チアーヌ 2008年9月2日18時02分から2009年6月4日0時19分まで ---------------------------- [自由詩]こいぬ/チアーヌ[2008年9月2日18時02分] 檻の中に 一匹ずつ 入っていて 「お家に連れて帰ってね。値下げ、半額!」 っていう カードがついてる 人懐っこいオマエ 大きくなりすぎたね そういうことってあるんだ 運が良ければいいけど 見つめ合いながら 投げやり だってしょうがないじゃん 責任なんて持てないよ 遊ぶだけならいいけどね ずいぶん遊んだけど わたしって冷たいかな ひどいかな そうして 家に帰ってひとりになると 蹲って こいぬの中に入ってみる まだ 温かい ---------------------------- [自由詩]瑪瑙みたい/チアーヌ[2008年9月23日21時44分] あの頃 わたしたちは溶けていたね 瑪瑙みたいな空を見ながら 空気はあんなに乾いていたのにね わたし まだ忘れていないわ ---------------------------- [自由詩]大丈夫/チアーヌ[2008年9月24日13時37分] 銃声 聞こえないから大丈夫かな マーケット 光り輝く 助けて たくさんの人の形 ねえあなた 大丈夫? 暗闇に 一本の横線 光る 両脇を列車が通り過ぎる 銃声 聞こえないよ 何も 聞こえない だから ---------------------------- [自由詩]喪失した昨日/チアーヌ[2008年9月27日14時33分] 懐かしいのに なぜ懐かしいのか 思い出せない そんな感じがする 日曜日の明るい昼間 こころの おと におい あかるさ おんど いつも遠くにある いつも探していた 今も 探している ---------------------------- [自由詩]許せる、ということ/チアーヌ[2008年10月13日21時13分] 誰かを認めたり 好きになったり することに すっかり適当になった わけなんか無いけど たぶん無いわけでもない 昔はこうじゃなくて いつも自分で心臓に カッターナイフを入れるような感じで 誰かを認めたり 好きになったり 熱くなったり したような気がするのに 最近は ほんとうに適当になって もう何もかも 思い出せないくらい たぶん昔と同じくらい すごいなって思える人や 好きだなって思える人は いるんだけど 沸点が低いから ふうん素敵ね って思うだけ 思うだけ 何もしない 柔らかくて厚いバリア 手が届かないところにあるみたい 守られているのかな たぶん違うけど でもそのほうがいいみたい 許せることも 増えるみたい いつも 笑っていられる みたい ---------------------------- [自由詩]土足/チアーヌ[2008年11月9日15時40分] 禁忌は破られてしまった 奥へ奥へと踏み込んでくる土足 逃げ惑って 浮かび上がる ゾクゾクしているうちに 落っこちる星屑 屑だったけれど 星でもあった 惜しげも無くばらまいて 土足に踏みにじられて ---------------------------- [自由詩]気分だけで/チアーヌ[2008年11月12日22時58分] 計算され尽くした ちょっとした気持ち悪さや 引き気味な感じとか もう犯罪だよね 君 わかってるよ 幸せなんか ちょっとしたことで壊れちゃう そう 気分だけで ---------------------------- [自由詩]だんだん/チアーヌ[2008年11月24日23時07分] わたし もう あなたに会えない って思ったけど だんだん 平気になって そのうち 本当に気にならなくなって ---------------------------- [自由詩]暇があればの話/チアーヌ[2008年12月18日17時06分] 壁のまんなか 写真 手の込んだアラン模様のセーター 指先がすり切れるほどのスピードで 編む さいご 首を塞いでやる あなたのこと 忘れないよ絶対 死ぬまで恨んでやる 死んでも恨んでやる もし 暇だったらね ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]グロ/チアーヌ[2008年12月25日22時39分]  施設に来た子供たちが、「鳥を捕るのがすごく上手なお兄ちゃんがいる」と目の前で騒ぐので、俺はなんとなくそっちの方を見た。  