梅昆布茶 2013年8月25日0時06分から2013年11月5日23時26分まで ---------------------------- [自由詩]拡散する/梅昆布茶[2013年8月25日0時06分] 拡散する 薄く透明に広がって止まない 大地は世界は 逗留するには狭すぎるから 陽光は優しく乾いた匂い 風の中に見えるもの それを慈しんで生きてゆきたい 心は風 すべての物の中に 僕は生きる 無常は僕の大切な核心 アキアカネとなって空を流れよう 澄んだ水辺を求めてゆく 僕の中の濁流が すべて流れさって 乾いた草になるまで ---------------------------- [短歌]晩夏へようこそ/梅昆布茶[2013年8月25日1時21分] 夏の宵 風鈴さえも物静か 誰に別れを告げて過ごそう すべてを溶かして夏が逝く 遠く僕らを置き去りにして 朝顔にそっと問いかけ返事待つ あの恋の行方こころの行方 短信の むこうに見える優しさに 壊れないもの見てしまっている 不細工の真理をこの夏悟ったか あのプロポーズはただ夏の空 風の音 なにを思うかかってだが 僕の涙を知って欲しい エグゾーストノイズの果てに 夏が終わる 2ストロークの僕は寂しい 焼けたバーンにほほ寄せて ただ走ることのみ考えていたい 傷つけて傷つけられて今日も行く 明日からの道見えそうも無いけど 眼と耳とちゃんとそろっているけれど 真理の声は聞こえないまま ---------------------------- [自由詩]鏡/梅昆布茶[2013年8月26日22時51分] 僕は世界に愛されているのだろうか ずっと不安だった 母の瞳の中に 僕はいたのだろうか そしてあなたの瞳のなかに それらは僕の生を映す鏡 だからずっとみつめていたかったのだ おなじものをおなじように感じたかった マス・コミュニケーションなんていらない ただそのパーソナル・コミュニケーションさえあれば じゅうぶんに生きていけると思ったんだ 光りは散り散りに反射して 僕を惑わせる 僕の深いところから甦る童話を繰り返し繰り返し 話し続けていたかった そう僕の無意識の領域について テレビの画面には決して映らない物語を聴かして欲しかったんだ 君の鏡に映る空や風や深い森や湖の神話を インターネットや映像にのらない でも僕を震わせ続けてきたもの いつかその澄んだ鏡の木漏れ日の午後を 不思議な気持ちで一緒に 散歩してみたいんだ ---------------------------- [自由詩]懺悔の相手もみつからず/梅昆布茶[2013年8月28日16時19分] かつて誰のために祈れただろうか 飾りのついた服を着て 街を歩いていなかったか 自らさいなむひとを見捨てなかったか 酒におぼれて遠ざけたものの数々 いまどこを旅しているのか 額の傷は消えやしないんだ よりよく生きようと欲していたか  無駄に小銭をかぞえて 老欲をさらす 見識もなく 星もみえない暗夜のように凍えていればいいさ いまふたたび 誰かのために祈ろうと 汚れた手を洗おうと あたりを見渡しても 懺悔の相手さえ見つからず 懺悔のことばさえも見つからず ---------------------------- [自由詩]トーテムポール/梅昆布茶[2013年9月1日17時18分] 鳥や魚かぜや木の実 素朴な古代のおおらかさを すっくりと立つ生命 つながる命 文脈のないうた 朝めざめるとかぜを見る 船をだせるか風向きは 朝餉のかおりが漂う あいつを憎んでいた いわれのない感情 母から生まれた僕は いつか復讐するためにいきているのだろうか 父を殺し姉を殺し 自分だけが生き延びる意味は タバコの自販機を蹴飛ばし毒ずいても返事なんてありはしない トーテムポールがそしらぬ顔で立っている かれらは祖先や日々の収穫や数々の獲物を鎮魂しながら ただ風にふかれている ---------------------------- [自由詩]旅人/梅昆布茶[2013年9月1日19時26分] そ知らぬ貌で通り過ぎてゆく 誰も名前を知らない ちいさな天使たちが まとわりついて離れない 空が落ちてきたとしても君はその歩を緩めないだろう旅人よ 猫の死骸が雨に打たれていようと お月様が三角に見えようと 金魚屋古書店のおねーさんがどんなに魅力的でも 一冊の本をセドリする手が震えようともそれは変わりはしない 見慣れぬ町並みを一瞥もせず走り抜ける自由へと開放へと 夢で見た田舎芝居の小屋掛けのなかで薄暗い湿り気をおびた空気 僕は半券を握り締めて夜を泳いでゆく 君の声のするほうへ ひかりが或るところへ 眠れる場所へ ---------------------------- [自由詩]不思議ボタン/梅昆布茶[2013年9月2日18時07分] 決して不用意に押してはならない そ知らぬ振りしているほうが身のためだ でも時々は押しても構わないさ もし君がすべてに飽き飽きしているのなら それは仕掛け花火のように寄せては返す怒涛のようにやってくるんだ 日常が突然カラフルな疑問符たちで満たされる?????????????。。。ってね 自明性を突き崩し不確定な足場のうえで暮らしている僕らを震撼させる 旋風ののように駆け抜ける つんざく雷鳴のように今という時に轟きわたる 茫然自失 天変地異 まるで黙示録のようにやってくるんだ すべてが上手く行かなくて気持ちがへたりこんでいるならば ちょっと押してみないか?????????????。。。はあんがい カンフル剤のように君を奮い立たせてくれるかもしれない あくまで不思議ボタンは最終手段だ むやみに手を触れてはならない 結果を引き受ける覚悟があるならばきみにそのボタンを預けよう 僕はここで高みの見物を決め込んでいるさ ほら街のあちこちで 小爆発が起こり始めている それはビッグバンのように 君の宇宙が塗り替えられる音なのかもしれないんだ そうボタンは君と僕ののなかにある不思議の塊なんだ ---------------------------- [自由詩]夏の送別/梅昆布茶[2013年9月4日19時35分]  「誰でもない何処にもいない」 何回目の夏を送別したのかは とうに忘れてしまった 火傷するほど熱い砂を踏みながら 水平線と湧き上がる雲の先に いかなる幻影を見出そうとしていたのか  定かでないほどに たくさんの夏がきらめいて去った 波を怖がる幼いわが子と とり残された小さな干潟で蟹や小魚に戯れ 永遠に家族であろうとも思われたた午後 すでに夏は夕暮れを孕んでいた やがて夕立がやってきてすべての砂の城は崩れ去り また海岸線の風景に音もなく呑み込まれてゆく 言葉は所在無げに 唇をかすかに震わすだけだった 幾度もの送別をもたらした夏は また記憶の片隅の小部屋に遠のいてゆく 書きかけの日記のように ピリオドを打たないままに 何処でもない場所にもどってゆくのだろう 誰でもない 何処にもいない  僕の夏が またひとつ何かを置き去りにしたまま 鮮やかに あの夏へとフェイドアウトしていった  「僕らの空間 僕らの時間」 遅い朝食のトーストを齧りながらミルクたっぷりのコーヒーを味わう 向かいの山頂には巨大な電波中継塔が聳えていてこのあたりの目印となっている かつて涼風を運んでくれた緑陰はだいぶ減ってしまって 裏の崖下にも家が建ってしまったが それでも街中しか知らない眼には 十分の緑に思われたのだ 君はこの山にへばりついた家が好きだった アップダウンの激しい地形を車で走るたびに まるでジェットコースターみたいだねって はしゃいでいたものだ しかし冬ちょっと雪が降るだけでも 車が登らなくなるぐらいの傾斜が続く 僕は空の広さがとても気に入っていた  夜の窓辺からのぞむ街の灯りが好きだった 星が近くに見えたし 君の息遣いもそばにあった 子供たちに混じって犬たちも転げまわっている それは僕らの空間 僕らの時間と呼んで良い筈だった 