光井 新 2010年11月16日22時09分から2011年8月30日17時14分まで ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]単細胞/光井 新[2010年11月16日22時09分]  単細胞だって言われましてね、お嬢様に、馬鹿にされたんですよ。お前の心の声を聞かせなさいって頼まれたものですから、私の心の中に声なんてないんですけどね、まうまーどらーぷきゅー、てな具合に声にならない心の中を、無理矢理声にしてみたんです。色々考えちゃうともう面倒なんで、他人の心が読める超能力者みたいなそんな人は居ないとして、私の心の中なんて私以外の誰にも分からないとして、じゃぁ私にしか判断できないんだから私が判断しますけど、まぁ上手く表現できてるんじゃないかなって思うんです、まうまーどらーぷきゅー。なのに、違う、なんて決め付けられちゃったんですよ、私の心の中なんて知りもしない人にきっぱりと。酷いと思いません? しかも違うっていう決め付けから発展してか、心の中でも何でもない声を適当に唄ってる、って思ってるんだわきっと、それが馬鹿にされているんじゃないかしらと感じてしまう自尊心の防衛本能なんですかね、怒り出す始末なんです。例えば誤解から生じた怒りだとしたら、誤解を取り除けば怒りを静められるかもしれないという望みもありますけど、この人の場合はそもそも決めつけから始まっちゃってるし、どうやって怒りを静めればいいのやら、もう単細胞にはわかりませんよ、私は単細胞じゃありません、って何度言っても、お前は単細胞よ、って決め付けで物言ってくる石頭なんですから。ひょっとしたら、無意識に自分にとって都合の良い暗示を他人に振りまいているのかもしれませんね、私が私は単細胞だと思い込む様にとか。みたいにもう悪意さえ感じてきまして……それも私の思い込みに過ぎないのかもしれないですけど、私、あんな人の心なんて知りませんから、知りたいとも思いませんよ、そういう訳で理解が足りないのかな、等と思った所で超能力者じゃありませんし、ましてや単細胞ですし。  だから単細胞なんだなって思いますよ。私は単細胞です、はい。相手に対する思いやりが足りない単細胞なんです。って自虐的な精神状態に陥ってみても、これが奴の狙いだったんじゃないか、ってついつい被害者面して自分の為に涙を流してしまうんですね。私は単細胞です、そう洗脳されているんじゃないか、って何とも恐ろしい妄想をしてしまうんです。それもこれも私が単細胞のせいなんですけど、それとこれとで別にして話を進めないとこの恐ろしい妄想の輪から何時まで経っても抜けられない訳でして、じゃぁ、私は単細胞じゃない、ともとりあえず思ってみる訳です。そしたら今度は理解に苦しむんです。あの人の理解に苦しんで、あの人の理解に苦しむ自分の理解に苦しんで、その理解できないままスライドしていく事への理解に苦しんだ挙句、どうしてこんなに苦しいんだろうっていう理解に苦しんでいたら、理解する事よりも苦しみに耐える事の方がずっと楽に思えてくるんだから、やっぱり私は単細胞なのね。と、進化を拒む単細胞ですかね。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]白壁の万華鏡/光井 新[2010年11月30日12時03分]  あのね、悪ぶってるけどね、僕って本当は悪い人間じゃないと思うのね、自分で云うのも何だけど。ほら、弱い犬程よく吠えるって云うじゃない、あれよ。弱虫なの、僕。だから悪意があって蛮行してる訳じゃないの、弱い自分を守る為の威嚇なのよ。  なのに吠えても聞かない人とかいるでしょう。そしたら暴力沙汰になっちゃうのは仕様がないじゃない、ねぇ。弱虫っていうのはね、何が弱くて弱虫なのかっていうとね、精神的な所が弱いと弱虫になっちゃうみたいなの、ね。身体が弱いとか、頭が弱いとか、経済力が弱いとか、元がそういう弱さでも、劣等感なりなんなりで結局は精神的な所を弱らせちゃうみたいなの。だからね、弱虫には精神安定剤が欠かせなくて、まぁ僕も御世話になってるんだけどね、その薬って云うのが日本では違法な物だから、見つかったら逮捕されちゃうし、こっそり売買しなくちゃいけなくて、買う側が僕みたいな弱虫なら、売る側も頭が弱かったり経済力が弱かったりする弱虫なのね、社会に適応できない可哀想な人達なの。でね、弱虫同士で取引とかすると、大体暴力沙汰になっちゃう。どっちも吠えるのに必死で、相手の声なんて聞いてないんだもん。  ナイフ持って来る人とか多いんだから、もう、怖いのよ。怖いから、量が少ないんじゃない、とかちょっとした事も、まともに交渉なんか出来なくて思わず手が出ちゃう。そしたらナイフで軽く切られちゃったりしてさ、腕とか掌とか命に別状無い所ね、それで血が出たら、お互いなんかそわそわしちゃって、多分僕もなんだけど、向こうの黒目がぷるぷる震え出して、見てらんなくって、僕の方が、売ってくださいってお金渡して、気まずいまま売買成立するみたいな感じなのよ、いつも。怖いでしょ。  でもね、怖い思いして買いに行ってでも、薬が無きゃ僕生きていけないの。中毒じゃないのよ、周りには薬中だっていう目で見られてるけど、自分の事は自分が一番よくわかってるし、うん、弱虫だって事もちゃんとわかってるし、ね。精神安定剤として薬が無きゃ、僕、死んじゃいそうなのよ。悪い人間や悪ぶってる人間が集まって作ってる小さな社会でさえ、僕は適応できなくて、人間として終わってるって思われてて、実際僕は薬が無かったらとっくに自殺でもしてる様な終わってる人間なんだけど、なっちゃんはそうは思わないみたいで、なっちゃんと一緒に暮らす様になってから、何かが始まった様な気がしてきたの。まだ良くわかってないんだけど、もしその何かが恋愛だとしたら、僕が今まで恋愛だと思ってしてきたセックスやなんかは恋愛じゃなかったんじゃないかしらと思えちゃう、そんな何か。でもぶっちゃけセックスとか恋愛とかどうでもいいのね、どうして生きてるかなんて、それは薬を打ちたいからなのよ。快楽を求めてとかじゃなくて、精神の安定を求めて、ね。精神を安定させる事によって強くなれるじゃない、社会的にとか、他人と比べてとか、そういう相対的な強さじゃなくて、世界が自分の中にあるかの様な絶対的な強さみたいな、ね。  それを錯覚だって云う人もいるけど、そういう人はちゃんと社会で生きてたり、家族の為に生きてたりするんでしょうね、何の為に生きてるんでしょうね、人間は一人では生きられないのかな。でね、なっちゃんなんだけどね、僕の心配ばかりするの。何なんだろうね、なっちゃん、ね。僕の為に生きてるのかな、僕がいなかったら死んじゃうのかな。  金属バットを買ったの。部屋にある身近な文明を壊したくて、力任せに振り回せば、形ある物にメタメタにめり込む様な、硬いのを、amazonで注文したの。