真山義一郎 2010年8月21日10時36分から2012年2月17日17時45分まで ---------------------------- [自由詩]朝焼けの葬送/真山義一郎[2010年8月21日10時36分] あの日、あなたは逝ってしまったと 聞いた ぼくはドーン・グロウの朝焼けを 小さな宝石にして ポケットにしまった 憎しみは残り続けるかもしれない しかし、憎しみとはなんと 陳腐なものなんだろう いまだに 赤子のままで 今、一瞬だけの 朝焼け 新聞配達の少年が 自転車で駆けていく 君はどんな夢を見ている? すだれに朝顔 鮮やかな紫色 木の香り 灰色の猫は伸びをして また、丸まって眠る 日陰を選んで 今年の夏 朝焼けの宝石 一瞬のきらめき 一瞬だけのきらめき ---------------------------- [自由詩]えれぴょん/真山義一郎[2010年9月1日7時00分] AKB48の小野恵令奈ことえれぴょんが 今夏限りでAKBを卒業する そんな夏なんだ 買ったときは三十センチほどだったマングローブの木が もう一メートル近くに育った 葉を触ると つるつるとして 炎天下の中 宅急便の人たちが 汗を垂らして走り回っている 今度、配達に来てくれたら ジュースを一本差し上げたいと思うんだ 海は匂いから始まる 塩の蒸れた匂い 浜辺の水は透き通っていて とても冷たかった さあああああああ 波が行っては帰る 空はどこまでも高く 青い ---------------------------- [自由詩]えれぴょん/真山義一郎[2010年9月5日21時46分] えれぴょんの 最大の魅力は 十代にも関わらず その溢れんばかりの 母性にあった ママ ママ おっぱい と 甘えてみたかった えれぴょんのいない秋がくる しかし、そもそも 僕はあっちゃんと結婚するつもりだし つき合うなら たかみなと大島優子ちゃんを交互に と 考えている にしても 五年前 AKBが結成された時からの ファンというのだから 飽きっぽい僕には 奇跡的な現象だ AKBは僕が大きくしたと言っても 過言ではない にしても、 なんで女優の勉強と言ったら アメリカに行くんだろう そこのところが よくわからない ---------------------------- [自由詩]夕焼け、秋/真山義一郎[2010年9月9日23時56分] 夕焼け色の空を見て 君は癒されるでしょうか あの日、 海で見た あの空のように 終わり行く一日を 溶かすように 僕らは終わったのでした 愛しています と呟くたびに コップの中のミルクの白が濃くなっていく気がして 僕はただ、そのミルクを飲み干すしかなくて 呟くように 囁くように また、あなたの肌に触れたかった ポインセチアの赤 空は秋です 風は少しずつ冷たさを増して 本当に 僕らは同じ空気を吸って 吐いているのでしょうか この空の下で つながっているのでしょうか 夕焼けがやってきます 僕は 僕は癒されるでしょうか あなたのいないこの秋に 僕はひとりで 風に吹かれて 立っています 立ち尽くしています ---------------------------- [自由詩]眠りの季節/真山義一郎[2010年9月18日3時26分] 風がずいぶん涼しくなってきました 青い空に 白い月が出ていて どうして、涙が流れそうになってしまったのでしょう よその家から漂ってくるカレーの匂い 僕は心の中の 小さな茶の間を思い浮かべて もう二度とそこへは戻れないことを 思い知るのでした 海の水が奇跡的に揺れていました 空と海の境がわからないほど 原色の青が目に眩しくて 女の子たちが赤、青、黄色の水着ではしゃいでいて ああ、故郷に帰ってきたと思った途端に それが夢だったのだと気づきました 夏が夢だとするのなら 秋は目覚めの季節なのでしょうか だから、こんなにも 心が切ないのでしょうか でも、きっと、また冬が訪れて 僕は眠ってしまうでしょう 毛布を手で触れて その感触を楽しみながら 冬は冬の夢を見たいと思います ポプラ並木の冬景色 そんなドラマの一シーンのようなところで 僕は待っています まどろみながら 深く 冷たい息を吸いながら ---------------------------- [自由詩]青い涙/真山義一郎[2010年9月24日3時36分] 耳の奥で聴こえる パンキッシュなガールズソング なぜだか 涙が出て 止まらない 十五夜 白い月 草のチクチク 土の匂い 流れていく雲 秋の風 君が僕を見守ってくれてるって 占い師から聞いた アメシスト ホワイトカルサイト ヘマタイト タイガー・アイ ローズクオーツ ゾイサイト ラブラドライト ちょうど七つ 地球の裏側は リンゴだって知ってた? 