琥珀のなかに閉じ込めてしまえば良かったのだろうか たとえそれが幻像だとしても 喪失の深さとひきかえに なにをおそれることがあったただろうか いくつもの季節を味わい 小さな軋轢を重ねあって それぞれの名前を忘れてゆく そんな場所があったことさえも いずれ風化し去って消えてゆくものたちの かたみさえも残さずに ---------------------------- [自由詩]生命の容器/梅昆布茶[2013年9月8日8時56分] 生命はポテンシャルであってそれがカタチに宿って 具現化したものがリアリティなのだ という文章に出会った なんだか最初はよくわからなかったが よく読むと 生命とは潜在的なチカラであり それが体という道具をもちいて 生物という体裁をなす ぐらいの意味合いらしい 最近やたら眠たくてただごろごろしていることが多いが こんなに無為徒食では いまに生物ではなくなってしまうのではないか なんて思ってしまったのだ そうか意欲とか意思とか夢や希望をもたなければ ただの容器になってしまう 仏つくって魂入れずなんだな 仏像なら形だけでもこうごうしいが 僕が形だけだと 郵便ポストほどにも役にたたないしかえって邪魔だろう ときどき人のブログなんかを覗いてこの人は何を考えているんだろう なにが好きなんだろうと思う  でも熱く語れるものがある人は羨ましいなと思う なにが好きだってかまわないし それがその人の原動力であり 生命のポテンシャルアップに直結するものだとしたら それこそおおいに結構だと思うのだ ただ人間はそう他人に関心をもついきものではないと思っている 無関心がデフォルトというか初期値であって過大なものを期待すべきではないだろう でも様々な人やものとの関係性のなかで そこそこ共有できるものがあればそれでじゅうぶんなのかもしれない そう容器の中味をおたがいに意義あるものに高めつつ ついでにちょっとした喜びや哀しみにつきあって せめて人間の化石みたいにだけはなりたくないなとおもっているのだ ---------------------------- [自由詩]海流の街/梅昆布茶[2013年9月15日15時29分] 目覚まし時計の呼ぶ声に乳白色の霧をかきわける朝 夢の続きの小路をたどればあの古い石の門がが見えるかもしれない 丘の上の教会には孤児院が併設されていて僕の友達がいた 通りを浜のほうへまっすぐ行けば自衛隊のヘリコプターの発着所がある 逆に山のほうへ向かえば僕の学校や五稜郭公園さらには水源地へと傾斜はせりあがってゆく 僕の記憶はこの箱庭のような風景を忘れずにいるようだ 海風がかよう街で遠洋漁業の基地でもあるそこは 独特の漁港の匂いにいろどられている いくつかの海流がながれているそこで 朝市や修道院の佇まいを感じあらくれた漁師たちの声を聴いていた 海峡をへだてた山並みは遥かな別世界におもえたものだ すでにないであろう風景がぼくのなかにはある かつていだいたさまざまな思いとともに棲みついている だからときどき夢の中で潮のかおりをかぐのだろう 海峡の海鳴りが聴こえるのだろう 連絡船の霧笛がなるのだろう ---------------------------- [自由詩]ひとつまみの愛/梅昆布茶[2013年9月21日20時32分] 僕が君にかけた言葉に 足りなかったひとつまみの愛 投げやりになって疲れ果て 忙しくってもこれにまさるスパイスはないんだ わすれちゃあいけないひとつまみの愛 ありあまるものでは替えられない隠し味なんだ ふたつをもとめてはいけない さらに欲しくなるから ひとつを分け合うんだかけがえのなさをね ほんのわずかなことだけれど たったこれだけのことさえ僕はいつも忘れてしまう そうたったひとつまみのぬくもりで 生きて来たはずなのに それ以上なにを必要とするのか いまになって思うのもおそいけれど 僕に足りなかったものを取り戻そうと思うんだ いつかこの健忘症がなおるまで何度でも