蒼木りん 2009年11月26日13時13分から2013年7月9日10時32分まで ---------------------------- [自由詩]せい/蒼木りん[2009年11月26日13時13分] そう ぜんぶ自分が悪かったんだと 見止めてしまった方が 楽なんだ 戦いを挑む気力もない お風呂を洗い忘れたのもわたし 水道代がかかるのもわたし シャツの襟汚れが落ちないものも こどもが言う事をきかないのも 貯金がないのも あなたのしたいことをやれないのもわたし ぜんぶ わたしが悪いのね そう ぜんぶ自分が悪かったんだと 見止めてしまった方が いまはわたし 楽 戦いを挑む値打ちもない 望みは 叶えてあげるよ わたしがんばるよ あなたを愛してあげられないから わたしがんばってるのよ 存在の証 残すために だから わたしより先に死んではだめ そう ぜんぶ自分 ---------------------------- [自由詩]らんし/蒼木りん[2009年11月27日22時36分] 乱視の月を 綺麗に見てみたいから 眼鏡をかけて 見上げた蒼い夜空 望遠鏡でさらに探る 月って こういうものなんだ なんだか そこまでしてはいけない気がして いつも乱視のままでいいやって でもそれじゃ駄目だって 口のきける人 文字の打てる人 こっちを見てる人 怖いから 犬と猫と話しをする 可愛くていじめるけど わたしには 愛があるんだよ わかってよ バームクーヘンを半分あげるから なかよくしてね わたしの身体が 昨日とは違う衰えを知るとき 年寄りになっていくんだと すこし感動する 日本のかたちが 天気予報で見るあの形なのか 確かめてみたい わたしの魂は どこにいくんだろう どこからきたんだろう UFOもネッシーもツチノコも 車がもうだめみたくて バッテリーを交換 タイヤも交換 洗車と掃除 だれかやってくれないかな テレビを見て まだ今日にとどまっていられる人 洗濯を干して米を磨いで わたしは 首を回しながら 明日とその次を考えてる らんし  らんし  らららん  らんし 明日はカレー 硬いご飯に合うカレー ねずみの馬車は来ないけど いつか王子様がやって来る クリスマスケーキをもって 乱視のシンデレラのもとに 絵本のように ---------------------------- [自由詩]猫がなくので/蒼木りん[2010年1月9日23時11分] 猫がなくので すぐ愛子にいくと インターネットをやる気にもなれず 寝ころんで 磨いたサッシ戸から月を見て 浮世の面倒から逃避するのです 布団は薄い夏布団二枚と 毛布しかないので 電気毛布の敷くタイプを上に敷いて 温まっていますと 体が乾燥してしまいます 嫌いなものといると そのことばかり考えているうちに 嫌いなものに染まっているのに気づいて つまらなくなります 小学生の算数の問題なんかを解いてみると 計算できない自分に がっかりしてしまいます どうか わたしを変えてくれるひと 現れてください うれしいのは 会社から帰宅すると 犬も猫も わたしに会いたくて会いたくて わんわん みゃーみゃー 鳴くことです おわり ---------------------------- [自由詩]寝床/蒼木りん[2010年5月30日21時33分] わたしが寝床で猫と眠っているころ キミは夜光虫で 山在り海在り仕事をして 朝になるころ 街灯も消えて 携帯の点滅も消えて わたしが現れるのを 帰りの車の中で待っている キミとわたしは キスもしなければ 手も触れない 磁石のSとS  NとNのように 運命が 瞬時にふたりを引き離すから もし 無理やりくっつけたら ドーナツてしまうだろう くっつけたものが 壊れてしまうんだろう 狂ってしまうんだろう キミとわたしは 壊れたり狂ったりしないために 今日もそれぞれ 寝床にもぐりこむんだろう ---------------------------- [自由詩]頬骨/蒼木りん[2010年6月22日10時08分] 立ち入り禁止の 義母の部屋に入り込んで おしっこをしたり 供えたお菓子を引っぱり出して 食べ散らかしたり 犬が悪さをするようになった 酒飲みで我が強い とてもこども染みた人だった 愛されたい欲求が言動に表れる わたしは甘えた人間は嫌いだから 見ない 聞かない 話さない 義母が死んだのは 