チアーヌ 2004年12月21日23時24分から2005年2月17日16時36分まで ---------------------------- [自由詩]なかったこと/チアーヌ[2004年12月21日23時24分] 「なかったことにしよう」 と言われて 黙って頷いた そうかぁなかったことかぁと 帰り道電車の中 何度も何度も考えた とても疲れていたので 座りたかったけど 井の頭線は混んでいて つり革にさえありつけない あんなことこんなこと いっぱいしたのに 全部なかったことになった だからあれはなかったんだ そうかじゃあ平気だね でもなんでこんなに悲しいんだろう なかったことなのにね なかったことなのに悲しいなんてへん ---------------------------- [自由詩]襲ってサンタさん/チアーヌ[2004年12月24日13時31分] どうしたんだろう 今夜はひとりがさびしい よくわからないけど 鍋焼きうどんでも作ってみようかな 彼とは別れちゃったし 次の合コンは新年明けてから 友達は彼と一緒みたい やっぱりうらやましい バイトがあって良かった なかったらもっとさびしかっただろうな ふと思いついて 電話線を抜いてみた 誰かから電話がきたらやばい こういうときは危険で 普段どうだっていいと思ってた人とも いちゃいちゃしたくなるから 危険は回避する それでなくてもだらしないのに 今夜はやめておこう どうせなら他の日にしよう 鍋焼きうどんができたみたい くんくんいいにおい おいしかったごちそうさま 絵本を読んで布団に入って おやすみなさい でもちょっとまださびしい サンタさんに 襲われたい ---------------------------- [自由詩]さびしい公園/チアーヌ[2004年12月25日19時46分] 住宅地のはずれにあって 草がぼうぼう生えていて 樹木は無い 遊具は 赤いジャングルジムと 青いブランコと 錆だらけの滑り台 隠れるところもなく 逃げることもできない 近くにはもう 誰もいないから 誰も来ない ただ少しずつ寂れていく せめてゴミでもいいから ここに捨てに来てちょうだい アメの包み紙やガム チューチューアイスの抜け殻 なんだってかまわない 声を聞かせてちょうだい 喧嘩だってかまわない わたしは何も欲しくなんかないから ただここへ来て欲しいの ここで遊んで欲しいの おねがい おねがいします ここへ来て ここへ来て ---------------------------- [自由詩]楽しい秘密/チアーヌ[2004年12月29日12時59分] 頭の上の方の 難しいこと考えちゃう部分 ぜんぶ取り出して お風呂に置いておいで 大したことじゃないってこと よくわかるでしょう 頭の後ろから ゾクゾクしてきたら 取れてきた証拠 目を開いてつぶってまた開いて はい パチン 世界が変わったよ 簡単なことだよ 考えないこと いっぱい感じること ごっくん 言葉を 飲み込んだら 呼吸することも忘れるよ 気がついたら もう誰も どこにもいないね 何もかも 体からつるつる すべり落ちていくでしょ もうあなたも どこにもいないよ 感じて そして 簡単なことを しよう とても簡単なことを あんまり 簡単すぎて すぐに忘れちゃうね こんな楽しい秘密 ---------------------------- [自由詩]毛穴/チアーヌ[2005年1月10日21時55分] あなたの隣にいると 体中の 毛穴が開くのを感じるの ぶわあっと 体中から 何かが噴出して 息が出来ないくらい それがなんなのか わからないまま いつもキスしてる ---------------------------- [自由詩]編み物/チアーヌ[2005年1月13日23時43分] わたしが悪かったのだ 必要のないものをあげてはいけない まして 友達がみんなやっているから なんて理由で 不器用な手つきで 編み棒を動かしちゃいけない 人間暇だとろくなこと考えない カーキ色のマフラー編み上げて 久しぶりに会った彼にプレゼント なんてしちゃいけない 「ありがとう」 なんて言いながら もらってくれた彼は 今思えばすごくいいひと その場で嫌な顔しないだけでも 上出来 だからしばらくして 彼の部屋に遊びに行ったとき それがぐにゃぐにゃに絡まって こたつの下に落ちていたからって ムカついちゃいけない わたしの視線の先を見て 「あ、ごめん」 なんて慌ててそれをしまった彼 その日は確かまだ 回数にしたら一桁台 欲望のままに することはしたけど 散らかった部屋の隅に 転がってた髪留め わたしのじゃなかった 慣れないことするもんじゃないね わたしってばかみたい としみじみ思ったので 彼と会うのはやめた それきり 編み物もしていない ---------------------------- [自由詩]砂場/チアーヌ[2005年1月14日22時10分] 砂場ではいつも 大きな壁が作られようとしてる 水をかければ崩れてしまうのに ---------------------------- [自由詩]オウム/チアーヌ[2005年1月15日11時30分] 「奥さん」 と呼ばれて振り向いた そこにはオウムがいた オウムはオウムスタンドに 鎖で繋がれて にこにこ笑っている 「なあに」 とわたしは答える オウムは首をかしげ 「こんにちは」 と言う 「こんにちは」 とわたしも答える オウムは足踏みをする 喜んでいるのだ 鎖がじゃらじゃら音を立てる デパートの小鳥売り場はとっても明るい そして臭い わたしは高いものを買おうと思って ここへ来た オウムは25万円もする ぴったりだ でもわたしは オウムを買わない そしてオウムとずっと おしゃべりをしている ---------------------------- [自由詩]公衆便所/チアーヌ[2005年1月17日12時42分] どうせなら きれいな公衆便所に入りたいでしょう? みんなが使っているのに違いないのに いつもきれいで 新しいペーパーが補充されていて いい匂いがする そんな公衆便所に入りたいでしょう? 