チアーヌ 2005年10月27日0時00分から2005年12月12日9時38分まで ---------------------------- [自由詩]わたしのこと好き?/チアーヌ[2005年10月27日0時00分] 一日に何度も何度も 「わたしのこと好き?」 って聞いちゃうのは あなたがわたしのことを好きだって 信じているから だから しつこいって怒らないでね もしもあなたの気持ちが 変わるようなことがあったら ほんの少しでも そんな気配を感じたなら わたしはたぶんもう何も 言わない ---------------------------- [自由詩]ふと、いらなくなる/チアーヌ[2005年11月1日18時45分] 目の前のものが見えなくなって アリジゴクの誘惑に身を委ね 家電量販店ではカードが飛び交う もう何もいらないよ 暗闇の中に階段が見えるよ ふと、いらなくなって 降りてゆけばいい バラには一つ一つ名前がある ミニバラにだって名前がある けれど店先では 名前なんかいらない みんな色だけを見て 買うから ため息をついて もういらなくなったものを思う たまにトラックがやってきて 皆集めて持ってゆく 何もいらないよ そう思っても湯水のように流れ落ちる自分 いらないよ いらないよ もう何もいらないんだってば 言葉も失って できることはカードを出すだけ どうか個人情報は世界中に 公開して ください 磨耗されるように ---------------------------- [自由詩]限界/チアーヌ[2005年11月2日22時12分] あまりにも暑いから 立ち眩みがしそう 知らないアパートの階段は 古くて崩れそう 錆付いた自転車の側には 痩せた猫が一匹 しゃがみ込んで撫でていると 後ろから知らない男の子がやってきて わたしを呼んだ 後を追って 階段を上がると 小さな部屋が並んでいて 奥から二番目に 男の子が入って行くから わたしも入った 電気が無くて 薄暗い部屋で 窓を開けて 二人で煙草を吸った そして男の子は レコードをかけてくれた その音はとても遠くて 歪んでいて わたしの地面はぐらぐらになった どうしてこんなにつらいのかわからない わたしは声を殺して泣いた ---------------------------- [自由詩]優しいところ/チアーヌ[2005年11月2日22時19分] どうか優しい灯りをつけてください お寺近くの静かな道に面した部屋は わたしのたったひとつの場所だから 辺りは真っ暗で何も見えなくて 心細くて泣きたいくらい けれどわたしは泣きはしない 優しい灯りだけを頼りに 暖かい布団だけを頼りに わたしは今夜も疲れた足を引きずり たったひとつの場所へ行く 古くても寂しくても構わない カバンに入った鍵を震える手で探ります 外灯はそのままで 温めて ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]猫を轢く/チアーヌ[2005年11月4日11時30分] そういえば、 田舎の道路ではよく猫が死んでました。 タヌキも死んでました。(彼氏が轢いた。良く出るんだこれが、夜。) 犬も。 おばあちゃんたちは良く、「畜生は後戻りできないから轢かれる」と言っていました。 中学生の頃、学校帰りに、国道の道端で瀕死の猫を見つけました。わたしはひとりでした。とりあえず側の畑に運び、苦しそうに息を吐く、白くて小さな猫を、じっと見つめていました。死ぬまで。 死ぬことはなんとなくわかっていたのだと思います。ただなんとなく、わたしは、誰かが死ぬまで見ていてあげなくちゃいけないという気がしていたような気がします。 ずいぶん昔のことなので、そのときの感情は上手く思い出せません。 しばらくすると猫は死んで、わたしは畑のサトイモの葉の茂みの中に猫を隠し、えーんえーん泣きながら家に走って帰りました。今思うと中学生なのに子供っぽいですね。 家に帰ると、すぐに母親に報告しました。 わたしはどんなことでも母親に報告する素直な子供だったのです。 すると母親は、 「そうか。それは良いことをしたね。猫もうれしかったと思うよ。でもね、チアーヌちゃんは変なところで優しいから、その猫はここまでついてきてしまったかもしれない。