大きなリンゴがどかんて 生ってるよ 色はまだ緑色 それが赤く熟す日を 待ってるからね ---------------------------- [自由詩]君に贈る占星術/真山義一郎[2010年9月26日5時58分] 過ぎてゆく時間に 恨みさえ覚えて 「焦らないで」 君の言葉に耳も貸さずに 駅のプラットホームから 飛び降りるチャンスを伺っていた こんな夜空が あったんだ 月の出る 星の夜が 香ばしい土の匂い 愛してるの 本当の意味 夜には虚しさの音しかないと思ってた きらめく星座の動く音 鈴虫の鳴き声 食卓から聞こえる食器の音 あの人が死ぬなんて 思ってもみなかった 君は葬式には行ったのかい 僕はあの人の魂を感じる きっと今頃 彼と二人で 草原を走っていると思うんだ 君が僕を見守ってくれていると 占い師から聞いて 安心したんだ それがファンタジーであっても 構わない この世がファンタジーだと 気づけた今では 過ぎていく時間に 道草しながら 歩いてく 深夜のコーヒー 寒くなってきたね 体には気をつけてね ---------------------------- [自由詩]さみしい/真山義一郎[2010年10月1日21時50分] 女を抱きたい気分でもなく ただ、見ていたい 風がセピア色 入道雲の思い出 「バニラスカイ」を見て あなたはどう思った? 彼女の言葉を思い出す 力を失った男が 荒野をさすらう時 相棒はきっと 黒い犬だけ 彼女達のダンスが やわらかい微笑で 眼球に突き刺さる オーバー・ザ・レインボー 僕らは虹を越えて どこへいくのか ヘマタイトを拾った 月光浴 那覇市の思い出 ウルヴァリンの爪 白い葉 公園一面に 真っ白に 生きることを 地獄にするのは 僕ら 天使の意味を 今日知った ---------------------------- [自由詩]光/真山義一郎[2010年10月8日13時26分] カモミール マロウブルー 手で揉んで 匂いを嗅ぐ それでハーブティーを作って 窓辺を覆いつくしている 観葉植物に 光が射している 光 時間は チクタクと流れる ものではなく 音楽 運命を 動かす 魔法 アメジストを透過する 青い 光 光 人生は充足していく きっと あなたにも 射す 光 ---------------------------- [自由詩]蠍座の町/真山義一郎[2010年10月17日1時36分] 峡谷を越えると 静かな瓦屋根の風景だった 懐かしい味噌汁の匂いがした ああ、そうか もう冬になるんだ 木が無口だ 迷路のような路地裏を抜けると 君の家がある 赤い屋根の洋館で 君はピアノでサティを くりかえし くりかえし 弾いていた 君は目の前にいるのに 僕の目の前には 分厚い透明なガラス 見えないほどに透明なのに 声も何も届かないんだ 僕は叫んだ 何度も 何度も 夕暮れは嫌い 君が囁くのを 夢の中で聞いた 美しく呆けた老婆が 白いパラソルを広げ踊っている 静かな町だ 子猫が 何匹も 何匹も やってきては 僕にすり寄った ああ、そうか もう冬になるんだ 君の誕生日まで もう少しだね ガラス越しに 君に囁いた 君は ずっと サティを弾いている ---------------------------- [自由詩]メシアはどこだ/真山義一郎[2010年10月28日0時46分] 僕はケータイで ニルヴァーナの 「十七歳の娘の匂いにむんむんむらむら」 を聴いていた そうしながら いつの間にか 旦過市場の異次元に迷い込んでいた 魚屋で一匹の 真っ赤な 鯛が 「メシアはどこだ?」 