あのね、金属バットが届いたら、その金属バットを発注したパソコンはね、即金属バットの餌食にね、メタメタになってね、綺麗だった。パソコンはなっちゃんのだったんだけど、壊しちゃった、なっちゃんのだから、なっちゃんの為に。小さな火花がね、優しさを描いていたかも。intel入ってる。  なっちゃんはね、奈津子っていうの、ね、本当はね。だけど一日十時間位はナンシーっていうウィザードなの。ギルドマスターでエルフでバンパイアでドラゴンスレイヤーの妹系美少女キャラのウィザードなの、ゲームの中で。白い壁に映る万華鏡みたいな光を僕が眺めている間、なっちゃんは隣の部屋でずっとパソコンの画面を見てるみたい。もうそれが嫌で嫌で、だって現実逃避じゃないそんなの、僕はすぐ隣の部屋に居るのに、僕から目を背けて違う世界で冒険してるなんて。  ぶっ壊してやったわ、目の前の形ある物全部ガッシャンガッシャン。白い壁だけあればいいんだもん。本当は壁だっていらないの、でも外が見えちゃうと嫌なのよ、外から見られるのが嫌だとか、他人の目が気になるだとか、そういうのは全然無いんだけどね、外の景色とか、形ある物が見えちゃうのが耐えられないの。不便でも構わないのよ、家の中に何も置きたくないのよ、本当は。大体パソコンやらウェッジウッドやら水槽やらテレビやらマランツやらシャンデリアやら花瓶やらテディベアやら、一体何が便利だっていうのよ。もうウィザードも蘭鋳もテディベアもみんな死ねばいいのよ。  白い壁を見てるとね、万華鏡みたいな光が見えてきてね、その中に本当の自分が見えてくるの。意識で支配できない思考っていうか、頭の中の大部分では何か考えてる筈なのに、それを意識の側で理解する事ができないのよ、自分の頭の中だっていうのに。白い壁にね、映るのよそれが、万華鏡みたいに。理解できない物を見ている事にはかわりないんだけど、見え方としては、例えば目を瞑って集中して頭がゴニャゴニャになるのが暗算だとしたら、白い壁に映った万華鏡を見るのは筆算みたいな感じかしらねウフフフフフフフフ…… ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]うちの子は天才です/光井 新[2010年12月3日6時45分] 利宇bt98んrt9yん8むwv90えいううtw@えおsd「fiurwietudkjgjafasiou miujtjrhuqe784gfknbs@oiufbn 猫が詩を書いたんですよ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]毒団子/光井 新[2010年12月8日4時47分]  昔はね、うちの田舎の方じゃぁ、よく、他人様の飼い犬なんかも平気で殺したりしたもんさ。それも大の大人がだよ、それが当たり前で、成人君子か気違いでもない限り、皆そうやって暮らしてきたのさ。  誤解が無い様に言わせてもらえばね、今時の子等みたいに理由も無く殺したりして、楽しんでた訳じゃぁないんだよ。ちゃんと理由があって殺してたのさ、害獣駆除って言うのかね、人間様の御都合にちょっとでも害為す事があろうものなら、すぐに殺してやったのさ。それだけの理由で、殺してたのさ。ゴミを片付けるのと一緒で、そんなの、楽しいなんて思った事も無ければ、ただ面倒なだけさ。  今時の子等ってのは気違いなのかねぇ。楽しいからってのが犬を殺す理由になるなんて、そんな屁理屈をこねくりまわす糞ガキばかりさ。 「あああセックスがしたいれす。気持ちいいからしたいれす。一人じゃダメなんら。しゃっくりが止まらない……ひゃっく!」なんて言うもんじゃないのさ。 ---------------------------- [自由詩]短気/光井 新[2010年12月8日5時27分] 短気なんだ僕は 短気 なんだ 僕は なんだ 短気 なんだ 僕は なんだ 短気 なんだ なんだ 短気 なんだ 僕は なんだ なんだ 短気 なんだ なんだ なんだ 短気 僕は 短気なんだ な んだ んだ、僕は短気なんだな なんだな んだ 僕は 短気なんだな 短気なんだな な んだ 僕は 僕は なんだ な ---------------------------- [自由詩]師走/光井 新[2010年12月12日3時35分] 見るからにヤバそうなのが キた そんなのは 見なくてもわかる プンプン臭うぜ ピンヒールの か細い 金網を張った あれは 床というべきか 屋根とでもいうべきか 足音からして 宙に響く 長い髪が 歯車の回転する 音を立てて ピストンが 上下する 横を通り過ぎて行く 鏡を見た時には 表情を 作っている ガラスなんかに 映る自分を 認識した時には既に 微笑んでいる 見られている その目の奥を見ている または 見ている その目の奥を見られている そして笑っている 冷たく 青い スポーツカーが 静かに 溶けてゆく コンクリートに 走り出した スピードで 引き金を引く 想像をして 楽しんだ ピストルの反動 黄色い テープが張り巡らされた 赤提灯の 入り口に 三つ 四つ 積まれていた ビールケースが崩れていた 明け方  愛をください 愛をください 濡れたアスファルトみたいな声で ヘタクソなカラオケが聞こえる その曲を知らない ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]浪漫模様/光井 新[2010年12月13日7時29分]  皆様は黒柿という物を御存知でしょうか。近頃では、果肉の黒い柿の実なんかが、食用として出回ったりもしております。それを黒柿と呼んだりもする様ですが、これから御話しさせて頂く黒柿というのは、黒い柿の実の事ではなく、木材の事で御座います。一体どんな木材なのかと申しますと、黒、柿、という位ですから、柿の木なのですが、普通の柿の木には無い黒い杢の入った物を、特別に、黒柿というので御座います。緑掛かった羽を大きく広げた孔雀を思わせる孔雀杢、温かみを孕んだ有機的な縞模様の縞杢、宇宙の様な黒の広がりを見せる真黒、などなど、その柄も実に様々で、見る者に対して、命の持つ個性を強烈に訴え掛けてくる様な美しさが、充ちて溢れて広がった杢で御座います。  なんでも、柿の木を一万本切って、一本黒柿が出るか出ないか、そんな代物なのだそうです。そもそも柿の木自体、成長が遅く、木材として使える太さになるまでには、かなりの年月が必要になる物でして、黒柿ではなくても、供給できる数が少なく、それはそれでそれなりに、高級木材な様で御座います。加えて、柿の木というのは、乾燥させて加工をするのも難しいらしく、床柱や茶道具それに様々な家具など、多くの需要があるにも関わらず、柿の木の製品というのは、あまり作られておりません。