お母さんが猫に帰りなさいといってあげるから、もうその猫のことは忘れなさい」 わたしはなんとなく安心して、ご飯を食べてお風呂に入って寝たのでした。 次の日には、もうそんなに猫のことで悲しい気持ちにはなりませんでした。 わたしの母親がいうには、寂しい霊というのは、「悲しい、悲しい」と思ってくれる優しい人についてくるというのです。だから変に道端で死んでいるものに情をかけすぎてはいけないと言っていました。 ところで、わたしも猫を轢いたことがあります。20半ばで、仕事をしていて、通勤に車を使っていた頃のことでした。 わりと広い道路でしたが、住宅街の中でした。仕事帰りで、夜の11時ごろでした。 高速道路ではないので、照明なんかなくて、暗い道でした。 そんな暗闇の中を、確か50キロ程度で走行していたと思います。すると、ひょいと左側から、白いものが飛び出してきたのでした。 猫だ!とすぐに思いました。でも間に合いませんでした。 ドン、と嫌な衝撃音がして、これは轢いたな、と思いました。後ろにも前にも車はいませんでしたので、わたしはすぐに車を止め、徒歩で引き返しました。 真正面で思いっきり轢いてしまったらしく、猫は即死状態のようで、道路にでろんと横たわっていました。 猫は白くてちょっとぶちが入った毛並みの良いかわいい猫で、首輪がついていました。 飼い猫でした。 わたしは、とりあえず道路の脇に猫を寄せると、混乱した頭でしばらくそこで逡巡したあげく、半べそをかいて車に乗り込み、なんと職場に戻りました。 職場にはまだたくさんの同僚が残っていましたし、その頃わたしは一度目の結婚をしていたのですが、その頃夫との関係は壊滅的な状態で(そのあとしばらくして結局離婚することになってしまった。)、しかも、家が結構遠かったのです。 職場に戻ると、やはりまだ人が残っていました。けれど、もう大体のところは終っていて、みんな雑談していました。なので、わたしは仲の良い同僚にこっそりと「猫を轢いちゃった」と打ち明けました。 「えっマジで?どこで?」 「●●の辺りで・・・」 「すぐ近くじゃん。じゃ、みんなで行こうか」 なんだか大げさなことになってしまい恐縮しましたが、何人かでまたその場所へ戻りました。猫はやはりすっかり死んでいました。 同僚たちはてきぱきと仕事をしてくれました。 「首輪に飼い主の名前とかないね。このへんの家の飼い猫なんだろうけど」 「こういう場合連絡はどこだったかな。とりあえず警察に電話してみるよ」 同僚が最寄の交番に連絡をしてくれました。すると、警察のほうで片付けるので脇に置いててくれという話でした。 飼い主のことが気になり、聞いてもらうと、もしもそういう人が現れたら連絡しますとのことでした。 結構あっさりしたものなのでした。 その間、結構時間があったと思うのですが、わたしはぼーっとしていました。 やはりショックだったのだと思います。 みんなにお礼をいって、そこで解散しました。 そのあと、結局、何の連絡もありませんでした。もしかすると猫の飼い主はどこにも連絡せず、家でひたすら猫の帰りを待っているのかもしれないと思うと、しばらく申し訳ない気持ちがしましたが、自分が生きていくだけで精一杯な日々だったせいか、次第に忘れてしまいました。ひどいですね。わたし。 ということを、雑談スレッドの書き込みで思い出しました。 記憶って不思議だな。 ---------------------------- [自由詩]テーブルの下/チアーヌ[2005年11月4日15時54分] この部屋の空気はどんよりしている 床の色はとても濃い茶色 カーテンはモスグリーンで 午前中には光が差すよ ベランダでハーブを育てる レモンバームは良く伸びて 寂しいわたしのお茶になった 向い側の家はグレーの壁で 窓には古いカーテン わたしを遮る 川に全て流してきたことは秘密 今度は大丈夫 そう思いながら青いソファに寝そべる 声が欲しいよ 隣の部屋から聞こえるため息 壁にコップをあてれば聞こえる 聞こえるけれど 聞こえない そっと呼び寄せた彼をテーブルの下に そっと呼び寄せた彼とテーブルの下に もう何も信じない 奥のほうで川が流れてる 堤防を破ったら 破れそう 破りたい 空のコーヒーカップに なみなみとついで あなたにあげる この川の水を 飲んで ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]愛は抽象画/チアーヌ[2005年11月7日13時21分] 今、わたしはたぶんかなり調子が悪いんだとおもう。