と訊いてきた 飯屋のことだろうか 僕は路地を曲がったところにある 飯屋を教えてやった 鯛は 舌打ちした 歩きながら 僕は 石原さとみのことを考えていたんだ 石原さとみの眉毛はぼーぼーだ 眉毛がぼーぼーの女は 下半身の毛も剛毛だという いや、 剛毛でないと 許さない パンティからはみ出るほどの 真っ黒い剛毛 僕はひざまずき 君の匂いを嗅ぐよ そんなことを考えていたら ダンボールを道に敷いて バナナを喰っている男がいた ウンコ座りで よく見ると キリストだった ---------------------------- [自由詩]結婚の心得・百か条/真山義一郎[2010年11月16日3時24分] 僕は ギリシアの神 エロスの 敬虔なる信者である という信仰告白から 物々しく始まるこの詩 エロスって エロ本の神だよね? と言う疑問はさておいて ゆうこりんと ほしのあきちゃんの 結婚報道 どういうことですねん? もう、十年以上の 付き合いになるんだね ゆうこりん ほしのあきちゃん 星がキラキラきれいだよ といきなりポエマーと化した 僕の頬に涙が伝う なぜ、みんな結婚するか! 僕も結婚はしたぞ 案外、よかった でも、離婚後の苦しみったらないんだから! と真夜中に 豪雨の中 教会の前で叫んでも 想定内だが 虚しいだけだった もう、くだらんので 家に帰って 「愛のむき出し」という素晴らしい映画を見た 主演の満島ひかりちゃんかわいい と思っていたら 結婚 もう 正直 眠たい というか、 毛布をかぶって 寝たい ああ、しまった 木下優樹菜ちゃんのことを思い出した 多分、 睡眠薬を 一箱飲んでも 眠れない いいんだ いいんだ 結婚なんか 地獄だ 無間地獄だ 地獄祭りだ ああ、結婚がしたい 叶恭子と 叶美香 両方と結婚したい 竹下恵子さんと結婚したい スザンヌと結婚したい 麻生祐美さんと結婚したい 石原さとみ・・・ 吹石一恵・・・・ 綾瀬はるか・・・ フカキョン・・・ ああ、もうだめだ 結婚とはインモラルなものだ だから魅力的なのだ だって、 私達正式にセックスしてます と世間に知らしめる 恥じらいに満ちた 変態プレイ 「始めての共同作業です」 どんだけの下ネタだよ そして、もれなく家族がついてくる 宝島社の雑誌のトートバックのように 美顔ローラーのように そのおまけを拒否できたら もっと、楽なのに 家族から抜け出したと思ったら また、家族 親戚一同 また、家族 核家族だって家族だかんね 結婚した段階で 家族だかんね 結婚が 変態プレイのまま この地上を浄化し エロ本の題材になりますように 僕はエロスに祈るのだ そして、今日も思う 結婚したいと・・・ ---------------------------- [自由詩]イン・ザ・祭り/真山義一郎[2010年11月28日5時01分] 旦過市場を抜けたはいいが 山を越え 谷を過ぎ ここはどこやねん ぐるぐるぐるぐる 廻る道 これがニーチェの言っていた 永劫回帰か あほんだら と 天と地におけるありとあらゆるものを 罵倒していると なんか見えてきた 町? いや、祭りだ 村祭りだ どきつい朱色の旗に 情けない水色で 「どうでもいい」 と書いてある そういうものが 何百本も立っている でかい 千と千尋に出てきたみたいな 建物がどかんと建っていて トーキーや 売春や 人身売買など やっていて わらわら わらわら すげー数の 人々は 皆 法被か浴衣か 半裸である 黒馬の生首を被った者もいる 先祖だな と 思った 先祖の ミサイル職人の 因業である まあ、それはどうでもよい 暑い あと一ヶ月もすると クリスマスという 神のまたその息子の 誕生日を能天気にお祝いする 祭りがあるというのに 暑い 天然サウナ これはやはり、浴衣か半裸であろう と、 躊躇なくトランクス一枚になった すると 三畳ほどの畳が 地上すれすれで するする 飛んできた 畳の上には 三人の遊女が 着物を崩して 横座りになり ひとりは 広末涼子によく似ており ひとりは池脇千鶴によく似ており ひとりは吹石一恵によく似ておる おにいさん おにいさん と僕は誘われるままに その畳UFOに乗り どこまでも どこまでも 飛んでいくのだが あれですね いざ、美女を前にすると すっごい緊張するんですね 僕 正座です 正面を向いて 背後に美女三人の 吐息感じつつ 仕方ないので そうめんを食べました つるつる ---------------------------- [自由詩]女川/真山義一郎[2010年12月4日3時13分] 早いもので もう 師走ですなあ スキンヘッドに眉剃った 袈裟着た師が 猛ダッシュで 次々と どぶに落ちますわなあ ところで、わたくし 二十歳で童貞を失ってというもの 女川を流れてきました ぬるぬるとろとろした 流れでありました それから十五年 ほとんど、女の方に食わしていただくという いわゆる ヒモ さあ、どうぞ 軽蔑してくんなはれ ごぼう天うどん食べてますから つるつる つるつる それでまあ 世間の荒波は避けてきましたが 女川の流れに乗るのも ある種、つらつらつらいいいい ものであります まず、 発散というものが ありません ので パチンコにはまったりするのですが 一日に十万儲けて 次の日に 二十万失うという やはり なんてーの 喪失感? やりきれないよね いやね、女の方には 感謝しております ねぇ このご時世に 屋根のあるところで生活させていただき おまんままでいただいて 生かしていただいて でもでも ざっぱーん ところてんが大量に 流れていきませんでした? まあ、それで 行き着いた先が 座敷牢ですよ 廃人ですよ 早い話 アルコールやら クスリ 自殺未遂などで 脳みそは半分以上 擦り切れています ああ もう、漫画も読めん 行灯だ 昼行灯 そこで 城に向かうことにしたKは 理不尽な目に遭うわけですな しかし、カフカの登場人物の特色としては ああ お花がきれい というわけで 人生は発散ですよ 要するに 肝要なのは で カルタをはじめました 元旦に向けて ひとりカルタ祭り 理不尽 ---------------------------- [自由詩]絶対的片思いのセレナーデ的なもの/真山義一郎[2011年1月16日14時26分] 君と歩く朝方の冬の道 気の遠くなる距離感 吹雪け 命 そして、凍死してしまえばいいんだ 俺 自殺願望は甘いドーナツ 君を想うだけで 真ん中に空いた穴に ダイブしたくなる ゆっくりと眠るように このうるさい国を抜け クリスタルの船で 君を抱いて旅をするという 妄想 君が誰のことを想おうが 誰とセックスしようがいいんだ 俺は めっちゃ久々に恋ができたというだけで 自己満足 寂しさからではなく 本気で好きになれたことの 自分勝手な満足 君はなんというか めちゃお茶目なんだ 君は最初に付き合った彼女に似ている 彼女はディスコで知り合った男と セックスする約束で 焼き肉店に行ってしこたま食った後 トイレの窓から逃げた 君がいつまでもお茶目さんでいてくれたら 俺は幸せなんだ 永遠に触れ合うことがなくても 君がこの世にいてくれればいいんだ マジっすよ かっこつけてるわけじゃねーっすよ 君は俺のことを忘れるだろう でも、俺は絶対、君を忘れない 怖いくらいに タトゥーで額に君の名を彫るくらいに 付き合ってもないのに 怖いだろう こんな俺 気持ち悪いだろう こんな俺 変質者なんだ でも、安心してくれ ストーカーにはならないから ストーカー、自分的にも面倒くさいから 君が泣いたとき 俺も泣きそうになった 君が逃げたとき 俺も一緒にどこまでも逃げたかった 君を抱きしめたくない 永遠に遠くにいてくれ 俺はその寂しさを ダンボールがわりに 眠るから ---------------------------- [自由詩]2012/真山義一郎[2011年2月26日4時14分] 僕の中で何かが決壊するとともに 完全に終わった 真夜中は爆発して ウルトラマリンの朝が始まる その青さったらなくて スコールのように 目にじゃばじゃば入ってくるんだもの 原色の獰猛な緑のジャングルに 君は素っ裸で立っていて ちっさなおっぱいやら 下のお毛毛やら見えて 僕はラッキーと思うのだけれども ぶわっさ ぶわっさ 君の背中から なんつったらいーんだろ 見たこともないような 赤青黄色緑がばーんってなった感じの でっかい蝶の羽が生えて びびったのなんの つー ぜろ わん つー って君があのとびっきり素敵な笑顔で歌うとさ その羽を思いっきり羽ばたかせて あの 馬鹿みたいに破裂した 燃える太陽まで飛んでいくんだ 目がくらんじゃってさ つー ぜろ わん つー って、 呟くしかなかった