梅昆布茶 2013年11月8日20時05分から2014年3月20日16時35分まで ---------------------------- [自由詩]靴のはなし/梅昆布茶[2013年11月8日20時05分] 最初は無骨で地味で 冴えない靴だと思った わずかに白い糸の縫製が丁寧であること 靴紐の穴が登山靴風に六角の鋲が打ってあってしっかりした外観なのと 黒地に白いソールのアクセントのバランスがよいことが救いで 履き心地はフィット感に乏しくただ意外と軽かったのを覚えている 大手スーパーにテナントで入っていた靴専門店の閉店せールの売れ残りで 誰の目にもとまらずただ僕がメーカーと値段でたまたま手に入れたものだ 時にモノは買い手を良くも悪くも裏切るものだが この靴の場合はさいわいにして良いほうだったらしい ホームセンターで売っている手頃な安全靴よりもよっぽど作業には向いている やたら丈夫で多少のダメージならかなり回避してくれたし かなり荒い使い方でもほとんどキズもつかないし なによりよっぽどの雨でもない限り足が濡れることはなかった もう何年履いているのか忘れているぐらいに足になじんでいる気がする さすがに部分的にへたってはいるのだが主人に合わせているのかもうしばらくは持ちそうだ たまに同じメーカーの靴を見かけるし公式ホームページを覗いてもみるのだが なかなか同等品はみつからないままでいる まあ靴ひとつどうでもいいと言えばそのとおりなのだが また予想を裏切る靴を履いてみたいともいまだに思っているのだ ---------------------------- [自由詩]その後のロミオとジュリエット/梅昆布茶[2013年11月9日20時30分] ジュリエットは泣いていた あんなに固くかわしたはずの契りはなんだったのだろう 風と男は信用できないと泣いていたのだが すぐに泣きやんだ だって泣くのもけっこうつかれるんだもの そして地中海の太陽をたっぷりと浴びたオレンジを 三個ほどたいらげるとこんどの舞踏会にはちょっと 太すぎるウエストに想いをいたしていた ---------------------------- [自由詩]distance/梅昆布茶[2013年11月11日20時20分] 遠い星までの距離を なにをもって測ろうか 言葉でそれとも 夜の波の響きで それともきみの血流の速さで こころの深さはなにで測るの ざわめく風のおとでそれとも 過ぎた日の木漏れ日のきらめきで 痛みは何処へ行ってしまうのだろう あの高い雲のように ちぎれて消えてゆくのか あなたはどうして歩いてゆくのですか あなたを待っているものは何 昨日はどんな風に終わるのですか それとも終わりはないのでしょうか ぼくは何を測ればいいのですか 昨日から明日までの距離を それとも 今とあの夕べまでの道程を ---------------------------- [自由詩]あの街へかえろう/梅昆布茶[2013年11月14日16時01分] ちょっと薄汚れて古い街だが愛着もある あの街へかえろう 鑑別所から卓也もかえってきたし 住むところとこれからの仕事をなんとかしないとならない さんざん迷惑をかけたその当事者が俺だなんて 気もつかずに他人事のようにきいていたさ 馬鹿が百年たって治るものなら それまで長生きしようとも思ったぐらいだ いきがって世の中が渡れるならそれもいいだろう たぶん俺はえらばない だってもうちょっとは利口になれたらいいと思っているんだ ひとと渡り合おうとかはもうおもわないし ひとを傷つけるのもいやだ 美辞麗句なんてはじめからいらないさ 俺のあたまでわかる一言がほしかっただけ チンピラだって多少の恩儀は感じるもの ただやさぐれてはいないさ あの街が俺をまっててくれるかどうかはわからない まあ口の悪くて気の置けない仲間がいることは確かだ まあいいさそれは前置きで でもこの後を描くとたぶん冗長すぎて顰蹙をかうので 予想通りに割愛する 最後にひとこと もう俺は戦いをえらばない 馬鹿なりに思っているんだ 限りない包摂を おふくろあんまり心配スンナよな 