義父さんの命日の次の日で せっかちな義父さんが 三年と半日生かせて 「もういいべ」と 連れて行ったんだと思う ユリの花の匂いが嫌いだといっていたから ユリばかり買って来て 活けてあげよう わたしはとてつもなく ユリの匂いが好きだ 早くこの世に見切りを付けて 内臓を貪る獣の正体に戻れば 魂も楽になるだろう 野獣の息子はそのうち わたしが王様にしてあげよう ほんとうは無理だけど 目上のたんこぶ たんこぶも 夜中にひとりで泣いていたんだろう いたるとことに置いたままの さびしさのガラクタに囲まれて お腹に水がたまると もうだめなんだと わたしは言えずにいた 顔はもう死人の色だったし 医者は椅子から飛び降りて 見えない匙をなげていたもの あれから まだ一ヶ月も経っていないのに 随分時間が過ぎた気がする 故人はけしてしあわせではなかったろう わたしもしあわせではなかったから 小鬼は 染めた頭のてっぺんから 一本の角を出して ときどき暴れだす それでも母であった あれでも母親だった いらない苦労をするのは わたしが生まれつき 柿の木の下で 寝かされていたからだと思う 柿の葉のあまい匂い わたしは いまだに 仏壇の遺影の顔を ちゃんと見れない 喧嘩のときは おもいきり睨めたのに ---------------------------- [自由詩]ざまみろ/蒼木りん[2010年6月24日22時57分] 俺様やろうに また「てめぇ」て言われた 何様じゃ お前は 大奥様に向かって 何たる侮辱 きさまは  お子ちゃまのクセに 『ひとこと言ったその日から恋の花散ることもある』 おおたきえいいちは いい声だ 微妙なニュアンスを分からない あんたが嫌 お前の分の チョコパイ食ってやる 今夜は 布団をかけてやらない ざまみろ あ ---------------------------- [自由詩]そんなことばっかり/蒼木りん[2010年7月2日23時20分] 人の善し悪しってのは すぐに「キライ」って言う そんな単純なことじゃ わかんないんだよ 自分に都合のいい人が いい人じゃないんだよ 親や友達じゃないから そんな無責任なこと 平気で言えるんだね 尖っててカッコイイね ガキだな チッ そーゆー八百長ってのは あっちこっちでやってるんだろうな そんなこと 言う奴に限って 自分がちょっとでも浮いてきたら みんなやってるんだから 別にいいじゃんて 甘えるんだよ 居た世界がちっさいから バカだな 気の小さい生き物は 忙しなく動きまわり 見るものが敵か味方か それしかない 少し針に触れただけで ものすごい逆襲 喧嘩好きなんだね オマエの欲求不満に 付き合ってる暇はないんだよ 暇がもったいない 頭わるいな ずっと前から 酔っ払いが嫌いで 酔っ払いの屁理屈 黒いものを白という バカさ加減が大嫌いで 敵を倒すには敵を知れと 酒を飲んでみたが ダメな自分を晒す気はないよ あれは正気で勝負できないヤツの 魔法の飲み物だ 呆れる つかれた 最近 キツネと狸が入社してきて 仲良くパチンコの話しをしている 上手に化けたもんだ 同じ所に10年20年もいると 妖怪と呼ばれるらしく 確かに顔もやることも 怪しい 人間はどこにいったんだろう 人間なんて もうどこにも居ないんじゃないかな ---------------------------- [自由詩]また捨て猫がいるんじゃないかと外を見る/蒼木りん[2010年7月6日10時50分] 去年のいまごろ 子供が拾ってきて ミルクを与え 病気だった目に 抗菌の人間の目薬を差してやって 鼻水拭いてやって お尻拭いてやって おトイレおしえて ゲロも掃除して 一緒の部屋に寝てやってるのに 抱っこを嫌がる で なんで ロクに世話しない 拾い主や お兄ちゃんや旦那に 気持ちよさそうに おとなしく抱っこっされてんだよ ゴロゴロいってるし 雄のクセに 男がすきなのかー かあちゃんは おトイレ掃除する人か うんにゃ わかってるよ 本命には 素直になれないことを その分 どうでもいい人と 擬似恋愛 無意識に そうしてしまうことを 本命とは なかなか上手くいかない 哀しいサガ あたしも それで失敗した ---------------------------- [自由詩]夏みかんサボテン女/蒼木りん[2010年7月9日23時48分] ちゃん付けで呼んだのに んー?