西日 茜 2010年8月9日23時25分から2014年9月10日23時36分まで ---------------------------- [自由詩]誰にも聞かれないように/西日 茜[2010年8月9日23時25分] 今日は凹むことがあって、なぐさめてもらおうと、たくさんの友達にメールしました。 あれだけ応援してくれたのに、みんな、 「残念だったね」 って、それだけ?意外と冷たくて、よけい凹んでしまいました。 でも、君は、とても私のことを良く分かってくれて、年下の君に、こんなに慰められるとは、正直思ってもいませんでした。 21時ごろには、だいぶ元気になれました。 「夏休みですね…」 って言う、君は、夏休をエンジョイしていますか? 私は、明日から、湘南の家で一週間滞在し、その次の週は、朽ちかけた祖父の別荘へ、久々に行ってみようかと思っています。 私の夏は、そんなもんです。静養することにしています。 インポートの、木綿の花柄ワンピースと、麦わら帽子を持って、イーノをipodに入れて、海を眺めて暮らします。 教師にしては、めずらしく頭が空っぽで、バカっぽい私です。 決して言えない「大切な」その言葉を 海に向かって、誰にも聞かれないように、そっと、ささやいてみることにします。 ---------------------------- [自由詩]LOVE GAME/西日 茜[2010年8月30日22時45分] 妄想の中で恋しているので現実の関係は全くの他人行儀です。 でも、時々それはかぶって、とても危ないときがあります。 小さな、言葉の端々でくすぐりあっているのです。 とっても危険です。心を探り合ってGAMEは進行し 思わず本音を言ってしまったら・・・負け。 相手に本音を言わせたら勝ちです。そのステージはクリア。 ダンナがいようといまいと、彼女がいようといまいと そんなの関係ない。 離婚なんかしなくてもLOVE GAMEは進むから。 今さら、そんなじめじめした言葉しか言えないなんて まったくナンセンス! 第一関門のクリスマスイブにキス。タイムリミットはあと3ヶ月。 落とすか落とされるか、LOVE GAMEは、彼と別れる来年の3月までに告白。 年上の私と、年下の彼。キスしてセックスしたらGAMEは終了です! 後は・・・そうね。本当に気が合ったら、時々ドライブしてキスしてセックスして。 そんな感じかな。別にそれでいいです。 ---------------------------- [自由詩]私たちがいちゃいちゃする理由/西日 茜[2010年8月31日22時16分] いつも後ろから私を睨んでいるおばさんへの当てつけで、パソコンのディスクトップはダースベーダにしました。 おばさんは、スーハーってすごい息づかいでみなさんを睨んでは、ランチで、あのコはこんなことをして常識ないねとか言って嗤っているそうです。 人の悪口はその人をどんどん陥れる悪魔の言葉です。私たちはそれが許せないだけです。 だから、君はおばさんが見ているのを知っててワザと私といちゃいちゃするんです。 でも、ちょっとまえのデートの時に、おばさんについて話し合ったよね。 おばさんは君の神経に障ることをたくさん言うもんだから、君もイライラしてて、ほかの人もイラッとくるんだって。 おばさんのいないところでおばさんのあだ名はダースベーダってことになっています。 君といると私は幼気な泣き虫ちゃんになり、労ってほしいオーラがたくさん出てしまいます。でもそれは君が望むパターンだから。 いろいろ試して君が食いついた態度をとるようにしています。失敗だったらまた変えればいい。君とうまくやっていくための演技をしています。 私たちはきっと、後ろの席のおばちゃんたちがイラッとくるのがおもしろくて、いちゃいちゃしているんです。当てつけもいいところ!? おばさんは自分もかまってほしいのでしょう?でもそれは素材的に無理。 私だって彼からすればおばさんの部類なのに、どうしてか、私とのエッチな連想ばかりしているものだから、ビジネスライクというより、いちゃいちゃの対象になっています。 おばちゃんたち、くやしいだろうなあと考えると可笑しくてたまりません。 ---------------------------- [自由詩]もう夫婦同然なのに/西日 茜[2010年9月2日23時03分] 私たちの子供は全部で46人もいます。 彼の子供が23人で私の子供も23人。 