俺はこんなもんではくたばらないから ---------------------------- [自由詩]春二編/梅昆布茶[2013年11月14日23時23分] tegami 手紙は来ない 無名戦士の墓に春が訪れ 風が花びらをそのうえに散り敷こうとも ときどきその墓標を濡らした雨があがり 空をよこぎるように虹が橋を架けたとしても 乙女たちが花をささげ祈りの言葉を口にしたとしても けっして刻まれることの無いその名前をそっと呼んでくれた あの人の手紙は届かないまま また幾度目かの春を 待つことだろう sakura もう歩けなくなった母を市内の病院へ連れて行った。 春だった。 病院のあるあたりは荒川の岸辺で桜の名所でもある。 診察のかえりに寄り道して桜の土手をゆっくり走る。 しきりに感嘆していた母を思い出す。 この春があと幾度来るのか考えていた。 それはたぶん母のほうがいくぶん早いだけであろうとも。 そんなふつうの春だった。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]俺たち/梅昆布茶[2013年11月17日1時21分] タクは札付きのわるだったらしい 大人を信じていない でも金ちゃんと俺だけには気を許す 稀なことだそうだ やつが鑑別所にはいったことで 所管の警察はぎゃくに若いやつらのおさえが 効かなくなるんじゃないかと危惧したぐらいに 影響力のあるわる それがやつの本来かはまだよく知らない 金ちゃんは武道の心得もあるから 若い連中はけっこうすなおにしたがう 金ちゃんは若いお姉ちゃんをからかいながらも たくみに連中をコントロールする 金ちゃんはもとマル暴担当や鑑識も経験した 警視庁のエリートだったのかな??? その辺はよくわからないが いまは防犯のNPOもしていて 俺もたまに市の行事なんかに狩り出される タクは中学がいちばん荒れた世代の申し子だ でも俺たちは更生の事業家ではない 金ちゃんの店の片隅にタクの部屋はもうできている うちであまってるエアコンも取り付ける予定で 仕事もあるていど目途はついているが まだまだ調整が必要だろう こういった連中のための社会の受け皿はまだまだ小さい また俺たちがその役割の一部を担えるかどうかも未知数だ まあいずれにしても結果がよければそれでいいと思っている あまり逸れずにひとりで生きてゆけるようになればそれでいいのだ 人ひとりたおすのは武器があればあんがい簡単にできるのだろうが 人ひとり起こすには何を使ったらよいのだろう それは時間をかけながらからだやこころで感じながら 答えを求めていくしかないのかもしれない ---------------------------- [自由詩]そんな花見/梅昆布茶[2013年11月18日23時45分] ほんとうをひとつ石のしたに埋めた 約束をひとつ鏡の裏にかくした 退屈がちょっと窓からのぞいた 懸命がぼくのしりをたたいた 月は宙ぶらりんで柳のしたを通りがかった 杜甫と李白がちいさな卓をかこんで酒を交わす 花百選を紐解き はなの名前をくちにする そんな花見があってもいいかなと思った ---------------------------- [自由詩]ただこころのなかで/梅昆布茶[2013年11月19日18時31分] 愚かな自分を鏡に映す 冷え切ったからだにのこる温もりをさがしてみる かつて確かにあったその感触を思い出してゆく 暖かい手を心に紡いでみる たぶん忘れてはいない筈のことばを捜して 記憶を暖めてゆく 盲いたままではいけないと思うのだ生きているかぎりは 無用にひとを傷つけてはならない奪ってもならない 生きて在るいじょうのなにを求める必要があろうか 鏡のなかの自分に問いかける 愚かな自我のゆくえを そしてそれを捨ててしまおうとも思う もういちど静かでただしいかたちに戻ろうと願う 愚かな片隅を照らしてくれたひかりをわすれないように そしてもし叶うならば感謝のことばが届くように そのひかりにこころのなかでよびかけてみようと思うのです ただこころのなかで ---------------------------- [自由詩]colors/梅昆布茶[2013年11月21日12時39分] ひとはそれぞれの色を持つ 混ざるもの混ざらないもの それぞれの色がキャンバスのうえで混じったり混ざらなかったり 様々な色調とタッチでそれぞれの場所を見つけて収まりひとつの風景をなす そんなものかなとふと思う ---------------------------- [自由詩]螺旋/梅昆布茶[2013年11月24日3時47分] こころの2重螺旋 ことばの2重螺旋 裏階段をのぼって 巻貝の音を聴いた 気がした ---------------------------- [自由詩]小片/梅昆布茶[2013年11月24日9時40分] 尾崎豊の歌詞のなかにあったことば 何にしたがい何を愛するのかかんがえていた 評論家や傍観者ではない自分 ちいさくてもほんとうの塊を掬う事 こころの網の目をとぎすませて でもやさしく開いて 表現者だけではない たしかな自分にたどりつく ---------------------------- [自由詩]季節/梅昆布茶[2013年11月27日21時48分] 過ぎ去ったものの影を追わないで 思い出の名前を口にしないで あの日を小瓶に閉じ込めないで 銀の魚は 網の目をくぐって すべるように消えるもの 手から手へと渡ってゆくものを忘れないで ドアをあけて通り過ぎる風をさえぎらないで そして遠ざかってゆくものたちと 残された時間を 地に生える草のように しっかりとうけとめたいのです ---------------------------- [自由詩]太陽/梅昆布茶[2013年12月1日5時24分] こころは洗濯できるものだろうか いつもその時どきなりの こころで生きれるように できるものならば 天気の良い日に やさしい風の中に 干してみたいものだ ---------------------------- [自由詩]ブックエンド〜オールドフレンズ/梅昆布茶[2013年12月2日20時18分] 仕事柄 保育園や老人介護施設を訪れる 人生の入り口と出口 もちろん私は後者にちかいあたりを走っているのだろう 少々息を切らしながらも 保育園児に捕まるとなんどでも同じ質問をしてくるのだ  これなあに?これなあに? おじさんはだあれ? 私は何度でもこたえかえす それは牛乳それはヨーグルト おじさんは牛乳屋さん そのうちせんせいが止めにはいる この子達の問いはやがて じぶんの未来への問いや あるいは内面への問いに 変わってゆくのだろう いつもの有料老人ホームの朝 同じ時間の玄関口 入居者らしい車椅子の老人と そのかたわらに 決まって寄り添っている 老人の姿がある 駐車場にはいつも同じ 一台の軽自動車 ふたりはタバコをふかしながら 朝の同じ時間を静かに過ごす ポール・サイモンが1968に綴った詩 ブックエンドというアルバムのなかの一曲 オールドフレンズ 公園のベンチの両端にすわっている二人の老人・・ その姿は、まるでブックエンドみたいに見える でも 二人の間には 本じゃなくて 思い出やら 一緒に過ごしてきた時間やらが ずっしりと並んでいるんだ 町のざわめきが木々の間から漏れて ホコリのように彼らの肩の上につもる 仕事やら家族やら 人生のいろんなものを 担ってきた肩に・・ 今日も私の眼に映るだろう 人生の入り口と出口 自分がたどって来た あるいはたどるだろう道 誰かに点数をつけてもらうためではない 自分だけの人生 そんなブックエンドにはさまれた人生を 今日も生きてみようと思う 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悪さをして群れている子供たちに混じって 金色の繊毛におおわれてふわりと浮かんでいたり 葉に結ぶ朝露のように草むらにかくれていたり はかなくも力強く輝いてみえる種もあり 時々銀の鈴のように風に鳴ったり 雲のように流れたりもするのでしょう その中には邪悪の影を纏って誘惑者のように つとあしもとに忍び寄る種もあろうかと