高級木材の中の高級木材、それが黒柿で御座います。  この黒柿、遺伝子組み替え大豆がスーパーマーケットに並び、人ゲノムさえ解析できてしまう現代において、未だ多くの謎に包まれた神秘の木材でも御座います。恐らくは柿の渋が関係しているのだろうという事、地中の金属が関係しているのだろうという事までで、どの様にしてあの黒い杢が生まれるのか、詳しい事はまだまだ解明されておりません。必ず黒い杢の出る都合の良い品種などは勿論無く、気候や地質などの条件により、比較的黒い杢の出やすい地域というのもある様ですが、柿の木を切ってみるまで判らないので御座います。そんな浪漫模様こそが、黒柿の魅力なので御座いましょう。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]テディベアになりたい/光井 新[2010年12月13日17時19分]  テディベアになりたい。そこにいるだけで、なんの役にも立たないような、そういうものに、なりたいと思う。  どんな事が起きても、動じず、無表情で、ぼんやりと、花柄の壁紙を眺めていたい。そんな風に、何年も、何十年も、変わりゆく街を背に、窓辺にただ座って過ごしたい。  時には洗濯バサミで吊るされ、いつかはきっとゴミ箱に捨てられてしまう。それでも、大切な友達が泣いている夜には、優しい言葉をかけてあげたくて、人間になりたいと願わずにはいられない、月明かりの下のテディベアになりたい。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]きれいな玉になれば、あるいは/光井 新[2010年12月16日5時59分] 好き嫌いのある人を、私は好きになれない。まぁ、嫌いにもなれないし、つまりはどうでもいいのだけれども。 そんなどうでもいい事を、少し、書いてみようと思う。もしかしたら、書いているうちに、どうでもよくなくなるかもしれない、そんな風にちょっぴり期待しながら。 なんて思ってたけれど、やっぱり、この気持ちは期待じゃないのかもしれない。もしもこの期待が本物だとしたら、裏切られ時にはガッカリするべきだと思うけれど、どうもガッカリする気配がない。裏切られた時にガッカリしないものを、期待とは呼べないような気がする。 と、それこそどうでもいい事なんじゃないかしら。でも、まぁ、そもそも今日はどうでもいい事を書こうとしているのだから、どうでもいい事甲に加えて、どうでもいい事乙を書いてもいいんじゃないかとも思うのだけれど。 それは丙で、いつのまにか三つ巴になっちゃったみたい。この調子でどうでもいい事がどんどん増え続けていっちゃうと、どうもまとまりそうにないし、最初に書こうとしていた事を書けそうにない。でも最初からどうでもいい事だったのだから、別に書かなくてもいいのかもしれない。本来、どうでもいい事同士なら、優先順位なんてないはずなのだから。 どうでもいい事の取捨ほど、どうでもいい事はない。どうでもいい事なんて捨てて、忘れて人は生きていく。そうでなければ、前に進む事なんてできない。 私は今立ち止まっている。 道端で拾ったどうでもいい石ころを、どうでもいい気まぐれか、どうにも磨いてみたくなった。 ---------------------------- [自由詩]know/光井 新[2010年12月18日5時04分] それはアイデンティティですか? いいえ、ただのアイパッドです。 それはアイアンメイデンですか? いいえ、ただのアイパッドです。 それは愛工名電ですか? いいえ、ただのアイパッドです。 それは秋田小町ですか? いいえ、ただのアイパッドです。 それはアダムとイヴですか? いいえ、ただのアイパッドです。 それはアイディアですか? いいえ、フリスクに飼い慣らされたパブロフの犬の末路です。 それは愛、ですね? いいえ、一種のロールシャッハテストです。 ---------------------------- [自由詩]イマジン/光井 新[2010年12月22日6時29分] 想像するという事 それは、 海に溶けた太陽  空を飛べないなどとだれが言った?   巻き毛の文盲女子が    小雪のかかかってちぢこまる     少女時代は遠くなりにけり    女の子が空から降ってきた   小鳥が墜ちてくる 野  ZYPRESSEN 竹、竹、竹 朝になって緑は濡れて 足元から鳥が発つ もしもうちゅうがひとつのたまごならあなたはどうしますか? 障子をチンポコでやぶってごめんなさい (風が吹けば桶屋も儲かるしね まっすぐな道はさびしくなるよね 咳をすれば一人だもの にんげんだもの) 大学ノートの中で窒息してゆく 水を燃やしながら泳ぐ 金魚 ヘト ---------------------------- [自由詩]アクロバット/光井 新[2011年1月6日9時32分] 髪の毛切ってもらったよ あのね 美容師さんにね 鮮やかにね 鋏がね 戦闘機みたいにね ブウゥン 僕の髪型格好良いぞー キイィン 皆が僕を見てる 繁華街で アクロバット 戦闘準備完了だります お姉さん、僕の髪型格好良いでしょー ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]朝/光井 新[2011年1月29日3時09分]  雀の鳴き声が聞こえた――と思うと、チュンチュンと云うその音は、何時の間にやら、ポタポタ……と、光る滴と成って、暗闇に在る深淵の静かな表面へと、吸い込まれる様に落ちて行った。円い波紋が立ち、幾重もの輪が内から外へと広がって行く。と、同時に、端から中心へ向けて眩しい白が集束を始める――その刹那、眼球の奥に彫刻刀が突き立てられる! 視界は赤く染まり、オハヨウ、と瞼が挨拶をする。      *  ぼんやりと光る白いカーテンが揺れている。どうやら一足先に眼を覚ました恋人が、ベランダへ出て煙草を吸っているらしい。まるで空へ向かって投げキッスをしているかの様な、淡いシルエットを朝陽が映し出していた。  嗚呼、朝がこんなにも美しいなんて――私は今朝を迎える迄、一度足りとも、朝と云う物を美しいと思った事など無かった――何故今まで気が付かなかったのだろう? 世界はこんなにも輝いているではないか……  何気無く宙を漂う塵でさえ光の粒と成って、フェルメールの絵画に見る様な美を演出している。とは云ってみても、愛する人と結ばれたこの部屋の、埃っぽさを正当化しようとしている、などと思えない事もない――もしかしたら、この世界を正当化しようとしているのかもしれない。 (私は、自己を肯定し始めたのかもしれない) ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]春とハムスターと恥/光井 新[2011年2月1日11時34分]  本当の事を言うとね、僕は、君と離れ離れになる事を悲しんでなんかいないんだよ。