不老産兄弟 2005年3月25日11時38分から2007年6月27日2時41分まで ---------------------------- [自由詩]ついばんだ/不老産兄弟[2005年3月25日11時38分] 笑顔を絶やさず笑わず拒まず 二本の足で突っ立って いつまでそこにしゃがみついてんだ 毎日欠かさず水をやり 汗を拭き 一体何人もの嘘をついてきた それほどまでして守る価値があるなら どうして拘束衣の内側まで否定し続ける 統合もなく失調もなく 自分の姿を見ることもなく 左うちわの街角で行間に溶けちまえば 体なんていらないはずだろ いい加減走り回るのはやめにして外に飛び出したらどうだ いつまでもそんなとこで米粒ばっかり拾ってるとお前 サメになるぜ ---------------------------- [自由詩]人の手/不老産兄弟[2005年3月28日6時16分] 曖昧なものには意図がある あいまいなものをみておもう あいまいの先にはないが 道のりになにかある おいもがある やわらかくほくほくの おいも おいしいよ あいまい(甘い)なもの(おいも)をみせてもらう クリアなヴィジョンを提示することが これほどまでに神経をすり減らすなんて なにひとつはっきりとしたものはなく それがはっきりとしてしまえば 命の買い手がいなくなる というよりもむしろその逆で スクリーンは埋め尽くされる あいまいな枠によって 慎重に吟味されて 混沌を一掃して つなぎに目をやれば そこには我々のあるべき姿が 宇宙さながら広がっている あいまいなものを見ていて思う 馬鹿じゃないかと ---------------------------- [自由詩]お前んちはここか/不老産兄弟[2005年3月30日14時39分] 獅子の牙 龍の爪 虎の涙 炎の海で最も多感な時期を過ごしてきた 熱で意識はもうろうとしている 人生の意味を知りたくてここに来たんだ お前んちはここか 終わりを見て初めて知るもの なんだこんなことかと がっかりしたように天に昇っていく それでも見たくてここに来たんだ お前んちはここか お前は最後まで何も言わない 目を開いたまま黙って様子をうかがっている 気付かなかった その姿こそ我々の象徴 人生は生きている 「お前んちはここか/ここが気持ちいいのかね」 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メニューを知り尽くしたこの店で、今日はなぜか焼きそばを注文したくなってしまった。そんなものは置いていないとしりながら、しかも特別食べたかったわけでもなく。しいて言うなら焼きそばのような曲線に憧れていた。いつものように店員の顔を3センチのところまで接近させて「今日もあれをたのむよ」と言い、その後、「それから焼きそばもね」と付け加えた。 店員はキョトンとした無表情でアナーヒーターを拝み、「置き物ですか?」と聞いてきた。 ---------------------------- [自由詩]肉の在り方/不老産兄弟[2005年4月29日14時44分] こうでなくてはならないとか、こうであるべきとか言うのはあんまり好きじゃないが、俺は一つだけ決して譲れない哲学をもっている。それは、肉の在るべき姿。 肉は、その存在自体魅力的なものでなくてはならない。 そこにあるだけで、周囲にエロスを感じさせるものでなくてはならない。 それは単に肉という物質の存在だけにとどまらず、それを含んだ言葉、概念、行為全てにそういった魅力を感じ取ることが出来なければ、もはやそれは肉として機能することはまずないように思える。例えば肉食、肉屋のように、肉を含んだ言葉は、肉そのものの魅力がその言葉のもたらすイメージに直結していなくてはならないと言うことだ。 我々人類が人生という大きな肉をどのように調理していくか、また賞味していくかは永遠のテーマであるかのように思えてならない。古代ギリシャに哲学が発達したのはその独特な地理的特徴があったからだと言われているが、同時にこの、人類に必要不可欠なテーマ、すなわち肉の存在意義の解明へ向けた取り組みがいち早く行われたからだと確信している。