今日私の子供の一人がとても落ち着きが無くて廊下に出しておきました。 私たちのお部屋のピシッとした雰囲気を壊すのでしかたがないのです。 そのとき隣の部屋から彼が入ってきてこの子もらっていきますといいました。 私たちはどうぞと言い、やっと静かになりました。 その後は夏休みに作った宝物の披露で盛り上がりました。 しばらくして、あの子を返しに来た彼は言いました。 この子はこれからよい子になると約束したからみんな許してやってくれと言いました。 私たちはどうぞと元気なく答えました。 彼はあとで私に言いました。 さっきは余計なことをしてしまってすみません、と。 いいえ、いつでも連れて行ってかまいませんと答えたら、ずいぶんとAWAYなんですねと笑いました。 彼はあの子と私の関係を心配しています。 あの子は私が大好きで、それは見ていてよく分かるからと、私があの子を拒否しないように見守っているのです。 疲れている私のこともよく分かってくれています。 男と女は協力してこんなふうに人の子を自分の子のようにかわいがり慈しみ合うことができるのですね。 私たちはもしかしたら本当に愛し合っているのかもしれないです。 契約の契りを結んだ夫婦になることはないけど、本当の愛の意味を伝えることができるような気がしています。 ---------------------------- [自由詩]さよならの準備/西日 茜[2010年9月4日19時02分] 出会った瞬間から「さよなら」の準備してた。 この夏ですっかりLOVE2モード高まって あまりにも本気になりそうで怖いからです。 君の手足は長くスベスベでグッとくる。 笑うと白い歯が光って 君は青くて良いにおいがする。 いつも横目で見られている。 会議中は後ろから抱きしめられる。 仕事中にチュッてしたいって言う。 おっぱい触りたいって言う。 頭の中で私の首に唇を這わしている。 言葉で犯される毎日。 君は悪い人かもしれません。 でもどうして惹かれてしまうんだろう。 君が恋してる相手は 私じゃなくてLOVE+の○○ちゃんなんでしょ? この前君にアップルパイを作ってあげたとき とてもうれしそうだったけど 君が本当に食べたいのはアップルパイじゃなくて。 アップルパイじゃなくて でもアップルパイはおいしいの? おいしいの? おいしいの? おいしい。 お・い・し・い おいしいよ。 おいしいよ。 わたしはおいしいよ。 きっとおいしいよ。 はやく はやく はやく いっぱい いっぱい いっぱい いっぱい食べさせてあげたいのに。 ---------------------------- [自由詩]お菓子づくり/西日 茜[2010年9月5日11時54分] お菓子はね、子供や、それから男のためにあるのよ。 甘いお菓子のにおいに騙された子供は従うようになります。 とろけるようなめまいの中で男は幸せになります。 子供も男も基本は同じです。 ホームメイドパイはほんのり甘く りんごをバターでじっくり煮るの。 家中に甘いにおいが充満し 壁や柱やソファやタペストリーに染みつく。 子供は眠りに落ち、男は女を抱きたくなるんだわ。 お腹いっぱいに満たされて、いつしか女も眠りにつく。 いい?これが家庭?やすらぎとセックスが 永遠に続くような錯覚をもたらすの。 たくさん子供を産んで、やがて老いてしまうけど お菓子の思い出は消えないかしら? あなたはどれだけのお菓子を食べましたか? あなたはどれだけのお菓子を作りましたか? ---------------------------- [自由詩]仙石原にて/西日 茜[2010年9月19日0時04分] ススキの穂の群れの中でキスをしました 高く澄んだ青い空が見えました ここは心の中にしまっておくための 誰にも邪魔されない場所だから あなたとわたしは幸せでした サワサワと穂が揺れて包むものだから 抱き合って髪をなでました 悲しむことはありません あなたはとても良い子ですから わたしがなでてあげましょう 青い青い空と青い青い臭いと ススキは穂を伸ばし わたしたちに絡みつきました 金色の波はゆらゆらと 風の来るほうからゆっくりと流れ 湖の方へと下降して行きました 流されているようでした 絡みついた穂にすっかり包まれて シューゲイザーのような 黄昏がそっと近づいて来るころには 互いの手を取って とても軽い気持ちになって 生きているのか死んでいるのか 夢のような曖昧な世界に居りました 現実は遠ざかり 