吉岡孝次 2005年1月22日18時44分から2005年3月14日22時45分まで ---------------------------- [未詩・独白]先を越されて/吉岡孝次[2005年1月22日18時44分] 詩の何たるかを 読んではじめて知る。 しがらみを外れた所で 軽く、愉しんでいる。 軽く。 ---------------------------- [未詩・独白]告白/吉岡孝次[2005年1月24日21時53分] 1. ほんとうは傷めていない膝をもてあましながら ジーンズだけは新しく履きかえたクリスマス この街の密度を写した覇気のない家電量販店で 僕は一人の少女を盗み見てしまう    *** 「スノーホワイト」は僭称ではないのか だが少女はそんな些事には拘泥しない    *** ディスプレイに何か打ち込もうとしているようだ 短めの髪 ダッフルコートは 暖かな白    *** 僕はさっきまでどうしていたんだろう 眠っていたわけでもなければ 死んでいたわけでもないのに 声も知らない十幾つの 娘 の専心に 唐突に 人生の答えを直視してしまった 2. 首府のすきまを供儀で詰め しつけてあった? 僕が泳ごうと泳がされていた四季は 3. はじめて迎える州都での 冬 寄る辺なく まっすぐには帰るまいとする巣嫌いが 十二月の望郷の下 傍らで観ていられない、ゆきちがう防寒の彩り 躰が許す限り 、黙々と地を這う靴音を踏む 肩先を流しながら だがそれは瞬間ではなく目撃 ただ一人 ささやかな放浪で出くわす また一人 ある叫びをもたらす少女に 4. 身に覚えのない怒りをノートに書き付け 俺に妻をあてがおうとする欲望に銃口を突き付ける だが こいつが死ねば俺も死ぬのだ 小回りを効かせられない一棟へと組み込まれ ポップコーンみたいに 弾けようとしても いつも天井にぶつかってしまう 足を引き摺って歩く仔羊の奇妙に多いこの市街地で 冷めたことしか言えない口が今 開く   誰もが動いている   連絡を待ちながら   電源を ついには切ることができないままで ---------------------------- [自由詩]人であること/吉岡孝次[2005年2月26日12時06分] みんな 風 つまり 空気ではなく 激しいやりとりなのだ 参ったか 参ったぞ ---------------------------- [自由詩]準備/吉岡孝次[2005年2月28日21時58分] 一心不乱の息づかいが 助詞をくるわせ やつらのアイドルの地位を与えるのだ 何だ 君は ただの委員長じゃないか 少しばかり髪が綺麗なだけじゃないか 笑ったりするな ---------------------------- [自由詩]窓の外はベランダ/吉岡孝次[2005年3月1日22時05分] このまま 雨が降りだす地点まで視線を走らせてみようか いつも この広さを見ている ---------------------------- [自由詩]退官/吉岡孝次[2005年3月2日22時07分] きみに 僕の、人生で最後の遅刻をプレゼントしたかったんだ。 いつも最前列で受講していた、その 小さなレンズ越しにきらめく冴えきった野心に。 その、危うい透度に。 ---------------------------- [自由詩]群落がまたひとつ滅び去る/吉岡孝次[2005年3月3日22時09分] 星をむすび いのちを芽吹かせ給う引力(ちから)が 見よう見真似、受精を試みただけさ。 ---------------------------- [自由詩]ウキウキガイダンス/吉岡孝次[2005年3月4日22時12分] 「これが私。そしてこれが染井吉野。」 ---------------------------- [自由詩]私は支配者/吉岡孝次[2005年3月5日22時13分] 天地を持ち歩く ---------------------------- [自由詩]山田だろうか田中だろうか/吉岡孝次[2005年3月6日22時14分] どっちなんだろうか んー ---------------------------- [短歌]あるオマージュから/吉岡孝次[2005年3月7日21時46分] 「ごめんね」と去る微笑みの明るさに差し込む翳は「何でもないの」 血の故に告げやりがたき想ひあり 都鳥をばともに見上げて 蕾とは最も若き花なれば 散る痛ましさもて在れるものなり ---------------------------- [自由詩]水夫/吉岡孝次[2005年3月7日22時18分] 1. 湿った韻律へ。 肋を晒す木々の懐を遡行し、 喪失のしぶきを散らす探索の漕ぎ手に なり果てたね、影は。 (見立てられた「白紙」も  やがては人身を嘯き・・・) 鼻先をつまむ苦笑いの、施頭歌。 2. 名は絶たれし、ローティーン。 「晴れずとも霧。興ぜずとも航路。」 と 誰に 言おうか。 3. きっと最期まで目は閉じられない気がする。 人生って昼かい? どんな吹奏を奇貨として 小艇は僕を沈めようとする? ---------------------------- [自由詩]盆地の人たち/吉岡孝次[2005年3月8日22時23分] かげ と綴る処遇の 握るペンのグリップがまた落とす影。 