした缶蹴りの缶が いつか戻ってくるとは信じていないのに お気に入りのフレーズを口遊みながら 今日も彷徨うのが好きなようなんです 斜めに入ってくる陽の光にヤマハのFG-130が光っています いずれにしてもなにかプレイヤーになりたかったのですから 爆買い爆睡エモーショナルレスキュー 僕たちは五大元素でできているスケアクロウ かぎりなく空間を縮め はてしなく市場を開拓し 圧縮された時間と感情を生きている あさ7時にあくコーヒー店に ちっちゃな行列ができるように ぼくのなかのかたちのないものが 順番を待っているのでしょう 答えはなくてもよいのです キースリチャードのギターが ときどききければいいだけなんですから ---------------------------- [自由詩]季節はずれの蜃気楼/梅昆布茶[2015年12月7日1時01分] できの悪い推理小説のプロット 夢の死に絶えたファンタージェン 造物主のいない創世記   すべての夢がわずかな因果の隙間に託されるなら いつもつまずいている僕はニッチな日雇い漂流生活者 習うより慣れろとか 経験や真実は様々なかたちで いろんな方向からやってくるけれども 僕は通過儀礼的な試験に臨んでいるわけでははないし そんなものはすでに自己検証もないまま風化してしまって 的中する馬券はまずめったには舞い込まないだろう 僕は狭いところで夢を見ているだけなのかもしれないが ちょっとは時々は中毒になるんだ 酒 女の人 煙草 音楽 思想 そして詩人という僕とあなたの蜃気楼 僕らはたぶんどこにもつかえない通貨を貯め込んで そのおもみでアトランティスのように沈没するのかもしれない ローレライのように通過する船を待って 呪いをほどこすほど魔力も歴史もないから ラインの美しさをおもいながら 唯々ウインナーワルツの 踊ったこともないステップを 夢見るだけなのかもしれないし でもあなたの蜃気楼も とってもすきなのですから ---------------------------- [自由詩]風とスケートボードと/梅昆布茶[2015年12月13日20時15分] 継ぎはぎだらけのタペストリー 隙間から柔らかな風が吹いた気がして 離島が点在する 静かな海をゆく船を夢想する 日常は羅針盤もないスケートボード リュックひとつでバランスをとって乾いた舗道を滑ってゆく 時計はなぜか少しづつ狂ってゆくままで その小さな差異がきっと僕のほんとうの成分なんだろうと想う 舗装の継ぎ目の僅かな衝撃が区切ってゆく毎日 風のゆらぎを追いかけてまた滑りはじめる ---------------------------- [自由詩]時間、ありますか/梅昆布茶[2015年12月22日23時33分] 生きることは単純なことの積み重ねなんだ 難しいことは何もないはずなのに躓く 躓くところから物語は始まるのかも知れない ただ対処する方法がわからないだけ たぶん物事に正解はないが解決するちからが必要なだけなんだろう 整理するべきことも沢山かかえながら 指をくわえて見ていたってなにも変わらないんだという ラジオから流れるメッセージにうなずいて メビウスリンクのような光がながれるスカイツリーが 夜に浮かんでいる辺りを走り抜ける 次々と要求されるパスワードにちょっと疲れているだけなんだ いくつものドアをノックして誰にもあえない街に迷い込む 路地裏の野良猫も彼の世界観さえなかなか教えてくれない街に 生きることは些細なことの連続でたぶん それがあなたの傾向や嗜好や生理学的なシルエット やわらかなあなたの内部に深く浸透してゆくあいだに あなたが変化にきづかないうちに変わってゆく 幾千もの夜と昼を経ていつか光のなかへもどってゆく 意味なんていつのまにか粉々に砕け散ってしまうものさ いつかあなたの特別な物語を聴きたいんだが そのときは時間をとっておいてくれますか? ---------------------------- [自由詩]自転周期/梅昆布茶[2015年12月28日11時50分] 回転しつづける君の夜に 墜落するイカロスのちぎれた翼を貼り付ける 思いつくままに貝殻を並べて手紙を綴る 離島の風景をきみの気を引く為に誇張して淋しげに 風化するものはそのままにまかせたほうがよい 冷凍の焼きおにぎりとフライドチキン 茗荷とにんにく 電子レンジとオーブントースター いつものレトルトカレー 農業革命 産業革命 そして僕たちの情報革命 意味なんて人それぞれだ いつかブレークスルーするための 手段に過ぎないのかも知れない 生きる軸を変えることに臆病でないことを 年齢の特権にしたくはないんだ 独楽のように回転し続けようとする きみの意思がいつも大好きなんだから ---------------------------- [自由詩]越境/梅昆布茶[2016年1月8日19時19分] ひとの心は果てしなく彷徨う 距離や時間を超えてゆく 痕跡にすぎないものに捉われ 憶測の触手をあすに伸ばしておののく