体調じゃなくて。頭?うん。そうです。たぶん。 さっきまでHANA−BIを見てた。やっぱりいいな。わたしはあまり映画を見ないんだけど、気に入ると場面ほとんど言えるくらい何度も何度も見る。ビデオもサントラも買う。 昨日座頭市テレビでみたせいかな。別にたけしの映画が好きだというわけじゃないが。あれもいいね。DVD買うほどじゃないけど。 心の調子の良くないときは家事がはかどる。変だけどほんとだ。普通は逆みたいだね?主婦は家事ができなくなるというのが病気の兆候らしい。「主婦うつ」の本とかに良く書いてある。ということはわたしは病気じゃないんだろう。じゃぁなんなんだろう。 いつもは、「家事なんかやってられっか!」みたいな感じに元気だったりすると、頭がいろんな方向に向かってる、気がする。けど、頭の調子が悪くなると、余計なこと何も考えなくなるから家事とか無言でやってる。家の中にひとりでいたら、誰もしゃべる相手なんかいないしさ。 映画をつけっぱなしで家事とかしてたんだけど、(もうストーリーその他わかってるからジーッと見ている必要はないのだ。音楽を聞く感じと似てる。)なんかぼうっとして、あー愛されたかったなあとか思った。あ、別に旦那が愛してくれてないとかそういう話じゃないですよ。そういう即物的なことじゃなくて・・・。でもなんかねえ、愛されたかったなあと思うんだ。なんか、人間はいつかひとりで死ぬんだなあって思うと寂しくてしょうがないときがあるんですよ。ああ、なんか調子悪いだけあって気弱な発言だな。こんな寂しがりではしょうがない。ダメですね。 ところで愛ってなんでしょうか。きっと抽象画だ。突然そう思った!大発見だ。そうなのか?うーん自分でもわからない。 今年一年、うちのリビングのカレンダーはシャガールだった。シャガールは好きだけど、時々すごく悲しい。シャガールの絵はなぜか、「お母さん、お母さん」と泣いている子供みたいな気がする。なんでだろう? そして愛は抽象画なのかもしれない。 理由はわからないでので訊ねないでください。 それから、たぶんわたしの意見は口から出任せです。 ---------------------------- [自由詩]わたしが眠っていると/チアーヌ[2005年11月10日15時51分] わたしが眠っていると ドアを開けて神様が入ってきて わたしの口の中に何かを突っ込んできました なんだろうと思ったけれど 眠くて何がなんだかわかりません そのときわたしは 大昔のローマの 地下20階建ての大浴場で 自分の体を洗うところを探して ぬるぬると水垢で汚れた薄暗い石畳の上を 裸で歩いていました 大浴場の片隅には カビと水垢で汚れきったシャンプーボトルや 洗顔フォームのチューブが 打ち捨てられていました 少しでも少しでも 上の階に行きたくて ぬるぬると汚い石畳の階段を 我慢して 一段一段上がって行きました それなのに 神様は わたしの口の中に何かを突っ込んできました わたしは何度も目を覚まそうと思ったけれど 眠くて眠くてどうしても目を開けられません そして神様は満足すると ドアを開けてどこかへ行ってしまいました ---------------------------- [自由詩]楽しいパーティ/チアーヌ[2005年11月14日13時19分] 「久しぶり」 っていう笑顔が曲者 あのときはずいぶんいいようにあしらってくれたね あのあとすぐに結婚したって聞いたよ それで少し泣いちゃったことは秘密 「電話番号教えてよ」 教えない 「今どこに住んでるの?」 絶対に教えない 二度あることは三度あるって 信じてる顔だね 自分の毛並みの良さを背景に 気を持たせるようなことばかり言って いいようにあしらわれた美しい思い出は 何年経っても 忘れないわ 「お幸せそうですね」 冷んやりとわたしが言うと あなたは言い訳するように 結婚生活の不幸を二つ三つ どうせ別れるつもりもないくせに 刺激だけ求めてるんでしょ 変わらないね それならどうぞ案内するわ わたしの家にようこそ 主人と子供を紹介します うーんおかしいぞ なんか話が弾んでる まぁいいか こういうのも楽しいね 今度はどうぞ 奥様とご一緒に ---------------------------- [自由詩]つまらない日常/チアーヌ[2005年11月14日13時31分] とても疲れていて目の前には男の子が5人 全員同じ顔をしていて おしゃべりも大差ない 違いは セックスのテクニックだけ 「上手」 「普通」 「下手」 「刺激的」 「つまらない」 ただそれだけ 郊外のファミレスで面接しましょう 合格した子はマクドナルドに連れて行ってあげるわ 喉が渇いたらコンビニで何か買ってあげる 都会の飲み物はすべてペットボトルの味がする どれも同じ わたしは一番つまらなそうな男の子をひとり選ぶ そしてつまらないセックスをする 抱きしめると雑草を抜いたあとの土みたいな 匂いがする 大好きよ ずっと一緒にいようね ---------------------------- [自由詩]梟と猫/チアーヌ[2005年11月14日20時09分] 見つめ合ってみたの なんの得にもならないって わかってはいたけれど 亀のお尻はかわいいねって 言いたかっただけ 夕暮れ時に かち合ったのが 運のつきね ---------------------------- [自由詩]暖かい闇/チアーヌ[2005年11月15日23時00分] 暖かい闇が 降りてきて お帰りなさい と 呼ぶ声 お布団の中には たくさんの小人 目を閉じて 深呼吸 この体は わたしのもの? ほどけてゆく でろでろ でろりん 泥沼のなか ---------------------------- [自由詩]あなたの月/チアーヌ[2005年11月16日19時23分] 月を見ています あなたは今夜 月を見ていますか? それは 鉄塔の上に見える月ですか? それは 杉の大木のてっぺんに見える月ですか? それは 電線の間から見える月ですか? それとも 夜景の見える25階のレストランから 見える月ですか? わたしは月を見ています わたしが見ている月は お向かいのマンションの上に 白く 丸く ---------------------------- [自由詩]代わり/チアーヌ[2005年11月17日13時20分] おねがい 代わりになってちょうだい 大好きだった彼の 代わりになってちょうだい ふたりでお散歩しましょう お食事しましょう 花を飾りましょう そして あなたの手と わたしの手が 重なったら そっとキスしましょう あなたは彼の代わり 死に損ないのわたしのために かみさまがくれた とても優しい身代わり ---------------------------- [自由詩]見えない鳥/チアーヌ[2005年11月18日17時33分] 僕の隣に 見えない女が座っている 11月に入って床は冷たい 僕がひざを抱えて座っていると 隣で女もひざを抱えている 見えない女 たぶん 見えない鳥だと思う ---------------------------- [自由詩]体が心を/チアーヌ[2005年11月18日17時38分] あなたはいつも わたしを傷だらけにした 気がつくと 傷だらけになっていた 痛いからやめてって言うのに あまり気にしてくれなかった お風呂に入るたび体中にお湯が沁みる だからわたしはあなたと会えなくても 一ヶ月くらいは 平気だった ---------------------------- [自由詩]沈黙/チアーヌ[2005年11月21日23時54分] 今日とてもかわいい小鳥を見つけたの 小さくて白くて透明な小鳥 手のひらに乗せたら小首をかしげて鳴いたよ そのことを話したくてずっと待っていたのに あなたの顔を見たら 何も話せなくなってしまう ---------------------------- [自由詩]広くてオープンなスペースで/チアーヌ[2005年11月22日15時35分] ふわっと投げたよ 受け取ってくれなくてもいいよ 青空には軌跡が残るから ---------------------------- [自由詩]恋するいきもの/チアーヌ[2005年11月23日22時06分] 恋するうさぎは 目を赤くして 息が浅い 恋するコブタは 体温が高くなって 仰向けにされると 「プギー!」と叫ぶ 恋するボルゾイは 子馬のような体を横たえ 前足を重ねて顎を乗せ 遠くを見る 恋するわたしは こたつにぺたりと頬をつけて ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]黒頭巾ちゃんは酒乱/チアーヌ[2005年11月26日20時51分] 黒頭巾ちゃんはちょっとだけ酒乱気味です。 