梅昆布茶 2012年6月24日3時33分から2012年8月23日16時17分まで ---------------------------- [自由詩]地球照/梅昆布茶[2012年6月24日3時33分] 月面に地球がのぼるのを見たことがあるかい 虹彩異色症の奥菜惠ちゃん デビッドボウイ 片目が金目でもう片方が銀目の猫 ちょっとだけちがうものが無数に存在するが 有限個ならば統計学的に処理できるらしい 三日月の暗い部分が薄っすらと発光している 太陽光がはねかえって良い地球夜なのだろう 僕たちは微妙にちがうものと存在を照らし合う差異なのだ 言葉は仄かなニュアンスの境界面をたゆたう泡のように はじけて即発性の地震群となる リンネの生物分類学上のあなたのいま現在ははたして 現実と呼ぶに値するのか自ら証明することが生きる事 いまでも世界には昆虫だけでも三千万種生息し そのうち120万種ぐらいしか記載はない あなたも9割以上に及ぶ未記載種のひとつなのだ たぶん永遠に記載不能なエキセントリックなのだから 地球照が薄っすらとあなたの輪郭を浮かびあがらせる夜は 手をつないで系統樹の異端のはしっこを 歩いてゆきたいのだ ---------------------------- [携帯写真+詩]菜の花まつりにて/梅昆布茶[2012年6月27日20時04分] いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな ではなくて ごめんなさい せめて日英共同開発のあんぱん機関車トーマス号で 春野を親子で車窓の旅のどかなひととき まさかこの写真じゃ おじさんがトラクターで引っ張ってるなんてわかんないよな あー いけない 影が写ってるし ---------------------------- [自由詩]パセリくん/梅昆布茶[2012年6月27日23時33分] ごちそうさまのあとに ひとりさびしくパセリくん ビタミンミネラル優等生のはずなのに ワンレンボディコンお立ち台 ユーロビートトランスハウスパーティー レイバーヒップホップアンダーグラウンド 時代はとりどりのメニューをくりひろげて カオスがトレンドになりワカメちゃんやリカちゃんは 気やすいアバウトくんとテニスにサーフィン違法ドラッグ ことしもクリスマスはシングルベル また山下達郎がながれる知床半島 オホーツクは今日もしずかだ 最近パセリもいろあせてきてわびさびを知り そのうちわさびになってしまうのかもしれない ---------------------------- [自由詩]夕べ僕は落とし穴を掘っていた/梅昆布茶[2012年6月29日21時27分] 夕べ僕はかわいい嫁さんをつかまえるために落とし穴をほっていたが 落ちていたのは中年の酔っ払いだったのでそのまま埋めてしまった 週刊誌の運勢をみたらあまりに悲惨なので世の中を憎んでいた 退屈でえんぴつを何本も折ってしまったし 女の子をふたりぐらいたべてしまった 海岸を歩いていたらおまわりさんに人相が悪いととがめられた 中国や韓国が生物兵器として送り込んできた直径2メートル重さ150キロの エチゼンクラゲがなぐさめてくれたけれどともかく 実存的に哀し過ぎる夜だった AKB48のあかるいデブ部門に柔道の塚田真希選手がノミネートされていないのは 日本国民の見識のなさを世界にしらしめてしまった歴史的汚点なのだが ぼくいがいだれも気づいていないことが残念だ ぼくはいまでも東京スカイツリーよりも 岡本太郎の太陽の塔を建てたほうが国会周辺の瘴気立ち込める魔風や 病める国の麻痺しきった中枢を覚醒させる意味でも革新的な意義深い税金の使いかただと思っている 僕の好きな氏のことばをいくつか.... ”挑戦した不成功者には、再挑戦者としての新しい輝きが、約束されるだろうが、 挑戦を避けたまま、オリてしまったやつには、新しいじんせいなどはない。” ”愛の前で自分の損得を考えること自体ナンセンスだ。 そんな男は女を愛する資格はない。” ”情欲にながされるのはいい。 