ときどき何かを削ぎ落しながら 変わってしまうことをおそれながらも かたちのない自分を追い続ける いつも密かに抱いている想い それは越境する自分を映す幻灯機がほしいこと 明滅する生命のことわりを抱いて 自分の現在を捜しに行く 国境線がみえてきたら ぼくのこころとからだは蛍になって 夜空に飛び立つ準備をはじめるのだ ---------------------------- [自由詩]蜜柑/梅昆布茶[2016年2月2日11時43分] 冬が通りすがりに蜜柑をひとつ 窓辺へ置いてったようだ 不用意なこころはすぐ凍傷にかかってしまうから ちょっとした季節の気遣いにも丁寧に礼を言おう ざわざわとした毎日を蹴飛ばし 転がして陽はまた沈んでゆく だからまた少々の変化をつけて ささやかに一日を組み立ててゆく ときどき生活を解体するつもりで あらたな空気を取り入れようと試みるも 身の丈が精一杯で僕の冷蔵庫は空っぽのまま オレンジって けっこう好きなんだ once an orange always an orange きみの言葉が理解できないんだ 斬新は魅力的だが いつも通り纏っている襤褸の 惑星も愛着を捨て難いもの パステル画のような朝が好きだ 論理和と論理積ではいまは生きたくないから ヒューバートロウズの(春の祭典)を聴きたいとおもう ときどききみの唇をおもいだす ちょっと冬の蜜柑みたいな 無垢な平和主義者なのかもしれない ---------------------------- [自由詩]ミッション/梅昆布茶[2016年2月21日20時05分] あの日瞳に映った空は きっと君のどこかに仕舞い込まれ ときおり顔をのぞかせ驟雨となって だれかに降り注ぐのでしょう こころと身体は不可分です ホイットマンが僕のどこかに 宿っていて欲しい気もします 昇りも降りもないエレベーターの 素敵な終点があったならいいのだけれど 氷のようにひんやりとしたジャズピアノが 古びたアンプとくたびれたスピーカーを通過して ノスタルジックに部屋の中を充たす ときおり粘着質の想いが断ち切られ 剃刀のように鋭いものが走る 冷蔵庫の中身が僕の胃袋を通過して 在庫調整がすすみ やがてなにも陳列されなくなった 駅前のシャッター通りの食料品店の商品棚のように 真っ白な骨格を晒しやがて ミッションから解放されるのでしょう 僕もそれまでは頑張らねばとおもうのです ---------------------------- [自由詩]途上にて/梅昆布茶[2016年3月1日9時32分] キムチトーストにはまっている いまさら短時間高収入の仕事に就くすべもなく ちぎられた時間のなかでファーストフードならぬ 簡単な食事と全自動洗濯機 電子レンジとオーブントースター せまい部屋に不似合いな馬鹿でかいカラーレーザープリンター 電子化されたアニミズムがちょっと心地よい夕べに 電子ブックでは触れえない紙の香りが好きだ 1972年発行の研究社新英和中辞典の インクと紙の匂いが大好きだった スポーツを観戦するのは素敵だが 僕はサッカーではバックスでキックの飛距離だけを 買われていたのかもしれないが 宇宙の振り子のなかの微細なポジションを生きる 東京マラソンで交通規制中の都心で おっかない婦警にびびりながら なんとか荷を降ろす 作品としての 命はいつか 区切りをつけなければならないのだろう でもいいんだ 人生がひとつの作品だとしても 数学的な論理が破綻しても きみはきみなりの素敵な人生を とまどいはずっと続くが大丈夫 ふわふわいきているよりはよっぽど増しだろう だからまた言葉を捜しにゆく ---------------------------- [自由詩]たった一人の/梅昆布茶[2016年3月4日12時31分] 笑っている或は微笑んでいるきみを 僕は安心して受けとめるだろう ボディランゲージとして でもひとりになったときの 君の顔をしらないんだ あっけらかんとしてあの時は不倫しててね と皆のまえで言い放つ君に陰りはない けっして柔くは生きたくないのだ もうこの歳になると 自分の頑なさがある意味背骨になって しまっているのだから もう金魚がふんをするように 日々や想いをつながった細い糸で 排出するわけにもゆかないだろう 僕はあなたと逢うとふたりになる だから永遠に たったひとりのあなたと出逢えないのかも知れない ---------------------------- [短歌]とっても素敵な世界へ/梅昆布茶[2016年3月7日22時16分] おなかの小魚はときどき小ちゃな声で鳴くたいせつな奴だ 電子ジャーの独り言を翻訳しながら夜が明ける 痛みっていつも友達だったなこれからもよろしくな 僕の休日は病院に奪われてディスカウントの爆買いで凌ぐ 展開しないアドリブワークの次なるキーを模索中の札がさがる 反社会的ということは犯罪ではなくふわっと浮かんだこころのありかたなのかもしれない ジャンヌダルクがサウスポーだったなんてだれも教えてくれなかった 