だから、お酒を飲むときには、飲み過ぎないように気をつけています。 けれど、たまにはやっぱり、失敗してしまうこともあるのです。 黒頭巾ちゃんはアル日、青頭巾ちゃんを誘って夜遊びにお出かけしました。青頭巾ちゃんは一緒に遊んで面白い人で、あまりにも面白いので、黒頭巾ちゃんはいつもお酒を飲みすぎてしまうのです。 一軒目は食事もできる居酒屋、二軒目はバー、三軒目はロックバーで、そしてクラブ。もちろん酒は飲みっぱなしです。さんざん飲んでさんざん踊ってふらふらになった黒頭巾ちゃんと青頭巾ちゃんは、さすがに疲れきって、よくわからないままに開いていた酒場に入り込んでしまいました。 ふたりで座り込んで、ぼうっとしていると、次第に、そこかカラオケバーだということがわかってきました。昔ながらのスナック風。なんでこんなところに入ってきてしまったのか、酒が回りまくっている黒頭巾ちゃんと青頭巾ちゃんにはさっぱり理解できません。でも、いつのまにか、二人はそこにいたのでした。 そして、当然のことながら、その店の中にはうるさいカラオケの歌声が鳴り響いていました。 「へー、ここカラオケするところなんだ。わたし歌っちゃおうかなあ」 「歌えば?」 二人はダラダラと言葉を交わします。しかし、その聞こえてくる歌の下手クソなこと。そちらを見てみると、ちょっとかわいいヤンキー系のうさぎちゃんが歌っているようです。 まぁそれはいいのですが、それを聞いているうちに、黒頭巾ちゃんはなぜか段々イライラしてきたのでした。よくない兆候です。 「ねー、なんか音痴じゃない、あのうさぎちゃん」 「そうだけどさ・・・。黒頭巾ちゃん声大きいよ」 「だってさあ、何これ。Aの音が高いよ」 「だからやめときなって」 「んでさあ、Bの音が低いの」 「ほんと声大きいよ黒頭巾ちゃん」 二人でこそこそ話していたつもりだったのですが、青頭巾ちゃんの言うとおり黒頭巾ちゃんの声は大きかったようです。 歌い終えたうさぎちゃんが、赤い目でこっちを睨んでいます。うさぎちゃんも、相当に酒が入っている様子でした。 「ちょっとあんた」 「おい、やめろよ」 側には彼氏らしい柴犬がいて、うさぎちゃんを止めようとしています。 黒頭巾ちゃんたちも、面倒なのでシカトぶっこいていました。 「ちょっと、そこのあんた」 黒頭巾ちゃんはもちろんシカトです。でも、あんた呼ばわりされてムカムカが収まりません。とりあえず目の前の水割りをあおります。 「ちょっと!そこの黒頭巾被ったあんた!あんたに言ってるのよ!」 「何よ、うるさいわね。なんなのよ、何か用?」 「や、やめなよ、黒頭巾ちゃん」 青頭巾ちゃんがすっかり酔いの醒めた顔で必死に黒頭巾ちゃんの腕を掴みます。 「人がいい気分で歌ってるのにさあ、何よあんた。何言ってたのかもう一度言ってごらんよ」 「だから、やめなって、うさ子さん」 人の良さそうな柴犬の彼氏は、おろおろするばかりです。 「はぁ?音痴だから音痴だって言っただけじゃん。何興奮してんの?」 「あんたにそんなこと言われる筋合いないわよブス!」 「へえ、人の顔のこと言う前に鏡見てくれば?トイレについてたよ?それとも自分の顔見たこと無いの?」 「何よあんた!一体何様のつもりなのよ?」 「あっ、ご、ごめんなさい。この子ちょっと酔ってて・・・」 青頭巾ちゃんが必死に中に入ろうとしています。 「大丈夫よ青頭巾ちゃん。何よこの女、子うさぎのくせにさあ、変ないちゃもんつけてきやがって」 「っていうか先にいちゃもんつけたのは黒頭巾ちゃん・・・」 「何よ!子うさぎだってえ!!!人をバカにするのもいい加減にしなさいよあんた」 「子うさぎだから子うさぎだっていっただけじゃん。わたしはさっきから本当のことしか言ってないわよ?本当のこと言って何が悪いの」 「何なの一体!!!!このクソ女!!!」 子うさぎ、じゃなくてうさぎちゃんがいきり立ってヴィトンのバッグで殴りかかってきたので黒頭巾ちゃんはひょいとよけました。でも、バッグはグラスに当たってばちゃん!と砕け、黒頭巾ちゃんのお洋服を酒まみれにしました。 「何すんのよ、バカ!」 カッときた黒頭巾ちゃんも立ち上がって、プラダのバッグで応戦です。