だけど、流されているという自覚を持つんだ。” ”いつでも愛はどちらかの方が深く、切ない。” ある意味僕の人生はいつでも破綻しているが でも君の人生が爆発しないように祈っている ---------------------------- [自由詩]いきる(脳力)/梅昆布茶[2012年7月1日3時59分] この世でいちばん無用なものはなにかというとじぶんなのだが それでは書き手がいなくなってしまうので とりあえず駄文を綴れるうちは生かしておこう いつも思うのだがじぶんを生存的に維持するだけならさほどのものはいらない 偉大なるお馬鹿友達のてし坊くんはこの前まで西葛西の賃貸マンションに ロスでひらった(広島弁か...?以前大好きなともちゃんがつかっていた)彼女と暮らしていたが膀胱がんの療養もあって 実家のある名古屋で家賃15000円の市営住宅の一人暮らし 収入はネットでおもに得るらしいが株とCDや書籍やらの売買手数料でたかがしれているし 彼女ももう消息もわからないというケサランパサランのようにふわふわ怪しい浮遊物体のような奴だ でもエコ人生の先輩としていちおうの敬意は残してあるし もっとも人のことを言える立場にない私ではあるが... 人間がかってに土地や物に所有権を設定し消費のための生産流通システムを自らにしょいこませ その巨大なバルーンをあげ続けるるためにぼくらは時に寝る間を奪われ精神と肉体を拘束服で包む 時には逆に仕事や社会的アイデンティティーを奪われ無聊をかこつこともしばしばみられる日常茶飯 ホームレスもリアリティーをもって同感できるこんにち 新幹線や高速道路はスピードをあげてのどかな日常を戯画化し食い尽くしてゆく そこにはいもがらのようにひなたに置き去りにされてゆく郷愁が哀しげに佇んでいるだけ 西鶴は日本永代蔵等の町人物のなかで俳人らしい洒脱さをもって貨幣経済の浸透が江戸期の庶民にもたらした悲喜こもごもを描写して それはまるでいまの世の影絵のようにはかない人間の童話にもおもえる 描くところの恋愛模様も寛永〜元禄年間の上方庶民文化爛熟期でありバブルのあだ花としてのきらびやかであやしいうつくしさをもって 当時の遊郭と遊女や歌舞伎若衆らが太鼓持ち的なかれの眼を通じてちょうどいまの韓流っぽい色合いで時代から浮かび上がってくる いずれにしても断舎離まではいかないにせよ無用でなおかつこころひかれる幻影に翻弄されるのが人間のかなしい属性であるならば それを認めたうえで不要なものをまたかなしい努力で取捨選択してゆくしかないのかもしれない ひとついえる事はすべてをもつことはできない ものも恋愛もしかり ぼくたちはカタログ文化の寵児としていさぎよく 「ポパイ」のページをやぶりすてなければならない さもなくば自身がきょだいな幻影のカタログの一部としてポルシェやレンジローバーに 惑わされて生きていかざるを得ないのかもしれないのだ そのなかでのわずかな光明はささいな庶民の知恵である じぶんのもつべきものを取捨選択することとそれを行使する(脳力) それはすくなくともわれわれが あまり対価を支払わずに手に入れることのできる ささやかで最大の そして最良の才能ではないかとおもうのである ---------------------------- [川柳]へなちょこ川柳/梅昆布茶[2012年7月3日13時10分] ふるさとは選挙のときだけおもうもの 震災より選挙にそなえる身の軽さ 国民のためってどこの国だっけ 国会中継やるたび下がる視聴率 議員報酬出来高制にしたらいい 金バッジ相続税はいつかかる Who are you? これだけしゃべれりゃ次期首相 新党もあの顔見れば古くみえ 五十人定数減らすにゃよい数字 ---------------------------- [自由詩]直感する装置/梅昆布茶[2012年7月8日0時45分] 誘惑する怠惰にそっと触れてみる朝僕はだれ ただひとつ詩だけが浮かぶわけでもないのにこの海に 蔓延する伝染性の恋愛文化のバラのつる