はるな 2021年3月15日22時39分から2021年10月21日23時38分まで ---------------------------- [自由詩]水平/はるな[2021年3月15日22時39分] 水平が 輪になって 迫ってくる 目を閉じて 開け方を忘れた 手のひらをかたく 握ったまま 抱かれにいく 目があかないので 誰にかは わからない ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]メモ/はるな[2021年4月1日11時22分] 物事が自分の外側で起こっている。いつもだ。 春が来て行ってしまう、しかしそれも私の外側にある。 インターネットもセックスも季節もナッツ・ケーキもだ。 半月前に流産していることがわかった。これはよくあることで私に責任はないと医師は言った、わたしは涙が出てくる目をおさえて聞いていた。自動で脚をひらかされる診察台、膣にさしこまれるなにものかの器具、白黒の液晶画面、世界が収縮している。黒い小さい錠剤を処方されたので飲んだ。 そうしてひどい痛みがやってきて、それだけはわたしのものだと思った。 ほんの小さい、つくられかけの胎盤がはがれおちるだけの痛みを耐えるために、わたしのからだは、夜中じゅうぎしぎしと軋み、伸び縮みし、時々気が遠くなった。嘘つき、と思った。 こんなふうに痛いのに、世界が外側にあるなんて絶対嘘だとおもった。何もかもがここで起きていると思った、引き裂くような痛みのあと、きゅうに内臓の全部がしんとして、それがおわった。終わったことがわかって脱力しているとまたにぶい痛みがやってきて、でももうそれは世界ではないと思った。血だらけの、私の外側にある、さまざまなもののなかで、疲れて少し眠った。 それから朝が来て、世界を洗い、お湯をつかった。 花瓶の水を変え、カーテンをひき、泣きたかったがやめた。 むすめを起こし、髪をとき、食卓を拭いてパンを焼く。そのとき物事はちゃんと外側にある。 冷蔵庫にはわたしから出たものが、何重にも袋を重ねて入っている。病院に持ってくるようにと指導されていたので。 人々が愛しあったり、罵り合ったりしている。無関心が秩序を形成している。あちこちで道路が掘り返されている。三月で、桜が咲いているのが見えた。 世界がみえているような気持がしている。 より多くの人が、穏やかであるといいと思う。 ---------------------------- [自由詩]密林/はるな[2021年4月12日0時00分] 密林 と 書きかけて 窓を開ける 飢えた街路樹だらけの街に居て ばかげた恋をした 簡単に血を流した 空が青いとは聞いていたが 青がどんなふうかはしらなかった ---------------------------- [自由詩]やさしい君/はるな[2021年4月21日12時55分] やさしい君が 手をひいて あるかせてくれる 外を そして 大丈夫 大丈夫だという 見て ほら あの橋をわたろう 細いけれども 大丈夫 という 笑っている でもわたしには 橋も 川も みえはしないのだ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]四月/はるな[2021年4月22日13時01分] あちこちで花が咲いてしまった。もう少し待って欲しかった。 ま新しいランドセルを背負ったむすめは、昼にも夜にも、こわいと言うようになった。わたしは(どうしてそんな愚かなことをと思うけど)なにが?と聞いてしまったのだ。彼女はほんの少し絶望したと思う。 (多くの子どもたちがいとも簡単に絶望するし、そしてわたしはもう子どもではなかった。) 朝、小学校の校門のところまでむすめと一緒に歩いていく。おそろいの帽子を被った人々の流れ(もちろんわたしは被っていない)。そして校門を入ったところにはいつも校長先生が立っている、はきはきと挨拶をしている、門は開かれていて、昇降口の上のある丸い時計はいつも大体同じ時間をさしていて、生徒たちはたくさんいる。わたしだって毎朝ちゃんと新しく怯んでしまう。その中に入っていかなければならないむすめのことを少しあわれに思いさえする。でもむすめはちゃんと歩いて入っていく、泣いたり、堪えたりしながら。むすめがなにを考えているのか、どういうふうに物事を感じているのか、もうわたしにはわからないのだった。 この春は鉢植えの球根を悉く枯らした。 