それらの種はそれぞれのこころに蓄積され 降り積もってゆくのでしょう まるで雪のように そして それぞれの時間を経て芽吹き 今この瞬間に開花するもの 後にあしもとから刃となって鋭く突立つもの あるいは太陽の輻射のように生をあたためて ながいあいだの慰めになるもの もしそれをあなたが望むならば望むように あなたのなかになんらかの姿で結実するもの そんなものかと思うのです 物理学や公式で説明できないものを 因果律や業あるいは 運命や意味ある偶然などとよぶのは まったく自由だと思うのですが ぼくが名付けたのはこころの種 たぶん蒔かなければ存在しない花の種です あなただけの特別な種を蒔いて欲しいし できれば良い種を蒔いて欲しいと思うのです だって あなたが蒔いた筈の素敵な種が あなたとして花開いて風に揺れているのを いつかきっと みてみたいと思っているのですから ---------------------------- [自由詩]風のギャラリー/梅昆布茶[2014年1月19日6時05分] 時はいつも人を吹きすぎてゆく ちいさな想いや願いを散り散りにして もうあの時のうたは 二度とはうたえない いちまいの絵のように すでに過去のギャラリーに 展示されているのだから それでも生きてゆく命があるのだ 様々な想いのままに船は行く 風がたったならば 進路をさだめねばなるまい 新しい風がどこへ吹くのかは わからない方がよいのかもしれない せめて 光の中にあるように やさしい手触りでいられるように ささくれぬように生きよう この手の中に暖めてゆくものが いつも通りあるように それを忘れなければいいのだ ---------------------------- [短歌]春の回転木馬/梅昆布茶[2014年1月21日20時49分] そらを飛んだ夢を見た 僕は足のない回転木馬 南京錠を閉め忘れたまま 春の沙漠を放浪している 木の芽の匂い持ち歩くための ポケットのある素敵な上着 おたまじゃくしを捕まえたら おまけについてきた黄色いたんぽぽ 上京すると言ったまま 北極のオーロラの服を着て帰ってきた夏 町内星掃委員のバッジをつけて 土星の輪を掃くほうき星 じゃんけんで負け続けたことがくやしくて つい使ってしまった三本目の腕                骨だけになった君を可愛く復元するには おそらく何世紀もかかりそうだ 星をつなげていたらいつのまにか となりに寝そべっていたスフィンクス 壊れた時計のじかんをみれば そこには永遠という針がありました ---------------------------- [自由詩]新しいノート/梅昆布茶[2014年1月30日0時50分] 新しい言葉を綴ることは 新しい土地を開墾するように そこへ種を蒔くように描いてゆくこと 自由を描くことは難しい だれも自由の光をみたことがないから それでも描こうとする 愛を定義することは難しい 愛はどこにも陳列されてはいないから それでも愛する 幸福を語ることは難しい 私の幸福はあなたの幸福と 交換できないから それでも言葉は試みてゆく それが唯一の機能だとでも言うように   新しいノートはいつも最初の一言で失われてゆく 新しいノートは積み上げられいつか崩れて均されて そこに次のノートが重なり堆積して 言葉は拡散し失望する そして回復し再生する 新しい言葉を捜すことは どこかへ通じる穴をあけること そこからわたしたちは 新しい海へ流れてゆく流体なのだ 新しいノートをひらく またあらたに種を蒔くために ---------------------------- [自由詩]つよさ/梅昆布茶[2014年2月2日9時30分] つよいということは ただしっかりではないこと しなやかにうつくしく じゅうなんであること そしてやさしくかしこくあること あなたがおしえてくれた ---------------------------- [自由詩]丘をのぼる/梅昆布茶[2014年2月6日23時27分] 丘をのぼってまたひとりになったならそこには すがすがしい空気の夕暮れが凛としてあるのだ 