杠いうれ 2008年4月15日1時59分から2012年6月22日0時52分まで ---------------------------- [自由詩]Als du greintest,/杠いうれ[2008年4月15日1時59分] 夕凪は待つことを已(や)めて 知らぬ場所へと流れた てのひらにぬくくなる小石 解放すれば 水面を模した服を着て しずかに転がる 濃紺と橙が補色を崩す 群閃光が雲に喰われてゆく ほっぺたを舐めながら云ったことばは Tschüßでも Auf Wiedersehenでもなく ましてやさよならなんかじゃなく 神に跪かなければならないという、 アデュ 教えて呉れたひとの ほっぺたを舐めながら、 ---------------------------- [自由詩]ガーゼ/杠いうれ[2008年4月16日18時31分] あしおとは何処からもついて来ず あしあとは干乾びて いくつか 香蒲(がま)の揺れるが聞こえる気がするし それが自らを抉り肉のはじけるが聞こえる 気がする 夏のそそり立つ轟音は よくよく見れば擦過傷 あれは未明のシベリアを抜け 独逸あたりに流れるのだろう 自らを抉り 肉のはじけるが聞こえる シーラス雲に脇腹から緋色が滲んで それは誰の膿を庇ったのだろう と ---------------------------- [自由詩]草の花/杠いうれ[2008年4月17日18時01分] くちなし色の便箋に書けば 口にせずとも想いがつたわる そんな 企みたくなるいいつたえ でもくちなしの花がどんなだったか ずっと長いこと思い出せずにいる いつかおまえに すきな花を問うたとき 百合、と迷わず答えたから しろい袖 朱色のチークに汚されようとも おしべは拭わないでおく きらいなひとの名前だった 鶫(つぐみ)が紫木蓮(シモクレン)ついばんで きらいなひとの名前だったから  どうせらいねんも咲くじゃない なんて撥ねられそうで どうせらいねんも咲くのだけれど 「ならば櫻の木はさしづめ、おんなのこというところだわね」 君は案の定 首かしげるけど 変だよ花のあとから葉が出るなんて と 君が云ったからでしょう 倉主なくした書斎から盗んだ 誕生花の本は わたしのが 草の花 だとおしえてくれた くさのはな って、なんのはな? おじいちゃんに訊いてみたいのに ---------------------------- [自由詩]夜が燻る/杠いうれ[2008年4月24日11時02分] 夜が燻る 夜が放火する わるいゆめ ほんのすこし掠めた ささくれが毛布にひっかかるような ひっかかるようなきがして 指を舐める 夜が燻る 夜が放火する にがい指 きのうしか知らない わたしが上手に眠れるまで ねんまくでつながれる哀れみのよう きのうまでしか知れない体 指を舐める 夜が燻る 夜が放火する やわらかいものがほしいけれど ここにわたしの体ぐらいしか、無い 夜が燻らせる 夜に、   放火されたシトラスが 紫煙を蹴散らして サイレンが鳴りはじめる いくつかのカーテンのむこう ---------------------------- [自由詩]せんせい、あのね。/杠いうれ[2008年4月25日20時09分] せんせい、あのね。 かえりみちかたつむりをみつけたよ。いっぱいはくせんにいたよ。かたつむりはなんで、はくせんにいるんですか? でもうれしそうだったよ。でもみさちゃんにいっぱいなげられました。 せんせい、あのね。 お父さんがアメリカにいったよ。うんどう会に来てくれなかったから、うんどう会のときがんばれなかったよ。でもおべんとうのからあげ好きだから、いぱい食べれてうれしかったよ。アメリカにもからあげ送ってあげたいねっておかあさんに言ったら、アメリカはとおいからくさるでしょってとおいからぜったいいけないんだよって言われました。わたしもアメリカにいきたいなー。 せんせー、あのね。 きのうはいしゃさんにいったよ。おかあさんといっしょにいったよ。すごくいたかったため、もうかけません。 せんせい、あのネ きょうもかけません。ドリルはやったよ。 せんせい、あのね。 16日にじゃすこにいったよ。