家の中で泣いているあいだに、蘭も、羊歯の鉢も干からびて殺してしまった。 水をあげすぎて腐らせてしまうことは何度もある。わたしには、世界に対する加減というものがいまだによくわからないのだ。ずっと痛くて、痛いままいたから、痛くないのがわからない。わたしの皮膚は擦りむけつづけて分厚くなってしまった。むすめが生まれた時、こんな薄い、柔らかい皮膚に傷だってつけちゃいけないと思った。だから転ばないように抱いて歩いたし、手をぎゅっと繋いだ。そのくせ勇敢であれと願ったのだ。 ともかく起き上がって枯れた鉢を整理していると、自分の手指がどうにも冷たくて、「もっとそとを歩くのよ」と言われたことを思い出し、まちをうろうろする。わたしが家の中にいるあいだに、花はどんどん咲いてしまう。重たいのか軽いのかわからない足を動かすには季節はどうにもまぶしすぎる。感覚というものが肌のうえに剥き出しているような心地で、風が吹くのにも、知らないこどもが笑うのにも、日ざしが、道路に影を作るのにも、いちいち極まってしまうのだった。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]メモ(つかうのこと)/はるな[2021年4月22日13時29分] 言葉も体と同じなので、つかわないとこわばる。動かしかたがわからなくなる。 さいしょはねじを巻くように、ぎしぎしと動かす。だんだん関節が動くようになって、のびやかになる。ストレッチ。何でも試してみる。ちょっとださい動きも、懐かしい形も、恥ずかしくなるようなこともやってみる。最初より遠くまで手が届くようになる。長く走れるようになる。動きを組み合わせたり、飛び跳ねたりもしてみる。そうして、息をきらせて、すわりこむ。体のかたちをはっきり感じることができるようになったら最高、でもそれは一瞬で、かたちは変わっていく、ゆっくりと(ときどきは、急激に)。 言葉も体と同じなので、食べないと、飢えてしまう。しばらく食べられずにいたそのあとで、大きな物語にはとても手が出ない。でも美しいものは、しばらく遠くでみている。そのあいだに、まちなかの看板や、背表紙の題名やなんかから、少しずつ文字を読んでいく。読んで、考える。いまは図書館で借りてきた花の図鑑を読んでいるところ。花言葉は、花名の由来が載っていて楽しい。ポストに入っていたちらしもみる。ホームセンターやピザや水道修理のちらしなんかを。ざらざらしたちらし、つるつるしたちらし、ペラペラしたちらしを分けてみたりもする。そしてみ終わったら捨てる。 心のなかでは、強くやさしくありたいと、また、そういうふうに体を使うことができるはずだと思っている。もうすこし高く跳べることができれば、ということとそれは繋がってて、だから、光が揺れたり跳ねたりするたびに泣いてしまうこととも、絶対に繋がっているのだ。 ---------------------------- [自由詩]参列/はるな[2021年4月27日9時36分] ともかく私たちは辿りつき列にならんだ 色水みたいなコーヒー 配られるチケット(権利と義務が 印刷されている) 視線は 端末に通知される 皮膚は薄くなる 誰にも触れなくなる そのことも忘れられる 風景は 現実として処理されていく 人々は (にもかかわらず) 消費されるのをきらって 長い 列を つくるしかなかった 「空欄に番号を書き入れてください」 私の番号は何? でもあなたは行ってしまった 名前だけ置いていった 何人もの人間に 呼ばれ、抱かれ、踏みしだかれた名前だ ---------------------------- [自由詩]花の午後/はるな[2021年5月13日17時15分] 世界のことなんて 次でいいよ つよくなる夢と濡れてく体 寝そべって目をあけて思い出を忘れていく いい感じに傾いた 記憶を引き剥がしてさ 錆びた鋏みたいな つまんないものばかり目に入る 午後が来る チャイム鳴る 世界なんて嘘でいいよ ひとつだけ言う 言おうとして 午後が来る 見慣れない 花が降っている ---------------------------- [自由詩]明け方に/はるな[2021年5月24日14時32分] 咲きこぼれそうな花びらをもちあげて そっと水を遣る 眠たい 明け方に 僕ができることは あんまり多くない 迷い込んだ虫を外へ出してやる 今日に似合う歌を選ぶ まだ眠る君の はだけた毛布をかけなおし