街の喧騒が遠くでささやくように聞こえても 揺るがずにきちんとたたずんでいるものに逢いたかった 自嘲の貼り付いた安っぽい心根を捨てるにふさわしい場所だ だれもひとりでは生きられないがけれども おなじ生をいきることもできない 寸分違わぬ愛があるなら採寸者を呼んで型をとらせ 世界中に複製を蔓延させようかそれとも ここからみえる窓のひとつひとつの すべてのこころに灯がともるように 夕暮れの丘から街を望む自分でいようとおもう ---------------------------- [自由詩]春/梅昆布茶[2014年2月12日0時36分] もうさがさないでくださいあたいのこと どこにもいないのですから かぜのなかにさえ あなたのこころにさえ 人魚でもない星でもない あるいはおんなでもない もう時間がないのです いつまでもこのままではいられません かわってゆくんだもの なんでもないことでかなしまないでください ただよろこびをうまく伝えられないだけなんだから だっていつもいっしょなんだもの もうさがさないでください ことばはかぎりあるものだから でもまたきっとおとずれるのです 街角のきせつはかわってゆきます でも それにそってあるいてゆけばいいのですから ---------------------------- [自由詩]つむじ風/梅昆布茶[2014年2月22日21時59分] つむじ風は南南東に駆け抜ける 収束しない想いを切り裂くように 二足歩行の夜は遅々として眠れぬ夢とともに 進化論の樹を遡り霊長類の高みへとたどり着く 昨日のことはもう知らない 知る必要も無いことだ 何を解放するための歴史なのか すべての知識はもう棚の隅で 埃をかぶっているのだから 自らの枷をはずす ただそれだけのために 一生を費やすのかもしれない 人生とは緩衝点をみつけること ただランディングする大地がみつからなくて 飛び続ける初心者なのだが つむじ風の行方は知らない それでもその行方を追ってゆく ---------------------------- [自由詩]流れる/梅昆布茶[2014年2月28日18時34分] あの草原のうえに浮かんだ雲はいまもかわらない 風はやわらかな吐息とともに春をはこんでくる 春待ち鳥は歌声を整えてこぼれる季節にそなえる 翻弄されながらもまた花びらとなって流れてゆく ひとの心とはそんなものだ 根が腐らなければたぶん僕らは生きてゆけるのだ 芽吹く命を愛おしむ 過ぎてゆくものに別れを惜しむ 変わってゆくことを畏れてはいられない それなしには再生も無いのが理なのだから あの日も緩やかに季節を押してゆく力を感じていた それは心を動かす力に似て言葉にし難いものだが そんなものに生かされていることに気づくことで ほっとする自分がいるのだ 力んでもしょうがないんだと言い聞かせ また季節にまかせて生きてゆく いつもそれと一緒に在るように 緩やかに変化してゆくものに限りなく 近づきたいと想うのだ ---------------------------- [短歌]不完全な春/梅昆布茶[2014年2月28日20時01分] 不完全な春に花を盗もうと今から用意している 星が堕ちても拾わないで誰のものでもないのだから 約束って悲しい響き裏切りを孕んでいるから 一足飛びに人生を俯瞰してでも今が好きなんだごめん 何も予定の無い日に突然人生は終わったりする ---------------------------- [自由詩]海を見る/梅昆布茶[2014年3月1日22時42分] 家の前の道路を右にずんずん進んでゆくと やがて海に辿り着く 幼い僕にとって海は未知の世界の 不安や驚異の象徴 大きな不思議な地球の水たまりだった 僕の中学の夏休みは海の生活だった 手製の木のボードで波と戯れ 岩場でイソギンチャクや小魚や蟹に面会し 海牛やアメフラシはエイリアンだった 営業で地方を回っていた頃も波音の聞こえる宿を選んだ 館山や木更津 銚子の灯台と岬に郷愁さえ覚えたものだ 海洋の深みには闇と希望がある ひとの心にも似て 名も無い未知の生命がひっそりと充満している