鎖骨 2009年8月30日1時16分から2012年7月4日23時43分まで ---------------------------- [自由詩]2009/8/30/鎖骨[2009年8月30日1時16分] 達したらお終い ふりかえることもできないままで それぞれに意識は夜霧のただなかへ(放り込まれる) わたしもあなたもどちらともが社会性を失くして ずぶ濡れて情けないふたつの肉塊へ そうした小景に降るものとその匂い 記憶の黴になって いつまでも 苛むだろう よわさつたなさみじめさ ひとりだちできない人間がいる意味 ここにある存在意義 そんざいいぎ ---------------------------- [自由詩]2009/9/15/鎖骨[2009年9月15日1時03分] どうして関心のかけらもないようなものを ひねもすそんなに見つめているの それより私あなた掘ってあげたい 掘ってあげたいしおなじようにしてほしい ただえぐることだけをかんがえて なかへおくへいちばん遠くへ そこにはきっとなにかあるしなにもないかもしれない だからはやく確認しなきゃいられないのになんで どうしてそんなものをいつまでもみていようとするの? しらないふりをしてるの? 時間なんておもうほどないもの だからはやくはやくはやくしなきゃいけないのに 気が気じゃないって いってるんだよ 陽ももう落ちるっていうのに あるものぜんぶがみるみる冷めていくって 信じられないのは 知らなきゃならないことを知らないでいるから だから剥がそう いっしょに 星をみるのとおなじだよ わからなかったり足りないとか くやしいとか思うようなことも ほんとうはないんだよ 終えてしまえばそれまでで かんじんなのはどれだけ柔らかいうちにそこへ 達するかということだけ きいてくれるかい いまだけこの瞳をみてよ ためらわないでつないでね つないでくれればそれで わかるから いっしょにつぎのときまで 星をみるんだよ ---------------------------- [自由詩]0.68sec (全て記号)/鎖骨[2009年9月20日3時29分] ようするにきみは いまはぎんいろふりつもるふゆのふきのとうみたいなもので わかってるとはいわないで わからないともいわないで とにかくきみにはよりにがくなってもらいたくて つらいからいいんだよ わかいときにくるしみを こどくのさきにみえるここうのいろにおいひびきをたいけんして きみはのぞめばあすこへとどくことができる もちろんのぞまなくたってかまわないし ゆきのおもみといたいほどのしろさにたえることができる どうじにとてもやわらかくもあって ようするにきみはとてもわかくて いいかいほんとうにきみはとてもいきているってやつなんだ きみだけがいきているんだこのじかんのきみの おきているあるいはねむっているむねのなかあたまのなかそれが きみのずべてであってそれをきゃっかんしするわたしのすべてでもあって きみはそとともつながれるしそれをえらばないこともできる だからこのはいいろのぶんしょうも まっちゃじおをふりかけたふきのとうのてんぷらといっしょにたべてしまったり つぎのごみのひにいしきのはるかとおくへすててしまうこともできるんだ ほんのまばたきのあいだに ぎんがのしゅかんにかさなる またたけ またたいて いくらでもかたちをべくとるをかえて きみに きみになってください ---------------------------- [自由詩]2009/9/29/鎖骨[2009年9月29日1時34分] 熱と光と力学で誰かと 鳥籠の中で暮らしたかったなあ 文学は素敵だったけど 遠くへ往くには枷になるものかも知れない ---------------------------- [自由詩]夜/わらう/鎖骨[2009年9月30日1時46分] 歪みがまだ今でも 降っている真夜中 整然と聳える街灯 その首を支えたい 優しく声を掛けて 誰も気付けないの 孤高と孤独の違い 出来合いの許容心 尖っていて温いの 憐れみの言葉と瞳 ベランダから猫が 降ってくる真夜中 造り事と笑うかな つい先刻起きた事 今にきみの許にも 眠れない感情線を 環状に結べたなら なんて詮のない事 そればかり繰返し 何もないんだ何も コーヒーの染み、紙の上の 年月の染み、髪の上で震えるそれぞれの光輪 なにもないこと あるようだったけどなかったこと なにもないなにもないなにもないなにもない 焦燥だけの日々 ふたつのまっさらな思想と ふたりのまっさおな約束は 遠い日の夏のアスファルトに染みになって残った 高いところから落とされた鳥の糞のように 