こぼれそうなまま 咲いていること ---------------------------- [自由詩]人を愛する/はるな[2021年6月7日21時55分] 降る やむ 咲く ちる やって来て 去っていく 一日じゅう飽きもせず 寄せ返す波を数え まばたきより多く 人を愛する 昇っては沈む 絶え間なく産まれては失われる あらゆるもののなかに いることも いないことも できない ただ 途方にくれ まばたきより長く 人を愛する ---------------------------- [自由詩]お菓子/はるな[2021年6月10日15時35分] 緑をちぎって すずしくわらってる それなのに きみの手は 熱いお菓子みたいな においがする なんにちも なんにちも 焦げついて ただれるよ ---------------------------- [短歌]かたまり/はるな[2021年6月16日16時30分] かたまりを割ってほぐしてねばついて大事みたいに半分こした 愛とか愛じゃないとかで争った夜ひとつのかたまりで寝た ---------------------------- [自由詩]白昼/はるな[2021年6月24日13時31分] 風や街、ビル、文字、感情はあり、 選ばれたものと、選ばれていないものが ひと筋の線で隔てられる今日、 たしかに時間も空間も存在し、 ざらざらと触れることさえ出来る 空の自動販売機、乾燥した花屋、 そこかしこに捨てられた名前 ステンレス、猫、看板や流行色、電波も ここにあり、経過し続ける、失われゆくすべてのものが今ここに存在し、 ずるずると痛みさえする、するけれども どんなに探しても、みつめても、 私だけどこにもいないのだった ---------------------------- [自由詩]輪郭/はるな[2021年6月28日16時25分] 境目が淘汰されて すべてはグラデーションになる 曖昧さは受け入れられ 器は広く広く浅くなる 明るくなりすぎた夜のように 影はぼんやりと甘く この輪郭を脱ぐ術を 探している ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]メモ/はるな[2021年7月4日23時48分] 仕事の日数を減らし、眠る時間を増やして、過ごしている。 朝に夕にお湯を沸かして飲んで、家でも仕事場でも花瓶を洗う。 花瓶はいつも清潔に保たねばならない。交わした約束を守らねばならないのと同じように。 夜は眠り、朝は体をおこして日を浴びねばならない。 草木に水をやり、娘にパンを焼く。(わたしの夫は朝食をとらない)。 もっともこのところの雨続きで、ベランダの植物には水まきをしなくてすんでいるし、わたしも朝日を浴びずにぼうっとしている。 ここにこれほどいるとは思っていなかった。 もう、ほとんど捨てるものがないように思う。 (状態は乾いている) わたしは自分が文章であったらいいのになと考える。宛てがあってもなくてもいい、書かれた文章だったらいいな。絵画や音楽ではなくて。少し黄ばんだ文庫本みたいな色の紙に印刷されたいな。誰も読まなくても、誰かが書いたのであればいいなと考えたりしている。 ---------------------------- [自由詩]レール/はるな[2021年7月10日7時26分] このまっすぐな夜の向こうに 蝶の朝がある こまかな傷の大小に値札をつける この波を営みと受け入れられず はねのないものは歩き、 足のないものは泳ぎ、 背びれのないものは飛び、 なにもないわたしは溺れながら このまっすぐな夜の向こうに 蝶の朝がある 朝があるという絶望を糧に いったいどれほどの波を飲んできただろう ---------------------------- [自由詩]夏の前日/はるな[2021年7月13日18時12分] 冷やした部屋で 濡れた画面を見ている 夏の前日 みるつもりでいた夢 古い冷蔵庫、凍りかけたビール 物事の手前で 君が微笑んでいます 夏の前日 それは 訪れるはずのない幸福 描かれた花束 心地よくつめたく腫れていく 夏の前日 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]メモ/はるな[2021年7月22日6時51分] わたしたちの花がまだ眠っている早い早い午前、空が朝を始めようとしているところへ、ふいに思い出がやってくる。