ただそれだけを願いながら 多くは手のひらをすり抜けてさらさらと落ちてゆくもの そのなかのただひとつまみがわかるまでいつまでも ---------------------------- [自由詩]星をひろう/梅昆布茶[2013年9月24日23時10分] いつか星のきれいな夜にきみと東のそらをながめていた 銀河のはしっこから星がもれおちてきて山の斜面に まるでとつぜん咲いた花のように青く白くちりこぼれた 星のかけらを幾片かぼくらはポケットに隠したが それは冷たく発光しながらいつしか溶けてきえた でもときどき記憶のなかできらめいているのを感じるんだ しずかな旋律のように時をみたしてゆくそれは ぼくをとてもしあわせな気持ちにしてくれた だから約束をしたんだ忘れないことを いっしょに星屑をひろったこと 時間がとても澄んだ音をたててきざんでいたこと 胸の鼓動が響きあうことたとえ隔てがあろうとも また星をまっている 青い光の雨が降る夜を やまの斜面がいつか星の花畑になることを こりもせずにねがっているんだ ---------------------------- [自由詩]誰かが誰かをわすれない/梅昆布茶[2013年9月26日19時36分]    白く煙る街  追いやられた通り雨  きみたちはあまやどりをしていた  廃屋からきこえるメロディー  甘く官能的にせつない果実  雨音がいまも耳に残って  すでに誰もいない  世界は何枚もの薄絹をかさねるように  追憶へと人を誘うもの  夜が昼をわすれないように  あの街をさまよう  昼は夜を捜して涙をながす  ひきはがされた皮膚はちりちりと痛いが  張り裂ける魂を癒してくれるだろう  恋はいつも嘘をしたがえてくるもの  なぜならつねに巧妙にすりかえられてきたから  ルシファーよ真実を横取りしないで  せめて血の色の薔薇をなげてくれ  世界が染まるような堕天使のほほえみを  街角に立つ女のように魅惑的に  もし許されるものならば  街灯ののしたでマッチを擦り暖をとった少女のように  夢をみつづけていたいんだ  誰かを忘れないためにちいさな炎を灯したいんだ  儚い約束を守るために ---------------------------- [自由詩]花/梅昆布茶[2013年9月27日15時09分] 散る為に咲くその姿 折り摘まれしばし綻ぶ 咲く為に地にしがみつき 季節の風をうけとめて けなげとは このことにあると言わんばかりに 誰につたえることなく 自らの詩を奏でるものたち 野にあれば 匂いやさしく ほほえみを流し 乙女の髪をかざる花 日がな一日 空に雲によく似合って たたずんでいる いつかは終わるものたちを 惜しむかのように ---------------------------- [自由詩]凪/梅昆布茶[2013年9月29日17時33分] すべてがそよともせずにそこにある 流れるものからとりだされる静止画 こんな時間もいいとおもう 背景はつねにうつろいとどまることはない いっしょにながれるのもいいさ でも自分のながれをえらぶ自由があってもいい きのうライブには行かなかった そんな気分でもなかったし空騒ぎもいやだ 久しぶりに会うきみと まともなはなしのできる場所ではない ぼくのこころの調整機能が コンパスが凪を指しているようだ また日常が流れはじめる隙間に栞をさしはさむ 捕まらない日々の猫の眼の色にそまらない いまさら純白なんてもとめるすべもないがそれでも ときおり洗い流したいものもあるさ いつか息子と車のなかできいた曲がいい キース・ジャレットのケルンコンサート 凪には似合いの曲かもしれない ---------------------------- [自由詩]きのう/梅昆布茶[2013年10月3日17時42分] 昨日のうえにことりと 今日が落ちてくる その順番は変えられない やっと捜し当てた今日は つかのまのあいさつを済ますと 足早に去ってゆく