君の美しい小麦色に光る肌が よけいに夕日を招いてしまうのでした たくさんの熱を帯び もつれたわたしのつま先を 金色の波がすくってしまうから 怖くなって走り出し 君が見えなくなるように 泣きながら走り出しました 君はびっくりして 追いかけて わたしをつかまえて わたしをすぐにつかまえてしまうのでした さっきより強く とても強く抱き合って 金色の波の中で 二人は泣きながら愛し合いました こんなふしだらなわたしたちを 神様は罰しておしまいになるでしょうね ---------------------------- [自由詩]タロットカード/西日 茜[2010年9月28日23時14分] 「大人になっても空気が読めない人」と、教えたとき 研究室のドアを勢いよく開けて君を呼んだあの眼鏡の 特徴の無い地味な女を思いうかべていたのです。 その日は、研究発表の準備会があり 専科が集まっていたそうですが だったらその人たちと連んで帰ればいいじゃないですか。 なんで君と帰るの?バカしゃない? あのとき、部屋の中は一瞬凍りつきましたが 君の態度がもっと痛かったです。 「あ、僕の彼女ですから」ってウソでしょ? 「チャラ男ですみません」とつっこみ入れた あの人はすごいっ! 拍手しそうになりましたよ。 あんな程度の女が君の彼女だなんてガッカリ。 あれじゃ、箸にも棒にもかからない。 まったく眼中にありません。 どうせ勝負するならもっとましな女じゃないとダメです。 あの日から、君という存在はもうどうでもいいかも。 ごめんね。私は嫌な女です。 それなりの難易度がないと、やる気が失せるんですよ。 いまのところ、どうでもいいです。 夕べも夜中まで教材研究に勤しみました。 やっぱり、仕事です。これですね。 女心と秋の空。なんちゃって。 あーあ、つまんない、退屈です。 しおらしく上目遣いにやってみる。 首をかしげてみつめる君の下心。本心? やんちゃなふりもそろそろ潮時だね。 なんか他の手考えてくれない? きっとヤバイと思っているだろう君。 このごろやけに慎重な態度。 そうそう、もうすこし、大人になろうね。 わたしは平気。大人買いの衝動買いで ストレスはしばらく発散できますから。 それに、週末にはお気に入りの挿絵の タロットカードが届きます。 秋の夜長は占いでもして過ごしましょう。 なんかいいことないかな・・・ ---------------------------- [自由詩]みんないっしょでみんないい/西日 茜[2010年10月2日11時38分] 良い詩なんてどこにもないね うん、ないね それでいいんだよ うん、それでいいんだよ だって私たちは無名だもの うん、無名だもの きれいな詩もあるけどスルーだね うん、きれいだけどスルーだね 汚い詩は気持ち悪いけど読んじゃうね うん、汚くて気持ち悪いけど読んじゃうね ちょっとうるさいね うん、うるさいね でもしょうがないよね人間だもの うん、しょうがいないよね人間だもの 人の真似しないでくれない? え、ぼく?真似してないよ! そうだよね、真似じゃないよね やめてよ、ひどいなあ やめてよ、ひどいわ、クスクス え、なに、君、今笑った? え、なに、君、今笑った? ごめんよ、僕が悪かった、あやまるよ いいのよ、私のが悪かったわ 君素直だね うん、あなたの前だけだわ え?マジ?なんかうれしい うん、私もうれしい 僕、そういうの求めていたんだよ うん、そういうの求めていたんだね じゃ、今度デートしよう うん、デートしよう ホルモン食べに行こう ・・・ あ、もとい、ど、どうしよう・・・ ら、らーめん、じゃなくて や、焼き肉、じゃなくて えっと、ほら、君が好きな紅茶は なんだっけ、アールなんとかで そうだ、アールグレイだった ・・・ え?何?なんか言った? あ、あーるぐれいはいかが? なんか会話が噛み合わない うん、噛み合わないね しかたがないね うん、しかたがないね ・・・ なんか寂しいよ うん、寂しいよ いっしょにいてね うん、いっしょにいてね いっしょに寝ようね うん、いっしょに寝ようね ---------------------------- [自由詩]錬金術/西日 茜[2010年10月10日1時27分] 指輪をはめた手でゆっくりと書類を渡しました。 君は少し微笑んだような気がしました。 これからは毎日指輪をしていきます。 その哀しげな微笑みを見たいからです。 何も感じないのならそんな顔はしないでしょう。 