梅昆布茶 2014年3月31日19時10分から2014年8月17日19時59分まで ---------------------------- [自由詩]憧憬。春/梅昆布茶[2014年3月31日19時10分] かなしみをください あなたの傷口のように深い夜に ことばをください 書き忘れた遺書のように 端正に綴ってみたいのです 桜が眼に沁みてなぜかせつなく なにかを教えてくれるのですから 春だけはつまらない感傷を ゆるしてくれる気がするのです 残された情熱はどこにあるのだろうと 隅々までさぐれば かすかに貝殻のような音がして 風が嗤って去りましたが いつか花盗人となって誰彼となく 哀しみをぬすんで参りましょう いまとこれからの一番だいじなものを 決めたいとおもっているのです そしてそれに従おうと 考えているだけなのです あなたの哀しみのなかに それがあろうかと おもってもみるのです もしそれが解ったならば ぼくの哀しみの 性質がわかろうとも思うのです ---------------------------- [自由詩]三毛猫のうた/梅昆布茶[2014年4月4日0時20分] いまは幾度めの春なのだろう 遠い昔のような つい昨日のような 子供たちもそれぞれに この世界のどこかへ 紛れていった いまも日々の食をもとめて 彷徨う身にも春はやさしい なにかに糾弾され続けた日々をも 無数の花と咲かせてくれる そんな良い季節だ 綻びを孕んだままに 新芽から蕾へそして 季節の風に散り去るものたち 繰り返される巡りに 意味をもとめても 詮無いことだろう 舞う花びらを数えてみても またはじめの一枚にもどってゆく でも二度とは おなじ一枚がないのだろう 永遠という言葉に 呪縛されぬように 今という花びらを 見つめるように いきてみよう 朝の目覚めを感じるように 毛繕いがすんだならば また歩き出してみようか 足の裏に 柔らかな春を 踏みしめてみようか ---------------------------- [自由詩]夕暮れ/梅昆布茶[2014年4月4日16時51分] 誰もが夕暮れには傾いて見える 家へ酒場へあるいは虚空へと 夕暮れに姿勢がいいのは 電信柱と案山子だけなのかもしれない 僕はきみに傾いてゆきたい いつかきみの傾きとぶつかるまで 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ちょっと広げてみようかと 揚げ物のコツをきいてみたわけなのだ。 いろいろ話したあとで甥っ子の鬱病の話。 帰国子女の彼は僕の高校の後輩でもある。 某なんとか総研の中間管理職らしい彼。 生まれてしばらくは母が面倒を見ていたこともあった。 ボクもよく近くの公園や動物園などに連れて行ったものだ。 トンネルのなかにいる彼。 どの場所に居ようとも 人間は何かを抱えながら生きなければならない。 ---------------------------- [自由詩]トヨタ生産方式的生活/梅昆布茶[2014年5月2日16時25分] 生産工場などで適用されてきた トヨタ生産方式を 日々の生活に適用したらどうなるのか ジャストインタイムで 買いだめなどはなるべくせず 必要なものを現在の必要に応じて調達する 無在庫主義だ 必要物資は一定の在庫量を 切ったところで 一定量を補充する 数理的な計算は僕とは無縁だが カンバン方式でも導入してみたらどうか … 濃度と粘度が必要だったんだ 放っておけばサラサラになっちまう 感情と理性の温度差でかろうじて生きている 真実はいつも揺れ動いてみえるものだ ... 日々はあんがい 単純な係数で 展開しているような気もするのだ エンゲル係数や エンジェル係数 引いたり足したりのほかに 何が必要なんだろう ラインや在庫を調整するまえに それが必用なんだ けっこう単純な係数だったりもする そして貴方と私の 平方根は あの日の行き違いだったりもするのだろう ---------------------------- [自由詩]猫でした/梅昆布茶[2014年5月9日3時39分] 猫でした まちがいなくねこだったと思うのですが 定かではありません 幸せだったかもしれませんし そうじゃあなかったかもしれません 