mizunomadoka 2019年3月22日21時08分から2021年12月30日17時34分まで ---------------------------- [自由詩]pale pink/mizunomadoka[2019年3月22日21時08分] モーテルの階段で呼びとめられて マニキュアを塗ってもらった 「目立たないから、バレないって」 そう笑って彼女はウィンクする ピンクに光る爪が あまりにきれいだったから 120分テープに 雨が録音されてる 雨音の中で ずっと指を眺めてる ---------------------------- [自由詩]いつも2時に/mizunomadoka[2019年3月22日22時22分] 癌になった妻を憐れんで 離婚はしないと夫は言う その背後に死神が立ってる 鎌の刃を彼に向けて いつも2時にアラームが鳴る 男が頭痛で寝返りをうつ 女は何かを呟く 子供たちは夢をみてる メリッサは庭にブルーベリーを植える カーディガン農場に雷が落ちる 犬のジョンが吠える 朝の食卓で 夫は離婚届にサインする 妻は薬をゼリーで呑み込む それを丸めてゴミ箱に捨てる 少しだけ窓を開けてもらう 桜が咲いてる 風が入ってくる ---------------------------- [自由詩]dream universe/mizunomadoka[2019年11月12日22時03分] Just winter evening and I'm sitting In empty room. I'm all alone. It's rushing suddenly with message From dream-night man. I know his moan. Let's go a party, little party With only wine and you and me. It will be music, dances, laughing. Your youth'll arising, you will see. Oh, no, I've buried all this magic Beyond my strong and healthy soul. I have another man, who helps me Fly out, break against this wall. But I accept it and I'm coming, I even smell your scent of sin. Our may, our lips, our neverbeings. Your touches makes me over mean. My world is spinning, flakes and winter, You're smoking, cold is everywhere. Your flaming fingers make me splinter. I realize it is not fair. But I am falling, drowning into Your hair, your kisses, empty eyes. And all we'll have tomorrow will be Forgotten words of last goodbyes. We are walking in the night. Relying on the moonlight. Thunderstorm from a distant world You cover my ears with your hands. I woke up at midnight. A wind was blowing, the window was open. My hair still wet Unfinished letter on the desk. Jasmine sways. My summer is your winter. You were standing in the snowy cemetery. Your long hair was cut short. The brightness like a golden wheat field was no more. You were holding a biscuit can The same as a childhood. There was snow on the small cross. You shook it off, and stared into the distance. Your eyes were