と不機嫌な返事をした おまえ あたしの半分しか生きてないのに 生意気な奴だ 「オ マ エ ナ ン カ キ ラ イ ダ」と 心でつぶやく そうか おまえもあたしが嫌いなのか 多分そうじゃないかと思っていたが なるほどな いまはっきり分かった 嫌ってるやつの匂いは 10ちゅう8っ9嗅ぎ分けられるんだから サボテン まあるいサボテン 2センチくらいの小さかったサボテン 大きくなった あたしがかまわなくなったんじゃなくて あんたが勝手に 自分のにしちゃったんだ どうでもいいなら この家に連れてこなかった 私の気持ちなんか だれも分かっちゃいない そお言うあんたは 自分不幸が好きなだけ ありがた迷惑って知らないのかな あたし なんであんなにバカだったんだろう 肉食は草食のふりして 草食のふりした肉食を喰らいに来る こんなこと 端末じゃ当たり前で まじめに考えなくてよかったんだって これって非日常 テレヴィジョンのなかの設定 肉が食べたい時に肉はなく 草ばっかりで飽きたから 恋に似た甘いもの食べてたら 病気になりそうだよ 急に血圧下がる感じ 刺激が欲しかっただけで あんまり深く考えてなかった のに 深刻な問題になってしまって 人生って 何が起こるかわかんないね 自由でいたいね なんか違うね あたしふところ深いし 寛容だよ だって大人だもん あんなになりたくなかった 大人になってみたんだもん 凄いでしょう ---------------------------- [自由詩]?水面? むかしを思い出してるようじゃ、だめなんだなぁ/蒼木りん[2010年7月17日11時26分] ある 大きな湖で 夏の夜 泳げたらいいなと 思っているんだけれど いろいろ いろいろ その水につかって 溶け出さないかなって 海じゃ だめなんだ あの湖じゃなくちゃ あんまり遠すぎて 泣いてしまうよ 湖畔にて 戯れたる 夏の夜の 打ち上げ花火 波の泡に似て だからなんだってのさ そんなことじゃなくて 何もかも置いていって あそこまで歩いていったら 何日かかるだろう 倒れたり死んだり 犯罪に巻き込まれないで 風呂にも入らず ボロボロになるかもしれないけど たどり着いたら あの湖は 私を受け入れてくれるだろうか ひとりで水につかって 通報されないかな 暗い空 怪しく光る 水面下 今も眠る 数万の魂 送り盆はやめておいたほうがよいな ---------------------------- [自由詩]ただいま /蒼木りん[2010年7月19日23時46分] 暑い日には 「アイス」ではないかと思い なるべく皆がたくさん食べられる しかも 私の好みの バニラにチョコクランチのを 買って帰ると 「おやつはなにか?」と ドタバタと二階から降りてくるやつが 一ぴき ビニールの買い物袋の中 ほかの食材をかき分け 「アイス」の箱を見つけ出す おいおい ほかの物を冷蔵庫にしまうなどしろ そんなことでは 一人暮らしなどできないぞよ このガキが 自分のノートパソコンが もう寿命だと知るや 何も手につかず あさ 自分で買うといっていた 掃除機のゴミパックを買うのも忘れ 昼飯の皿も洗わず 夕飯のしたくもせず 予定外の換気扇掃除をして 満足している 草を刈ってほしかった 私のサンダル履きの足が 雑草の露で汚れるじゃないか 買ってきたのは 常務に薦められた小説だった それは 私が20年以上前に買って読んだ本 本棚にあるよ なぜ 男は胡坐をかいて 食事ができるのか 胡坐をかいている時点で 行儀が悪いと思うのだが 姿勢が悪いだの 口を皿にもっていくなだの 肘を突いているだの 決まって同じ注意をする お酒を飲んでいるときは そんな格好でも良いらしい 靴下を裏返しのまま 下着も裏返しのまま 食べ残しにラップもかけない 目の前のちょろちょろ 目の前のひらひら 男は そんなものがすきだ それに 私を呼び捨てにするな イヌもネコも 私が帰ってくると うんこをします 別にね 待ってなくていいんだよ いや 待っててくれてありがとう 「アイス」は 一人二個までだよ ---------------------------- [短歌]独立願望/蒼木りん[2010年7月23日22時19分] なんでかな ソンナニ嫌われる理由 親になったら 忘れちまったよ 東京に 人の意のままなる似せ 緑を造って 生きるってなに マネキンが 命持ったような姿 