うん、 ただ、呟くしかなかった ---------------------------- [自由詩]青春/真山義一郎[2011年4月8日14時07分] むかし、むかし、 世界なんて滅びちまえ って切に願っていた少年がいたんだ でも、 いざ、世界が滅びる その日に 彼は 僕とお母さんとお父さんと あと、同級生の千絵ちゃんだけは 救ってください 救ってください って祈ったんだ なんだかわけのわからない存在に向かって やけに青い空に向かって めっちゃ、いい天気 ってわけでもないけど まあまあ、いい天気 だけど、僕らはいつも憂鬱で 満員電車に押し込められて まるで養鶏場の鶏みたいに その日の義務と責任に押さえつけられる 泣くことも 笑うことも 忘れちゃったな 地震があった でも、僕の日常は何も変わらなかった だけど、ある夜 万年床の中で やっぱり、僕、千絵ちゃんに恋してたなって不意に思い出して 泣くんだ 僕は泣くんだ いつまでも いつまでも 青春! 返してください 返してください って やっぱり、なんだかわけのわからない存在に向かって祈った 暗闇の中で やけに汗臭い 布団の中で ---------------------------- [自由詩]アナルの奥の町/真山義一郎[2011年5月2日1時59分] アナル、いわゆる肛門の奥には 秘密のスイッチがあって それを押すと あの町に行ける 真っ赤な部屋を抜けると あの町、独特のモノクロの世界 娼婦の塔 高架を走る思い出 そして、涙に濡れた公園 すべてが白と黒 ノスタルジアに溢れているようだが 勘違いしてはいけない 僕らはそこで 未来の思い出を見てる まだ、行ったことのない場所に 帰りたいと願い まだ、出会ってもない男や女に 恋と失恋の苦さと甘さを同時に与えられる ダ・ヴィンチやミケランジェロより ラファエロが好きだ と彼は呟いた 氷の美術館で働いていた彼女が 凍死する未来の話だ その呟きには マルボロの優しさがあり 僕らは二人 静かにコーヒーを飲む 少し気のふれた女が踊っている その女は徐々に闇を増し そのうちに完全に 影となり 電柱に消えた ああ、 と彼は 苦しそうに息を吐いた そう、 もう二度とその街から 逃れることはできないから 自由は渇望のまま 大きなため息になるしかない 老いるしかないのか 僕は問う 無論、返事はどこからも聞こえず ただ、将来、住むであろう あの炭鉱の長屋で 僕はジャック・ロンドンを 読んでいたらしい ---------------------------- [自由詩]暴動、そしてヒグマの影/真山義一郎[2011年5月10日4時15分] 張り裂けそうな胸を抱えたままで 整然とした街を歩いていく 君を失ったからではなく 単に空っぽな未来を想って 痛むこの胸がつらくて 知らないうちに奥歯を噛みしめている 若者たちが集まって 暴動が起こればいい なのに街は 年寄りだらけで 幸せに静かだ そして 僕の手からはいつの間にか ナイフが するりとすべり落ちていた もう、戻れないのだろうか あの熱狂に あの狂気に そして、あの無邪気に いや、大丈夫さ 祭りはこれからだぜ って彼らの声がする 十七歳 永遠に十七歳 人を殺すことでしか 成長できない僕らの 温かな戦争が きっと始まるから 薔薇色の夕焼けが僕らを包む パソコンをバットで破壊して RPGの勇者を永遠にリセットする 原始的で健康な暴力 しなやかな筋肉 体験から始まるリアルな痛み 恐れていた影が 檻から出てくる それはヒグマだ それこそ、僕が求めていたもので 街に伸びる長い影は まさにその凶暴さで この街をパレードに誘う ---------------------------- [自由詩]世界を共有する密林/真山義一郎[2011年5月26日1時50分] もう二度と行かないし もう二度と帰って来ない フェリーの二等客室に籠りっきりで 俺はずっとノートに言葉を書きつけていた 海の色はクリーム色 世界は脅威だ 俺の知っていることは 世界のほんの一部のほんの一面だけ それは君についても 自分についても 俺の心の中に めちゃ広い町が広がっていた その風景のひとつひとつを 誰かに説明したい だけど、話を聞いてくれるほど暇な人はいないし 