transparent Like Icy moon. When I call you Ringing in another universe. ---------------------------- [自由詩]距離とベル/mizunomadoka[2019年11月12日22時04分] 私たちは夜道を歩いてる 月明かりを頼りに 遠い世界から雷雨がやってきて 私の両耳をあなたが両手で塞いでくれる 夜中に目が覚める 部屋の中で風が吹いてる 私の髪はまだ濡れていて 未完の手紙が机の上に置いてある ジャスミンが揺れる 私の夏はあなたの冬で 彼女は雪の墓地に立ってる 長かった髪を短くして 麦畑のような輝きはもうない ビスケット缶を手に持ってる まるで子供みたいに 小さな十字架の雪を払って 彼女は遠くを見つめる 彼女の目は透明で氷の月のよう 私はあなたに電話をかける 別の宇宙でベルが鳴る ---------------------------- [自由詩]どうぞのいす/mizunomadoka[2019年11月12日22時05分] 裏山の湧き水でできた小さな池に 動物たちの残していった 木の実が沈んでる 私は薬罐に水を汲んで 庭でとれた渋柿を置く いつか絵が届いたら 匂いをかいでみて 今年もここで枯れ葉を集めて 焼き芋を焼いてる 冬を告げる風 吸い込まれそうな空 私の人生は間違いだったと思う 分岐点もなく きみがいないだけで ---------------------------- [自由詩]距離/mizunomadoka[2020年6月12日21時14分] 私とあなたの距離の間に とても知らない何かが 私の中のあなたと、あなたの中の私が そっちに行こうとしてる distance between me and you very something unknown you in me me in you two trying to go over here ---------------------------- [自由詩]signal/mizunomadoka[2020年6月12日21時49分] ここにくると誰かが詩を書いていて嬉しい ---------------------------- [自由詩]Was us/mizunomadoka[2020年6月13日1時47分] 「私もかつては人間でした」 ロボットはラピスラズリを キャンディ紙に包み 両端をクルクルと回す 「さあどうぞ」 彼女はそれを受け取って 代わりに写真を渡す 「火星の渓谷ですか?」 「グランドキャニオンよ。新婚旅行の」 「私もかつては地球に住んでいました」 ロボットはアメジストを キャンディ紙に包み 両端をクルクルと回す 「さあどうぞ」 「もう写真がないわ」 「では月末払いにしておきましょう」 「ありがとう」 彼女は表情ディスプレイを点滅させて アルバムと宝石を大切にバックパックに仕舞う ロボットたちはコツンと触れ合い 互いに手を振る 「お元気で」 「お元気で」 彼女は店を出てまた同じ探索ルートに戻る 質屋ロボットは宝石箱を机の下に戻し 先ほどの写真を見つめる 今はもうない過去の地球で 二人がこちらに笑いかけてる 宇宙船の残骸で 彼女は包みを開いて宝石を取り出す そっと星と見比べて点滅する ---------------------------- [自由詩]to you (to me)/mizunomadoka[2020年6月17日17時21分] タイムループのあなたは 何度も私に会いにきてくれた いつも結末は違ったけれど その度に、私は あなたのいない6月28日の朝を迎えた 「なぜ記憶は遺伝しないんだろう?」って言ってたよね ものすごく大まかにいうと 記憶は外側に蓄積されてた 世界の終わりに(それとも途中に) いくつもの私の人生が統合されて 初めて、あなたが消えた理由が分かった あなたは宇宙の特異点だったの! (嘘よ。ちょっと言ってみたかっただけ) あなたが時を超えられないことを知った あなた以外にもタイムループしてる人は大勢いたみたい その人たちにもメッセージがいくと思うけど あなたには私が選ばれた ううん。私が立候補した あなたのお母さんやカレンには悪いけど 私が伝えたかった 『タイムループは終わり。次の人生で最後よ。  6月27日に眠ったら、もう目は覚めないの。』 だから 今まででいちばん幸せだった7日間を過ごしてね 大金をみんなにあげて旅行したり、これは馬鹿げた考えね 愛してる人みんなに会って抱きしめてあげて なにも知らずに図書館でアルバイトしてる 私にも会いにきて もう知ってるでしょうけど 出会ったときからずっと あなたのことが好きだった いらないことを書きすぎて行数がなくなっちゃった 元気でね。