そのあとゆかりさんが来たよ。じゃすこのとなりのかんらんしゃにひとりでのせてもらえたよ。いちばん上からおかあさんをみたら、アリみたいにちいさかったよ。       センセイ、あのね、 あたし今日プール入れません センセイ、あのね。 うち遠いじゃないですか。自転車通学したいなー。でもヘルメットは嫌です センセイ、あのね、 ベルマークくれって柿原君がウザいです センセイ、あのね。 あたしセンセイぐらいおっぱいおっきくなりたい。牛乳好きですか? センセイ、あのね、 父親参観に出る人がいません 先生、あのね、 あたし今日プール入れません 先生、あのね。 数?は赤点だけど、センセイのことが嫌いなわけじゃないんです。寧ろ好き 先生、あれれっ ……今のホンキにしました? 先生、あのね。 シーモンキーって聞いたことある? こないだママの彼氏にタマゴもらったんだ。わざわざインターネッツで探して買ったんだって。マジ意味わかんねー。ってあ、はい、すいません。え、だらば先生に差し上げまするよ、アレ? 現国得意なんだけどな。ちなみに母上の恋人より先生のほうが御老体でらっしゃいますわよ  先生、あのね、 5組の柿原君がウザいです、超 先生、あのね、 携帯充電していいですか 先生、あのね。 教育実習生の人、狙えないよ彼氏いるから。残念でしたのうー 先生!あのね、 ネクタイの柄が変 先生、あのね、 資料室の鍵なくしました 先生、あのね。 きのう柿原に犯されちゃった  おとといも、そのまえも、 先生、あのね、 先週、奥さんと子供とジャスコで買い物してんの見たよ  だからだよ 先生、あのね ……なんでもないです 先生、あのね え? そうなんだ、死んじゃったんだ、シーなんとか 先生、あのね あたしが死ねばよかった 先生、あのね あたし東京の大学受けることにしました 先生、あのね ……なんでもないです 先生、あのね 先生も卒業して? 先生、あのね お弁当忘れたから、先生の「苺とチョコのスイートダブルコロネ」下さい 立入禁止の屋上で 「苺とチョコのスイートダブルコロネ」は甘かった 屋上から見る校庭は、菓子パンの袋に入るぐらいちいさい お弁当のごはんは残したから 帰って、ママに叱られた ---------------------------- [自由詩]うのはなくたし/杠いうれ[2008年4月30日3時22分] おまえ、 わたしたちはけっしていっしょには成れないね いっしょにいることはできるのに へんだね いっそ外国へいってしまおうか、 いっそ、なんて云わなくとも 理由や意思や罪性なんてよういしなくとも いいのだし    たくさんの老いた藤のかんざしのした 待つ  ふたりともこわれた靴を履いている  不法投棄の埋まる砂場が しんだまちを呑むダムになる  見限った蜂を倣って  爪のみじかいゆび それをひいて  線路は褪せた黄色を流す それをきいて    ふたりともこわれた靴だから春でもつめたい、と それをみて  有刺鉄線にからみそうな、しろい花  ふたりともかさはなくて  それでも、  きっとおまえに似合うだろう  と  せいけつな生糸を  想う   しろ、だ おまえ、 わたしたちはしっているね やわらかいものとやわらかいものが触れられること それを敢えて  からだでこなす、 ということ ---------------------------- [自由詩]?bers Licht/杠いうれ[2008年12月9日18時14分] 滴り落ちる鍾乳石の響きのように 光は触れ、惑わす 耳を澄まし気付くまえに 耳を澄ますよう気付かせる それがやって来たとき  わたしたちのつたないじゃれあいを ペテュニアやら杏、ソシュールやらで泥塗れたことを 棺の釘を抜くように 垣間見るのだ 例えば君は わたしを誰よりも解体し、標本にした それはわたしではなかったけれど 整列された標本は美しかった 「恋のようなものを感じているのかもしれない」 「――笑い飛ばしなさい!」 