恋する若い娘達よそんな君たちが好きだあまりにも戸惑いが美しいんだもの 渋谷25時 歌舞伎町あさの6時 代官山のクラブハウスが燃える さば缶いわし缶 価値観に拘束されない そんな缶づめで ありたいとおもう ---------------------------- [自由詩]anthology/梅昆布茶[2016年3月15日12時08分] 懐かしいトムとジェリーを観ながら 人生スラップスティック論入りの缶チューハイで ほろ酔いの仕事明けの朝 様々な宗教の勧誘やってくる 団地の一階だからな ハッブル宇宙望遠鏡が25周年をむかえて 深宇宙の映像に ひさしぶりに触れてみた 人間とはわがままなもので イノベーションがどうのこうのと言いながら アンチエイジングとかデトックスとか ロハスとかなんとかソロジーとかが好きみたいだ 漫画の吹き出しっていつも素敵な詩かなっておもう アキバ発祥のかわいい文化も捨て難くて 詩人みたいなひとが好きで こっそりファンで 自分も随分まちがった言葉で わけのわからない戯言を書いて 冷たい部屋をガスストーブでほんのり暖めて どん兵衛鴨だしそばでからだも内側から暖めながら BEATLESのANTHOLOGYを流す 寒い日にはこういう古い音源が似合うものだ でも座敷に炬燵も捨て難くて僕はすぐに 猫に戻ってしまうのであきらめている 津軽海峡も寒かろうとおもいながら かってな歌でもうたいたい気分だ 春って待たなくてもふんわりやってくるからすきなんだ いつもの冷凍庫なんてけっとばしたいぐらいに きみのことをおもいだす季節でもあるから ちょっとこころが席替えをするのかもしれない ---------------------------- [自由詩]コンビニよりあなたの歌へ/梅昆布茶[2016年3月17日11時23分] コンビニエンスストアーは小遣いがあるときはぼくらのポケットだが だいすきなしょーもないもの以外はたいがいなんでも売ってるみたいだ いつも仕事に出かける時は装備の点検をして 会社でも点呼をうけるがちょっと好きな本をこっそりお守り代わりに持ってゆく この素敵な職務のなかでも もっと素敵な世界を忘れないように ぼくは根っからの馬鹿者なので しょーもないことでそのうちに必ず地獄に堕ちるのだ すべては無常で 夕方6時には眼が覚めないかもしれないのだが こんびにえんすすとあーに ひょっとしてだけれども フォーラム@現代詩 なんちゅうアンソロジーが 並ぶ日はこないとおもうのだが みえない軌跡の可視化に僕もまぜてほしくて みそっかすでもいいからよせてもらえば すっかりうれしいのです コンビニエンスストアーは小遣いのないときはぼくらの冷たい指標となって それでもぼくたちのだいすきなしょーもないものたちを ざくざくと突き刺してこの歳になって残り少ない芽を やさしく浸食しているのかもしれないともおもうのです そしてコンビニではけっして手に入らない あなたのことばの輝きを 固有の意味をひきかえにできる通貨をいつか ぼくの薄い財布に隠しておけるようになりたいのです ---------------------------- [自由詩]be happy/梅昆布茶[2016年3月17日13時02分] かなしみが河いっぱいにあふれて よろこびも一緒にいる まるで流し絵のように一緒にゆるやかに 色をなしてゆくもう痛みもない河畔に ちょっと嘘つきでよゆうのない自分が居て 漢字変換ではもういらいらしなくなったが そのかわりになにかを一歩ひいてしまったのかもしれない すべての真実がすべての嘘を証明するまで推理小説を読みたい ベクトルがどっちだって良いのだともおもう 僕らは生きる為にたまに偽証をし それでもほんとうに生きる為にはべつな言葉を用意して 言葉はたぶんたやすくは 得られない あなたのいまのことばにもたぶんたった一回しかあえない だから読むんだ 追記 ごめん。ほんと読めてない。 でも、いきているうちに読むからな。 be happy ! ---------------------------- [自由詩]朝のレポート/梅昆布茶[2016年3月29日8時08分] 朝のワールドニュースでは 空港に設置されたカメラが常にテロを監視し 中国の経済的失速が懸念材料となり 世界のあらゆる処であらゆる価値観が往来する 冷凍のピザをオーブントースターでこんがり焼き上げて タバスコを眼で探しながら 気になった新書をちょろちょろ読む 坂崎幸之助のラジオ番組をおもいだして 壁際のギターにさわってみる 缶チューハイが冷えている休みの日が好きだ 生命が地球という荒れ地に根付いて 人という種が国家や所有権を設定し 規範でくるまれたうつくしい理想と 血みどろの生存とすべての傷心を生み出して 太陽系の寿命は250億年だったかな? 俺の寿命よりはちょっと永過ぎるから きょうの朝を 楽しむことに決めてみたんだ ---------------------------- (ファイルの終わり)