チアーヌ 2006年2月17日21時25分から2006年5月21日11時33分まで ---------------------------- [自由詩]化石を探す/チアーヌ[2006年2月17日21時25分] 上へ登り 上へ登り 化石を探す 柔らかい 砂で出来た 化石を探す 黄色い砂の あいだに隠れた 化石を探す 一人で探す 毎日 毎日 探す 化石を探しているとき わたしは 8歳の姿をしている まだ あそこで ---------------------------- [自由詩]はんぶんずつ/チアーヌ[2006年2月20日9時41分] バナナをはんぶんずつ食べて 癒されようね その程度でいいんだったら いくらでも ---------------------------- [自由詩]紅い花/チアーヌ[2006年2月20日20時01分] 寒空の下 風に吹かれ 飢えと 渇きと もう生きていてはいけないと 説得されても 首を垂れ ぼろぼろの花弁を開き 咲いている 紅い花 もうお仕舞いなんだよ もう待つ人は来ない 来年また会いましょう 大きな鋏が刃を広げ わたしの首元へ ねえ もう少し待って あの人が来るまで もう少し待ってちょうだい 花の季節は終わりだと あなたは言うけれど わたしはまだ咲いているのよ 花弁は傷だらけ もう回りには誰もいない 艶を競った姉妹たち ライバルだった友人たち みんなみんなもういない わかっているの わかっているけど 紅い花 紅い花 もうお仕舞いなんだよ その細い首を切り落とすのが僕の仕事さ 一瞬で落ちるよ そしたら君はまた来年ここで 蘇るのだから きらりと光る 大きな刃 ああ ああ もう少し待って あの人が来るかもしれないの あの人が来るかもしれないから お願い待ってください 来年咲く花は もうわたしでは ないの ぼろぼろの紅い花が 最後に見たのは 灰色のコンクリートの 床 そして ゴミ袋の 中 ---------------------------- [自由詩]にょきにょきバンブー/チアーヌ[2006年2月22日22時40分] 竹林には何がいる? パンダ! かぐや姫! 宇宙人! わたし! にょきにょき にょきにょき にょき さてと だれもいないね ---------------------------- [自由詩]スズキタナカサトウくんへ/チアーヌ[2006年2月27日16時46分] クールなのが取り柄 みたいな顔してるけど 本当はそうじゃないよね 知ってる 君のことほとんど知らないけど それだけは知ってる それだけで充分だと思う 迎え入れてあげられる 多くを知っても幸せになんかなれない 魂は売るほど持っていない ---------------------------- [自由詩]夢の終り/チアーヌ[2006年2月27日16時56分] 負けたくない って思ったあの日 もうわかっていた 勝負は時の運などではない 自分が届かなかったということ 信じていた 硬い硬い宝石は あっという間に砂になって さらさら零れ落ちていった 儚く虚しい夢の終り それでも死なない限り人生は続く 「なぜ生きるのか」ってそりゃ 死なないからでしょ 遠くへ行きたいな あなたと行きたいな この10センチ向こうへ転げ落ちるみたいに ---------------------------- [自由詩]自分勝手な想い/チアーヌ[2006年2月27日21時01分] そっとあなたを見つめる 自分勝手に わたしは思い出が欲しいの わたしだけの だからなるべく気の無いふりをして あなたに近づいてみる ---------------------------- [自由詩]あなたの断片/チアーヌ[2006年3月1日19時18分] まるで帰り道がわからなくなってしまったみたい 進む方向も曖昧で 見えるのはあなたの背中や横顔だけ なにもかもはっきりとしないのに 魅かれてしまったのはなぜなのか 向かい合ったときにじっと見ていた手の 男らしい骨の隆起 でもきれいな指 不思議だなあと思いながら目を離せなかった 何も知らないのに 恋の始まりだなんて思えないし そんな美しい言葉で語られるほど 欲がないわけじゃない してみたいことはたくさんあるけど 怖いので立ち止まってみる 曖昧なまま進むのか このまま霧にまかれるのか それはわからないけど あなたの断片だけが 見える ---------------------------- [自由詩](ははははははははっはははっははははっはははっははは)/チアーヌ[2006年3月5日11時24分] 夢を見よう!夢は見るためにあるって誰かが言ったから。 アル晴れた雨の日わたしは大きな憂鬱に口を塞がれて目を覚ます はいっ!元気に返事をして起き上がれ空は今日もマッキイロ それは末期色の暗示?