ことばにならないもどかしさかかえてはしれ直感 エンペドクレスのサンダルの絵が欲しかったな 生きていることが健康にわるいときがついたんだ もういちど読もうと思うコリンウイルソン発端への旅 かんたんに手に入るものはかんたんにこぼれおちる恋もね 原罪なんて役所の決めた料金に過ぎないんだよ 僕達は直感する装置さときどき暴発するけれども ---------------------------- [自由詩]The Sidewinder/梅昆布茶[2012年7月8日2時50分] 腐ったってがらがらへびなんだよ 抜け殻だなんていわせない 赤外線探知装置のついた最新鋭の進化論さ きみの白い指のぬくもりなんていらない 金子みすずのお月様なんて絵本の せかいのデザートさ サロンで朗読している場合じゃあないよ お姉さん 道端で詩集を売ってる場合でもないし 紫式部だって 年暮れてわがよふけゆく風の音にこころのうちのすさまじきかな 猛烈な孤独感に苛まれたんだ そうさ サイドワインダーは 目標を外さない だってこの世の中で いちばん腹が減っているんだもの ---------------------------- [携帯写真+詩]市場にて/梅昆布茶[2012年7月10日15時43分] 市場の朝は早い そこには人間の胃袋を満たすという生の根源に直結した欲望の匂いと独特のエネルギーがある 狩人が獲物を担いで去ったあとに残された空間は 歯の抜けた老人の ように 手持ちぶさたの待ち人顔なのだ 市場には なんとなく人の痕跡のなかでも いちばん濃いものを感じてしまう それは生命が他の生命を奪うことにによってしか生き得ないという 宿命の場であるから 僕たちは命を食べて生きているのだ ---------------------------- [自由詩]不吉な月がのぼる/梅昆布茶[2012年7月14日3時39分] 60年代末のベトナムのジャングルで 月を見上げながらたばこをふかす高校でたての若い兵士 シンプルでストレートでノリのいい曲の背景に 時代の絶望をぶらさげてラジオから流れていたCCR 今夜は外にでちゃあいけない そう命さえとられかねない 不吉な月がのぼってくるんだもの 時代や世界がじぶんに何を要請しているのか その要求に応えるべきなのか それとも霧の5次元へエスケイプを決め込むのか バイトに追われながら漠然とかんがえていた 逃げ場のない袋小路で選択を迫られるのが嫌で 知らないふりをしていたのかもしれない おびえた鼠のようにね ギャンブラーにさえなれないじぶんを的にして 酒場の隅で質量のない手玉をキューで突く あのとき音をたててポケットに落ちたものは不吉な月でもなく あの頃やぶれた恋でもなく うわついた生き方に辟易していた僕自身だったのかも知れない ---------------------------- [携帯写真+詩]麗人/梅昆布茶[2012年7月15日3時29分] 小磯良平描くところの令嬢である タイトルは「冬の夜」 昭和29年週間朝日 新春増刊号の表紙であるが ちなみに当時の値段で一冊70円 先日古本屋で50円だった 花森安治や長谷川町子、源氏鶏太、吉川英治等の名前が見える トプコンやミノルタの二眼レフカメラ コロムビアの電蓄、ダットサンのセダン キャブトンのオートバイ 戦後一時家電を生産していた神鋼電気の振動式電気洗濯機の広告も見える たしかにゴミバケツ程度の大きさでスペースエコノミー 底にある振動板の高速振動で汚れを落とす仕組み しかし汚れの落ちが悪く振動がうるさいため全く普及しなかったという でも一度使ってみたい気もするし ただし当時でも 14800円 それとすでに発売22年を迎えていたダイハツの三輪自動車の広告はちょっと泣けた いったいノスタルジアというものは衰えつつある脳を 果たして活性化させるのか否か そのうえなんかタイトルからだいぶ離れてしまっているし これって 