チアーヌ 2007年9月12日21時51分から2008年2月14日21時58分まで ---------------------------- [自由詩]かげろう/チアーヌ[2007年9月12日21時51分] 買い物帰り 荷物を抱えて歩く坂道 アスファルトの照り返しに ため息をつきながら 歩いていると 先の方に とてもよく似た後ろ姿があった ひとり ふたり 足の運びも同じで 似ていた どうだっていいやと思った 暑かったから すべてが どうでもよくて いろんなことを 見逃してきた 夢の奥へと 入り込みながら ---------------------------- [自由詩]氷の絨毯/チアーヌ[2007年9月23日14時45分] 氷の絨毯に 雪の壁 冷蔵庫はいらないわ 洗濯機はいるけどね 冷たい男と暮らしています おやつはいつもアイスバー 毎日とても幸せよ 氷の絨毯に寝転んで 遊んでばかりなの ---------------------------- [自由詩]シャボン玉/チアーヌ[2007年9月26日12時50分] たくさんの シャボン玉が 飛んでるよ ねえ 泣かないで ---------------------------- [自由詩]幸せの土壌/チアーヌ[2007年10月14日12時20分] わたしがまだずっと若くて 恋を信じていた頃のこと 大好きな恋人に 捨てられて それでもしつこくして 嫌われて あんなに好きだって言ってくれた人が 変わってしまったのが どうしても信じられなくて 泣いても泣いても苦しくて ぽっかり空いた穴の中 落ちて行こうと何度も思って バイト先のコンビニでは 明らかに挙動不審な店員になってしまって 「休んでもいいよ」 と 暗にクビを言い渡されたり 今なら笑って思い出せるけど それはそれは真剣でした 彼を取り戻すためなら 悪魔に魂売り渡してでも お金で彼を買えるなら どこからでも借金して なんて そんな思いが万策尽きて いよいよ残るのは こんなに苦しい自分が無くなれば すべてを終わらせることができるという真実 そんなとき 様子がおかしいと 何度も電話をくれた友達や 無理矢理に わたしを親戚宅に押し込んだ両親や 親戚宅の黒犬がいなかったら いなかったらって思います 人はひとりで生きて行けないと よく言われているけれど そうじゃない 誰かが愛してくれているということ そのひとつひとつは小さくても 恋人なんかいなくても平気だよ もともとひとりなんだ 生きて死んで 病気のとき たとえば出産のときだって 痛いのはひとりだけ でもね 愛してくれる人がいる 愛してくれる犬がいる 小さい小さい愛のかけら そういう集まりの中で 自分も小さな愛を誰かに そんな風に暮らして行けることが たぶん 幸せの土壌になる 毎日 息を吸って吐いて できるだけでいいから 前を向いて ---------------------------- [自由詩]ユーカリ/チアーヌ[2007年10月17日10時09分] うちにはコアラもいないのに ユーカリの木があります 暖かいオーストラリアから 日本の東北地方へやってきた 寄せ植えにちょうどいい大きさだったの さんざん使用したあげく 花壇の一部に鉢植えのまま置いていたら なんと! 鉢底から勝手に根を伸ばし 自主的に地植えになろうとしていました ユーカリは 現地では 20メートル どころか 70メートル の高さまで育つものもあるそうな そしてコアラが 葉を食んでいる ぶち と音を立てて根を切ったわたしは そのままユーカリの鉢を 石畳の上に移動 ここではね 70メートルになってはもらえない お前の父は オーストラリアの原野で 山火事の後 発芽した巨木だったかもしれないけど ごめんね まず第一に ここは 寒いんだよ 冬には 家の中に 入れてあげるね 不本意だろうけどさ ---------------------------- [自由詩]連続する恋人/チアーヌ[2007年10月23日0時37分] 恋人がいない夜 野菜炒めでごはんを食べて 他愛無いテレビを見て ビールを一本飲んで 未来の恋人に 電話をかけてみる かかとのケアをしながら ---------------------------- [自由詩]グーチョキパー/チアーヌ[2007年11月1日17時04分] それはあなたの白目だと思います 超高速道路をとりあえずアルピーヌで ジュースがぶ飲み 猿のおもちゃを放り出せ フライパンの中身をぶちまけろ それはあなたの白目だと思います グーチョキパー グーチョキパー グーチョキパー グーチョキパー グーチョキパー ---------------------------- [自由詩]血みどろ/チアーヌ[2007年11月11日21時31分] この部屋は 血みどろです ふわふわのハムスター 食べかけの菓子パン ぐつぐつ煮える血みどろ ねえここでわたしたち ちゃんと生きて行こうね ---------------------------- [自由詩]手/チアーヌ[2007年11月18日15時23分] 