話してもわかってもらえないだろう 第一、 どう話していいのか、自分でもわからない だから、俺は詩を書くんだね 小説を書くんだね ああ、そうだ そうに違いない なんて、思っていたら すでに下船時間で 早朝五時にも関わらず やけに元気なお姉さんのアナウンスが聞こえてくる もう、こういうの、嫌い 朝から元気いいのって、なんか嫌い んでもって、急いで下船の用意をそっから始める もっと早くやっときゃいいのに などと自分を責めつつ あ、ウォークマン忘れた うわうわ などと、焦りまくってデッキに出たら 朝焼け 俺はこの世界が滅びても生きるぞ なんて 朝日に向かって宣言した 最近、テロリストのことばかり考えている ---------------------------- [自由詩]不滅/真山義一郎[2011年6月4日16時24分] 貧しい公園の貧しいベンチで 貧しい僕らが座っていて コーヒーをひと缶 分け合って飲んで だけど、愛だけはあるから 寂しくはないよ お金が入ったら 二人で公営の団地に住もう そこには光が射すよ そして、僕らは 幸福に暮らそう 一緒にお風呂に入ったりして 僕はずっと鬱状態に見えるかもしれない 楽しくないの? って君は聞く だけど、こんなに幸せな日は 初めてだよ 子どもたちが走り回っていて 砂埃が舞って だけど、君は透き通っていくね コーヒーを僕に渡して 悲しそうに笑って ありがとう、 って小さく呟かないで 貧しい公園の 貧しいベンチにには 僕一人が座っていて 君のことばかり思い出して 葉に光が射していて コーヒーの缶が転がっていって だけど、愛だけはあるから 寂しくはないよ ---------------------------- [自由詩]永遠/真山義一郎[2011年6月10日22時02分] あの日あなたは この世からこぼれてしまって 涙が止まらないのはなぜだろう 瞳があって 涙腺があって 涙がこぼれて そのことと悲しみにどんな関係があるんだろう 愛 あの夜 寒い夜 二人して抱き合って もういなくなるから 必死で引き留めるように お互い求めあって 愛し合った 激しい口づけをして 永遠なんてないさ この瞬間だけさ ってあなたは言った あなたのいないこの世に 本当にもうあなたはいないのかな あなたのきれいな体と顔が消えたあの日から 私はひとりぽっちなのかな なのにいろんなものが残っている気がするのは なぜだろう 花束のような愛情と 溢れるような あなたの笑顔と 河原で風を浴びて 髪がそよいで 春から 夏に変わる空気 川は流れていて ゆっくり 手と手を結びあって 二人の関節がこつり 永遠なんてないさ この瞬間だけさ ってあなたは言った でも、あの瞬間は 永遠だった きっとあなたも永遠で 生活があって コンビニで光熱費を払って 肉体があって 毎日、ご飯を食べて 私は眠る あなたのいない 布団の中で でも、シーツには、ほら あなたの匂いが残っている ---------------------------- [自由詩]女の子と歩く/真山義一郎[2011年6月17日14時42分] 港町を 女の子と歩いていた 正直、 まったく楽しくない 第一、話がまったく噛み合わない 彼女は体育大学出の ばりばりの体育会系で 本などほとんど読んだことがないという その点、俺ときたら テレビも見ずネットもせずに ちあきなおみなど聴く 読書と映画とアイドルと風俗だけが趣味みたいな 変態文科系オタク お互いがお互いに興味がなく お互いがお互いの大事なものを大事と思わない だが、お互い大人なので それをけなしたり、踏みにじったりもしない だから、楽しくはないが、 不愉快ではない 港町なので 港の風が吹く 春先なので 寒い しかし、海はきれい しかも、日が暮れれば暮れるほど 夕焼けの眩さが 心を熱くする 夕焼けってなんでこんなに素敵なんだろう 素敵に俺を哀しく優しい気持ちにさせてくれるんだろう と、思いつつも その女の子と盛り上がることもない ああ、でも、こんなのもいいなー、と 思えるようになったのは、 やっぱり、おっさんになったからで おっさんになることもそう悪いことではないな と 多分、初めて思った 無論、 その後、 風俗に行った ---------------------------- [自由詩]安宿ごろごろ/真山義一郎[2011年7月2日3時27分] 起きると二時 ああ、夜中に目が覚めてしもうた と、思いきや、昼の二時である よく寝たな と、テレビをつけるとサスペンスドラマの再放送 うむ。 