詩じゃねーだろが… ---------------------------- [自由詩]線分上のアリア/梅昆布茶[2012年7月17日5時37分] ゆるやかな稜線は日々の通奏低音と 重なって光や風の渡る今日を彩ってゆく 痛くなかったかい 首もげちゃったけど どこまで転がってゆくんだろう 僕の通底器は結びつけることに疲れてしまって ひだまりをじっと見つめているんだ 右手の重さを左手で量って 記録につける遊びを繰り返していた 悲しすぎる午後 虫の羽音で醒まされた夢を永遠と呼ぶのなら 無限の線分上の収束する点Pで 僕が待っていることをどうやって君につたえよう 無数の光芒を放つ小宇宙のひろがりを 分節化してゆく星座の魔法で ひとつひとつキャンバスを塗り替えてゆくんだ 僕の胴体はさびしさのあまり 角を曲がってけつまづいてひざ小僧をすりむいているし そう母がいっていたことば おしっこがでるうちは生きているんだって もう家族割りはいらないし それがさいごの言葉だったっけ ---------------------------- [短歌]岬の午後より/梅昆布茶[2012年7月18日7時03分] いま夏はどこそしてぼくの隣にすわっているのは誰 灯台へつづく道ひかりとかげの午後をあるく ひまわりと話し続けたこの丘で幼い頃の夏をみつけた エンドレスサマー潮騒にこころをのせてきくサーファーガール あてどなくVツインのリズムのなかに追った夏テントとシュラフに風ふきぬける ほっとどっぐほおばりながら陽炎の立つ大通りのクラクションSummer In The City もんもんもこもこの入道雲です田舎の白いあぜ道に日傘くるくるはっぴいえんどの夏 サマーソニックしらないバンドがめじろおしだから冷やしてアイスランドの薔薇 雨上がりの夜空にかがやく蠍の心臓なにを燃やすのか熾き火のごとく 記憶の糸はゆれるいくつもの夏をつむいでまた風をまつとき ---------------------------- [川柳]ベルサイユの椿/梅昆布茶[2012年7月22日3時01分] ベルサイユ アントワネットの食べ残し フランス革命はルソーの性倒錯の森の中 ニーチェの性病彼のさいごのアフォリズム どうせおかしい頭ならうけたい分析ルーサロメ バイロイト祝祭劇場ハーケンクロイツたなびく日 バスティーユ 監獄なれどホテル並み ナポレオン我が家の居間でのびをする ベルサイユ買って欲しいの石原さん 阿呆船 議員をのせて流したい 椿姫 彩菜す夢もニューハーフ ---------------------------- [自由詩]ベランダの猫/梅昆布茶[2012年7月22日3時59分] うちの孤高の戦士はいまベランダでひなたぼっこ あえて妄想中とは言いますまい ときどきかれの誇り高きぶた猫の本能が のねずみやのうさぎの後姿をおもいだすのかもしれない それとも昔の彼女の寝姿か 戦士は群れをなさない 決定的な決断のための孤独は最強の武器でもある やめない政治家ではないのだ チャンネル2で内輪に言い放つだけの病気などは すくなくともうつらない おかずは程ほどで良い 妥協はときに価値をうむものだ でもなぜふとっているのか? 幸せは求めるものではない 研ぎ澄まされた精神の別名を幸せと呼ぶ 食べる幸せだけは例外だが 言葉は多くを語らないもの 人間が自らのおもいつきを哲学と称して堕落がはじまった 戦士は言葉におおくをついやさない 詩だ文学だとも騒がないし だいたいわかっていない おのれへの自信を尊ぶ 傍観者の目のなかに確実さを求めてはならない 戦士は自らの目のなかに無欠さを見つけてそれを謙虚と呼ぶ 周囲の人間にとらわれずただ無限なるものにのみとらわれるものを 戦士と呼ぶ だから鳩にはなれない だいたい重くてあのようには飛べない 我が家の賢人はときどきくさいおしっこもするが それ以上にデブで憎たらしい戦士でもある 変猫とも呼ばれるがそれを 誇りに思っているふしもあるのだ ---------------------------- [自由詩]そらにあう/梅昆布茶[2012年7月26日0時19分] 路地裏の子供たちに混じって じぶんをせいいっぱい主張するそら君 機関車トーマスが仲間らしい いつもよだれや涙がいっぱいのそらには お菓子やいちごやそんないれものもあるんだろうね そうだね こどもたちに会いに行くじぶんが不思議で しょうがないんだ ぼくたちには見えない子どもなりの気づかれも あるのかもしれない でもこどもはちいさなおとなでもないし 不完全ないきものでもない いっぱい泣いてわらってめまぐるしく変化し 求めることがきみのしごと こんどいっしょにざりがにつりしようか ひみつのばしょを おしえてあげるから ---------------------------- [自由詩]となりの原子/梅昆布茶[2012年7月28日22時54分] めまぐるしく変わるのろーてーしょん さっきギターかかえてロックンロールやってた 双子のH兄弟は O嬢と合流してみずみずしいあたらしい恋ものがたり あたしは遊園地の遠心分離機でぐるぐるの目眩しそうな エントロピーの 快楽に身をゆだねるカーボン娘 AKBCO2ってあたいのこと H2Oに溶かされてシュワッとはじけるジンジャードライ となりのイケてる韓流のお兄さんたちと バリバリユニットCO3したいんだけれども これってあまりに野心的? 電子に陽子に中性子 あたいの原子心母をめぐって 体ののなかを電荷のドラマがせめぎ合う これって恋の痛みかしら 原子に良心があるのってきかれても それは量子に聞いてくれって だじゃれで逃げるあさはかさ ねえ ただしい原子の生きかたってなんなの だってひとつひとつ原子って ルックスも生い立ちも違うし とっても個性的なんだもの ---------------------------- [自由詩]エア・ポケット/梅昆布茶[2012年7月30日19時01分] ポエケットではなくエアポケット チケットのない旅を君と 母が亡くなって最期は点滴でも間に合わない 栄養失調のまま昏睡状態で逝った 体格のいい人で骨壷に入りきらずに 納骨の係りの方に あまり気にせずにつぶしてもらって やっとおさまった 笑っていたが 僕もおむつを替えたがすでに女ではなく母でもなく 子供でもない骨と皮の存在の原型のような気がした 焼いてみると骨格は高度なバイオフィードバックの いれもののような気もしてくる ピアノを弾いて スケートの選手で 恋もしたらしい マザコンを自認する僕がすでにげんじつにはうしなわれた母を 詩で解消できたのか涙はでなかった ただ母は去るもののかたちでぼくに 彼女としての最後の威厳をみせたのかもしれない 僕は子供を育てる 母のベッドの部屋がたぶん子供部屋 僕は働いてちょっぴり詩みたいなものを書いたり 好きな音楽をやったり もう恋は無理と言いながら あと15年をいきるのだろうな 下手な詩を迷惑をかけながら 読んでもらう甘えん坊のままで でも母はきちんと死のかたちを示してくれた 僕もきちんと死のうと思う やり残したこととか 人生で一回ぐらいはもてたとか つまらないことをいっぱいつぶやきながら 逝きたいのだが 娘たちのしらけた顔が眼に浮かんだりして 自称の詩人もめいわくだけれど うざいだるい意味不明の同居人で それもまあいいかなと思っている ---------------------------- [自由詩]怪しい料理教室/梅昆布茶[2012年8月3日2時01分] 僕の冷蔵庫ではつぎつぎとものが腐ってゆく 賞味期限は半月前は当たり前野菜は黴としなびで 使い切れないぞ独身奇族 そこで整理もかねて古い野菜をかたっぱしから検閲し 余命少ないあるいはアンチエイジングに失敗して干からびたのは 静かにゴミ箱へ送る そして母の遺品のステンレス包丁で切り刻んだり 首を刎ねたりピーラーでもって生皮を剥ぐ快感と言ったら サド侯爵でさえ見学に来るだろう それに残ったこんにゃくとかウインナーとか 化石に近い乾ししいたけとか もらったトーフやふえるわかめ たまにこれに冷凍のコロッケを溶かし込んでとろみをつけたりする 味は味噌が多いがこのベースでアレンジすれば