きのうの昨日のきのう そこには取り残された気泡のような想いがあっても それはどれも些細な思い過ごしのようなものでしかなく 明日の俺がそ知らぬ顔で屑かごへ丸めて捨てるのだろう 昨日のドアを閉めるとなぜだかちょっぴり胸が疼いた 今日のドアを開けると次のドアから小鬼がちょろりと舌を出した ---------------------------- [自由詩]きままに/梅昆布茶[2013年10月5日20時03分] 緑の丘をのぼる ゆっくりと歩をすすめると きらきらと葉擦れのおとがまぶしい きみのスモックが風をはらんでふくらんでいる 慌ただしいいきかたはしなくていいんだもう定員さ ぼくたちは空をみて生きれるはず ちょっとしたつまづきで ときに目論見がはずれようとも ひよどりが果実をついばむように すこしずつ手に入れてゆけばよいさ きままでいい 作為のない手のひらで もう少しだけ歩いてみよう ジーンズのポケットにねじこんだ 請求書を一枚ずつ破いて捨てる きょうはずっと忘れていた あの本を 手にしてみようか ---------------------------- [自由詩]沿線暮色/梅昆布茶[2013年10月7日20時10分] 平凡な沿線のこの街に 夕暮れが密度を増してゆく一刻 零れ落ちそうに客をのせて電車がレールを軋ませ 商店街は夕餉の想いに満たされて 帰ってくるあるいは帰ってこない主人を待つ願いも時間が経てば アジフライと同じ半額の値札を貼られてゆく しだいに灯が闇に浮かぶ精霊船のように 川面をたゆたいはじめるこの夜にむかって 幾多の想いが何処からか集結してくるのかもしれない 街はやがて 愚かな酔漢どもに占領され 騒々しさに愛想をつかしながらも そのなかに交じっている自分にふと気づくだろう 眼に映るものすべてが 夜の密やかさにそっとくるまれてゆく 夕暮れのゴンドラに乗って夜がやってくる それはさながらさびしい蝙蝠のように 逆さにぶら下がってあしたを待つのだ ---------------------------- [自由詩]時間の重さ/梅昆布茶[2013年10月10日22時08分] 雛菊をみていた 毛氈のような緑に ところどころ陽に照り映えてある白 海をおもいだしていた 流木の漂白された肌が 曇天に無色をそえる 時間の重さをはかる 手のひらの中の一握りの砂と バランスをとっている質量 魂があるならその在り処をさがしてみる 思いつく限りの言葉をなげかけて そして回答する誰も いやしないことに気づく 孤独であることが原点だと 言い切ったひとの強さをおもう その言葉に実感のない自分が どれほどをひとに語れるものかを 夏をおもいだしてみる 木漏れ日にふちどられた それらの日々に誰と過ごしていたのか わかちあえたものとそうでないもの 取り替えることのできない時間の順序を いまさらに自分のいろで塗る 雛菊をみている それは野の髪飾りのように 風に揺れる白 ---------------------------- [自由詩]結び目/梅昆布茶[2013年10月12日20時09分] たくまずして誰かの憎しみをかってしまう ほどこうにほどけない結び目 ただそれが君だっただけだ おそらく罪状はかぎりなく 妥当な理由もあればやや不適切なものまでさまざま あえてぬれぎぬとは申すまい 思い当たることも多々あることだし それはなにげなく人に好かれてしまう事と同等に たやすい関係で済ましてい続けたせいかもしれない この身を三枚におろしてすり身にでもしてしまおうか あるいは抱き石十枚の拷問と竹鋸引きの刑と 徒刑場から市中引き回しの上獄門さらし首にでもなろうか 君の捨て台詞はかなりな有効打ではあったが それは僕の哀しみを裏打ちしたにすぎなかった ただこの結び目をきちんと擁いて生きていこうとおもうのだ 事実であろうがなかろうが君の眼に映った僕はそれでしかないのだから ましてやほどけないものをほどこうとするほどの 剛力のつわものではさらさらない 