吉岡孝次 2009年6月30日21時50分から2011年4月24日21時43分まで ---------------------------- [自由詩]雨/吉岡孝次[2009年6月30日21時50分] ついに僕らは自分の心をしか探ることが 出来ず 冷たい雑踏をかきわけていた 少しでも前へ進みたくて人をよける僕に きみは 遅れもせず ぴったりとついてくる (そこからは 黒ずみはじめた僕の肩は見えない) もっと道が短ければ と 誰かの声が聞こえた Protestantでもあるきみは 食事を 残さない きみの話はしばしば速すぎて 個々の点になると僕の理解がおぼつかなく なりそうだ だがあからさまに「わからない」といった顔をすると くやしいらしい じっと 僕の目を睨んで それからいきなり戸外へと視線を 走らせてしまう 何もかも突然に始めるわけではない、と 僕は いつ知ることになるのだろうか はっきりしない 雨脚 僕らの やり方のまずさだ 映画館では「ザジ 」を観た きみといる静謐を苦く 閉じ込めていた ---------------------------- [自由詩]決心/吉岡孝次[2009年7月10日22時09分] 「採光をイメージして。」 ことばを書き足していくことに 意味は、ない ときみは言った。 だがそれは本当か? 以前きみに小さめの腕時計をあげたとき 進め!進め!と念じてみせてくれたね。 何もしなくても その日 針は大きく動いていたのに。 黒い革バンドを器用に 留めた。 あれから── ──きみの手首は細くかよわく ポロシャツは 白。 ことばを書き足していくことに きっと意味はないだろう。 肘のあたりを つかまえてみたい。 ---------------------------- [自由詩]肉体の最後/吉岡孝次[2009年8月31日22時05分] 砂は運ばれてゆく どの風にも乗って ---------------------------- [自由詩]名前のない詩/吉岡孝次[2009年10月5日21時05分] 小さな 指切り (嘘ついたら・・・) 大人になって いろいろ道に外れたことなんかもして 耐えきれず 机に向かうことが、ある 何か思い出しかけるのだが・・・ 駄目だ 背がのびた というだけでもない ---------------------------- [自由詩]古参/吉岡孝次[2009年10月10日19時40分] 派閥は形成できないの? ひょっとして肝胆相照らすのもダメ?   なに、   抜け道は必ず   ある。 ---------------------------- [自由詩]A million leaves/吉岡孝次[2009年10月24日19時48分] 朝廷の出方ひとつでは 倍増しかねない 蹶起を促すメールが アンドロメダの青年将校に今 届く ---------------------------- [自由詩]Operation/吉岡孝次[2009年10月25日20時34分] しみついた薬の色や ステンドグラスの窓の響き 机を隔てたくらいでは逃れようもないのだ 天意がのびていく だがどこまでのびていくのだろう 患者(クランケ)の上へか? それとも裁きの席へか? ノブ を包む手で回せば 掛け金は壊れる ような音がするだけだ 准看護婦よ 君の胸を裂け 苛立ちに任せベッドに転がれ 台車を滑らせ 壁に頭をつけて血を吐こう 二人で 日が差し止むまで ---------------------------- [自由詩]オフィス風林火山/吉岡孝次[2009年10月28日20時16分] 1.風 「もう、窓なんか開けないで!」 2.林 「林クン、黙ってたんじゃ判らないんだよ。」 3.火 「えぇ!あの二人つきあってるの!?」 4.山 (ペーパーレスの話はどうなったのだろうか・・・) ---------------------------- [自由詩]Satisfaction/吉岡孝次[2009年11月1日16時17分] 集められた名著の 遣り場に困る。 「いつか、なんて来ないんだよなあ」 解っていて 胸をつかまれていた自分の この手は その自分のだから 廃れてしまった理論書ともども その通りにしておく。 でもまあ、いつかは。 ---------------------------- [自由詩]赤羽トンレサップ/吉岡孝次[2009年11月5日20時03分] 地名を二つ、重ねたくらいの 気持ち良さ 我ながら うまい憶測だ 朝も 帰りも そんなふうにして ---------------------------- [自由詩]星空の飛行船/吉岡孝次[2009年11月7日18時35分] この祈りを届けよう 宇宙(そら)に輝くあの恒星(ふね)に 漆黒(やみ)に溶け込むあの巨艦(しま)に ---------------------------- [自由詩]腸詰/吉岡孝次[2009年11月8日19時05分] 常連扱いに戸惑うも 茹で上げて 試供されたからには品評しないわけにもゆかない まだ幟のくすんでいないラーメン屋の 一皿候補としての酒のおつまみ 淡泊な色合いだから 盛りつけの器は黒めの方がいいかもしれませんね 「これじゃ小指みたいですよ」 あ そういえば ---------------------------- [自由詩]二階堂フルスロットル/吉岡孝次[2009年11月21日19時09分] 派閥を 離脱したんだけど ついてきた人数 少ないんだよね 退くな俺 二周目の 青雲じゃないか ---------------------------- [自由詩]高い、高い、高すぎ/吉岡孝次[2009年12月14日22時03分] 枕の下は断崖 愉しもう どうせ夢なんだし ---------------------------- [自由詩]オフピーク/吉岡孝次[2009年12月22日20時23分] 想像していたのと何か違う 熱い! 少女はまだ冷えていない! 炉から出てきてまだ間がないものな 樋をころがっている最中だものな それとも問いか ノスタルジーで火傷する馬鹿 程良く空いている また 起伏 ---------------------------- [自由詩]巻き戻された香港からの調べ/吉岡孝次[2010年1月26日21時26分] 幼い歌声・・・ 「さっきも聞いたッ!」とか言わないで。 ここからもっと先があるんだから。 購う過去をプレーヤーに嵌め込んで、等値してみる。 これも詩吟なんだと、引き出されてみる。 ---------------------------- [自由詩]草の効用/吉岡孝次[2010年2月9日20時33分] 青い糖衣錠に含まれる植物性成分は パッシフローラ 40mg セイヨウヤドリギ 10mg カギカズラ 22.5mg ホップ 9mg 大人は1回1〜2錠を1日2回服用します 注意書きは以下の通り。 1.小児の手のとどかない所に保管して下さい  (そうだ、ガキには勿体ない。) 2.服用に際しては、添付の説明書をよく読んで下さい  (一度やりたい暴飲暴服用。) 3.直射日光を避け、なるべく湿気の少ない涼しい所に保管して下さい  (日陰者扱いか。立派なひと達のための薬なのに。) 会社へ行く前に 試験を受ける前に 愛を告白する前に 仕事のあとで 発表のあとで 別れ話のあとで 結婚式の司会者が飲むという 現場監督が飲むという いたいけな革命家が飲むという そして僕も飲む 静かな時が戻ってくる 詩なんか書かなくて済むような 穏やかな夜へと懐かしく とけこんでゆく ---------------------------- [自由詩]抗日的発火能力者/吉岡孝次[2010年6月1日22時27分] 謀をなすものにして客家にしてハッカー ---------------------------- [自由詩]照合/吉岡孝次[2010年6月5日21時52分] 物を燃やす機会は 乏しく もう一派の世界標準にも 触れる時間が近頃ない 押し黙った身体を運ぶ週の積み重ねに 息を抜くこつを学んだり 忘れたり… 「今日は蒸し暑かったですね」と 振り返れば 事件絡みのキャスターが予報士へと繋ぐ 何だ そういう事だったんだ 充分に揮発した経験に照らすなら 語りを紐帯として一群を成すティーンエイジャーは 横目でスキャンするのが心地よく 正しい あゝ 母校の教授がテレビで伝道する 身振りを交えて 傾向を 指す ---------------------------- [自由詩]上機嫌/吉岡孝次[2010年6月22日20時08分] 結婚したぐらいで 作風変えやがって  ---------------------------- [自由詩]ママチャリライダー/吉岡孝次[2010年6月27日11時46分] 汐が濃く匂ってくる。 目にも暗雲が立ち籠めてくる。 簡単に言えばすむものを 見破られまいとして 一刻の猶予を走り抜ける。 ---------------------------- [自由詩]僕は眼鏡/吉岡孝次[2010年9月15日21時57分] 曲げるだけ曲げておいて、 後方へ パス。 ---------------------------- [自由詩]共有/吉岡孝次[2010年10月20日20時59分] 僕等は思い出すだろう とりとめもないことだけを ---------------------------- [自由詩]謝罪と懇願/吉岡孝次[2011年1月23日18時12分] もういちどだけあやまらせてね ---------------------------- [自由詩]何もせず僕は今日に生きる/吉岡孝次[2011年1月29日17時47分] 何もせず僕は今日に生きる 黒い机に載ったベージュのコンピューターや 襟の擦り切れかかったワイシャツに拘泥することなく 「今日」をべた塗りした今日に生きる かつて愛した誰かの事や 「愛したと思った誰か」の事をノートに書きつけ とりあえず、と言える今日に生きる 幾つかの詩的テクニックは概念であり、 キャリアこそが未熟の始まりなんだ、と全身で感知する 眠い目を洗う寒さに対し 断固として 掛け声を浴びせる今日に生きる (或いはそう信じ、今日に生きるふりをする) 船舶への愛をひた隠しに隠し メトロノームが何の役に立つのかといきりたって見せながら 恋人との冷え切った今日に生きる 唐突に反復する今日に、生きる (ああ  もう一人とも 今日に生きてゆく・・・) 二月の受験日に向けてエアチェックしてた 隣県の放送局から流れてきては 途切れてしまった大好きだったロックンロール (あれは、今日を生きてたのかい?) 「瞑目」を単語として記憶した 幾つかの小説を仕上げ とんでもない料理をひとに試食させながら 馬鹿だね 何もせず僕は今日に生きる まあそのうちに値打ちが出てくるさ でも僕は生きるのを待ったりしない ---------------------------- [自由詩]ロイド・シティの冬、アイは/吉岡孝次[2011年1月30日20時45分] (1) コートにくるまって 君と何を 見上げてるの 旧世紀の憧憬(ゆめ)飾っていた摩天楼に降る雪の中で 手に触れるカケラを 街は知らないふり だけど 灯りを消せないひとの計画(ゆめ)が 今夜は静かに胸を打つよ  あゝ 君と探す一秒がきっと わたしを変えてゆく 真夜中に引き裂かれ 誰一人救えずに 生きてきたけど 迷わない もう君がいる 降り出した雪じゃなく 頬を切る風じゃなく 白い吐息の暖かさ 君に感じていたい 今夜 (2) 凍えた感覚は 時をかけて溶かしてゆく 落ち着き払った君の瞳 切なさを込めて見つめながら 譲れない明日を ひとはものに換えてくけど いとしさを誘うこんな夜は 誰の手にもまだ落ちていない  あゝ 君がいつか どこか遠くへと いくのが怖いけど 暗闇を欺いて 虚しさを乗り越えて ここまできたよ 迷わずに 抱きしめていて 愚かさも激しさも もう届かない場所を ここに見つけて さみしさを君に包んでほしい 今夜 真夜中に振り返る 一人きりのわたしを 君の鼓動が この胸に響く夜には 降りつづく雪に今 癒された悲しみを やさしく強く 誰よりも君に包んでほしい 今夜 ---------------------------- [自由詩]知らないことが/吉岡孝次[2011年2月3日20時23分] 道は細く分かれていって ボンネットの先には 蒼い夕まぐれ あなたがもう故郷にいないのは知ってる 私がもう独りではないのを あなたが知っているように どの角で曲がるのか ふいに聞かれた 反対に切れたら あの頃の二人の場所   星と海だけが美しいこの町で   私はあなたのものになりたくはなかった   すべてが許されると思ってた   あなたの痛みを知らない私の小さな夢は 波は白く砕けていって ためらいながら海へと 風が滑り出す 一瞬でも横顔が似てるのは残酷 私がもう独りではないのを あなたが責めているように 言葉でも身体でも 今も知りたい さみしさを燃やした あの頃の二人のわけを   星と海だけが美しいこの町で   私はあなたのものになりたくはなかった   かなわぬ明日はないと信じてた   「昨日」の重さを知らない私の小さな夢は 私たちには知らないことが多すぎる 教えて かけがえのないひととの暮らしの中で どうして今でもあなたを思い出す日があるの   星と海だけが美しいこの町で   私はあなたのものになりたくはなかった   すべてが許されると思ってた   あなたの痛みを知らない私の小さな夢は     あの日のまぶしい夢は ---------------------------- [自由詩]。/吉岡孝次[2011年2月16日21時10分] 塹壕での筆談に 俺は「、」と返した ---------------------------- [自由詩]願い/吉岡孝次[2011年3月26日22時15分] 雪が降るとき 音はするのだろうか 恋心が生まれるとき 人は耳を澄ますのだろうか ついに実らないとき 空は 自分の深さに泣くのだろうか ---------------------------- [自由詩]選考過程/吉岡孝次[2011年4月24日21時43分] つややかな髪の淑女は もう データベースに満杯なので ちっちゃくて可愛い少女は もう お腹いっぱい見飽きちゃっているので ノーギャラで胸元を広げる洗濯女に至っては もう 辱める気すらしないので いや、そんな理由がなくっても! きみが優勝です。 ---------------------------- (ファイルの終わり)