梅昆布茶 2014年8月7日16時30分から2014年11月20日11時43分まで ---------------------------- [自由詩]アウトをとれない夏/梅昆布茶[2014年8月7日16時30分] 真夏のまんなか 乾いた道のさきに 誰かが描いた蜃気楼 午後9時の Summer in the city 大気圏の対流に耳を澄ます アウトをとれない甲子園 酸素が足りない金魚鉢 ぶっかき氷でしのぐ夏です ---------------------------- [自由詩]CAUTION !/梅昆布茶[2014年8月10日2時00分] 大雨洪水注意報 彼女に涙を流させてはいけない そのあとですごく経費がかかるから 落雷警報 電気ショックで何かが復旧するとは想わない方がいい 普通のひとは死ぬ 落石注意 気がついたときはたぶん遅過ぎるが注意しよう 隕石注意 めったにないと想うがありうる 熊出没注意 熊はめったに出ないが怖い人はいっぱいいるらしい 段差あり注意 あれっ。。。 俺の人生のことかな? ---------------------------- [自由詩]日時計/梅昆布茶[2014年8月16日15時21分] 生活という書式をたちあげる ブラインドの隙間から 僕の一日がやってきたならば 年月という埃をまとわせ 洗濯機からまっさらな振りをしてでてくる 洗いざらしの理想 ベンジャミンフランクリンの凧 E=mc2 コペルニクスの朝餉 瞬間をつかまえきれないで 前走車も後続車もない 乾いた航続距離を測る ハッブル宇宙望遠鏡は 24時間営業で次元のむこうを覗こうとして いつまでも永遠にとどかない そんな夏の日 壊れた時計をいじっている ひまわりといっしょに日時計になる ---------------------------- [自由詩]神話/梅昆布茶[2014年8月17日19時59分] 顔のない世界を ゆっくりあるいてゆく君を ぼくは呼び止めて お茶に誘ったんだ 言葉が伝わらないままに恋をし 手をにぎらないままに ベッドに誘ったんだ きみは買い物袋をさげて ときどきぼくのまえを横切る 袋のなかから はじめての神話がころげおちる ぼくたちの生活は あまりストイックではなかった それでもしらじらしさをもてあまして ときどきSEXをしたんだ ほんとうは創世記は白紙なんだ 誰もなにも描いていやしない だからぼくは きみのための神話を描く 顔のない ぼくときみだけのために ---------------------------- [自由詩]離島/梅昆布茶[2014年8月21日21時04分] 辺境とは文明のセンターではないところ ひじょうに身勝手な定義とおもう 一律の価値観でかたられるが 離島にもひとは生きている あるいはかれらには シンプルで必要なもの以外もたない自由が それだけで生きて行けるエッセンスが ニューヨークやパリの女いじょうに 解放されたレディが大股で歩いていたり 古老の語る伝承が文字をもたない こころの世界をかたる エクソダス何処へ脱出するのか 移民のうたはモーゼさえ必要としない 生きるすべをしらない専門家をふやすこと ぼくらは分散してしまった ただ離島が頑なに なにかをまもっているような気がするのだ ---------------------------- [自由詩]ともだち/梅昆布茶[2014年8月22日18時58分] きみとじゃんけんして どっちが勝ったってかんけいない だれかがやらなければならない きみを愛した代償なんて欲しくはない ぼくたちは証券なんてあてにしてはいないんだ まっさらな後悔なんてありはしない ぼくならひとをちくるひまがあったら もうちょっとまともなじんせいを考えるだろう でもともだちになりたいとおもったんだ こいびとではない ともだちになりたいと ---------------------------- [自由詩]野性の夢/梅昆布茶[2014年8月25日17時39分] 草原を遠望する瞳は 遥かに一閃する時の煌めきを見逃さなかった 確かな四肢は沃野を愛し 太陽や月や星座と寝起きをともにし