だから僕の事は心配しないで、安心して、君ももう泣かないで、そして、笑ってお別れしようよ。  春になったら、僕はジャンガリアンハムスターを飼うんだ。ふわふわしていて、小さくて、温かくて、丸っこい、僕だけのハムちゃんを飼うんだ。嗚呼、今からもうワクワクするよ。君や、ママやパパや、地元の友達と、会えなくなるのは寂しいけれど、新しく出会う小さな相棒がこれからはいつも一緒に居てくれる。  実はね、京都じゃなくて東京の大學を受験したのも、ハムちゃんの為なんだ。どうにかして独り暮らしをしたかったから、それで東京の大學にしたんだ。小さい頃からハムスターを飼うのが夢でね、「とっとこハム太郎」っていうアニメが昔あったでしょう、あれを視て以来、もうハムスターの事ばかり考えていたよ。暇さえあれば色々と妄想してたんだ、どんな柔らかさで、どんな大きさで、どんな体温で、どんな形か、とか。ママとパパに飼いたいって頼んだりもしたけど、うちではずっと猫か犬を飼っていて、それで、鼠は駄目だって言われてね。実家にいる限り、妄想する事しか許されなかった。  だけど、もうすぐ妄想じゃなくなるんだ。夢が叶うんだよ。この二年間、趣味のアニメ鑑賞を控えて、必死に受験勉強してきた甲斐があったよ。君が遊びたいと言って不機嫌そうにしていた夏の昼下がりも、君が僕の事を信じられないと言って怒っていた秋の夕暮れも、君が逢いたいと言って泣きながら電話をしてきた冬の夜も、春になれば、二人の悲しかった恋愛の思い出全てが報われる。  東大生の自分を不器用だなんて言うのは変かもしれないけれど、僕は本当に不器用な人間で、ママとパパに内緒で僕の部屋にゲージをこっそり置いたり、アルバイトをしてアパートを借りてそこで飼ったり、そういう別の方法は何もできなかった。ただ、独り暮らしを、納得させるというか、応援してもらえる、そんな国立大學を受験するという事位しか実行できなかったんだ。それた事一つできずに、ずっと勉強ばかりしていて、つまらない思いをさせたね、ごめんね。  東京に行ったら、いっぱいメールするよ。楽しい写真を添付するつもりさ。どの写真も、きっとハムちゃんと一緒に写ってるだろうから、ひょっとしたら君は焼き餅妬いちゃうかもね。スカイツリーをバックにポーズを決める僕のジャケットのポケットから顔を出していたり 、もんじゃ焼きやらひよこ饅頭やらを頬張る僕のパーカーのフードで寛いでたり、そんな可愛いハムちゃんの写真がいっぱい撮れたらいいなぁ。  本分の学業に関しては、具体的に何を細かく勉強して、将来どうしたいとか、まだなんにも考えていないけれど、「ハムちゃん、ハムちゃん、ねぇハムちゃん、いつも一緒だよ」って唄を口ずさんでポジティブに過ごせるように頑張るよ。君も頑張ってね。  今思えば君と過ごした日々は恥ずかしい思いの連続だったよ。そんな恥ずかしかった事も、遠距離恋愛になる今は話せちゃう気がするから、話しちゃおうかな。  一緒にお風呂に入っていた時、僕は本当は肛門から指を突っ込んで中を綺麗に洗いたくて仕方がなかったんだ。だけど君の目の前でそんな事をするのは恥ずかしいと思ってできなかった。そんな自分を恥ずかしいと思った。更に言えば、肛門から指を突っ込んですぐ届く様なところにうんこがこびりついてる、そんな状態で君に愛を囁くのも恥ずかしいと思った。  僕は汚いんだ。便意とか特に感じていなくても、指を突っ込むと意外と、奴等がすぐそこまで来てたりするんだよ。一人でお風呂に入る時は、必ず洗うようにしている。  君と一緒にいると僕は駄目になる。お互いの身体を荒いっこしてたんだから、君に、洗って欲しい、とちゃんと言えばよかった。でも恥ずかしくて言えなかった。僕が君の身体を洗っていた時も、実を言うと、あれは僕の中ではかなり雑に洗っていたんだ。僕は自分の身体を洗う時は、あの何倍もゴシゴシ擦らないと、汚いと思ってしまう人間なんだ。つまり、自分で洗っておいて、君の事を汚ない女だと思っていたんだ。恥ずかしいよ。君が僕の身体をあまり擦らないものだから、僕が君の身体を念入りに擦るのは恥ずかしいと思っていた。  笑えるだろ。そして、当分逢いたくないと思うだろ。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]神通力/光井 新[2011年2月2日1時34分]  さぁさ、お立ち寄りくださいませ。世にも珍しい神通力をお見せいたします。厳しい修行の末に身に付けましたるこの力、密教におきまして使える者は極僅かと存じております。また、これを俗の方々に見て貰いまして旅をする、そんな行者は日本広しと私一人だけにございましょう。越法罪なるものがございまして、本来ならば修行の足りぬ者には見せる事さえ許されぬと云われております故に、今日この機会をお逃しになりますれば、二度とお目には掛かれません事をご了承くださいませ。かの弘法大師が起こしてみせた奇跡は、千年経った今尚、伝説となって語り継がれております。そんな千年経っても色褪せない奇跡を、どうぞ皆様ご覧くださいませ。  まずは、取り出しまするは一枚の白い紙。この紙をじっと見詰めていただきますと、あら不思議、文字が浮かんでくるではありませんか。実はその文字といいますのが、各々方のお心を表しておりまして、お例えさせて頂きますれば、金、という文字がお見えになったお方は、金色の、神々しい輝きと深みを併せ持ちます最上級に美しいお心の持ち主であらせられるという具合にございます。あの江原さんも、金色のオーラが一番良い、といつかオーラの泉でおっしゃられておりました。因みに私、勿論、金、と見えております。また、私程に修行を積んでおりますと、紙だけではなく、皆様のお顔も金に見えております。  しかし皆様、金、と見えなかったからといっても落ち込む事はございません。ちょっとしたコツとでも申しましょうか、厳しい修行を何年も積む事なく、お心を綺麗な金色にする方法をご紹介させて頂きます。悟りというのは、言わば一種の気の持ちようでございます。簡単な事でございまして、欲をお捨てさえいただければ……とは申しましても、俗に生きておられてはどうしても中々難しい事と思われれば、今皆様がお持ちになっておられますお金を全て、私がお布施として頂戴いたしましょう。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]妹の声/光井 新[2011年2月2日20時17分] 「お兄ちゃん助けて」って声が、聴こえるんだよ、妹の声が。こんな事は初めてだ。俺がこの世界に生まれ堕ちてから、俺には妹なんていなかった。だから今、生まれて初めて耳にした妹の声だ。それが助けを求めているんだから、お兄ちゃん頑張るよ。  俺に妹なんていない、なんて言える訳ないだろ絶対に。