宿無しだったのはたしかです いまでもたいして変わりはしませんが 濡れそぼる夜はなくなったようです また猫に戻りたいかときかれれば まああれはあれで良かったかなと思うだけです よく遠くのそらをながめていました 腹も減るものですが別の何かもさがしていたものです からっぽの街で風の行方を追いかけては 光のあふれる季節をみつけようと彷徨いました そう猫でした いまでもその記憶が残っているのです ---------------------------- [自由詩]光と雲と/梅昆布茶[2014年5月18日0時33分] 朝のひかりのなかで想う どこか彼方の星でも こんなふうに生命が 朝をむかえているのだろうか 夜の闇のなかにさえも光は在るものだ 宇宙の漆黒のなかにだって朝はあるのだろう 生命が遍満するものなら いまあることが仮の宿りなら それはそれでよいのだともおもう もし朝をつくるならば どんな光や雲で彩るだろうか 星の光で満たされた夜を 朝の光が引き継ぐように それを言葉少なにでも 誰かに伝えられたらそれで良いのだ あなたの紡ぐ朝が あなたの一日をただしく整えるように その想いが朝をそして一日を 季節を年月をかたちづくる種なのだから ---------------------------- [自由詩]億年の/梅昆布茶[2014年5月25日11時13分] 億年の 静かな回廊に光が満ちる 瞬間を孕んだ風が吹き渡る緑野 なにか山巓を降りてくるものを待つ 待つあいだにも自分の意志とか わからないものに軽く触っている 風化した海図では どこの大陸にもたどりつけない あるいはは大陸そのものが崩れさっていたり 誰も住んでいなかったりもする 未来や過去を縦横にむすぶ チューブウエイがあれば いいと想った もちろんどこでもドアでもいいんだ 恣意的なきみに逢いたいとおもっただけなんだ 午後の自然光に充ちたアトリエの 散らかった絵の具や絵筆 床を汚す様々な色の飛沫のように けっこう生きることは抽象的だったりもする ふと等身大という嫌いな言葉にひっかかって ミスチルが使っていたなともおもう 宇宙は130億光年の ハッッブル宇宙望遠鏡の果てにあって 僕は等身大の現在を生きている それでいいのだとおもうのだ ---------------------------- [自由詩]ただしい醗酵のてびき/梅昆布茶[2014年6月6日19時14分] 醗酵することは発行されたものをもたないこと あるいは発光する冷たい微熱をかかえた昆虫の夜を生きること あるいは薄幸な女の身の上話にあいづちをうつ場末の安酒場の空気 欲望は醗酵し発熱し自分の足を見失って歌い始める 希望は里程を忘れて感情の流れに身を任せたりもする ただしさなんて誰も持っていないもちものだ 俺にはいちばんふさわしくないアクセサリー でもトイレットペーパーよりは役に立つただしさというやつを ぼくは欲しいと思っているわけだ 醗酵することはきちんと整理できるようになること いいんだ風に曝されてあばら骨さえ見えたって 発光しなくても生きてはゆける 無理に醗酵するひつようもないし あなたはたぶんそのままでいいと思うんだ あなたはたぶん俺 俺は粉々の骨片で それでもあなたの道徳を教わろうとする ぼくたちのからだのなかの微生物 名前の無い無限数のただしさがかってに発光しはじめる 無限数の微細なエゴが醗酵した霧のように好きと嫌いが いつのまにか善悪にすり替わっていたりして わたしたちがなにものであるかを証明する 生のパスワードを発効させるのかもしれない ---------------------------- [自由詩]文法1/梅昆布茶[2014年6月14日5時31分] 僕の文法のSは君と僕 Vは生きることだ 訳もわからずOをもとめてさまよう たまさか生まれる言葉でCを綴る 規則正しいものに反感を持ち 疑うことの正当性をつかもうとして いつのまにか自分の尻尾を追いかけている となりの飼い犬のちろ君ののように たまには星でもみあげてみようか ちょっと太陽がまぶしかったから 人生の意味を失っている わけでもないんだ ブラジル人でアフリカの血が四分の一入っている クオーターのビエイラと秋葉にデジカメを買いに行く 娘の写真を自慢げに見せる 