さよなら。またね。 「結婚しよう」 「え、なに言ってんの?」 「新婚旅行にもいこう」 「は?」 「どこがいい?」 私は壁のポスターを指さす 「グランドキャニオン」 「行こう」 「と火星」 「一週間で火星はちょっと」 「なんで一週間なの?」 「まあ色々と」 「じゃあ火星は未来でいいわよ」 「じゃあ火星は未来にしよう」 「ねえ。私とあなたどっちが死ぬの?」 「どっちも死なないよ」 「たぶん今はまだ」 「今はまだ」 「信じていいの?」 「もちろん」 「ほんとに?」 あなたが笑う 「ずっときみのことが好きだったんだ」 「なに?」 「伝えてくれてありがとう」 「なにを?」 ---------------------------- [自由詩]水たまり/mizunomadoka[2020年6月18日17時25分] 好きにとどかなかった恋 今年は咲かない紫陽花 傘の下で雨宿りする雨 見えないテレパシー あなたにとって何度目の夏? 市営プールに沈んで降水確率100%と笑う私 変化のないタイムワープ andromeda milky way collision 後継者は月と電気信号 そこに全部置いてある 初なりのトマトとニンニクのスパゲティ お豆腐と春菊のサラダ 育ち盛りの子たちに おむすびと麦茶 ---------------------------- [自由詩]星の光り/mizunomadoka[2020年9月18日23時14分] 月に弓引く渚で スライムつむりとぐんたいガニが 遊んでる なにを話してるんだろ? 波に素足をさらすと 思っていたよりも水温が高かった 「これは、嵐になるかも」 それっぽく呟いてみるけれど 見向きもされない ちょっとは雰囲気感じとってよね 明日から四連休 仕事が終わってご飯も食べずに スクーターで海にやってきた 防潮林で道に迷って 真っ暗だし怖かった このまま寝たら寒いかな? なんにも考えないでおこう おなかすいてきた スラスラ。カニカニ カロリーメイトおいしい 水筒の無花果紅茶もおいしい しあわせ スラスラ。カニカニ! ねえ、なにを争ってるの? なかよくけんかしなっ、トムとジェリー、なかよくけんかしなっ、あれ? 星きれいだなー 波の音ずっときいてたいなー 「ボク、ウミニ、ハイレル、オモウ」 「ダメ、アブナイッ!!」 きみもみてる? ほら、落ちてきた。 ---------------------------- [自由詩]台所の灯り/mizunomadoka[2020年9月18日23時16分] つきたてだから今日食えと 新しいお米をもらった せっかくだから 土鍋で炊いた 畑のオクラを刻んで 紫蘇の実と和えてお豆腐に添える 餅焼き網で焦がしたナスを 氷水にひたして皮をむき 鰹節をかける 無花果茶も煎れてみた もう秋だな そうね 今年は秋刀魚が高いらしいな ええ、おばあちゃんには食べさせてあげたいけど 冷凍でもうまいもんだよ そうね。お米いつもと違うって気付いた? 新米か? 茜にも食べさせてやりたいな あの子は海だって なんでまた海に? しらないけど。色々あるのよ ---------------------------- [自由詩]本当の夢の光り/mizunomadoka[2020年9月19日11時09分] 彼らはボイジャーの言葉で神と名乗った 次々と人工衛星が落ちていく そして太陽が消えた ホテルだったと思う ベッドの上で 「きみの夢はなに?」 と彼女が言った 僕は 「アカネと結婚してずっと一緒にいたい」 と答えた 困った顔をされたんだと思う しまった。大きなことを望みすぎた。 嫌われたらどうしよう。言わない方がよかった だから 「星が好きだから、星を作る人になりたい」 と言い重ねた 「それいいね」 と彼女は笑った 数年後、僕は この星の半分をシールドで覆う計画の 観測部門にいた 巨大なエネルギー波が近づいていた 高軌道ネットの間を貨物シャトルが過ぎていく 完成すればこのバリアの光も いつかの誰かの星になるかもしれない ---------------------------- [自由詩]night, winter, last/mizunomadoka[2020年11月9日23時19分] 冷たい秋を後ろ手に閉め 火の消えた冬の部屋に入る いま誰かが座ってたみたいに ベッドシーツが沈んでる 窓の外は林檎山 赤い実がどこまでも続く ああこれは夢だ きみのSNSの写真だ 夕飯を終え 残りの味噌汁を裏口に置くと 獣たちの気配がする 青い月に照らされた 二階窓のもう一人の影 多分あちらが本物で 私はひび割れてる 冷たい夜露に触れた部分から 諦めたように自切していく ---------------------------- [自由詩]when I lock eyes with you/mizunomadoka[2020年11月28日10時33分] 子供の頃 法事の時 お経の中 数珠を握り 経本を開き 目を閉じ 丸まって 念仏を唱える 年寄りたちの 小さな背が 今になって 美しい ---------------------------- [自由詩]connect the lines (promises)/mizunomadoka[2021年1月17日8時15分] あなたの子供の子供の子供の…… 100世代あとの少女が かつてジャカルタだった森で 光合成をしてる 髪も肌も瞳も緑色で 2本の長いアンテナを傾けて 何か探してる 少女の足下は 蔦に覆われたビル群を流れる 冷たい川 そのほとりで 古いロボットのクマたちが 魚を火にかざす 「あなたは誰?」 声がする 「私は、」 応えかけて目が覚める 時計は3時40分 サイドテーブルの水を飲み さっきまでのことをメモする なんて言おうとしてたんだろう? 少し考えてみる 「私は、大昔の人間よ」 なんだ大した言葉じゃなかった 「あなたの先祖の元カノなの」 言えなくて正解だった そういえばあの人は 怒った私に きみの100世代前の先祖も 同じように怒ってたのかな と笑ってた 外の雨が雪に変わる音 ね。もういちど目を閉じるから つなぎ直してみて 透明になって見えない あなたとあなたの子孫の女の子に ---------------------------- [自由詩]うた/mizunomadoka[2021年2月2日5時30分] ふたりのいとはどうかせんのように じりじりとくちてく あのほしはあおいさかなのめ いませかいじゅうでなんにんのひとが かーてんをあけてまどのそとをみただろう かぜがふく いつなんどきでも ここにいる レナセーラ エルアットロト きえるときは りょうがわからひをつけて ---------------------------- [自由詩]present/mizunomadoka[2021年2月4日6時11分] でもこれはただの夢じゃないのよ あなたは立ち上がって言った 来年もずっとずっと一緒にいましょう 時間や決めごとよりも あなたのことが大事! ---------------------------- [自由詩]now and/mizunomadoka[2021年2月4日6時12分] 夢をみた 6歳も離れてるのに 同じ教室だった 修学旅行はハワイで 違う班になっても一緒にラベンダー畑に行きましょうねって 話してた 窓の外。校庭で体力測定をしてる こんな真冬にしなくてもいいのにね お昼休み。旧校舎の階段の踊り場に隠れて 手をつなぐ ボイラーの音 吹き溜まった枯れ葉 先輩もうすぐ卒業しちゃうんですよね 灰と黒。冬と夏の影が重なる 夢の中でも時間が 結末を合わせようとする ---------------------------- [自由詩]運命の分岐/mizunomadoka[2021年2月6日7時47分] 職場でお寺の話になって 昔あなたと行ったお寺のことを思い出した 名前も場所も憶えていなくて ネットで調べていたら 手が滑ってあなたの家を見てしまった 恐ろしいことに十数年の移り変わり写真まであった 知らない車が停まってる 自転車の種類が変わった 庭の金木犀がきれい 胸の動機がすごかった こんなに動揺すると思わなかった 感じるより考えるより速く 私の心はそれを取り戻そうと走りだした もうひとつの人生! もうひとつの心臓! 机の前に残された私は 冬の発電機みたいに白い息を吐きながら ディスプレイをただ凝視してる 初めてのデートはスケートだった わたしも小学生のとき以来だから そう笑ってあなたはクルリと回った 立つのが精一杯な私の両手を引いて 外周をゆっくりと滑っていく いちにーいちにー、そうそう上手! リンクの中央でフィギュアの子たちが 妖精のように舞う 私たちみんなでメリーゴーランドみたいだね 車輪で雪を巻き込みながら 列車は発射台のある湖へと向かう 食堂車では新年を祝う人々が カウントダウンを始めている バーカウンターの酒瓶と チョコレート箱をバッグに入れて 貨物室に戻る トイレ脇のバルブで熱湯を椀に注ぎ 固いパンを浸しながら食べている 六等車の乗客たちにそれを渡す ガタンゴトンガタンゴトン、 窓に反射する老いた私 もうひとつの未来の記憶 銀河の浅瀬に浮かぶ星々 太陽に照らされていた青い水球 記憶を束ねたモノリス 暗闇の海 光よりも孤独 ---------------------------- [自由詩]turn off your devices/mizunomadoka[2021年2月8日5時34分] 新聞配達の音で目が覚める 豆乳バナナとカロリーメイトで朝食 リモート出勤をしてから車で出勤する 内外の打ち合わせが2本と面接 姿も声も筆跡も違ってた。