例えこの世界で血の繋がりが無くても、この声は正しく妹の声じゃないか。きっと、もっと深い繋がりなんだ。魂の絆とか、そういう物に違いない。聴こえるんだよ、俺にはお前の声がちゃんと。だからもう泣くなよ、泣くな。  丘の上の垂れ桜、あれを咲かせる事さえできれば、お前は救われる。知っているんだよ、俺は、お前の事だったら何でも分かる。お前の声が、深く眠っていた記憶を呼び覚ましたんだ。大切なのは、脳の持つ記憶なんかじゃなくて、心その物に刻まれた記憶だ。今宵は満月、あの垂れ桜を咲かせる事さえできれば、門が開く筈だ。そうすれば、俺はお前を助け出しに行ける。門を開かなければならない! 梅もまだ蕾のこの時期に、俺は、垂れ桜を咲かさなければならない!  血だ、血が必要だ。月光を通じて、番人の渇きが、俺の喉にも伝わってくる。あの垂れ桜に血を与えさえすれば――妹よ、お前の頬の様な色をした、綺麗な花を咲かせるだろう。お前を助けに向こう側へ行く為の通行料だとすれば、安いものじゃないか、俺の血をくれてやろう。  心配いらない、この世界で生きる為の命よりも、大切な事があるのをお前は知っているだろう。俺も、その事をさっき思い出したんだ。白刃が、この肉体の父と母の哭き喚く姿を映し出してはいるが、俺にはもうお前の声しか聴こえていないんだよ。お前はもう何も心配するな、今宵は満月、きっと上手く行くさ。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]高級弁当という収穫/光井 新[2011年2月9日13時12分]  目の前には、豪華な食事が食べきれない程並んでいた。けれども、それらを存分に味わう事など、私にはできなかった。今この場でどんなに腹を膨らませようと、明日になればまた腹が減る。そんな風に考えてしまっては、寿司や天婦羅や賽子ステーキの味も、明日の食事の心配に打ち消されてしまっていた。  その不安を、表情や態度に出さぬよう私は心掛けた心算であった。が、M氏には、恐らく不自然な振る舞いに思えたのであろう。見兼ねて、「遠慮しないでくださいね」と優しい声を掛けてくれたのであった。  赤面せずにはいられなかった。自分という小さな人間を物差しにして、勝手に他人を計っては、他人もまた、自分と同じ様に小さな人間なのであろうと思い込んでいた事に気が付いたのだ。  とてつもなく大きなM氏の親切心を、真摯に受け止めたい。その思いで、「御土産が欲しいです」と私は顔を真っ赤にしたまま頼んだ。するとM氏は、直ぐにウェイターを呼び寄せて、御土産を準備しておくよう注文してくれた。  しかし暫くすると、今度は明後日以降の食事の心配がちらつき始める。その事を直ぐ、正直に、私はM氏に打ち明けた。  M氏は微笑みながら、「大丈夫ですよ。きっと上手く行きます。今夜は楽しく飲みましょう。さ、久保田です。美味しいですよ」と言って、私に酒を勧めた。私は、手元にあった残りのビールを慌てて片付けてから、「有り難う御座います」と言って、渡されたグラスの中身をぐぃと飲み干した。グラスが空になると、透かさずM氏は私のグラスにまた酒を注いだ。そして私はまたぐぃと飲み干す。それを、私が飲み始めた時には七分位入っていた瓶が、空になるまで繰り返した。  それから私達は、仕事の話をした。この食事の席も、元々は、リラックスしながら仕事の打ち合わせの様な話をする為に、M氏が設けてくれた場であった。その仕事というのが、M氏の勤める某出版社の或る雑誌に、私がイラストを描くというものなのだが、私にはまるで自信が無かった。私は、美大でちゃんと勉強をした経験も無ければ、賞を貰って世間に通用する評価を受けた事も無かった。自分の仕事に自信が持てない私は、具体的にどの様なイラストを描けば良いのか訊ねて、言われるままに仕事をしようと企んでいた。しかしM氏は、「あなた自身の良いと思うイラストを自由に描いて来てください」としか言わなかった。かなり酔って思考能力も低下していた私は、兎に角M氏に嫌われたくない一心で、「そうですよねー」と言って、そしてグラスで口を塞いだ。  その後の事は覚えていない。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]着信履歴とパンダ/光井 新[2011年2月13日4時29分]  ねぇ、母さん、パンちゃんって覚えてる? 幼稚園の遠足で、動物園に行った時、母さんが買ってくれたジャイアントパンダのぬいぐるみ。そういえば耳の所をかじったりして、母さんにはよく叱られたっけ。どこに行く時もいつも一緒で、人見知りの僕にとって、大切な親友だった。  でも小学校に入るとクラスに友達ができて、その友達がうちに遊びに来た時、パンちゃんを壁に投げ付けて遊びだして、あの時の僕は本当は、パンちゃんを投げるのを止めたくて仕方がなかった。それなのに、暫くすると、僕も一緒になって投げて遊んでた。ぬいぐるみが可哀想だなんて言ったら、おかしいと思われそうで、恐かったんだ。  友達が帰った後、僕はパンちゃんの事を鋏で切り刻んだ。だって、人間の友達の方が大事だと思ったんだ。男の子がぬいぐるみなんて大事にしてたら、折角できた友達も去って行くと思ったんだよ。  あああ、ごめんよ、パンちゃん。僕は馬鹿だ。僕は卑怯だ。だから本物の友達なんて、結局一人もできやしなかった。携帯電話の着信履歴も、全部母さんで埋まってるんだよ。  母さん、お願いだよ、もう一度ジャイアントパンダのぬいぐるみを僕に買ってよ。じゃないと僕、マザコンになってしまいそうだよ。 ---------------------------- [短歌]今日の心配/光井 新[2011年3月9日13時30分] 明日に明日は明日でまた明日のめしの心配するのが嫌だ ---------------------------- [自由詩]弱虫/光井 新[2011年3月13日10時36分] 剃刀の刃のような罪悪感を拾うために 目を閉じてしまう わたしは弱虫です 薄っぺらで 重さなんてほとんど感じられないけれど 痛くて 涙を流してしまいそうです 指先の小さな傷 それだけの償いさえも 絆創膏で隠さなければ わらう事ができません ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]子供騙し/光井 新[2011年3月13日12時21分]  ぷかりと浮いていたんだ。ひっくり返ったまま、動こうとはしなかった。さらさらと、機械的に水が循環されていて、流されていたよ。あの赤は、まだ子供だった僕の血だ。  硝子の壁が、ふわりと、花柄のスカートに見えた。花柄のスカートっていうのはママの拘りでね、色んな花柄のスカートをママは毎日穿いていた。