沢山のほどけない結び目がちょっと重いがまさか釜茹でにはされまい せめてほどよい湯加減で生きていたいものだ ---------------------------- [自由詩]ふしぎな生き物/梅昆布茶[2013年10月14日20時51分] その生き物に色とりどりのガラス玉をもらった それはよく見ると一個ずつが脈動してそれぞれの色で輝いている ときおり澄んだ音色で囀る心臓のようだった ふしぎな生き物は美しかった 息が止まるぐらいに僕をどきどきさせた 誰にも説明できないかたちをしていてわずかに色を変え しばしば静かな瞳でぼくを見つめかえしてきた いつも仕事で通った道は近郊の小さな渓谷を横切っている 細い水流が陽光を照り返してこころの渇きに届いた ハイカーらしい人々が散見されるぐらいでひっそりとした佇まい 通り過ぎるだけのそこが好きだった 電話で話した折衝係らしき男はやや高飛車な口調で支払いの期日を指定する 機械的に振込み口座の番号をメモし頭のなかでぼんやりと金策の算段をする 明日もあの生き物はどこかひそやかな場所で生きているのだろう 最近はめっきりとみかけなくなったがときおりその気配を感じることがある ふしぎな生き物としばらく暮らした ぼくがそれと会話できなくなった日に それはふしぎなままで去って行った ---------------------------- [短歌]浮浪雲/梅昆布茶[2013年10月19日17時43分] 流木に背中凭せて考える去年の九月で地球はいくつ 僕が寝ているときは僕の靴もつかれて寝ている 差し出した君の右手にどんぐりこぼれる秋のどか 馬鹿も休み休み言ったけどやっぱりぶたれた・・・うそつき! 一陣の風がのこして置手紙窓を開ければ葉擦れの足音 笑顔に値段はないのだけれどあの娘にだけは高値をつける ベランダに金の枯れ葉が舞いこんでそれが秋の領収書 保育カーちっちゃな帽子が鈴なりで割れ物注意のシール貼りたい いつもなら日向ぼっこの三毛猫をずっと待ってる鰯雲 ---------------------------- [自由詩]通り過ぎる窓/梅昆布茶[2013年10月22日17時34分] 通り過ぎた町の窓をあけてゆく すでに知っている町なのに 待ち遠しかった 通り過ぎてしまってから 言いわすれた言葉をくちにする すでに知っていた言葉なのかもしれないが もう一度くちにしてみる さまざまな誰かの想いがそらにのぼってやがて 流れる星となって言葉を降らせるのかもしれない せめてそのなかに伝える言葉のひとつふたつ 集めるうちには暖まってくるように大事にしまおう 通り過ぎる町の窓をたたく あかない窓もあるのだが そっと覗いた瞳があるのならもう一度 それをくちにしてみようか いつか君に渡せるように   ---------------------------- [自由詩]断章/梅昆布茶[2013年10月23日22時33分] 遥かな星の光に導かれたいと思った 滴を飲み干すようにそのいのちを汲み取りたかった それがたとえつかの間の足元を照らさなくとも 静かに己の無知をおしえてくれるなら 僕は本当の光に従いたいとおもうのだ 母がひざをあたためていた小さなストーブで暖をとる なにか特別なぬくもりがあたためてくれる夜だ 慌ただしさを口いっぱい詰め込んで今日も生きた 足跡の数をかぞえて眠りについた せめて一冊の本を枕元に置いて夢をみよう ---------------------------- [短歌]蛇行/梅昆布茶[2013年10月26日19時25分] 後ろを振り返るとだれもいない たぶん肩をたたいたのは夕暮れ 漆黒が塗り重ねられてよるを待つ あさの白さに塗り変わるまで 針千本飲まされてもうゆびきりはしないと思ったころ ぼくは立派な裏切り者だった 私がながれて溶けたよる 正面玄関にたっていたのはだれ 億劫の時をかさねて貝となる ただひとひらの花びらと遭う 花びらを流して一つの河となし 