グッピーみたいに オンナノコたち 切除した いらない皮膚でも あのこの一部だった 粗末にしないで もし君が 自分の人生しょってく 覚悟できたのなら わたしは油絵描くよ ---------------------------- [短歌]愛情の量り/蒼木りん[2010年7月27日22時54分] もう一度 障子戸にぼた雪のあたるカサカサという音聞いて寝たい 楽器はね 唄うように奏でるんだよ高校二年のヒゲのはえた青年 あのひとの 帰ってきた車の音聞いただけで胸が詰まる愛情の量り 食欲と 性欲と金欲と物欲と欲の名のつくものすべてにケリを入れる もう寝ます 冷蔵庫にもおかずあります温めなおしてねお疲れさま スリッパが すぐにだめになるわたしの足はガサガサで祖父母のみたい 結果から 逆再生した自分をちゃんと見れるならきっと叶うよ君の夢 ---------------------------- [短歌]畳の上/蒼木りん[2010年7月29日23時55分] 畳の上 四角い日時計うごいてる今は朱色の長四角 藺草くさい 桃とぶどうと線香とまわり灯篭お盆の浴衣 渦巻の 蚊取り線香の灰落ちて焦げ付いた跡ほじくって 8畳の カーペット敷き襖にはカーテン張って洋室にする サイダーの こぼした泡も体温計の水銀も誰かの涙も染みている 畳上げ 聖徳太子がならんでるそんなの昔のテレビだね 床下で 仔猫の鳴いてる声がする全部はがして助け出す この家で 生まれた当時の畳は代えられて天井はあいかわらず ---------------------------- [自由詩]コスモス堤防/蒼木りん[2010年8月27日11時38分] あと何年したら自由になれるだろう この部屋の三角の天井に ひらかない天窓 こんなはずじゃなかった あたしが欲しかったのは 青い天にとどく窓 猫の息子が鳴くから もうすぐ部屋に行ってあげないと 大人になったから もう自由にしてやろう どこへでもお行き 思うように土のうえを歩いて お腹が減ったら帰ってくるかい 農家も お洒落でかっこいい生き方に見えてくる 現代では 宅地用に切り裂かれた土手が痛くて 目をそむけてしまう かつて 金色のすすき野原に 赤トンボの雨が降っていたのに 今がすべてではないんだよ だけど今が哀しいんだ 戦うしかないんだ 変わらないものと ひたすら 絶望 逃げ道 オセロゲーム こんなことにまけるもんか 愛しているって こいつもいつか おじいちゃんになって 足腰が立たなくなって お漏らししてオムツしたりして 介護してあげなくちゃならなくなるかもしれないんだよ おまえよりも先に 年取るんだよ犬は すこし高いところに立って 将来とか未来とか 眺めたらちょっと 胸が痛くて 身体をそらせて伸びをする それから 構える 犬をひいて猫を抱いて 前を歩く 大小の人陰の後ろから歩いていく だから色々見えるのか だから損もするし得もあるのか 前を歩けないのは 足が遅いだけじゃなくて 振り向くのがこわいから 食べ物屋に わざと遠い所に駐車して コスモス堤防を おまえと歩きたかった 鉄橋を渡る電車は アルミ缶みたい おまえみたい だけどその向こうの山を きれいだと思って見てほしかった ---------------------------- [自由詩]恥じらいと恐れ/蒼木りん[2010年10月1日19時51分] 自分のことで 人の手を煩わすことは 恥ずかしいことだと思いなさい それに気づかないことは 恐ろしいことだと思いなさい いつか それに気づいたならば 感謝しなさい はじまりのすべては 人社会に無知で 傷つけられて臆病で 常識とか 十人十色の感情が面倒で あまいもの食べて 布団に包まって 寝ていられればよかった 人の目を見ないで済むように 下を向いて ただ課せられた仕事をこなせば 自由とお金が入る そうやって独りで 生きてゆこうと思ったのに 何故にそうは往かなかない ほっといてくれればいいのに 人間は 平等だというけれど 良運悪運は 同じ量だというけれど 中央に引いた線を はみ出さずに歩いていきたいと 願ってしまうのは 弱さに見えるんでしょう 放った言葉は 花束にもなり刃にもなり そして後効きの薬 良薬か毒薬 仕掛けられたり仕掛けたり 大切なひとには そのことがわかってもらえるだろうか わたしがいなくなっても もうひとつ 勇気 という言葉を付け加えよう もうひとつ 