木葉 揺 2021年1月22日23時36分から2022年6月25日21時32分まで ---------------------------- [自由詩]異世界の人/木葉 揺[2021年1月22日23時36分] 初めはそんなこと知らなくて 何でも通じると思ってた あなたが男だから わたしは女であって この世界のふつうと思ってたから 違う世界の人だなんて 思わなかった 違う世界も男と女があるんだ 同じ音を発してるのに 意味してることが違う あなたにはキスは挨拶で 私には愛の確認 あなたは私を 「異世界の人」と言う でも出会った 目的なんてなかった 二人で作ってる空間もあるでしょう? 二人の時しか生まれない空気もあるでしょう? でも知ってる 日が浅いのに もうズレて来てる すれ違ってきてる そのうち薄い壁ができて 私がドンドン鳴らすでしょう ドンドンするたび 厚くなる壁だと知っていながら ---------------------------- [自由詩]刺すような寒さ/木葉 揺[2021年2月6日19時53分] 刺すような寒さとは まだ刺されていないのに おかしい なぜ皆知ってるんだ 刺されたときの痛さを 何か私に隠してるのか もしかして 刺すような痛さは 刺した時の痛さだろうか 胸の痛みが半端ないとか やっぱり隠してるんだろう どっちもいやだけど 刺されたときの痛さ であってほしいな 全力で温めるから 全力で癒すから できること何でもするから そして何に刺されたか 教えて欲しい、皆 え?刺された人と 刺した人が同じくらい この寒さが? そのときの痛さだって? うそだぁ あ、 比べなくていいから! 私は知らなくていい! ---------------------------- [自由詩]思い立てない日もあるさ/木葉 揺[2021年3月26日20時04分] 思い立っても動けない 吉日じゃなくても 動かなきゃいけない そんな日がある アメーバのような移動でも 一歩のうちだから 重ねて行け重ねて行け 流されながら 刻んでいけば大丈夫 人間の一歩まで 案外早いから ---------------------------- [自由詩]椅子/木葉 揺[2021年4月11日23時58分] 座るな、と 椅子が言う お前の未来を知ってんだ 引きこもって 座りすぎて 腰痛になやんで 手術がいまいちで 歩けなくなる だから座るな と椅子が念を押す 頼ってくれるのはうれしいんだけどな なぜか照れて付け加えた ---------------------------- [自由詩]接点/木葉 揺[2021年5月21日18時33分] 数時間だけ 物語のような 接点が見えたね 別れて一度 すれ違ったのは なぜ なんの確認を させたかったの 私達に ---------------------------- [自由詩]詩人はふくざつ/木葉 揺[2021年5月29日21時26分] 行きつけの喫茶店 小さなフォトフレームに 花の詩が書いてあった 優しいペンネームを添えて ウェイトレスさんに 「詩人さんが書いたんですか」 と聞くと 「ママが書いたそうです」 と答えたので 「ステキです」と伝えた その日、私が帰るまで ママは顔を見せなかった ---------------------------- [自由詩]お前だけ/木葉 揺[2021年6月29日22時48分] 「もうこんな時間」とは やることのない人の台詞ではない それでも流れるものは流れる 誰も私に期待してないから 近所のレトリーバーにお願いして 遊んでもらっていたのだ やることがないのは うらやましがられる割には 憐れみも降りかかってくる 犬はどうしたら良いかわかってるのに うらはらとか矛盾とか表裏一体を知らない だからひたすらフサフサと撫でていた ただそれだけだ ただそれだけなのに 体が柔らかくなり皮膚がぽっと温まる だれが魔法の使える生き物をもたらした しかもみじめったらしい自分にも 大会社の社長にも同じく優しい 私はお前に 何も与えることはできないんだよ なんか知ってる人間 というだけで 今日の私をずっと救ってくれたのだ いつかお礼をせねば あ お礼なんてしない方が 飼い主さんに迷惑かけなくていいな 飼い主さんの幸せが お前の幸せなんだもんな ---------------------------- [自由詩]ジェシー/木葉 揺[2021年7月15日22時21分] ジェシーがいるとき 本当のことが見えない 粒子は存在するのに 彼女の口笛に飛ばされて散る 散った粒子を探してばかりじゃ 彼女が秋の新作を纏っていることも 気づかずウィンドウを過ぎる ジェシーは妹のようにいた 時々困った場面に現れるのは 私が彼女を理解してないことを 知らせるためかも知れない 彼女の話をしっかり聞けば 口笛なんて吹かないのだろうか 粒子が浮かんで 本当のことが見えるのだろうか ---------------------------- [自由詩]ばらける言葉/木葉 揺[2021年7月29日19時12分] 言葉が滑り落ちていく そんな時間が長引いて焦る 私はごはんを食べる 私は眠る 私は少しは掃除する 大事な何かがないから 言葉がくっつかないんだ ばらけた言葉を集める 集めて重ねる 並べてもつながらない 風がふいたように ---------------------------- [自由詩]冷たい理由/木葉 揺[2021年8月19日14時23分] 別れ際、聞きたかったのは なんで夏なのに寒いのかということ 保冷剤? 