プラトンと占星術師達によって。 錬金術と肉との関連性について考えてみるのも面白いかもしれない俺だったりして。 ---------------------------- [自由詩]愛じゃ/不老産兄弟[2005年5月1日15時29分] おまえの愛する愛の形さえ いとおしく見えるものじゃ つまりは愛じゃ 箸ではぁとをつつく仕草すら いとおしく見えるものじゃ それも愛じゃ そうなのじゃ 愛なのじゃ 愛は地球を救うのじゃ 愛するのじゃ くるしゅうない くるしゅうないぞ 愛なぞ 口にするものか などというものでないわ たわけ 愛じゃよ すべては 愛なのじゃ ---------------------------- [自由詩]箱根の朝/不老産兄弟[2005年5月4日1時59分] 朝から母が 病床で しくしく泣いて いるから ついつい 酒に 目が行って しまう おやめなさい おやめなさいな ああ からすさん これはこれは 今日はどちらへお出かけですか わかっておりますとも 冗談ですとも それじゃお気をつけて いってらっしゃい 酒が 座っとる おやめなさい おやめなさいな わかってますよ わかってますって ああ そうだ おはよう おはよう ---------------------------- [自由詩]体内で放電する君の/不老産兄弟[2005年5月6日7時09分] 体内で放電する君のその電流の一本一本を 僕は写真におさめて少しでも 両手に抱え込む努力をしたり してみたいのに 君がよわよわしくほとばしりを見せれば 僕はいつだってかるがるしく口にしてしまう すると何か悪いことでもしてしまったみたいに 君はすぐに目を逸らしてイスの下に隠れてしまうから 僕は申し訳なく思いながらも掃除機か何かで 君を吸い出そうとしていたけれど もうやめたそんな卑劣でばかばかしい行為は。 君が出てきたくないというのなら僕がそこに行くほうが 君に余計な負担をかけなくてすむし例え君が それを望んでいなくても僕は黙っているなんて出来ないから いつだってかるがるしく口にしてしまうけれどそれは 君がいつでもよわよわしくほとばしるのと同じで 体内で放電する君のその電流の一本一本を 僕は写真におさめて少しでも 両手に抱え込む努力をしたり してみたいのに ---------------------------- [自由詩]自由への詩 3/不老産兄弟[2005年5月7日8時44分] 横たえられた形状 地に跪いた線状 うつらうつらに落ちる陽の ぽつりぽつりと残る様 工場のあかりが湖をバウンドしながら 少年の背中へと返っていきます 飛べない鶴をおりました そこにはカエルもおりました ---------------------------- [自由詩]カンボジア/不老産兄弟[2005年5月21日10時13分] もぐら工夫が愛泥まみれて がらにもなく苺摘みあげたお星様 あの もぐらがだよ 考えてもみなよいくつになってももぐらはもぐら 陸上競技なんてものはまるっきり縁のない あの もぐらがだぜ ここいらのデパチカほとんど手中におさめ いまじゃ一家の大黒柱 信じられるかい例えそれが一夜限りの夢物語で赤坂の とある高級料亭で語られた空想でしかなくとも もぐら工夫が愛泥まみれて クロールし続け息継ぎついでに横目にうつるは空一面のお星様 それはきれいなお星様 ---------------------------- [自由詩]ペスカ/不老産兄弟[2005年5月26日7時46分] ペスカトーレ きみは きみはそれから遠い 遠い 遠い目をしたその先に ルルル ペスカトーレ はじまる 蒸し暑い夏またはじまる 君と歩いたのは確か はるか はるか遠い一日ルルル ペスカトーレ むせた ひどく混雑した店内に 消え失せて しまった ぺスカ いや 空腹の先へとルルル きみはそれから窓の外 停滞する車を横目にぺスカ 目的地よりはるか はるか 遠くへ 遠くへ。 ---------------------------- [自由詩]詩人の歌/不老産兄弟[2005年6月7日9時42分] ぴよぴよ ぴよぴよ 赤白黄色 ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよ 小鳥のように ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよ 聞かせてぴょ ぴよぴよ ぴよぴよ 詩人のうた ---------------------------- [自由詩]タラバガニが見える/不老産兄弟[2005年6月8日9時01分] 僕がまだ販売員だったころの話だが、一人の女性客に「30分くらいで戻るので、良さそうなのを適当に三つくらい選んでおいてもらえるかしら。」と頼まれたことがある。おいおい、商店街の魚屋じゃないんだからとあっけに取られていたその時体内に電流がはしった。地中深くに顔をうずめて物憂げなほとばしりを見せるあの カッパーメタルのように だからあわてて階段を駆け下り(オリタラバ) 化粧品売り場を疾走した(シタラバ) なんだか 背中に勇気がわいてきて 君と一緒なら このままどこにだっていける気がした ---------------------------- [自由詩]体内の村落/不老産兄弟[2005年6月19日9時24分] 時は平成十七年 四川風中華大学三年 六九五十六(ろっくいそろく) 優勝できたのもみんな ランナーズハイのお公家(くぉげ)ですと ぬくゎるむ 帰(くゎえ)りのバスで 家路をたドゥりながら ぽっかりと あなをあけた ぽっかりと あなをあけた これは何かの 物足りなさだな 部屋の片隅で 女を抱き まるっこい ふたつ脂肪のくゎたまりを 今宵も搾取 するがごとくに ---------------------------- [自由詩]極東時刻/不老産兄弟[2005年7月20日9時16分] 仮にも新橋に住む 黒田さんが酔っぱらうとゆりかもめが運転を見合わせるというのなら 掌ほどの大きな蛙を大使館になげこみたいよね いつの間にか俺たちも年をとったんだな なんていいながら それはさておき 伝説とは何様だ 数え切れない性の内股百姓(うちまたびゃくしょう)が 農具をまとめちゃ家路につく準備こそしているが あれは自己防衛の表出に過ぎんなどと 表立って口にはできないけれども 黒田夫妻は食卓につくやいなや 顔を見合わせてため息をついた 三十余年の結婚生活の中で未だかつて 些細な結婚すらしたことがなかった二人が ため息をつくなんて だれも信じてはくれないだろうが そんなこと重々承知の上 そこを何とかとお願いしているわけだが どうだろうか 食卓では まず夫が周辺をせめる すると妻がまた大きなため息をつく 伝説が内股でまってる てくぃらを すすりながら またいじけてるのだ 早い話 決して酔えない 保守的きわまりない 終電のばかやろうのことさ ---------------------------- [自由詩]空腹のぶるうす/不老産兄弟[2005年8月7日13時02分] 三年半断食をしつづけた男はいまだに空腹を抱えてる いまだに空腹を抱えてる あの頃から何も変わっていない じっと黙っている ずっと空腹を抱えている じっと黙っている 見つめている 目の前のリンゴを見つめている あの頃から何も変わっていない ここに何も変わっていないものがあるとして リンゴの赤があるとして いまだに空腹を抱えたまま 男は静かにその目を腐らせていく ---------------------------- [自由詩]失恋は地獄だ/不老産兄弟[2005年8月16日7時50分] なぜだ なぜふられてしまったんだ この不快感はいったいなんなんだ 何なんだいったい おい誰か何とかしてくれ 内臓が迷子になった うう 家がない 確かにここにあったはずなのに その中には薬や工具があったはずなのに なぜだ なぜあと一日いや一時間でも いや五分だけでもよかった 何か一つでいいから大事なものを外に 運び出したかった それが何かと言われるとよくわからないがとにかく 一瞬だけでもよかったのになぜだ 最後に思い出の写真をとるだけでもよかったのになぜだ それが何の足しになると言われるとよくわからないがとにかく なぜそんなにも簡単に失恋は 俺から未練以外の全てを奪い取ることができるのか ---------------------------- [自由詩]これからはいつもそばにいるよ/不老産兄弟[2005年8月24日9時13分] 最近また退屈し始めたので なんとなく電話ばかりしています 毎日がどこか物足りないので なんとなく誰かと会ってきます 今夜は星がきれい なんとなくそういうことにしておきます とりとめのない日は なんとなく思わせぶりな会話の後 今が大切なんだと なんとなく自分に言い聞かせます 脅えながらもそっと体内をくぐり抜けていくこの神経質な風に 僕は甚だ無関心だった ---------------------------- [自由詩]雪景色/不老産兄弟[2005年8月27日14時00分] 講演会場まで徒歩7分 地下鉄の駅は改札からが長い あの日は確か渋谷で待ち合わせた 雪が降ってた 転ばないように手すりにつかまって 慎重に階段を下りていく人々は 肩に力が入りすぎている 講演者の著書を後ろにずらりとならべても 引きつった笑顔では聴衆の心は温まらない こんな雪の日は 少しコニャックが入っていたせいか 俺たちは何度も不適切な質問をした 本気でぬくもりが欲しかった ラーメン屋の角を曲がった時からずっと 三時ごろ途中退室をする人が相次ぐ 多くは二十代前半と見られた まさかと思い一階の喫煙所に行ってみると 忍耐の薄弱な社会の敗北者達が クラゲのように絡み合う姿は フェリーニかと思った とにかく罵倒してやったら 半数はその場を立ち去った 残りの連中はしぶとく 雪球を投げてきた 昼飯にカレーを食べたと思われる男の 白いニットの黄色いしみが気になった 男は泣いているように見えたので あわてて警備員を呼びに行ったころ 通りの向こうにはぽつりぽつりと明かりが灯り始めていた ---------------------------- [自由詩]ある定食屋で/不老産兄弟[2005年10月3日12時06分] 上町の焦げ臭い定食屋の隅に 加藤が座っていた 何十年も前からここに憑いている かつてはこの辺りにも産業があった 公僕たちがしなやかな課税に遊ばれ野原をかけめぐっていた 雨音を聞いた俺は外に目をやり 給仕に蛇の目を持ってこさせた かきフライが冷めちまった 新聞の雇用欄を眺めていたのだ そんなうまい話があるはずもなく 俺はかつての影をただぼんやりと追いかけている 映像として あまりソースのしみていないのをいくつか口に運び 加藤の分も一緒に清算を済ませた 無表情の給仕から蛇の目を受け取り あの雨音の中へと消えてしまった ---------------------------- [自由詩]とびきりの宇宙/不老産兄弟[2005年11月25日11時14分] 宇宙からフランスが降りはじめ 僕は体内の石の上に座ってみた 胸部から胃袋へと一直線に落ちる滝に あわせることも逆らうこともせず 躍動を支えるだけの脊髄は まるで紅葉を終えた静かな生態のようだ いよいよ冬支度がはじまる 辺りをみわたしてごらん やがてひとつの協調がうまれる 通り過ぎていく滝の音色に じっと耳を傾ける僕の立像さえ飲み込んで 呼吸は絶えず緊張と弛緩を繰り返し あわただしく落ち着いては再び帰る場所を見つけ とまどいの先には横たわる宇宙の平穏 ---------------------------- [自由詩]自立しましょう/不老産兄弟[2006年2月11日10時19分] 支えあうのはたいがいにして 自立しましょう 追いかけるのはもうやめにして 掴んだ襟元からその手を放しましょう そして自分の足で立ちましょう 三度の食事や給料日を待つも はるか昨日のかなたへ葬りましょう そして 自立しましょう 自分の足で立ちましょう 立ちましょう 勃ちましょう ---------------------------- [自由詩]まっすぐな世界/不老産兄弟[2006年10月25日13時20分] 自分だけが知っているまっすぐな風景 まっすぐに世界をみつめること 何度となく訪れるまっすぐな世界 いつになくまっすぐないつもの風景 まっすぐな世界を捉えるこのタイミングで いつもの風景を捉えるいつになくまっすぐな視線を いつになく いつになく いつにないこのまっすぐな視線を 嗅覚が冬へと変わっていく このタイミングを まっすぐな自分だけが知っているいつもの 風景の それだけ ---------------------------- [自由詩]画伯の無情/不老産兄弟[2006年10月27日12時17分] 面接を何度も失敗しているうちに 僕は何もいえなくなってしまった もう面接はこりごりだよ 面接官は人が聞かれたくないことを きっと知っているんだ くそったれ 泣いても笑っても 母親が一緒に来てくれるわけでもないし 怒ってやつらをぶん殴ったら すぐにたくさん人がやってきて 僕はつまみ出される それが会社というもの 所詮は会社もサブローの手下さ みんな変わり果てちまった もう二度とやつらを信じることなんでできやしない サブローがまだ長男だったとき 僕たちは大地にまたがり しなやかな青空の先端を弾きあっていたのに 今の僕は性欲が足りない時がある そしてこの性欲が足りねえのが 数千年に一度起こるといわれる 性欲たちの絶滅を思わせる 箱根山頂の露天風呂から見渡す景色は なんとも絶景だ ---------------------------- [自由詩]果て無き空腹の果てに/不老産兄弟[2006年11月2日14時42分] 夜も根津に三日三晩太り続け 国へ帰ることを決意した 氷点下の愛娘は午後を食い散らかし ポツリポツリと降り注ぐ体毛に分け入ると へその辺りになんと小さなほこらを作った ぎゃーぎゃーわいわい ぎゃーぎゃーわいわい 奥の院さまがおかんむりです かんかんをめされてまする おかんむりですぞい おかんぬっ、うっ、むりですっ、ふっ ご家族によろしくお伝えくだされ 冬があけられたらまた 背油を削ぎ落としにいらっしゃい かわいいふきのとうが ひょっこり。 膨らんだ胸の谷間 ---------------------------- [自由詩]しらむし/不老産兄弟[2007年1月30日22時40分] どこまで行っても 車庫があり そのあなぐらに 焼べた薪が笛吹立っていた それを小熊が ねぐらにしていた それをもぐらが ひっぱった ---------------------------- [自由詩]アッシリアの娘婿/不老産兄弟[2007年5月30日2時00分] あの村にはろくでなしだ 地底深くに妖怪の存在を隠した 穴だらけで前が見えないムジナの巣窟を進むと 回転寿司のおかげ様 回転の好きな神様 こんな歌が聞こえてくる 歌につられてふらふら行く するとこの世のものとは思えない 寿司屋のようなものがあった 旅の門出に寿司を食うもの 旅の途中で腹を空かせているもの ねぎらいを込めて寿司を御馳走したがるもの 回転寿司はスパイラルに新たな幻想を生み 俺は死の淵をさまよい歩く 金の皿は500円 銀の皿は400円 無数の牧師達が一寸法師のようにどんぶらこと流れる様は極めて愉快であった 私(ワタクシ)はのれんをくぐると 変な人が立っていた へいらっしゃい 昔はこの辺りにも寿司屋があってね なんて言うので ああそうですかあなたはきっと疲れているんでしょうと言った ---------------------------- [自由詩]外資系証券会社直通エレベーター付近に見る光景/不老産兄弟[2007年6月27日2時41分] ホセ・アルカディオ・ブエンディアは階段を駆け上がり 手まねきをするティムにうらめしそうな視線を投げかけると おきあがりこぼしのようなものが斜めに並んだ柄のハンカチで額を拭った ドン・サクセフスキーは 裏ポケットに忍ばせた44マグナムともヘネシーともつかぬ物体の先端から 抜けなくなった人差し指を持て余していた 次郎丸という、残酷なほどに浮世離れした苗字を背負ってしまった園児は 母親の強い希望でインターナショナルスクールへの進学を余儀なくされた おかげでアグレモンタス家と家族ぐるみの付き合いがはじまり 暇さえあれば、ドロシーという名の友人が何故か一人もいないことを議論した ホセ・アルカディオ・ブエンディアは小さな次郎丸を抱き上げた ---------------------------- (ファイルの終わり)