やはり 勝手に咲いて、勝手に散る、のだった 君は帝王切開で産まれた 君の町を文字で知っている 君の名前を文字で知っている 君の生身を光で知っている 地下道で蹴った空き缶の尖った音 水切りの小石のように 他所で済ませた心拍数のように 暗い蛍光灯 赤いアルミ缶 共時態がどうとか 君はむつかしいことばかり 君の想うフランスと わたしの見たフランスが違うように 戸籍が示す通り わたしは君ではなかった エレーンのことを覚えている? 逆側の海で未だに わたしは地平に投げ掛けているのよ、 ---------------------------- [自由詩]シュヴェーベ/杠いうれ[2008年12月13日17時39分] 六月の空だったろう、と耳の後ろが云う 否 冬だったろう、ひんやりと肌が伝える カルキ水に浮いていた たちこめていたのか? 彼の頭頂部に咲きこぼれたという 青い花を思っていた 遠くで子供たちのはしゃぐのが ホットケーキが焼けるのに似て しかし甘やかなものは皆無だ 巡る茎、棘、葉脈を ついばんだものか、もう 清潔な部屋 窓はすべて開け放たれ たくさんの本が 思いたったように羽ばたいてゆく 六月の空か、冬 鳥は飛ぶのではなく、浮いているのだ と けれど本は羽ばたき 崇高なものでもあるかのように 高く 取り残された たちこめていたのだ 触れないままに向かい合い その日は不思議に理屈が気になっていた 何を養分に彼の花が育めたものかと 青い花弁が頬に漂着し そして群飛を外れた本がひとつ、ふたつ、 ちいさな湖にしずかに降り立つ 青は次から次と咲いてみせ、自らの重みで首をもたげる ただ佇む 彼を敬い、葬るように 窓はすべて開け放たれていた 六月の空か、冬 カルキ水に浮いていた ---------------------------- [自由詩]老人と詩と/杠いうれ[2008年12月18日13時02分] ゆうぐれを食む 四百の泡 無声音の多いスピーカーと 光沢のない爪の切れ端 みずさしに万年筆 薬瓶にクワガタソウ 柔らかなどぶのせせらぎ 羊が歩くゆめを ひととき   銅のやつをね、やったんだ。ちいさいやつさ   もう硬貨にでもなっちまったかな いつも毛布だけが守り、染みを拵える しみ、 すべらかな なだらかな場所に落ちた アイスクリームを 想う それは記憶だったか 泡の上だったか 炭酸水のように こみ上げてくるのは、   なんでも構わんよ、噛まずに済むならね   味なんてもう分かりゃしない 空の縁取りは鉛と化す 目覚めているとき堪えられるよう わるいゆめを せせらぎは遠くなる ――夜には車輪の慟哭がしゃしゃり出てくる、せめて未明に―― しずかに 羊が歩くゆめ 銅の羊だ ちいさい、彼女の手の平にも乗るくらいの その手で紫の花を摘んでおいで すまないね、この部屋には花瓶すらないけれど アイスクリームをあげよう ピンク色の 苺? ソルダム? いずれにせよ甘い何かだ 若い娘さんよ たくさんの詩(うた)を胸に抱えて 羊を連れてゆく 羊は唄う 穏やかな歩み 歩み、 柔らかなどぶのせせらぎ 陽と影を受け 窓から舞い落ちた 手垢だらけの紙 あの子が 追って来れなくなるまで ---------------------------- [自由詩]脱脂綿/杠いうれ[2009年4月28日15時49分] 脱脂綿を部屋中に拡げてわたしのベッド 塵にむせながら脚をばたつかせるわたしをやさしくくるむ脱脂綿 脱脂綿に染みるバルサミコ酢 大海原に放流されたドライフィグ 脱脂綿に腹の内を綴るインクが滲む ひっかかりながらペンを走らせるわたしをやさしくくるむ脱脂綿 脱脂綿は毛羽立ち炎に似て さながら焼身自殺だ 聞こゆ鶯(うぐいす)の春 脱脂綿に舌を這わせてそんなふりをする そんなふりをしながら漂白されゆくわたしをやさしくくるむ脱脂綿 アルコールワッテを作ったことがありますか アンコールワットではありません ここに軍服は似つかわしくない アルコールワッテはしみるから不要 アンコールワットの蘭を見たことがありますか 湿度の無い処に蘭はからっきし咲かぬのだし ここにきっと花は咲かぬだろう 塵にむせながら脚をばたつかせるわたしをやさしくくるむ脱脂綿 隙間から春の陽差し塵がまたたいて ---------------------------- [自由詩]バニラごっこ/杠いうれ[2009年5月5日3時13分] ちりちり 群がる蟻を見ていた 君の落としたアイスクリーム この道 向こうに ガソリンスタンド 青色の車ばかり入る 眩しさ おとつい おとついもそこで 空気がたわんでいて 喉が渇いて 声を絞り出せずに 君の舌が這うアイスクリーム ずさんな 狡猾な 舌 逃げ水を追う無邪気さが ちからが 無くて 君のしるしを見ていた ちりちり 伸びた足の爪を登る 色の無い爪 アイスクリームは ここじゃないよ 嘘つきなバニラ味 ちりちり 群がる 蟻 ちりちり ちりちり いつか そっぽを向いてしまうのに この道 空気がたわんで 逃げ水が やってくる それをまとっても どうして 鮮やかな空 ---------------------------- [自由詩]モランヤ/杠いうれ[2010年1月7日17時21分] しりしりと頬に 君からはぐれた氷の埃 ざわめいていたフレーデルが口を噤む その間を抜け 濃紺の蜜に深く溺れる 針葉樹が冷淡に 自らを槍と仕立てる 芳醇にもたげようとする果実が 授業が始まる時のように居直る 呼吸は聞こえない 君のあとを附けるのはこれがはじめてじゃない 鼻をすする 霜柱がじわり、沈む 生まれつき無かった罪を償わなくてはならないと神様は云う かなしみをしあわせと思いなおすように仕向けられている 知らない彼らを知っているかのように知らない振りをしなければならない 指がかじかむのは君の所為じゃない 季節は春だし 人々はほんとうは笑うのだから モラン、  呼吸は聞こえるかい?―― モラン、夜に  君を想うと僕は寝付けやしない 軋む錠を緩めて温い風をまとう 例えばあの切られた爪のような月や ただの嘘っぱちなピンホールの星が 君の足跡なんじゃないかと思索しても モラン、夜に  こんな夜に 誰にも見付からないでいられるのは  君と僕ぐらいなんだよ ---------------------------- [自由詩]赤の缶詰/杠いうれ[2010年1月10日14時58分] いやな雰囲気で目覚めるのはよくあることで なんとなく被害者めいた気分で体を持ち上げる 騒々しい光が 厚いカーテンを押し退けようと疼いている ぼんやりとそれを見て 胸のした揺れる 赤い実に気付いた 伸びっ放しの髪の先には 木苺がいくつも生っていて 木苺というものかしら髪に生っているのに などと思いつつ フランボワーズのようだけど早速?(も)いで味見をするのも野暮な気がするし 少々毒々しいけれどヘビイチゴと括るのもはばかられるし 生育とか和名がどうとかなにやら面倒に思え 滅多にないことだし ゆらんゆらん、なんだかきれいに思えてきて 早起きの弟に自慢しようとリビングに降りると 気味が悪い、と鋏を手渡された 朝食の匂いを振り切り最寄駅まで出てみるが そのようなつもりはないけれど高揚しているのか他人の視線も捕まえられず そういや毎日挨拶を交わすクリーニング屋の店員にも声を掛けられなかったし 悔しい気すらしてきたので 駅員に列車の時刻でも訊いてみようかと 階段のした2号車の辺りまで来たところで 爪先に何かが当たり それはごろりと転がった 鷺ノ宮まで、止まりません。 女の声で自動アナウンスが流れ いつもこのアナウンスはどこか切実そうに聞こえるのだけど それは 止まりません がまるで 止まれません のような表情であるからなのか 今日もいまいち分からないまま 先程転がった(そしてすぐ静止した)缶を拾った 缶は空き缶ではなくて 封の開いていない缶詰だった 薄い紙のパッケージは剥かれていて 落とし主の性格なのか何か他意があるのか 緑色がところどころ張り付いたままである ところどころなので中身は不明だが ZUTATEN: ――昔憧れた国の言葉が読み取れた 成分。 