誰とでも寝る女の子は 昔よく「公衆便所」と言われたものだった 失礼だなあと思ったけど 上手く言うものだなあなんて 感心したりもした だからね どうせなら きれいな公衆便所になりたいなあと 思ったの 公衆便所は 清潔感が大事 いつも体中ぴかぴかに磨いて 髪の毛はさらさらにブローして あくまでも見た目はコンサバティブ お使いになりたいときは いつでも来て頂戴 もちろん 無料です ---------------------------- [自由詩]箱/チアーヌ[2005年1月17日13時45分] 目の前にある箱を片っ端から開ける どれもこれもいらないことを 確かめたくて ---------------------------- [自由詩]ありふれた日常/チアーヌ[2005年1月17日21時24分] 今日もわたしの手足は冷たい だからお風呂に入ります するとわたしの肌は乾燥して ぴきぴきとひび割れを起こす だからクリームを塗ります そして靴下を履いて 布団に入ります 布団は布団乾燥機をかけないと まるでフェルトのようにぺっしゃんこ そろそろ買い換えなくちゃと思いながら 今日も眠りに落ちます 見る夢は途切れ途切れ 夢を見て起きた瞬間は 自分がどこにいるのかわからなくなることが たまにあります こうやって人は段々自分を失ってゆくのかと たまに思います たまにです しばらく前に 老人ホームで歌を歌ったら 泣いてしまったおばあちゃんがいました 感情が動くのは 良いことなのでしょうか 何も感じないより 感じたほうが良いのでしょうか たまにわからなくなります たまにです ぼんやり途切れ途切れに いろんなことを思います いろんなことを思い出します わたしの日常は わたしの前を流れて行きます わたしは今日もごはんを作ります ---------------------------- [未詩・独白]100円ショップのペンギン/チアーヌ[2005年1月17日22時18分] こどもが眠ったあと 散らかったおもちゃをお片づけ 床に落ちている小さなペンギンを拾って ふと わたしは しばし見詰め合う ちょっと歪んでいるのは 100円ショップで買ったからかな かわいいよ かわいいよお前 ママは たまにとても寂しいの おはなし 聞いて ---------------------------- [自由詩]夜の前/チアーヌ[2005年1月20日14時30分] 優しい笑顔の裏側に 何があるのかなんて 考えない 人は簡単に違う顔になるよ 夕暮れ時 空を見上げて それがどんなにきれいだったとしても 空の上は虚無なんだ ---------------------------- [自由詩]ドラッグストア!/チアーヌ[2005年1月23日17時39分] 今日も行くわよドラッグストア! 新製品が目白押し 入り口近くでドリンク剤が 横目で誘惑してくるよ エステティックはT○C! そうは言ってもエステは高い ローン組んだらつぶれたなんて よく聞く話じゃない? 明日はわが身よ気をつけて! 老化はじわじわやってくる 「女は見た目じゃない」なんて そういうあなたの彼女を見せて? 足りなくなったらお肌も枯れるよ コ・コ・コ・コ・コラーゲン!(不味い!) 体にいいもの食べたいけれど 同時に痩せたいから困る そんなときにはダイエットコーナー 明日は3キロ痩せるかな? 化粧品ただで試し塗り 今日のメークはこれでOK 店員にこにこ笑ってる 「どうですか?」「いりません!」 今日も行くわよドラッグストア!毎日楽しいドラッグストア! お肌しっとりドラッグストア!ハニーリップも塗り放題! 今日も行くわよドラッグストア!卵も売ってるドラッグストア! セラミド整えドラッグストア!プチ整形はしたくない! 今日も行くわよドラッグストア!明日も来るわよドラッグストア! パチンコ隣のドラッグストア!もしも当てたら大量買い! 今日も行くわよドラッグストア!ティッシュ山積みドラッグストア! 金は無くてもドラッグストア!リラックスしたいそんな時! 今日も行くわよドラッグストア!主婦のデパートドラッグストア! 夢も買えそうドラッグストア!どんな夢かは聞かないで!    ---------------------------- [自由詩]どこにでもある/チアーヌ[2005年1月26日22時10分] どこにでもある 暗く深い裂け目 ふと街を歩いているときに 入り込んでしまった細い路地 何回往復しても 出られない ああ、裂け目だ しゃがみこんで 目をつぶる 目をつぶっていたら きっと きっと 元に戻っているから そこで重機を動かしているのは だれ? これってなんかの 罰ゲームなの? ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]黒頭巾ちゃん/チアーヌ[2005年2月7日22時55分] 黒頭巾ちゃんは、おおかみにばりばりと食べられた後、おおかみの内側からはらわたを噛み千切り、ぬめぬめとした何枚もの膜をカッターナイフで切り分け、血まみれになりながら脱出しました。 そして何事もなかったかのようにはらわたを元通りに突っ込み、ぬめぬめとした膜を縫い合わせ、最後に皮膚を大きなホチキスでばちばちと止めると、さっさとおおかみの部屋を出てタクシーを拾い、おうちへ帰りました。 おうちへ入る前には、黒い頭巾を脱いで、お庭に咲く白い薔薇の花の下へそっと隠し、緑の頭巾を被ることも忘れませんでした。そして、クリーム色のワンピースを着るのです。 なぜなら、黒頭巾ちゃんは、黒頭巾の下にはいつも、黒いガータベルトしかつけないからです。 白くて形の良いおっぱいと、黒のガータベルトは、黒い神様に会った時にもらったものです。 黒い神さまは、黒頭巾ちゃんに、黒頭巾を被せてくれました。 だから黒頭巾ちゃんは、毎日お祈りをします。 黒頭巾ちゃんはおうちへ入ると、緑の頭巾とクリーム色のワンピースを脱ぎ、熱いシャワーを浴びて、やっと安心して、ベッドの中に入って眠ります。 そして黒頭巾ちゃんは今夜も、黒い夢を見ます。 ---------------------------- [自由詩]バス・ツアー/チアーヌ[2005年2月8日9時31分] バスで行こう バスで行こう みんなで行こう 行く先は一緒 何も怖くない だだっ広い平原を 大都会の真ん中を 険しい峠を グランド・キャ二オンを イグアスの滝を 南の楽園を 賑やかなパレードを 血まみれの分娩台を 通り過ぎて 何もかも 通り過ぎて ひとり バス・ツアーは続くよ 楽しいバス・ツアー ごはんを食べよう お菓子を食べよう お酒を飲もう オアシスについたら 乱交しよう 草むらのベッドで バスで行こう バスで行こう 一度しかない 戻れない旅へようこそ 楽しく行きましょう 笑いながら行きましょう わたしと行きましょう トランペットが鳴り響く この世の果てまで ---------------------------- [自由詩]黒犬のドリア/チアーヌ[2005年2月8日9時36分] 犬と合コンをした わたしはちょうど 冷蔵庫の犬を食べ尽くしたところだった 新鮮な犬はいい 最初はお刺身にして 次はドリアにして それからシチューにして しばらくは楽しめる 右側から ドイツ・シェパード君 ドーベルマン君 柴犬君 ビーグル君 アフガン・ハウンド君 コリー君 個人的にはシェパード君がタイプだったのだけど 競争率が高そうだったので 面倒になってしまった 犬なんて 無理して手に入れるほどの ものじゃない だから たまたま隣に来た ビーグル君とお話して 時間をつぶす 合コンが終わったので わたしは電柱の上に飛び上がり 夜空の星を見上げる 鋭い爪と 嘴が わたしの武器 明日の夜はドリアを食べたい 黒犬のドリアを 少し離れた地上に降りると そこにはもう誰もいない 灰色の石畳 ひんやりと冷えた空気 わたしはゾクゾクする わたしは暗がりで黒犬と出会う 闇にまぎれる黒い黒犬 ああ あなたはすてき わたしの喉笛をかき切ろうとしてる その目がすてき でもわたしにも するどい爪と 嘴と いつでも飛び立てる羽があるから そうそう簡単にやられたりしないよ それよりも わたしの爪に 気をつけて すてきな黒犬 明日の晩御飯にできるかな お腹いっぱい食べたいの 最初はお刺身にして 次はドリアにして そしてシチューにして それから それから ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]黒頭巾ちゃんと赤頭巾ちゃん/チアーヌ[2005年2月8日13時18分] 赤頭巾ちゃんはかわいい女の子です。だから黒頭巾ちゃんは赤頭巾ちゃんが大好きです。 赤頭巾ちゃんが作るブルーベリーのお酒や、カシスで作った甘酸っぱいタルトを食べながら、黒頭巾ちゃんは赤頭巾ちゃんと楽しい時間を過ごします。 ちなみに、黒頭巾ちゃんは、赤頭巾ちゃんと会うときには、緑の頭巾を被っています。そのほうが、赤頭巾ちゃんとお話するには好都合だからです。 その日も、黒頭巾ちゃんは、緑の頭巾を被って、赤頭巾ちゃんと森の中でラズベリーを摘みながらお散歩していました。 ラズベリーの木にはとげがあるので、黒頭巾ちゃんは、そのとげを一本一本むしりとり、赤頭巾ちゃんに実を取らせました。赤頭巾ちゃんが手にケガをしないように、黒頭巾ちゃんは一生懸命でした。 黒頭巾ちゃんの手はいつも傷だらけだから、今更ラズベリーでケガをしたって、大したことじゃないのです。 そして、太陽が真上に昇り、黒頭巾ちゃんと赤頭巾ちゃんは、ラズベリーの木の側で、ランチを食べることにしました。 黒頭巾ちゃんは、青い薔薇の花びらを敷き詰めたバスケットに、二人分のお弁当をつめて持ってきていました。 セージとローズレッド、それにレモングラスを加えたハーブティにラズベリーの絞り汁と蜂蜜を少し垂らして、二人分のお茶を淹れ、チーズとハムのサンドイッチ、ローストチキン、生野菜のサラダ。 黒頭巾ちゃんは微笑んで、赤頭巾ちゃんにフォークを差し出しました。 ふたりでお茶を飲み、食事を始めようとしたそのとき、空がふと曇りました。 黒頭巾ちゃんが目を上げると、そこにはおおかみが立っていました。おおかみのせいで太陽の光がさえぎられ、辺りは暗くなってしまいました。 「よう、お二人さん。俺も仲間に入れてくれよ」 そういいながらおおかみが腰を下ろしました。 「嫌な顔するなよ、黒頭巾ちゃん。ほら、ちゃんと貢物だって持ってきたんだからさ」 おおかみは懐から、シャンパンをとグラスを取り出しました。 ポン。 勢いよく栓が抜かれ、おおかみがにっこりと笑いました。 「飲むだろ、黒頭巾ちゃん」 「まあね」 赤頭巾ちゃんは、戸惑った様子で、おおかみを見つめていました。 「そっちのかわいこちゃんも、飲もうよ」 「はい」 赤頭巾ちゃんは素直にシャンパンをごくごく飲みました。 「あんたねえ、赤頭巾ちゃんにそんなものたくさん飲ませないでくれる?」 「怒るなって黒頭巾。いいじゃん、俺だって赤頭巾ちゃんとお近づきになりたいんだよ」 「あんたは近づきたいんじゃなくて食べたいだけでしょ」 「そういうなよ、最近何も食べてなくて腹減ってるんだよ。じゃ、黒頭巾ちゃん今夜どう」 「ごめんだわ、あなた結構退屈なんだもん」 「今夜はすごいよ、一晩中楽しませてあげるよ」 「あなたは口ばっかりじゃない。とにかくもう帰んなさいよ」 二人がこそこそ話をしているのを、赤頭巾ちゃんはますます赤くなったホッペを両手で冷やしながら不思議そうに見ています。 「赤頭巾ちゃんって、かわいいね」 「ええっ。そんなことないです」 「みんなにそう言われるでしょう?僕はすごく赤頭巾ちゃんみたいな女の子、好みだなあ」 「え、そんなぁ。恥ずかしいです」 赤頭巾ちゃんはにこにこ。黒頭巾ちゃんはアホらしくて見ていられません。おおかみは一見したところ毛並みが良く、大抵の女の子はちょっといいかなあと思ってしまうのです。 あまりにもアホらしくなってきてしまったので、黒頭巾ちゃんは二人を森の中に置いて家に帰ることにしました。 少しシャンパンの酔いが回って、いい気分でした。 赤頭巾と黒頭巾 今日は楽しいイチゴ狩り お天道様が見ているよ 赤頭巾と黒頭巾 楽しいランチはもう終わり おおかみ現れ食べちゃった 赤頭巾と黒頭巾 ふらふら歩く夜の道 素敵なおおかみ探してる へんてこな歌を歌いながら、黒頭巾ちゃんが歩いていると、暗い森の小道の影から、黒い神さまが出てきました。 神さまは黙って黒頭巾ちゃんを抱きしめてくれたので、黒頭巾ちゃんは神さまを雑居ビルの共同トイレに誘いました。 神さまお願いたくさん抱いて。 黒頭巾ちゃんがそういうと、神さまは笑いました。 黒頭巾ちゃんは、今夜もたくさんお祈りをしようと思いました。 夜が明けようとしています。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]友達の話/チアーヌ[2005年2月8日15時49分] 友達の話。 彼はとても良い人で、10代の頃からの友達。 一人暮らしをしてた頃は、普通にうちに泊めたり、彼のうちに泊めてもらったり。女の子の友達と、感覚は全く一緒で、さすがにお風呂に一緒に入ったりはしなかったけど、たとえ入ったとしても別に何か起こったりはしなかったと思う。彼の前で着替えしたりするのもわたしは全然平気で、下着姿は何回も見せてる。もちろん性的なことはなにもない。 彼は、男の人の方が好きだったので。 女の子が同性感覚だと彼は言っていた。わたしも彼に対しては全く同性感覚。男性に対して感じる違和を感じたことはなかった。 音楽仲間だった。 