明日もきっと息苦しい暑さだから 打ち水を見にゆきましょうよ あの子たちのところまで アスファルトの坂を上って ---------------------------- [自由詩]レバニラ/鎖骨[2009年10月4日2時08分] 色々がもうどうでもいいの 哀しみのレバニラ わたしの選択は間違っていた わたしの選択が間違っていた お台所で腐臭に咽び ごめんなさいを唱えてる 明日の朝餉も残りもの 疲れたままの陽光にさされながら 精一杯のひびいった笑みを一匙 新しく拓かれていく時間のきざはしから さようならを 猫の食器にのせて ---------------------------- [自由詩]atoz(omit root)/鎖骨[2009年10月9日2時03分] 四半世紀を懸けて架けた橋を壊してしまってよ 窓際に並べたコーク 牛乳に入れて飲むんだ ぼくだけが加速していくの 倦怠を等分に切り分ける時計の中で 裸電球にかけてあげる、 傘をつくっているところ 感情を糸にして、寄せて 目の細かな網の 光熱に溶ける更紗の 秒の、小数点以下三桁の 足取りまで追い駆ける 相対する半球の季節まで輸入できる時代 それを当然だと思い込める感覚 ぼくには分からない きみらは、恋人役を幾らで買い入れたの? それとも売ってしまった? ぼくには分からない 突き抜けてもいけない裏側の事情まで 舌を這わせて喜んで せかいじゅうのどこにだってゆうじんが つくれるんだなんてそんな話を笑ってすることが共通の幸せになるだなんて 録っているときは タラップは上らないでよ リズム隊は定員オーバー 金輪際採用枠が空く事なんて ないことをいい加減認識してくれたら 夜はもっとそれぞれに 慎ましく穏やかに移ろえる時間になるだろうに 形骸と理屈だけ舐めてきたこの指で 情念と理想から乖離できないこの両目で 自分の血を見て初めて知覚される感覚 滑らかに鋭敏化する軸索 精密を内包した単純が全てを凌駕する それだけを今は信じられる そこには宇宙が 静かで侵されることのない あらゆるかたちをとる不可視の那由他が既に孕まれている 文字と酒と音楽の齎す高揚が無条件にぼくをそこへ ---------------------------- [自由詩]2009/10/19/鎖骨[2009年10月19日0時38分] 空想が先行する 光速で潜行する 瞬間、閃光が起こって 頭から爪先までぼくが乗っ取られてしまう やめてよね、誰かとの約束を蒸し返すのは 千項にも及ぶ不可侵条約 互いを、隔てている かつては存在しなかった朽木色の橋 (顔がよく見える距離なのにあっちへはたどり着けない) その向こうから、きみが ぼくと造りの似かよっていた頃の笑顔で投げつけてくる白色のペイントボール 力一杯に 胸一杯に ぼくを 否定するオーバースローイング 灰色く薄汚れたぼくを忌避する気持ちをまったく隠さずに とても分かりやすくて好きです変わらず あいしていますあなたのそういうところ 性善説を信じていたきみをうらぎってごめんね それでも博愛主義はつらぬきとおしてね その山の高さに積まれたボールを投げきったあとには きみは海よりも深く空よりも広いとかそんな恥ずかしく拙い言葉では 追いつけないほどのひろいひろいひろいひろいひろいふかいちいさなかわいいこころでもってみんなをしあわせにしてあげてください 灰色の中途半端で臆病だった野良猫精神の負け犬のごとく情けない 性別もなかったひとつの肉は白い祈りに埋もれて 新しいきれいな世界の礎になります そのしあわせを噛締めながら終わらせます 蚊のなくような電気信号 誰ともひとつにならなかったことが誇りでした ありがとう、ありがとう もう生まれてこなくてもいいよね ---------------------------- [自由詩]2009/11/30/鎖骨[2009年11月30日4時04分] 身代わりの縫い包みをもらって 笑って明日を受け入れる かつては輝いていた金の穂 もう食べ尽くして、しまって 虚空へおよぐ手は共に朽ちる相手を探している ---------------------------- [自由詩]冬空/鎖骨[2009年11月30日4時25分] 羽根が降っている 黒く震える、黒鉛で編まれた空から 伝える為の光を帯びて 束になることなく散らばる幾億の羽根が 神様を信じようとしていた人達の記憶を抱えて 電線と油と機械に覆われた冬の地表へ 凍える大気に乗って 文字とも音とも取れぬ新しい言語で以って まだ空を仰ぎみることを懼れないこども達の許へ 果たされなかった予言を今こそ 履行するために ---------------------------- [自由詩]2009/12/16/鎖骨[2009年12月16日2時26分] 疲れた、ああ、疲れたね 誰にも聴こえない会話がぽつり交わされ 冬は足音のひとつも立てずに今年もやってきた わたしはそれ以上言うこともなく自ずからそのかいなへ身を預ける 呼気や落ち葉や剥がれ掛けの住家の塗料から伸びてくる無数の白いそれへ わたしは、いつでもどこにあっても悦んで擁かれて そのことだけで満たされている ---------------------------- [自由詩]2009/12/20/鎖骨[2009年12月20日3時38分] 今年が終わる前に 新しい年が開ける前に 箸を一膳お互いの為に買いにゆきましょう 毎日の食事の後に 台所の排水溝へ流れる水に身を投げたくなったら 箸を渡して橋にして また戻ってこられるように つまらぬように思えるしあわせで足りるのだから 余分に求めずにいられる生活を 拓く為の術としての箸を ものと時間の使いかたを 身に沁み込ませながら老いましょう ---------------------------- [自由詩]腐食/鎖骨[2010年1月23日3時18分] ずっと覚えている 長いこと凭れてきたあの約束 なんども繰り返し巻き戻して いやだね、よのなかはつらいね 死にたい、死のうかいっしょにもうだめだと おもうかたちが重なったらそうしようしようねって 交わしたこと錆びつかないようにテープに録音して 涙目に鼻水まみれで笑った当時で築30年の幽霊団地 公園の脇の下水処理場がいいかな 団地の屋上かな 約束した、忘れないように 興奮して眠れなかった昔日 きみは、いまのきみは とても美しく、あるのだろうね 風の噂のひとつも聞かないけれど なにもおもいださないで なにもおもいださないで 先のこともできるだけかんがえないで それがしあわせです しあわせになるんです できるならひとりでなく 産んで、そうしてから死ぬといいです ぼくはずっと今でも、聞いています 繰り返し再生しています テープはもう、埋めてしまったから このままで誰とも交わらずにいることがぼくの 約束の履行の手段です きみは、きみは、きみが どう思っているのか、今でも、あの日のことを 錆びつかせずにいるのか 聞きたいけれどそれはよくないことだから もう寝ます 西暦二千十年の一月がもう終わります 過ぎていくことを受け入れられるように おやすみなさい ---------------------------- [自由詩]/鎖骨[2010年2月21日3時14分] いつまで ここで こうしていられる ましろいはこにわ おたがいのわいしょうなじがを こねくり こねくり こねくりまわして いつまで ふたり つづけていくんだろう いつか きこえたら しかくいへやのろくめんから きっと きこえてくるのだろう よびおこすこえ おさなさをゆるさない そうしたら はじまったら どちらが さきにめざめて あいてをおいてゆくだろう ---------------------------- [自由詩]2010/2/27/鎖骨[2010年2月27日7時09分] 水を飲むように 音楽を採る 人は 僕はもっと音を聞くようにならなければいけない ピアノの ギターの あらゆる楽器の そのものの音と感触 とてもおおきく広く多角的に偏在するよう 冷たくも暖かくもなく雨が降っている 本がある 開けば頁があって 空白がある、そこには音が 入っていく、入っていって 音律も譜面のあらゆる縛りもなくそれらは 声を出し身をふるわせて それを受けいれて見逃さないことに僕は ただ夢中になる 空を見なくとも陽が差してきたことに気付く 音と交わって沁みていく狭い部屋に 雨が降っている あたたかくも つめたくも 硬くも柔らかくもなく 僕は整理される 現実を受け入れる 湯を沸かし コーヒーを淹れる準備をする 生活費を工面する 今日明日で部屋を掃除して 新しい月を迎えるための表情をつくろう ---------------------------- [自由詩]2010/5/30/鎖骨[2010年5月30日3時43分] ぼくらは両の手足と口で其々の聖書と夜を持つ 自愛の絹の帯で隔てられた小宇宙のなか 滑らかなつめたさにあやされて歌い 明日を諦める 朝を祈りながら憎み二度と望まないと誓う ---------------------------- [自由詩]自慰/鎖骨[2010年8月9日1時55分] ぼくは ぼくは ぼくは ぼくは ぼくは きみ はじめましてもさようならももう意味がない はしっこもまんなかも距離もかたちもあいまい