洗面所で 鏡に向かって 髪をブローしていた そのとき ああ もう一本手があったら こんなとき 洗面所の掃除も一緒にできるのになあ なんて思っていたら 背中の方から 手が生えて わたしの髪を ドライヤーでブローし始めた やったラッキー わたしはおもむろに 洗面所の掃除を始めた やっぱり手がたくさんあると 便利だよ そして キッチンに戻って そうめんを茹で始めたら 脇の下からびよーんと 白い手が二本も伸びて ネギを刻み始めた 手がどんどん増えて行く 便利便利 でも シゴトがないとき たくさんの手は ヒマを持て余して じゃんけんしたり ケンカを始めたりで それはそれでたいへん ちょっとどうなってるのやめなさいよ 振り向いて見るたび首が疲れちゃう ああ 背中に目があったらなぁ なんて思っていたら 今度は背中に目が出来ちゃった 普通の大きさの二倍はあるかなあ 服を着ると塞がれちゃうから 背中の部分を切って窓をつけたよ 便利便利 ただ花粉症の時期がくると大変で ---------------------------- [自由詩]ごう/チアーヌ[2007年11月18日23時56分] どうしてあんなに楽しかったのか もう思い出せない 青空 柿の木 白い雲 板の間から見上げた 空気のことを覚えている ちょっと冷たくて 遠くで バイパスを走る車の音が 聞こえた ごう ごう ごう ごう ---------------------------- [自由詩]ピカピカ/チアーヌ[2007年11月27日18時44分] ほんとのことなんか何一つ言わないって決めてる どうだっていいことばかり言ってる どうだっていいことはたくさん言える 話題にはこと欠かないし 「お前って面白いなあ」って思わせて 話を詰めて(ここが肝心) いつもひょいと足をひっかけるから 笑いながらみんな落ちて行く こちらに爪を立てて いいんだよ削ってちょうだい ハイ毎度あり 情けない思い 悔しい思い 馬に食わせてやれ 営業 営業 そろそろ 移りたい ネイルにでも行こうかな ピカピカにするの ピカピカに ---------------------------- [自由詩]これは現実ではないの/チアーヌ[2007年11月28日21時30分] これは現実ではないの 片側6車線 あなたが飛ばすローバー もう別れましょう? あなたのために 女をすることに疲れたの もう ひとりで眠りたい きれいでいたいの 幻想を保っていたいの 好きじゃない人と暮らすのも苦痛だけど 好きな人と暮らすのも苦痛だわ じゃあ ひとりでやっていけるのかって聞かれても そんなことわからない でも もう あなたといることに疲れたわ それだけなの 理由はないの もう別れたいの これは現実じゃないの こんなこと現実じゃないの ---------------------------- [自由詩]気の迷い/チアーヌ[2007年11月29日14時30分] 不意打ちみたいに 恋をしてしまった もちろん地獄の日々だけど 叶わない恋で良かった 叶えばすべてを壊してしまうし いろんな人を不幸にするから なんて理由で 我慢できるなら それは恋じゃなくて ただの気の迷い ---------------------------- [自由詩]練習(2)/チアーヌ[2007年12月3日17時54分] 夢の中で空を飛ぶ時は 最初ちょっとだけ体が重いんだけど ぐいぐい飛んで行こうとすれば なぜか遠くまで行けるようになる 「だから、練習しているの」 と話したら あなたは 「お前ってずいぶんヒマなんだなあ」 って言った いつか 夢の中で見る どんよりとした曇り空を抜けて その向こうへ行きたい 「だから、練習しているの」 と言ったら あなたは 「まぁなんでもいいけどやることはやってよね」 って言った べつに平気 練習は大事だと思うから わたしは今夜も ---------------------------- [自由詩]いないねこ/チアーヌ[2007年12月4日15時09分] ねこがいなくなった 遊びに行ってると思っていたのに 帰ってこなくなった 家族はみんな心配した 一週間経っても帰ってこなくて 保健所にも連絡した 交番にも連絡した 近所の人にも話した みんな探してくれると言った けれど 一匹のねこは 結局 見つからなかった 母は泣き 父は新しいねこをどこからか貰ってくる 算段をしはじめた みんな静かに暮らした でも わたしは ねこはこの家にいる ような気がした 母のそばに こたつの中に 階段の踊り場に だから 夜 わたしはいないねこの 食器に エサを入れる いないねこは 冷蔵庫に貼られた一枚の写真の中から まっすぐにこちらを見ていた もう少しここにいるよ もう少しだけね ---------------------------- [自由詩]つまり/チアーヌ[2007年12月18日10時26分] つまり どうだっていいんだってことを確認するだけの思考回路 わたしはもういいかげん 