いやぁくだらないっすね三半規管グラグラ 家を出たら重りがズシンそれじゃあモンティパイソンのギャグみたいだけど 何、現実は大抵もっと残酷なのさわたしの友達は 「どうしてそうなっちゃったのかわからないの」って言いながら毎晩夢に 現れるよ雨の夜電信柱に激突して死んだ 頭も顔もぐちゃぐちゃになってね だから朝起きて家を出たとたん重りがズシン (ははははははははははははっははははっははははっははははっははっははは) なんてことは別にモンティパイソンの特許じゃないってこと定番の残酷さは みんなの身の周りでさああなたも今夜あたり頭の上に隕石が降ってくるかもよ あなたは選ばれた人デーーーーーーーーース (はははははははははっははははっははははっはははっはははっははっははは) 今日もガサガサ音がするよ頭の片隅でさあそれは電波だゆっくりと聞いてごらん? ドアが開いている家では常に君を待っているのささあ腐葉土を撒き散らせ 愛アル言葉はすべて嘘っぱちなので踏みにじり進もうさあ世界に栄養を 朝起きて家を出たら上からバケツ一杯のミミズがドカンドカンドカンドカンドカン ---------------------------- [自由詩]ゼニゴケ/チアーヌ[2006年3月15日22時12分] ふと気がついたら わきの下にゼニゴケが生えていた 不快だけど放っておいた ゼニゴケにだって生きる権利があるはずだ そう思って耐えようとした すると何日かして あごの下にも 乳房の下にも びっしり ゼニゴケが生えてきた やっぱり 嫌になった わたしは必死に掻き毟り ゼニゴケを引き剥がそうとした そうすると 胞子が飛んで 体中にゼニゴケが生え出した もう服なんか着ていられない 下着も取り裸になって体中を掻き毟る 体の裏にも表にもびっしり 髪の毛の中にもびっしり 陰部の奥にもびっしり 毟っても毟っても 毟りきれやしない そうだゼニゴケは日当たりの良いところがきらいだ そうだそういうところで日光浴でもすればいい そう思いついて久しぶりに外に出たが どこもかしこも日陰ばかり 日のあたる巨大なビルは高すぎて わたしには登れそうもない 勇気を出して行ってみると エレベーターは一基だけ 番人はずっと笑い続けている ゼニゴケの生えたわたしは臆病者で とてもそこへ行き「エレベーターに乗せてください」と 言えない ああ 登りたいなあ 爪で必死にゼニゴケをぐじゅぐじゅとはがしながら わたしは裸のままで昼なお暗いビルの谷間にしゃがみ込む 足を大きく開き陰部の奥まで指先を突っ込み ぐじゅぐじゅぐじゅぐちゅっぐちゅっと音を立てゼニゴケを剥がす 緑色の汁が股間から流れ出しそこにまたゼニゴケが生える 息を吸い 息を吐き ああなんて嫌なんだろう ゼニゴケがこんなに嫌なものだということがどうして 最初のときにわからなかったのだろうか ああ嫌だ 嫌で嫌でしょうがない 股の間から緑色の汁が流れる 途方に暮れてわたしは獣のような唸り声を漏らす ---------------------------- [自由詩]脳までバターロール/チアーヌ[2006年3月16日11時30分] バターロールはしっとり系が好き 工場メイドが好き ぱくぱく ぱくぱく 食べていると 脂肪が体中に 行き渡るようだ 春の雪の中 上を向いて バターロールを食べよう あなたが来たら バターロールを袋から出して 一個上げよう ゼロになったら その袋を頭から被り セックスしよう きっとすごく気持ちいい ---------------------------- [自由詩]愛の幽霊/チアーヌ[2006年3月17日11時04分] 愛の幽霊は見えないので 誰にも信じてもらえません 愛の幽霊はほんとうはいません だから誰も信じません 愛の幽霊がいるということを 証明したくともできません ほんとうはいないからです でもいるような顔をして 今日もみんな暮らしています 愛の幽霊のお話は 昔話にも都市伝説にも登場します みんないると思いたいのです 思いたいのに 信じることができないのです 信じるものは救われません 愛の幽霊はほんとうはいません ほんとうはいないけれど漂っています そしてどこにも漂っていません 全ては嘘です 信じてください 救われないでください 強く生きてください 幻想を捨ててください 愛の幽霊のことなど忘れてください 愛と幽霊は良く似ていますが 愛の幽霊は幽霊になった愛です その階段を一段踏み外すと ---------------------------- [自由詩]日本はんぺん協会/チアーヌ[2006年3月17日17時42分] 高らかなファンファーレ! はんぺんは白い はんぺんはふわふわ はんぺんはおいしい 男も大好き 女も大好き そんなはんぺん もしもはんぺんが座布団だったら 失恋した時には抱いて寝て お腹が空いたらちぎりながら食べることもできるのになあ なんて夢想したことはありませんか アフリカのサバンナでの寂しい夜 もしもはんぺんがあったら ダチョウの卵を拾い 携帯ガスコンロで 力いっぱいおでんを煮てみたいと思いませんか 不倫が煮詰まった夜 ラブホテルから星空を見上げながら ふとはんぺんを炭火で焼いたりしたくなりませんか 出会いの場所で 別れの場所で わかめ酒を飲みながらつまむもよし 家庭での団欒によし そしてセブン・イレブンでよし わたしたちは がんばっています! 