カレーだってシチューだって中華味だってできるはず 一鍋つくれば三回ぶんぐらいのおかずにはなる 文句をいわなければ十分生きていけるし 文句をいってくれるひともいない もうひと手間でサラダか酢のものかあるいは からし酢味噌で食べる蛸などあればもうしあわせだ ふだん薄幸な人間は飽和するのもはやい 記号料理論というのをねつぞうしてしまえば あの可愛いにんじんや色黒の泥つきごぼうやら 記号素のざわめきが背景に退くときに 人間の経験の連続性を保証する記号としての 怪しい料理が日常のなかで ひかりを放ち始めるのだがしかし それはともかく ときどきは誰かにつくってほしいと 思うのはせめてもの哀しい抵抗なのだろう ---------------------------- [俳句]ブレイクスルー/梅昆布茶[2012年8月5日7時14分] 歳時記を紐解いてまたあきらめる 光の彫刻館のマスター朝のウオーキング中 バーボンの琥珀に魅せられて眠る朝 分類学と記号論との区別もつかぬこの頭 レスポールのポールコゾフの溶ける時間 看板は替われど変わらぬ政治を蹴飛ばし 初音ミクまだ居るこの部屋嫁は来ず アーティスト在野の光が点滅する世界 もう一度サイケデリックやってみようか光のなかで 閉塞を閉塞としないブレイクスルーそしてドアーズ 白々しいなまえの党がまたひとつふえ ---------------------------- [自由詩]イカロスの墜落/梅昆布茶[2012年8月7日19時51分] ブリューゲルの「イカロスの墜落のある風景」 野間宏に暗い絵と表現させた作品のひとつでもあろう ボッシュなどの流れを汲んだ暗い閉ざされた色彩に 海中に墜落したイカロスの足だけがみえる ギリシャ神話とは程遠い中世封建社会終焉の空気のなかで ヨーロッパの北辺に生きたかれのどういう視点があったものか 寓話にみちた彼の作品群のなかで精細にかきこまれた農民や羊飼いや イメージの氾濫にもおもえる怪物たちのおどろな絵画に混じって そのイカロスは悲しげでなぜか清々しい気がする 贋作とも言われるが僕は気に入っている 海面でばたばたするイカロスの末期の足はそのまま ブリューゲルのアイロニーの眼差しにも思えるのだ 地中海の豊穣な陽光の中に繰り広げられるつづれ織りのアリアドネーとテセウスの恋 獣人ミノタウロスと暗黒の迷宮そして窮地を脱出する軽やかなイカロスの飛翔 どう考えても彼の「雪の中の狩人」の絵画世界とはひとつにはなりがたいが 若き日よく聴いていたラルフ・タウナーの「イカルス」のアコースティックで 透明な旋律がながれる僕の頭の中で農民や羊飼いや船乗りたちがじぶんたちの日常を つつがなくすすめてゆくというイカロスの悲劇とささいな生活たちのしずかな共存との対照がある美しさをかもしだして あんがいそれがこの世界の実態ではないかという気がしてくるのである イカロスが何度墜落しようと 振り向く人間は誰一人いないのだろう その叫び声はうみの藻屑と消えてゆく おだやかな地中海だけがなにもなっかったかのように 悠久をたたえて陽に照り映えているだけなのかもしれない ---------------------------- [自由詩]変化する朝/梅昆布茶[2012年8月8日23時03分] 変化するものが 含まれたやや重い空気がある ぼくやきみは様々な角度ですれちがう ぼくのプロポーズは何かの手違いでとなりの おやじに届いている 変化しなければいいものを わざとずらしてゆく揺れながら ねこが爪を研ぐ 空気が緊張する 空のいろが決められない 頭のなかにえがけない そしてきみが結像しない 文明に隙間がなく感じる朝は 並んだ鳥たちをこころのなかで撃ちおとす まろにえの並木のように整然と呼吸したいのだが 変化にせきとめられて行き場をうしなう だからいちばん好きな変化にすりよる もうなにもいらない だって変化はすべてを含んでゆくんだもの ---------------------------- [短歌]やさしい夢/梅昆布茶[2012年8月9日22時18分] とりどりの花散らしゆく街にきみの息づくしるし捜す トロピカルドレス熱く纏う真夏のひとみと星とヴァンパイアー ロードムービーからもれるつめたいバーモントの月ちょっと欠け 絶望的に収縮するのどから詩人たちのことばが生えてくる夜 ブリキの兵隊とオハイオの夏巨大な鳥がそらを覆う コーヒーカップとドーナツが同じ図形だなんてどちらを食べればいいんだい? 