渡し守ならばこころをつなげよ春へ 夜行列車に飛び乗って 切符もないまま改札を待つ 母を売り父を埋めて春を待つ 芽吹く春野に挽歌も埋める 蒼穹に弓を放ちて時を待つ 降りこぼれるもの地上に満つるまで 花ひとつ誰のためでもないならば それでも愛でるそれを恋する ---------------------------- [自由詩]うすむらさきの朝/梅昆布茶[2013年10月29日21時50分] 薄紫色の大気はひんやりと冴え渡ってそこにあった 南天の赤がこじんまりと眼の端に映るそんな朝だ 生きることはそうわるくもないさときどき意味のとり方を間違えるだけなんだ そうみんな生のかけらを交換しながら生きている 枝から枝へうつる鳥のようにときに世界は揺れて見える 身にそわないものにあえてしたがう必要もないのかもしれない ただ追いかける自分はとめられないそれが生きることならば ほんとうは人生のひとつひとつ 草木や森羅万象のひとつひとつともっと丁寧に 対話できれば良いのだろうが 転がる石の朝はときにめまぐるしく それでも薄紫色の朝はたしかにこころに映る それを忘れなければ幾度でも朝はくるとおもうのだ ---------------------------- [短歌]水滴/梅昆布茶[2013年11月1日0時51分] 滴り落ちて返事もなくて水面の波紋がひとつ消えてゆくまま 滑らかな器にそって水は満たされやがてはそのかたちとなる 曇ったガラスになぞった文字は夜明けとともに透き通って読めない 瞳に映る雪の結晶心の襞に溶けてこぼれて 砂漠の果て名も知らぬオアシスの降りそそぐ夜に耳を凝らす 虹色の地球に見立てたシャボン玉団扇であおいで宇宙へ飛ばそう いま現在ただここだけの一滴を時とよばずに真実とよぶ 枠組みも形も無くて船を出す風と流れとひかりにゆだねて ---------------------------- [自由詩]苺畑のきのう今日/梅昆布茶[2013年11月3日22時29分] ジョンレノンが歌った 目を閉じれば生きるのはたやすい 開いても見えるのは誤解ばかり それでもいいと思うのだ 何も知らなくていい 観念ばかりが先走りするよりは いま見えるものにしたがう 見えないものを議論するには命は短い 道徳律や倫理はばあちゃんからちゃんと習った 使命感や挫折も持っている 天国への階段やニライカナイも たぶん信憑性は薄い 文明はサーバーがダウンすると 何物になるのか その意味で いちご畑は永遠なのかもしれない ---------------------------- [携帯写真+詩]新作猫バス/梅昆布茶[2013年11月4日17時07分] トトロと言えば魅力的なキャラクターが多数登場するが 中でも出色は猫バスだろう あのインパクトはいまだに色褪せはしない 地元のまつりで今年の春は機関車トーマス+アンパンマン号が子供たちに人気だった この秋の新作はなんと猫バス 目と口と身体の外周がピカピカ光り子供たちも大興奮 YouTubeにもアップされているようだ ---------------------------- [短歌]風媒花/梅昆布茶[2013年11月5日23時26分] 春の沃野に解き放つすべての鳥の歌をきかせて 越境するこころのままに春を待つ裸足の足で大地と話す まっさらなシーツと陽にふくらんだふとんと枕それだけあれば朝はくる パーリ語で風媒花ってなんて言うんだろうと思いながらも風に乗る 平和な日々あまりに重くあまりにも軽いその存在 日なたのにおい麦の風つくりわすれた竹とんぼ 腰をおろして春を待つひらいたページをそのままに 唐変木花は咲くのか実はなるかそれともはかない木偶人形 きりとって貼り付けて名をよんだらばやっとあの空にみえてきた 渡し守届かぬ空に棹差して花ある里にまた春を待つ 草燃えて残ったばかりの永遠に僅かな風とともに暮らす ---------------------------- (ファイルの終わり)