すると、見覚えのある男が雀を次々と捕まえているのが目に入った。何をどうしているのかはわからないが、素手でひょいひょいと掴んでは離している。 (なんだ、あいつ、ここでこんなことしてていいのかよ)  俺は信じられない物を見る思いで、男の姿を凝視した。  男の名前は知らない。昔、知り合いのヤクザに大損害を負わせ、ヤクザの間で全国指名手配になり、捕まったあの男は、俺の目の前で凄惨なリンチに遭っていたのだ。  そうだ、あの男の断末魔の様子は、まるで茹で蛸が土の上で暴れ回っているようだった。一緒に見ていた俺の友達は、「グロ、グロ」なんて言いながら喜んでいたくらいだ。そうだ、ずいぶんグロだった。何しろ人間が茹で蛸みたいになっちゃうんだからな。  まぁ、そんなことをしていた俺が、こうやって低所得者用の施設で死ぬまで過ごせるだなんて幸せなことだと思う。  俺は鳥を捕っている男を見るのをやめて、手押し車に捕まり歩き出した。すると、いきなりゴツンと車椅子の男に衝突し、誰かの足を削ってしまった。その足は元々膝から下がなくて、ぶつかられた男はまるで笑っている様な変な顔で涎を垂らしながら何度も頷き続けていた。足からは血が流れていたが、それほど痛そうにも見えなかったので、俺は無視して通り過ぎた。  鳥を捕まえていた男がこちらのほうへ近づいて来て、車椅子の男に何やら話しかけ、車椅子を押し始めた。その方向が、通称『電子レンジ』と言われる処理施設だったので、  (なんだあいつは、『電子レンジ』に行く途中だったのか) と気がつき、俺はますます気が軽くなって歩き出した。人間が茹で蛸みたいになって身が裂けるという噂のところだ。それほど長い時間はかからないらしい。どちらにしても、足が削られたくらい大したことじゃないだろう。  なんだかここの職員は全員あの男に思える。俺にとっては若い男なんか皆同じに見えるからな。区別なんかつかない。と言うよりも無いんだ。  何度も何度も頷きながら、足から血を流して運ばれて行く男。笑っている様な顔をしていたが、もうああいう顔しかできないんだろう。そういえばあの時も、茹で蛸みたいになった男は、最後、笑った様な顔をしていたなあ。  俺は「グロ、グロ」とつぶやきながら手押し車を押し続けた。 ---------------------------- [自由詩]土堀り/チアーヌ[2009年1月8日19時30分] 土を掘り返して 魚を埋めたら 指の木が生えて来て わたしを捕まえようとする 季節は春で びゅんびゅん伸びる指は わたしの喉元を締め上げた どうしたらいいんだろう 土を掘り返して せめて栄養になりたい ---------------------------- [自由詩]欲しかったものは/チアーヌ[2009年1月16日20時57分] 本当に欲しかったものはいつも いらなくなってから手に入る そんなときはいつも 落とし穴に落ちたみたいにドキドキする もう欲しくもないのに 一度は手にしてみたいような みたくないような ---------------------------- [自由詩]何かのはずみ/チアーヌ[2009年1月28日11時36分] 夢じゃないみたい 広がる風景 明るい教室 古いオルガン 単調な音色 鉄棒を握った手の匂い 山裾に広がる広い田圃で クロスカントリー わたしは 大嫌いだった 夢ではないけど 何かのはずみ 脳みそのかけら ---------------------------- [自由詩]あなたとはもう何回も/チアーヌ[2009年2月16日16時27分] あなたとはもう何回も っていう気がするから しない 例えば三年前 あなた会社の後輩だったわ あんまり可愛かったからつい 五年前のときは 友達の結婚式の二次会で あなた新郎の友達だったでしょ 何回かドライブして それで 七年前のときは 雨の日にナンパされて こいつ上手いこと言うヤツだなって思ったけど だんだん面倒になってきて それで みんな あなたと同じだったわ わたしの好きな感じで 可愛くて 