ふたりは観測者 やりようによっては創造者 どこへでもなんにでもなれるよ いいやなるもならないもなかったんだよ あれもこれもいっしょにしてしまおうよ わからないからゆらぐのならば あるもないもおなじことならよかったと おもえるでしょう しんじて しんじるんだよ そうしたらもうだまっててをつないで ---------------------------- [自由詩]2010/9/11/鎖骨[2010年9月11日2時51分] 日々の生活に伴うさまざまな枷 精神的労苦から逃れるために うたをよみ酒を飲む ずっと ずっと ずっと こうして 暮らしてゆきたくなんて無いけど 互いの鎖を共有しようなんて人には言えないし 明日を変える気力だって無い 感受性と素直さと 不可侵だったそれぞれの領域も 付け焼刃の社会性と引き換えにすり減らして へら へら へら 染み付いた笑みを わたしはひとりかかえて死ぬんだ 死ぬんだろう帰る場所を終ぞもたずに ---------------------------- [自由詩]2011/7/28/鎖骨[2011年7月28日2時47分] 骨、骨、骨 みんな、わたし うれしい どこまでもとおくて灰色をしたへや てのとどくあしもと、あたまよりたかいところ、みえるかぎりのむこう、そのずっとかしこに まわりじゅうたくさんの骨 かつて生きて死んだたくさんの よかった、うれしいの わたしだけじゃなかったから ---------------------------- [自由詩]雨鴉/鎖骨[2012年4月15日0時15分] 張り裂けそうなほど痛むこの胸の秘密は 切なく遠く決して叶わぬ甘い恋の予感 なんかでは勿論無くて 次の仕事が見つからないから 今の仕事を辞められないから 適性が無いことがはっきりと分かっていながら 生活のために僅かな賃金に縋って惨めに働くことの どんなにつらいことか君分かっているのかい と雨中の鴉にどれだけといた所で何も解決しない 慰みに言葉を繰って遊ぶことさえも憎くなるような 不出来な世界の不出来な仕組み (僕が適応できないだけだ) 喜びだって伝わらないのに 悔しさに滲んだ痛み苦しみを どうして他人が分かってくれようかと 別れ際鴉が 呟いたような気がした ---------------------------- [自由詩]2012/4/18/鎖骨[2012年4月18日2時26分] 気負わずに書こう、と 青い液晶を前にして今日を想う 一日をどんな風に費やしたか 人の為になることは為さず ともすればなんと無駄な休日 ペンをキィボードに キィボードをギターに持ち替えても 飾り無く垂れ流すことが大事だと いつかどこかでだれかそれとなく大切な人に 言われたようなそんな記憶をでっち上げて 甘辛い妙な気分に浸っていた 右手には グラスに囚われた 透明な酒の大海 向こう岸なんて 見えなくて良いんだ ずっと ずっと 気負わずに書こう、と 青い液晶に望む心の底を見透かす 白い文字の魚 わたしの内側ではもう棲んではくれないと 見限られたことおぼろげに分かっているから だからそっと目をそらす 思い返してみれば いつだって焦点はその青に合ってはいなかった ---------------------------- [自由詩]fauna/鎖骨[2012年4月24日0時50分] 明日への扉なんてものは全部 閉ざされてしまえばいいんだ 性欲を喚起するだけの流行は 穢らわしくてもう耐えられぬ と彼女は日付変更線上で叫ぶ 何も知らないままでいたくて 早くして世間と隔たった二人   空想で出来た不可侵の宇宙へ   自らの意思で未来を捨てた事   むしろ誇らしく思えた白い掌   普通の生活一般的な社会活動   そういう全てが煩わしかった   一抹の理性で理不尽を殺して 生きてる振り生きてる振りを 続けなければならないならば 実らないままに終わる幸福を 手にした予感に一時恍惚して それきりで閉じてしまいたい 閉じてしまいたかった ---------------------------- [自由詩]resign/鎖骨[2012年5月6日23時49分] 私の思考が、感覚が このちっぽけな身体と精神の限界を超えて 膨れて、広がってまるで宇宙と同化したかのような状態に もう、どれだけの美味い酒を飲んでも 追いつかない、追いつけなくて もう、あれがないなら 生きている意味なんて無いんじゃないかって 生きていることが楽しかった 自分の可能性を信じられて 貴重な時間を湯水のごとく浪費できた愚かしい青春は もう残り香さえ思い出せなくて 芯から冷え切って固まってしまった矮小な魂 それをひとりで引き摺って どこまで? 