付け加えたい言葉が 増えていく ---------------------------- [自由詩]風景/蒼木りん[2010年11月5日12時00分] 畑のまん中に 猫が座っていた 「おまえなにやってんだ」と 声をかけたら 聞こえないふりをした じっと見ていたら しっぽがピンとなって 顔がまじめだった 「おまえなにやってんだ」と また声をかけたら 「青便してんだから話しかけんじゃね」と ぶつぶつ言って 畑を耕していた それはむかし 今日のように いい天気の日だった わたしは 猫になりたい ---------------------------- [自由詩]ぬいぐるみ/蒼木りん[2010年11月15日22時49分] ぬいぐるみとさよならができないので ぼろぼろで汚れた身体を アクロンで洗って 柔軟剤に浸して 天日で干して乾かして 猫に喰いちぎられた足や頭からビーズが ポロポロ落ちるのを拾って中に押し込んで 綿を詰めて縫い合わせた 下手な縫い目が見えないように 撫でて毛並みをよくして 形のくずれていた耳がもとにもどり 恐怖に慄いていた目が 安堵の微笑みになった 気がした どうしても 見えてしまうのだ 捨ててしまった後の光景が ごみ収集車に乗っけられて 集積所に放り込まれて いずれ焼却炉で焼かれてしまう べつに そんなわたしを 笑ってくれてもいい でも わたしが笑ったのは この猫のぬいぐるみは 拾い猫のトラとの 縄張り争いで負けたのだと 息子がおしえてくれたことだ ---------------------------- [自由詩]ハネの折れた扇風機が雨にぬれいた/蒼木りん[2011年5月31日11時08分] 台風がいった空は 洗濯したての青空が それだけで 私は幸福なのに 昨日の夜は 生き物の声のしない しん とした夜で それさえ気づかない あなたは 男という生き物で 私に あなたを救うことは できないのに 見た夢をおもいだした 試験を受けに行くのに 必要な書類が見つからない 時間はせまっているのに 現実の私にはありえない そんな不備 そんなあせり あなたは苦しむ自分を 見てもらいたいだけ 私が苦しむ顔であなたを見るまで なんどでも 冷めたい機械が 私であるなら あなたは生温かいけだもの 玄関に 何も言わず 骨の折れた傘がたたまれていて 物にも心があるんですよ という私が 心なんだ ハネの折れた扇風機が雨にぬれいた あなたの母が使っていた扇風機 ハネをとりかえて まだ使うと言っていたのに あなたに 私を救うことは 永遠にできないのに 晴れたら こころが重くなり 曇れば ため息をつく 雨風が吹けば 厄介だと思い それでもだまって 生きていく ---------------------------- [自由詩]本日/蒼木りん[2011年10月14日14時06分] 銀行にて 大学の検定料を払い 領収印を確認しおえたら 秋の空は金木犀も終わっていた 私はまた ひとつ 歳をとり 大切を手放すための作業を たんたんとする 誰かの 口をかりないとほんとうは 伝えられない もっと いや、 こらからは 大切にしなさい あなたを 何かが かわっていくけど 金木犀は いつかかならず ---------------------------- [自由詩]新しい仕事/蒼木りん[2011年10月19日23時38分] 準備もないのに 褒め殺された 挙げ句 罰ゲームなような仕事を選ばされた さては 喫煙所に仕掛けられた盗聴機 陰謀は千里を走る もはや 夢で魘された私は 辱しめられ灰だらけ いつか見ていろオレだって ロシアンブルーの意地がある 毎日をだいじに使う 自分の意地がある戦いは楽しい ---------------------------- [自由詩]かんむりょう/蒼木りん[2012年2月7日11時03分] 田舎育ちのせいです おとといの夜 雨の降る匂いがした 田舎も もう変わり果ててしまったけれど 春の来る 土の肥える匂いは今も変わらず わたしの脳に刻まれていて 枯れ草の下の土の息づく匂いは 毎年感じとることができて 古い記憶の映像を見せる 人のために しいては 自分の心のため わさわさしているうち もう若い目が出ている なんて せっせと なんて せっせと 大地は生きているんだろう 冬を超え夏を超え 雨をしのいで セキレイは大人になった むかしは口をあけた雛だった