私の背中に当入れたなんて 気づきもしなかった きっとあなたの言葉 きっとあなたの心 きっとあなたの眼差し 両腕が震えるほどに あなたを信じられなくなって だから寒いんだと 泣きそうになっていた 思い込みはいけないね 背中が冷えたら 全部冷えるもんね 保冷剤 良く効くんだね 何を買ったらもらえるのかな 真似っこじゃないよ 誰でもうまく冷やせるかな 話すことはもうないけど 理由だけ知りたくて 思いがけなくて ホッとしただけだよ ---------------------------- [自由詩]くらす/木葉 揺[2021年9月11日22時36分] 暮らしを愛せる ただ目覚めが良かっただけで 苦手な料理が重くない 砂糖ばかりに頼ってない 「足がある」 椅子が教えてくれた だから外へ出る 町の人たちのように いつか苦しくも笑って 働けるようになるだろうか こわくて甘えているだけなのか ニュートラル 冷静になってみる 昨日、暮らしを愛せてなかった ただ、家にいる私 一日違いで別人のよう 波が人より高いだけ 底が人より深いだけ 上下を繰り返して生きる なだらかな波になるまで 慌てないで 暮らす ---------------------------- [自由詩]回数券/木葉 揺[2021年11月7日19時04分] 小さい数字でぴたりと解決された時 折れた破線を引っ張る感触を思い出して 失われる幸福にむせび泣いてみたいと思いました ---------------------------- [自由詩]あの絵がいやなんだ/木葉 揺[2021年11月26日19時46分] 君のことは分かるけど あの絵だけは受け入れない 君が描いた絵じゃないけど 申し訳ない 好むことができないんだ なんか分かるところが 君に似てる絵 君が描いた絵じゃないのに そうしてきっと 私にも似てるから いやなんだ あの絵がいやなんじゃなく あの絵を好むことが いやなんだ ---------------------------- [自由詩]コンプレックス/木葉 揺[2021年11月26日22時30分] だからあれだけ言ってはならないと! 申したではありませんか。 コンプレックスが強いのです、あそこの犬たちは。 歯を向きだしてる子だけじゃありません。 いつもうなだれてる子、震えて上目づかいな子、みんなです。 施せばいいと思ってらしたんでしょう? 全くあなたのような苦労知らずで高飛車な御方には、 あの子たちにの気持ちがわかるもんですか! 繊細なのですよ。言葉にも。 なんですって?こちらの気持ちもわからないんだからって そういう見下しがいけないんです! こちらが知らないときに、見透かすことだってあるんですよ! ---------------------------- [自由詩]届かない/木葉 揺[2021年12月2日19時36分] 何もかも整っているのに 整ったものたちを 壊して行く人が まぶしい 手を伸ばして 届かない この感覚が欲しかったのか ---------------------------- [自由詩]スケアクロウ/木葉 揺[2021年12月3日15時52分] ようやく畑にたどり着いた 遠くを見て佇む案山子ひとり 腕はだらりと垂れている そばへ歩いてゆくと 帽子を取ってお辞儀をしてくれた 私もお辞儀をする 顔を上げると案山子は 帽子を持ってない方の腕で 遠くを指した 私を促すように指し続ける 帽子は胸の辺り とまどう私にたしなめる目 期待外れを滲ませる 足取り重く私は歩き始める どこだかわからない 案山子の指す方向へ ---------------------------- [自由詩]つぶやく/木葉 揺[2021年12月25日23時56分] いのち、いのち いのち つぶやけば 延びるもの 私のいのち 貴方のいのち 皆のいのち だから つぶやいて眠る また明日目覚めるように ---------------------------- [自由詩]新年、わたしらしく/木葉 揺[2022年1月1日20時41分] さあ、2022年 空を見上げて 羽を広げて どしたらいい? おみくじには 「慎重に」的なことが 書いてたけどねー ぱーっと行きたい! 