でもその先は剥かれている 独逸で、きっと無機質な機械に大量生産されたのだろう イメージってときどき馬鹿馬鹿しい  缶詰が規則的に並んでいる姿は美しいだろうな 不規則に揺れる苺をてのひらで弄る てのひらの苺は しれっとマーケットの苺みたいな顔をしている 髪に繋がれたままだというのに 缶詰は 振れば窮屈にこぽこぽという音を鳴らした 中身は分からないけれど 今日は分からないままがお誂え向きな気もするし こぽこぽを聞きながら 缶詰の中身は苺の煮たのなんじゃないかななんて 勝手に合点がいったような清々しささえ覚えて ゆっくり階段を上っていった ---------------------------- [自由詩]水以外/杠いうれ[2010年1月13日15時46分] シャーレを開けたら 香りだけが入っていた いくつも 閉じ込めたものがあったのに 落ち着いて 落ち着いて君を捜すと 君が書かれたものは要らないので殺していた 君を見付けたかった 毒があるからと 死ぬかも知れないからと夾竹桃は刈られ 校庭からは花が消えた ないものばかりを集めるシャーレが あったかのように思わせるため土に埋められ いたずらに割られる そうこうしているうちに私は死んで あきらかに循環するのは水ぐらいなもので 校庭の蛇口から 夏を含む飛沫が跳ぶ ---------------------------- [自由詩]湿度計/杠いうれ[2011年5月12日14時39分] 未明に。 未明に原発が白に包まれた。 霧なのか水蒸気なのか分からないけれど、幻想的で危うい光景だった。 夜はいつも湿度が高い。 太陽が奪わないぶん、ひたひたしている。 昼と同じに水分を放っていても、夜には飽和状態になって、目に見えるようになる。 霧だったのか、水蒸気だったのか。 夜はいつも湿度が高い。 雨の日の唄に悲しげなものが多いのも、きっと同じ仕組みだろう。 体もその中身も素材は変わらない筈なのに、夜はやはり、ひたひたするものだから。 ひたひたする。 ひたひたする体を抱えて、悲しいことを思う。 悲しいをぞんざいに扱う為に、体をぞんざいに的確に扱われることを思う。そしてそれは満遍なく物悲しい。 それぞれが結露してゆく様を、手出しすることを許されない君はどんな顔で眺めるのだろう。 切実そうなら切実そうなほど、息を飲み干したのちの急速な眠気は深さを増す。 それとは別に、昼の簡易な傾眠発作に委せてうっかりゆめを見る。 きょうは水道水中の放射線量が高いから歯磨きはやめなさい、と母親に呼び止められる。 歯ブラシを戻して、何故か寝室の真ん中にあるバスタブに浸かると、当然のように父親が入ってきてまじまじと観察するので、見せつけながらもひとしきり罵倒する。 バスタブのせいで、寝室はひたひたしている。 しぶしぶ出ていった父親の足跡が、絨毯に濃く滲みて乾く気がしない。 持ち込んだ然して美味しくもない紅茶を見て、これも飲めないじゃん、と気付く。 ゆめのなかのわたしも、未明の危うく白いもやを思っていた。 ---------------------------- [自由詩]違う月を見てる、とか/杠いうれ[2012年6月22日0時52分] 今日の月は綺麗だよ って 君がそう云うから カーテン付けていないっぱなしの窓の外探すよ 今日の月は綺麗だよ って 云うっていうか、おうち帰ったの? のメールの返信 出窓そばの街灯にモンキチョウ じゃないかもしれないな いつかのサラダのアボカドの葉が 痒そうにくねっている まっすぐにならないの 何かが足りないのかもな 青梅街道の音が遠い気がする Saluteの下着を選びながら ガラにも無い唄をYoutubeで聴いてる 浮わついてるなーマジでこんなんいけすかないなーへったくそ わたしのほうが上手く歌える上手く弾けるし上手にやれるの分かってるでも なんだかこんな気持ちになるの こんな気持ちになるの こっち見んな月 ねえ此間よかったねでももうすこしなのにダメなのいつも凄いんだよその時ってそういうとこ見せたいな君に 見せたいな君に 月、 綺麗、 こんなにも遠い。 きょうの月は綺麗だよ、きのうもその前もずっと 知らなかったの? わたしたち生まれる前から在ったしずっと 君が見てないときもそうなのずっと 君の前じゃなくても ずっと 知らなかったの? おうちに帰ったのか ね うん 月、 綺麗だね って。 知ってたよわたしは ずっと ---------------------------- (ファイルの終わり)