あなただと思ったのに 午後は大きな会議と小さな会議 氷属性の矢は貫通率がアップし命中時には凍傷を付与する 雨に打たれて眠る羊たちの写真 この店はきみの部屋じゃないよ 手を洗うから手を離して 会社に忘れ物をして高速にのる 宅配ボックスに処方箋と薬 アイシャドウとセロハンテープ 同じ指紋だった。でもどうして… お預かりしているメッセージは十、五、件です 玄関のチャイムが鳴る ---------------------------- [自由詩]rainbow covenant/mizunomadoka[2021年2月28日3時00分] 土曜日の午後はいつも満室 会うのは今日で最後 ベッドに並んで チャットアプリを削除する さようなら。元気でね 父の命日 墓石の花立に梅の枝を挿す ねえ、元気にしてる? 遅くなったけど バレンタインのチョコレート 置いとくね 晩ご飯の支度を終えて 娘の帰りを待つ間 養育費の手紙を書く 最後の入金を確認しました。今までありがとう あんたは結婚せんのかね? おばあちゃん私もう離婚してるのよ そうかね。まあ色んなことがあったほうがおもしろいね 施設の祖母が笑う また会えるようになったら 石崎さんとこの焼き芋を買ってきて お母さん一光年って何メートル? 娘は父親への手紙を熱心に綴っている あなたは手紙に何を書いてるの? 命の砂時計で怖くなった私に 一粒がお月様くらい大きくてもいいんだよ と教えてくれた父 夜中トイレに行けない私に 本当はね、あなたは夜の国の第三王女なのよ と打ち明けてくれた母 私はうまくやれてるだろうか? 私は便箋に小さな点を書く まずこれが宇宙の大きさだとして、 ---------------------------- [自由詩]stones/mizunomadoka[2021年11月29日15時32分] 1 もう二度と会えないねって交わした約束と 12度目の冬を迎える 寒いなーって思ったら あなたの町に雪が降ったのね ブラックフライデーにクリスマスプレゼントを買って 夢の中でお風呂掃除をしてる わりと幸せな日々だと思うけど 2 約束を破って会いに行く 今の服と化粧に昔の香水とアクセサリーを身に着けて あなたは驚いて、一瞬目を細めてから、悲しい顔をする 「ごめんね、近くまできたから」 一人になったと聞いたのに ドアの向こうから声がきこえる 「ちょっと待ってて、上着をとってくる」 「ううん外は寒いから出て来なくていいよ」 「元気そうでよかった」 「あなたもね。はいこれ地元の名産」 3 柱に刺さったダーク 彼女の去った雪の轍を窓から見下ろす 今もきれいだった 懐かしい匂いがした 追いかけて本当のことを話したら? 首を振って、菓子箱を仏壇に供える 赤、緑 4 海辺のモーテルにチェックインする ガラスに映る私は魔女みたいだった ご朝食は向かいのカフェです お召し上がりの際にルームキーをご提示下さい 熱いシャワーを浴びたかったのに 荷物だけ置いて砂浜まで歩いてる 波の音、海、風、雪、月 寒くてきれいで叫びたくなる 何してるんだろう? こんなところで でも幸せ 丸く削れた石を拾う 「これが約束ね」 海に投げる 吹雪でなにも聞こえない 今度はもうすこし大きな石を投げる パシャ かすかに音 もういい帰ろう このままここにいて 夜に溶けたい 5 誰もいない部屋 海外旅行で買ったお揃いのカップ 把手は接着剤でくっついてる プラスチックの花を挿して 本棚の右隅で銀色夏生を支えてる 6 もう片割れは ノルウェーの工房にある どうしてそこにあるのか誰も知らない 形を変え旅をして 途方もない分岐の果てに 未来の終わりに辿り着いた 彼女が投げた丸い石  「これが約束ね」 約束は海に触れる前に消えた ---------------------------- [自由詩]4.5/mizunomadoka[2021年11月30日21時19分] ヘリポートに出ると猫がいた そこにいると危ないぞと言うと あわてて逃げていく 空は高くて雲ひとつ見えない 洗浄機の栓を抜いて顔を洗う 管理者が椈の枝を落としている ストレッチャーがやってくる 「彼の容態は?」 「わかりません」 点滴パックを持つ手は血で真っ赤だ 「この島にいる人間はきみだけだ」 「はい」 「助けは来ないかもしれないし  来たとしても撃たれるかもしれない」 「わかってます」 なぜ?