せつないことを 乗り越えていきてゆく 半分生きた かんむりょう ---------------------------- [自由詩]毎日おもしろい/蒼木りん[2012年2月18日14時27分] サボテン が 言えなくて ほうれん草 が 頭の中でまわってた あのほうれん草 どうなった ほうれん草 まだ生きてるか ああ サボテンだよ サボテン が ほうれん草って 年とるって おもしろいな 明日も楽しいといいな ---------------------------- [自由詩]風鈴/蒼木りん[2012年8月2日0時51分] 月があかるい夜だけでいい 時間よとまれ 猫になって屋根から屋根へ 帰って来た半端もんは 泣きたくても泣けない 苦しい洗濯機のぐるぐる あと どれくらいお前といられるだろう 確実に私より先に死ぬお前 私のほうが先かもしれない 私が死んだら 誰がお前に餌をやるんだろう 死ぬわけにはいかない お前を残して 風鈴になりたい 風がなくても唄ってあげる ---------------------------- [自由詩]ゆいごん/蒼木りん[2012年8月17日22時31分] しあわせな夏の夜は しあわせな夏の早朝へとつながっているけど 夏の昼間は焼け死んでしまう絶望さえ わたしは家事をしなくてはと ごまかして 人生を片付けていく 彼はまだ 今ごろ総武線に乗っている頃だろうか 雨が降ったり 寒かったり 人がすぐに死んでしまったり 隣のあの子がテレビに出たり わたしは ずっと風鈴の風になびく音を 蝉の止まない声を四十五回聴いた 救急車がよく通る病院につづく国道 電車がゆっくり走りだす眺めを いつか でなく 日陰に咲く小さい花として ズルく 目立たなく 生きる わたしの亡骸をお墓に終わないでください 蛛の糸で首を絞める ---------------------------- [自由詩]りゆう/蒼木りん[2012年8月26日23時36分] わたしなら 死ぬかもしれないような 夏の昼間の部屋においてきた猫に 早く会いたくて 終わらない仕事を 泣きながらやる あくびではないよ 眠くて倒れそうだけど 心臓が停止しそうになりながら 騙してるけど 吐き出してばかりで 息が吸えない そんな怒りを思いだし いつか仇討ち敵討ち わたしの過去は ももの種のなかに封じこめて 腐る 病院で 枯木のように死んでも 枯木のように焼かれても わたしは100円の価値もない わたしは わたしを犠牲にして まわりも犠牲にして 恨みをはらしていく 借金がなくなるまでは 死んでたまるか 死なせてたまるか 長い一日短い夜 何度でも生まれかわる 蝉や朝顔や水 今度こそ 思い出のいらないものに 生まれかわる 借金はプラスチック 紙でも生ゴミでもない レントゲンに写るもの ---------------------------- [自由詩]答えがない/蒼木りん[2012年10月20日0時18分] 白い犬は死んでしまった 白い家の二階の窓から 猫が外を見ている 家からは出たことがなく 毎日 工事現場の音や 散歩する人や犬や 通りすぎる車や ときどき来る鳥の影に なんとなく 触りたいと思っている どうして この家の人と同じ『言葉』が 喋れないんだろう どこからか 微かに 声が聞こえるのに それが誰だかわからない 白い犬とは仲良くなれなかった ただ もう追いかけられることも 吠えられることもない 家のなかを少し自由に歩けるようになった もっと遊んでほしい もっとわくわくしたい 風に吹かれてみたい 君は『だれ?』 僕は『だれ?』 少し前 おまえは鳥の巣箱の 小さな窓から外の世界を見て 世の中をわかった気になっているだけだ そんなことを 息子に言ったことを思い出した そのとき なんて言いかえってきたか 忘れた からの巣に 猫が窓から外の世界を見ている 毎日 私の頭には 白い犬のような毛しか生えてこなくなった ずっと一緒には いられないから ---------------------------- [自由詩]生きてろよ/蒼木りん[2012年12月1日23時48分] アスファルトが 冷たくて 誰にも会いたくなくて でも 人の気配がほしくて 笑えよ ゆるんでよ そんな 尖った顔して 背中丸めていないで だいじょうぶ 大丈夫だよ 鳥が飛んでる 種が芽を出してる クモが巣を張る