日本の彼女もいる ガンジーに似たアフリカ系ブラジリアン 奴らと僕の文法はおなじだと思っていた それぞれ違う精子と卵子で育まれた 異父母の奴らと同じ文法 差異を見つけることはたぶん容易い 天使が存在するとしたら そんなもの気にしないだろうし そんなもの いたっていなくたって関係のないこと 僕たちは何の使徒でもない 自分たちの文法で生きる ときどき星を見上げている 隣のちろの仲間なんだろうとおもうのだ ---------------------------- [自由詩]CAFE de 短歌みたいな/梅昆布茶[2014年6月14日11時17分] 誰もシラナイ理由が無い わずかな隙間を生きているような気がするんだけど 近代現代近未来 産業ロボットはやがてラインを離れて どこへ行くの 母を殺し父も殺して最果ての 流刑の地さえも持てなくていま 生を選択する 花を摘んできみに渡した日に 世界はちょっと傾いていたとおもうんだ たぶん有限や無限は数理ではなくてさ きみと飲んだ割引券の生ビールだったったんだからね ---------------------------- [自由詩]ただしい孤独について/梅昆布茶[2014年6月19日14時53分] ただしい孤独は 凛として涼やかな音色であった 愛しい憂鬱は 窓辺に花をさして髪を梳かす 美しい季節は 褒めそやされて散る花びら達で そこそこ保たれるものだ どうしようもない時間は 誰かとキスをして費やすがいい なにかを考えるよりは 直截的で感覚を説得するものに 従う方が楽しい 誰も善悪を知らず それを問わない世界で遊ぶ 苦しみを引き連れて いつか自分の言葉に立ち返る 曖昧で不完全で それでも綴ってみようかとおもう さいきん所有しないことが いちばん自由なんだなって 維持することや 持続することに ちょっと疲れているのかもしれない 借り物ならそれらしく つつましく生きている人と 話したい ふとそうおもった ---------------------------- [自由詩]しんしんと夜/梅昆布茶[2014年6月30日15時19分] しんしんと夜の降り積もる 時計の針をすすめているものは いったいなんなのだろうか 森深く一角獣のみる夢が 遠く聴こえる気がする こんな夜にふさわしい響き 一角獣が問う あなたの角はどこに いや僕たちはそれを持たない種族 夢を感知するアンテナの無いワンセグチューナー 明日の預言にこころを奪われて 今日の自分さえも知らないんだもの 浮気な未来は 乾いた手のひらから さらさらとこぼれおちてゆく 絶望という 大切な荷物も担えない僕らは いつか失速してしまうのだろうか 昨日を失っても 今という場所は 必ずいつもあるものだ 明日が永遠に不可視な 曇りガラスの向こうならば 今を研ぎすませばいいさ それだけのこと あいかわらず俺たちは 渇いた道を迷うヒッチハイカー とまる車なんて皆無だぜ 一角獣の夢のなかで あいも変わらぬ戸惑いを隠せもせず 今というものを きちんと踏みしめず ふわふわいってしまおうか この世界の一部であるという 認識もなくまた一角獣の 夢のほとりを彷徨う この夜のように ---------------------------- [自由詩]風景/梅昆布茶[2014年7月3日22時07分] 生きるたたずまい 気配だけではない 所作もふくめたその人の 生活感の座り具合とでもよぼうか こころにはかたちがない 言い換えれば生きるエネルギーが そのまま立ち居振る舞いとなって 表にみえてくるものだ それは気付かないままに それぞれが発している 生の信号なのかもしれない 見える見えないにかかわらず 変化しないものはない もちろんひとのこころも例外ではない こころをつなぎとめることはできない かたちが無いものに鎖はつけられないのだ 光の当たり具合によって 風景の輪郭が変化してみえるように みえないところでひとは 刻々と変化してゆくものだろう でもその奥にあるたたずまいを 僕はそのひととして感じていきたいのだ そしてそれがとらえにくいこころの うつろう陰影を映すそのひとの風景で あろうかともおもうのだ ---------------------------- [自由詩]ぼんやり/梅昆布茶[2014年7月6日5時06分] ぼんやりするひとときがすきだ ふだんそれほど張りつめているわけでもないのだが 焦点のないゆるさがもともとすきなのだろう いわゆる生産的ではないだろうそんな時間 とくに創造的である必用もないとおもう 自分にとって意味を感じられないものはいずれ離れて行く いつでも情報や映像が手に入る時代 いま自分が在るこの瞬間がやはりすきなのだ あてのない旅がすきだ ただ生きるためだけの装備を積んでバイクで走る いまの生活の現実では無理だが 僕にはそのへんの息抜きが気持ちよいのだ 政治力学的な自由ではなくなるべくナショナリズムから遠いところで 現在を感覚するじぶんを確認する 一生この作業をつづけてゆくのかはわからないが いまは言葉を綴ることやドライバーとしての自分と旅する毎日 言葉は合成も縫合もある意味できるもの でもそれを表現として選ぶ事あるいは そういった表現に耳を傾けることがやはりすきだ 膨大な歴史をたとえばスパコンに入力できたとしても あなたや僕の求める答えはでてこないだろう さらさらと流れる清流に棹さす存在という違和を あるいは歴史とよばれる濁流のなかで分岐のひとつの枝の ポツリとした点の自分 そういったことを誰にいうでもなく 綴れる自分でありたいのかもしれない ちょっと過剰でもいいのです 自分の範囲でちょっとバランスを崩して それでも自分にもどってくるしかないのですから 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出来は良くないものの軽快に飛びそうに思えました 不器用ではありますが羽ばたいたのです ただ天をさしてではなく いまは誰かが踏んづけたのかもしれませんが 壊れています 修復するのも面倒なので いっそ捨ててしまおうかともおもいましたが あれがいい! と言ったときの次男の眼の輝きを憶えているのです いずれにしてもそいつはどこに居ようと いまは飛べそうにないのです 古くなったゴムを取り替えて気持ちを新たにするのです 羽ばたくのは休み休みでいいのです 僕は鳥語がわかるわけではありませんが 諄々と諭して空に放ちました あとは想像してください きっとあなたのもとに あなたの小鳥がかえって来るのですから ---------------------------- [自由詩]手/梅昆布茶[2014年7月20日3時50分] きみの手を想う 華奢でちょっと小さめだった 骨折して松山の病院へいっしょに行ったときも きみの身体の一部が壊れたことに かなしみを覚えていた きみの替わりに朝 新聞配達をやった それは些細な苦労だった ほんのつかのまのちいさな労力だ それなのにしんどいと思い始めた自分 何年経ても ときに会社の設計室でトレースをし なにくれとなく子供達の世話をしたり きみの手はよくはたらいたとおもう 僕の手は無骨だ 神経がかよっていないかと思われるほど 丈夫だけれども うまくこころを伝えられない厄介者だ もういちど手を繋げるとは思っていないが 子供の結婚式にでもであえたら そんな僕の手にもこころが通い始めたかもしれないと きみに伝えたいと思っている ---------------------------- [自由詩]第三泳者/梅昆布茶[2014年7月27日6時03分] けつまずいて転ぶ ああいつもの夕暮れなのにね 見えないものに語る言葉 忘れてしまった暑い日です 行き着く先のわからない 遠泳に参加する僕は第三泳者です 通り雨地球をまわしてとおりゆく 通行止めのなきこと願う 缶ビールちりちりと冷やして またぐるぐると同じ場所に安堵する あのときのあの言葉 撤回できないかなしみがそらを飛ぶ 瞬間を言い表せないまま遅れてゆく この感覚になれてしまった ラジオ体操やろうよからだにいいぜって 言ったのにねえラジオこわれてる 行列はいく筋かにわかれている どの行列がいいのかって君に聞いた日 影を踏み蜃気楼のさきにある 夏をたずねるまた沙漠の星をさがす ---------------------------- [自由詩]おでん屋/梅昆布茶[2014年7月31日16時26分] 僕らは社会の文体を学んで成長してきた はたまた親の文体に反撥しながらも生きるために