あの時わたしたち泳げないいるかだったよね、とか、くじいた足をおそろいのバンダナで包んだよね、とか。なんでも大事にした方がいい。ありもしない思い出も、人を傷つけたことも、習慣や、知らない全てのことも存在しているということについても。生活してていい人間なんてほんとにいるんだろうかと思う。少なくとも私はそうでない、そうではないが、この花を枯らしてはいけないなとも思う。 なんでも大事にしたほうがいい、でも難しくて、部屋の中にばかりいることになってしまいます。 ---------------------------- [自由詩]所有地/はるな[2021年7月30日8時38分] 時間はもう どこをさがしても全然なかった 暗やみと光を混ぜた夜、 テープで仕切られた自由 韻を踏むためだけにつくられた詩 の、 どこにも、なにもなかった なにもなかった そのことが わたしたちをまたすこし動かした ---------------------------- [自由詩]水たまり/はるな[2021年8月8日6時43分] 雨の日、唐突に、思い出すように、 ありもしないことを、 考えている、 そのとき、過去と未来は同義 水たまりを、世界だと思って 生きた 愛のなかを、海のように思って 干上がっていく幸福を、 すこしでも永くあじわうために、 底へ 底へ 這いずりながら、 干上がっていく幸福を、 すこしでも永く ---------------------------- [自由詩]日々/はるな[2021年8月17日20時16分] いずれも夢のような日々を生活した よい夢も、わるい夢も、正夢も 芳しい花も、熱い風も、つめたい雨も さまざまな深さの傷も 重たくなり軽くなりする身体も やって来ては去っていく 愛と 愛のようなもの のあいだで 夢は肥大した 非実在に相応しい速度で そしてわたしの目は もうそれ以外をとらえることができなくなり 世界はやっとひとつになった ---------------------------- [自由詩]光/はるな[2021年8月20日23時29分] 長い長い光のすじを たどる気持であるいていた だれかが声をあげる これはただの線だ 白く書かれた 一本の ただの もう少しいけばわかる 別のだれかが言う のろのろと足はうごいている でももう疲れたのだ 疲れていて、とまることもできない ---------------------------- [自由詩]夏/はるな[2021年8月30日21時49分] ひどい気分で目を覚ますと、今日はもう終わっていて どうしてかわからないまま靴を履き替える さめた湯を浴びて 窓を開ける 今日はもう終わっていて かといって明日も始まらず 室外機の唸りだけが響いている ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]超メモ/はるな[2021年9月4日0時10分] なにか言うときに だれも傷つけないっていうのは (ご存知でしょうが)結構難しいもんです から、これからあなたは傷つきます。あなたもです あなたも、あなたも、あなたも。いいですね? (いいわけないやろ)と、私がいつも言うんで、やめます。 納得できない夏が終わろうとしている、 優しいだけの世界がいいですか? 私嫌です。パンクファッションが好きなので…という程度に 誰も傷ついてほしくないですか。そうです、 少なくとも誰も誰かに傷つけられるべきではないですと思う、 というかそう信じてる。 信じてたけど世の中そうじゃないかもしれないと思う瞬間がいくつもいくつもあって悲しい。自分が傷つかないために嘘をついたりずるをしたりする。自分から嫌なにおいがするよ。 勝手なストーリー、勝手な解釈、パッチワーク幻想 あの、わたしはつねにわたしたち のなかにいなくて、 それが何故かわからない。 世界は急に終わるかもしれないが、とりあえず今日ではなかった 髪の毛をちょっとだけ派手に染めたり伸ばしたりする むすめは夏のおかげで植物みたいに育った 花屋に口うるさい客が隔日でやってくる 心のなかで(うるせえくそばばあ)と言ってニコニコしている。そしてスマ〜トフォンのバッテリーはいつも真っ赤っか 優しいだけの世界がいいなと思う時もある。 寝る前とか、お風呂に入ってるときとか、つよい風のなか自転車を漕いでいるときとか。 夕日をみたり、天気の良い朝にお湯をわかしてるときとか。 