大人になってしまったので バカらしいことばかり増えて 「そんなのどうだっていいんだよ」 って言うためだけに心をすり減らしてる そうやって切り離して行く 自分からすべてを 切り離して行く ---------------------------- [自由詩]常温/チアーヌ[2007年12月18日15時36分] 投げてよ こっちに 液体 あなたの笑顔に撃ち抜かれちゃった なんて 悪い冗談 氷水は飲めない きらいだから 熱いものもダメ 猫舌だから 常温がいい 常温がいいよ 頭から被っても平気だし 理想は 誰も愛さないこと 誰にも愛されないこと 投げてよ こっちに 手渡してもらわなくてもいい あなたの肌が忘れられない なんて 悪い冗談 絶対 言わないから ---------------------------- [自由詩]雪の日/チアーヌ[2007年12月20日19時37分] 雪の日は 音がしなくなる そうしていつのまにか 幼い頃に戻ってる いつもうちに帰りたくて どこへ行っても泣いてばかりいた お母さんが大好きで 世界は まだ白くて ---------------------------- [自由詩]キラキラしたもの/チアーヌ[2007年12月21日17時19分] キラキラしたものが 上に登って行くのを見てた ふわっとして とてもハッピーな気持ちになって 生きたくて キラキラしたものを見ているだけで こんなに幸せなんて知らなかったから 床に足をつけてることも忘れそうで でも体は重力に逆らえなくて それが不思議でしょうがない キラキラしたものはどんどん下から生まれて どんどん登って行くから わたしはずっと見ていられる ---------------------------- [自由詩]希薄/チアーヌ[2007年12月21日23時07分] 薄いビル 民家 靄のかかった空気 嫌な匂いの雨上がり 吐瀉物 黄色い線の内側 ガム 看板 現実さえも ---------------------------- [自由詩]年賀状/チアーヌ[2008年1月3日0時02分] 何を考えているのか さっぱりわからなかったので 別れたはずなのに なぜか毎年 年賀状だけが 律儀にやってきた 母は それを見るたびに 面白がって笑い わたしは ちょっと渋い顔をしながらも やっぱり笑った 何故笑うかというと 内容が内容だからなのだけど 「車を買い替えました」 「那須に別荘を買いました」 「○○に家を建てました」 などの 自慢話系が わざわざ見事な写真入りで送られて来るのだ 一体何が言いたいのかさっぱりわからなかったのだが たぶん強がっているのだろうと 振ったのは確かにわたしだったのだけど それはわたしが ご立派な彼の「自慢の彼女」になるには役不足なのかなあと 漠然と思っていたから そういうことが積もり積もって自分に自信を無くしたから 一緒にいるのがイヤになってしまった 恋は勝ち負けではないというのは当然のことだけど 振られたことがよほど悔しかったのか それともわたしに未練があるのか もう興味はないわ そう言ってあげる代わりに どんなに連絡があっても 長いこと無視してあげた 最後に彼と会ったのはずいぶんあとのことで 北向きの薄暗い喫茶店の明かりの中 10歳も年上のあなたはいい年をして相変わらず独身で 他人行儀な態度を崩さないわたしに 何度も何度も「可愛い」と言ってくれて とても残念そうで そのとき初めて なんだか悪いことをしたような気になった 最初から好きじゃなかったのはわたしの方で あなたはわたしに 常に強がりを言っていただけだったということに はじめて気がついたから わかりやすい自慢は クジャクの羽根のようなデモンストレーション だったんだね ねえ 自慢の彼女に 最後までなってあげられなくてごめんね 贅沢ばかり言ってごめんね 高飛車でごめんね 何を貰っても当然だと思っていてごめんね 尽くしてあげないでごめんね キスをめんどくさがってごめんね やれればいいんでしょみたいな態度でごめんね 年賀状を見て笑っちゃってごめんね ごめんね ---------------------------- [自由詩]ループ/チアーヌ[2008年1月9日0時01分] 昔 家の前の道路はアスファルトで覆われていなかった 雨が降ると水たまりが出来て 長靴で入って行って遊んだ 夏の前 学校を休むと 斜め隣に住む同級生が 授業の内容を四つ折りにした白い紙に書いて 持って来てくれた わたしは 遊びたかったけど その子はいつも すぐに帰ってしまった 寂しかった ここでわたしは置いて行かれてしまって どこにも行けないような気がしていた 周囲を山に囲まれた土地では 繋がっている場所が見えない 世界は分けられていた 流れてくる小川の水の中に ハヤがいた つるつるすべるように泳ぐ 光を受けると銀色に輝いた 小川の途中を塞き止めて 小さな池を作った 泥の中に足を入れたまま 腹の赤いイモリを取った 何度も何度も掬った 日が暮れるまで 日が暮れるまで 鬱陶しい髪をゴムで縛り