彼はすごく上手いのに、いろいろ事情もあったのか、苦労して勉強していた。性格をひとことで現せば、真面目で、誠実。 でも実は、彼が男の人が好きだと知ったのは、知り合ってからしばらくたってから。きっかけは、一緒に映画を見に行ったこと。その映画は、同性愛に悩む男の子たちのルポルタージュものだった。 「見たい映画があるから付き合って」 と言われて、行ったら、そういう映画だった。そのあと喫茶店で映画についておしゃべりをしていて、理解した。わかった。 もちろんそのあとも普通に友達だ。 ただ、彼がたまに、好きだと思う人のことを話すようになった。 「彼はすごくいい人なんだ。すごく優しくて誠実で。ずるいところがないんだ。あんな人は滅多にいない」 好きだとは言わないんだけど、好きだということは伝わってきた。 わたしと同い年の彼は、今も独身で、今年おうちを建てた。 仕事も順調みたいだ。 たまに会うことがあると、相変わらず楽しくおしゃべりする。 わたしはたまに考えることがある、それは彼に恋人ができるといいなということ。彼が大きなおうちで、一人でいるのを考えるのは少しつらい。 彼は孤独を愛する人じゃないから。本当はすごく寂しがりやで、彼のピアノはいつもとても繊細な音をたてるから。ショパンとシューマンが好きで、現代音楽を得意としない彼と、一緒に暮らしてくれる素敵な男性は現れないものだろうか。彼の好みをわたしは良く知ってる。だから、彼にぴったりの人を見かけると、つい、彼を紹介したいなあなんて思ったりする。でもそれはとても難しい。 いつか彼に、素敵なパートナーが現れて、あのおうちで二人で暮らしてくれないかなあとわたしは思う。そうしたら、わたしは甘いものが大好きな彼のためにケーキを焼いて遊びに行こう。っていうか行きたい。 余計なお世話かもしれないし、彼にはこんなこと言わないけど、彼が建てたというおうちの写真を見て、なんだかそう思ってしまいました。 ふと、書きたくなって、書きました。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]黒頭巾ちゃんは白頭巾さんが苦手/チアーヌ[2005年2月9日15時00分] 黒頭巾ちゃんは、普段は緑の頭巾を被って生活しています。薔薇の花が大好きで、毎日お庭に出て、薔薇の手入れをしています。 「緑頭巾さん、おはようございます」 隣のおうちのお庭で、草むしりをしていたらしい白頭巾さんが声をかけてきました。 白頭巾さんは、お隣の女の子のママなのです。 「あ、おはようございます」 黒頭巾ちゃんも挨拶します。 挨拶しながら、黒頭巾ちゃんは、さりげなく薔薇の手入れをやめて、おうちに入る準備をはじめました。黒頭巾ちゃんは白頭巾さんが苦手です。長く話していると頭が痛くなってくるからです。 白頭巾さんはなんでも「正しいこと」が好きで、それを人に言わずにいられない性格みたいです。おまけに暇なので、わざわざ黒頭巾ちゃんを捕まえて、ひとこと言ってやろうと、毎日待ち構えているようなのです。 「緑頭巾さん、あら、もうお庭のお手入れ、おしまいですか?こちらの方がまだみたい」 「あ、いいんです、もうお昼ごはんの準備をしなくちゃならないので」 「あら、まだ10時半よ、ずいぶん凝ったお昼ごはんになさるんですのね、緑頭巾さんはお料理がすごくお上手なんですって?」 「いえいえとんでもない。白頭巾さんにはとてもとても・・・」 「いいえー、うちはもう、宅配していただいているお野菜の自然の味を大事にしたいので、調味料はほとんど使わないの。最近は、外で食事をすると、塩分があまりにも高いので眩暈がしちゃって」 (今日はそういう話題かぁ) 黒頭巾ちゃんはめんどくさくなりましたが、顔はずっと笑顔です。 「そうでしたね、いつかいただいた煮物も素材の味がすごく出ていて、おいしかったです」 「そうでしょ?あれはね、肥料を全く使わない土でしかできませんのよ。そうするとお野菜が特別においしくなるんですって。そういえば、緑頭巾さんは薔薇にずいぶんと肥料を与えているようですけど、そういうのって土が弱るそうですわ」 「はぁ・・・・」 「それでね、これ、その宅配の野菜のパンフレット。いつかお渡ししようと思ってましたのよ、ほほほ」 「ありがとうございます・・・」 仕方なく黒頭巾ちゃんはそのパンフレットに目を落としました。すると、びっくり仰天!その値段の高いこと。コストがかかってるのかもしれないが、高すぎる。こういうものの平均値から言っても破格の値段です。 「ねえ、理念のところを読んでくださる?すばらしいでしょ?これは、わざわざこの農場を経営なさっている方のために、○○様がお書きになったものなのよ。世のため人のため、わたしたちは尽くすのよ。ねえ、緑頭巾さん、家に閉じこもって育児ばかりしていたら、世の中のことがわからなくなるわ!これを機会に、今度集会にいらっしゃらない?」 (うわぁ・・・出た) 黒頭巾ちゃんは一拍置くと、 「あらぁ!ごめんなさい白頭巾さん!わたしったら上の子の歯医者の予約を忘れてましたわ!これから急いで行かなくちゃ!それではまた、ごきげんよう!」 黒頭巾ちゃんは走っておうちの中へ戻りました。 白頭巾さんは悪い人ではありませんが、黒頭巾ちゃんはやっぱり苦手です。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]わたしの感想/チアーヌ[2005年2月9日18時07分] 批評のカテゴリーですが、批評というほどのものは書けません。でも、たまに、ああー短い感想をたくさん書きたいな、と思うことがあって、それでこういう形で書いてみようと思いました。感想スレに書けばいいのか、と思いつつ、書きたいときまとめて書きたくなっちゃって。基本的にいいなーと思った詩に書きます。将来、批評というものが書きたくなったときの練習としてもいいんじゃないかなという軽い気持ちです。もしも気を悪くされた方がいれば、私信ください。削除します。 順不同です。 タウン・ケロさん「ふたり」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=24140 レコ・ポエもしましたが、これすごく好きです。上手くいえませんが、「タイプ」という感じ。だからどこがいいのか、上手くいえません。上手くいえないからこそ「タイプ」なのかもしれない。 uminekoさん「湾岸プールサイド」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=18490 uminekoさんの詩は、いつも「うわぁー。