面白いではないか と、それから寝転がってテレビを見ている まあ、普段からごろごろしているのだが、 ここ数週間、余計にごろごろしている 谷間の民宿で 沢に水の流れる そもそもは、ももいろクローバーZがきっかけ ももいろクローバーZのライブ 昼、夜、二公演、四時間に渡って みんなの妹、しおりーん などと絶叫してからというもの なんもする気がしない で、バスに乗って 谷間について そこらへんを歩いているうちに 発見した安宿に逗留 しかし、なにもしないのも癪だ ので、部屋にやたらと置いてある観葉植物に水をやったり 亀や金魚の餌やり業務をしている やはり、俺にも働きアリと称される日本人の血が流れておるのだな と、自分で感心しつつ また、ごろごろしている そのうちに 女中のお梅ちゃんと仲良くなった 十八だという 若い じゃが芋のような顔をしているが 愛嬌が良く 俺はこんな子が好きだ という子 と、いう話になると、 すぐ手を出そうとするはず、 というのは偏見であり プラトニックを貫いている 実のところ ももいろクローバーZのライブ以来 性的に不能に近い 全体的にダルダルなのである で、お梅ちゃんを 横に寝かせ お互いうつ伏せになり バタ足の練習などしている バタバタバタと もはや、解脱 横になると涅槃 そういう日々が永劫に続く予感 もう、夏だね 沢の緑は青々 空にはでっかい入道雲 ---------------------------- [自由詩]夏って/真山義一郎[2011年7月21日5時47分] あーあ 夏が来た やばい 俺が性犯罪者に最も近づく季節 ってかさ なによ おねーちゃんたちの あの格好 ミニスカート ホットパンツ キャミソール 下手すると下着見せてる 君たち 恥を知りたまえ 恥を で、生足だの おっぱいの上部だの さらして あのね、 ガン見しちゃうでしょ どうしてもさ でさ、香水と汗の入り混じって すさまじくいい匂いでしょ でもさ、 ガン見すると 嫌な顔するじゃん あれ何なの? 見て見て って格好しといて 見たら怒るって なんのプレイ? だから、俺は修練に修練を重ねたね ガン見じゃなくてさ もう、チラ見 チラ見なんだけど ガン見 チラって見るじゃん で、気づかれる寸前に ずさっと視線ずらして ああ、今日はいいお日柄で って感じで風景を眺めてね 脳裏にはがっちり おねーちゃんの生足などをね 焼き付けるわけですわ チラっ 目をそらす チラっ 目をそらす そのうち 風景と生足が溶け合って もう、世界は桃色 でも、このチラ見さえ バレてる気がすんだよね 最近 見せてるね あれは ってことはさ 触っていいの? ってことで 俺はますます性犯罪に近づいていく 畜生 女の子、大好き! ---------------------------- [自由詩]夏と海と雪駄/真山義一郎[2011年8月8日21時21分] 夏 あぢ なんか、快晴ではない 曇っていて 空気がじめっていて あぢ あぢい 君と別れるとさ 俺はもう 切なくて 切なくて なんか、夏祭りらしいんだけども 俺、見学も参加もしない ただ、 波止場の 海の ぎりっぎりのところに腰かけて 海 じゃなくて 自分の履いてる 雪駄眺めてる ああ 男はいつも 女の子に教えられてばっか 俺の駄目さ加減が 君のせいで 浮き彫りになっちまう おっぱい? おしり? ああ、そりゃいいよ いいもんだよ 白くてさ すべすべしててさ だけど だからこそ やりきれないんだよね 海が 岸壁にゆるく ちゃぽん ちゃぽん ---------------------------- [自由詩]風景の記憶/真山義一郎[2011年8月23日5時07分] 風景は記憶を宿している だから俺は ゆるゆる その風景に 流れ込む いつも路地裏 猫がいて 丸くなって目を細くして寝てる 気持ち良さそうに 俺は雪駄で歩いていくだろう そうだ 季節はいつも 夏 太陽が百個くらいあって 光が爆発してる 福山雅治によく似た