エルメスかシャネルじゃないのがつらいところ。すると、子うさぎもひょいと避け、生意気なことに回し蹴りを食らわせてきました。 「いったーい!!!!!何すんのよ子うさぎのくせに!!!よくもやったわね!!!」 幸い、というか、不幸に、というか、深夜だったためか、そのカラオケバーにはもうほとんどお客さんはいませんでした。 殴る蹴る逃げる汚れる、もう大乱闘です。一体どれくれいの時間が過ぎたのかなんて、黒頭巾ちゃんは覚えていません。 気が着いたら、店の看板は蹴り倒され、グラスは割れまくり、椅子やテーブルは倒れまくっていました。 「おい」 誰かが黒頭巾ちゃんを背中から羽交い絞めにしています。 「放しなさいよ・・・・」 そう言ったものの、黒頭巾ちゃんももう動けないくらい疲れきっていました。 「何やってんだよ、もう」 振り向くと、おおかみがため息をついていました。 向こう側では、子うさぎちゃんがテーブルに突っ伏して寝ています。 お店の人たちは、皆無言で片づけをしていました。 「なんであんたがいるのよ」 小さな声で黒頭巾ちゃんが言うと、 「青頭巾ちゃんから電話もらってさ。たまたま近くで飲んでたから良かったけど」 「そうなの・・・・。で、青頭巾ちゃんは・・・?」 「柴犬とどっかに行ったぞ?」 「え?柴犬は確かあのうさぎちゃんの彼氏だと思うんだけど」 「そんなこと俺知らねえよ」 「・・・・。」 そのうちに、うさぎちゃんも目を覚ましたようでした。 酔いの醒めた顔です。 「あのー、ごめんなさい。わたし・・・・」 「いいえ、こちらこそ・・・」 お互い服はどろどろ、擦り傷だらけのようです。 おまけに、なんだか、臭い・・・・・。 「わたし、どうしちゃったの?」 黒頭巾ちゃんがつぶやくと、うさぎちゃんも自分の匂いをくんくん嗅いでいます。 「あー、二人とも吐いたから」 おおかみが冷たく言います。 覚えてない・・・・。 「とりあえずこの店には壊し賃含めてカードで払っておいたからさ。行こうよ。あ、そっちの彼女も一緒に」 おおかみに言われるままに、黒頭巾ちゃんとうさぎちゃんは店を出て、タクシーに乗りました。 おおかみがさりげなくうさぎちゃんに話かけています。 「柴犬って君の彼氏なの?」 「ああ・・・でも大した付き合いじゃないです」 「なら、いいんだけど」 「あのー、一体どこに?」 「ホテル。洗わないと臭いじゃない?」 黒頭巾ちゃんとうさぎちゃんは考える気力がなかったので、おおおかみと一緒に3人でホテルに行き、3人でお風呂に入って、そして3人で朝まで寝ました。 暖かい布団で眠りにつく瞬間、黒頭巾ちゃんはもう飲みすぎるのはやめようとしみじみ思いました。 ---------------------------- [自由詩]豪華なボロボロ/チアーヌ[2005年11月29日19時15分] ボロボロなわたしはボロボロで素敵な部屋を見つけたので そこに豪華な男を呼んだ 豪華な男は豪華なのでその場のすべてが豪華になった ボロボロのわたしはいる場所のすべてをボロボロにするのが得意だけれど 豪華な男が来てくれたのでボロボロはとても豪華なボロボロになった ありがとうもっともっと豪華に破壊してくださいボロボロにしてください 豪華な男に二度と会いたくならないように ---------------------------- [自由詩]黒猫の気持ち/チアーヌ[2005年12月1日17時28分] 不吉だと思って頂戴 とてもとても不吉だと思って頂戴 そう思ってくれればくれるほど あなたの前を横切るのが楽しいから ---------------------------- [自由詩]すごい顔の女の人/チアーヌ[2005年12月3日21時34分] わたしが歩いていたら 向こうからすごい顔の女の人が歩いてきた 横に幅広くて 目と目が離れていて 顔はずっと同じ顔で 中途半端に笑っていた わたしが見ている間にも 顔が横に潰れていくのがわかった 見たことの無い服を着て 肩で風を切って歩いていた 良く見ると 目玉がくるくると回転していた 道路を斜めに横切りながら 小さな四角い紙を 中途半端な笑顔で 一枚一枚後ろに投げ捨てながら 目と目の離れた顔で ---------------------------- [自由詩]馬鹿/チアーヌ[2005年12月4日12時34分] 