と訊いてみたかった 12年も苦労して身を隠してきたのに どうして台無しにするのか こんなつまらない男のために 西の森から ローター音が近づいてくる 方向を偽っても周波数で軍用だと分かる 「逃げた方がいい」 「いいえ」 彼女はつま先を見てる そこだけが異様に白い しょうがない。守るしかない 自分はそういう役で生まれたのだ 彼女にダークを渡し ガンマプラズマ銃を構えて 照準を合わせる 赤がチャージで緑がパルス ---------------------------- [自由詩]emerald/mizunomadoka[2021年12月14日23時04分] 錆びた薔薇の手摺りから 想いの順に消えていく これまでの人生よりもずっと 優しい灯火 凍った空 冬の長い影 後ろ姿 螺旋に落ちてくダイナモ ---------------------------- [自由詩]drug addiction/mizunomadoka[2021年12月17日0時02分] 昨日夜中に息ができなくなった 上半身裸になって部屋中の窓を開けた 冷気だけが症状を和らげてくれる 今が冬で本当に良かった このパニックから逃げられるなら 死ぬ方がマシだった 私が救いたかったあの子も こんな感じだったのかもしれない だったら声なんて届くはずがない 今日レッスン中に爪が割れた子に ネイルグルーを買ってきてあげた 親切をするといい気持ちになる 生きている実感がある 見返りやお礼はいらない 私は弱いから 金庫に閉じ込められて 海に沈められる悪夢を見る 子供の頃にそんな映画かドラマを見たんだと思う だから目標のひとつは ボタンを押せば私が消える装置を探すことだった 大人になってからは薬や毒物を探した 縋るだけなら 無敵になったり幸せになったりする スイッチでもよかったのに 昨日の雨が今もまだ降り続いてる そのまま雪になるらしい 下の駐車場に灯りがともって 数人が楽しげにタイヤを交換してる ---------------------------- [自由詩]rede/mizunomadoka[2021年12月19日23時47分] 黒い服を着て雪の上を歩く皆 葬列みたいと呟くきみ 白い息は生きてる証 サンタを待つトナカイと同じ 頭を垂れて 愛のベルを鳴らす ショッピングセンターの特設ステージ 2ドル払って子供を橇に乗せる お父さんはもういないのよ 近所のダイナーで母が言う お祝いしましょう 好きなものを頼みなさい 両手を広げて喜ぶ 飛ぶ準備をしてる 道路標識や電線の上 黒い鳥たちが 炎を上げるドラム缶を囲み 死者を弔う人々を狙う ---------------------------- [自由詩]panorama/mizunomadoka[2021年12月20日19時48分] 月までの 長い階段を 上ってる 永遠みたいな 道のり 階段端で 休んでいると 月側から下りてきた 子供が隣に座る 何も言わずに じっと私を見てる 腕時計を外して その子に差し出す 雪の日 ダイナーからの帰り道 母がくれた 父の形見 そろそろ行かなくちゃ 立ち上がって 手をふり また階段を上る 遠くで光る 誘蛾灯のような 月の輪郭 手摺りをつかんで 振り返ると 足跡は白い糸のよう あの子はたぶん次の私 広大で静謐な夜の底が 私たちの住み処 月も通過点 今まで行けなかった場所 ---------------------------- [自由詩]メリークリスマス/mizunomadoka[2021年12月24日21時13分] 教会の裏手に廃棄されたロウソクの燃えさしを持って帰った 鍋で溶かし芯を紡ぎ直してクリスマスキャンドルを作った 麻布に包まれた一斤丸ごとのパン 妹が摘んできた野生のベリー 砂糖を入れたミルク オセロ大会 待ちきれなかった妹の寝息 ドアの音がして私は寝てるふりをした 靴下に入ってた12色の色鉛筆と手袋 妹が起きてきて 昨日サンタクロースに会えたと笑った ---------------------------- [自由詩]end/mizunomadoka[2021年12月30日17時34分] 波が追いかける そして逃げていく 一泊二日の温泉旅行 ひな鳥みたいにくっついて 足あとは私たちだけ 誰もいないね 雪でよかったね 今終われたら幸せなのにね あなたのことが好きよ きみのことが好きだよ 眠るあなたを使って そっとくり返す 帰りのチケットを窓から捨てても 永遠は望めない こんな想いも数日すれば消えてしまう 命だけが時間を止めてくれる 嘘の私で 偽りのあなたに会った 会わなければよかった ずっと一緒にいたかった よいお年を(ノД`) 来年もよろしくね(*'-')? そんな風に離れた ---------------------------- (ファイルの終わり)