長官は自著を開くことがあるのだろうか、 例にさえひらめく才知に引きつけられるかのように。 俊英の在りようは一通りではないが 「わが解体」をひもとけば つい 現象学、で因んでみたくなりやがる。 盆暮れの一太刀 俺だけが 武蔵野 ---------------------------- [自由詩]甘い夢/吉岡孝次[2005年3月9日22時24分] ドイツ語の単語集には 使えそうな例文が溢れていて これも その一つ 父娘の会話に当てはめ 楽しむことも可能だ 「道は再び乾いた」とか 何とか 彼女はいつ父を許すのだろうか ---------------------------- [自由詩]由来/吉岡孝次[2005年3月10日22時31分] 「青が好きだということにしよう」 そう決めて 僕はこの世に生まれた。 ---------------------------- [自由詩]デビュー/吉岡孝次[2005年3月11日22時32分] 今度台風が来たら女の子をやめようと思う 嵐になるんだ ---------------------------- [自由詩]NOBUKO/吉岡孝次[2005年3月12日22時34分] I 切り抜けられるかNOBUKOさん 結論の下った炭鉱の島から あなたは僕の行方を指し示さなければならないのです II 21の夏 生まれたばかりのNOBUKOさん 雲が多い、ねずみ色の空が水平線まではみ出していた 猫が多い、木造住宅はどれも二階建てでひしゃげていた 海の色がよく見える岬の墓場が 十字架を父としてあなたを渡してくれました 僕と同い年の赤ん坊 抱きとめたのは僕なのに 見つめているのはNOBUKOさん 自分のことにばかりかかずらっている僕に 磯辺の小さな生き物をぬるぬると飲み込ませ あのとき僕は受精したのかもしれません 島の頂上には展望台があって近くに軍艦島が見えるけれど 焦点を合わせるのは案外難しいことです 幹線道路は島を巡り 岩場に停めた自動車の中で恋人たちは腰をうねらせていましたが 保育園、商店街、組合集会所 僕は余所者だからあなた方には共感しません そうして中腹の児童公園で 少しでもいい、深くなってくださいNOBUKOさん 卑俗な感傷性から愚鈍な教条主義から 白い指で良質炭を掻き出してください 麦わら帽を手で押さえながら 身振りを交える僕へと内実を 傾けて 「僕はね、ハッピーエンドが欲しいんじゃないんだ。 とにかく、明確な発端。これだよ、僕に必要なのは。」 「きみがヘーゲリアンだとは知らなかった。」 嘘ばっかり 「じゃあ、発端さえ与えられれば、あとは自動的に自己展開していくのかい。」 「そうじゃないんだ。今の状況を縮約したところから生まれる原型というものがあるだろう。そういう、混沌からの飛躍が欲しいんだ。」 「今度は、ベルグソンか。」 NOBUKOさん 目の前の海を見て下さい 「つまりきみはぼくに卵を産ませたいんだろ。でも 飲み込んだのはきみなんだし、この島に来ることを決めたのもきみだ。そもそもこの九州の空の下で・・・」 あなたを黙らせるには口を丸く重ねなければならないのだろうか 僕にも考えることぐらいはできる だけど生むことは III 東京 23才の誕生日を迎える冬 紀伊國屋ホールの喜劇にも 横浜そごうの展覧会にも 道は切り口は展望台は児童公園はなかったようです それよりもNOBUKOさん 今はただあなたの 遠い生殖器に耳を当てたい 僕の部屋からは多摩川の丘陵に建つ 団地や家屋の灯りが船の窓のように夜空の裾を飾っています あなたに見せれば 僕とは違う新しい海が広がるかも知れません 今年の夏 星にむせかえる島の空に包まれて 迎えたあなたの初潮 白く冷えた堤防に腰を掛け 足下をたゆたう波の音を聞きながら 一人血に濡れたあなたに せめて 風景の悲しみ その悲しみからたちのぼる切ない香気が あなたを少女の昏迷から訣別させ 女の肌は水の国の月明かりに満ち そしてまた今冷たい風が吹いています 聞こえますかNOBUKOさん 各国の政府は日々決断に苦慮しています 思索がだんだん疎ましいものになっていきます 努力はもう胸の太陽ではありません 教えて下さい 階級から生まれ階級から離れる僕が 天空のどこを叩けばあなたの真実を罵倒できるか 全ての叡智の故郷を訪ねるにはどれだけの耳を澄ませばいいのか IV NOBUKOさん 彼等の下した結論は今頃 あなたの島にも雪を降らせていることでしょう そろそろ幼い思い出から離れられそうな気がします もう答えを求めたりしません そのかわり 一緒に歌ってもらえませんか 静かに 明るい声で   「父は十字架    父は空    父は    一切の清浄な死」 ---------------------------- [自由詩]寒冷地/吉岡孝次[2005年3月13日22時43分] 希少種の純血の 黒々とした望郷は 遠く 空の一点で氷結した。 何よりも広い夜 一心に消え去る水鳥を 無感覚の透明さで 愛した。 今日もまた夜は長いだろう。 僕は狙撃されるだろう。 ---------------------------- [自由詩]虜囚/吉岡孝次[2005年3月14日22時45分] もうすぐ春 だけど コートの内に閉ざされていて ---------------------------- (ファイルの終わり)