痛みを、悼みながら それでもどこか懐かしく思っている 結局何らかの強い感覚に依らなければ生きてゆけないのだ それが唯の感傷で、或いは勘違いで 誤っていることに気付いていても ---------------------------- [自由詩]2012/5/12/鎖骨[2012年5月12日0時55分] 酒と不安で、割れるように痛む頭の中身を あの子にだけ見せたいと思う そこは現実よりもずっと詩的で広大でユニークで、そこにあるものみんなが あるがままにそこにあることを許されているんだ ぼくは、きみが、それをみて、ぼくの内包する世界を知って よろこんでくれたらいいなとおもってる よろこんでくれると、すてきだとかんじてくれることを 勝手に期待している ぼくはきみが何よりも大好きだから(すくなくとも生きている間は)、だから 君にもぼくをすきになってほしいだけなんだ だからねえ、ぼくのことをもっとしってほしい ぼくにもっとかんしんをもってほしい しょくぎょうだとかねんしゅうだとか そんなものでははかれないぼくがいることにきづいて ぼくのなかみをひらいてほしい そのてで、うそもためらいもなしに おたがいをさらけだして、ひとばんのうちに あいのまゆでせかいからへだたれて かせきになってしまえたら プロポーズの言葉は 一緒に死んでください これしかないって もう中三の夏休みから 決めていたんだよ ---------------------------- [自由詩]2012/5/28/鎖骨[2012年5月28日23時52分] 猫が捕ってきた雀 小さな小さな仔雀 誇らしげに口に銜えて来た時にはもう事切れていて 首なんて明後日の方向へ曲がっていた のろまな猫に捕まっちまうなんて きっと飛ぶのが下手だったんだろうね でも わかるよ わかる、よ そうやって一頻り 矮小な亡骸を儚んだ晩に 僕は血合いの煮込みを食べた きっと群毎攫われたであろう可哀相な魚の 血合いを煮込んで美味しく食べた 虚空へ開かれたままになった黒い瞳と 同じくらいに黒くなった肉を 世の中ってそういうものなんだよと 誰に聞かせるでもなく 明日の朝、出掛ける瞬間に 扉を押し開ける瞬間にもう一度思い出して きっとそれきりになるだろう ---------------------------- [自由詩]2012/6/11/鎖骨[2012年6月11日0時08分] こぜまいワンルームを飲み込む深い夜 に響くのは これは 負け犬の遠吠え 目に見えない明日との境界を揺るがす もう二度と朝など来なくてもいいと 静かにしかし重く嗚咽するこれは声なき声の歌 だれか 書き留めて 書き留めておいて忘れないように 次もまた、繰り返したら 明るい空を繰り返すのなら 直ぐに掻き消されてしまうから すべてを憎めそうなこの胸の煮凝りも 働くために 生きていくために また押し固められて どこへでも行けるし 何にでもなれるし 猶予だっていくらでもあるように思えた (夢の中)手を繋ぐ二人を揺らす電車も 窓から見える景色も 違和感の欠片もなく 全部が繋がって きっと何でも受け入れられるとさえ信じられて 若く青く柔らかく鋭敏ないきもの だった筈なのに きみは まだ 子供のまま? 子供のままなの? 白くて 強くて 自分しか見ていなくて けれど それが許される 許されてしまう ずるいよ ずるいなあ と思うけど キャベツの芯 みたいな真顔で 明日へところてん式に 繰り出されていく ああ! ---------------------------- [自由詩]vinyl/鎖骨[2012年6月16日0時36分] ?. 定価半額で買ったシュークリーム いつか来る死の波に備えて土嚢を積み立てる日々 無計画な処世術 いびつな自己愛 錆びる身体 他人を受け入れ求めている振りをいつまでだって続けてしまう 結局の所自分しか見ていない自称詩人症候群 空虚を孕んで膨張する矮小なわたしたちの こころ こころ こころ 在るはずのない半身の存在を幻想して信仰して 今日をどうにかやり過ごしてゆく ?. 失くしたのは正規雇用の仕事だけではなくて まともな平衡感覚 ぼくはひどいのろまでぐずでめくらだった ずっとそうだった?ずっとそうだったのか? 自覚なしにそんな風にいきてきてしまったのだとしたら 罅割れてから、つながっても そこの底が繋がったように見えても 出来合いの安らぎを塗り込めて埋めても 駄目なの?だめなの?