イケメンの山本さんが笑ってる んで、ヤリマンの美穂がいて そして、 お前がいる あの三階の小さな部屋に お前は派手な花柄のTシャツに 黒いスパッツで 下半身に張り付いたそのスパッツに お尻に 曲線に 俺は頬ずりしたくなる お前は笑う 昔の姫君のような顔で お前は人妻だったけど 俺にとってはどうでもいいこと 二人、並んで 「ごっつええ感じ」見て 一緒に笑ってることの方が ずっと、ずっと、大事だった あれから十六年ぜ 嘘みてえだ 十六年経ったってことが嘘みたくあるし お前と過ごした あの日々が 嘘みたいに思える時もあるんだ だから、俺はそれを確かめたくて 十六年ぶりに あの街を訪ねる 愛とセックスと、 憎しみと屈辱に塗りたくられた あの街を おいおい 廃墟ぜ ここは 街は再開発という破壊のあとで あれもこれも 新しい色に ぶっ壊されてる でも、俺は 路地裏を見つけるのさ 猫がいて 丸くなって目を細くして寝てる 気持ち良さそうに 俺は雪駄で歩いていく そうだ 季節は今も 夏 でもよ、 お前と過ごした あのアパート カラオケボックスになってて しかも、そのカラオケボックス ぶっ潰れてて でも、俺はやっぱ三階の あの窓を見上げる 窓から お前が顔を出して 笑ってくれんじゃねえかと思って 昔の姫君みたいな あの顔で 太陽が眩しい ---------------------------- [自由詩]君の季節/真山義一郎[2011年10月20日18時22分] 君の季節 君の季節 君の季節がやってきた 君色に吹く風は あの頃のいさかいとはまったく違って とても優しくて だから余計に寂しい 君と一緒にいた頃より 君と別れてからの方が 君を深くまで感じる 君の考えていたことをなぞり 君の呼吸を呼吸する きっと、そんなふうに愛せてたら って 後悔はやっぱり ペタペタ ペタペタ ペンギンのように 僕の後ろからやってくる 君を再び 抱きしめたい ってのが本音 君のパッツン前髪 変な顔し合って 二人にしかわからない シュールすぎるギャグで笑いたい でも、果たされそうにないから 畳の上で 君の季節を感じてる 君から吹く風 そして 君への祈り  (君がいつまでも、いつまでも…… 路地裏を抜けて あの路地裏を抜けて 走って来てよ 光のように!     光ね      光さ ---------------------------- [自由詩]黒い海/真山義一郎[2012年2月17日17時45分] まだ幼い頃 家族で夜の海へ 泳ぎに出たのだろう 若い夏草のような 家族で 私は玩具のように 小さな浅黒い生き物 だった 海もまた 生き物だと 生々しく感じたのも それが初めてだった のかもしれない 地面から ごご、と 鳴る波は 月明かりに照らされた 浜辺だけが この世のすべてではなく ずっと奥の 闇へ 連綿と 繋がっていることが 地球儀の上だけの 夢想ではないと 誰かが言い聞かせるように 静かだった 父や兄ちゃんたちは 酒も入っているのか愉しげに 黒い海へと入っていくのだが 一人一人と 海へ呑まれっきりの気がして しかし、海辺では母が より玩具じみた弟を 海に浸からせて 私の不安の振り子は 遊ばせていてあやふやなまま 揺れているのだった そのうちに ぽかり ぽかり 父や兄ちゃんたちの笑顔が 黒い海に浮かんだ ずっと後になって 兄ちゃんの命は 我々、家族の掌から 零れ落ちていった 一滴の死は 大きく大きく波紋を広げる 死んではいけない 誰も この世界で役割を終えるまでは というのは ちっぽけな人間の 儚く幼稚な 願いなのだろうか 波に呑まれかけて そんなこと言えた 義理ではないことは 重々わかってはいるが 歯を噛みしめて 目を覚ました 悔しくて悔しくてたまらない そんな夢を 見ていたようなのだ それは涙だっただろうか それとも血だったのか 指につけて 舐めると やはり、食卓塩のように 残酷にからいのだ 深夜と戯れるように コーヒーを飲みながら あの黒い海を思い出すと やわらかな 和解が訪れる日も いつか きっと 来る そんな気も するのだった いや、 その日はもう 訪れているのかもしれない と 小さく呟いてみた ---------------------------- (ファイルの終わり)