ときおり微細な流星が空をよこぎってゆく 瞬間を感じそのものを生きていた ただ野性という感性だけをたよりに 愛することも食いちぎることさえも 厭わなかったのだろう いのちは循環し 遠い記憶へと遡って行く 生きた気配もいつかは 光の粒子となり時間という 風にのって 漂流しはじめるのだろう はてしなき漂着点をめざす種子のように ---------------------------- [自由詩]日々の様式/梅昆布茶[2014年8月30日3時13分] アイスランドの国民的グループを聴いている 宗教音楽にも似た轟音にも似た雨の雫のような ときおり雷鳴のように存在を粉砕しにやってくる ミュージシャンたち 原型はうしなわれても様式は変化しつつうけつがれる ちいさな宇宙がつぎつぎとうまれてそれぞれの世界を生きて行く ジミ・ヘンドリックス製アメリカ国歌 ワーグナーやキース・ジャレット リルケやシュトルム 親友だとおもっていたTESIや純くん 感情でうけとめたものをそのままで外に出さない事になれてしまった 疎ましくもないがひとから愛される要件でもないようだ ドミノ倒しで押してくる毎日にちょっと息をつく コマ送りで生きたくはほんとうはないのだが でも毎日をそうさせているのは 自分自身 ---------------------------- [自由詩]彗星のうた/梅昆布茶[2014年9月9日20時38分] 僕たちはすれ違う小彗星のように 尾をひきながら歌って生きてゆくのだ そのときに交感した想いだけが やさしいえねるぎーとなってさらに 宇宙の深奥へと誘われる生命なのだから まだ魚だったころの海の深さを知っている だから空の蒼さに心惹かれるのかもしれない 僕たちは重力から解放されようとして さらに重力を加速させる 断熱材だった鱗は陸にあがり いつしか空飛ぶ羽毛に変わる 可視光線の世界を紫から赤まで散歩したら ちょっとずつその絵の具をつかって なにかを描いてみようか たぶんちっとも生産的では ないかもしれない自分の言葉で こけつまろびつ軌跡をえがく 進化から外れた系統樹の果てに 夜の帳をおしあけて海の風を感じる 貝殻になってスローバラードを口ずさむ そんな彗星たちのうたが聴こえるきがする夜だ ---------------------------- [自由詩]湖面/梅昆布茶[2014年9月15日2時35分] 存在という湖面に感情の漣がたつ 嫉妬や猜疑や後悔 期待と不安の入り交じった舟を浮かべて生きて行く 執着というホームに立ち 何処かへとむかう列車を待つ 想いを伝えきれない哀しみ 限りなく沈んで行く小石のように感じたならば 石であることをやめてみる 過去と未来の交点で信号を待つ 青に変わった筈なのにすすめない街角で だれかのクラクション ニールヤングのhelplessをくちずさむ 解答のない路線バスに乗る 半島を海岸線沿いに走るボンネットバス 沖をピースマークを掲げた船がとおりすぎてゆく 解凍された記憶をたどる 研ぎすまされた刃あるいは温もり 存在という仮面を脱ぎ捨てて 感覚という細胞になる キュートな彼女とむかし家庭をもった 子供達も散りじりに去って行った彼女も いまはひとり存在と隣り合わせな 9時55分発のボンネットバスを待つ ---------------------------- [自由詩]温度/梅昆布茶[2014年9月19日22時12分] 海水の温度を測る 文明から放出された熱は 深海にどんどん蓄熱されている 淡水の成分を分析する 組成を組み替えるために それでも地球は周り続ける 体内時計で逢う時間を過ごす 時計はいつか壊れてしまうから 感覚で存在を確認する 脳は誤作動もあるが 自然界の創った精密器官 AKBや乃木坂で誰がセンターをとろうと 推しメンがだれであろうとも 社会性やいろいろな決めごと そんなものを獲得しながらいきてゆく いつまでも保護された幼児ではいられない その命題が追いかけてくる 単純な原理のもとに世界は動いている 生活はごちゃごちゃで収拾がつかない アメリが食べたクリームグリュレを食べたい 味覚は成長するものらしい 幼児は味覚が発達しない段階で様々な味覚を拒否する そういえば理由もなく嫌われた嫌った でも結局そういった面倒くさいことが生きること 愛着があるので生きているそういったことかもしれない いいんだ過去は過去 どっかに蹴飛ばしてそれでも ちょっと好きだった人だけ残して いま誰を愛していられるかが とても大切なんだと そういったことなんだ ---------------------------- [自由詩]夕暮れ2/梅昆布茶[2014年9月21日15時02分] 埃っぽい一日が暮れかける ゆくあてもない想いが影といっしょに夕闇に溶けて行く ちっぽけな哀しみを手のひらで転がして ため息にも似たつぶやきを繰り返す 幼い頃母に背を押されるようにして嫌々学校へ行ったこと ねじを巻かれたブリキの兵隊のように感じていた 布団のうえ温もりを残したままのパジャマのなかに まだ居る自分を想像する 夕暮れは様々な想いをつれてやってくる 日によって一日の長さが違う事や誰とも友達になれなかったこと 秋刀魚のわたの苦さのようにそういった味わいも 必要なものと今だからおもえるのかもしれない 濃縮された一日がくるりと翻って 新たな白い皿が用意される 上底+下底×高さ÷きみ=不可思議な森の妖女サイレン 表情のない皿の上に感情を並べる タグのないファイルのように のっぺらぼうの頁が埋もれ火「新たなるパート」の魁 ミステリーツアーを待つ ゆっくりと坂をくだる これいじょう滑らないようにと祈るように ---------------------------- [自由詩]ある白地図/梅昆布茶[2014年9月27日15時07分] ときどきは野道をはずれたわわに実った 葡萄のみずみずしさのなかをあるく 清流はただひとすじに丘をくだり やがてはしずかな湾へとたどりつく 空から舞い降りて来る静謐をひろいあつめ ジグソーパズルのようにつなぎあわせて 見知らぬ土地の白地図を紡いでゆく さまざまなまちかどを彷徨い 地平にちかく燃え盛る遥かな光年の星に憧れる いつか煙りとなって空にのぼってゆく そんな見えない場所の白地図を そっと手に入れたいとおもっているのだ ---------------------------- [自由詩]朝マック/梅昆布茶[2014年9月28日16時56分] 夜を走るそれが僕の仕事 蝙蝠のように明るいうちは 逆さにぶらさがって微睡み冷たい夜を待つ 銀色のフルートを隠し持って それがいちばん素敵に響く時刻をじっと待つ 心奪う旋律は忘れかけた陰翳を 夜の街路に投影する 口さがない彼女の喉笛をを 一時的にでも封印するために マックにはいる いたって安易なな手段だが まったく時間差の生活なんてざらにあるし いつも曖昧なんだからとりあえずいいんだ 日々は韻を踏む 安手でも僕の持ちものはこれだけなんだろう もともと何も所有はしてはいないのだから 人は一生仕事をする 赤ちゃんの笑顔は立派な仕事だ 稼ぎなんて二次的なもの いいんだ相互に与え合う事 規範はどうせついてくる ものごとにはたぶん 裏返しの影もついてくるもの 影とともに歩くこれからも 今まで通りではない 瞬間瞬間をかんがえながら 本当の顔 あるいはどうでもいいかもの仮面を つかいわける でも本当を知らないまま ---------------------------- [自由詩]25年目のおっぱい/梅昆布茶[2014年10月1日13時10分] 生きづらいな なんて時々生意気にもおもう ただそれは誰かが対処できていることに 自分なりの対処法をもたないだけだろう 経験値はできれば幅広く多く積みたいものだ 子供達以上にドラクエにはまっていた親としては それは攻略本のでていない あるいはパチモノが巷間にあふれすぎている状況で 正確なGPSを得るために 武器や防護服や 魔法のアイテムの狭間を 地下ダンジョンのように彷徨う事 出自はたぶんサブカルであろうが 「サスケ」を横目でみながら 「火の鳥」の宇宙観に憧れ 「青春残酷物語」に撃たれた 中川五郎の発禁になった 「僕と君のラブジュース」 五郎さんには 「25年目のおっぱい」 なんて曲もあるらしい 