どれも空しくて 曇ってるし 寒いし ずっと寝ていたいのに 生きなくちゃならなくて 大抵のことは 大した事じゃないよ 驚いてるのは 自分だけ 時をかけても 丁寧に ほどいていけばいい すぐに アキラメルナ ヨ 頑張れ頑張れ 頑張れって お前に言ってるんじゃない 自分に 言ってるんだ 死ねとか いい気味とか いやな言葉が頭に浮かぶ そんな人じゃない あたしは そんな人 それが怖い人 流されてる いやだ もがけ 不安と 恐れていること 怖いこと どうにもならない 君への それでも それでも 生きてろよ ---------------------------- [自由詩]小鳥は何年生きるのか 12×5/蒼木りん[2013年1月11日11時15分] 昨日も仕事 今日も仕事 明日も仕事 宝くじ当たって 億万長者になったなら あんな 世間のごみ溜めみたいな会社 さらっと辞めて 好きなことだけやって暮らす 毎日夢見てる 仙人みたいな日常 雲の上から 大晦日らしくも正月らしくもない今夜 毎年びびって生きてるなって思った 死ぬほどのことはないって 開きなおっても 恥ずかしい人生だった でも明日は来るし 靴音カツカツ鳴らして 負けないって明日をにらむ 優しくされると怯むくせは だめだね セキレイはかしこいから すぐに逃げない あともうちょっとの先にあるかも しれない 夢の国にたどり着くまで 幾日も幾年も我慢 それで半世紀きちゃった おばかさんだったね おもいあがってるね この先終活って楽しそう 思い残すこととか 天国とか地獄に行くとか 考えもつかない 自分の過ちは封印したゃったから 眠くて眠くて死んじゃいそ 蛹のからだ脱いで セロハンみたいな羽で飛べるくらい 軽くなったらいいのに 心臓がこくりこくりしてる こころで行き着いた言葉が 蒸発しないように パソコンもペンも使わないで 文字にできたらもっと 安眠できる ここでわたしになれるかも しれない 拾わずに 置きっぱなしの時間 神様仏様に願うことはいつも 胸に罅がはいらないこと することはいつも 足跡を残さないように 素早く見ため良くして いつ死んでも こころが潰れないように 整理整頓軌道修正 冬眠して何回も死んで 死ぬまで生きててみたい ---------------------------- [自由詩]柿ピ/蒼木りん[2013年7月9日10時32分] 柿ピを 手のひらにザーッとあけて 口の中に流し込む 人のいろんなものの結晶 一つもこぼれないように 指先をすぼめて 柿の種もピーナツも ひとつづつままない そんな余裕はない 後悔したくない たくさんの小さなしわわせを 今すぐガリガリ噛み締めたい ピリピリ辛い 人の言葉感情の難さ 甘い郷愁 ひたすら噛み砕いてのみ込む 最後は袋から口に流し込む こんなこと負けてられるか 柿の種とピーナツほど わたしと誰かは違う なのに ひとつの袋にたくさん一緒に入れられて わたしはそれを ぶちあけて お金があったら 食べもしなかった もらいものの柿ピはあと二袋 猫も食べない だけどわたしは食べつくす 終わりから始めるため 手を出せば叩かれ しまえば出せと言われ 責めても殺せず 黙れば苦しい さて問う わたしはどうすれば良いんでしょ? 誰もいない踏み切りが鳴ってる 騒々しくて遠くて寂しい ほんとうの?声"を遮るものが なくなるから夜はすき さて問う わたしの欲しいものは何でしょ? 間に合うようにいつかは 言わなきゃと思うけど わたしの骨は お墓に入れないでね 居るけど?いない"けどいたひと にしてくれないかな 忘れないで あなたの希望はいつも叶えてきた 分からないとか 摩り替えじゃ済まない 拘わりはいま 生きている時だけなんだから なんか いろいろ悲しい 溢れてくる波にのまれてしまいそう 世の中って 身の程をしらない人が 造っているんだと思う 吐き出す恨み言は 諦めの言い訳 誰か他人に解析してほしい わたしの?核心" 自分を傷つけるより 怖いことが何か 疲れて生きてると 埃が積るね 身一つで生きていないから いろいろいろいろめんどうだね 忘れないのは だいじなものを大切にして活きること さいわい まだ身体が動くから こころは 言霊の薬を飲み込んで生きてる いつかその薬を わたしみたいに優しい君にもあげる ---------------------------- (ファイルの終わり)