君の愛をどうやって確かめよう・・・ そればかりに気を取られてしまう私はどうかしています。 タロットの大アルカナが示した君の現在はDEVIL。 愛しか見えないと そして身を滅ぼしかねないと 潜在意識が物語る行方は絶望的な未来 それでも私を愛しますか。 運命は残酷。 道を外れるなと諭す人の力が及ばないところで 君と逢ってみたいのです。 ---------------------------- [自由詩]めざせ!才色兼備/西日 茜[2010年10月17日22時00分] 片道30分10kmのチャリ通勤を毎日 いつの間にかスリムボディに戻った そうだ、あこがれのスキニーに挑戦しよう お店のオススメ商品はどれ? 研究会や協議会の日は皆スーツだけど 地味なのは嫌だわ Zの店員みたく黒のスーツを着こなしたら 君は「素敵です」と本気で言った 君の言葉は私の生活を満たす 気の利く台詞を言ってくれる 君のこと「かわいい」と思った 宝石みたく贅沢な添え物 グッときたい、萌えたい… 君を大切にしたいと思った かわいい私のおもちゃ いつまでも傍にいて 私を楽しませて満足させて ---------------------------- [自由詩]あてのない生殖/西日 茜[2010年10月21日0時37分] 君が生殖本能からくるアプローチを好むのは 機能を満たしたいという欲求からで 私の子宮はそれを受け入れようと氾濫するので 剥がれ落ちまいと壁を厚くしている そのせいでここ半年間は不調に悩まされ 体中の血液を総動員してまで この愛を完結させようと必死になる 理性とは裏腹の黄金律を奏で鳴り止まない たとえそれが間違っていようと 誰かを傷つけることになろうと DNAのシグナルは忠実な創造を望む 完全なる愛の結晶を生むのだろう もっと早く出会っていればよかった 永遠に誓い合うこともできたのに 今は… 剥がれ落ちる瞬間の絶望の海を そしてまた訪れる生温い排卵の海を あてもなく漂い続ける ---------------------------- [自由詩]暇だったので/西日 茜[2010年10月24日21時08分] 主人とモールに行きました EUインポートの店でいろいろ買って はやりの膝上ブーツと 冬用のスキンケアを一揃え お腹が空いたのでステーキを食べようと お店の前にいったら混んでいて 人が並んで座っていました 私たちは少し離れたソファに座り なにげに目に入ったカップル 不自然な様は一目で不倫 女は別に美しくもなく色気もない 男は絶倫ぽい感じ?のホスト風 私が見ているのに気づくと 手をつないでいちゃいちゃし出しちゃった 私は足を組んで尖った靴をぶらぶらしてたら 男は憚らずに私をジロジロ見たので バッグから教育技術の雑誌を取り出して読むふり それでもジロジロ見ていたので 女が気づいて少し気分悪そうにしていました なんだろうこのカップルは… だからモールは面白い 人が多い分だけ珍獣も多いのかしら 肉も固くて不味かったけど 安物買いはここが一番 服も靴も肉も 男も女も安物ばかり チープな触れ合いは夜十時までやってます ---------------------------- [携帯写真+詩]ドライブしよう/西日 茜[2010年10月26日23時33分] 急に寒くなったから カロオチノイドはさらに加速する 銀河鉄道に乗って 木枯らしを追いかけて ここまでおいでよ ---------------------------- [携帯写真+詩]シングル/西日 茜[2010年11月6日9時03分] 出張の朝は 冷たいシーツみたく smooth 愛がたりないから すぐに飛んできて その身ひとつで あたためて ---------------------------- [自由詩]どんぐり山の子狸/西日 茜[2010年11月14日9時10分] 早朝の河原で かすかに首を動かし じっと横たえる獣がおりました わたしはそっと抱き上げ セーターにくるみましたが 手袋を噛んで 小さく鳴きました カラスにやられたのか 鼻先に赤いものが滲んで痛々しい こちらの目を見ておびえておりました 獣医さんに渡し 近くの自然動物園へと向かった子は 一晩たっても元気にならず 安楽死の選択しかありませんでした 「どんぐり山」 と子ども達が呼ぶ山で 子狸は暮らしていました みんなは 「良かったね、カラスにやられて しまう前に人間に見つかって」 と言いました 