放っておけなくて ちょっと寂しそうで だから 抱いてあげなくちゃって 思ったの でもね もうしないわ わたしの中はもういっぱいで あなたを入れてあげられそうにないの あなたとはもう何回も 何回も 何回も したんだから ---------------------------- [自由詩]何も無い昼間/チアーヌ[2009年3月11日12時47分] 花粉はつらいけど それはそれで 明るいから お出かけする わたしの身体 今知らない場所にいる 知らない店がある 知らない昼間に 浮かんで行くよ 自由って 限定された息抜き でも気にしない 本当に 何も無い昼間 明るい昼間 空っぽの昼間 ---------------------------- [自由詩]そんなこと/チアーヌ[2009年3月11日14時59分] ずっと一緒にいられないことは わかっていたから いちどだけ一緒にいようと思った あなたは青臭くて わたしはそんなあなたが好きで わたしの知らないところから来て 知らないところへ行く人だと知っていて わたしはもうちっとも青臭いところなんか無くて 悲しいくらいだけれど悲しくもなくて わかってた ---------------------------- [自由詩]疲れてしまって/チアーヌ[2009年3月12日22時03分] 疲れてしまって なんだかうんざりして 胸に空気が溜まって ふうっと吐き出した 楽し過ぎても疲れるし つまらなくても疲れるし 何も無くても疲れて 下り坂だけど 足がくたびれた みたい 一生懸命登った坂 下りているけど 何もいいことが無いみたい きっとほんとうにつらければ せめてもと 「良いこと探し」をしたくなるのだろうけど そこまでじゃないから 余計に疲れてるだけ どこかへ沈んでしまいたいけど それもきっと疲れるんだろうな ---------------------------- [自由詩]紙相撲/チアーヌ[2009年3月13日16時03分] あなたとの最後の日 3月でまだ雪があった 別に大丈夫だと たぶんお互いに思ってた 橋の下 あなたが泣いて わたしも泣いた 大丈夫だと思ってた 「また会える」 そんな言葉はすぐに現実に流された わたしたちはまるで紙で出来た人形みたいに 組み合ったけど 簡単に倒れて溶けてしまった わたしは薄情だった でもきっと彼はそんなわたしを好きだったんだろう ---------------------------- [自由詩]リラックスタイム/チアーヌ[2009年3月13日21時46分] 深い海を まるで星が流れるみたいに 息抜きしよう 簡単だよ 眼を閉じて 何もかも 忘れてしまうの 産まれる前まで 戻って 身体 揺らして ---------------------------- [自由詩]風の吹く道/チアーヌ[2009年3月14日23時47分] テンションちがうね いつもと 大したことじゃない だけど ゆっくり歩こうよ たくさん キスしよう きっと 今しか出来ない 風が吹き飛ばしちゃうよ わたしたちのこと 足が止まったらおしまい 笑って 笑って ---------------------------- [自由詩]抱き枕/チアーヌ[2009年3月22日0時04分] 抱き枕のような男の子を 連れて来て 抱きしめて 眠った。 その夜は とても寂しくて 地震の夢を 何度も何度も 見た。 どんなに抱きしめても やっぱり 寂しかった。 ---------------------------- [自由詩]入った/チアーヌ[2009年3月22日22時43分] 何本か入ったら 道に迷っちゃって そうしたら 住宅街の奥に 小さなお店があって わたしは自転車をとめて そこへ入った テーブルの上にはメニュー カレーとチャイとラッシーを頼んだ 水も頼んだ わたし 声を出さないで泣いた 喉が渇くから 水もラッシーもチャイも全部飲んで カレーも食べた どこにいるかよく わからなかったけど 入ってしまったんだもの ---------------------------- [自由詩]空の花/チアーヌ[2009年3月26日20時22分] 冷たい夜僕は君の中に降りていく 空に花が咲いてる ---------------------------- [自由詩]営業大好き/チアーヌ[2009年3月31日18時42分] 計算ずくで来てよ 営業かけて来てよ そのほうがスキよ 昔の歌を焼き直したみたい でもちょっと違うのね たぶんすごくスキになっちゃうけど 溺れない自信はあるかもしれない から 胸の内側をくすぐってよ もうどうにもならない二人だから 計算ずくでいくわ 営業かけていくわ そのほうがスキでしょう? たまに黙っている時だけ本当ね ちょっと切ないけどそれも計算ずくね ここで切なくなるってわかるんだもの どうして わたしも あなたも ---------------------------- [自由詩]ダムの底/チアーヌ[2009年4月2日20時54分] ダム ダムダム ダムの底 いろんなものが 死んでいました ダム ダムダム ダムの底 おうちや 車や おじいさん ダムの底は いつも真っ暗 何も見えない 聞こえない 大きな人が 見ています ダム ダムダム ダムの底 ダムの底 ---------------------------- [自由詩]きぐるみ/チアーヌ[2009年4月15日23時55分] そうして いつのまにか 遊園地に入ってしまった 空は青い コンクリートは白い わたしはピンクのワンピースを着て 風船を持ってる 歪んだ観覧車 戻って来ないジェットコースター 馬の首が無いメリーゴーラウンド そこに あなたがいた あなたを見つけた 見つけてしまった ねえわたし あなたにずっと会いたかったのよ 知らなかったでしょう? 知らなくてもいいわ あなた動物のきぐるみを着てる そしてわたしに手を振ってる とてもすてき 何の動物かよく わからないけど 明るい日差し 乾いた空気 コンクリートの照り返し ねえ わたし 苦しいの 風船はもう飛ばしてしまった ここにはもう誰もいない だから 暗いところへ連れていって きぐるみの中に連れていって ---------------------------- [自由詩]徘徊/チアーヌ[2009年5月5日23時22分] 考えないようにして暮らしてる 考えても仕方がないこと たとえばあなたのこと もう 考えてもしかたない あの頃には 二度と戻れないから そんなこと もちろんわかってるよ いつか 忘れられると思っていた この間 よく行った あの場所を通ったよ 道路が渋滞していて いろいろ見えて もうあのお店もないし ホテルの名前も変わってた よ わたし 眠っても眠っても 眠っていないみたい 眠ってる時と 起きてる時の間 さまようばかり ---------------------------- [自由詩]ひとり/チアーヌ[2009年5月21日0時25分] ある日の夕方 わたしはひとりになりました 花に水をやっていたら いつのまにか みんないなくなっていました わたしは 声を出してみました その声は音になりました どこかで鳥が鳴きました もうおしゃべりはできません 言葉はわたしの内側で いつのまにか溶けてしまいました それからわたしはいろんなところを歩きました そして探しまわりました 人気のない小屋の戸を開けたり 巨大なゴミ箱の蓋を開けたり およそ人が隠れられそうなところなら どんなところも探してみました けれど やはり誰もいませんでした だから わたしはその後ずっと ひとりきりで幸せに暮らしました ---------------------------- [自由詩]中空の土/チアーヌ[2009年5月23日19時06分] 安全地帯で おままごと バラアーチの真下 鬱陶しいほどの香り 白い食器はママのお古 お庭の隅 小さな噴水から 流れる水の音 どこか遠くで 電車が走ってる 蔦の絡まる塀の内側 中空の土 ---------------------------- [自由詩]望んではいけないこと/チアーヌ[2009年6月4日0時19分] 車がたくさん通る 高速道路のトンネルに 住んでみたい 非常電話の扉の中 さらにその奥 誰にも開けられない 硬い硬いコンクリートの内側 誰にも見つからないように こっそりと部屋を作って そこへあなたを閉じ込めて ---------------------------- (ファイルの終わり)