一度でも 欠けてしまったら、損なわれてしまったら それはもう、その記憶ももう そこで無体になってしまって お仕舞いだって言うの? ---------------------------- [自由詩]2012/6/17/鎖骨[2012年6月17日2時23分] 捨て鉢になって、僕達は あかるいみらい へ 霧散してゆく あいとかこいとかゆめとかきぼうといった念仏 風の音に紛れて いつも遠くで聞こえている これからは酒の代わりに重石を飲み込む生活 青い宇宙がもう消費期限切れになってしまうと神様が唐突にアナウンスされたので みんなこぞってスーパーマーケットにロケットを求めて殺到しているらしい 愛も夢も希望も仕事も長年連れ添った恋人やペットも捨てて一人乗りのロケットを 夢のマイホーム予算を結婚資金をあらゆる賄賂を裏金を擲って それに乗ってどこへ行くの?何処まで行けるの? そんな狭い棺が無くったってお星様になれるって 幼稚園児だって知ってる のに みんなお互いに思っているほど外見も中身も綺麗じゃない 相対価値を上げるために僕等以外の顔も名前も知らない皆が 死んでしまえば良いのにねって 思ったことは無かった?似たようなこと考えたこと無かった? 飾らないで 嘘のひとつだってもう許さないから 結局僕等生きていくんだよ くだらない思索と独白を往来に垂れ流しながら 汚れて臭う肉のからだを引き摺りながら 唯一心を奥底まで裏側まで襞の隅々まで許した人に褒めてもらった指にも いつどうして出来たのかわからないような胼胝が出来て 痩せたように細く少し古ぼけてくすんでしまって もう誰にも知ってもらえない見えてもらえない触れてもらえないあの頃のわたし(ぼく)の 指 指 指 声 身体 働いてお金を貰わなきゃ お金と比べれば無垢性なんてつまらないもの 夜はいつだって重くて でもその重みで明日を潰しきってはくれない 馬鹿みたい どうしてまた繰り返さなきゃならないの? あらゆる扉という扉を壊して周りたい あの人に手をひかれて 夢の中で ---------------------------- [自由詩]2012/6/26/鎖骨[2012年6月26日0時38分] みんなこの瞬間を最期に死んでしまえばいいと思った すごく楽しかった夏祭りの帰り 澄んだ青空には死神が棲んでること わたしだけが知ってた からん、からんと木造りの下駄は笑い続ける お金は彼岸への片道切符 現世は辛いし黄泉路へ逃げよ けんけんぱ けん けん ぱ トンネル小路を唄って駆けよ 可愛いあの子を攫って逃げよ 今までで一番重い愛のかたち 計り比べは出来ないけれど 眩しいあの日へ遡って帰ろう 君を食べたら叶う気がするんだ ああ 死にたくてみんな今日を生きてる 死ぬためにみんな明日を迎える 紙よりも瓦斯よりも油よりも貴重な限りある資源 健康な精神所謂正気ってやつがそうなんだ 青柳のようなきみにはまだ分からないかもしれないけれど 大人になってもまともでいるってことはまともになせる業じゃないんだよ 言葉という体裁は最早意味を為さない また書き上げられなかった絵と楽譜 誰とも繋がらなくていい現実を手に入れるために 弦が空気を震わせる音だけが明日への渡し石 ---------------------------- [自由詩]2012/7/5/鎖骨[2012年7月4日23時43分] 皆が皆こぞって着たがる有名ブランドの流行服 季節毎に色を変える恋愛ごっこ 僕達にんげんは一人ではとても弱いので くっついて抱き合って甘えごとをささやきあっていないと 砂糖菓子みたいに崩れちゃうんです くっついてばかりいても結局 湿気ってちゃうんだけども 夏に雪が降ってくれたら良いな 僕らの住んでる町にだけ そうしたらこの退屈な日常にも 先が見えてしまいそうな感覚にも ほんの少しの間耐えられると思うのに いつだって何かを幻想してなくちゃ駄目なんだ 現実の界面でうまく生きてゆけないんだ 思春期にありがちな錯覚か何かだと思ってたものを ここまでずっと引き摺ってきてしまって むかしの、普通に呼吸が出来ていた頃の 夏の休日の昼下がりの緑のにおいをまだ忘れずに居られている 雨の日のくすんだにおいも カーステレオから流れる有名なナンバーを 素直に素敵だと思えていた頃の自分の欠片を でも これもきっともう 自分で砕いてしまわなきゃいけない いつまでもずっと本当の意味で大人になれないままで 惨めな未完成品のままでいるのには耐えられないから 外側だけ皮だけ上っ面だけじゃなくて 心から中身から骨から全てリストラクチャーされたいと 内奥に創り上げた都合の良い神様に祈りながら 青いままの魂はずっと救われるのを待っている 温い眠りの海の中で ---------------------------- (ファイルの終わり)