だいたいひとりで平なきもちのときにはそう思うし、そう思ってすぐあとにはいろんな社会情勢ワクチン不足口うるさいババアとか解けなかった物理の問題体育の先生にめちゃくちゃ嫌われてたこと奮発して買ったブーツに足が慣れないこと押し寄せてぐったり 押し寄せてくる、ひきつけられる、抗えないとおもっているが、たんに怠け者なのかな。 小さな箱を買い、ぎゅうぎゅうに布を詰め、蓋をして捨てる、日々を書き、花を束ね、余った体を二つに折り、眠る。 ---------------------------- [短歌]夜/はるな[2021年9月4日17時37分] ため息の重さで溢れる夜を抱き わたしよ明日こそ私であれ ---------------------------- [短歌]体/はるな[2021年9月5日13時50分] 語られた言葉のあとで浮きあがる 静寂 目線 寂しい体 ふれられてふれてなお泳ぐ肌 これより遠くに行けはしないね ---------------------------- [自由詩]あこがれ/はるな[2021年9月10日17時08分] 花の匂い まちの匂い 文の匂い というものに あこがれて 今でも 色色なものに なってみますが わたしには今でも 秋の夕暮の忘れもの、 雨ざらしの古い花瓶、 それとも何も書かれていないままの紙 そんなふうな匂いだけが 薄べったくはりついている 正しいだけの生活はないだろうと思っても こんなに間違えているばかりの心持ちの いったいどこに生活があるのか 胸のなかに古い水を湛えたように あふれるな あふれるな と念じながら 一層全て流れてしまえと思っている わたしが何かいつも誰か教えてくれますか? 憧れは 旧びながら輝いて、 もうそれがなんだったのかわからない ただぼんやりと輝いて 明日は明日なりの匂いを持って わたしは 今でも 色色なものに なってみる 溢れよう 溢れようとする胸のうち、 古い水が揺れながら 少し 確かに  光るときがある ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]メモ/はるな[2021年10月8日22時40分] せまい壁と壁のあいだを行き来するボール、失速しながら遠のいていく。 そのようにして日々が行く、茂った葉も黄色く力尽きる。 もう二度と会わないと決めた人には簡単に遭遇してしまうのに、続けようとも思わない禁煙を2年している。2年のあいだに紙煙草はほんとにすっかり影うすくなり、あちらこちらの喫煙所が閉鎖された。 わたしはまだ飽きずに花を弄っている。秋薔薇は香りが良く、油断して近づくとするどい棘にさされる…こまかい傷はしばらく経ってから赤くなる。 「まるでなにか」みたいに時間が埋まっていく。 「まるで思い出みたいに」「まるで恋みたいに」「まるでそれが当然のように」…まるでもうぜんぶどこかで見たことがあるものみたいに。そしたら急にばかばかしくなって、おんなじことばっかり考えてたって別にいっか。 そう、むすめも一人で眠るようになった。ときどき夜中にわたしの寝床へもぐりこんでくる。わたしたちはもともと不自由なのだ、からだの中に押し込められているのだから。でも泳ぐことができる、それを知っていることが、自由でいるコツだ。 ---------------------------- [自由詩]眠り/はるな[2021年10月10日1時24分] 燃える 眠りのなかで すうすうと 静かに ひかっている あなたの 寝息をかぞえて 数えて 数えて その数の ひとつ ひとつが ことりと胸に収まるたび 酸素が 血をゆく 心地がするので 眠りは 深いほど青く もえながら 数を焼いていく ---------------------------- [自由詩]ごはん/はるな[2021年10月21日23時38分] ごはんのにおいがするから帰るよ 造花だらけの無菌部屋 ねえでも ここがわたしたちの家だけど? 去年とおととしのカレンダー うーんだけどかえらなきゃ 裏返しのくつ下を 拾わなくちゃ、拾わなくちゃ と思って焦っていた ボールが落ちるまえに 地面にぶつかるまえに 日が暮れるまえに 明日がくるまえに! 帰らなきゃならなかった ごはんのにおいがするから チャイムがなっているから 帰るよ、帰るよ と言うんだけれども 着ていくからだが見つからないのだ ---------------------------- (ファイルの終わり)