自分では覚えていないけれど、ミキハウスのロンパースを着せられていた頃の僕は、ママが穿いている花柄のスカートの中に潜り込むのが大好きだったらしいんだ。硝子の壁はパパの趣味でさ、僕が育った家の四角いリビングは、北側の壁一面が水槽になっていて、これまた覚えていないけれど、僕が幼稚園に入るまでは、金属片みたいなアロワナが宇宙を飛ぶようにして泳いでいたらしい。  小学四年生の春、僕は生き物係になった。当時密かに想いを寄せていた新井さんに近付きたくて、動物好きの新井さんが生き物係になったものだから、定員二人の内の残り一人に立候補した訳さ。  新井さんはね、ピョンスカンのよく似合う女の子だった。ピョンスカンは、四年二組の教室で飼育していた青いネザーランドドワーフで、新井さんが抱いていると絵になって、僕のジャポニカ自由帳を埋め尽くした。 「明日から夏休みです」という事で、ピョンスカンをどうしましょうという時も、当然のように、新井さんが家に連れて行って世話をする事になった。  僕はといえば、夏休みの間、三尾の金魚を預からなければいけなくなった。  だけど、うちに来てから二週間経った日の夕方、預かっていた金魚達は死んでしまった。「おうちへ帰りましょう」っていう十八時の町内放送を聞いて、夏祭りから帰ると、死んでいたんだ。買い物に出掛けていたらしくてママはいなかったけれど、後になって聞いた話だと、ママがカルキを抜かずに水を替えてしまったらしいんだ。  どうしよう――頭が真っ白になって、僕はしばらく立ち尽くしていた。すると、仕事から帰ってきたパパが、「今から金魚屋さんに行こう」って僕に声を掛けてくれたんだ。僕が預かっていた金魚は和金っていう赤一色の比較的個性が目立たない種類だったから、似たような大きさの物を買って来て代わりにしてしまえば、金魚を殺してしまった事なんてばれやしないとパパは言った。  二学期が始まると、ピョンスカンの色が白くなっていた。秋毛に生え変わったのだと新井さんは言っていた。クラスメイトはみんな、白いウサギを見て驚いていたよ。金魚を見る子なんて一人もいなかった。 ---------------------------- [自由詩]スイング/光井 新[2011年3月20日7時53分] 世界が滅ぶその時も僕はバットを振っていたい ピッチャーがびびって逃げ出そうと僕は打席に立ち続けたい (球が来なければ素振りでもしているさ) もしもミサイルが飛んで来たらホームラン打ちたいな ヒーローになりたいなんて思っちゃいない 無心にバットを振りたいだけなんだ ヘルメットを銃弾が掠めても止められない アンパイアが死んでもユニフォームは脱がないよ 観客に後ろ指差されたって背番号背負って (死にたい訳じゃない) 死ぬまでバットを振っていたいだけなんだ 目を閉じれば降り注ぐ青に輝く緑 この場所で僕は汗を流す (今、夜の中で涙を流す人が居ても) ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]魂を証明できない心/光井 新[2011年3月21日8時00分]  この世界の中心には、ウルトラマンみたいにおっきな矢口真里がいて、あの、ウルトラマンが裸なのかは知らないけれど、マリっぺはウルトラマンみたいに裸で、ああ、ウルトラの母はつまりはノーブラでウルトラな乳はブラリと垂れているイメージがあるな、何十メートルとブラリと垂れている気がする。そんな風に、僕のウルトラマリっぺは乳をブラブラさせながら、銀色のスーツではなく、素肌をビル風に晒している。時々、「ジャッ!」だの、「ディヤッ!」だの、怪獣もいないのに、よく分からない奇声を上げては、ウルトラ戦士達もびっくりの勇ましいポーズをチェンジするのに動いてみたり、それだけじゃなくて、忘れ去られた僕の死体にビームを発射してくれたり、あれはビームというのか光線というのか、ビームの和訳が光線であるとかそんな問題じゃなくて、マリっぺなんだからやっぱりセクシービームでしょうにウルトラマンならスペシウム光線なのかもしれないなぁ。  グニャグニャになった深緑色の自転車に伸ばした僕の血まみれの手が綺麗だ。フジテレビとかが見えそうで見えないけれど見れるものならば見たい、みたいな、きっとお台場なのだろう。ぼんやりとして、お台場なのだ。世界の中心に近い場所なんて、ゆりかもめが空を走るような未来都市に違いない。だって、気が付けばステージに立たされていて、シチュエーションの中で生かされてるんだもん。そして何度でも死ぬんだ。僕は、永遠の十七歳です。今日は街を自転車で爆走して、ていうのも今回の僕は蕎麦屋の出前を急がなきゃ生きてる意味も無いって言われているから、誰にってそりゃ神様に、その神様は多分矢口真里という名前では無いけれど、考えてる暇は無いぞっ、急げ、急げ、お客様は神様です。で、トラックにはねられ、手を伸ばせば、闇。  あれはもう僕じゃない。あの茶色や赤の絵の具を混ぜたようなぐちゃぐちゃは、死んでいる。二度と動かなくて、なんの役にも立たない、ただのゴミだ。あれが死んですぐに、生温かい光に導かれて、僕という人格はこっちの身体に宿った。死後、あれの脳に残ってた記憶が電気信号か何かになってこっちの脳に移ったのだ。という事は、クローンを作ってデータを新しい肉体に移して、それを繰り返していれば、永遠に死なないんじゃないかしら。ねぇ、心ってなんなのよ、て、記憶や感情で動く物でしょ、ねぇ。でも記憶が一緒でも、クローン脳はクローン脳で、でも、そんな事言ったら、生きていて普通に細胞が新しくなったらそれはもう別人という事にはならないのかなぁ。例えば、どんどん死んでいく脳細胞を補うように、本人には自覚が感じられない位にゆっくりと新しい脳細胞を作っていく薬があって服用して、記憶も自然と新しい脳細胞が引き継いで、最終的には脳がまるまる新しくなってても、それは前と変わらぬ同じ人なのかというと、そうとは思えなくて、心とは別の、魂みたいなのがあると思う。人格は心じゃなくて、魂みたいな物に宿ってるんじゃないか、てさ。記憶も感情も脳にあって、心は脳にあって、性格も心で脳にあるんだけど、人格はそうじゃなくて、心とは別の何か、それを言葉で表すとしたら魂だよね、多分。  僕は別人になってしまったのかもしれない。記憶もそっくりそのままだと思うし、性格も違和感は感じられないけれど、魂は僕じゃないのかもしれない。僕は死んでしまって、僕はもう生きていないのかもしれない。心と魂が別物なら、脳が無い動物とか、植物にも、魂はある。と考えるとして、脳死した人にも……だとしたらあれは、僕だ。もういいや、僕の事なんてどうでもいいや。僕は僕じゃないから僕の事なんてどうでもいいのかもしれない。臓器提供者は魂も提供しているんじゃないだろうか。食事の時、食材から、栄養と一緒に魂も食べているのかもしれない。じゃぁ、食べ物を食べて細胞が新しくなると、魂も新しくなるのかもしれないじゃん。  