やはり宇宙の一部なのだとおもう それはマゼラン雲の輝く南半球の オセアニアやジブラルタル海峡 南十字星やカノープス こころはいつも成層圏を 旅していたのかもしれない 音楽はあるいは詩や文学は 生命を紡ぐ糸なのかもしれないとおもう 様々な縦糸横糸の格子に 僕たちの日々の生活や感情が展開されて 唯一不二の模様をなす まるで雪の結晶に永遠に同じ形が無いように たとえばブルースのインプロビゼイションに 撃たれる僕はよく深さもわからない進化の系統樹のなかで やはりアフリカの母の血に繋がっているのかともおもう 歌舞伎や能楽 伝統的な様式美 それも素敵なのだ すべてに意味がありあるいは無くても あるいは徒労の集積だとしても たぶん生きてゆく もうロックンローラーにはなれないが 僕であることはできるとおもった それは僕でなくなることかもしれない 海を見た日 僕は宇宙に繋がっていた ---------------------------- [短歌]猫のひげと春/梅昆布茶[2014年3月15日18時01分] 猫のヒゲふるわせてとおるやんちゃな風の春 春の音木の芽の薫り日向に干したせんべい蒲団 いいことがあったのよと三度目の電話僕にはないけど 分解された春をまた組み上げるそんな季節のちからがすき 沖をゆく春を眺めているきみの風にそよぐ産毛が光る 研ぎすまされたドリルの刃先に僕のセンターを決めてもらおう 数値制御の機械だって誤差はある僕はましなほうさ 猫のひげ切って悪戯したのはぼくの友達ほんとうはやってみたかった 笑顔をありがとう付箋に可愛くうなずく少女のホワイトデー 風ひかりすべてのいのちをゆるませて春の言葉のつよさをおもう ---------------------------- [自由詩]冬のコート/梅昆布茶[2014年3月16日6時18分] 春の柔らかな外套はいらない 寒風をしっかり遮る重いコートが欲しい 凍てついた大地を確実に踏みしめる足と 流れる雲をよみとる眼差しを 桟橋に繋留するための無骨な舫い綱あるいは 海底ふかく突き刺さる古錆た錨でありたい そんなもので安寧が保たれるならば たやすい努力だともおもう 満ちてゆく時間と制約されたいのち きみの白い指の先に震える明日 子供たちの嬉々とした声がきこえる そんな季節がすきなのだから そのために何を惜しむだろう ---------------------------- [自由詩]猫の口上/梅昆布茶[2014年3月20日16時35分] 故あってかどうかわかりませんが 猫に生まれまして たいへん恐縮している次第でございまして 私が人間なら大変かなあともおもうこと 多々ありすぎて 申し上げることも躊躇いたしますが あえてうぶな猫ゆえご容赦を 猫は四季 きものは要りません 予防注射もありませんし もちろん健康診断も 政治的力学もあるようですが そんなのほんの町内のことです たぶんあなたたちが縄張りとよぶものです たいがいのほほんとしていますが ときどきテレビを覗いて 痛勤電車のあなたたちを見ては えらいことだなあと同情する次第です その季節だけ雌を恋求めます ブスとか美人とか関係ありません 多少はありますが あなたたちほどではありません だって種の保存のためですから ただ保存してなんぼかは あなたたちも知らないでしょう 私だってもちろんしりません 恋は猫の眼のようになんて 失礼ないいまわしもありますが あえて反論はしますまい なにかの正当化に寄与出来るだけでも まあいいのではないでしょうか かつて進化の途上では仲間だったのですから 猫がちょっと口上を申し上げるぐらいで驚かないでください 反省する猿もいたしそのうち踊る金魚や ギネスに載る位税の滞納額が巨額な豚なんてのもありかもですから YouTubeにはもっと不思議な人間たちがいっぱいだし たかが猫の口上 気に留めるほどのものではありません ただ消費税の心配をしてみても あまり甲斐もないかと思っての戯れ言でもありますから ---------------------------- (ファイルの終わり)