キタ・・・」という感じでツボを突かれた気分になります。こういう、大人なら何度か経験してきたような気分を救い出して言葉にできるっていうのは、できる人にはできる、できない人にはできない。きゅーん。 今村知晃さん「SEX」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=16472 今村さんの作品って、どうしても読んじゃうんですよ。なんか、訴えてくる、必死に。一生懸命さが、なんだかたまらないんです。そう感じるのわたしだけなのかな?とにかく好きです。若者にありがちな、気取った感じが全くしないのがすごい。普通少しはかっこつけるじゃないですか。でもそこを突き抜けたところにしかほんとは何も無いんだ。何も無いことを確かめるために、だとしても。通り過ぎる今を、羅列する。羅列してる。そんな気がする。 佐藤螺子さん「居酒屋」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=11555 これはなんだろう、まるで自分みたいな気がしたのかな。共感、という言葉が一番似合ってる、忘れられない作品です。特にいいと思ったのはここ、 >ほんの一ヶ月前 >大学というスーパーマーケットみたいなところで >生理用品とチーズコロッケみたいに >出会いました です。 うんうんそうだよね、そうなんだよね。あーあ・・・・。 こんな風に表現できるのはすごい!と思います。最近書いてないみたいなので、また書いて欲しいなあ・・・・。 えと、今回はこれで時間切れなので、書きたい詩がたくさんたまってるので、また今度書きます。よかったら読んでください。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]わたしの感想 2/チアーヌ[2005年2月9日22時16分] 第二回!なんていうほどのもんでもないですが、今回は、ちょっと変わった趣向でやってみたいなあと思います。題して、「自分しかポイントを入れてない作品の感想」。 今のところ、ですけどね。これから入るかもしれないから、あくまでも現時点で、ということです。 理由は、今さっきなんとなく、自分がポイントを入れた作品を古いものから順に眺めていたら、1ポイントしか入ってない詩がけっこうあるのです。なんで?と素朴な疑問を持ったので、わたしが「どこがいいと思ったか」を書いてみようかと思います。 現時点での、投稿年月日の古い順から行きます。 未詩・独白はのぞきます。 矮猫亭ならぢゆんさん「夢は枯れ野に(1)」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=881 これは、タイトルから察せられる通り、芭蕉についてのエッセイ文。なかなか面白かったです。個人的には、芭蕉の通り道に生まれたせいか、芭蕉に結構親しみを感じているのです。ふむふむなるほどー、ぽち、と押した気がします。 矮猫亭ならぢゆんさん「迷途」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=1370 あ、またならぢゆんさんだ!これはなんかぐるぐるしますよ。ぐるぐるしたのでポイント入れました。 マッドビーストさん「I like rainy」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=1801 あ、マッドビーストさんだ。彼の作品はわたしは好きなのが多いです。 これは、ココが好き、 >アパートメントは >小さな水槽  なんか雨の感じが伝わってきて好き。雨が憂鬱なものでなく、優しくて、ひとりも捨てたもんじゃない。そんな感じがしてきて、いいなと思いました。 greenlemonさん「不安の向こう側」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=2936 不安の物語。不安には形が無い。だから悪夢になる。けれどそれも、悪夢の形をしていない。不安だから。 いとうさん「どこにでもある話2」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=4828 おお!いとうさんだ。 読み返して・・・・。ふむふむ。なるほどー。 あ、ちなみに、わたしがこの文章の中で好きだった部分は、ここ >あまり何も考えない彼女は据膳をそろえ始める でした。なんか笑っちゃった。 喫煙変拍子さん「コンクリート・パーティ」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=7997 タイトルだけでもいい感じ。流れてる、続いてる、途中。 すごくいい。 それではこのへんで。まだまだあるので、続きはまた今度。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]わたしの感想 3/チアーヌ[2005年2月10日16時48分] 「自分しかポイントを入れてない詩の感想」の続きを書きたいと思います。昨日の続き。 市原トウジさん「あたらしさ」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9697 これは読み返すと、読み進んでいくと、後になるほどちょっと退屈になっちゃう感じでした。なんでかな。よく読むと、でも、悪くないなぁと思うんですよ、でもパッと読んだときに、中だるみというか、飽きてきちゃう。でもやっぱり・・・と思ってポイント、でした。イメージが良い。 ミサイルさん「カサカサ」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9807 えっ、意外だな。これ、面白いのに!妖怪大好きなのでポイント。なんか、ちょっと間抜けな妖怪が好き。 蒼空と緑さん「レストラン!!」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9832 うわぁー、実も蓋もないぞ!そう、だからいいんです。どこが一番いいかというと、タイトル!!この、!!がいいのよ。なかなか二つは書かないよ。!! さくらいちごさん「エスプレッソ、トリプルで」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9932 これ・・・。いいですよ、しみじみ読んでみてください。詩人の彼を持ったとまどい、ものめずらしさ、そして彼を包むほんのり母性的な愛。