年齢なんてきにするな 良いことしか待ってない ということにしとく 安全確認して 羽を広げる ぱたぱたと私らしく ---------------------------- [自由詩]心配の取り扱い/木葉 揺[2022年1月2日22時59分] 誰かへの心配がつづいて 憂鬱が消えないなら もう心配やめちゃえばいい 自分が楽になるためでしょう 自分を冷酷だと思ったり またそれが心配になるのかな 心配が趣味なら仕方ない できれば心配をしたあと ちょっと信頼に変えておいてね ---------------------------- [自由詩]窪み/木葉 揺[2022年1月15日20時53分] 誰を求めている? うそ ほんとに求めてるのは 自分に関わる平和 人恋しいわけじゃない 窪んだ胸に 焦って何かを詰めようとして 切なくなって 人を求めていると 勘違いしただけ ---------------------------- [自由詩]おまじない/木葉 揺[2022年2月2日18時41分] 保湿クリームの温かさに聞く 明日はどんな現実を生きるの? 今日よりちょっと良い? 甘えて聞いてごめんね どんな風になっても 私が生きてるところが現実 頬にクリーム伸ばしながら 夢なんて見ないよう祈った スムーズに明日へ移動したいから ---------------------------- [自由詩]泣けない時は/木葉 揺[2022年2月13日20時56分] つぶやくことから始める なぜ泣けない 泣いたらスッキリしそうだ 首から頭にかかる圧力 鼻で吸い取って軽くするけど ちがう 本当は目から出せばいい でも水滴になりそうもない こらえてるつもりないのに 今から映画でも見ようか いや、感性がズレてるから 泣けないかもしれない でも ということは みんなが何とも思わない所で わんわん泣くかもしれない ワンワン鳴いたら犬ですよ 冗談言える余裕が出来たね 泣かなければならないこともなかった ---------------------------- [自由詩]お門違い/木葉 揺[2022年2月18日14時20分] 眠りたくない 一日寝ていたから 働く人に詫びながら 何もできず 真夜中になって 心の整理の手段を探す 何度でもやり直せる だけど時は流れていいものか ジリジリと減ってゆく 私の生きる時間 こんなに幸せでも どんなに運が良くても ジリジリと 夫の寝息を聞きながら 永遠という概念を憎む お門違いか ---------------------------- [自由詩]声/木葉 揺[2022年2月27日21時36分] 声にならない声を 立てる 立てることで見られる 一人がダメなら 追従すればいい 目的を失わず 日常を忘れず ただそっと 胸の中の声を 立ててみる ---------------------------- [自由詩]甘えだったのか/木葉 揺[2022年3月6日22時42分] 弱音を吐いた 正直に言った 誰かしら聞いてくれたら 元気になれるから でも甘えだったのか こんな哀れな私です そんなことないよ 決まったラリーを期待して 皆に救ってもらって いくつになっても 子供みたいな 自分に腹が立ちながら 立ち直ってる ---------------------------- [自由詩]JUST IN/木葉 揺[2022年3月13日0時34分] 濡れた手で 床に落ちている髪の毛をつまみ ゴミ箱にシュート 奇跡が起きた 髪の毛は手から離れ JUST IN 最初から 8割あきらめていたのに ---------------------------- [自由詩]そうして落ち着きました/木葉 揺[2022年3月20日21時15分] 晴れた朝 新しい洗顔フォーム 香りが 苦手 何なのさ 鼻を突き刺すような これと半年付き合うのか はたまた ゴミ箱へさよなら800円 800円は惜しい ガマンして使う 何故に毎朝 苦手な香りを 顔全体に 改めて学んだ 人間は慣れる生き物 いつの間にか あの香りが気にならない 鼻を刺さずにすり抜ける そうして 爽やかな朝が続いている ---------------------------- [自由詩]熊手で/木葉 揺[2022年3月31日1時39分] SNS上の詩人たちを 熊手でがーっとさらう 角度をかえて 熊手でがーっとさらう 大阪に集める すてきなイベント? ん?私は用意してないよ ただ寂しいから呼んだだけ 詩の話をするの? あんまり詩のこと 知らないんです・・・ 帰らないでーーー 努力しまーす 努力しまーす もう誰も熊手にひっかからない ---------------------------- [自由詩]ほんとなら/木葉 揺[2022年5月20日23時02分] ほんとなら詩が書けるのに ただ呟くことしかできない あなたを探してる 早く別れたかったあなたを 良くも悪くも 私に興味あるのは あなたしかいなかった たとえ恐怖を覚えても 探してはだめ もう救われたの私は そう、ずっと呟いている ---------------------------- [自由詩]天国はどこだ/木葉 揺[2022年6月25日21時32分] 地獄のような山 吹けるマグマは三拍子 地に落ちて血に変わる たどり着く列車は 溶けかけの人々を乗せ 運命に這いつくばる姿を 壊れた楽器のような音で 山に届けるのだ ここを何とか逃げ出せたなら 天国行きは確定だろう ここ以外は天国なんだから 本当の天国は恐ろしいほど幸せか ---------------------------- (ファイルの終わり)