それを受け入れて 今度は自分自身のフォーマットに縛られながら それとの葛藤にちょっと疲れているのかもしれない 生きにくさはその局面よりも 対処する方法を知らない自分に原因が あるのかともおもう 群れとしてしか生きられないのなら それを受け入れて成熟してゆくしかないのだと 親と子 社会とじぶん かれとかのじょ 戦争と平和 なんていうことはないんだ 新橋あたりの立ち飲みやとか おでんの屋台で解消できればいいんだけどね ---------------------------- [自由詩]金と銀のスニーカー/梅昆布茶[2014年8月3日10時20分] 季節をいいあらわそうと思っているうちに それは過ぎてしまう 足跡と想いはいつのまにか 季節をすり替えて行く 君と金と銀の スニーカーを交換して なんか安っぽいねって笑った 僕の足は頑丈な靴を好んで 君の足はたぶん 羽根のように飛びたかったのだろうね いいんだ季節も物事も変わる 自由に飛ぶがいい ただ君も僕も 自由はかなり重い鎖で繋がれているってことは 忘れないでいよう それが僕が君に最後に贈る言葉だ ---------------------------- [短歌]川越にて/梅昆布茶[2014年8月6日17時03分] すぐ寝る生き物は僕だが なかなか寝かせない生き物は君だ 指での数え方って国によって違うんだ だから彼女の本当の歳を教えてよ 気ずくことばかりでは疲れてしまうので きずかないことを想うように努力する マッチ擦ってひとつ想う 空気を失い原生林を失いアンデルセンの少女を失う 夢 現実ではないのだから それを糧にはしないだろう スタンダードナンバーばかりのディスコに行ったの そんなの今あるの ねえ川越? ---------------------------- [自由詩]アウトをとれない夏/梅昆布茶[2014年8月7日16時30分] 真夏のまんなか 乾いた道のさきに 誰かが描いた蜃気楼 午後9時の Summer in the city 大気圏の対流に耳を澄ます アウトをとれない甲子園 酸素が足りない金魚鉢 ぶっかき氷でしのぐ夏です ---------------------------- [自由詩]CAUTION !/梅昆布茶[2014年8月10日2時00分] 大雨洪水注意報 彼女に涙を流させてはいけない そのあとですごく経費がかかるから 落雷警報 電気ショックで何かが復旧するとは想わない方がいい 普通のひとは死ぬ 落石注意 気がついたときはたぶん遅過ぎるが注意しよう 隕石注意 めったにないと想うがありうる 熊出没注意 熊はめったに出ないが怖い人はいっぱいいるらしい 段差あり注意 あれっ。。。 俺の人生のことかな? ---------------------------- [自由詩]日時計/梅昆布茶[2014年8月16日15時21分] 生活という書式をたちあげる ブラインドの隙間から 僕の一日がやってきたならば 年月という埃をまとわせ 洗濯機からまっさらな振りをしてでてくる 洗いざらしの理想 ベンジャミンフランクリンの凧 E=mc2 コペルニクスの朝餉 瞬間をつかまえきれないで 前走車も後続車もない 乾いた航続距離を測る ハッブル宇宙望遠鏡は 24時間営業で次元のむこうを覗こうとして いつまでも永遠にとどかない そんな夏の日 壊れた時計をいじっている ひまわりといっしょに日時計になる ---------------------------- [自由詩]神話/梅昆布茶[2014年8月17日19時59分] 顔のない世界を ゆっくりあるいてゆく君を ぼくは呼び止めて お茶に誘ったんだ 言葉が伝わらないままに恋をし 手をにぎらないままに ベッドに誘ったんだ きみは買い物袋をさげて ときどきぼくのまえを横切る 袋のなかから はじめての神話がころげおちる ぼくたちの生活は あまりストイックではなかった それでもしらじらしさをもてあまして ときどきSEXをしたんだ ほんとうは創世記は白紙なんだ 誰もなにも描いていやしない だからぼくは きみのための神話を描く 顔のない ぼくときみだけのために ---------------------------- (ファイルの終わり)