違うよ、違う、全部出鱈目だ。結局、心と人格の宿る物が別であっても、人格の宿る物が身体と切り離せていない。魂を身体から切り離せてないし。じゃぁ僕は誰? 僕はクローンで、クローンはクローンでしょ。イエスのクローン作って聖書インストールしたらキリストなのかよ? て話だろ。魂を身体から切り離すとか、考えようとしても、幽体離脱位しか思い浮かばないし、幽体離脱なんて知らねぇよ! でももしかしたら、あの生温かい光に導かれていた時が幽体離脱だったのだ、とも考えられなくもない。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]復讐に燃える妻はきっと、液晶保護シートを剥がしてしまうだろう/光井 新[2011年3月25日3時52分]  3DSを買った。  早速、妻に自慢してみた。案の定「貸して、貸してぇ」と騒いで来る。単細胞過ぎる、貸したら最後どうなってしまうかまで分かってしまう。だから絶対に貸さない。  あれは、妻がDSiLLを買ってきた日の事だった。  私は既にDSLiteを持っていたので、ゲームをするのに特に不便は感じていなかった。小さな画面で慎ましくゲームをしていたのだ。  それなのにあの馬鹿と来たら「ほらぁ、すごぉい。おっきぃ」と、聞いてもいないのに大声で大画面ぶりをアピールしてくるではないか。  しょうがねぇなぁ「僕にも貸して!」と、借りてみれば、なるほど大画面も中々良いではないか。  いつの間にか、お絵描きソフトで猫の絵を描くのに夢中になっていた。 「もうおしまぁい。返してよぉ」 「分かった、分かった」  そして電源を切ると、黒くなった下画面には、私の描いた猫の絵が傷跡になってくっきりと残っていた。  妻は激怒した。  私は妻を愛している。今日買ったばかりの3DSなんかよりも、二十年連れ添った妻を愛しているに決まっている。3DSの下画面に猫の傷跡を描かれて、そんな事で愛する妻を怒りたくはないし、私の3DSに、DSiLLの復讐をする妻の醜い姿など見たくはないのだ。 ---------------------------- [自由詩]ギャンブラー達の詰め所/光井 新[2011年6月8日12時07分]  しょうもねぇ様なクズばっか居やがる。掃き溜めってヤツだ、ここぁ。俺だって十分クソっちゃクソだが、こいつらにゃ敵わねぇ。救いようがねぇ、全員、劣等感の一つも持ち合わせてなけりゃ、人生だの未来だのっつうか明日の事すら何も考えちゃねぇのはたりめぇで、つっても刹那主義なんつうかっけぇもんじゃねぇし、だせぇよ、主義なんざねぇ家畜だ。揃いも揃って死んでやがる、どいつもこいつもヘラヘラ穏やかなツラ曝してよ、畜生共。  堕ちてきやがった、自我。餌の時間だ、雌公。カビ生えたダンボールに火ぃ点ける、いつだったかビッグエーで拾ってきた用途不明のダンボール。若かった俺ぁガンダムにでもなりたかったのかもしんねぇなぁ、そういや喉渇くし、ペットボトルぁ二リットルっきゃ買わねぇし、無意識にやたらロボっぺぇし気が付きゃ行動とか無機質だし、ふとデジタル表示の電波時計見て二十六時二十六分だった時とか大概スペーシーだと思うし空間つうか宇宙の空気的何かが。  自殺でも考えてるヤツぁ居ねぇのか。なヤツぁ居ねぇな、居るわきゃねぇよなぁ、ここぁそうゆうトコなんだからよ、シケてんぜ。俺ぁもう直ダメんなる。破壊衝動に身ぃ任せてぶっ壊してやら。てめぇぶっ殺す。きれぇさっぱり、忘れて、消えて、無くなりにけるかも、真っ白に。何がダメか知んねぇけど、全部だ、全部ダメんなっちまって、ダメだったヤツがダメんなりゃぁ、そらダメんならぁな。  女子中学生ぁ犯罪で、バラバラにしたくなる小便くせぇ生意気を、まな板ん上に唾吐いた、メタ、イカくせぇ沈黙の上をアレルァ天使が通る。あぁ五月雨だ。濡れる俺の、思い出ぁパラノイア、と。今、腐葉土の上で寝てる。 ---------------------------- [自由詩]蛍光灯の唄/光井 新[2011年7月28日22時27分] 小鳥は唄を愛していなかった 故に、彼女が唄の力を信じる事は無かった 鳥籠からは祈り無き声が 今も響く 「翔びたかったのは私だ」 あ ――つめたくなって床に堕ちた この部屋には空が無い―― 小さな願いを握り潰して 壁に投げ付ける こんな儀式をあと何回繰り返せば 心に届くのかと 誰かが口ずさんだ(叫びだ) 古ぼけた蛍光灯が明滅する チカチカと 音を立てて白くなる ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)](仮)メモ/光井 新[2011年8月2日1時48分] B 「制約と美学」  制約に縛られてこそ、限られた自由の中で、発想は輝くとする説がある。その説によれば、もしも何もかもが許された中で創造される混沌があるとすれば、それはブラックホールの様な闇であるという。伝々……  推理小説の中に見られる名探偵の掟しかり、定型詩に見られる韻律の美しい響き――こいつの名は"美響"に決めた!――しかり、枝を離れた林檎の実が地面に引き付けられる万有引力の法則しかり、世界は輝きに満ちている。適当……  もしも枝を離れた林檎の実が大空へと飛んで行ったとしたら、名探偵は事件現場に居合わせる事もなく……この辺はライトノベル的に書きたい(苦手意識の克服。そんな感じのある意味成長ストーリーである) という訳で中学生キャラなのだ。 この子は制約を自分に課す美学こそが大切なのだと主張する。その道のりを考える。 雰囲気ほにゃららを嫌う。雰囲気しかないものを憎む。 しかし雰囲気こそが重要だと気付く。 A こっちを主人公にする。 人は他人を思い通りに動かしたくなる節がある。支配欲といったそういう話じゃぁない。人は、他人が動く際に、どのよにう動くのかという事を無意識に予測している。そして、その予測が外れる度に無意味な苛立ちを感じている。(心理学や似非心理学であった。また調べてそれ採用) ガキは、やたらと他人を決め付けては型に当て嵌めたがる。年寄りの方が色眼鏡の色が濃いと思っていたが、そうでもなく、経験から眼鏡の度が合っていたりもする。勿論個人差はある。けどなんなの他人をカテゴライズしたがる奴、主人公には理解しようとしても理解できない。かと言って特に葛藤も無い。 他人を理解しようとする事が傲慢なのだと思い始める。 老いて、若かりし頃は未熟であったと知る。しかしそれはあくまでも主人公自身に限った見方であって、当然なから若くしてせいじゅくしている者もいる事を知っている。主人公自身が、昔の自分を覚えていて、今の自分と比較し、年月(時間という概念が関係する気の持ちようによるところが大きいので、単に人生経験によるものではない――と推測している)による性格の変化を自認し、今の自分の方が昔の自分よりも優れた物の考え方をしていると思う。