隠れ住む生き物が 人間にその姿を見られたときは すでに死が近いのでしょう おかあさんと少し離れた場所で 息を引き取った子 わたしは獣医さんにお願いして 山の土に帰してもらいました 校庭を見下ろす里山で 枯れ葉やどんぐりや小枝をおもちゃにして 遊んでいた子狸よ 山の子よ 母の傍でやすらかにお眠りなさい ---------------------------- [携帯写真+詩]社会科見学/西日 茜[2010年11月20日11時00分] ももいろ さようなら バスで行った昨日 捨てられたももいろ ゲージの底で しずかに空を見ていた ももいろ さようなら 明日も晴れる? 雨はイヤ わたしの体 びしょびしょになる +ココロ+ +ほしい+ ももいろ さようなら ---------------------------- [短歌]あなたにあゑえてよかった/西日 茜[2010年11月21日9時37分] さよならの 帰りぎわまで一緒だね 分かれ道さゑ なければいいのに 近いのに 果てなく遠い君の距離 手さゑ繋げぬ 透きとおる白 寒空に 冴えた月が凍てついて ツゑッぺリンの レインソングを 悲しくて 悲しすぎるよクライクラ ああううはああ うういゑいああ 独りなら 大きな声で星まで届く 君が愛しい バカでもいいから ---------------------------- [自由詩]灰色ウサギの残像/西日 茜[2010年11月23日12時58分] 風はとうから吹いていて それはまるで空回りする蔦のように くるくるとからみつき 見えないままで終わるよう まぎれもない事実のように去って行った 振り向くことはしなかった 夜中にのどが渇いたので キッチンへ行き冷蔵庫の牛乳パックを口飲みして 横を見たときに窓の外を走り去るウサギが見えた 後を追いかけていくと 薄暗いゴルフ場のバンカーの淵に立って こちらを見ていたが 良く見ると二本足で灰色で 緑色の光る眼をしていた 薄気味悪かった やらなければいけないことを思い出した 君に言うべきことを 伝えておかなければならないことを 警告していたのだ あの日上空に旋回していたプロペラ機は 方向を失い壊れた破片が屋根を突き破って 寝ていたわたしを直撃したことを ずっと後になって知ったが そう悲しくはなかった ---------------------------- [短歌]国語科研究部/西日 茜[2010年11月28日16時35分] 前年度 コピーして出す 指導案 いいかげんさを 露呈する君 子どもらは 同じことして 繰り返す 本番とちる 教師ガッカリ 見学者 発表者とも 場しのぎで 役割分担 上手すぎるだろ 協議会 講師の教授に 突っ込まれ 慌てるふりして ペンを走らせ 質問は 前の日から 用意して 予想を立てて ☆印つけ 隅っこで 出番を狙う ベテランの 若手の足を 引っ張る藪蛇 ---------------------------- [自由詩]並んで帰る道/西日 茜[2010年12月4日16時44分] 淀んだ排水溝の蓋を閉めるように 職員室のドアを閉めたら 薄暗い廊下をすり抜けて 警備員のおじさんとさよならをする すとんと腰をおろして バッシュの紐を結んでいる 少し前に出た君が 無造作に落とした前髪の隙間から 空虚な瞳で物語る不幸を 少し感じながら私は微笑み 先の尖がった 教師には不釣り合いなヒールを ポンと落として 気だるさをクロスする 子どもらの喧騒が鎮まった午後の校舎 放送室から 高学年児童と中学生のコラボレーション モラトリアムなエレクトリック演奏と 少し外れた声が隙間から流れ 暗い廊下をさ迷っていた 話すことは今日一日の出来事 「何もいいことはなかったよ」 この瞬間 君と帰る道のりが 虚無のはじまりだと気付く 無から生じてしまった 先の見えない 迷走 求めるものと 逃げゆくものが 交差しかけ まさぐり 絶望の淵でこころを見つめ合っている 並んで帰る道は けっしてクロスしない平行線 さまようアリス 大切なひとことが言えない 上手にさよならもできない ルミノスの薄透明な日暮れに 気がつくとひとり 群青の空が落ちてくる ---------------------------- [短歌]ポトフ/西日 茜[2010年12月4日18時09分] やわらかく のぼせる野菜 溶ける夢 お腹に優し 心煮込んで ぷくぷくと 泡風呂つかり 満天の 星降る夜は 澄みきった蒼 湯けむりの 