彼はいう人生は学習する前に忘却することを教えてくれるってね 浮遊する夜に紛れて明滅するテールランプの蛍の詩たちそして...夜 銀河の最終電車はとりとめもないダイアグラムの何ページ目かな グレイハウンドの車窓におおきな月が昇り煙草に火をつける ---------------------------- [自由詩]距離/梅昆布茶[2012年8月10日22時57分] 僕達は小さな距離のなかでひしめき合っていて 森の木のみえない生き物なのだ 下ばえのひんやりとした塊の世界で緩慢に じぶんにつまずいてゆく愚か者なのだ 僕たちの祖先は宇宙の果てから流れ着いた阿呆船にとじこめられた 文明の搾りかすだったのかもしれない あるいは牧場に放たれた仄暗い視界の異形の家畜 進化と生殖のいいかげんな培養土が棲家のハネウサギ きみは今日は研修で名古屋に居るらしい風のたより ぼくは不動ヶ岡の三叉路を暗闇にむかって転げ落ちていた 130億光年のきのうにあたらしい幾何学の定理を見出すガウスのように 僕達は幼年時代の自明をうしなわずに走り続けるのだよ そして息継ぐまもなく輪廻の影をおいかける あしのない案山子なのだ 堤防からのぞんだ岬の突端には宇宙からの電磁波を中継する ふるい白い灯台があってそれはたまに迷い人のこころを ふかくやさしい霧の中へ誘導しているのかもしれない ---------------------------- [自由詩]影/梅昆布茶[2012年8月11日0時54分] それは命を宿す なみだをながす そして朽ちる やがてこどもたちはそれぞれの死を選択せねばならない たやすく眠らせるようにやってくるのだから ぼくがあの子を選ぶのに理由なんていらない 指名したら責任を取るただそれだけさ 乗り物の順番を待つあいだ君のひとみを過ぎる くもを数えていた きみはぼくの時計だった もう鬼ごっこは終わりなんだね つぎの遊びは見つけたかいそれとも もう月への階段を のぼりはじめる時間かな それは汚れなく もうもどれない僕たちの 影法師を 重ねて パッケージして 天国へ送る機械なんだ もし君の家に届いたなら なかに組立図が入っているから 暇なときにでも組み立てて欲しいんだ よろしくね ---------------------------- [携帯写真+詩]なつのそら/梅昆布茶[2012年8月16日19時17分] そらくんたちと 子供公園であそぶ 気温36.2℃ 親たちは木陰に避難し 子供たちだけが めまいのする夏のさなかの灼熱を 嬉々としてうけとめている なつをワンダーランドに変える魔法を いつしか使えなくなって 僕たちはちょっぴり疲れた大人になったのかもしれない 僕は綿菓子をちぎって食べた まるで雲を食べるように かつての魔法のなつのあじってこれだったよな なつのそらの雲だよ ---------------------------- [自由詩]うたをわすれたカラス/梅昆布茶[2012年8月18日20時51分] 山へ帰りながらふといつものうたが 歌えないことに気づいた 村の畑で菜をついばんでは涼しい枝でやすみ 仲間たちとじょうだんを言い合ったり 洟垂れ小僧たちを少々おどかしてきをはらしたり 川の浅瀬で水浴びをして冷たい水でのどを潤すのさ たまに人間の飾り玉を集めたりするけれど 気にしないでくれ趣味なんだ でもからだの時計がボンと鳴って 家のぬくもりを思い出すとき 無性に夕日のいろをうたいたくなるのさ 俺たちのことを君らがなんとよんでいるかは知らない 生きてゆくには関係のないことだ あるいはゆうがた飛び回るあのみみのとんがった奴らと いっしょにしているのかもしれないが わからなくなってしまったんだ ちょっと考え事をしていたらうたをわすれちまった あたりまえだと思っていた いつもの冴えないでも俺たちだけのうたをね 人間が自然的態度とか呼んでいるらしいあたりまえな 自明なことができないみたいなんだ 疑わないことで俺たちは自由に空を飛び恋を追って そして暖かい巣や仲間やめんどうな子育てさえも うまくこなしてきたんだ しまいには空の道や風向きやすてきな匂いまでわすれそうだ やがて飛ぶことさえもうしなって まさに路頭に迷うのかもしれないな あのうたは俺たちの社会のうたなのか それともおれの勝手なおもいこみだったのか おれたちは君らのように石ころを交換はしないが なにかを信じているらしい それを忘れたときには きっとまっさかさまに墜落するのかもしれないな あの太陽に近づきすぎたきみたちの仲間の イカルスとかいうやつのように だから思い出さなきゃいけないんだ いつものうたを いつものようにね ---------------------------- [自由詩]彫刻室座のよる/梅昆布茶[2012年8月21日21時16分] まるでぱっとしない南のそらの彫刻室座 でもそれは深宇宙への小窓でもあるらしい かつてない鮮明さの神の領域が 彫刻家の仄暗い室内に展開されてゆく ひかりと闇の融合が 可視光の色調の変化をともなって 茫漠の詩篇をなす 宇宙の生成の泡が生命の螺旋となって 無機の岩片にしがみつき やがては地衣となり羊歯と繁茂して 風をいろどる花となる ナメクジウオは砂にもぐり浅瀬を泳ぎ あたたかい海の中で雌雄の夢の断片をつむぎ始める 計り知れない遠い単細胞の眠りが 集合意識となって互いの認識を交換しはじめる 構造は構造を生み永久運動をはじめた進化の糸はほら 空を飛びあるいは直立して建物を作り 蔓延して規範を建て絆を破壊し 自らの加速に酔いしれて浮遊するくらげのように いま仄暗い彫刻家の黴臭い部屋にひとすじの光が走る しずかな情緒の薄闇の 彫刻室の安穏な空気のなかで さらにどこかへ向かおうとしているのだろう そうすべての夢は去らなければならない すべての夢はいつかは 死ななければならない ---------------------------- [自由詩]ちょっとだけ哀しい人生/梅昆布茶[2012年8月22日18時16分] 読んだふりして投げ出した恨みも捨てにブックオフ いまさら人生の意味なんてと言いながら尾崎豊を聴いている じゃんけんに勝ったら寝るよと言った娘のおそだしのズルを言えなかった夜 恋人になれなかった恋の領収書って詩なんだね 生きてゆくそれを理由に嵌めはずす新盆の母のあきれてかえる 好きと百篇言われるよりもおいしい料理がたべたい日 自分の馬鹿を知らずに生きた半世紀 ---------------------------- [自由詩]いつか詩人になれるなら/梅昆布茶[2012年8月23日16時17分] いつまでたっても電信柱のようにたっています 恋は百万遍すどうりしてほかの誰かをむすんでます それでもけっこう嬉しかったりするのですが もうちょっといい脇役にもなりたかったりして ギターだって女の子受けするために始めたのに下手です 死ぬ前にいっそのこと詩人にでもなろうかと思ったのです これって犯罪でしょうか 極道にもなれなくて もとそっちの若頭の しりあいもいますがでも いちばん世話になってる人がもと警視庁なんで うるさく酒は飲むなたばこはやめろまあ女はいいとか 人生の指針を示してくれて まえのかみさんよりはいいかなと思っているのです ろくに恋もしてないのに恋の詩を書いたりして これは犯罪でしょうか 捕まるまえに愛をつたえたくて そのために詩を書いたりしているのです いつか涙がかわいたときに思い出してもらえる 言葉の一片でもあったら それでいいと思っているのです ---------------------------- (ファイルの終わり)