赤ん坊として生まれる基盤はえらべない でも死ぬかたちは創れる そんなための一生かもしれないと ただ生命を慈しみ 過大にも過小にも評価を外した 自分でありたいとおもう ---------------------------- [自由詩]今日というちっちゃな宇宙へ/梅昆布茶[2014年10月3日0時22分] 表現し伝達する手や足と震える唇 バンドマン歌ってよこの夜の深さと哀しみを いくつの星がうまれて流れていったのだろう 音韻学的なぼくらの言葉の航続距離は? アクセサリーみたいに飾り付けた要らないものを どこかで捨てなければならない 永くも短くもない一瞬の生というきらめきを ちょっこっとずつ切り取った日常 ぼくたちのちっぽけな脳にいっとき集約された 自分で感覚した宇宙を綜合し分析したって 何かには永遠に追いつかないのだろう そうすぐとなりに居る君にさえ追いつけやしない 酸っぱいトマト ちょっと萎びたレタスを載せスライスきゅうりと ハムとチーズをのせてオープンサンドで噛み締める そんな毎日を生きてゆこうとおもう ---------------------------- [自由詩]26000日/梅昆布茶[2014年10月3日12時39分] 蝉は生き続ける 孵化を忘れた年月を ルサンチマンさえ風化して去った いくつもの夏を トニオクレーゲルの日々を 隣のねえさんの優しげなまなざしを 不思議の森に生まれ 永らえた歳月をいとおしむ レゲエとサルサが交錯して 死刑台のエレベーターを 捕まらない永遠のしっぽを想う そして自分という誤解を紐解く 26000分の一日に ---------------------------- [自由詩]ラジカル・ミステリー・ツアー/梅昆布茶[2014年10月8日14時27分] リベラルな共産党員 天気のよい氷雨 帰りを待っている女房 USO800取得の国家 コマネチをやらないビートたけし 歌をわすれないカナリヤ ツタンカーメンの祝福 酔いどれてるうちに いいかげんな宇宙を創ってしまった 素敵な神様 品行方正な浜田幸一 宅配の若者と 恋におちたジュリエット グレープジュースをトマトジュースで割るひと 尻の青い猿 山口百恵が引退せず『蒼くない時」 なんちゅう 自伝的ベストセラーをものす ゴーストライターではなくて 松田聖子が結婚後 引退しひっそりと家庭に入る 首都高の出口が ユニバーサル・スタジオ・ジャパン アンタレス 日光猿軍団リバイバルランド なんて書き換えられている そんなツアーがしてみたいと ときどきおもうのだ ---------------------------- [自由詩]包装紙/梅昆布茶[2014年10月11日6時00分] なにが入っていたのやら わからないのだけれど 綺麗な包装紙や箱 おふくろが いただきものの 高島屋なんかの包装紙なんぞを ていねいに折ってあるものが 押し入れの隅からときどき 出てくる 彼女でもない女友達からの 電話はくるが もと妻やぼくとおなじく おやじになっただろう息子達からは 風の便りもなくて やむなく自分の居場所を確定する 誰かのソネットが 風景をそっとゆさぶる 高島屋の包装紙が ふわっと揺れる 母がほほえむ しょーもない息子のために 写真フレームのなかで ---------------------------- [自由詩]蛍/梅昆布茶[2014年10月16日17時30分] 淡彩の日常 点描の細かな作業で生きて行く 萌黄色から浅葱色に いのちを明滅させる蛍 人や物 言葉にぶつかりながら生きる 自分とも いつでも陰影を想うのです 単純で複雑そうに見えて でもたしかなものに ささえられていきている ちっぽけな一日は グラデュエーション すべての色は見えなくとも 自分のいろをもとめて 舗道を歩くのです 誰も手を繋いでくれませんが いつか化石になったら ほのかに発光する ちっちゃな蛍が 飛ぶのかもしれません ---------------------------- [自由詩]小景/梅昆布茶[2014年10月18日14時51分] 絶滅危惧種のような気分のときは おもわず星を探している 