頭上からガンガンと大音声が響いてきて 見上げれば汚いトレーナーを着た中学生の兄弟 階段を上がって来いと言われ 戸惑っていると 「お母さんがいるから大丈夫」 と双子にしか見えない顔で言う 右は青で 左は緑 目の色は茶色と白 牙は生えていないけれど爪は尖っている どこからか肉を焼く良い匂いが漂ってくる わたしの旅はまだまだ続くはずだから ここで階段を上がっていいのか不安になる 心がざわざわとしてきて 地面から棒が次々と突き上げられる ずどん ずどん ずどん 耐えられず階段を上がって兄弟の部屋に入ると あっという間に強姦されてしまった ---------------------------- [自由詩]収縮/チアーヌ[2005年12月4日20時59分] 信じていたものが 違っていたとき ぎゅっと身が縮む 寒さに震えながら 両手で缶コーヒーを 強く強く握り締めたりする あきれるほどにぎやかなパチンコ屋に入って 無感動に札を穴に入れ続けたりする 小さな後悔で 大きな後悔を 埋めたいのだ そんなことはできやしないのに 大きな声で泣きたいけれど それさえも縮んでしまって 何も出てこない 大きな後悔は 小さな体の中に 身を縮めて わたしを容量オーバーにする ---------------------------- [自由詩]あと20センチ/チアーヌ[2005年12月5日11時27分] わたしがあと20センチ大きかったら 行きたいところが一杯ある 殴りたい人が一杯いる 着てみたい服も一杯ある でも20センチの違いは大きい だからわたしはマンホールの蓋を開けて ---------------------------- [自由詩]ちぇんばろのおとふりそそぐあさ/チアーヌ[2005年12月7日20時51分] しんけんにいきるってなんだろう しんけんにいきると どこからかちぇんばろのおとといっしょに てんしがむかえにきてくれるのかな ばかにすんなよ なめるんじゃねえぞ てめえ ---------------------------- [自由詩]安らかな秋/チアーヌ[2005年12月7日23時39分] ガマの穂が天に向かい綿に覆われて立っている 安らかな秋 まるで別世界のことのように 自分のことを思う 帰りたいと願う 時間を戻してくれと願う 叶わない願い わたしの歩く道から ガマの穂の群れはこんなに良く見えて 一歩踏み出せば 入れそうだ わたしはある日 入ってしまうかもしれない ひとあし ひとあし 踏み込んで 二度と戻れない 湿地帯の中 沈み込んでしまうのかもしれない そしてそれは 案外幸せなのかもしれない 安らかな冬が 来る前に ---------------------------- [自由詩]生きた化石/チアーヌ[2005年12月9日12時39分] 見えないところに 化石が出来た 柔らかかった 良い匂いがした 叩いても 撥ね返される または 粉々に 割れる 水をかければ ふやけたりせず 溶けて流れてしまう 温めても 冷やしても もう元には戻らない 時が流れるということ 悲しいけれど 飾っておきましょう 見えない場所に ---------------------------- [自由詩]千切れる/チアーヌ[2005年12月12日9時38分] デパートの八階ひな人形売り場 小さいのが欲しいなあと思って行くと大きいものばかり 良く見ると「ベルばらひな人形」なんかあって 「オスカルとアンドレ」 「マリーアントワネットとフェルゼン」 へええええ こんなのもあるんだあ 隣では 着せ替えひな人形が ボロ布を纏っている 通路を歩いて行くと センスの悪い婚礼タンスが鎮座していて わたしは引き出しをあけてみる 下りエスカレーターの手すりは千切れそう ガタ・・・ガタ・・・ガタ・・・ 線路に行くと人だかりで 電車の中では妊婦が臨月の腹を揺さぶり マイクを持って高らかに歌っている ロックミュージック 全員が踊っている 電車は走らない 「先に行けよ」 後ろから声がする わたしはホームを走って線路にジャンプ! 上手く飛べたかな フワ・・・フワ・・・フワ・・・ 地上5メートルを飛び続け 次の駅に到着 人が集まりがやがやと 駅員さんは走っている どうしたの? 「前の駅は全員死んでるらしいよ」 ---------------------------- (ファイルの終わり)