向こうに見える シルエット 見つめているの 鑑みてるの ---------------------------- [自由詩]バスタイム/西日 茜[2011年1月16日20時37分] 今夜もお風呂に入れてあげる 一緒じゃないと危ないからね 眼鏡をはずしてあげよう シャボンでブラシとシャンプーも 手ですくってかける 温かいしずくは バスルームに響く魔法の音 湯気の向こうで悲しそうな顔 泣かないであなた 昨日 あなたがいて わたしがいた あなたの前を歩く わたしはいそいそと 楽しそうで甘えていた あなたは荷物をかかえ 汗をふきふきお伴の人みたいに デパートを歩く そんなわたしたちの光景も やがて幻になるのでしょう そう、あなたはあと何年かしたら 車いすの生活になり やがて寝たきりになり 静かにその時を迎えるんだもの ---------------------------- [自由詩]光と時計とあなた/西日 茜[2011年1月21日23時01分] 忘れようと 日中には別のmaleに恋していた むさぼるように一日が終わった そして一週間が 彼の病状は日を追うごとに悪くなっている それはまるで終わらない冬のようで 真鋳をくり抜いた小さな穴からもれる 電球の光もまた微か 造りものの温もりたちは あの大きな愛には勝てない 私の全てを包んでいた あの大きな愛には勝てない あれほどにあたたかく照らしていた 今やっと気付いた もう一度返してください 私に返して あなた無しでは生きられない ---------------------------- [自由詩]サンタ・マリア/西日 茜[2011年1月23日22時44分] みんな影響し合ってるから 感じているから 雑音ほどいいから 優しいから 憎らしいから それでいいから そこにいればいいから 愛している だのにあの人 異国人みたいに 違う音色の歌をうたうよ 彼と謳わないで 彼女と謳わないで 裸になって 恥ずかしくて 死んでしまいたくなって ボロボロになればいいよ 嫌われたって平気 何とも思わないよ どうせたいした歌をうたわない すぐに落ちて消えてしまう フィレンツェかどこかで お祈りしながら さよならを言うんだ ---------------------------- [自由詩]それでもサクラは咲くのです/西日 茜[2011年3月20日20時48分] 八重桜 いくえにも重なって 淡い桃をたわわに逢せる 遠野の空の水と蒼 流れ流され血の紅滲む それでもサクラは咲くのです 山桜 ひっそりと佇む 誰も知らない名前すら 無から生まれ無に還る せめて乱舞の一時を それでもサクラは咲くのです 枝垂桜 寺の奥庭際立つ姿 瞼の裏に焼きつけて 二度と帰らぬ時の絢爛 かつて犇めく宴の宵 時は一瞬飲み込まれ 逃げる間もなく サヨウナラと手を振って それでもサクラは咲くのです それでもサクラは咲くのです それでもサクラは咲くのです ---------------------------- [自由詩]卒業式/西日 茜[2011年3月28日10時14分] いつものように 教室までの階段を タンタンと駆けあがってくる君の足音を聴いたとき 先に来て 私物を整理していた私の心臓が急に高鳴った ポッと頬が染まったろうと客観的に感じた 客観的にというのは つまり その後の喪失感を考えないようにすることで 聴き慣れた音や作業がずっと続くと錯覚し 体内の血液や体温やホルモンに変化がないこと ついに来てしまった最後の日は そんな感じで恒常性を帯びて始まり それから何時間かはいつもの冗談で笑い合って過ごした 作業ははかどった 教室のちゃちなプレーヤーにipodを無理やりつなぎ DMCとかRIHANNAとかのお気に入りの R&Bもろもろをシャッフルして聴きながらだった いつもは「聞く」のテストをやるための まったくちゃちな埃をかぶったプレーヤーを 大音響にしてテンション上げている君 それから めいめいの車に私物を運び 段ボールで埋まった車を見て 「溜まったもんだね この蓋開きたくないよね」 って二人でしばらくながめていた 校庭では少年サッカーチームが練習をしていた そのあと PCの個人データを消したり集金をまとめたり 回ってきた次学年用のCDRをメモリにDLしたり いろいろやることがあった すごく疲れた 「ドーナツ食べようよ」 3時にお茶して 体育の話をした 「合同でクラス対抗すると熱くなってヤジ飛ばしたね」 