頭の中が明瞭に区分けされないまま 時計の針は行ったり来たり 姿の見えない人々は あちこちでちいさな吐息をもらす 拡散するままに かぎりなく稀薄になってゆき いつしか大気や風になってしまおう がらんとした駅のホーム 電車も人もいない風景を 抱えてあるく ---------------------------- [俳句]Zippo/梅昆布茶[2014年10月18日21時27分] 燃え上がり産毛をこがすオイルのにおい風のZippo 物質の夜を満たすネオンサインの転がる路上で ルーティーンなぞった指がタールにそまる いつも通りのカーゴパンツでひそかに運ぶ日々の転覆 新都心たんぼのなかの摩天楼四十一階蛙の合唱 あなたの抒情ひとつくださいちょっとごめんと味わいます ---------------------------- [自由詩]ある四季/梅昆布茶[2014年10月20日12時32分] 地軸のかたむきが季節をもたらすように こころのかたむきは炎のまわりを公転し くるくると自転し陰翳を刻みつづける 同乗したドライバー仲間と 仕事は5月と10月がいちばんいいね あとは暑いとか寒いとか 一年中ぼやいているなんて話す すべての生き物が違った時間をいきているのなら あなたと私の時間は微妙にずれてゆく だからそれぞれの四季をいきる 違った季節が交錯して蜜柑の実がたわわな つかのまの風のなか空の高みを夢みる それぞれの 地軸のかたむきでいきてゆく いつかそれは法則や光速までも超えてしまう そんな巡りもあっていいとも想うのだ ---------------------------- [自由詩]脱獄囚/梅昆布茶[2014年10月25日8時44分] 瞳の奥の天使 闇を手繰り寄せて紐解く 脱獄囚の烙印 死刑囚の歴史観 寄せ集めの笑顔で凌ぐ 論理のない戦い 爪を折られた指で 崖を登る 登攀者の緩み 大地という母の目論み ひとつ胸を抉られたが それでも戦う 知覚 生きるセンサー もう残されたものは ないのかもしれないが それでも言おう 生きることって 結構面白いんだって ---------------------------- [自由詩]変奏曲/梅昆布茶[2014年10月29日11時30分] 晩秋の貌 こがらしを予感させる 襟巻やコートが 街にちらほら また白い息の季節がくる 暖めあうにはいいが ひとりはつらいものだ 痩せこけた猫のよう 昔看取った 皮膚病もちの野良猫 自分なりの 孤島のかけらをあつめる 体制にもならない ちいさなカテゴリーを 積み上げて行く なにかを 喚起するように 秋から冬へ 変化してゆく こころに したがおうとおもう ---------------------------- [自由詩]ストリート/梅昆布茶[2014年10月30日1時47分] 夜の旧山手通り どこかの大使館の前 キャリーパミュパミュみたいな 自転車少女やハットできどった ボーイズがとおりすぎる 夜の明治通り 花園神社からさきは闇だ 人種と性のごった煮を見たいなら 踏み込めばいい ただし僕と友人のように ぼったくられないように 夜の目黒通り 目黒税務署交差点前の コリアン&イタリアン居酒屋 昭和そのままのガラス戸のむこう側 仄暗い電球のしたで 女将が売り上げ計算をしている デリバリーもするようで キャノピータイプの三輪バイク たとえばイスタンブールのガラタ橋 名物であるサバサンド 僕はかつて友人であった ムスタファやセダトから聴いた話で想像する 彼らはイスラム教徒であり かつイランやアフガニスタン クルド人との紛争の多い ガジアンテップという東部山岳都市の市民 素通りする毎日 通りや土地 国土や風土はなにをもたらすのか 家の前の団地の外周道路 普遍というよりも 単調なものを基調に生きている それでも考えることはあるのかもしれない ひとは墓標をいつか忘れる それでいいのだともおもう 永遠なんてたぶん 人間がかってにでっちあげたもの でもちいさな灯をのぞみ まもりつづける 僕はいつでもそれに 加担する側にありたいとおもうのだ ---------------------------- [自由詩]とんぼ/梅昆布茶[2014年10月30日12時30分] とんぼは空を飛ぶ 一生懸命羽根をふるわせ からっぽなからだを浮遊させる 最低限のそらを飛ぶ機能しかもたない あとは生殖機能と風にのる技術 歌舞管弦がなくとも やつらは限りなく美しい まねはできないがからっぽに生きよう 空を飛ぶまではいかないかもしれないが すくなくとも 重荷を捨てきって ふんわり軽く浮かんだままでいたいから ---------------------------- [自由詩]素描/梅昆布茶[2014年11月5日13時29分] すべての望みをかなえることができないように すべてのいのちをいきることができないように ぼくたちはあるフレームできりとられた風景を生きる ことばでそれらをデッサンする どうやったら頭のなかの陰翳を 鉛筆画のように定着させようか あるいはそれに淡彩で色づけしてみようかと 生きるためのツールとして からだをことばをスキルを獲得してゆく 人との距離をはかるすべをおぼえ 蓑虫のようにはなりたくないとおもいつつ ついつい殻をまとって生きる 国のかたちがみえないように 国境にはあきらかな線が引かれている訳もなくただ ひなげしがいちめんに咲きほころんでいる おなじ風のなかでおなじ大地にはぐくまれて 自然のあるいは社会の秩序にしたがうように群れる それにあがらうも 流されるもそれぞれの流れ 人もひなげしも場所はことなるが ただ生きていることや ただ咲いていることって けっこう素敵で美しいともおもう デッサンでいいんだ おおきな号数の大作なんていらない きみの日々の手の温もりを 確かめたい アメリカの中間選挙の結果よりも きみのデッサンのほうが よっぽど重要な気がするんだ ぼくのフレームのなかにかかせないもの 基盤に到達するデッサンを ときどきは 届けて欲しいとおもうのだ ---------------------------- [自由詩]詩人/梅昆布茶[2014年11月13日10時52分] 名前のないものにかこまれて生きている 見たもの感じたこと 言い表せないもどかしさ 伝えようとするものには 名前がないし きみの良いところも うまく表現できない馬鹿者だが そういった隙間を きみのことばが するりと埋めてくれる楽しみもある ことばの力を たぶん信じている たんなる道具であったなら それほどにこころを揺さ振るまいとも いいんだ風変わりでも孤独でも あるいは平凡にもおもえる日常の点描でも 名前のないものにかこまれて生きている それに命名するいのちのはたらきを 詩人とよびたいと想う 僭越ながら そう決めたのですから ---------------------------- [自由詩]リゾット/梅昆布茶[2014年11月20日11時43分] 街が饒舌な無意味で錯乱しているように 天使たちの尻尾がつかまらないままに浮遊している あり得ないものを対比することに慣れてしまわないように 日々を煮詰めて抽出する 自分の組み立ての順序を考え始める どうやらプラスチックモデルでもなさそうだが 不器用な部品の集積だとも想う この世に仮寓するいのちの一つに列なる 繋がっているのならば返せない分せめて感謝ぐらいはしようか 今日の朝はどこにつながるのか考えてみる 単純に明日でもなさそうだが 特別なところへつながるパイプがぼくのなかに張り巡らされている 撓み捻れながらどこかへ何かを供給しているのだろう 時系列にしたがわない配列で感じるもの 自分ではわからない不細工なアーキテクチャーのままで もうちょっと生きてみようか 所かまわずうろついても良いのだが 広辞苑の重みには収まりきらないあたり はみだした出窓から そこから朝の風景を見てみたいとたたずむ 空気がそよぐ きみの瞳がゆるんで ちょっと格別な意味を 放出したり そんな隙間を生きる どうやら無理やり決着つけるほどにも 運命と仲良くはないのだから 歩幅をさぐる 最後のうたを歌うためにも 出汁がほどほど出ているなら リゾットなんていかがともおもうのだが ---------------------------- (ファイルの終わり)