わたしは静かに入浴する 何度も何度も 洗っても洗っても 上手く汚れが落ちない 髪を洗う 体を洗う どこまで擦ればいいのか どこまで削ればいいのか もう何も 見えない ---------------------------- [自由詩]糸の切れ端/チアーヌ[2008年1月9日11時41分] あなたと二人 倉庫の脇で体を寄せ合って 雪の中 白い息を吐いていた わたしにもあなたにも 大粒の雪が積もっていた それでも動けなかった 動きたくなかった あなたのおかげで 世界にはひどい男の人しかいないのだと 誤解しないで済んだ あの雪の日が無かったらきっとわたしは ずっと二人で泣いたね わたしだけが流した涙じゃなかったから 信じられた 信じる方法を 指先で細い糸を絡め取るように わたしは 古くなって糸は切れたけど 切れ端をまだわたしは小指に繋いでる ---------------------------- [自由詩]最後の爆弾/チアーヌ[2008年1月19日0時02分] これまで たくさんの爆弾を投下してきたけど いよいよ これが最後の爆弾になりそうだわ 名残惜しいけど もう 落とすしかないの ねえ 夜景は きれいだった? ---------------------------- [自由詩]たんぽぽ畑/チアーヌ[2008年1月27日23時46分] たんぽぽ畑でたんぽぽをたくさん摘んで たんぽぽの冠を作ったり たんぽぽの首飾りを作ったりして 夕方になって 空を見上げても まだ明るくて いつまでも明るくて ほっとしていたら そこへ 知らない男の子がやってきて 彼はとても優しくて わたしと彼は たんぽぽ畑に座って それからもずっと たんぽぽの冠と たんぽぽの首飾りを 作り続けました ---------------------------- [自由詩]冬の水鳥/チアーヌ[2008年1月29日20時09分] あなたのために わたしの肌は温かい 沼の上で首を竦めて眠る 冬の水鳥みたいに 爆弾を仕掛けたビルが 崩れ落ちるときに降る白い粉を 振り払い 振り払い 必死で走るあなた 上など見られないね それでもたくさんの粉を吸い込んで 今日も地面は揺れました ねえでも 爆弾なんか仕掛けなくても どうせ壊れて行くよ だから怖がらないで そして 焦らないで ねえ 水鳥はいいね 沼の上でいつもゆらゆらと 揺れているよ わたしは 優しい主婦みたいに ちょっと荒れた手で あなたの頬を撫でる ---------------------------- [自由詩]ランダム再生/チアーヌ[2008年1月31日8時34分] こうるさいわたしの 心の中で ランダム再生してもいいくらい あなたはステキ 夢の無い子供が 夢の無い大人になった 夢の無い人生 そこは荒地じゃなくてお花畑 とりあえず平和 平和が一番 土地に境界なんかつけるな なんて言いつつ 固定資産税を払う そんなつまらない大人であるわたしの 心の中で ランダム再生してもいいくらい あなたはステキ わたしの心の隅を攫って行く あなたはステキ わたしは時々泣く もう何も期待していないのに あなたはステキ 人間じゃないからあきらめたけど そんなこと気にしなければ良かった 人間である必要なんか無かった 今頃わかった本当のこと ---------------------------- [自由詩]タスケテ/チアーヌ[2008年2月2日0時06分] ビルの向こうに 巨大な虹が出来た たくさんの兵士 虹を滑り落ちて行く 楽しいカーチェイス 壁をぶち壊して 君の側にいるよ ねえ嘘はやめて ---------------------------- [自由詩]笑顔の恋人/チアーヌ[2008年2月12日12時20分] 別れるつもりで にこにこしている もう愛していない というよりも 最初から愛していなかった 謝っても仕方ないけど それでもわたしは優しいから 「もう愛していない」 って お話するつもり あなたの精一杯と わたしの精一杯は違うから きっとあなたも納得してくれるでしょう ここでご飯を作るのも たぶん今日が最後なのね たまにどうしてこんなことしているのか わからなくなるときがあるの わかっているのに わからなくなるふりをして いつも笑っていたから ---------------------------- [自由詩]電話/チアーヌ[2008年2月14日21時58分] 遠くの方で 電話が鳴っている わたしはベッドの下の 深いところまで潜って眠っているから その音に気がついてはいるけれど 電話を取らなくちゃ わたしはなんとか浮上して 電話を耳に当てる それはわたしの声だ 呪文を唱えるわたしの声だ それだけは聞きたくなかったのに わたしは何度も電話を切ろうとするけれど なぜか電話は切れない 気がつくと 電源が切れている電話を持ってわたしは叫んでいた その叫び声も夢の中で響き渡っているだけで わたしは叫んではいなかった ---------------------------- (ファイルの終わり)