ガリアーノ 2008年2月8日14時13分から2014年7月4日21時08分まで ---------------------------- [自由詩]うしなう/ガリアーノ[2008年2月8日14時13分]            失うということ     失いたくないということ         はじめから知っている人なんて誰もいない             その手の中にあるもの             あるものの重さや大きさ         ふだんはあまりにその感覚に慣れてしまって           ちゃんと意識しようとも思わない                  けれど。              失うと気づく  それが             どれだけ自分を支えていたか            どれだけ自分を形作っていたのか       もうないということ      既になくしたということ             不在がこころに沁みるだなんて              どうして考えられるだろう              こんな風に  痛むだなんて            こんな風に  こころが痛いだなんて               どうしてわかっただろう             「 もう何も  失いたくないんだ 」                  出来ることは            手の中にあるものを大切にすること                 なくさないように               失ってしまわないように              老いるように  慈しむこと          失うということ     失いたくないということ           これ以上失うのは  もういやだということ ---------------------------- [自由詩]がらくた/ガリアーノ[2008年2月12日23時57分]  右手の人差指と親指をL字型にして  手製の拳銃をこめかみに押し当てよう  柔らかく脈打つ右目の上の皮膚  打ち破ればそのまま  遠いところへ行けるだろうか  BANG.  ありもしない引き金を引いて  口で銃声を真似てみる  勿論何も変わらないで  あたしは血を流したりはしない  ただ人差指を頭に突きつけたあたしがいるだけ  でも  あたしは  その度ごとにごとに消えてしまうあたしの意識を思う  そのときのあたしの右手はブローニングやS&Wになったりして  ずっしりと重くあたしのこめかみを冷たい銃口で閉じ込める  鈍い無機質な鉛を吐き出しては皮膚を破り  鮮やかな赤い血と一緒に記憶までこぼれさす  そうしてあたしは抜け殻になって  温度を失い固くなってやがて死んでゆく  誰かのこころの片隅に潜んだまま  ひっそりと  不特定の「誰か」の中でそうやって存えながら消えていくだろう  人のこころは移ろいゆき眼に映るものはすべてまやかしだけれど  蓄積されていく記憶がその人を作っていくから  あたしに関わった人は“あたし”というパーツを皆持っている    だから多分だいじょうぶだ。  今このまま消えたって  あたしは消えたりしない。    BANG.  手製に拳銃  肌色のコルトガバメント  引き金を、とめることができない。 ---------------------------- [自由詩]現実の未来/ガリアーノ[2008年4月29日23時39分] 様々な角度から光はね返す雲たちを飽きるまで見ていたいと思ったとき きみに一緒に見てほしいって そう思ったんだ 十月の下旬の朝はもう冬の匂いがするって気付いたとき 一番に君に知らせたいって そう思ったんだ 「きみがそばにいてくれたら」 「きみがそばにいてくれたら」 きっとぼくは 幸せを飽和させてしまって 幸せを全部押し流してしまうだろう はなれたくなんかない はなしたくなんかない だから ぼくたちはすき間を埋め合おうとはしないで すき間の遠さを慈しみ時には自分を可愛がって悲観したりして もどかしい距離をやすらかに課し合っている 永遠にひとつにはなれない 永遠にひとつにはならない ひとつのように生きられもしない だったら 「                        」 明日はきみと 陽のあたる川べりで水の色の移ろいを楽しもう それにいつか 星のみえる夜に車で海に行こう 白い花の原っぱで緑に空気を味わおう いつかいつか 時の流れが やさしくぼくらの光を奪うまで ---------------------------- [自由詩]シンクロナイズ/ガリアーノ[2010年5月31日12時22分] ふだん無機質なくろい眼をしておきながら いまそんな風に悲しみを滲ませるだなんて卑怯だ いくら透明のレンズ越し、光が落下する先の感情 外したって無駄だよ どうせきみに見えるものは変わらない きみの、茫漠とした世界の果てのような眼 たぶんきみのその眼は水晶みたいなものなんだ きみ自身には何を映しているのかわからなくて 覗き込むこちら側にだけ、そこに映る際限のないものが見える 黒く柔く果てしない 光とも闇ともつかず、ただ「無」であるような 陰でも陽でもなく、ただ「混沌」であるような 見出して掴むことができるものは、何一つないような 魂を分け合えるのは、どっち? ---------------------------- [自由詩]モラトリアム(鳩が遣わされていた場合)/ガリアーノ[2010年10月12日0時41分] きみが手に入れようとしているもの やわらかな繊細な清廉な あおいあおい ぼくは知っているんだ 硝子細工のカストロフィリア くろいくろい どうにかなっても頑張ればって 美しい公害まきちらしていたって あかいあかい それでもきみとぼくのぼくのぼくたちは おろかしさの船出にやるせなさの甘い重荷で しろいしろい きみとぼくの間の 真んなかに位置するはずのものものの    ?  ろい?  ?   ???    い? ない?             ……はてしない。 ---------------------------- [自由詩]恋歌/ガリアーノ[2010年10月20日2時23分] 指先を絡めて紡ぐ恋歌に 灰雲からしろい雫 水は無いはずの月から ぴしゃりぴしゃりと まるで空さえも味方につけたかのように 「恐れるな。藍闇の向こうに広がっているのは光原だ。」 本当は知っていたとして 漆黒に手を伸ばすことも出来ず 繋がりゆくあまい行方にこがれ 昴をも敵に回す不遜さの装いで 十指の夢の狭間に足を滑らした振りをして 藍の向こうの黒 藍の向こうの黒 知っている 知っているんだ 藍の向こうの闇 闇のまにまに犇めく 鬼の胃袋を模した焔 囚われるのは、たやすい。 ゆらめきが両手を塞ぐ 熱波が光の黒を遠ざけ消し去ろうとする 懸命に、懸命に紡ぐんだ 両の手のひらからこぼれ落ちようと その破片が深海の色の炎をあげようとも やがては華開き光を結ぶ やがては華乱れ光を放つ 時は移ろい神さえいない月となり 水のように流れ落ちた恋歌は 砂のようにただ連なりを作って押し黙る 映り込むのは、黒光か海焔か 神さえ知らず神はおらず ひとつなぎの恋歌はただ煌めいている ---------------------------- [自由詩]a kind of ending/ガリアーノ[2011年4月4日19時32分] 六つの日の出を数えたら もうぼくたちは大人みたいな顔で微笑みを交わしていて 短針の行方なんて意外に呆気ないんだなって思う アシンメトリーに垂らした茶色い髪のすきまから こげ茶色の虹彩が覗いている ぼくのほうはあまり向かずに、川辺の咲きかけの桜ばかり追っているように見えた とりあえずのカフェで ライチ紅茶とコーヒーで向き合って とりとめのない体で、とりとめのない話をする きみはどんなつもりで今ぼくの前に座っているのかな 俯きがちな視線からはよくわからない ただぼくには、はにかんだような睫毛の軌跡が変わっていないことだけが確かだ かつて、かつてあんなにもきみを想って あんなにも溺れ、傷ついたことを、ぼくは忘れたわけじゃない ただ、慈しんでいる。 きみを死にたいくらい求め、病むほどに思い詰め、息がとまるくらい苦しんだことを あわい想いで、ただ慈しんでいるんだ。 変わらずに変わっていることやかなわない恋につらい思いをしていることも ぼくにはほとんど遠い。 ぼくの内側では、ただうす甘いセンティメントが発酵して胸を締め付けているんだ。 なにも感じないわけじゃない。なにも思わないわけじゃない。 思いだしているだけなんだ。思い返しているだけなんだ。 あんなにもひとを好きななったことはない。 あんなにもひとを求めたことはない。 あんな風には、もう人に恋をできない。 そう思わしめるこもごもを、ただ、慈しんでいる。 ありふれた結末通り決していい終わりではなかったけれど この切なさを、運んできてくれてありがとう。 恋が所詮身勝手なものに過ぎないのは多分恋愛の神様が身勝手だからだけど 気まぐれにこんな縁も結ぶことがあるんだね。 神様、恋愛の神様。 どうかどうか、そのままで。 ---------------------------- [自由詩]半年目の社会人が大学の仲間と集まって夜を惜しむ。/ガリアーノ[2011年9月4日19時53分] 効きすぎたクーラーを言い訳に 寄り添って体温を奪いにいった 右腕のあつさに少しだけたじろぐ 武骨な関節とまるい指先を包む ねむりたかった あたたかくたのもしくねむりたかった でも武骨な指先は留まることを知らずに わたしの太ももや腰を撫でる そうじゃないのに、そういうわけだけじゃないのに だからと言って拒むことも思いつかずされるがままになる どちらにだって転ぶことはできる この両手にかかっている やっぱり寒さに勝てないと思ったのは左手で そっとあたたかな肋骨にてのひらを添える うすい皮膚の向こうの熱を奪おうと意識する そしたらきみの右腕が動いて わたしの左肘を撫でてしまったから わたしもあとには引けない気持ちになって きみのおなかや胸や首筋にやわやわと指を這わせる どこもかしこもほんとうにあたたかいと思う 不意にきみがもらす熱い息に掻きたてられて つい指先を走らせてしまう そんなつもりではなかったけれど、そんなつもりな気になりながら きみの体がびくんと跳ねるように追い詰める この先にあるものはなんなのかな ここから何がどうなるのかな きみの体が跳ねて落ち着くのを待ちながら思う きみのしろいかたい肌の湿りを確かめる 次に会うときもきっと拒めないだろう どうして今こうなったのかな いくらでも時間はあったのに 距離や時間に育てられるものなんて知ったことじゃないけど きみとねむるのは心地いい それだけが、わたしのほんとう。 ---------------------------- [短歌]anymore/ガリアーノ[2011年11月21日0時47分] 伏せた睫毛に馳せる嘘私の恋は気丈の空論喩えあんたの舌が二枚でも 右手で繋いだハイネケン喉仏が上下するさま唇に出来た白い髭噛む 指先が確かめるように這う輪郭取り繕うことなく柔い表面 シャツの袖捲くっただけで摑む恋賞味期限は知らない振りで 白い肌思ったよりも透き通り「あたしがすべてと言い切ってくれるの?」 ネクタイを選んで締める快感を今この時点で味わいつくしたい 黒髪が靡いた瞬間育つ恋きっとあなたは知らないままで もういやだ恋なんて二度としたくないそれでも惹かれる無精髭が憎い ---------------------------- [短歌]Y.Yに告ぐ/ガリアーノ[2014年7月4日21時08分] 横顔からわかる嘘睫毛を瞬かせても右手の指の動揺はごまかせない 無機質にキャミソールの下を探る指どうしてもならあたしじゃなくても 酒ならばここじゃなくても飲める夢生き急いでトばさくても 甘い声を交わした最後の最後でしたキスがどう考えてもしろい罠なのは何故 閃いた白い指いまここで披露して辱めるいくつかの思い出 ---------------------------- (ファイルの終わり)