世界に平和を! 唇に歌を! そして冷蔵庫にははんぺんを! そして光を! もういちど、高らかなファンファーレを! ---------------------------- [自由詩](クラクラ)/チアーヌ[2006年3月22日13時35分] かっこ悪い男が笑いながら風呂で溺れている (クラクラ) 歯の抜けた女が頭を打ってカプセルに埋もれて (クラクラ) 最後のパーティ羽目を外しすぎてその日一番寒いクィーンに (クラクラ) 夕暮れ時電車で痴漢に触られて捕まえたと思ったら人違いだと (クラクラ) 誰かに優しくして欲しいなんて思っていたら迷惑がられて鉄橋の上から (クラクラ) 巨大なエスカレーター夢かと思ったら夢じゃなかったけどダイビングしたら (クラクラ) マーチングバンドの先頭切って歩き出したわたしの寂しい掛け声 (クラクラ) あいこでしょ あいこでしょ あいこでしょ あいこでしょ あいこでしょ (クラクラ) やっぱりいいことなんかないんだわかってたことだけどやっぱりね (クラクラ) かっこ悪い男の細い目に見つめられてあんたの唇の形がもっとましだったら (クラクラ) 安っぽくて豪華なホテルに行きたいわあなたとわたしならお似合い (クラクラ) バファリンもセデスもビールに混ぜて飲んだらそこそこイケルかもしれない (クラクラ) 何もしてないのに二日酔い壊れた男の恨みを座布団代わりに尻に敷いて (クラクラ) ねえおねがい今すぐに買ってきてこれは命令よ マンゴー食べたい。 ---------------------------- [自由詩]粉ミルク/チアーヌ[2006年3月27日22時26分] 10センチの赤ちゃん 手のひらで眠る うごめき 芋虫のダンス 這い回る どこだ、どこだ ああ、違うよ ママはね いないよ でも吸い尽くしたいんだね ごめんね 粉ミルク 上げるね おっぱい ないの ---------------------------- [自由詩]笑顔の効能/チアーヌ[2006年3月29日12時39分] にこにこしていると ときどきとっても疲れる 笑っていると 体にいいなんて嘘だ 体に悪いことしたければ ずっとにこにこしていればいい 天使の笑顔で毎日周囲に幸福を振りまけばいい 日々感謝の心が大事だよ なあんてね 「良い人ね」 ちがうよ それは 「便利な人」 言葉はちゃんと使おうね ---------------------------- [自由詩]シンメトリーの真ん中/チアーヌ[2006年3月29日22時38分] あなたの部屋 シンメトリー 真ん中にソファ どっちを向いているのか わからなくなるの 真夜中に揺れるブランコ みたいに 揺らしてよ もっと もっと ---------------------------- [自由詩]恋は必要ではありません/チアーヌ[2006年3月31日13時46分] 失恋を恐れないで恋をしよう! 傷付くことを恐れてはいけない! なんてわたしは言いません。 なぜなら、 恋なんかしなくてもセックスできるし 結婚できるし こどもだって産めます。 古来、みんなそうやって生きてきました。 だからムリすることなんかありません。 興味のあることは恋のあるなしにやってみればよいのです。 セックスなんか体の都合だけでして良いことの最たるもの。 おしっこの我慢ができないことと良く似ていますよね。 まぁわたしは きれいなトイレが好きですけれども。 汚いところじゃおしっこがでなくなっちゃうのです。 それは大変な苦痛ですが でも、おしっこができるからといってそれは恋ではありません。 大抵みんなそうですね。 恋はごちそうです。 食べ物はおいしくなくても食べられますが 恋は極上の食べ物、飲み物、お酒です。 一時を楽しんだなら あとは 「おいしかったね」 「おいしかったねえ」 「ほんとうにほんとうにおいしかったねえ」 って お互いに言い合えばいいのです。 おいしいものを食べた思い出は美しく、 あなたの心に残るのです。 もう二度と食べられなくても、 「食べた」 記憶は残るのです。 だってあなたはそれを確かに食べたのだから。 食べることは日常だけど おいしいものを食べるのは日常と少し違う。 でも、おいしいものを食べたことは覚えていても 味って 忘れちゃうんだよね。 ---------------------------- [自由詩]ゆめのせかい/チアーヌ[2006年3月31日21時48分] わたしは確かに住んでいた あの画面の中に 隣にいたあなたも溶けていたので わたしも別の画面に溶けた いつもひとりだった たくさんいるともだちはみんなわたしの分身だったので おしゃべりする言葉のパターンは同じなのに 何度も繰り返して聞く この夢の中にいつまでいられるのか ---------------------------- [自由詩]わたしの生きている場所/チアーヌ[2006年4月7日20時51分] 何の不思議も無い この位置 何もかも全部偶然のカタマリ 何かの意思 があるのなら どうしてひとりひとりに感情があるのか 答えをください ---------------------------- [自由詩]はぐれた/チアーヌ[2006年4月9日15時06分] 気が着くとパンツが見えてる いつのまにか友達とはぐれてる 頭のネジがどっか緩んでる でもどこを締めたらいいのかわからない いつも不安で 原因はどこか遠くに 高いところがキライ 落ちたいから ---------------------------- [自由詩]天国への帰還/チアーヌ[2006年4月12日21時31分] 天国から追い出された人たちは 天国に戻るためならなんでもする んだってさ でもそうかもしれない わたしだってなんでもするかもしれない この平和な天国から追い出されてしまったら 何十人 何百人 何千人 殺したって 戻りたいって 思うのかも しれない ---------------------------- [自由詩]夜の底/チアーヌ[2006年4月14日12時34分] 彼女がいつからそこにいるのか 知っているものは誰もいない このビルを20年前から掃除している おじいさんがそう言っていた 古いビル 彼女は窓辺に座り タイプしている カタ・・・カタ・・・カタ・・・ お仕事をしている つまらない毎日 夜 おじいさんがビルの掃除をしていると 彼女は時折にっこり会釈をして通り過ぎていく 彼女は年を取らない 透き通るような肌に黒目がちの瞳 手に持っている文庫本はいつも読みかけ グレーのスカート 黒のカーディガン 白のブラウスはいつも洗いたて ほんのり石鹸の匂い 長い髪の毛は烏の濡れ羽色で 僕は 彼女に手を触れたい お掃除のおじいさんは 静かに首を横に振り モップの柄を天へ振り上げる ときどき僕は屋上へ行く 東京の街はどこまでいってもビル 脳の許容量の範囲をいつも超えている だからいつも僕は 深夜のビルの中 彼女はいつも たぶん 僕を待ってる ---------------------------- [自由詩]この感じ/チアーヌ[2006年4月20日9時34分] この感じ 血が降りてくる この感じ 嫌な熱さと 嫌じゃない熱さが 混じり合い わたしの考えを 奪う そして 血の塊と一緒に 流してゆく どぷ どぷ どぷ この調子で その調子で あの調子で もっともっともっと ---------------------------- [自由詩]5センチの猫/チアーヌ[2006年4月24日12時09分] 5センチの猫が 水槽に飛び込んで すべての魚を 粉々にしてしまった ---------------------------- [自由詩]かざぐるま/チアーヌ[2006年5月10日19時45分] かざぐるま またきます するり りんね ねんねんころり ---------------------------- [自由詩]午睡/チアーヌ[2006年5月14日14時36分] 耳の穴からスルリ入り込んできた 白い白い糸 クルリ頭の中へ 目の後ろを抜けたら 鼻の穴から抜けていく シュルシュルシュルシュル 目を開けないでいてね そのうち平気になるよ 今度は縦方向にね 山の中の湖 妖精は水色の髪 ---------------------------- [自由詩]クリーム色の壁のことを覚えている/チアーヌ[2006年5月14日14時45分] 最初から最後まで 何を考えているのかわからなかった 好きなのか キライなのか どうだっていいのか よくないのか わからないままで 付き合っていた わたしは一度も気を許さなかったし 向こうもそうだったと思う でも楽しかった とても ---------------------------- [自由詩]ランダム/チアーヌ[2006年5月16日11時02分] 流れ落ちるギターの音 太鼓の響き 誘われてここに来ました 知らない道 散歩の途中 そんな 夏の夜に 冷たいお酒 涼しい夜風 気持ちいい 隣に座った女の子と 少し話して 一緒に飲んだ 日が暮れるまでここに 日が暮れたらまたどこかに 消えて行きたい ---------------------------- [自由詩]王女/チアーヌ[2006年5月21日11時33分] たんぽぽ畑の真ん中で わたしは しろつめくさの冠を作る わたしは王女様 けして王妃さまではなく ---------------------------- (ファイルの終わり)