説明文のような感じもしますが、なんかそういう枠をとっぱらって読んでみてください。流れがいいでしょう?しみじみするでしょう?詩人の彼との、時が止まったようなデートの、優しい空気がこちらへも伝わってきました。 あするさん「ミッシング・リンク」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9959 自分でポイントを入れたといっても、印象に残っているものと残っていないものがありますね。これ実は、読んだ記憶が全くありませんでした。まるで初めての気持ち・・・。ふむふむ。なるほどー、実はよくわからない。けどなんか良いような。あのね、滝がのイメージで、かつ静謐(って書いてあるけど)なのがポイント!だったと思うのです。ただ、もう少し、インパクト・・・・出るはずなんだけどなぁー。 nm6さん「暮れかかる大塚駅が」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=10027 うん、いい。読んでください。なんでポイントひとつしかないんだ?そんなはずないぞ、さてはみんな退会しちゃったんじゃないだろうか。そんな気にさえさせられます。どこが好きだったかというと、ここ >ことばにするよりもきっと、笑っているほうが楽しい。 当たり前なんだけど、なんかしびれちゃうなあ。この流れでこられたらもっとしびれちゃう。しばらくぶりで、nm6さんの詩をじっくり読んだような気が。とにかく独特ですね。 ANNAさん「桜の木の下で」 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=10101 これ・・・。いいじゃん。読んだ記憶は全くなかったけど、なんかじわーっと来ます。中高生のときに、こういうことしないで、本当にいつするんだろう。でもこれ、小学生でもいいね。なつかしくてぼわんとしちゃう。もうこんなことできないもの・・・。 それでは、時間切れなのでこのへんで!まだまだいっぱいあるので、続きはまた今度。 ---------------------------- [自由詩]恋をすると毎日が楽しいだなんて嘘/チアーヌ[2005年2月10日21時22分] 恋をすると毎日が楽しいだなんて嘘 充実するなんて嘘 人に優しくなれるなんて嘘 肌のツヤが良くなるなんて嘘 とにかく全部嘘 恋をすると 何もかもが色褪せて見える 世界はなんてつまらないんだろうと思う 人間はどうしてこんなにくだらないんだろうと思う 生きていてもいいことなんか何もないと思う 生まれたときから何もかも決まっていて努力なんか無駄だと思う セックスなんか誰とだってできると思う 話し合っても無駄だと思う この世から戦争がなくなることなんか無いと思う 自然は破壊され続けると思う 差別はけして無くならないと思う そう 気づく ---------------------------- [自由詩]午後のデパート/チアーヌ[2005年2月11日0時09分] 上から下を眺めて もし落っこちたとき やっぱりコンクリの上じゃなくて 芝生の方に落ちたいなあ なんて考えてるうちは 無理なんだろうな デパートは 大好き 熱帯魚売り場と 屋上が あるから ---------------------------- [自由詩]あたたかいプリン/チアーヌ[2005年2月11日21時13分] 静かに 静かに 入れて あたたかいプリン スプーンを溶かすよ 落っこちる黒 黒 たまんない 湿ってる プリンの底 ---------------------------- [自由詩]ギムノパイディア /チアーヌ[2005年2月11日21時40分] 白い部屋には 素敵な男の子が 4人 にこにこ笑いながら 4隅に立ってる ひとりを追いかけると みんなが逃げる どうしても捕まえられない 壁に沿って 追いかけっこ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]蟹妻/チアーヌ[2005年2月16日15時21分] 朝目を覚ましたら、隣で眠っているはずの妻が、蟹になっていた。 かさかさ、もぞもぞ。 全長40センチくらいはあるだろうと思われる蟹が、妻の枕のあたりでうごめいていた。 僕は驚いて体を起して、メガネをかけ、じーっと蟹を見つめた。蟹は泡を吹き始めた。どうやら本物の蟹のようだ。 「ど、どうして・・・・」 口の中でもごもごとつぶやいてみたが、らちが明かない。 家の中から、妻が消え、蟹がいる。 これはやはり、妻が蟹になったとしか思えない。 「ゆ、祐子。お前、祐子なのか」 蟹は泡を吹き続けている。これはたぶん、僕に自分が祐子であることを知らせようとしているのだろう。 「ま、待ってろよ、今、水を用意するからな」 僕は慌てて起き上がり、風呂場へ行き、たらいに水を張り、蟹を入れた。 蟹は喜んでいるように見えた。 「祐子・・・。どうして蟹なんかに・・・」 僕は混乱する頭を必死になだめながら、会社へ行くしたくをはじめた。 いつもなら、スーツとワイシャツとネクタイは、祐子が用意してくれている。今朝はそれが無いので、僕は戸惑いながら着替えを済ませた。 きっと、蟹になってしまったから、僕のスーツの用意もできなかったんだ。かわいそうな祐子。 僕は風呂場へ顔を出し、 「それじゃ会社に行って来るよ、祐子」 と声をかけ、家を出た。 会社へ着いて、仕事をしているうちに昼飯の時間になった。仕事に集中しているときはなんとか普通でいられたのだが、昼飯の時間になってしまうと、集中が途切れ、どうしても蟹になってしまった祐子のことが気になる。 「聡史さん、どっか昼飯でも行きましょうよ」 後輩の後藤が声をかけてきたので、僕は軽くうなずいて立ち上がった。 会社の近くのコーヒーショップでパスタを頼んだ。後藤はもっと腹持ちのいいものを食べたかったらしいが、僕が気乗りしなかったのと、会社の人間がたくさんいる定食屋へ行く気になれず、人の少ない店を選んだのだ。 「聡史さん、どっか具合でも悪いんですか」 食後のコーヒーを頼むと、後藤がタバコに火をつけながら話かけてきた。 「いや、ちょっと・・・・」 まさか、朝起きたら妻が蟹になっていたとは言えない。 「ちょっと変ですよ、聡史さん。元気ないし」 後藤は気のいいやつだ。こいつにだったら話しても・・・。でもなあ。 「いや、まぁ、大したことないんだが・・・。そういえば、蟹って、どうやって飼えばいいか知ってるか?」 「蟹?蟹って、生きた蟹ですか?そんなの、届いたらすぐにゆでるかなんかするんじゃないですか。