老いれば、衰えが大きく、若い自分より優れたところのない自分になる事をかつては予想していた。 記憶力は衰えていて、その事を自覚しているが、しょうもない。そんでもって一日中しょうもない、それが晩年。 つまりは若者はしゃーないと言いたい。グルにはなるつもりはない。故に、漢文の大切さを実感しているが、その事を誰かに説く事も無い。 C 犯人である。名前はまだ無い。 この物語で一番の被害者でもある。 D ヒーローでkeyman。 ロ●チャ●ル●家の仕組んだ世界金融危機の直後、深淵を見た彼は、超能力に目覚める。 覚醒した性質は、悟りに分類される。スプーン一つ曲げる事すらできないが、己の中で世界を変える程の力を秘めている。 彼の末路は描かない。 E 吉岡ロックフェラア黄色。セーラー服姿の謎の美少女。 悪の組織G○○gleの支配から、ククリナイフ一本で岡山シェルターの人々を解放するジャンヌダルク。 魔女ではなく超能力者設定。 能力はタイムトラベル。彼女の旅行先は同一世界の過去と未来。歴史の改変やタイムパラドックスがある。 真の黒幕ロ●チ●イ●ド家の陰謀を阻止する為に、百年先の未来からやってきた。 本来は三百年前に飛ぶつもりだったが、Cの持つなんらかの能力によりこの時代に不時着する。 Aが拾う。 やらなければならない事もあるけど、とりあえずAへの恩返しとして、G○○gleラビリンス へと単身乗り込み、岡山シェルターの人々を救出。その中にBが居て、生意気なBにこちらの事情を説明すれば、饒舌に語りだす「Dをさがせ!」 一方その頃、知ったこっちゃないDは、ヒーロー気取りで最後の決戦へと向かう。 Aが言うところの未熟者である彼は、強い信念を持ち、善悪の(後で調べる)うんちゃらかんちゃら だから弱いのだ! こんな精神状態で力を使いこなせるわけがない。 ガンカタで戦いを挑むが、ロ●チャ●ル●家執事のCに翻弄される。 E登場! Cの能力は因果の密室だった。それこそがトリック。 密室の中でDが宿命を受け入れ、グルとなり、Eを運命へと導く。 Eの運命やいかに シェルターに戻ってきたBから状況を説明され、Dの帰りを待つA。その姿は、まるで犬のようだった。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]孵卵/光井 新[2011年8月2日21時24分]  近頃は、どうにか心身の具合も良好のようで、妻に手を引かれては外へと出掛けたりもしている。  閉じ籠っていた殻の外へと出れば当然他人と会わない訳にもいかなくなるのだが、今のところは以前のようなパニックを起こしていない。  しかしまだ、小型犬を散歩させている婦人や、けらを纏った農夫と、すれ違いざまに挨拶をするのが精一杯という状態である。この調子では仕事に復帰するのも、いつになることやら、見通しを立てられず諦めかけている。  気がつけば、最後に舞台に立った日から、一年が過ぎていた。 二人で行くようになった近所の庭園に向日葵の花を見て以来、日課だった発声練習や基礎体力向上運動はしなくなった。このまま、どうしようもない自分のままでも、妻と二人で生きてさえいられればそれでいいと思えるようになった。過去に自分を走らせていてた青い焦燥はすっかり色褪せ、二人で過ごす時間の流れは早くなり、相対的に、人生をゆっくりと歩いている。  どうやら、感情が動かなくなってしまったようなのだ。 「飛べないなんて誰も言っていないのに、みんなからそう言われているような気がしてしまって、私達は羽ばたかずにいられなかったのです。神よ、どうか、愚かなこの兄弟に翼をお与えください」などと昔演じた役の台詞が不意に口からこぼれても、心は立ち止まったまま沈黙を続ける。  葉山での療養を始めてから、仲間とも会っていないし、芝居について語る機会もなく、演技のことなど考えなくなった。そのせいか、はたまた病気のせいなのかもしれないが、男という役割さえも而立前にして演じていない。  元より、ろくな稼ぎも無く生活は妻の実家からの援助に頼りきりという情けない夫だった。が、いわゆる女泣かせの悪い男でもあり、毎夜やに下がり遊び回っては、毎朝妻にくだらない嘘をついて、自分をごまかすことによってなんとか生きようとしてきた。  そんな世界(、、)での暮らしが幻だったかのように、ここではただ生かされている。本物の役者になり上がることもできず、泥棒にでもなりかねなかった嘘つきが、畜生道へと堕ちたのだ。     *    *    * 「重力という殻を破らねば、私達兄弟は、生まれることなく死んでゆく」     *    *    *  昔は、恋に落ちたこともあった。その女(ひと)と結婚して、一緒にいる。だが、もう愛していない。おそらくこれから先も愛することはないだろうと感じている。  妻の手を離し、そして人混みの中で過呼吸になり苦しみながらうずくまる――そんな夢を見るようになった。 ---------------------------- [自由詩]所さんはすっごいですね/光井 新[2011年8月11日7時33分] 所さんはすっごいですねー 目がテンで検証済みの実験を そこん所でまた見せられても 相も変わらず すっごいですねと言えちゃうんだからすっごいですね 所さんはすっごいですねー まる見えで見た事のある映像を アンビリバボーでまた見せられても 相も変わらず すっごいですねと言えちゃうんだからすっごいですね ---------------------------- [自由詩]音楽が欲しい/光井 新[2011年8月30日17時14分] 彼女と一緒にココスへ行ったよ 入ってすぐにレジ前の玩具がちょっと欲しくなったけど言えなかった 特にこれだという物は見当たらなかったけれど玩具を買ってもらいたかった ランチにチーズハンバーグとライスとサラダのセット それからデザートはチョコレートパフェ お勘定は勿論彼女だから 無職の僕は居ても立ってもいられなくてドリンクバー係り 帰りにセブンイレブンに寄ったんだ 入ってすぐにアイチューンズストアのカードを見つけたけれど買ってほしいと言えなかった 僕はクレジットカードもお金も持っていないから あのカードで音楽が買えたらいいなと思ったりして そうやって立ち尽くしてたら 彼女は無言でエビスの六缶パックとマルボロをワンカートン買ってくれた 僕は音楽が欲しい いつもニコニコ動画で見てる神聖かまってちゃんのCDが欲しい あの雑音をみたいな音楽をもっと綺麗な音で聞いてみたい だけど彼女の聴いてる音楽はいつもクソみたいな音質だ タダだから タダだから 音楽は贅沢だ 働けよ 働けよ そんな歌でも構わないから 音楽が欲しい ---------------------------- (ファイルの終わり)