二人の性格が似ていて熱くなってしまうんだ 実際 一昨日の卒業式のBURBERRY BLACK LABELは 彼の体型では似合いすぎていたから あれはある程度筋肉質の方がいいのかもと思った ここはアメリカ人を父に持つ軍人の家庭が住む地域があって 卒業式に集まる父母は映画のシーンのように見えたが 彼は引けをとらないで映って 年下の君はいつも眩しかった 夜までかかった みんな帰っていた 二人は帰れなかった 寄りそっていた ****ハグシテ******キスシテ*****キシンデ *********スキ********ドウシテモ コウナッテシマウ******ドウシテ? コノカンケイ**********ヤメナクチャイケナイ ハナレタクナイ*****イツモイッショガイイ*****モウアエナイ? デアッチャイケナカッタ? 一期一会 これが最後だと感じた もう二度と会わないでいようと思った わたしには傷つく人がいる さようなら ありがとう 君が好き 大好き 楽しかった思い出を胸に わたしがここを卒業する日だった ---------------------------- [自由詩]離任式/西日 茜[2011年4月17日0時48分] 私の番が来て 何も用意しない言葉で 飾らない言葉で話す 体育館のステージは 私のワールドになっていく 子どもが泣いている 嗚咽が聞こえる 素直な痙攣が拡散して 好きな気持ちは 失っていく悲しさで いっぱいいっぱい 私もいっぱいになってしまう いつでも どこでも 儚い思い出ばかり しっかりと手をつかんで 行くなと叫んでほしいのに ---------------------------- [自由詩]間違ってない/西日 茜[2011年4月30日22時40分] 今日 夢を見た だんだん薄れていく記憶 君の声も 君の匂いもわからなくなって 輪郭だけの絵画のように 現実ではなくなっていたが 確かにあった手応えを感覚として垣間見た 再び抱きしめたが 儚さは変わらなかった 私は愚か者だった 君からの愛を否定した 先の見えない恐怖で怯えていた 地獄の火で焼かれた めらめらと焼き尽くしてしまった 駆け引きのない愛が溶け合った やがて灰となって消滅した 障害があって熱を帯びた 灼熱の砂漠にいたようだった 人生においてそんな愛は無用かどうか知らない でも出会いは真実であった 方向を見失ってさ迷ったが 互いを常に確認できた 君が私に云いたかったこと 云えなかった一言 しっかりと受け止められたら どれほど救われたことだろう ---------------------------- [自由詩]空っぽの 月/西日 茜[2014年9月10日23時36分] その箱はスケルトンの灰色で  どこにも蓋がみつからなかった サイコロを転がすように その六面体の 一面ずつに番号をふって 開けようとしたが 開けられるような 切れ目がどもにもなく 途方にくれる毎日だった あなたを直接抱きしめたかった 箱の中のあなたは いつも本を読んでいた どうして本ばかり読んでいるのと聞いた するとあなたは答えた 「いろいろなことが解るからだよ」 いろいろなことが解ってどうするんだろうか いろいろなことが解ったって 私と触れ合えることがなければ何の意味も無いでしょ? スケルトンの灰色の中のあなたは とても美しく 白くて 髪はやわらかそうで 眼鏡の奥の瞳は穏やかで ときどき 箱の中から私をふと見上げ 「愛している」と言った 早く、あなたを助け出さなければならないと 妙な正義感というか 偽善というか まったく何かに憑かれたように叫びながら なんとかして蓋を開ける方法を試したが その蓋の出口や入り口がどこにも見つからなかった 七転八倒 狂喜乱舞 あなた あなた  あなたはいつも やさしく微笑んでいたのに ついにその日が来てしまったのだ 「愛している」と言い残し あなたは本を持ったまま 瞼をすっと閉じて そのままパタリと倒れ 動かなくなってしまった とても残念だった 私は いつまでも あなたを眺めていたかったのだが この手で抱きしめたいなどと思ったものだから 何か無理が起こってしまったのかもしれない 今は、箱の中にいたあなたのことを考えながら 空っぽになった箱を夜の月にかざしてみている 美しい 夜  空っぽの 月 ふとあなたの気配 静かに風が吹き抜ける ---------------------------- (ファイルの終わり)