実家じゃそうでしたけど」 「いや、そうじゃなくて・・・」 「あ、小さな蟹ですか?川にいるような。釣りのえさみたいな?」 「えさ?いや、そうじゃなくて・・・・」 「蟹って、どんな蟹ですか」 「そうだなあ、結構大きいんだ。40センチくらいはあるかなあ」 「いいっすねえ。タラバガニとか、毛蟹とか。ずわい蟹とか。そういうのでしょ」 「ああ、そうだな、見たところはそういう感じだな」 「そっか、食べる暇がないんですね。そしたら、ゆでたあと冷凍しておけばいいんですよ、実家じゃそうしてました」 「いや、だからそうじゃなくて・・・・」 話が噛み合わない。 「そうじゃなくて、飼い方が知りたいんだ。飼育法だよ」 「飼う?飼うんですか?蟹を?」 「そうなんだ」 「そういえば、『蟹工船』っていう小説がありましたね、あれは蟹の話でしたよね」 「蟹の飼い方が載ってるのか」 「どうですかね、読んだことないから」 「適当なことばかり言うなよ。真剣なんだぞ」 「うーん。あ、すし屋の生け簀にたまにいますね。水槽で飼えるんじゃないですか?塩水入れて」 「なるほど、そうか!」 僕は会社帰りに、水槽を買って帰ることに決めた。 「ただいま、祐子」 僕は会社帰りに熱帯魚屋へ行き、大きな水槽と、海水の素とかいう粉薬を買ってきた。なんでもこれをいれると、普通の水が海水になるんだそうだ。 熱帯魚屋の店員は、不思議そうな顔をして、それを薦めてくれ、ついでに、 「あのー、たらばとかずわいとかは、北の海にいる蟹なんで、とにかく水を冷たくしたほうがいいですよ」 と言ってくれた。 「祐子!ほら、水槽だぞ。これから、塩水を作ってやるからな」 風呂場のたらいの中から、蟹の祐子がゆっくりと足を動かしながら僕を見つめている。 僕は風呂場の脱衣所に水槽を置き、ホースで水を入れ、海水を作り、冷凍庫から氷をたくさん持ってきて、水の中に入れた。 そこへ蟹の祐子を入れる。祐子は持ち上げられたとき、泡を吹いていたが、水の中に入れられるとそれも見えなくなった。 「これでよし、と」 僕は満足して、リビングに戻って、テレビをつけた。 次の日の朝、僕はコーヒーを飲んでパンを食べながら、ふと、祐子の食べるものはなんなのだろう、と考えた。そういえば昨日から何も食べさせていない。 これはまずいぞ。 ばたばたと家を出て駅までの道をスーツ姿で走りながら、僕はずっと蟹のえさについて考えていた。 「マジで飼ってるんですか?聡史さんって変わったことするなあ」 あきれたような顔で後藤に言われたが、他に相談できるような人間がいなかったのだから仕方が無い。 「いろいろと事情があるんだよ」 「タラバガニを飼う事情って、どういう事情ですか?それを知りたいっすよ」 「そのうち話すよ・・・。で、蟹って何を食べるんだろうな、知ってるか?」 「蟹って・・・。あ、そういえば、ザリガニを飼ったことあるんですけど、そのときは煮干とかソーセージとかやってたなあ」 「ザリガニって蟹なのか?」 「よくわかんないですけど、ま、似たようなもんじゃないですか?」 「でも、蟹は海にいるんだから、たぶん魚とか食べるんだよな。煮干か、よし」 帰り道、自宅近くのスーパーで、煮干を一袋買うと、僕は家に帰った。 すぐに脱衣所に置いてある水槽に向かう。 蟹の祐子はおとなしくそこにいた。 「祐子、えさだぞ。煮干だぞ。食べるだろ」 僕は水槽の中に煮干を入れると、少しほっとしてリビングのソファに腰を下ろし、冷蔵庫からビールを取り出し飲み始めた。 次の日の朝、後藤と顔を合わせると、後藤が手を合わせて近寄ってきた。 「おはようございます聡史さん。実は今日ちょっと、付き合って欲しいんですけど・・・。合コンの人数足りなくなっちゃって。独身ってことで、来てくれませんか」 僕は見た目がまぁまぁなのと、無難な人柄を買われているのか、昔から合コンに良く誘われる。別に遊びが好きなわけでもないけど、女には苦労したことがない。 「ああ、でも・・・・」 「何かあるんですか、今日」 頭の中に、蟹の祐子のことがちらついたが、えさを与えてきたんだから大丈夫だろう。 「まぁ、いいよ。付き合うよ」 「すみません」 後藤が笑いながら離れていった。 その日の晩の合コンは、われながらとんとん拍子に進んで、気がついたら僕は渋谷のラブホテルで22歳の大学生にバックから突っ込んでいた。僕は今年で33歳だし、別に絶倫なほうでもないから、強く誘った覚えは無いのだけど、女の子がずいぶん積極的だったので乗せてもらった。別にどっちでも良かったんだけど。まぁでも据え膳を断るのって逆に失礼だからね。 女の子を送って、タクシーで家に帰りつくと、もう4時半だった。これから寝て、明日また仕事かぁ、と思うとうんざりしたが、玄関に入ったとたん、睡魔に襲われて倒れこんだ。 「全く、聡史さんっておいしいとこ攫っていくんですから。結婚してるんだから、少しは遠慮してくださいよ」 「いやぁ。そういうつもりじゃなかったんだけど。あっちが積極的でさ」 「あの子が一番かわいかったですよ。俺も狙ってたのになあ」 「お前もひとりくらいつれて帰ったんだろ」 「ええ、まぁ。でも朝顔見たらすげえブスで。うちに連れ込んだの間違ってたかな。まだいたらどうしよう」 「なんだ、置いてきたのか」 「朝起きて時間無くて。あっちはまだ寝てるし。適当に帰ってくれていいからって言ってきたんですけど」 「あーそれまだいるかもな」 「やめてくださいよ、いないこと祈ってるんですから」 サラリーマンのランチタイムが終わりかけていた。後藤が思いついたように話題を変えた。 「そういえば、蟹、どうしました?」 「あ、えさやってるよ」 「飼えるもんなんですね、蟹って。すぐにゆでなきゃだめなんだと思ってましたよ。でも、ほんと、なんで飼ってるんですか?」 「いや、うーん。事情があってさ」 「事情ってなんですか?そういえばこのあいだも言ってましたけど」 話していいものなのだろうか。僕は少し迷ったけれど、話し始めた。 「実は、僕の妻が、変身したらしいんだ」 「はぁ?どういうことですか」 「朝起きたら、隣に蟹がいたんだよ。妻が寝ているはずの場所に」 「蟹がですか?」 「ああ、蟹が」 「蟹って、たらばとか、ずわいとか、そういう・・・」 「たぶんな」 「あのー、よくわかりませんけど」 後藤は大きく息を吐きながら言った。 「僕は思うんですけど、それって、奥さんが蟹を置いて出て行っただけじゃないんですか?」 僕は黙った。 「だって、いくらなんでも奥さんが蟹になるわけないじゃないですか」 「でも、じゃあなぜ蟹がいるんだ」 「だから、それはよくわかりませんけど。あ、でもそういえばそういう小説がありましたね、朝起きたら虫になってたっていう。確か、『幼虫』とかいう」 「それ、たぶん『幼虫』じゃないだろ」 「違いましたっけ。朝起きたら、たしかカブトムシの幼虫になってるんですよ。悲惨な話だと思ったなあ」 「読んだことあるのかよ」 「ないですけど。だって怖いじゃないですか、そんな話。怪談でしょ。俺、オカルトだめなんですよ」 僕がその日、残業を終えてくたくたになって家に帰ると、水槽の中で蟹が死んでいた。 水が腐り始めていて、嫌な匂いがしていた。 与えたはずの煮干は、ほとんど食べた様子はなく、ただ水の腐敗を早めただけのようだった。 これは祐子なのだろうか。 それとも、祐子が置いていった蟹なのだろうか。 もしも祐子が蟹を置いていったのならば、なぜ祐子は蟹を置いていったのだろうか。 僕は重たい体を寝室へ運び、布団へと転げ落ちた。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]わたしの感想 4/チアーヌ[2005年2月17日16時36分] 自分しかポイントを入れていない詩について感想を書いていくというこの試み・・・。もしかしたら、他の人にとっては面白くないのかも。と思いつつ、まだまだあるので続きを書きたいと思います。きっとすくないだろう!と思っていたら、結構ありました。うーん、いつまでかかるか・・・。どこでやめにするか・・・。迷うなあ。 さあて。 「コーヒー牛乳」 雨さん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=10221 なるほど・・・。こういう、イメージが浮かぶ、でもちょっと捻ってる、(ちょっとだけ、というのがいい)ようなのって結構好きです。ポンとポイント押しちゃう感じ。語り過ぎないところが想像力を誘います。 「いつか千切られる日」示唆ウゲツさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=10417 いい。どうして誰も読んでいない?読んでください。好きな人いるはず。 「くま」YUKIさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=10528 これは、ほろ苦いですね。悲しくは無いけど、ほろ苦い。おんなじ気持ちになったことあるよ。ついつい、名前付けちゃうんだよね。で、捨てられなくなるんだよね。昔の彼氏にもらったぬいぐるみとか。 「コスチューム天国」松本Kさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=11063 ぐるんぐるんと場面が転化していく感じ、もう少しスピード感があってもいいかなと思いつつ、まぁこのままでもいいのかと思う。読後感に少し迷いが残る。けど面白い。 「限界」アンテさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=11787 アンテさんに関しては、もうアンテさんだ!というだけでポイントしちゃうくらい好みの詩人さんです。この詩に関しては、割合にストレートなメッセージを感じます。痛々しいほどがんばるシャボン玉、シャボン玉に過ぎないのにがんばるシャボン玉、そしてそのシャボン玉にも小さな営みが張り付いてしまうこと。がんばれとはとてもいえない、でもがんばっていくんだろうな、このシャボン玉は・・・。と思いました。 「月の下の家」あろんさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=12925 物語の一部なのかな。表現のところどころに惹かれるものがありました。「ミミズ」が好きだったなあ。ただ、もうちょっと整理できると思う。冗長かな。情景は浮かぶのに、インパクトに欠けちゃう。どうせならもっと大げさに物語風に書くといいかもしれない。ちょっとどっちつかずかな。 「渓谷のスポーツ休暇村」夜想人さん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=13150 一読すると素朴な感興を書いているように思うのですが、なんだか気になって何度か読むと、次々に疑問が湧いてくる詩です。まず、なぜ作者がこれをこういう風に書いているのか。なぜここにいるのか。照明は手に持っているのか。作者は東北の出身なのか。カジカって魚だよね。とか。なぜいいのかと聞かれると、なぜか答えられない。けれど、なんだか来るんですよ。不思議だな。 「勇気」あろんさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=13218 あ、またあろんさんだ。 この詩・・・。たぶん作者はそういうつもりじゃないんだ・・・って思うんだけど、思うんだけど・・・。なんかエッチな感じがしちゃったの!ごめんなさーい!!! 「らびあ」たかぼさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=13500 うわぁ・・・・。た、タイトルがぁ・・・。っていうかこれにどう感想を言えば・・・。いやーん。 とか書いていてももちろん誰も突っ込んでくれないことわかってます。わたしも三十路で二人の子持ち。この世に恥ずかしいことなんかありません(ヤケ っていうかこれいいですよ?題名で引かないでみんな読んでください。何がいいかって、もう品の良さにつきますね。「生きている静物」だなんてなかなか言えません。何度も言いますが、「生きている静物」ですよ。すてきだぁ。 「パラレル」流川透明さん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=13519 ああやっとエッチから離れた。 これは、そのまんま「うんうんわかるー」という感じであります。 「白の約束」りぃさん http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=13551 洗濯機って、そうなんですよねえ・・・。古いのなんか特にそう・・・。とか主婦の感想を言っている場合ではなかった。この詩は、どうしようもない思いに囚われてしまい、抜け出せず、他には何もできないという状態を上手く詩で書いた小品と思います。白いページに埋めたい文字。 さて、今日はこのへんで。ああー、まだまだあるのー。気が向いたとき更新します。 ---------------------------- (ファイルの終わり)